魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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今回は、すずかとの物語になります。
これで、聖祥女子全員そろうことになります。


if ending すずか

この日……。

 

私はお休みで、久しぶりにアリサちゃんとお買い物に行く約束をしていた。

今、私は海鳴駅でアリサちゃんを待っている途中です。

しばらく待っていたら……。

 

 

 

「ねぇ、君。俺たちと一緒に楽しいことをしようぜぇ」

 

 

 

いつも思うことなんだけど、何故こういう人たちはみんな同じことしか言わないんだろう。

そう言う私もいつも言うことは決まっている。

 

 

 

「結構です。今、友達と待ち合わせをしていますので……」

 

 

って言うんだけど、これで帰ってくれた人は殆どいない。

 

 

「いいじゃんよぉ。君みたいな娘を待たせる子なんかほっといて行こうぜ!!」

 

 

そう言うや、否や話しかけてきた男の人は、私の手を掴み無理矢理引っ張って行こうとする。

 

 

「いや!! やめてください!!」

 

 

いつもならアリサちゃんと一緒に行動してるから、鮫島さんがこういう輩を追い払ってくれるんだけど……。

 

男の人たちが無理矢理私を車の中に引っ張り込もうとしたとき……。

 

 

「あいたたたたた!!」

 

「おい、いやがる女の人に何をしてる……」

 

 

男の人の手を引きはがし、その後こちらをみて心配そうな顔をして……。

 

 

 

「大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか?」

 

「は、はい、大丈夫です。ちょっと怖かったですけど……」

 

「そうですか……」

 

 

 

私が怖かったという単語を言ったとたん、彼の表情が険しい物になる。

 

 

「貴様ら……この人に何しようとしたんだ」

 

 

彼は淡々とした口調で話しながら彼らに歩いていく。

 

 

「うるせぇなぁ!! お前には関係ねえだろうが!! この子が一人で寂しそうにしていたから、俺たちがたっぷりと遊んでやろうとしたんじゃねえか」

 

 

そう言うと、男の人の周りに居た他の二人の男の人が、ニヤニヤしながら笑う。

 

 

「そうそう、遊んであげようとしたんだよ。」

 

「たっぷりとなぁ」

 

 

イヤらしい言い方で一人の男の人が彼に話している。

残りの二人がこっちをみて、舌を舐めずりしている。

 

 

 

「そっか……」

 

「そう言うわけでとっとと消えな!! お前は邪魔なんだよ!!」

 

 

そう言って彼の顔面に殴りかかった。

しかしその瞬間……。

 

 

 

「いてててててて!!」

 

 

彼がその腕をとり、逆にその腕を捻りながら、その男の人を地面に叩きつけていた。

 

 

(えっ? 一体何が起きたの?)

 

 

あまりの早業に呆然としてしまったが、いつの間にか二人目の男の人も地面にくの字になって倒れていた。

 

 

 

「て、てめえ……ざけんじゃねえぞ!!」

 

 

残った男の人がポケットからナイフを取り出し、後ろから彼に斬りかかる。

 

 

「危ない!!」

 

 

もうだめ!!

そう思っていたが、次の瞬間信じられない物を見ることになる。

 

 

「う、うそだろ……」

 

 

後ろを振り向いた次の瞬間、彼はナイフを右手の人差し指と中指で挟み込んでしまう。

 

 

「この……この!! 全くうごきやがらねえ!!」

 

 

いくらナイフを引き抜こうとしても、山のごとく動かすことが出来ず、男がただ独り相撲の状態になっていた。

 

 

「どうした……それで終わりか。だったら……」

 

 

バキン!!

 

 

次の瞬間、刃の部分を根本から叩き折ってしまった。

その勢いでナイフを持っていた男が、地面にベタンと尻餅をついていた。

 

 

「ひいいいいいいいい……」

 

「まだやるか……」

 

 

彼が地面に倒れている三人組にひと睨みすると……。

 

 

「じょ、冗談じゃねえ!!」

 

「ま、待ってくれよ!!」

 

「おいてかないでくれ!!」

 

 

恐れをなしたのか、あわてながらその場を去り、自分たちの車に駆け込み、さっさと走り去っていった。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「ふぅ……」

 

「あの……本当にありがとうございました」

 

「いえ、別にたいしたことはしてませんから……」

 

 

俺は、とある理由で無理矢理休暇を取らされ、しかもミッドにいたらまた仕事をするんじゃないかという理由で、なのはさん達の故郷海鳴市に強制的にとばされてしまっていた。

 

幸いはやてさん達から地球の通貨は貰っているので、野宿という心配はないんだけど、その代わりになのはさんの実家である翠屋でケーキをおみやげに買ってくることを言われてしまった。

 

その店を探している途中で、あんな連中と遭遇するとは思わなかったけどな……。

 

 

「それでは、俺はこの辺で……」

 

「ま、待ってください!! せめて何かお礼を……」

 

「俺はそんなつもりでしたわけじゃないですから。あんな馬鹿を見るのが不愉快なだけですから……」

 

 

俺は別にお礼をされたいから助けた訳じゃない。

泣きそうな人がいたから助けただけだから……。

 

 

 

「でも……。だったらせめてお茶くらい奢らせてください」

 

「ですが……」

 

《マスター。別に急ぐわけではないんですから、そのくらいの御厚意は受けても良いと思いますよ。あまり無下にするのも失礼ですよ……》

 

 

プリムが念話で俺にそう言ってくる。

確かにあまりお断りするのも申し訳ないな。

 

 

「それでしたら……お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

「はい♪」

 

 

その後、もう一人金髪の女性がやってきて、先ほどのことを説明すると……。

 

 

「へぇ……あんたなかなかやるじゃない!! 普通は見て見ぬふりするのに、男気があるじゃない!!」

 

「べ、べつにそう言うわけでは……」

 

「謙遜しないの!! あたしからも礼を言わせて貰うわ。そう言えば自己紹介がまだだったわね。あたしはアリサ・バニングス。よろしくね!!」

 

 

金髪の女性はとてもズバズバ言ってくるけど、人を傷つける物ではない。

むしろ人一倍気を遣っている感じだ。

 

 

「あの、月村すずかです。先ほどは本当にありがとうございました!!」

 

 

先ほど助けた長い紫の髪の女性はとてもおしとやかな印象を受けた。

 

 

「いえいえ、怪我が無くて良かったです。俺はフィル・グリードと言います」

 

「「えっ?」」

 

 

二人の女性は俺の名前を聞いたとたん、驚きの表情に変わり……。

 

 

「もしかして……なのはちゃんの関係者の……?」

 

「えっ!?」

 

 

 

今度は俺が驚く番だった。

まさかここでなのはさんの名前が出てくるとは……。

 

 

 

「まさか、お二人はなのはさんのお友達……ですか?」

 

「そうよ!! あたしとすずかは小学生時代からなのは達とは親友同士よ」

 

「こないだみんなで来たときはフィル君は来ていなかったけど?」

 

 

思い出した!!

アリサ・バニングス、月村すずか。

この二人はなのはさん達の地球での協力者だ。

 

まさか、ここでこの二人と会うことになるとは……。

 

 

 

「そういえばあんた、こないだみんなで来たときはいなかったけど、何か理由があったんでしょう?」

 

「詳しいことは分からないけど、フィル君がすごく頑張ってくれたから、今、私たちが生きているって、はやてちゃん達が言っていたの」

 

「えっと……その……」

 

 

 

いったいはやてさん達は、この二人にどんなことを言っているんだ?

ずいぶんと買いかぶっているみたいだけど……。

 

 

 

「そっか……あんたがフィル・グリードか。でも、なんで地球にいるの?」

 

「そうだよね……何か事件でもあったの?」

 

 

二人が不安そうな表情で俺に尋ねてくる。

そう言う訳じゃないんだよな。なのはさん達の関係者だし、今回は俺の休暇で来ているだけだから、話しても良いかな。

 

 

「実は……」

 

 

 

俺が六課であった出来事を簡単に説明すると、最初はうんうんと頷きながら聞いていたんだけど、最後の方になると……。

 

 

 

「はぁ……。確かにそれじゃ、はやてが強制休暇を出すのも当たり前よ。五日間不眠不休って……」

 

「そうだよ。もう少し自分の体を大切にしなきゃだめだよ!!」

 

「は、はい……」

 

 

二人のあまりの迫力に、俺はたじろぐしかなかった。

というよりも、俺が昔から年上の女性には頭が上がらないのが原因かな。

 

結局俺は二人に連れられて、なのはさんの実家である翠屋に一緒に行く羽目になってしまった。

しかも、翠屋についたら、なのはさんのお兄さんである恭也さんも戻ってきていて、先ほどの話を月村さん達が話していると……。

 

 

「義妹を助けてくれてありがとう。ああいった輩は俺と父さんが、あらかた片付けたつもりだったんだけどな……」

 

 

恭也さんがこちらにやってきて、俺に頭を下げてお礼を言ってきた。

というか、月村さんと恭也さんが義兄妹だとは……。

 

 

「仕方がないですよ。どこにでもいますから、ああいうアホは……」

 

「顔とか分かれば、二度と馬鹿なことをさせないんだけどな……」

 

「とにかく今後は俺たちも気をつけるよ。今日はお礼と言ってはなんだが、ここでのケーキ代はうちで持つよ」

 

「い、いえ!! それは申し訳ないです!! ちゃんと払いますから!!」

 

 

さすがにそこまでして貰うわけにはいかない。

ただでさえ、おみやげの買うお金だって、割り引いてくれたのに……。

 

 

 

「気にしないでくれ。もし、気にするんだったら、また店をひいきにしてればいいさ」

 

「そうだよ。ここは恭也義兄さんの厚意を素直に受け取ってね」

 

「あんたは遠慮しすぎなのよ。人の厚意は素直に受けなさい!!」

 

 

さすがに三人から言われてしまっては、断る方が失礼だ。

俺は御厚意に甘え、ごちそうになることにした。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「さてと、おみやげも買ったし、ミッドに戻るとしますか」

 

「「えっ……?」」

 

「ちょっといくら何でも早すぎない!! 今日地球に来たばかりなんでしょう!?」

 

「ですが、仕事の方も残っていますから……」

 

 

アリサさんの言うとおり、今日の朝、海鳴に来たんだけど、正直六課をあけるのは心苦しい。

頼まれたおみやげも買ったんだから、もう戻った方が良い。

 

 

 

「ねぇ、フィル君。せっかく地球に来たんだから、一日くらい観光しても怒られないと思うよ……」

 

「ですが……」

 

「あのね。はやてちゃんがフィル君にお休みをくれたのは、体を休めてほしいからだと思うよ。それを無視する方が良くないと思うな」

 

「……そう……ですね」

 

 

 

確かに月村さんの言うとおりだと思う。

今回の休みだって、徹夜を繰り返していることで、はやてさんに休まされたんだから。

 

 

 

「もし、一人で休むのが出来ないって言うなら、明日私と一緒に遊んでくれないかな。今日はあんな事があって予定が全部狂っちゃったから……」

 

「そうね。こいつは一人だとここでも仕事をしそうだしね。それが良いかもね。残念ながらあたしは明日は用事があって無理だけど、すずか、こいつのことはお願いね」

 

「うん。はやてちゃん達にも私から言っておくから心配しないでね!!」

 

 

 

もう、退路はふさがれてしまった。

これで無理矢理六課に戻っても、また強制的に休暇を取らされてしまう。

しかも、今度はデバイスまで取り上げられてしまうだろう。

 

 

 

「ふぅ……分かりました。それでは今回はお言葉に甘えて、海鳴の街を案内して貰います。よろしくお願いします。月村さん」

 

「うん。任せてね。それと、私のことはすずかでいいからね」

 

「は、はい……」

 

 

 

どうにも、月村さん、いや、すずかさんの言葉にはどうにも聞かなきゃと言う気にさせられてしまう。

別に命令されてるわけではないんだけど、なぜかあの人が悲しそうな顔をしていると、胸が苦しくなってくるんだ。

 

 

結局俺は次の日、すずかさんに海鳴の街を案内されて、帰るのが一日遅れることになった。

でも、そのおかげでリフレッシュできたから良いかな。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

二ヶ月後

 

 

 

「ここが、はやてちゃん達が働いている機動六課……」

 

 

私は冬休みを利用して、今回はやてちゃん達がいる六課に見学に来ることにした。

さすがに何も断りもなく来たら駄目なので、事前に連絡をして都合がつく日に合わせて来ることになった。

 

 

 

「いらっしゃい、すずか。待っていたよ」

 

「フェイトちゃん。お久しぶりだね!! 元気にしてた!?」

 

「うん。色々あったけど、なのはもみんなも元気だよ」

 

 

こうやって会うのは、海鳴であったとき以来だけど、みんな元気そうでよかった。

 

 

 

「そういえば、フィル君はどうしてる? 元気にしてるかな?」

 

 

こないだ会ったときは、だいぶ無理していたからね。

私とアリサちゃんがあれだけ言ったんだし、もう無茶はしてないと思うけど……。

 

 

 

「う、うん……。元気と言ったら元気なんだけど」

 

 

なんか、フェイトちゃんの様子がおかしい。

どこか困惑して様子でなにか話すのをためらっている感じだ。

 

 

 

「フィルね。海鳴から戻ってきた一週間くらいはちゃんと休んだりして、無理しなかったんだけど、それからしばらくして今度は……」

 

 

 

そう言ってフェイトちゃんは、六課内のオフィスを指さして……。

 

 

「フィル、あたしのほうは大丈夫だから。少しは自分をいたわって!!」

 

「スバルの言う通りよ!! あんた、ここんところ全然休んでいないじゃない!!」

 

「心配するなって。休憩はちゃんと取ってるって。それに、これくらいしかおまえらのサポートはしてやれないからな」

 

 

スバルちゃんとティアナちゃんが、必死になって言ってるのに、フィル君はそれでも無理をして仕事をしてしまう。

 

 

*    *    *

 

 

 

「フィル君って、いつもあんな感じなの。フェイトちゃん……」

 

「うん……今日はまだ良い方。いつもだったら、夜中まで残ってシャーリーと一緒にデバイスのことを話し合ったりして、そのまま朝までして、そのまま訓練なんて事もざらなの。それを注意はするんだけど……」

 

「それでもフィル君は、無茶ばかりし続けているんだね……」

 

「なのはや私たちには無茶はするなって言うんだけど、フィルの方がよっぽど無茶しているよ。このままじゃ本当にいつか……」

 

 

フィルはいつもそう……。

 

 

自分のことより、自分の周りの人のことを優先してしまう。

自分はどうなっても良い。だけど、仲間はどんなことをしても護りたい。

 

JS事件の時もずっとそうだったから……。

 

そんなことを考えながらオフィスを見学していたとき……。

 

バタン

 

突然オフィスに大きな物音が響き渡る。

その音ですぐにその方向を見ると……。

 

 

「フィル!!」

 

「フィル君!!」

 

 

 

目の前でフィルが突然バタンと倒れている。

心配していたことがついに起こってしまった。

 

目の前でフィルが倒れてパニックになっているキャロが、フィルを揺すっているが……。

 

 

 

「キャロちゃん、あんまり揺すらないで。原因が分からないのに、動かすのはかえって危険だよ」

 

「えっ? は、はい!!」

 

 

いつの間にかすずかがフィルの前に駆けつけて、フィルの状態を確認していた。

確認が終わると、すぐに……。

 

 

「スバルちゃん、ティアナちゃん、急いでシャマルさんに連絡して!!」

 

「「は、はい!!」」

 

 

すずかの言葉でティアナ達がハッとして、すぐにシャマルを呼びに行った。

駆けつけたシャマルがフィルのことを見ると……。

 

 

「完全に過労ね。疲れがたまってそれが蓄積されて、それがどっと出たのよ。とりあえず医務室に運ぶわね」

 

 

シャマルが連れてきた救護班と一緒にフィルを連れて行く。

この場はティアナ達に任せ、私とすずかはその後をついて行くことにした。

 

そして、この後シャマルから、信じられないことを聞かされることになる……。

 

 

 

*    *    *

 

 

医務室についた私とフェイトちゃんは、しばらくの間部屋の外で待機していた。

しばらくしてシャマルさんが、フェイトちゃんだけを部屋に入れて……

 

 

「話したいことがあるの……。機密事項に関わるから、すずかちゃんは後でフェイトちゃんに聞いて……」

 

「は、はい……」

 

 

正直フィル君のことが気になって仕方がなかったが、機密事項という言葉にこれ以上言うことは出来ない。

なんだろう……。

 

嫌な予感が頭から離れてくれない。

 

 

*    *    *

 

 

「フィル……よく眠ってますね」

 

「ええ……本当によく眠ってるわ……」

 

 

シャマルは、さっきから話すことをためらっている感じだった。

話さなければいけない。だけど、どう話したらいいか……。

 

そんな感じがさっきからずっと感じられる。

そしてシャマルは意を決したのか……。

 

 

「フェイトちゃん。あの場では……過労って言ったけど、本当はそれだけじゃないの……」

 

「えっ……?」

 

「フェイトちゃん、フィルがJS事件でブラスターを使ったのは覚えてるわね……」

 

「うん……」

 

 

 

あの事件でフィルは、ヴィヴィオとなのはを助けるために、自分の限界以上の力、ブラスターを使っている。

あの力は自己ブーストのため、自分の限界以上の力を使えるけど、その反面……。

 

 

 

「そのせいでなのはちゃんもフィルも、体にかなり負担をかけてしまっているの。しかも……」

 

「これを見てほしいの……」

 

 

そう言って、シャマルがスクリーンに映し出したのは、フィルの検査結果。

 

 

「これは!!」

 

「見ての通り、もうフィルは限界に近い。そこに来て、これだけの無茶の繰り返し……。正直言ってこのままだったら……」

 

シャマルは、悲痛な表情をし……。

 

「……フィルは……いつ死んだっておかしくないのよ」

 

「う、嘘だよね……」

 

 

――――信じられなかった。

 

 

嘘だって言ってほしかった……。

だけど、シャマルの表情がそれを物語っている。

 

今言ったことは紛れもなく真実……。

 

 

「シャマル!! フィルを助ける事は出来ないの!!」

 

「今のように無茶しなければ、大丈夫なんだけど……。だけど、今のフィルが、それを聞き入れると思う?」

 

 

絶対に無理だと思う。

フィルは、自分のことよりも大切な仲間の方を優先してしまう。

 

それこそ、大切な人が出来ない限りは……。

 

 

「知っての通り、フィルは未来でティアナを失っているわ。だからこれ以上の悲しみを生まないために、自分の体のことは二の次にしてる……」

 

「でも、このままじゃフィルは……フィルは……」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「そんな……そんなのって……そんなのって……」

 

 

信じられなかった……。

 

フィル君がこのままじゃ死んでしまう……。

 

詳しいことは聞こえなかったけど、それでも肝心なことは聞こえてきた。

フェイトちゃんの必死な声がこっちまではっきりと聞こえてくる。

 

フィル君の容態は、本当に良くないんだ……。

 

 

「いやだよ……フィル君が死んじゃうなんて……嫌だよ……」

 

 

二ヶ月前、あの時は優しい男の子だと思っていた。

だけど、あの日フィル君と一緒にお話をして、その後も海鳴の街で一緒に遊んだりして、フィル君のことを知れば知るほど、フィル君のことが気になり始めていた。

 

今日だって、なのはちゃん達には悪いと思ったけど、本当はフィル君に会えたらなって思っていたんだ。

 

だけど……。

 

 

知ったのは、悲しい現実……。

 

 

「苦しいよ……フィル君のことを思うと、こんなに胸が苦しいよ」

 

 

この二ヶ月、フィル君に初めて会ってから、ずっともやもやしていた気持ち……。

 

その気持ちが今はっきり分かった。

 

私、フィル君のことが好きだったんだ。

 

 

*    *    *

 

 

「よく……眠ってるね」

 

 

あれから数時間、フィル君の容態も落ち着き面会も出来るようになった。

さっきまでなのはちゃん達が代わる代わる来て、みんなに怒られたりしていたけど、それはみんながフィル君のこと本当に大切に思っているからだよ。

 

 

 

「フィル君……」

 

 

私はフィル君の黒髪にそっと触れ、何度もそれを繰り返していた。

ふとフィル君の顔を見ると、どこか安らいだ表情をしている。

 

 

「ふふっ、こうしていると普通の男の子なんだけどね」

 

 

本当、無茶ばかりしているんだね。

地球で話を聞いていたのだってかなり無茶だと思っていたのに、ここでみんなから話を聞いたら、あの時、聞いたのはほんの一部だったんだね。

 

 

 

「フィル君……」

 

 

 

本当はちゃんと言いたい。

だけど、私の思いはきっと今のフィル君には届かないから……。

 

それでも、後悔だけはしたくないから……。

 

 

 

 

「実はね……。私も、なのはちゃん達にしか言ってない秘密があるんだよ。私もね……。普通の人とはちょっとだけ違うんだ」

 

「夜の一族っていって、私の家系は元来、吸血鬼の血を継ぐ一族の末裔……なんだ……」

 

 

これのせいで小さい頃、私は、うまく人とお話が出来なかった。

だけど、アリサちゃんやなのはちゃん達と会って、たくさんの大切なお友達が出来た。

そのおかげで引っ込み思案の性格も、だいぶ直すことが出来たんだ。

 

 

 

「だからね……。本当は普通の人を好きになっちゃいけないんだけど、だけどね……」

 

 

言っちゃいけない……。

 

 

「それでも、私は……私は、あなたのことが……」

 

 

だけど……それでも……。

 

 

「好きになっちゃったから……」

 

 

自分の気持ちには嘘をつきたくなかったから……。

 

 

だから私は、ほんの僅かの望みを託し……。

 

 

そっと頬にキスをした……。

 

 

 

「おやすみなさい……。身体……大切にしてね」

 

 

私はそっと、扉を開けて医務室から退室した。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「………すずか……さん」

 

 

あの時……。

 

 

俺は半分起きていたのだが、すずかさんが思い詰めた表情で話し始めたとき、起きてはいけない、そう思って眠ったふりをして話を聞いていた。

 

話を聞いたとき、驚きを隠せなかったのもそうだけど、なにより……。

 

 

「俺のことを……好きになってくれたなんて……な……」

 

 

はっきり言ってとても嬉しかった。

すずかさんみたいに、とても心の優しい女性に好きだと言ってくれたのは……。

だけど、その反面……。

 

 

「……でも、俺が人を好きになっても……良いのか?」

 

 

 

ティア……。

 

かつて俺が未来で愛したたった一人の女性。

 

もし、お前がこの場にいたら、どう思うんだろうな……。

 

 

 

《マスター、今ティアさんのことを思い出してますね……》

 

「分かるか……プリム」

 

《分かりますよ。マスターの今の顔、ティアさんのことを思っているときの顔でしたから……》

 

「そっか……」

 

 

 

やっぱ、プリムには分かってしまうんだな。

顔には出さないようにしていたんだけどな……。

 

 

 

《マスター、きっとティアさんなら、『あんたが幸せになってくれる方が、あたしは嬉しいんだからね』こんな感じで言ってくれると思いますよ》

 

「そう……だな」

 

 

きっとティアならそう言う……。

過去に送り出してくれたときだって、そのことをずっと言ってくれたんだから……。

 

もう一度すずかさんと、ちゃんと話をしよう。

答えを出すのはそれからだ……。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「結局……フィル君とはあれから会っていないな」

 

 

フィル君が倒れて、次の日にはフィル君は仕事に復帰していた。

さすがに訓練はしていなかったけど、それでも事務仕事をしているときは、周りのフォローをしていて相変わらず自分を省みていない。

 

そんな感じで夜になっても全く会うことが出来なかった。

こうやって外を散歩していたら、もしかしたら会えるかもしれない。

そんな僅かな期待をしていたら……。

 

 

「……あれは?」

 

 

ふと海岸の方を見ると、フィル君が砂浜で一人で座っているのを見つけた。

 

 

「フィル君……うん!!」

 

 

昨日は眠っているフィル君に一方的に言っただけだけど、今度はちゃんと伝えよう。

たとえどんな結果になっても……。

 

 

「フィル君!!」

 

「えっ……? す、すずか……さん」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「どうして……ここに?」

 

「こうやって外を歩いていたら、フィル君に会えるかなって思って……ね」

 

「そう……ですか」

 

 

 

まさか、こんなところですずかさんに会うとはな……。

正直、まだ自分の心に完全に向き合えたとは言えないのに……。

 

 

 

「これ……良かったら飲まない?」

 

 

そう言って渡してくれたのは暖かい缶コーヒーだった。

俺はそれを受け取り、すずかさんは俺の隣にすっと座り始めた。

そして俺たちは、それぞれの飲み物を飲んでいる。

 

しばらく俺とすずかさんは無言でいた。

夜の、人気のない海岸。

 

否応なしにも緊張はする。

 

そして……。

 

 

「フィル君……」

 

 

話を切り出したのはすずかさんだった。

 

 

「何ですか?」

 

「ねぇ……昨日の話、もしかして聞いていた?」

 

「……どうして、そう思うんですか?」

 

「昨日も言ったけど、私は人とは少し違うから。だから、フィル君の息づかいが、寝ている物かどうかが何となくだけど……分かるんだ」

 

「そう……ですか」

 

 

あの時、すずかさんには分かっていたんだ。

 

 

「フィル君……あの時も言ったけど、私は……」

 

「私はね……あなたのことが……好き……大好きなんだ」

 

「すずかさん……」

 

 

その言葉を聞いたとき、俺は表情をゆるめるが、すぐに引き締め……。

 

 

「正直……嬉しいです。すずかさんのような女性に好意を向けられることは……でも……」

 

「でも?」

 

「俺には、女性を幸せにする資格は……やっぱり無いんですよ」

 

 

あの日、あれからずっと考えたけど、やっぱり俺は不幸を呼ぶ死神なんだ。

あの時だって、俺がもっとしっかりしてたら、ティアは死ななくてすんだんだ……。

 

 

「……どう……して?」

 

「俺は……」

 

 

そして、すずかさんにすべてを話した。

俺は本来この世界の人間ではないこと……。

 

未来で、大切な人を自分のせいで失ったこと……。

 

過去を取り戻すためにこの世界に戻ってきたこと……。

 

そして……今に至る自分の存在価値を。

 

本来なら、こんな話は一般人のすずかさんにはしてはならないことだ。

だけど、すずかさんが必死な思いで、自分の出生を話してくれたんだ。

 

だから、本気の思いには本気の思いで答えなければいけないと思ったから……。

 

 

「俺のせいで……仲間が……大切な人が……死んでいったから……。だからまた、俺のせいで大切な人が死んでしまうから……。だから……」

 

 

 

その言葉を言い終わる前に……すずかさんが立ち上がって、俺の頭を自分の胸の方へ抱き寄せて……

 

 

「……すず、か…さん?」

 

「……大丈夫。私はフィル君のことを待ってあげるよ。そして、フィル君の帰る場所になってあげる」

 

「っ!?」

 

 

*    *    *

 

 

 

もうこれ以上フィル君の口から、自分をおとしめる言葉は聞きたくなかった。

私も自分には自信がない方だけど、それでもフィル君はそれ以上に自分を傷つけすぎている。

 

きっとフィル君は、ティアナちゃんを失ったことで、恋人を作るのをおそれている。

だから、必要以上のつきあいはしなくなった。

それはなのはちゃん達も例外ではなく……。

 

だけど、そんなのはとても悲しいよ……。

それじゃいつか孤独で押しつぶれちゃうよ……。

 

自分の大好きな人が、これ以上心を傷つけていくのは、もう耐えられないよ……。

 

 

 

「……俺と一緒にいたら、すずかさんにだって、いつか危険な目に遭うかもしれない!!」

 

「……フィル君が守ってくれる」

 

「守りきれないかもしれないんですよ!!」

 

「信じてる」

 

「………簡単に信じないでくれよ……裏切られたらどうするんですか……」

 

 

フィル君がうめくように言う。

私は一度、フィル君を抱きしめる腕を解き、フィル君に笑顔を見せる。

 

自分が出来る最高の笑みを―――――。

 

 

「ねぇ……フィル君。人を信じるっていうのはね、その結果を見返りとして求めるからじゃないんだよ?」

 

「……えっ?」

 

「だから……信じた結果は問題じゃないの」

 

「……」

 

「私はフィル君を信じる。フィル君がその信頼に応えようとする。その、フィル君の信頼に応えようとする意思が大切なんだよ。だから……」

 

 

再びフィル君の頭を抱き寄せて……。

 

 

「私は、フィル君が守ってくれるって、言ってくれれば、信じられるんだよ」

 

「俺は……もう一度、人を……愛して良いんですか……?」

 

「うん……。フィル君が不安だって言うなら、何度でもこうしてあげる。フィル君が安心するまでね」

 

「すずかさん……」

 

 

そして、私はフィル君を解放し、お互い立ち上がり、もう一度向き合う。

 

 

「……すずかさん、俺は、あなたが……好きです」

 

「私も、大好きだよ。フィル君」

 

「俺は……あなたを……守りたい。すべての物から……」

 

「うん……」

 

 

そして、私とフィル君は静かに……。

 

 

星空の空の元……。

 

 

誓いのキスを交わした……。

 

 

 

*    *    *

 

 

翌日

 

 

「失礼します。フィル・グリードです」

 

「ええよ。入りや」

 

「どうしたんや。突然お願い事なんて?」

 

 

 

突然のフィルの訪問に正直私はびっくりしていた。

フィルはこんな形で突然来ることはあまりない。

 

大体が事前にコンタクトをとってから来ることが多い。

だからこそ、フィルのこの行動にびっくりしていた。

 

 

 

「あの……本当に突然ですみませんが、一日で良いので休暇を頂けませんか」

 

「えっ……?」

 

 

う、嘘やろ!?

今まで散々、こちらから休暇通告をしてきても、断り続けてずっと働き続けてきたフィルが!!

 

 

「そ、それはかまわへんけど、一体どうしたんや? 突然こんなことを言い出して?」

 

「あの……それは……」

 

 

フィルが答えるのにどこかとまどいを出している。

普段ならこんなことはないフィルが……。

 

もしかしたら……?

 

 

「フィル……答えにくかったらええんやけど、もしかして、休暇はすずかちゃんのために?」

 

「っ!?」

 

 

一瞬フィルの表情が、はっとした。

私はそれをみてこれで確信した。

 

すずかちゃんは、フィルにすべて告白したんや……。

そしてフィルも、すずかちゃんのすべてを受け入れた……。

 

 

 

「休暇の件はOKや。だけど、一日でええんか?」

 

「はい、さすがにそれ以上は厳しいと思いますから……」

 

 

こ、このワーカーホリック!!

せっかくすずかちゃんと恋人同士になったと言うのに、こんな時に一緒にいなくてどうするんや!!

 

すずかちゃんとフィルは世界が違うから、そう簡単にはあえへんと言うのに!!

ふふふふ……。

 

そんなに仕事が好きというなら……。

 

 

 

「そんじゃ、明日からの仕事を渡しておくわ。これに関しては拒否権は認めへんから……」

 

「はい、わかりました」

 

 

私はパソコンを取り出し、急いで命令書を作成する。

そして、ハンコを押し、正式な文書とし、伝令をする。

 

 

「命令、フィル・グリード二等陸士。貴殿はこの命令書が発行された日時より、一週間月村すずか氏と一緒に行動することを命じます」

 

「えっ!?」

 

 

ふふふ。フィル、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしとるわ。

 

 

「ま、まさか!? はやてさん……知っていたんですか!?」

 

「あんな……普段、休みを取らないフィルが、突然休みをくれなんて言い出すなんて、おかしいと思わないほうが変やで。それに……」

 

「すずかちゃんから、それとなく聞いていたし……。地球でのことは」

 

「えっ?」

 

 

元々、すずかちゃんがこっちに来たいというわけは、私たちに会うためというのもあるけど、出来たらフィルにも会ってお礼を言いたいということも聞いていた。

 

だから、もしかしてフィルのことを少なからず興味を持っているとは思っていた。

それに昨日、フィルが倒れてからのすずかちゃんの悲痛な表情を見ていたら、それはよく分かる。

 

 

「そうだったんですね……」

 

「せやで、だから、せめてすずかちゃんがこっちにいる時だけでも、一緒にいたらんかい!!」

 

「はやてさん……」

 

「そ・れ・に」

 

 

私はわざとにやっとして、フィルの方に詰め寄る。

 

 

「ワーカーホリックのフィルは、こんな風に仕事というカテゴリにせんと、長期で休んでくれへんからな」

 

「……か、勘弁してくださいよ」

 

「ふふっ、冗談や。フィル、すずかちゃんとの時間、大切に使ってや」

 

「……はい、ありがとうございます!!」

 

 

すずかちゃん、フィル。

私が二人にしてあげられるのは、ここまでや。

 

後は二人がしっかりと芽生え始めた愛を育んでや。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「というわけで、今日からすずかさんが帰る日まで、一緒にいることになりました」

 

「……はやてちゃん、完全に気づいてたんだね」

 

「ですね……。でなければこんな命令はしませんから」

 

「だね。でも、はやてちゃんには感謝かな。私が地球に帰る日まで、ずっとフィル君と一緒にいられるんだから♪」

 

「ですね……」

 

 

 

本当にはやてさんには感謝してもしきれない。

こうしてすずかさんと一緒にいられる時間を作ってくれたんだから……。

 

 

「フィル君、こうしていても時間がもったいないよ。あと、一週間しかないんだからね」

 

「ですね。それじゃ、クラナガンに出て、町を案内しますね」

 

「うん!! 初めてのデートだね。楽しみ♪」

 

 

そうだよな……。

時間は限られてるんだ。色々考えるのは、移動しながらでも出来るしな。

 

 

こうして俺とすずかさんは、サンダーに乗ってクラナガンに向かうことになった。

サイドカーがないので、すずかさんには後ろに乗って貰ったんだけど……。

 

 

「あの……、そんなに密着しなくても……。その……」

 

 

さっきからすずかさんの豊かな胸の感触が、俺の背中にずっと伝わってくる。

俺も一応まがりなりにも、健全な一般男子なわけで……。

 

 

「分かってるよ。ワザとしてるんだもん。いっぱい感じてほしいからね♪」

 

 

わざとだったんかい!!

全く、すずかさんはこんな風に、俺をちょっとだけ困らせるのが好きみたいだ。

本気で困らせるわけではないけど、普段見られない一面を見ることが出来るからということらしい。

 

 

「勘弁してくださいよ……」

 

「じゃ、その他人行儀な言葉使いを直してくれたら、やめてあげる」

 

「えっ?」

 

「だって……。恋人同士になったのに、そんな風に壁を作った話し方なんて」

 

「あっ……」

 

 

そう言えば、元々年上の人にはこんな感じで話していたから違和感がなかったけど……。

 

 

「だから、私にはティアナちゃん達と話しているように、壁……作らないでほしいな」

 

「すずかさん……」

 

「わかった……。これでいい? すずかさん」

 

「ダメだよ。あと、さん付けも無しだからね」

 

「そ、それは……」

 

 

 

俺が返事にためらっていると、すずかさんがにっこりと……。

 

 

「い・い・よ・ね」

 

「あ、ああ……」

 

 

いまのすずかさん、いやすずかに逆らうことはしてはいけないと、俺の第六感がずっと言っている。

 

 

「……す、すずか。これでいいか?」

 

「うん♪」

 

 

そう言って、すずかはさらに密着してきて……。

 

 

「ちょ、ちょっと待て!? さらに密着してきてるぞ!!」

 

「そうだよ。これは恋人同士のスキンシップだもん。当たり前のことだよ」

 

「待て!! 言葉遣いを直したらやめるって言っただろうが!!」

 

「なんのことかな~♪」

 

 

謀られた!!

最初から、すずかはやめる気なんて無かったんだ。

 

 

「ったく……。でも、まっ、いいか」

 

 

自分の大切な人がこんなに笑顔でいてくれるんだ。

それに、俺自身も温かい気持ちになるからな……。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「わぁ……。この指輪きれいだね」

 

「だな……」

 

 

私とフィル君は、クラナガンについて、真っ先に向かったのはジュエリーショップだった。

実は、恋人が出来たらペアリングをつけたいとずっと思っていた。

 

そこで、せっかくクラナガンに行く機会が出来たから、ジュエリーショップに行こうとお願いしたのだ。

 

 

 

「これ、小さいけど、真ん中に紫の宝石が付いてるんだな。すずかの髪の色と同じだ……」

 

「うん。これサファイアだね。でも、無理しなくて良いよ。こんな高いやつでなくても……」

 

 

正直これは魅力的だけど、天然サファイアだけにお値段も相当高い。

 

 

「大丈夫。色んな任務をやってるから、危険手当は結構あるんだ」

 

「でも……」

 

「少しは見栄はらせて。毎回買う物じゃないんだから、ちゃんとした記念品を渡してあげたいんだ」

 

「フィル君……。ありがとう!!」

 

 

結局フィル君は、そのペアリングを購入してくれて、私に手渡そうとしてくれたんだけど……。

 

 

「兄さん、せっかく恋人が一緒にいるんだから、指輪……つけてあげたらどうだい」

 

「「えっ……?」」

 

 

 

店員のお兄さんが、指輪を交換したらどうだと勧めてくれ……。

 

 

「兄さん、女の子は、こういったことがすごく喜ぶんだから、やってあげな」

 

「……そう……なのか?」

 

「うん……。そうしてくれたら、すごく嬉しいな」

 

 

フィル君は最初恥ずかしがっていたけど、して欲しいというと……。

 

 

「じ、じゃ……」

 

 

フィル君は女性用の指輪を、店員さんから受け取り、私の右手をとり、その指輪を薬指にそっとはめてくれた。

 

 

「……ありがとう。大切にするね」

 

 

そして私も、同じように男性用の指輪を店員さんから受け取り、同じくフィル君の右薬指にはめた。

 

 

「な、なんか……照れるな」

 

「私もだよ……。でも、それ以上に嬉しいよ」

 

 

 

周りが私たちの事を見ていて、『熱いね』とか『お幸せにね』とか様々な声が飛んできた。

ハッと気づいたときは既に遅く、いつの間にか相当の人が私たちの周りにいた。

 

二人とも顔が真っ赤になっていたけど、それでもとっても良い思い出になったかな。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「やれやれ……。色んな事があったな」

 

「そうだね。でも、私は楽しかったよ♪」

 

 

 

夜になり、俺たちはクラナガンのホテルの一角に来ていた。

昼間、ずっと街で遊びまくっていたから、早めに戻ろうって言ったんだけど……。

 

すずかが、『フィル君、今日は六課に戻りたくないな』と俺に言ってきた。

その言葉の意味が分からないほど、俺も馬鹿ではないから……。

 

 

 

「本当に……楽しかったよ。今日は……」

 

「ああ……。俺もだ」

 

 

さっき俺たちはベッドサイドに座って、すずかも俺の肩に、自分の頭をコトンと

乗せ、俺に甘えてきていた。

 

俺もすずかの長い紫の髪の毛に触れ、その感触を楽しんでいた。

 

髪の毛に触れると、すずかも目を細めて、さらに甘えてくる。

 

 

 

 

「こんな風にいられるのは……あとわずかなんだよね」

 

「ああ……」

 

 

 

そう……。

 

すずかは地球の人、俺はミッドの人間。

だから、こうしていられるのはあと僅かしかない。

 

 

 

「フィル君……」

 

 

 

すると、すずかが……。

 

 

 

 

「お願い……離れていても、心が一つだって思えるように……いっぱい……いっぱい、抱いて」

 

「もう……止まれないからな」

 

「そんなことしないよ。だって、フィル君のこと……愛してるから……」

 

「すずか……」

 

「うん……」

 

 

気がつけば俺たちは、キスをしていて、最初はただ唇が触れる程度の物だった。

 

だけど、すぐに物足りなくなり、舌を絡め合うキスになり、息継ぎを何度も繰り返し、満足したときはお互いの間に銀色の証ができあがっていた。

 

 

 

「フィル……くん……私……その……」

 

「すずか……」

 

 

 

すずかが頬を赤らめ、恥じらっている。

そんなすずかがとてもいとおしくなり、そして同時にもっとすずかを味わいたい。

 

そう思った俺は、すずかの上着、そしてブラをはぎ取っていた。

 

 

 

 

「………恥ずかしいよ」

 

「綺麗だよ……すずか」

 

「あり……がとう。フィル君にそう言って貰うと……嬉しい……」

 

「すずか……」

 

「あっ……んんんっ……そこ……いい……」

 

 

 

すずかの喘ぎ声は、俺の理性を溶かすのに十分すぎるぐらいの起爆剤だった。

こうして自分の好きな人が、俺の手で気持ちよくなってくれる。

 

 

それだけで俺は嬉しかったから……。

 

 

 

「ねぇ……。もう、いいよ。一つに……なろう」

 

「本当に良いのか? 今ならまだ……」

 

「フィル君、それは覚悟を決めた女の子に失礼だよ。だから……」

 

 

 

すると、すずかが俺にキスをしてくる。

 

 

 

「いっぱい……いっぱい、フィル君を感じさせてね」

 

「そう……だな。今のは失礼だったな。じゃ……いくよ」

 

「うん……」

 

 

 

 

そして俺とすずかは、一つなり……。

 

 

それは、身体だけでなく、心も気持ちよくなり……。

 

 

その行為は、幾度となく繰り返され……。

 

 

俺とすずかは、離れても心がつながっていると感じられるように……。

 

 

深く……深く……。

 

 

お互いの存在を求め合った……。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「ここで……いいのか?」

 

「うん、地球まで送ってもらったら、その後が辛くなっちゃうから……」

 

「そっか……」

 

 

 

 

すずかが帰る今日、俺は六課隊舎前ですずかを送り出すこととなった。

最初は俺がワープで地球まで送ろうかと思ったんだけど、すずかが、それだとかえって辛くなるからと言うことで、ここで別れることになった。

 

 

 

 

「フィル……君。かならず……必ず、私そっちに行くから!! それまで、無茶しちゃ駄目だからね!!」

 

「ああ、待ってる。俺も必ず、すずかを迎えに行くから……」

 

 

 

六課解散後、俺はフェイトさんの元で執務官になるべく補佐官をすることになっている。

執務官資格をとりさえすれば、レジアスの親父さんのコネになってしまうが、すずかの通行許可書も発行してくれることになっている。

 

執務官がその責任者になることが条件なので、俺自身がとらなければならない。

 

フェイトさんが、代わりになってくれると言ってくれたけど、これは俺たちの問題なので、そこまでお世話になるわけにはいかない。

 

 

 

 

「フィル君、私もこっちで一生懸命頑張って、フィル君を支えられるようになるからね」

 

「すずか……」

 

 

 

本当は、泣きたいはずなのに、彼女は涙をこらえて笑って別れようとしてくれてる。

俺も本当は泣きたいけど、だけど、それをしたら彼女の気持ちを無にしてしまうから……。

 

 

 

「じゃぁな……。すずか」

 

「うん……また、会おうね。フィル君」

 

 

 

これは永遠の別れじゃない……。

 

 

これは、俺たちが成長するための必要な別れ……。

 

 

だから、前を向いて進んでいこう……。

 

 

二人の未来が一つになると信じて……。

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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