魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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約3か月振りの投稿になります。
今回は、ヴィクターとの物語になります。


if ending ヴィクトーリア

「あり?」

 

「迷彩幻術で姿隠しての死角攻撃。この程度の手品見破れないと思いまして?」

 

 

 

この程度の幻術でしたら、『あの時』、あの人の方がよっぽど上手でしたわよ。

 

 

 

―――――そう。

 

 

あの時、私に大切なことを教えてくれた人。

 

 

 

フィル・グリードさんの方がね。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

数年前

 

 

 

「どうして……どうして、うまくいかないんですの!!」

 

 

 

何度やっても制御がうまくいかない。

『神雷』に必要な魔力は十分あるのに、威力を上げようとすると、周りのもので壊してしまう。

 

 

 

「もう一度ですわ!! 百式……」

 

 

 

私はもう一度、魔法陣を展開し、百式の魔法を発動させる。

だけど……。

 

 

「っ!! いけない!!」

 

 

 

―――――しまった!!

 

 

神雷の雷が、通行人の方に向かっていってしまってる!!

急いで、魔法をキャンセルをするが、間に合わない!!

 

 

だが、次の瞬間―――――。

 

 

 

 

「そ、そんな!?」

 

 

 

その人は、神雷の雷を、右手だけで受け止めて、そのまま威力をいなしてしまったのだ。

驚いてる場合じゃない。

 

 

私は急いで、男性の元に駆け寄り……。

 

 

「も、申し訳ありません!! 謝って済むことではありませんが……」

 

 

 

封時結界を張ることも忘れて、もう少しで大けがを負わせるところでした。

何を言われても、仕方がありません。

 

だけど、その男性は……。

 

 

 

 

「……ふぅ、さすがに驚いたな」

 

《まさか、トレーニング中に魔法が飛んでくるとは思いませんでしたよ》

 

「まぁ、でも、感覚は鈍っていなかったと言うことかな?」

 

《ちょうど良いんじゃないですか。これも訓練だと思えば》

 

「違いないな……」

 

 

 

えっと……。

魔法を撃ってしまった私が言うのも何ですが……。

 

 

 

「えっと……。私のことを……怒らないんですか?」

 

 

 

すると、その男性は……。

 

 

「んっ? ああ、まぁ、封時結界を張らず、魔法を使っていたのは危ないけど、今後、きちんとすれば良いよ」

 

《そうですね。マスターでしたから良いですが、次からは、周りに気をつけてくださいね》

 

「……本当に申し訳ありませんでした」

 

 

 

本当に良かったです。

これで、この人に怪我をさせてしまっていたら、私はもう魔法を使う資格はありませんから……。

 

 

 

 

「それは、そうと……。さっきの魔法、威力はあったけど、制御にムラがあったみたいだね」

 

「!?」

 

 

 

まさか、あの一撃だけで、そこまで分かると言うんですの!?

この人はいったい……?

 

 

 

「よかったら、少し魔法を見せてもらって良いかな?」

 

「それは……」

 

 

 

正直、一般の方に見てもらったとしても、何も変わりはしない。

興味本心だけで、見られるのは……。

 

 

 

「えっと、一応、一般人じゃないんだ」

 

 

そう言って男性がスクリーンに映し出したのは、身分証明書。

そこに書かれていたのは……。

 

 

 

「時空管理局 局員……、フィル・グリード……。か、管理局の方だったんですか!?」

 

「まぁね……。ということで、見せてもらって良いかな?」

 

「は、はい!!」

 

「おっと、その前に……」

 

 

 

すると、フィル・グリードさんは、このあたりに封時結界を作り出す。

しかも高密度の封時結界を……。

 

 

これほどの結界をあっさりと作り出すなんて……。

 

 

 

「これで、大丈夫。えっと……そういえば、名前、聞いていなかったね?」

 

「し、失礼しました!! 私は、ヴィクトーリア・ダールグリュンです!!」

 

「ダールグリュン……。ということは、『雷帝』の血筋か」

 

「……よくご存じで」

 

 

 

旧ベルカに関わってる人ならともかく、ミッド式の魔導師の方が知ってるのは珍しいですわ。

 

 

 

「それなりにはね。では、良いかな?」

 

「はい」

 

 

 

私は、精神を統一し、神雷の魔法式を展開し始める。

すると……。

 

 

 

「はい、ストップ」

 

「えっ?」

 

「失敗する原因、なんとなく……分かった。その斧、アームドデバイスだよね」

 

「はい、私の愛用の斧槍型デバイス『ブロイエ・トロンベ』ですわ」

 

「少しだけ貸してもらって良いかな……」

 

 

 

フィル・グリードさんは、私のデバイスを見て、スクリーンを出し、高速でデバイスプログラムを書き換えていた。

そのスピードは、常人ではあり得ない速さで―――――。

 

 

 

「これで、多分大丈夫だと思うよ。もう一度、やってみてくれるかな」

 

 

私は『ブロイエ・トロンベ』を受け取り、もう一度神雷を展開する。

 

 

「こ、これは!?」

 

 

さっきまでとはまるで別物。

デバイスが、私の意志をしっかりと受け止め、展開式もロス無く伝わっている。

 

 

これならいける!!

 

 

 

「百式……神雷ッッ!!」

 

 

展開した魔法は、私のイメージ通り、辺り一帯を雷撃で吹き飛ばすが、爆発箇所をちゃんと制御できていた。

 

 

 

「……やっぱりな」

 

「どうして……こんなことが?」

 

 

いままで、どうやってもうまくいかなかったのに……。

ほんの少しデバイスプログラムを変更しただけで―――――。

 

 

 

「簡単なことさ。君は、恵まれた魔力がある故に、自分だけで魔法を使おうとしていた。それが原因だよ……」

 

「どういう……ことですか?」

 

「あれだけ強力な魔法を、自分だけで制御するなんて不可能に近い。威力に集中するあまり、制御が無意識のうちにおろそかになってしまっていた。本来、それを補うのがデバイスなんだけど……」

 

《貴女はデバイスをあまり信用しないでいましたね。だから、制御が出来なかったんですよ》

 

「そう、だったんですのね……」

 

 

 

正直、デバイスは補助と考えていたから、あまり重要視していなかった。

だから、自分の魔力や身体能力を上げれば大丈夫と、いつの間にか思ってしまっていた。

 

 

 

「あと、君のもう一つの弱点も分かったよ。何となくだけど、搦め手に弱いでしょう」

 

「……はい」

 

 

 

正直、搦め手を使う相手には相性が悪い。

正々堂々と戦わない人は、卑怯と思ってしまうから……。

 

 

 

「ある程度のレベルまでは通用するけど、さらに上を目指すなら、搦め手にも慣れた方が良いよ」

 

「そうなんですけど、周りにそういう人がいなくて……」

 

 

ミカヤさんといい、あの不良娘といい、どちらかというと、私の周りは正面から攻撃系が多いから……。

 

 

「だったら、俺と少しやってみようか? どちらかと言ったら、俺はそう言う戦い方をするタイプだから……」

 

「お、お願いします!!」

 

 

 

その後、何度も模擬戦をしましたが、幻術や様々なトラップ等を使った戦い方は相性最悪でした。

幻術も唯の分身じゃなくて、全ての分身体から攻撃がくるから、多彩で、しかも、一撃一撃が重たい。

 

しかも、バインドを織り交ぜたトラップに、何度も引っかかってしまう始末だし……。

 

 

これが実戦での戦い方と言うことですの―――――。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「まっ、こんな感じかな。少しはお役に立てたかな?」

 

 

 

―――――少しどころじゃない。

 

 

本当に貴重な経験でした。私の苦手な所が鍛えられただけじゃなくて、魔法式の問題も解決してしまうなんて……。

 

 

 

「さて、そろそろ俺は行くね。頑張ってね、『雷帝』さん」

 

「その呼び方いやですわ。ちゃんと名前で呼んでくださいませ」

 

「……そうだな。ダールグリュンさん」

 

「ヴィクトーリアでかまいませんわ。いつか、またお会いいたしましょう。フィル・グリードさん」

 

「フィルで良いよ。それじゃな……」

 

 

 

フィルさんは、封時結界を解除し、そのまま自分のトレーニングに戻っていきました。

 

 

また、いつかお会いしたいですわ……。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

『ヴィクトーリア選手、ダメージは軽微!!』

 

「いやぁ、さすがかったいね~」

 

 

 

あたりまえですわ。幻術の構成が単調すぎる。

あの人のように、徹底的にえげつない手を使うならまだしも、この程度の搦め手なら、あの時に散々やられましたから―――――。

 

 

 

「そんな騙し技で落ちるほど、ダールグリュンの鎧は甘くありませんのよ」

 

 

 

フィルさん以外の幻術使いに簡単に負けるわけにはいきません。

見せてあげますわ、雷帝の一撃を!!

 

 

 

「しゃーないッ!! そんじゃー最後の隠し球ッ!!」

 

 

 

シャンテさんは、今までにない数の分身体をつくりだし、私の周りを囲みだした。

だけど、数を増やすことに集中しすぎて、分身の構成が甘い!!

 

 

 

「その手品は、もう見飽きましたわっ!! 九十一式『破軍斬滅』!!」

 

 

 

私はブロイエ・トロンベで竜巻をつくりだし、分身体を全て吹き飛ばす。

 

 

 

「奥義!! 「ホントはもうひとり」!!」

 

 

 

シャンテさん本人が、上空に飛び上がって逃れましたが、それもこれでお終いですわ!!

見ててください。

 

 

これが私の―――――。

 

 

 

「百式ッ!!」

 

 

 

あの時教えてもらった―――――。

 

 

 

「『神雷』!!」

 

 

 

 

答えですわ!!

 

 

 

「う……あ、あ……」

 

 

だけど、まだ終わりじゃない。

相手に戦う意志があるなら、最後まで全力で相手するのが礼儀。

 

 

私はシャンテさんの頭を捉え、地面に思いっきりたたきつける。

 

 

六十八式『兜砕(かぶとわり)』

 

 

これで、とどめです!!

 

 

 

『ヴィク……選手……KO……で……っ!!』

 

「お嬢様、実況席の機材に被害を出してはいけません」

 

「ちゃんと……コントロールしたんですけどね」

 

 

 

思ったより、神雷のエネルギー余波が大きかったってことですわね。

まだまだ修練不足ね。

 

それに、シャンテさんは手加減をして勝てる相手では決してなかった。

フィルさんに指導してもらっていたから、うまく立ち回れたにすぎないのだから……。

 

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「すみません、お時間を取らせてしまって……」

 

「かまわないさ。俺も、明日は君たちと同行するんだから……」

 

 

 

 

ヴィヴィや皆さんとの顔合わせが終わった後、私はフィルさんに、どうしてもお話がしたかったので、お願いしてホテルの庭に来てもらった。

 

 

 

「でも、まさかフィルさんが、あの『伝説の部隊』の中心人物だったんんて、思いませんでしたわ」

 

「機動六課はミッドじゃ有名だけど、俺がしたのはサポートだけだよ」

 

 

 

―――――それはうそ。

 

 

この人は、自分が手柄を立てたとしても決してひけらかさない人。

それは、あの時によく分かっている。

 

 

 

「それで、話したい事って何かな?」

 

「……は、はい」

 

 

 

こんな事聞くのは、本当に失礼なのは分かってます。

でも、どうしても聞きたい……。

 

 

 

「あなたは……あなたは、どうしてあの時、私のことを……助けてくれたんですか?」

 

「……別にそんなつもりじゃなかったよ。ただ……」

 

 

 

すると、フィルさんがふと寂しい眼をし……。

 

 

 

「あの時の君は、どこか俺と似ていた……。そう、思ったからね」

 

「どういう、ことですか?」

 

「……昔、俺も、あんなふうに行き詰まったことがあってね。魔力もなく、デバイスを見る技術力も未熟、力もない……。だから、無茶もしまくった……」

 

「無茶……ですか?」

 

 

 

今のこの人を見る限りじゃ、誰よりも慎重な感じがします。

事細かな配慮もあり、私に教えてくれたときも、身体を壊さないようにいろいろ考えてくれてた。

 

 

 

「そう、無茶をね。コロナの試合を見ていたのなら分かると思うけど、かつて俺は、ネフィリムフィストも多用していたんだ。身体能力を補うためにね」

 

「そんな!? だって、あれは……」

 

 

 

あれは、身体能力を上げる魔法なんかじゃない。

身体動作をオートメーション化して、更にリミッターを解除し、限界以上の力を無理矢理使う危険な魔法。

 

 

 

 

「……まぁ、若気の至りって事かな。だからこそ、俺で出来ることなら、してあげたかった。それだけだよ」

 

「……そのおかげで、私は大切なことを沢山教えてもらいました」

 

 

 

 

力だけじゃない。

デバイスとの信頼関係、身体の鍛え方。

 

何よりも、私には周りで心配してくれる人たちがいたって事を教えてくれた。

 

 

 

 

「俺がしたのは、ほんのきっかけだけ。役に立てたのなら何よりだよ……」

 

「むぅ……。もう少し、貴方は自分のしたことを誇ってもよろしいんではありませんか」

 

「そうかな? そんな大それた事なんかしてないんだけどな」

 

 

 

全く、今日ではっきりとしました。

八神司令も話してましたが、この人は本当に自分のことは二の次で、自分の周りの人のことばかりを大切にしてしまう。

 

 

そして、自分のやった事なんて大したことないって思ってしまう。

 

 

 

「フィルさん、はっきりと申し上げます。自慢とかしないのは美点ですけど、あんまり謙遜してるのは、してもらった人に対して失礼なときもあります!!」

 

「……それ、昔、ある人にも言われた。分かっているんだけど、どうしてもな」

 

「少なくても、私は貴方に救われたんです。それは誇ってください……」

 

「……ありがとう。ヴィクトーリア」

 

「……ヴィクターで良いです。親しい人は、みんなそう呼んでますから……」

 

 

 

―――――本当に寂しい眼です。

 

 

微笑んでくれてますが、どこか悲しみに満ちた笑み。

 

 

どうしたら、この人が心から笑ってくれるんでしょうか。

私じゃ……ダメなんでしょうか?

 

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

今回、無限書庫で『エレミアの手記』を探すことになりましたが、チームをいくつかに分けて探索すること

になりました。

 

 

ヴィヴィ達の方が、ここのことは知り尽くしてますので、今回は彼女らを中心にチームを編成することになりました。

 

そして、私と一緒に行動するのは……。

 

 

 

 

 

「……本当に良いのか? 他の誰かと一緒でなくて?」

 

「ええ、あんまり固まっていても、効率が悪いでしょうし、それに……」

 

 

 

少しでも、貴方の役に立ちたかったから……。

 

 

 

「でも、本当に助かるよ。古代ベルカの言語はそこまで知ってるわけじゃないからな……」

 

「日常では、そんなに役に立つ技能じゃありませんけど、先祖が残してくれた知識と遺産は、子孫が守り受け継いでいかなくては……」

 

「そうだな……」

 

 

 

私とフィルさんは、書物を調べながら、書庫の最深部に進入していく。

エレミアの手記は、未開拓地域にあることは分かっている。

 

ある程度の所は、みんなに任せても良いけど、ここからはしっかりとした人が必要になる。

 

 

 

「フィルさんだって、執務官資格の他に、ヴィヴィと同じ司書資格あるじゃないですか。それで充分だと思いますが……」

 

「充分とは言えないけど、結構苦労して取ったからね……」

 

「ふふっ、昨日よりは自己否定はしないんですね」

 

「勘弁してくれよ……。やけにつっこみが厳しいよな」

 

 

 

このくらいしないと、フィルさんの場合、自己否定をしまくります。

だから、こうして誰かが肯定するか、つっこみを入れてでもフィルさんのことを認めてあげる方が、多少強引でも良いと思いましたわ。

 

 

そんな会話をしていたとき……。

 

 

 

「……どうやら、おしゃべりの時間はここまでのようだな」

 

「そのようですわね……」

 

 

辺り一帯が封時結界に覆われ、書庫の棚から、古代ベルカ式の魔法陣が現れ、巨大な魔物が召喚された。

 

身長は5メートル以上。

 

左右の腕にそれぞれ、機銃と大砲。

胴体は、対魔法用につくられた金属で出来ている。

 

 

 

「これは!?」

 

「……ユーノさんが言っていた、大昔からこの書庫を守っていた魔物だな」

 

「上等ですわ。これくらい覚悟してきたのですから」

 

 

 

私は、自分の相棒を取り出し、バリアジャケットを装着する。

 

 

 

 

「そうだな……。さっさと片付けるとしますか」

 

《ですね。マスター、久しぶりに暴れましょう!!》

 

「だな。プリム、ブレイズモード!!」

 

《了解!! Blaze Mode》

 

 

 

フィルさんもデバイス『プリム』を取り出し、セットアップをする。

黒いバリアジャケットに、白銀の銃――――。

 

 

あの時と同じ、フィルさんの姿。

 

 

 

「フィルさん、まさか、一人であの化け物を相手にする訳じゃありませんよね?」

 

「なのはさんやはやてさんならともかく、俺はそこまで驕る気はないよ。それに……」

 

「頼りになるパートナーもいるんだしね」

 

「私のこと……認めてくださるんですの?」

 

 

フィルさんは、ふと優しい笑みをし……。

 

 

「こんな危険な区域、認めてない子と一緒に来る気はないよ。ヴィクターなら、大丈夫だと思ったから……」

 

 

 

認めてくれてたんだ。

私のこと、見ていてくれていたんですね……。

 

 

 

「……ということで、ヴィクター、サポート頼むな」

 

「はい!!」

 

 

 

フィルさんは、幻術魔法で魔物の視覚を攪乱し、その間に私が砲撃魔法の術式を展開する。

 

 

―――――百式『神雷』

 

 

この魔法で、魔物の動きを完全にストップさせる。

機械式の魔物なら電撃系の魔法は最も有効なはず。

 

 

 

それにしても、相変わらずフィルさんの幻術魔法はすごい。

ただ、混乱させてるだけでなく、相手の死角をとらえ、無駄のない動きをしている。

 

シャンテさんの魔法も、あの年齢では充分すごかったんですけど、これを見てしまうと、どうしても比較をしてしまう。

 

というか、シャンテさんの幻術魔法を指導してたのって、やっぱりフィルさんだったんですね。

 

 

―――――なんか、ジェラシーを感じます。

 

 

 

『ヴィクター、俺が幻術を解除したら、思いっきり神雷を撃て。タイミングは任せる』

 

 

念話でフィルさんからの指示が来た。

すると、幻影のフィルさんの姿が全て消える。

 

 

「今ですわ!!」

 

 

私は渾身の力を込めて、神雷を解き放つ。

魔物を中心に、爆発と雷撃が飛び交い、魔物を覆っていたコーティングが全て剥ぎ落とされた。

 

 

予想通り、あの金属は鉄に、対魔力用のコーティングをされているだけだった。

神雷の一撃じゃ、さすがに粉々には出来なかったけど、私の役割は充分に果たした。

 

 

後は……。

 

 

 

「……頼みましたわよ、フィルさん」

 

「後は任せてくれ……」

 

 

 

上空に飛び上がっていたフィルさんは、すでにビットを展開し、集束魔法の発射態勢に入っていた。

蒼く輝く銃身型ビット3つから、白銀の魔力が集まり、その一つ一つがフィルさんの半身くらいの大きさになっている。

 

 

そして、白銀の銃『プリム』には身体を覆い尽くすほどの魔力が集まっている。

さらに……。

 

 

「……いつの間に?」

 

 

私の周りに、3つのビットが三角形の形を形成し、強力なシールドをつくりだしていた。

フィルさんの方を見ると、ウインクで答えた。

 

 

―――――まったく。

 

 

あなたはそうやって、いつも人のことばかりなんですね。

私でしたら、ダールグリュンの鎧で防御できましたのに……。

 

 

 

でも……。

 

 

貴方の気持ち、本当に嬉しいです。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「とりあえず、あれで大丈夫かな?」

 

《全く、マスターもギリギリの魔力なのに、クリスタルケージに回すなんて……》

 

「念には念を入れないとな……」

 

 

 

全く、マスターは自分のカテゴリーにいる人にはトコトンまで甘いんですよね。

なのはさん達しかり、ヴィヴィオさん達しかり、そしてヴィクターさんもですよね。

 

 

それがマスターの良い所でもあるんですけど……。

 

 

 

 

《それじゃ、行きますよ!! マキシマムビット、最大出力!!》

 

「スターライト……」

 

「《ブレイカッッッーーーーー!!》」

 

 

3つのビットと、銃口から放たれた星の光は、魔物を中心に爆発を起こし、その身体を消滅させていく。

 

 

そして……。

 

 

跡形もなく魔物は消滅した。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「……ここ、は?」

 

「気がつきましたのね……」

 

 

 

スターライトブレイカーを放ち、魔物を倒した直後、フィルさんは全ての魔力を使い果たしてしまい、そのま気絶してしまった。

 

ここが無重力の空間だったから良いけど、外だったら、大惨事でしたのよ!!

 

 

 

「……まったく、どこが無茶しなくなったですか!! 無茶しまくりではありませんか!!」

 

「……返す言葉がない」

 

 

 

あなたは……あなたは、本当にばかです。

ヴィヴィ達や私達のことは気にしてるのに、自分のことは蔑ろにしている。

 

 

こんなの……こんなの誰も望んでいないんですよ!!

 

 

 

「……ごめんな。結局、俺は……周りの人を泣かせてばかりだな」

 

「そう思うなら、もっと、自分のことをいたわってください……。好きな人が傷つくのは……本当につらいんですのよ」

 

「……えっ?」

 

 

 

 

私の想いは、邪魔になってしまうかもしれない。

でも、これ以上自分なんかいなくても大丈夫なんて、悲しい思いをして欲しくないから……。

 

 

 

「私は……私は、あの時から、ずっと……」

 

 

 

だから、伝えますね……。

 

 

 

「あなたのことが……好き、だったんですから……」

 

 

 

 

私の精一杯の想いを……。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

―――――すごく真っ直ぐな眼。

 

 

 

 

ヴィクターの想いが強く伝わってくる。

鈍感と言われてる俺でも、今のヴィクターの想いがどんなものかは分かる。

 

 

すごく嬉しかった。

 

 

こんな俺に、好きと言ってくれたその想いが……。

 

 

 

でも……。

 

 

そんな俺の考えを見透かしたのか、ヴィクターが……。

 

 

 

 

「……一緒にいたら、危険だという理由でしたら、却下いたします。私だって、『雷帝』の末裔なのですから……」

 

「……そうだな。これ以上はぐらかすのは、卑怯だな」

 

 

 

真摯な想いには、真摯で応えなきゃ男じゃない。

 

 

 

「……俺も、きっと……あの時から、きみのこと……思っていたんだと思う」

 

 

 

必死に、自分と向かい合っていたヴィクターの姿に……。

 

 

でなければ、いくら気にしていたって、あそこまで気にしないと思う。

その後も、彼女が出ていた試合とかも見ていたし、今回だって再会してとても嬉しかった。

 

 

 

「でも、俺は……」

 

 

 

人を好きになるのが……怖くなってる。

 

 

 

ティアを失ったあの時から、ずっと……。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

フィルさんが、私のことを思っていてくれたのは嬉しかった。

そして、同時になぜあんなに悲しい眼をしているのかも分かった気がします。

 

 

あの人は、理由は分かりませんが、大切な人を失ったんですわ……。

しかも、それが、自分のせいだとずっと思い続けている。

 

 

 

―――――悲しすぎます。

 

 

その人だって、フィルさんが、こんな風に自分を蔑ろにして欲しいなんて思ってはいません。

きっと、誰よりもフィルさんの幸せを願ってるはずですわ。

 

 

だから……。

 

 

 

「理由は、今は聞きません。でも……きっと、フィルさんを好きになってくれた人は、こんな風に自分を痛めつけて欲しいなんて……絶対に思ってませんわ」

 

「!?」

 

「だから、これ以上……貴方の心を、傷つけさせません……」

 

 

私は、フィルさんの唇にそっとキスをする。

自分の想いも込めて……。

 

 

 

「……ありがとうな。ヴィクター」

 

「礼には及びませんわ。当たり前のことですから……」

 

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

 

私は、書庫での事件が片付いた後、フィルさんと二人きりでバイクでツーリングをしていた。

こうして、男性の背中につかまってバイクに乗るなんて、思ってもいませんでしたわ。

 

メットに関しては、簡易バリアジャケットを展開するので、必要はなかったし……。

 

 

 

「……そういえば、フィルさんの周りの人って、フィルさんとか、フィルって言ってますわね?」

 

「そう言えばそうだな……」

 

 

 

なんか、それっておもしろくありませんわね。

せっかく、こうして両思いになれたのですから、なにか特別なものが欲しいですわね……。

 

 

そう、ですわね……。

 

 

 

「決めましたわ!! 今日から、二人きりの時は、フィルさんのことは『フィー』って、呼びますわ!!」

 

「な、なんだそりゃ!? かなり恥ずかしいぞ!!」

 

 

 

フィルさんは、驚いてバイクのコントロールを失いかけましたけど、それでも……。

 

 

 

「異論は認めませんわよ!! 八神司令から聞きましたが、ティアナさんのことをティアって呼んでますよね。それと同じです!!」

 

 

 

コンビのティアナさんとそんな愛称で呼び合ってるのに、私とは認めないなんて、それは無いですわよね―――――。

 

 

 

「ぐっ……」

 

 

フィルさんはしばらくの間、苦虫を噛み潰したような顔をしていたが……。

 

 

 

「ああ、もう!! 好きにしろ……」

 

 

観念して、フィーと呼ばれることに承諾した。

 

 

「そうさせてもらいますわね、フィー♪」

 

《なかなか良い愛称ですよ、相棒~♪》

 

「……勘弁してくれよ、サンダー」

 

 

 

強引にしてごめんなさい。

でも、このくらいの我が儘は許してくださいね―――――。

 

 

 

 

「ったく……。惚れた弱みというやつだな。で、これからどうする?」

 

 

 

時計を見ると、まだ、夕方を少し過ぎたくらい。

まだまだ、時間はたくさんある。

 

 

 

「……差し支えなかったらで良いんだけど、フィーの家に……行きたいですわ」

 

「おもしろいものなんか、何もないぞ。それだったら、クラナガンの繁華街の方が……」

 

「もう、フィーの家が良いんです!!」

 

 

 

少しは、女心を察して欲しいですわ。

私だって、必死でアプローチしてるんですから……。

 

 

 

 

「……分かった。じゃ、俺の家に行くか?」

 

「ええ!!」

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「ちょっと待ってて。今、簡単なものつくるから……」

 

「私も手伝いますわよ」

 

 

 

私はフィーの恋人であって、お客さんじゃない。

だから、一緒に料理をしたいの。

 

 

それが恋人同士ってものでしょう……。

 

 

 

 

「……なんか、すまないな」

 

 

やっぱり、そう……。

さっきから感じていた違和感、今、はっきりとわかりましたわ。

 

 

「……これ、言いたくはありませんでしたが、私が、気付かないと思ってました? 言葉遣いはそうでもないけど、フィー、私に壁つくってるでしょう……」

 

「!?」

 

 

 

フィーの顔が一瞬だけ動揺する。

やっぱりそう―――――。

 

 

ずっと話していて分かったんだけど、フィーは人に対して壁をつくってしまってる、

しかも、本人が気づかないうちに……。

 

 

 

 

「やっぱり……分かっちゃうか?」

 

「当たり前でしょう。でも、そんな壁、私が木っ端微塵に砕いて見せる。だから……」

 

 

私は強引にフィーの唇を奪う。

そして、そのままフィーと深く繋がりあい……。

 

 

息継ぎの時に唇を離したときは、互いの間に銀色の糸が出来ていた。

 

 

 

「フィーも、私のこと……いっぱい感じて欲しい」

 

「ヴィクター……」

 

 

 

 

もう、互いの間に言葉はいらなかった。

私達は、カクテルだけを持ち、そのままフィーの寝室に入っていった。

 

 

 

「ただ、カクテルを飲むのは味気ありませんわね……」

 

 

私は、カクテルを口に含み、それをフィーの口に流し込む。

こくんこくんとフィーが呑み込むのを聞くと、それが快感に感じる。

 

 

間接キスなんて目じゃないですわ……。

 

 

 

「……今後、これ以外で、酔えなくなるぞ」

 

「でしたら、酔いたいときは、いつでも、私がこうしてさしあげますわ……」

 

「ヴィクターは、多少だったらアルコール平気か?」

 

「未成年に勧める言葉じゃないですけど、多少でしたら飲めますわよ……」

 

「だったら……」

 

 

 

今度はフィーがカクテルを口に含み、口付けされ、そのまま、カクテルが私に流し込まれる。

アルコールは、度数は大したことないのに、ものすごく酔ってしまう。

 

 

 

―――――それは、フィーと私が作り出す甘露の味。

 

 

この世のどんな美味しい酒でも、出すことの出来ない美味。

 

 

 

 

「……もう、アルコールはいりませんわ」

 

「ああ……」

 

 

 

私は、フィーに服を一枚一枚脱がされていく。

その仕草は、慣れている感じが無く、確認しながらしている。

 

 

そして、ブラのホックも外され、フィーの前に胸をさらけ出す。

 

 

 

「……うまく言えないけど……本当に……綺麗だ」

 

「その言葉だけで、充分ですわ……」

 

 

 

女はそんな取って付けた言葉なんかいらない。

本心からの言葉があれば、それが何より嬉しいですのよ。

 

 

 

「あっ……」

 

 

フィーは、私の胸を何度も触れ、全身をくまなく愛し……。

そのたびに、私が痛がっていないか不安な表情でこちらを見つめる。

 

 

 

「大丈夫ですわよ。むしろ……たくさん、愛してくれるのが、嬉しいんですから……」

 

「ヴィクター……」

 

「だから、きて……。あなたを……たくさん、感じさせて……」

 

 

 

フィーは、覚悟を決めて、私の中に入ってきて……。

 

 

(……い、痛い)

 

 

 

ここで、痛みを声に出したら駄目。

声にしたら、フィーは絶対に止めてしまうから……。

 

 

やっと……。

 

 

やっと、好きな人と一つになれるのに、そんなのはいやだから……。

 

 

すると、フィーが私の身体をぎゅっと抱きしめて……。

 

 

 

 

「ヴィクターの気持ち、痛いほど、伝わったから……。だから……最後まで……するからな」

 

「……ありがとう、フィー」

 

 

 

人の痛みや悲しみには、本当に敏感なフィー。

だからこそ、私の想いも分かってくれたんだ。

 

 

 

私たちは、織りなす快楽に、身も心もそのまま委ねていく。

 

 

 

今の私達には理性は必要ない。

 

 

 

必要なのは、互いが求め合う心。

 

 

 

今は、肉体が織りなす快楽に身を任せよう。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「……ごめんな。結局、何度も……」

 

「そこは謝る所ではありませんわ。謝るのは……無粋ですわよ」

 

 

 

結局、私達は、あれから何度も求め合い、最初にあった痛みは、もう無くなっていた。

それ以上に、フィーが求めてくることの方が嬉しかったから……。

 

 

フィーの方を見ると、ふと寂しい笑みをしていた。

時折見せていた、あの悲しい笑みを……。

 

 

 

「……少しだけ、話……しても、良いかな?」

 

「もしかして……」

 

「……信じられない話になるけど、それでも……良いか?」

 

 

 

―――――ばかね。

 

 

あなたが、そんなつらそうな表情をして話そうとしてるのに、嘘だなんて思うわけ無いでしょう。

 

 

 

「少しは私を信じなさい。自分の彼女を、ね」

 

「……ありがとう」

 

 

 

そして、フィーから語られた話はとてもつらく、悲しい話だった。

 

 

本来、フィーはこの世界とは違う時間の流れの人間。

JS事件でミッドチルダが滅んでしまい、生き残った数人の仲間と一緒に戦ってきたこと。

 

 

長い戦いを繰り返し、一人、またひとりと仲間を失っていったフィー。

 

 

やっと反撃のチャンスが来て、ゆりかごに乗り込んで、最後の決戦を、生き残ったもう一人の女性と一緒に戦ったけど……。

 

 

そこで待っていたのは、最愛の女性の死―――――。

 

 

目の前で愛する人を失ったフィーの悲しみは計り知れない。

 

 

でも、運命の女神の悪戯か、この時代に戻ってこれて、やり直すことが出来、事件を解決に導いた。

 

 

 

 

「……というわけさ」

 

「……どうして、話してくれたの? これ、明らかに最重要機密よね」

 

「そうだな……。でも、ヴィクターにだけは……隠しておきたくなかったんだ。こんな俺でも……好きになってくれた人だから……」

 

 

 

フィーが、向こうの世界のことを思い出して、上を向いて必死に泣かないようにしてる。

 

 

大切な人を目の前で失って、完全に吹っ切れる人なんて、誰もいやしない。

 

 

それが、深く愛していた人なら尚更……。

 

 

私は、涙を抑えることが出来なかった。

フィーは、こんな悲しみを背負っても、まだ自分の身体を、心を傷つけている。

 

 

 

「こんな俺、なんて言わないの。私が愛してる人なんだから……」

 

 

 

せめて、私が出来ることは、こうしてフィーを抱きしめて包んであげることだけ……。

 

 

 

「……そう、だな。少し……眠って、いい、か……」

 

「遠慮無くどうぞ。それだけ安心してくれてるって事でしょう」

 

 

フィーは、そのままスッと眠ってしまった。

目の縁にクマがあった所を見ると、相当眠っていなかったのね。

 

 

魔法とかで誤魔化しても、そういうのは分かるものよ。

 

 

フィー……。

 

 

貴方が私の背中を支えてくれるように、私も貴方のことを支えるから……。

 

 

だから、私にだけは甘えなさいね。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「運転してみたいのか?」

 

「ええ、いつもエドガーが運転してくれてるんだけど、自分では……」

 

「まぁ、そうだろうな。お嬢なんだしな……」

 

「フィーまでそう言うこと言わないで!! だから、こういうときでもないと出来ないのよ!!」

 

 

こないだやっと自動車免許を取ったのに、エドガーったら、お嬢様には運転させられませんとかいって、今までさせてもらったことがないの。

 

運転技術は酷くはないのに……。

 

 

 

「良いよ、でも、結構いじってるから、気をつけろよ」

 

「ありがとう、フィー!!」

 

 

早速、私はフィーの車に乗り込んでみる。

 

家の車は、よく見るセダンタイプだけど、フィーの車は見たこともない形の白のスポーツカー。

ミッドでは絶対に見かけない形。

 

 

流線型で、まるで剣のような美しさ―――――。

 

 

聞いてみると、わざわざ管理外世界へ行って手に入れてきて、それをこっちで使えるようにしたなんて……。

 

 

しかも、家の車とは違って、いろいろなものが付いていた。

 

 

見たことがないメーター類。

家の車とは違った低いエンジン音。

 

どれも違っていて、新鮮味があふれてる。

 

 

 

「一応、説明しておくと、これが……」

 

 

正直、どれが何のものを現してるか分からないけど、運転に必要な最低のことは覚えましたわ。

 

 

「それじゃ、行くか。そんなに気を張らなくても良いからな」

 

「わ、分かってるわよ!!」

 

「とりあえず、クラナガンまで行ってみるか?」

 

「そ、そうね……」

 

 

ギア車も一応運転出来るんですけど、この車いろいろ変わっていて、私に出来るのかしら!?

私は恐る恐る車を発進させた。

 

 

 

「そうそう、その感じ。後は、ゆっくりとギアを変えていけばいい」

 

「え、ええ……」

 

 

 

一時間後―――――。

 

 

最初は怖くておっかなびっくりでやってましたが、慣れてくると楽しくなり、思わずスピードを出しすぎる所でしたわ。

 

 

「……ったく、今日は少しくらいのスピード違反は見逃すから、安全に運転してくれよ。でないと、エドガー君から今度こそ運転禁止って言われるぞ」

 

「それだけはいやですわ!! 運転の楽しさを知ったのに……」

 

 

フィーも、どちらかというと、エドガーに近い所があります。

事故でも起こしたら、絶対にエドガーに言うに決まってるわね……。

 

 

この先は、安全運転で行くことにいたしますわ……。

 

 

その後は、スピードを上げすぎることもなく、私たちはクラナガンの繁華街に到着いたしました。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

 

「で、やりたいことはこれか?」

 

「……そうよ。フィーの手帳、見せてもらったけど、ヴィヴィ達や八神司令達と、あんなに楽しそうにプリクラをして……。私との写真が一枚もないのよ!!」

 

 

どの写真も、みんな笑顔に満ちあふれていて、見ていて本当に羨ましかったですわ。

 

 

 

「それは仕方ないだろ……。ヴィクターとは、昨日、一緒になったばかりなんだから……」

 

「だからよ!! 私もフィーとの写真が欲しいのよ」

 

 

 

昨日、恋人同士になったばかりなんだから、こういうのがないのは分かってるわ。

だからこそ、これからたくさん楽しい思い出をつくっていきたいのよ!!

 

 

 

「そうだな……。だったら、これからたくさん……つくっていこう。思い出を、な……」

 

「あっ……」

 

 

昨日までとはちがって、心からの笑顔。

まだぎこちないけど、心から笑ってくれてる。

 

 

 

「ええ♪」

 

 

 

フィー、これからいっぱい笑顔になってくださいね。

私も、精一杯支えますから……。

 

 

 

早速、私達はプリクラマシーンの中に入り、沢山写真を撮りまくった。

中には、腕を組んだり、頬にキスをしたりと大胆な物も作ってしまったけど、それもありですわよね。

 

さらに、その写真に文字を書き込み、恋人ならではのプリクラに作り出す。

 

 

 

「……これ、絶対にヴィヴィオやみんなに見せられないよな」

 

「私は別に見せてもかまいませんわよ♪」

 

「お、おい!?」

 

 

その方が、自慢も出来ますし、牽制にもなる。

この人は、分かっていないけど、ヴィヴィやアインハルト、そして八神司令達にも好かれてるのよ。

 

少しは自覚して欲しいものですわ!!

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「もうすぐ着いちゃうな……」

 

「……ええ」

 

 

 

楽しい時間はあっという間。

明日からは、フィーはまた執務官としての仕事に戻ってしまう。

 

長期任務ではないけど、それでも離ればなれになるのはやっぱり切ない……。

 

 

フィーがゆっくりと運転してくれてるが、それでも到着してしまうのには変わらないから。

 

 

 

「……着いちゃい、ましたわね」

 

 

 

私は車のドアを開け、門の前まで来るが、やっぱり寂しいですわよ……。

そう思ってたとき……。

 

 

 

「……フィー?」

 

 

フィーが、後から包み込むように私を抱きしめてくれた。

 

 

 

―――――あたたかい。

 

 

こうして、抱きしめられてると、あなたのことが感じられる。

フィーの優しさが、たくさん伝わってきますわ。

 

 

 

「……帰ってくるよ。おまえが、俺のことを想っていてくれる限り、な……」

 

「だったら……。その証を頂戴……」

 

 

 

私たちは、どちらからともなく……。

 

 

 

星空の元、口付けを交わす。

 

 

 

―――――それは、永遠を誓うキス。

 

 

 

 

ねぇ、あなたは想っていてくれる限りって言ってましたけど……。

 

 

 

それだったら、あなたのことを、ずっと想い続けますわ!!

 

 

 

―――――だって。

 

 

私の幸せは、あなたといることなんですからね。

 

 

 

 

後日談になりますが、例のプリクラは、聖王教会でみんなが集まったときに、私が自分で見せてみんなを驚かせて、フィーと付き合ってることも、そこで発表したんだけど……。

 

 

ヴィヴィやアインハルトは予想してましたわよ。

 

だけど、まさかジークまでが、本気で勝負を挑んでくるなんて思いませんでしたわよ!!

 

 

 

でも、そのおかげで良い牽制になりましたわ。

 

 

私、絶対に譲りませんから!!

 

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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