魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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if ending コロナ

「ったく……よりによってこんな時に」

 

《愚痴りたい気持ちは分かりますよ……》

 

 

コロナとアインハルトの直接対決の当日、俺は本来ならなのはさん達と一緒に二人の試合を見に行く予定だった。

 

だが……。

 

急遽シャーリーさんから緊急通信があり、どうしてもやって欲しい仕事を頼まれてしまい、そちらに行かなくてはならなくなった。

 

 

《マスター、サンダー、コロナ達の試合の様子は、私が責任を持ってそちらにライブ中継します。何かあったらその時は……》

 

「ああ……仕事の途中でも、絶対に抜け出してくるさ。だから頼むぞプリム!!」

 

 

コロナとアインハルト。二人とも実力はあるし、ノーヴェがセコンドに付いているから危険なことは無いと思う。

だけど――――――。

 

もし、コロナがあの技を使うことになったら――――。

 

 

《マスター……》

 

「……今は、ノーヴェを信じるしかないな」

 

 

コロナ、早まるんじゃないぞ。

あんな危険な技なんか使わなくたって、お前は充分に強いんだ。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

『ア……アインハルト選手、ゴーレムを粉砕ッ!! 一方、コロナ選手は墜落ダメージも追加!! ライフも危険域――――!!』

 

『倒れた後輩を静かに見守るアインハルト選手――――!! その旨に去来するのは、先輩としての誇りか、勝利への確信か!?』

 

 

序盤戦、コロナはゴーレムをうまく使い、アインハルトと互角に戦っていたけど、アインハルトはゴーレムの動きを見切り、空破断と破城槌の連携攻撃でコロナをリングアウトさせた。

 

コロナ・ティミル LIFE 1100

 

 

「ノーヴェ!! コロナお嬢様は――――」

 

「騒ぐな!! まだ終わりじゃねえ!!」

 

《ええ……コロナはまだ、心は折れていません。まだ大丈夫です!!》

 

 

 

筋力、体力、魔力量――――。

確かにその辺に付いちゃ、あいつは4人の中じゃ一番目立たねぇ――――。

 

だけど――――。

 

 

「コロナには、ピンチの時にも崩れない冷静さがある。勝つための戦術を組み立てる知性もある」

 

 

 

ましてやフィルがずっと付きっきりで戦術の指南をしたんだ。

あいつの知性と発想力は、4人の中でもナンバーワンだ。

 

 

「でも、あんな状態じゃもう――――――」

 

「確かにな。……だが、まだ武器は……残っている」

 

《!! ノーヴェ、まさか!?》

 

「プリム……いつでも連絡できるようにしてくれ」

 

 

*    *    *

 

 

『リングイン ファイト!!』

 

 

ずっと――――――思ってた。

St.ヒルデの一年生になって、ヴィヴィオと出会って友達になって――――――。

 

格闘技をやってるって聞いて、ずいぶんびっくりしたっけ――――――。

一緒にいたいから一緒に練習するようになって、格闘技が好きとか嫌いとかは正直よく分からなかったけど――――――。

 

わたしが格闘技や魔法戦競技をやめちゃったら、ヴィヴィオと友達でいられなくなる気がして――――――。

 

本当はね――――――。

 

ヴィヴィオみたいには上手くできなくて――――――。

 

楽しくなくて――――――。

 

もうやめようかなって思ったこと何度もあったけど――――――。

 

そんな時は――――――。

 

 

ノーヴェ師匠が……そして……

 

フィルさんがいつも励ましてくれたし、導いてくれた。

 

 

格闘技が大好きで、いつかママを守れるくらい強くなりたいって話すヴィヴィオはいつも素敵で――――――。

春光拳と炎雷魔法をもっとマスターしたいって頑張ってるリオは、格好良くて頼もしくて――――――。

ご先祖様の意志を継いで、本当の強さを手に入れたいって一生懸命なアインハルトさんは凄く立派で――――――。

 

わたしはそんなチームの一員として、恥ずかしくない選手でいたくって、後もう少しみんなと同じ目線で――――――。

 

同じ速度で歩いていきたくて――――――。

 

だから――――――。

 

 

『コロナ選手棒立ち!! これは棄権か―――――!?』

 

 

痛くても使うんだ―――――。

 

この拳にわたしの思いをのせて!!

 

 

「ネフィリムフィスト!!」

 

 

わたしのカウンターアッパーは、アインハルトさんの顎を捉え身体を宙に浮かせる。さらに!!

 

「はああぁぁぁあああ!!」

 

追撃の蹴り―――――。

これで決める!!

 

私の放った蹴りは、アインハルトさんの身体を確実に捉えた。

 

 

『コロナ選手、カウンターアッパーからの回し蹴り!! アインハルト選手ダウンですっ!!』

 

『アインハルト選手動きません!! 1ラウンド残り15秒、ここで決着となるか!?』

 

 

ネフィリムフィストが上手く作動してくれた。

これで決まってくれれば―――――。

 

 

『ああっっと!? アインハルト選手立ち上がるか!?』

 

『立ち上がった!! カウント8!! しかしダメージは甚大!!』

 

 

アインハルト・ストラトス

DAMAGE 4230 LIFE 970

クラッシュエミュレート:中度脳震盪、視界混濁

 

 

 

(立ち上がってきた!! でも、ダメージはかなり与えられた)

 

 

このまま一気に押せば、アインハルトさんに勝てる!!

 

 

(残り10秒、創成している時間はない。ネフィリムフィストで押し切ろう!!)

 

 

*    *    *

 

 

 

「あの……ばか。ネフィリムフィストを使ったのか!!」

 

《はい。1ラウンドの最後に追い込まれて……》

 

 

ネフィリムフィストは身体自動操作。一見使い勝手は良いように感じるが、はっきり言ってあの技は危険行為だ。

かつて、俺も格闘戦のスキルを得るために、こいつを使ったことがある。

だけど―――――。

 

 

「プリム、急いでそっちに向かう!! ワープのサポートを頼む!!」

 

《駄目です!! ゆりかごの傷が元でワープは使えなくなってしまってるんですよ!!》

 

 

4年前のゆりかご決戦。

あの時の無茶のせいで今も俺の身体をむしばんでいる。

 

 

「だけど。このままじゃ本当に取り返しの付かないことになってしまう。いくらクラッシュエミュレートとはいえ、心まで壊れてしまったら、コロナは二度と立ち直れなくなってしまう!!」

 

 

 

サンダーでかっ飛ばしても、ここから会場までは2時間以上かかってしまう。それでは間に合わない。

途方に暮れてたその時―――――。

 

 

『フィル君!!』

 

 

俺に向かって銀色の鍵が投げられた。

 

 

「マリーさん!?」

 

「話は全部聞かせてもらったよ。シャーリーには私から言っておくから、急いで会場に行ってあげて!!」

 

「マリーさん……。だけど、幾らサンダーでも今からじゃ……」

 

「大丈夫。『アレ』を使えば何とかなるはずだよ。その代わり……ロードサンダーは……」

 

「……っ!!」

 

 

確かに『アレ』を使えば何とかなるかもしれない。

でも、『アレ』は戦闘モードを基準として設計された物。

 

もし、ゆりかご決戦で変形機構を失ったサンダーが使えば―――――。

 

 

 

《相棒、何迷っているんですか!! 私ならとっくに覚悟は出来ています!!》

 

「サンダー……お前」

 

《コロナさんは、相棒にとっても大切な女の子ですけど、私にとっても大切な少女なんですよ。ティアナさん以外で私のことを一生懸命思ってくれた……》

 

そう、コロナはいつもサンダーのことを気にかけてくれていた。

あいつは、サンダーのことをメカとしてでなく、一人の人間のように接してくれていた。

そんなひと時を、サンダーは本当に大切にしていた……。

 

 

《だから、私は彼女のために役に立てるなら……それで本望なんです!! 戦いの中なんかじゃなく相棒達の日常を守れるためなら!!》

 

 

サンダーの気持ちは一片の迷いもなかった。

こいつは本気でコロナ達のことを思っているんだ。ある意味俺たちの誰よりも深く―――――。

 

 

「……分かった。お前の命、この俺が預かった!! 行くぞサンダー!!」

 

《了解です、相棒!!》

 

 

俺はサンダーのキーを捻り、エンジンをかけスロットルを回し、マフラーから心地よい爆音をガレージ一帯に響き渡らせる。

 

 

「いくぜ!! スロットル全開!!」

 

《思いっきり行きますよ!!》

 

 

俺はスロットルを回し、ホイルスピンをさせながら全速で発進した。

コロナ、これ以上ネフィリムフィストを使うな。

そして、アインハルト。最悪のことになる前にコロナのことを止めてくれ!!

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「コロナお嬢様の攻撃が……さっきから全然当たらない」

 

「それだけじゃねぇ。反撃のラッシュも効かなくなってきてる」

 

「そんな……どうして?」

 

「もともと身体操作はタイムロスが出やすいんだ」

 

 

判断から初動までの微妙な遅延―――――。

そのコンマ1秒以下の遅れが、格闘戦じゃ命取りになる。

 

 

「でも!! 単発の大威力技ならそんな弱点も―――――」

 

「確かにそうだ。だがアインハルトには通じねえ!!」

 

 

現にさっきからコロナの攻撃は全部アインハルトにいなさせてしまってる。

しかもコロナのダメージはかなりの物になってる。

クラッシュエミュレートだけど、右腕捻転挫傷に左拳骨折、さらに今の右回り蹴りを防がれたときの右臑の打撲。

 

 

「まずい!!」

 

 

しかもアインハルトの防御は、相手の攻撃威力を利用した攻性防御。

コロナが攻撃に使った左腕にそのまま威力を返してやがる。

 

 

『そしてアインハルト選手、追撃!!』

 

(拳が来る!! 大丈夫、自動反撃(オートカウンター)が動作する)

 

 

アインハルトの攻撃に、コロナの拳が自動反応で反撃する。

だけど、それがアインハルトの本当の狙い!!

 

 

(しまっ……)

 

 

アインハルトの右拳の打ち下ろしは確実にコロナを捉えた。

 

 

『カ……カウンター!! コロナ選手のアッパーをアインハルト選手が迎撃!! コロナ選手ダウ―――――ンッ!!』

 

 

自動反撃発動の間合いを読み切って、空振りさせての反撃。

しかも伸び上がったアッパーを上から叩き潰す打ち下ろし!!

 

完璧な筋書きだ―――――。

 

 

「お嬢様!! コロナお嬢様!!」

 

 

オットーの必死の呼びかけにも反応しやがらねぇ。

さっきの功性防御で拳も足もクラッシュしてる。心が折れてもおかしくない!!

 

 

「コロナァ―――!!」

 

 

*    *    *

 

 

 

(お願いです。もうこれ以上立ち上がらないでください)

 

 

私はこれ以上コロナさんを傷つけたくはないんです。

それにあの技は身体をこわしてしまう危険な技―――――。

 

競技選手である貴女が使って良い技じゃないんです。

 

 

「大……丈夫……」

 

「……!?」

 

『ああっと!? コロナ選手立ち上がる!!』

 

 

拳と足がクラッシュしている状態で立ち上がるなんて、もうコロナさんは限界のはず―――――!?

まさか!?

 

 

創成戦技(マイストアーツ)とネフィリムフィストは……」

 

「ここからが神髄ですから……」

 

「終わりになんてしません!!」

 

 

五体の完全操作―――――。

コロナさんも……そこに辿り着いたんですね。

 

 

「ですが、その技は危険を伴います!!」

 

 

危険なことになる前に、私が終わらせます!!

それがフィルさんとの約束でもあるんですから―――――。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

(頼むぞアインハルト。最悪な事態になる前にコロナを……止めてくれ)

 

《相棒、こんなペースじゃ間に合いませんよ!!》

 

 

さっきからサンダーでエンジン全開でかっ飛ばしてるが、会場があるクラナガンにはまだかなりの距離がある。

しかも、サンダーのあちこちの箇所が故障し始めてきている。

 

本来なら、ハイペースで飛ばしても2時間以上かかる距離を30分できたんだからな。

 

 

「もう少しだ……。もう少しだけ頑張ってくれ、サンダー!!」

 

《言われるまでもありません!! 必ず相棒をコロナさんの元に送り届けます。私の……意地にかけても!!》

 

 

突然、警告音が鳴り響く。

この警告音は、まさか――――!!。

 

 

「お前、まさか、スパイラルブーストを!?」

 

 

――――サンダーのラストリミット『スパイラルブースト』

サンダーのエンジンを起爆剤のニトロで点火させ、強引に出力を上げる最後の手段。

 

 

《このままじゃ手遅れになります。それに……元から覚悟はしてたんです。迷ってる時間はないですよ!!》

 

「だけど!!」

 

《相棒、いや、フィル・グリード!! あなたが今守るべき人は誰ですか!! 私じゃない!! 貴方を誰よりも待ってるのは、あの子なんですよ!!》

 

 

そうだ。

今、俺が守らなきゃいけないのは――――。

 

コロナ・ティミル。

 

純粋で、傷つきやすく、誰よりも優しい女の子だ。

 

 

 

「……分かった。もう……迷わない。プログラム起動。『スパイラルブースト』!!」

 

 

スロットル脇にあるブースト用のボタンを押し、最終兵器のブーストを点火させる。

点火と同時に俺の身体にもの凄いGが襲う。

 

 

「ぐっ……何で加速のGだ。吹っ飛ばされないようにするのがやっとだ」

 

《しっかり操縦してくださいよ。正直、私は制御だけで精一杯ですから……》

 

 

サンダーの計器にあるブーストメーター―――――。

これが0になる前に会場に着かなければエンジンはブローしてしまい、下手をすれば本体そのものが大爆発してしまう。

 

現在のカウントは180……あと3分。

頼む!! 何とか間に合ってくれ!!

 

ブーストと今までの無理で、タイヤがブリスターが発生している。

いつ、バーストしてもおかしくない。

 

まだか……。会場はまだなのか!!

 

 

 

《……相棒、会場見えてきましたよ》

 

 

前方を見るとそこは、コロナ達が戦っている会場。

何とかサンダーのエンジンは持ちそうだ。

 

そう思っていた矢先―――――。

 

 

『ボウン』とエンジンが爆発し、ブーストの出力も弱まりコントロールも効かなくなってしまった。

 

ちくしょう……あと少しだってのに……。

 

 

《……この命に代えても、絶対……に、相棒を、コロナ……さん、のもとに……たどり、着かせるッッ!!》

 

 

サンダーは最後の力を振り絞り、車体の姿勢制御をし地上に着地した後、エンジンをブローさせながら走り続けた。

 

まさに命を燃やし尽くすかのように―――――。

 

 

会場の入り口に何とか到着することが出来たが―――――。

 

 

「サンダー!!」

 

 

サンダーのエンジンは完全に焼き付いてしまい――――。

 

 

車体もボロボロになってしまっていた。

 

 

《私に、かまわず早く!! コロナさんのもとに!!》

 

「だが!! そんな状態じゃ!!」

 

《……言った……でしょう。私の役目は……皆さんの日常を……護る、ことだって……だから早く!! 最悪なことになる前に……行ってくださいッッ!!》

 

「……分かった。すぐに迎えに来るからな!!」

 

 

ここでサンダーの気持ちを無駄にするわけにはいかない。

俺は急いで会場の入り口に向かった。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

(……行った……よ…うで、すね)

 

 

良かった――――。

 

これで私の役割も果たすことが出来ました。

 

 

相棒、いつも、私を大切に使ってくれてありがとう。

そんな相棒の大切な人たちのために、この身が役に立てたのなら本望です。

 

 

出来ることなら、あの子に……。

 

 

コロナさんにバイクのすばらしさを……教えたかったです。

 

 

ティアナさん以外に、私のことを一つの生命体として見てくれた彼女に……。

 

 

コロナさん……あなたはあんな力を使わなくても、ちゃんと強くなります。

 

だから……。

 

 

あなたが目指している本当の強さを……思い出してください。

 

 

それが……。

 

 

私の……。

 

 

最後の……願い……です。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

(駄目だ……何度やっても当たらない)

 

 

手も足も体中が痛いよ―――――。

最後の切り札、ネフィリムフィストフルコントロールを使っても決定打にはならない。

 

 

(やっぱり……無理なのかな。どんなに頑張ってもアインハルトさんには……)

 

ごめんなさいフィルさん―――――。

わたしはやっぱり……。

 

 

「コロナッ!!」

 

「!?」

 

 

今の声―――――。

スタンドの方を振り向くとそこには―――――。

 

 

「まだだ!! まだお前は練習したことを全部出し切ってない!!」

 

 

フィルさん―――――。

どうしてここに……?

お仕事でここには来られないって言ってたのに……。

 

 

「そうですよお嬢様!! フィルさんの言うとおり、まだお嬢様は出し切ってません!!」

 

「そうだ!! オットーと一緒に練習した強さ!! ゴーレムマイスターとしての戦い!! ネフィリムフィストなんか使わなくたって……。そんな無茶なことしなくたって……」

 

「お前は強いんだ!! 俺とルーテシアが作ったブランゼルは、必ずお前に応えてくれる!! だから……」

 

「最後まで……諦めるなァァァァァァ!!」

 

 

フィルさん……オットー……。

本当に……本当に……ありがとう……。

 

 

「そうだよね―――――。わたしは格闘技選手でもあるけど、それ以上に―――――」

 

 

わたしはゴーレムマイスターなんだ。

フィルさんとルーちゃんが作ってくれたブランゼルはその象徴。

 

二人の思い……オットーの思い……。

そして―――――。

 

何より自分自身の思いを込めて!!

 

 

 

「創主コロナと魔導器ブランゼルの名の下に―――――」

 

「蘇れ巨神!! ゴライアス!!」

 

 

再構築な分、創成時間は殆ど無い。

この一撃に全てを賭ける!!

 

 

「アーム……バージブラスト……」

 

 

わたしはゴライアスの腕をバージし、その腕を高速回転させる。

そして―――――。

 

 

「ドリルクラッシャーパンチ!!」

 

 

高速回転させた腕を、アインハルトさんにめがけて放った!!

 

 

 

「甘いですよ!!」

 

 

アインハルトさんはゴライアスの腕を、逆にその力を利用して―――――。

 

 

 

「覇王流―――――旋衝破ァ―――――!!」

 

 

間一髪上空へ逃れることは出来たけど、跳ね返られた腕でゴライアスは破壊されてしまった。

だけど、それは計算済み―――――。

 

本当の狙いは―――――。

 

 

「!? あ、あの技は!? 俺の……」

 

「ブラスト……」

 

 

もう残り魔力は少ない―――――。

一か八かこの技に全てを賭ける―――――。

フィルさんが得意とする誘導弾。これがわたしの最後の攻撃!!

 

 

「シュート!!」 

 

 

わたしが作り出した8つの魔法弾は―――――。

 

 

「くっ!!」

 

 

全てアインハルトさんに命中したが―――――。

 

 

「……私の……勝ちです。コロナさん」

 

「覇王……断空拳!!」

 

 

アインハルトさんの必殺の一撃をカウンターでくらってしまった。

 

 

コロナ・ティミル LIFE 0

 

 

*    *    *

 

 

試合が終わり、目を覚ましたわたしは、ロードサンダーの事を聞き、居ても立ってもいられず会場を飛びだしていた。

 

 

そこにあったのは……。

 

ボディもエンジンもボロボロになったロードサンダー。

 

 

それを見て涙が止まらなかった。

 

 

「わたしのために、こんなになるまでボロボロになって……」

 

「サンダーは、最後まで……コロナのことを、思っていたよ。自分の身を犠牲にして、な……」

 

 

本当に……本当にごめんね、ロードサンダー。

 

 

 

*    *    *

 

 

20:18 海岸

 

 

「負けちゃい……ました。やっぱりアインハルトさんは強いです」

 

「アインハルト相手によくやったよ。前半のネフィリムフィストは感心できなかったけどな」

 

「フィルさん……ごめんなさい」

 

「でも、分かっただろ。あんな技使わなくても充分強いんだって……」

 

「はい!!」

 

 

この試合でわたしが学んだことは本当に沢山あった。

戦い方とかもそうだけど、何よりわたし自身の心の持ち方―――――。

 

一人でやってるんじゃない。オットーやノーヴェ師匠、フィルさん、そして、ロードサンダー。

 

色んな人に支えられているんだって事を―――――。

 

 

 

「あの……フィルさん。一つだけ……聞いても良いですか?」

 

「ん? 何だ?」

 

「……ネフィリムフィストのこと……です」

 

 

 

今ならネフィリムフィストの危険性は充分に分かる。

だけど、フィルさんが反対してたのは、それ以外にも何か理由があるような気がしてならなかった。

 

 

 

「……そのことか。コロナ、今ならネフィリムフィストの危険性は充分に分かるな」

 

「はい……。実際に経験しましたから」

 

「……それを踏まえて一つ昔話をするよ。とある男の……愚かな話をね」

 

「昔……その男は力が欲しくて……色んな無茶をしまくった。魔力や筋力を上げるために過剰なトレーニングもした。それでも求める力が得られず、その男の取った選択は―――――。魔力を使っての自動身体操作。つまりはネフィリムフィストだ。だけど……それで得た物は……」

 

 

フィルさんは、本当に悲痛な表情をし―――――。

 

 

「……得た物なんか何もなかった。残ったのは……ボロボロの身体……それだけさ」

 

「!!」

 

 

今……やっと分かった。

この話に出てくる人は、フィルさん自身なんだ。

 

だから……だからわたしに、ネフィリムフィストを使うなってずっと言ってくれてたんだ!!

 

 

「……だからコロナ、二度とネフィリムフィストは使わないでくれ。大切な奴を失う悲しみは……もう……たくさんだ」

 

「フィルさん……」

 

 

フィルさんの悲痛な悲しみ―――――。

それはフィルさんの言葉と、今の表情を見れば痛いほど伝わった。

 

そしてフィルさんはいつも一人で抱えてしまっている。

ティアナさんやノーヴェ師匠が言っていた。

 

この人は他人の悲しみとかには敏感なんだけど、自分のことは二の次にしてしまっている。

 

そして、ロードサンダーもフィルさんと同じ。

 

だから、そんな優しい人達がこれ以上傷ついていくのはもういや!!

 

 

「フィルさん……」

 

「コロナ?」

 

 

この思いはフィルさんにとって邪魔なのは分かっている。

だけど、今ちゃんと伝えなくちゃ一生後悔するから―――――。

 

 

 

「フィルさん……今のわたしはまだまだ子どもです……。だけど……だけど……」

 

「わたしは……フィルさんのことが誰よりも大好きなんです!! この思いは本気なんです!!」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「……コロナ」

 

 

コロナの思いが、憧れや安っぽい思いなんかじゃないことは、鈍感朴念仁の俺でも分かる。

コロナがどんな思いをして俺に告白をしてくれたか―――――。

 

本気の思いに対して、本気で応えなきゃ最低だ。

 

 

「……馬鹿だよ。コロナならもっと良い奴が見つかるだろうに」

 

「フィルさんじゃなきゃ……だめなんです。いつもわたしを本当に支えてくれたフィルさんだから……わたし……一生懸命頑張ってスタイルも良くなります!! フィルさんのことを支えられるような女の子になりますから……」

 

 

俺は人差し指でコロナの口に触れ―――――。

 

 

「フィルさん?」

 

「十分魅力的な女の子だよ、お前は。だからそんなに焦って大人になろうとするな」

 

「それは……わかりますけど」

 

「それじゃ……お前が魅力的だってことを行動で示すよ」

 

 

俺はそっとコロナに――――。

 

 

誓いの口づけをかわす。

 

 

それは唇にそっと触れただけのキス―――――。

 

 

だけど、今の俺たちには充分すぎる誓い―――――。

 

 

「……フィル……さん」

 

「今は……これで勘弁な」

 

「はい……でも、いつかは……」

 

「ああ……そのときは……な」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

数年後

 

 

「いっけない!! 急いで家に帰らなきゃ!!」

 

 

今日はフィルさんの誕生日、この日に合わせて色々準備してきたのにこういう日に限って先生から雑用を言い渡されてしまうなんて!!

 

 

「ロードサンダーお願い!! 全速力でね!!」

 

《了解しましたコロナさん。かっ飛ばしますからね!!》

 

 

 

フィルさんの愛車だったロードサンダー。

 

あれだけボロボロになった機体をよみがえらせるのには、かなりの年月がかかった。

正直、AIもかなりのダメージを負ってしまい、車体もほぼ作り直しになってしまった。

 

それでも、もう二度と任務には使わないと決心したフィルさんは、わたしがバイクの免許を取ると同時に、わたしにロードサンダーをプレゼントしてくれた。

 

 

『お前がロードサンダーを使ってくれるなら……きっとこいつも喜ぶから』

 

 

今ではブランゼルと同じく、わたしの欠かせない大切なパートナーになっている。

 

 

「ロードサンダー、いつもありがとう。下手くそなわたしをサポートしてくれて」

 

《いえいえ、コロナさんはいつも私を大切に使ってくれますからね。『元』相棒と違って無茶な運転はしませんしね》

 

「あ、あはは……」

 

 

た、確かにフィルさん……ロードサンダーに無茶しまくっていたかも。

いつも全速全開だし……。

 

 

《さて、もうすぐ到着しますよ。で、コロナさん今日相棒と……》

 

「うん……」

 

《……はぁ、あのスットコドッコイ。本当に女性の気持ちには疎いんですよね》

 

「そうなんだよね……」

 

 

 

フィルさんはあの日以来、年相応のつきあいをしてくれて、その……キスとかもしてるんだけど……。

それ以上は……どうしてもしてくれない。

 

 

「でも、今日頑張るよ!! フィルさんと本当の恋人になりたいから!!」

 

《頑張ってください!! もしコロナさんの気持ちを無下にしたら、私が装備されてる、ありとあらゆる武器をぶちかましますから!!》

 

「それだけはやめてね……ロードサンダー」

 

 

心配してくれるのは嬉しいけど、そんなことされたら、いくらフィルさんでも死んじゃうから―――――。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「ごちそうさま、本当に美味しかったよ。コロナ」

 

「良かったです、喜んでくれて……」

 

 

夕食が終わり、わたしとフィルさんは一緒に片付けをし、そのままリビングのソファーで、一緒にテレビを見ながらまったりとしていた。

 

 

「……今日は本当にありがとうな。こうして祝ってくれる人がいるのは……やっぱうれしいよ」

 

 

わたしとフィルさんが恋人になってからの約束。

それは互いの誕生日を祝うこと―――――。

 

年に一度の互いの大切な日―――――。

 

フィルさんは管理局の仕事が忙しくて休みを取るのは難しい。

だけど、この日だけは必ず休みを取って一緒にいてくれる。

 

 

「……もうこんな時間か」

 

 

時計を見るともう23時を過ぎていた。

だけど―――――。

 

 

「……コロナ」

 

 

わたしはフィルさんの背中に抱きつき―――――。

 

 

「……今日は……いっしょに……いてください」

 

「……だけど……親御さんもそろそろ」

 

「今日は……両親は帰ってこないです。二人とも旅行に出かけてます」

 

 

本当は嘘―――――。

わたしが両親に旅行をプレゼントして、この日を空けてもらったから―――――。

 

 

「……フィルさん……お願い……わたしを……本当の恋人に……して……ください」

 

「その意味……わかってる……よな。今のコロナにそんなこと言われたら……俺は……」

 

「わかっていってるんです……。フィルさん、わたしは貴方と……本当の意味で繫がりたいんです……。身も……心も……」

 

「……分かった。コロナの気持ち……もらうからな」

 

「……はい」

 

 

そして―――――。

 

わたしとフィルさんは、そのまま瞳を閉じてキスをする。

最初は唇が触れるだけのキス―――――。

 

次第に互いの存在を求め合う深いキスになった。

キスが終わると、互いの唇の間に銀色の糸ができあがっていて、それは互いの気持ちが繫がりあっている証だった。

 

 

「あっ……」

 

 

フィルさんはわたしの服の隙間から胸に触れる。

小さめなわたしの胸だけど、フィルさんは一杯わたしの胸に触れてくれた。

 

それだけでフィルさんが、わたしのことを一杯愛してくれてるって伝わってくる。

 

 

 

「コロナ……」

 

 

そしてフィルさんはわたしの服を脱がし、ブラを外し、さらに全身を蹂躙するかのように求めてきた。

 

 

「……ふぁ……ああ……あんっ……」

 

 

わたしも声をこらえきれず、思わず喘ぎ声を発してしまう。

だけど、それがフィルさんの理性を壊して、わたしを一杯求めてくれる。

 

 

そして―――――。

 

 

「……フィルさん……やさしく……して……くださいね」

 

「……ああ……やさしくするよ。俺も……その……初めてだしな……」

 

「ふふっ……」

 

 

フィルさんはわざとかっこ悪いことを言ったけど、それはちっともかっこ悪くないですからね。

なんか……フィルさんの一面を見れて嬉しいな。

 

 

「……じゃ……いくよ」

 

「はい……きて……ください」

 

 

 

そしてわたしとフィルさんは―――――。

 

 

互いに肉体の快楽と精神のつながりに溺れ―――――。

 

 

その後も何度も繰り返され―――――。

 

 

その行為は夜遅くまで続いた―――――。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「こうしてフィルさんの腕に抱かれてると……凄く安心します」

 

「そっか……」

 

 

フィルさんに抱かれた後、しばらくの間眠っていたんだけど、目が覚めたらわたしはフィルさんの腕を枕にして眠っていた。

 

フィルさん、わたしが眠っている間、こうしててくれたんだ。

 

 

「今までもフィルさんに好きだよって言ってもらってましたけど、やっぱり……不安だったです。だって……フィルさんわたしのこと求めてくれなかったし……」

 

「あのな……。コロナが成長して、色気が出てきて……。自分の欲望を抑えるのに必死だったんだぞ。こういったことって……その……な……」

 

「フィルさんが、わたしのことを大切にしてくれてたのはすっごくわかります。でも、わたしはフィルさんの恋人なんですよ!! 恋人には遠慮しないで欲しいです」

 

 

確かにフィルさんのそう言ったところは美点でもありますけど、こういうときはもう少し積極的になって欲しいです!!

 

 

「すまなかったな……。コロナに辛い思いをさせて……」

 

「これからは今まで待たされた分、いっぱい……いっぱい愛してくださいね♪」

 

 

フィルさんとわたし―――――。

 

年齢が離れている分、これからも一杯困難があると思う―――――。

 

だけど、わたしはフィルさんのことを本当に愛してる――――。

 

その気持ちに嘘偽りはない―――――。

 

これからもそれは変わることはない―――――。

 

だからフィルさん、わたしのことを一杯愛してくださいね♪

 

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

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