魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

62 / 81
今回の話は、アリサとの物語になります。
一味違ったifの物語をお楽しみいただけたら幸いです。


if ending アリサ

JS事件も無事解決し、六課メンバーは特に変わったこともなく穏やかな日々を過ごしていた。

しかし、その平穏も一つの通信で崩されることになる……。

 

 

 

 

『……というわけで、本当に申し訳ないんだけど、誰か一人こっちに来て、護衛をお願いしたいの!!』

 

「せやかてアリサちゃん。知っとるやろ、管理外世界には事情がない限り手出しは出来ないことは……」

 

『その事は充分に分かってるわ。だけど、正直言ってあたしの所のSPだけじゃ心持たないのよ』

 

 

 

実は、アリサちゃんからの通信は、とんでもない内容だった。

 

近々、アリサちゃんの会社で大々的なパーティがあるんだけど、その護衛をするSPのリーダーの鮫島さんが大怪我を負ってしまい、その穴を埋めるために、六課メンバーから一人貸して欲しいとのことだった。

 

 

 

「力を貸して上げたいのは山々なんやけど……六課メンバーは管理局の職員や。下手に個人に手を貸したりしたら……」

 

『……そうよね』

 

 

その後も、私とアリサちゃんは、良いアイディアが浮かばず途方に暮れていた。

そう思っていた矢先……。

 

 

「それでしたら、休暇中と言うことにして、その間にそちらの世界に行けば……」

 

「フィル、あんたいつの間に!?」

 

 

 

アリサちゃんと話していた為、フィルが部隊長室に入ってきたことに気づかなかった。

どうやらリインが部屋に通したようだ。

 

 

 

「済みません。話の腰を折ってしまって……。ですが、それでしたら、俺で良かったら力を貸しましょうか?」

 

『あれ、あんたは見ない顔ね。こないだの時も来ていなかったみたいだけど?』

 

 

 

アリサちゃんが、フィルを見て不思議そうな顔をしている。

そう言えば、フィルはこないだの海鳴任務には参加していなかったんや。

 

 

 

「あっ、そうでした。初めまして、自分は機動六課ライトニングスター所属、フィル・グリードです」

 

『あたしはアリサ・バニングス。はやて達とは10年来のつきあいをしてるわ。あんた以外のメンバーはこないだの時にあってるのよね』

 

「ああ……海鳴での任務の時ですね。そっか……あの時は……」

 

「あの時はユーノ君のことで、大変やったもんな、フィルは……」

 

 

 

フィルがあの時海鳴への任務に参加しなかったのは、ユーノ君を助けるためやった。

後からそれを聞いたときは、ほんまにびっくりしたんやで……。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!! そのことは……」

 

「大丈夫や。アリサちゃんはこの事を知ってるよ。大体のことは話してあるんや……」

 

『はやてからは大体のことは聞いてるわ。そっか……あんたがフィル・グリードか……。へぇ、良い面構えしてるわね』

 

「ど、どうも……」

 

 

 

フィルはアリサちゃんの言葉にとまどいを隠せなかったみたいだ。

アリサちゃんって、はっきりと物言いするしな。

 

ティアナとはまた違うタイプやし。

 

 

 

『照れるなんて、可愛いところあるのね』

 

「ちょ、ちょっと……からかわないでください。バニングスさん」

 

『アリサで良いわ。あたしもあんたのことはフィルって呼ぶから』

 

「俺はかまいませんが、でも、見ず知らずの女性に……」

 

 

 

フィルは、アリサちゃんのペースにすっかりはまっているみたいだ。

元々フィルは、年上の女性に弱い傾向あるし……。

 

 

 

『見ず知らずじゃないわ。はやてからあんたのことは聞いていたし、それに、こうやって知り合いになったんだから、遠慮する必要は無いわ』

 

「は、はい……」

 

『うん……。で、さっきの話に戻るけど、あんた何か策がありそうね……』

 

 

アリサちゃんはさっきとは違って、真剣な表情に戻っている。

 

 

「これは、裏技になってしまうんですけど……」

 

「裏技って、何を考えてるんや?」

 

「はい、休み中の行動は基本的にフリーなわけですので、それを利用しようと思います……」

 

「せやけど……。ポーターを使うには許可がいるんやで。いくら何でも……」

 

「ポーターは使いませんよ……」

 

「『えっ……?』」

 

 

ポーター無しでどうやって地球へ行くつもりなんや。

そんなこと、どうやっても不可能なはず……。

 

 

 

「簡単な話です……。俺のワープで……地球に行くんです」

 

「そっか!! フィルのワープなら距離は関係ない。相手の魔力、もしくは気配を知っていればその場に行くのは可能や!!」

 

「さすがに超長距離になりますから、かなり魔力を使いますけど、それでも行くことは可能です。アリサさんの生体パターンは、プリムにインプットしましたから」

 

「あ、あんた……本当に何でもありやな」

 

 

 

もう、呆れるしかなかった。

次元跳躍まで可能って……。

 

とんでもないで、ほんまに……。

 

 

 

『話は分かったわ。だけど、そいつで大丈夫なの?』

 

「その心配はないで。フィルは誰よりも強いで、なのはちゃんともガチで戦えるほどや」

 

「はやてさん、それは誇張しすぎです!!」

 

『ふうん……はやてがそこまで推薦するのなら大丈夫そうね。じゃ、悪いけどパーティの前日に来て貰って良いかしら。一応テストしたいから』

 

 

アリサちゃんも、納得してくれたようで、フィルと話を始めている。

 

 

「……わかりました。よろしくお願いします」

 

「休暇の申請は心配いらへんで。その日を含めて一週間あたえたる。と言うより、やっとフィルの有給休暇を消化できるわ。散々オーリス三佐から言われていて、頭を抱えていたんや……」

 

 

これで、これで……査察部からも、オーリス三佐からも叩かれないで済むわ!!

 

 

『「あ、あははは……」』

 

 

 

そんなこんなで、アリサちゃんの護衛をフィルが担当することになった。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「それじゃ、行ってきますね」

 

 

 

パーティ前日、俺はいよいよ地球へ向けて旅立つことになった。

本当は夜に来て欲しいとのことだったけど、長距離のワープはかなり魔力と体力を使ってしまう。

 

だから、早めに出て向こうで休息を取りたかったので、朝早く出ることにしたのだ。

 

 

 

「フィル、気をつけてね。アリサとすずかによろしくね」

 

「もし、向こうでお母さん達にあったら、よろしく言っておいてね」

 

「フィル、アリサちゃんには昨日のうちに伝えてあるから、ワープしても、どっきりするタイミングにはならへんで」

 

「助かります。ワープアウトしたら、お風呂中だったなんて洒落にもなりませんから……」

 

 

 

このワープの欠点は、場所ではなく相手の気配をたどって行くため、どんな状況か把握できない。

だから、昨日のうちに、はやてさんに出発する時刻を伝えて、そう言ったトラブルを避けて貰ったのだ。

 

 

 

「確かにそんなことになったら、アリサちゃん、フィルのことをボコボコにしそうやな……」

 

「確実になりますよ。こないだ少し話しただけですけど、気の強い方だと言うことは分かりましたから……」

 

「ふふっ、それアリサが聞いたら、どうなるかなぁ~」

 

「フェイトさん、勘弁してくださいよ……」

 

 

間違いなく俺は、その場でフルボッコ状態になるな。

想像しただけでも恐ろしい……。

 

 

「「「あははは!!」」」

 

「それじゃ……本当に行ってきますね。ティア達のことお願いしますね」

 

「大丈夫だよ。あたしからティアナ達には言っておいてあげるから」

 

 

 

実は、今日のことはティア達には話していない。

話したら、絶対ティアはついてくるって言うと思う。

 

心配してくれるのは嬉しいけど、ティアまで離れるわけにはいかないからな。

 

 

 

「じゃ、サポート頼むな、プリム」

 

《大丈夫ですよ。マスターは術のことだけを考えてください。細かいことは私がしますから》

 

「すまないな……」

 

 

こうして、俺は地球に向けて旅立った。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「さてと……そろそろのはずよね」

 

 

 

朝8時、昨日はやてから連絡があり、この時刻にあいつがやってくるからよろしくと言っていたけど……。

確かに、いきなり現れて、身支度中でしたなんて言うことになったら、どっちも気まずくなってしまう。

 

しかも、はやての話で聞く限りでは、かなり生真面目だから冗談はあまり通じないみたいだしね。

そんなことを考えていたら、あたしの目の前で木の葉が揺れ、人影が現れた。

 

 

 

「すみません。遅れまして……」

 

「大丈夫よ。きっちり10分前だから」

 

 

 

本当にこの青年は真面目なんだ。

この辺はうちのスタッフも見習って欲しい所ね。

 

 

 

「それでは、アリサさん、早速で済みませんが、先日言っていたテストを……」

 

「そんなに慌てないの。テストは昼に行うから、今は身体をゆっくり休めて。あんた魔力をかなり使って万全じゃないでしょう」

 

「それは……」

 

「だから、今はきっちり休んで、あんたの本当の実力を見せて貰うからね!!」

 

「……確かにおっしゃる通りですね。分かりました。それではその時に」

 

 

 

――――ふうん。

 

 

はやてが言っていたように、フィルって本当に真面目なんだ。

はやてだけじゃない。なのはもフェイトも本当に高い評価をしている。

 

なんか、お昼のテストが本当に楽しみね。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「はああああ!!」

 

「うああああ!!」

 

 

 

あたしは信じられない光景を見ている。

テストで、フィルの格闘能力を見ているのだけど、鮫島以外のSPが次々と投げ飛ばされているではないか。

 

テストに用意したのは最初は5人だったんだけど、それでも全然相手にならず、結局選りすぐりのメンバー30人を集め、模擬戦をしているんだけど……。

 

 

 

「な、なんなの……フィルって魔導師よね。確か格闘に関しては、そんなに得意ではないはず……」

 

 

 

なのは達のことを知っているから、魔導師のことも多少は知っている。

魔導師は魔法に頼りがちだから、格闘能力はあまり高くない。

 

だけど、今あたしの目の前で繰り広げられている光景は、そんな常識を覆していた。

 

 

 

「ラスト!!」

 

「ぐああああ!!」

 

 

 

最後の一人も、フィルに投げ飛ばされてしまい、模擬戦は終了となった。

 

 

 

「ふぅ………」

 

《マスター……良いのですか。この技術は……》

 

「わかっているさ……。だけど、ここでは魔法は使えないんだ。昔の……人を確実に倒すための格闘技術だけど、これしか戦う手段はないから……」

 

《そう……ですね》

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「アリサお嬢様、どうやら彼がいれば、私の分は充分果たしてくれますよ」

 

「ええ……はやてもとんだペテン師ね。この事を隠していたんですものね」

 

「はい、彼は戦い慣れていますね。動きに無駄が全くありません。まるで……」

 

「えっ……?」

 

 

鮫島が腕を組み、何か考えているが……。

 

 

「いや、余計な検索はしないでおきましょう……」

 

 

 

鮫島はそう言って、部屋を出て行ってしまった。

いったいどういう意味なんだろう……?

 

気にはなるけど、今はフィルを出迎えて上げないとね。

 

 

 

「お疲れ様、フィル、あんた、どこがそこそこなのよ!! うちのSP全滅させて!!」

 

「本当だぜ。これじゃ俺たちの立場はないぞ……」

 

 

 

SPの副隊長がフィルに向かって、愚痴をつぶやいている。

確かにあれだけ完膚無きまで叩きのめされたらね……。

 

 

 

「あれは、偶々うまくいっただだけですよ。俺のやり方を知っていたら、ああうまくはまりませんよ」

 

「そう何度も投げられたら、こっちのおまんまが食いっぱぐれてしまうよ。でも、鮫島さんが怪我をしてしまって、一時はどうなるかと思ったけど、これで対策は万全だな」

 

「みなさん、俺は明日一日限りですが、みなさんの足手まといにならないように頑張りますので、よろしくお願いします!!」

 

 

 

そう言ってフィルは深々と頭を下げる。

 

 

 

「こちらこそよろしくな。フィル」

 

 

 

副隊長も右手を差し出して、フィルもその手を取りがっちりと握手をする。

 

 

 

「さてと、明日は忙しくなるぞ。フィル、早速で悪いが作戦会議に参加してくれ」

 

「了解です。よろしくお願いします」

 

「さあ、みんなも隊舎に戻って作戦会議始めるぞ!!」

 

『はい!!』

 

 

 

フィル達は明日の対策を考えるために、部屋を出て行ってしまった。

 

 

 

「さてと、あたしもしっかりしないとね」

 

 

 

明日一日限りのフィルがあそこまで頑張ってくれるんだ。

当事者のあたしがしっかりしないでどうするのよ!!

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

 

「さてと……これで見回りは終わりだな」

 

 

 

しんと静まった夜、俺は明日の警備に当たって、屋敷の周りをチェックしている。

地形をきちんと把握しておかないと、何かあったときに対応が出来ない。

 

 

 

「フィル殿」

 

「あっ、鮫島さん、こんばんは。怪我のほうは大丈夫なのですか?」

 

「ええ、戦闘はできませんが、執事の仕事は何とか出来ますので……」

 

 

 

いつの間にここに来たんだろう?

さっきまで全く気配は感じなかったのに……。

 

 

 

「少し、お話したいのですが、よろしいですか?」

 

「え、ええ……かまいませんよ」

 

「それでは、こちらの方へ」

 

 

 

そう言って鮫島さんに案内されたのは、一つの客間だった。

普段はこの客間は使わないそうで、バニングス家の人も殆どここには来ないそうだ。

 

俺は鮫島さんに座るように言われ、ソファーに座る。

やっぱりお金持ちはすごいな。

 

このソファーも全然質が違うし……。

 

 

 

「どうぞ、温かい飲み物でも……」

 

「あっ、すみません」

 

 

 

鮫島さんが出してくれたのは、コーヒーだった。

しかも、インスタントではなく、ちゃんと豆から出している。

 

香りが全く違う。

さすがバニングス家の筆頭執事でもあるな。

 

 

 

「さて、お聞きしたいことがあるのですが……」

 

 

鮫島さんは、表情を引き締めると……。

 

 

「あなたは……何者なんですか?」

 

「!!」

 

「何者と……おっしゃいますと?」

 

「今日のあなたの戦い方を拝見して思ったのです。あれは、明らかに戦い慣れているやり方です。とてもではありませんが、あなたの年齢で身につけられる戦い方ではありません……」

 

 

 

まさか、戦い方だけでそこまで見破られるなんて……。

 

 

 

「……六課内での訓練で身についたと言っても……駄目でしょうね」

 

「ええ、あの動きはそんな訓練で身につけられるような物ではありません。実戦の中で自然と身についたとしか考えられませんから……」

 

「……」

 

 

これ以上隠し通しておくのは無理か……。

 

 

「……それでは……お話しいたします。ですけど、これから話すことは、鮫島さんの胸の中に仕舞っておいてください」

 

「分かりました。それはお約束いたします」

 

「実は……」

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「うーん……どうにも眠れないわね」

 

 

 

明日のことが気になって、ベッドに入っても中々眠れない。

少し散歩でもして、気を紛らわせようとしていたとき、いつも使っていない応接室から明かりが見えている。

 

 

なんか、それが気になり、あたしは応接室へ行くことにした。

 

 

 

「あれ、少し扉が開いているわね?」

 

 

 

応接室の扉が開いていて、そこから中の様子を見てみると、そこには鮫島とフィルが何か話している。

気になり、そっと話の内容を聞いていると……。

 

 

 

『俺は……かつて全てを失いました。友人、仲間、大切な人……。それこそ全てを……』

 

『全て……ですか?』

 

『はい……本当に全部です。生きていることが嫌になるくらいの地獄でしたよ……』

 

 

えっ……?

 

そんなの、はやてもフェイトも、なのはも一言も言っていなかった。

 

 

 

『でも、おかしな事がありますね。それだけの地獄でしたら、今のあなたが住んでいる世界は完全に崩壊していると言うことですよ』

 

 

 

――――そうよ。

フィルの話が正しいのなら、ミッドチルダは完全に崩壊している。

 

 

 

『……荒唐無稽なことを言いますが、俺は今から3年後の未来から来た人間なんです。本来は、ミッドも……その他の次元世界も、ある次元犯罪者に滅ぼされているんです……』

 

『ということは……。その3年間であなたは……』

 

『はい、それこそ生き抜くために足掻きまくりました。その甲斐があり、何とか次元犯罪者は倒せたんですけど……』

 

『貴方の身にも何らかの事があり、この世界に来たと言うことですか?』

 

『……正解です。詳しくは言えませんが、奇跡が起き、俺はもう一度やり直せました。そして……今に至ります』

 

『……』

 

 

 

フィルは話が終わると、本当に悲痛な表情をしていた。

その顔は嘘を言っているとは思えない。

 

 

それに、フィルのあの悲しい瞳……。

 

 

あれは、本当に色んな悲しみを乗り越えてきた人の目だ。

あたしも色んな人と接しているから、なんとかそれが分かる。

 

 

フィルの瞳は、そんな悲しい色をしている……。

 

 

 

『……なんか、つまらない話をしてしまいましたね。それでは、失礼します……』

 

「!!」

 

 

 

まずい!! 

扉が開いて、フィルがこっちにやってくるわ。

 

偶然を装わなくちゃ……。

 

 

ガチャ

 

 

 

「あれ? アリサさん、どうしたんですか?」

 

「な、何でもない!! 少し眠れなかっただけよ!!」

 

 

 

気付かれてはいけない。

さっきのフィルの話を聞いていたことは……。

 

 

 

「そうですか……」

 

 

フィルはどこか納得いかない表情をしているけど、気付かれてはいないわよね。

 

 

「す、少し散歩をしたら、眠くなってきたわね!! おやすみ!!」

 

「お休みなさい。アリサさん」

 

 

あたしは逃げるように、フィルと別れ、そのまま自分の部屋に飛び込んだ。

 

 

「……あいつが……フィルが……あんなつらい過去を……」

 

 

あの時、鮫島との話の内容は驚きを隠せなかった。

言っていることは知らない人が聞いたら、なんて滅茶苦茶なことを言ってるんだろうと思う。

 

だけど、あいつやなのは達がいる世界は非現実なことが多い。

 

 

でも、まさか……。

 

 

未来から来たなんて……。

 

 

だけど、それだったら色んな事に説明が付く。

 

 

何より……。

 

 

――――あいつのあんなに悲しい眼。

 

 

あれは、本当にどん底を経験しなければならない眼よ。

それも、独りよがりの悲しみじゃない。

 

 

本当に大切な物を失わなければ、あれだけの強さも手に入らない。

 

 

 

「……そういえば、はやてが言っていたっけ。フィルは……」

 

 

フィルは、人のために本当に全力を尽くす……。

 

 

そして……。

 

 

最悪の場合、自分の命すら蔑ろにしかねないとも……。

 

 

 

「……そんなの……そんなの悲しすぎるわよ……」

 

 

 

あたしは、そんなフィルに何かして上げられるのだろうか……?

短いつきあいだけど、あいつはそんじょそこらの男なんかより、ずっと魅力がある。

 

悔しいけど、あたしも少しずつ興味を持ち始めている。

 

 

「でも……」

 

 

今は、明日のパーティを無事に終わらせる事よね。

 

あいつのことを考えるのは、それからでも遅くはないわね……。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「フィル!! しっかり、しっかりしてよ!!」

 

 

 

今、あたしは救急車の中で、凶弾に倒れてしまったフィルと一緒にいる。

パーティ終盤、今まで何もなく無事に進行していたのだが、突然、窓ガラスが割れ数人のテロリストが現れ、まっしぐらにあたしの所にやってきて……。

 

 

その時……。

 

 

テロリストの放った一発の凶弾があたしに放たれたが……。

 

 

フィルが咄嗟にあたしを庇って、その胸に銃弾を受けてしまった……。

 

 

フィルの赤い血であたしの服は真っ赤に染まる……。

 

 

 

あたしは何があったのか理解するのに、ずいぶん時間がかかった。

目の前でフィルが胸から血を吹き出しながら倒れ……。

 

 

その身体から体温がどんどん失われ、精気もなくなっていく……。

 

 

 

――――死。

 

 

 

今、あたしの目の前で、フィルが死のうとしている……。

 

 

 

「フィル、お願いだから、生きてよ……。あたしを庇って、死んだりしたら……みんなに何て言ったらいいのよ……」

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

深夜  海鳴総合病院

 

 

 

 

「先生、フィルの容態はどうなんですか!!」

 

「最善は尽くしました……。ただ……」

 

 

 

医師の言葉に、あたしは胸騒ぎが止まらない……。

 

 

 

「……ただ、何なの!?」

 

「弾が心臓のすぐ近くにあったことと、出血量が多く……助かる確立は……正直むずかしいかもしれません……」

 

「そ、そんな……」

 

 

 

そんなの……そんなのって無いわよ!!

どうして、あいつがこんな目に遭わなければならないのよ……。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「フィル……」

 

 

今フィルは集中治療室で、一刻の予断も許さない状態だ。

医師によると、今夜が山だと言う……。

 

あたしはどうしてもフィルの傍にいたくて、無理を言って部屋に入れてもらっている。

 

 

 

「どうしたら……どうしたら、あいつを助けられるのよ……」

 

《アリサさん……》

 

「誰!? あたしを呼ぶのは」

 

 

 

どういう事なの?

今、ここにはあたしとフィルしかいないのに……。

 

 

 

《聞こえるんですか。私の声が!!》

 

「ええ、はっきりと聞こえるわ。あんたの声がね」

 

 

あたしは、フィルのそばに置いてあった、光を放っていたペンダントに手を伸ばす。

 

それは、フィルがいつも大切に持っていたデバイスのプリム。

その声がはっきりと聞こえている。

 

 

 

《信じられない。通常私達デバイスの声は、リンカーコアを持っていなければ、聞こえないのに……でも、これでマスターを助けられるかもしれないです》

 

「どういうこと……話しなさい!!」

 

 

 

フィルはあたしの為にこんな目に遭ってしまったんだ。

あたしはどんなことをしてでも、フィルを助けなければならないの!!

 

 

 

《今、マスターは生命力が殆ど失われています。今はリンカーコアの魔力が何とか命を繋いでいますが、それも長くは持ちません。マスターを助けるには、コアを活性化するしかないんです》

 

「活性化って? どうやってするのよ。あたしはなのは達みたいな魔導師じゃないのよ!!」

 

《今アリサさんは私の声が聞こえてますよね。それはアリサさんの中にリンカーコアがある証拠なんです》

 

「あたしの中に……リンカーコアが?」

 

 

 

――――信じられない。

あたしが、なのは達みたいにリンカーコアがあったなんて……。

 

 

 

《アリサさん自身のコアは魔法を使うほど覚醒はしてませんが、ですが……リンクするには充分な魔力はあります》

 

「いったい……何をしようっていうのよ?」

 

《アリサさん……。マスターと……フィル・グリードと命を共にする覚悟は……ありますか?》

 

「……どういうことよ?」

 

 

 

次の瞬間、プリムから告げられた言葉は、衝撃的な物だった。

 

 

 

《助ける方法はただ一つ……貴女とマスターのコアを……直接リンクして魔力供給して生命力を上げるんです》

 

 

コアのリンク、つまり命を共有するっていうことなのよね。

 

 

「……それで本当にフィルは助かるのね」

 

《少なくても、このまま何もしないよりはマシです……》

 

「……そっか」

 

 

 

あの時……。

 

 

フィルがあたしを庇って倒れたとき、どうしようもない悲しみで一杯になった。

 

 

フィルが死んでしまう―――。

 

 

 

そう思ったら、今も涙がポロポロと抑えきれない。

 

 

 

「プリム……お願い。あたしのコアとフィルのコアと……リンクして」

 

《本当に……良いんですね。それをしたら普通の生活は出来なくなるかもしれませんよ……》

 

 

 

プリムは心配をして、最後通告をしてくれる。

その気持ちは本当に嬉しい――。

 

 

「それこそ今更よ。あの時……フィルが庇ってくれなかったら死んでいたのよ。フィルが……自分の大切な人が死んでしまうってのに……何もしないのは嫌なのよ!!」

 

《アリサさん……あなた、まさか……》

 

 

 

いまやっと分かった……。

 

 

昨日から思っていたもやもや感……。

 

 

フィルのことを考えると、胸が苦しくなる感覚……。

 

 

その答えがやっと分かった……。

 

 

あたしは……。

 

 

フィルのことが大好きなんだ……。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

3日後

 

 

 

「……ここ……は? 痛っ!!」

 

 

突然左胸から激しい痛みが襲う……。

 

 

――――あの時。

 

 

俺はアリサさんを庇って、テロリストの銃弾を胸に受けてしまって……。

何とか上半身を起き上がらせると、ベッドサイドには……。

 

 

 

「……すぅ……すぅ……」

 

「……アリサ……さん」

 

 

そこには疲れ切って眠っていたアリサさんの姿があった。

 

 

「……もしかして、ずっと俺の傍に……?」

 

 

よく見ると、化粧で隠しているけど、目下のクマが少し見えている。

アリサさんは俺が意識を失っている間、ずっと傍にいてくれたんだ……。

 

 

「だけど……正直もう助からないと思ってたんだけどな……」

 

 

 

心臓付近に弾を受け、さらにコアにまで損傷していたから、よほどのことがない限り助からない。

まして地球の医療技術では、魔法医学は精通していないから、コアの修復なんて……。

 

 

 

「ま、まさか……!?」

 

 

考えたくはなかった……。

だけど、この現状じゃ、それ以外に考えられない……。

 

 

 

「アリサさん……あなた……まさか……」

 

 

 

俺とリンカーコアをリンクしたのか。

それ以外に俺が助かった理由が浮かばない……。

 

 

 

「プリム、起きろ!! プリム!!」

 

 

俺はプリムを起動させると、プリムはすぐに反応して……。

 

 

《マスター、良かった……。目を覚ましたんですね》

 

「俺のことは良い。プリム、俺の質問に答えてくれ。お前……まさか、アリサさんと俺を……」

 

《……はい、コアをリンクさせました》

 

 

 

やっぱり、そうだったのか……。

出来れば外れていて欲しかった。

 

魔導師でないアリサさんとコアのリンクをするなんて、あってはならないことだ。

 

 

 

「プリム、分かっているのか。一般人とコアのリンクなんてしたら!!」

 

 

 

魔導師みたいに、コアが大きくない一般人のコアなんて使ったりしたら……。

 

 

 

《分かってます……。最悪の場合、二人とも死に至ります……》

 

「それが分かっているなら、何でしたんだ!!」

 

 

 

――――冗談じゃないぞ。

 

 

これ以上俺に関わった人が死んでいくのなんて後免だ!!

 

 

 

《マスター……。マスターは何も分かってないですよ》

 

「何だと……」

 

《マスター!! 貴方はアリサさんが助かれば、自分はどうなっても良い、そう思って自分の身体を盾にしました……》

 

「……ああ」

 

 

アリサさんは、なのはさん達のかけがえのない親友だ。

その親友を、絶対死なせるわけにはいかなかった。

 

 

《……これは言いたくはなかったんですが、マスター……あなた、まさかティアさんの元に逝きたがってませんか……》

 

「!!」

 

《やっぱり……そうなんですね……》

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

(そんな……)

 

 

あたしは少し前から目を覚ましていたんだけど、プリムとフィルが話をしているのを聞いて、動くに動けなくなってしまった。

 

 

でも、そのおかげで、フィルの本心が聞けるかも知れない……。

 

 

フィルが、何であんなに自分を大切にしないかを……。

 

 

 

「プリム……俺が未来で……ティア達を失ったことは覚えてるな」

 

《ええ……あれは忘れたくても、忘れられませんから……》

 

「俺は……今でも聞こえるんだよ。ティア達の……最後の言葉がな……」

 

 

 

フィルが今にも泣きそうな表情をしながら、淡々と話している。

未来のことは、あの時鮫島との話で聞いていたけど……。

 

 

 

「正直言って……JS事件が終わったとき、俺の役目は終わったと思ってるんだ。みんなも助かったし……な……」

 

《マスター……》

 

 

 

なによ、それ……。

 

 

 

「……だから、俺はいつ、あいつらの元に逝っても良いかなって思っている。だけど、ただ死ぬよりは、せめて、誰かを護って死ねたらなって……そう思うんだ」

 

 

 

ふざけないでよ……。

 

 

 

「こんな俺でも……誰かを護れれば、少しは生きた証にはなるからさ……」

 

《ふ……ふざ……》

 

「ふざけるんじゃないわよ!! このバカ!!」

 

 

 

もう、あたしは我慢の限界だった。

これ以上、フィルから自分をおとしめる言葉を聞きたくはなかった!!

 

 

 

「あ、アリサさん……?」

 

「あんたねぇ……。さっきから黙って聞いていれば、自分を貶めることを言うのもいいかげんにしなさいよ!! あんたが言っている言葉はね、死んでしまった仲間を貶めることを言ってるのと同義なのよ!!」

 

 

 

あたしはフィルの胸元をぐいっと掴み、自分の方へ引きつける。

そして思いっきり怒鳴ってやった。

 

 

 

「死んでしまったって……? まさか、アリサさん、昨日の話を!!」

 

「聞いてたわよ。全部ね……」

 

 

 

もうこれ以上隠しておく意味はない。

それよりも、フィルには言わなくちゃいけないことがある。

 

 

 

「どうして……どうして、そんなに自分を大切にしないのよ。どうしてそんなに死にたがってるのよ!!」

 

「……」

 

「答え……なさいよ、フィル!!」

 

 

 

もう、涙をこらえるのは無理だった。

自分の好きな人が、死にたがってるなんて、あたしには耐えきれない……。

 

 

 

「……好きな……人の元に……逝きたいからかな」

 

「えっ……?」

 

「俺は……未来の世界で、一人の女性が好きでした。だけど……戦いの中で、命をおとしてしまった……」

 

「フィル……」

 

 

 

その好きな人って言うのは、おそらく六課の誰かだと思う。

勘が当たっていれば……。

 

 

――――ティアナ・ランスター。

 

 

彼女のことだと思う……。

 

 

 

「鮫島さんとの話を聞いていたのでしたら、分かると思いますが、最後の戦いの時、俺は大切な人を守れなかった。それどころか……彼女に助けられてしまった……」

 

「彼女は最後に……幸せになってくれって言ってくれたけど……」

 

 

フィルは、フッと悲しい笑みをして……。

 

 

「俺を好きになってくれる人なんて……きっと……いないと思いますから……」

 

 

 

やっと……。

 

やっと分かった……。

 

 

フィルが何でそこまで自分を大切にしないかが……。

 

 

フィルは、大切な人を作るのに怯えてるんだ。

未来で、みんなを失って、また自分のせいで失うんじゃないかって思ってしまっている。

 

だから、こっちの世界でなのは達と一緒にいても、どこか壁を作っていたんだ。

 

 

前の時に、なのは達と一緒に来なかったのが何よりの証拠……。

 

 

フィルは一人で、全部抱え込もうとしてたんだ……。

 

 

 

「……ばか」

 

「アリサさん?」

 

「ばかよ……本当に……こんなになるまで、自分の心を傷つけるなんて……」

 

 

フィルは元々戦うのには向いていない性格だと思う。

本当は、誰よりも優しいのに、未来でみんなを失って……。

 

 

大切な女性を失って……。

 

 

それで、フィルは強くならざるを得なかったんだ……。

 

 

 

 

「……いなくならない」

 

「えっ……?」

 

「あたしは……あんたの傍に……ずっといる。だから……」

 

 

あたしはフィルの頬にそっと触れ……。

 

そして……。

 

 

「………分かる。あたしの温もりが……」

 

 

フィルの頭を自分の左胸に、押し当てた。

 

 

「どうして……どうしてそこまで……思ってくれるんですか?」

 

「……そんなのも分からないの」

 

 

 

フィルの鈍感さ加減に、あたしはふぅっとため息をつき……。

 

 

そして……。

 

 

 

「……好きだからに……決まってるでしょ。ばか……」

 

 

 

あたしは顔を真っ赤になりながら、一世一代の告白をした……。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「……アリサさん」

 

 

 

正直、驚きを隠せなかった……。

アリサさんの行動もそうだが、何より……。

 

 

俺のことを好きになってくれたなんて……。

今の今まで夢にも思わなかった。

 

 

 

「その言葉……すごく嬉しいです。アリサさんみたいな綺麗な人に、そこまで言ってもらうなんて、思いませんでした……。ですが……」

 

 

 

もし、アリサさんを守れなかったら……。

 

 

また目の前で失うことがあったら……。

 

 

俺は……。

 

 

 

「あのね……あたしはね。あんたに守られるだけになるつもりはないわ。あんた達の世界の事も知ってるし、それに……」

 

「今は、あんたとあたしはリンクしてるのよ。プリムから聞いたけど、コアをリンクしてるって事は、お互いにその魔力を……命を共有してるって事でしょう」

 

「……それは」

 

 

 

俺が反論をしようとすると、さらにアリサさんは……。

 

 

 

「フィル、あたしはね、好きでもない人と命の共有なんてする気は更々無いわよ!! あんたを愛してるからこそしたんだからね!!」

 

「アリサさん……」

 

「それでも信じないってのなら……」

 

 

 

すると、アリサさんは俺の頭をぐいっと抱き寄せ……。

 

 

 

「んっ……んんん……」

 

 

 

俺の唇にキスをしてきた……。

 

 

長いような、短いようなキスが終わると、アリサさんは……。

 

 

 

「……これで分かるでしょう」

 

「……充分なくらいに」

 

 

 

これで分からないほどバカじゃない。

アリサさんは本気なんだ……。

 

 

 

「ずっと……ずっと一緒だからね。フィル」

 

「……はい」

 

 

「お願い……あたしのことが好きだって言うなら、ちゃんとアリサって言って……」

 

「あ、アリサ……」

 

「うん♪」

 

 

 

そして……。

 

 

俺とアリサさんは、またキスをする。

 

 

今度はお互いの気持ちを確かめ合うように……。

 

 

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

10日後

 

 

 

「さてと、なのは達の所に行きましょうか!!」

 

 

 

何とか怪我が回復し、動ける状態になったので、俺はアリサと一緒に機動六課に戻ることになった。

怪我は何とかなったのだが、コアの傷は相当深く、リンクした状態でないと命の危険があるのだ。

 

だから、一旦アリサにはミッドに来てもらう必要があった。

 

 

 

「……本当にいいのか? ミッドに行ったら、そう簡単には戻っては……」

 

 

 

この10日間、本当に色々なことがあった。

まず、アリサへの話し方の矯正から始まり、退院した次の日には両親の挨拶に行く羽目になってしまった。

 

鮫島さんから、ある程度のことは聞いていたため、そんなに拗れはしなかったけど……。

 

 

むしろ……。

 

 

 

『いやぁ、これでこのお転婆娘もお淑やかになるだろう!! フィル君、孫を期待してるよ♪』

 

 

おかしいでしょう!! 

こんな訳も分からない馬の骨に、大切な娘を任せるんですよ。

 

もう少し反論してください!!

 

 

 

『フィル君、君は自分を下に見すぎだ。君は充分にアリサを任せられる男性だよ……』

 

 

 

ご両親の真剣な言葉に、俺はこれ以上言うことが出来なかった。

ならば、その期待に少しでも応えられるように頑張るだけだ。

 

 

さらに、アリサが通っていた大学の問題は……。

 

 

 

「ああ、大丈夫よ。どうせ、飛び級で今年の春卒業だったし、論文ももう出してきたし……」

 

 

 

アリサのIQは200オーバーということはなのはさんから聞いていたけど、まさか本当に飛び級で大学を卒業するとは……。

 

 

 

こんな感じで、アリサは俺の知らない間に、どんどん地盤固めをしていて、俺が断れないように外堀から埋めていっていたのだ。

 

 

 

 

「あのね、今更何言ってるのよ。あたしとあんたは今や一心同体でしょう。リンクを解除したら、あんたは死ぬかも知れないんだし……」

 

「それは……そうだが……」

 

「ウジウジいわないの。あたしが良いっていってるんだから!!」

 

「……そうだな。アリサ」

 

「そういうことよ。じゃ、出発するわよ!!」

 

 

 

そう言って、アリサは俺の左腕に自分の腕を絡ませ、自分の胸を押しつけて……。

 

 

 

「あ、あの……アリサ!?」

 

「……このくらいで顔を赤くしてるんじゃないわよ」

 

 

アリサはフフンといった感じで照れている様子もなく……。

 

 

「そ・れ・に……」

 

 

さらにアリサは……。

 

 

「これから……いっぱい……いっぱいあんたに甘えるんだからね♪」

 

 

俺の頬にキスをした……。

 

 

「……い、行くぞ」

 

「照れちゃって、可愛いんだ♪」

 

 

 

ったく……アリサの奴からかいやがって……。

本当にかなわないよ……。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

六課に戻ってきて、いきなりアリサがなのはさん達を集めて、みんなの前で爆弾発言をした。

 

それは……。

 

 

 

「みんな、あたしはフィルと正式に付き合ってるから、誰も手を出すんじゃないわよ!!」

 

 

 

その発言を受け、最初はぽかんとしていた六課メンバーだったが……。

 

 

 

『ええええええええええ!!』

 

 

 

部屋一帯に響き渡る大声で、全員が驚き、その後、俺は尋問状態になってしまう。

色んな事を聞かれたけど、でも、みんな俺たちのことを心から祝福してくれた。

 

 

 

「あの時は参ったぞ……。みんなの前で、あんな爆弾発言するんだからな……」

 

「ふふっ、良いじゃない。あれでフィルは、あたしの彼氏だって紹介できたんだし」

 

「それは……そうだが……」

 

 

 

なのはさん達は普通に祝福してくれたんだけど、アルトさんとシャーリーさんがゴシップ好きだから、本当に聞いて欲しくないことまで聞いてきたんだぞ……。

 

 

「アルトとシャーリーは、あたしからもきつく言ったから、あれ以上はないわよ。そんなに心配しないの!!」

 

「ありがとう……アリサ」

 

「何度も言わさないの。今はそんなことよりも……」

 

 

そう言ってアリサは、俺の肩に自分の頭をコトンと預けてくる……。

 

 

「だな……」

 

 

 

そして俺は、アリサの綺麗な金髪をそっと指で梳く。

アリサは、自分が嫌いな人に髪を触れられるのはとても嫌う。

 

俺とアリサはまだ短いつきあいだけど、その事はよく分かるようになった。

 

だけど、俺がこうするとアリサは眼を細めて、とても甘えてくる。

普段のアリサからは見られない仕草だ。

 

 

 

「ねぇ……あんたも、もう身体回復したでしょう?」

 

「おかげさまでな……」

 

「だったら……その……」

 

 

アリサは顔を真っ赤にしながら、指をツンツンしている。

 

 

「えっ……?」

 

「……察しなさいよ……ばか」

 

 

そう言ってアリサはぷいっと反対に向いてしまった。

 

 

「……ごめんな。俺、本当にそう言ったことに疎いから……」

 

 

俺が必死で謝ると、アリサはこっちを向いてくれて……。

 

 

「そんなの分かってるわよ。あんたの鈍感はね……。だから……」

 

 

 

いきなりアリサは俺の唇を奪う。

 

最初は唇が触れあう程度だったけど、しだいにそれだけでは物足りなくなり、舌と舌を絡め合い、何度も息継ぎを繰り返し、満足したときには互いの間に銀の糸が出来るほどだった。

 

 

 

「いっぱい……いっぱい分からせてあげる。あたしがどれだけ、フィルのことを愛してるかをね」

 

「アリサ……」

 

 

 

アリサは頬を赤く染めながら、必死で俺をリードしてくれる。

そんなアリサがとても愛おしく、俺はアリサの上着を脱がし、ブラもとり、その形の良い胸を何度も蹂躙する。

 

 

 

「あっ……んんんん……フィル……フィルぅぅぅ……」

 

 

 

アリサの喘ぎ声は俺の理性をどんどん崩していく。

好きな人が、自分の手で気持ちよくなってくれている。

 

それは最高の喜びだ。

 

そして、互いに理性は崩れ、お互いの身体を求め合っていき……。

 

 

 

「フィル……あたし……初めてだから……その……優しくしなさいね」

 

「ああ……大切にする」

 

「ありがとう……フィル」

 

 

 

アリサは安心し、ニコッと微笑む。

それは普段のアリサとまた違った魅力ある笑顔だった。

 

 

 

「じゃ……いくよ」

 

「うん……来て……フィル」

 

 

 

 

 

俺はアリサの身体に溺れ……。

 

 

アリサもまたその快楽に身を委ねていた……。

 

 

 

そして……。

 

 

そのみだらな行為は何度も繰り返され……。

 

 

それは朝まで途絶えることはなかった……。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

3年後

 

 

 

 

「ふぅ……。ようやく一段落ついたよ」

 

「はい、お疲れ様。コーヒーで良いわよね」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

3年前のあのとき、辛うじて命を取り留めたけど、今までの無茶もたたり、フィルは、もう二度と戦うことができなくなってしまった。

 

 

だけど、あたしはなのは達には悪いけど、これでよかったと思う。

もともと、フィルは戦い続けるには優しすぎる。

 

 

未来で、大切な人たちを失い、それでも自分の心と身体を傷つけながら必死に戦い続けてきた。

こっちに戻ってきてからも、何度も命を失うような怪我をし続けていた。

 

 

 

―――――あたしをかばった……あのときのように。

 

 

 

「……それにしても、まさか俺が起業家になるとはな」

 

「あたしは最初から向いてると思ったわよ。戦いよりもずっと……ね」

 

 

 

そう、あたし達は、機動六課解散後、ミッドで医療機器を専門とする会社を興し、難病に苦しむ人たちの助けをしていた。

 

フィルが未来で作ったメディカルポッドを怪我だけでなく、肺炎や結核、そして癌といった病気にも対応するように改良しなおし、一般社会に普及させたのだ。

 

そのおかげで、医療費が高くて払うことができなかった人たちも助けることができるようになり、ミッドの医療分野は飛躍的に進歩したのよ。

 

 

 

「……かもな、だけど、それは、こうして俺のことを支えてくれるアリサがいてくれたからさ。一人じゃ……何も出来なかったよ」

 

「なに当たり前のこと言ってるのよ。あたし達は命もつながってるパートナーなのよ。これからも……ずっと、ね」

 

 

 

あたしは後ろから、ぎゅっとフィルのことを抱きしめる。

 

 

 

「あ、あの、その……なんだ。アリサ、胸が、だな……」

 

「なぁに~♪」

 

 

 

フィルが言いたいことはわかってる。

背中にあたしの胸が当たってるって言いたいんでしょう。

 

フェイトみたいに、大きくないけど、あたしだってそれなりにあるし、胸の形は負けてないわよ!!

 

 

 

「……お前、分かっててやってるだろ」

 

「さあ、ね~」

 

「……勘弁してくれよな、ったく。」

 

 

 

こんなこと言ってるけど、本当に嫌な訳じゃなく、ただ照れてるだけだってのは顔を見れば分かる。

だって、思いっきり赤くなってるし。

 

 

 

「まったく、素直じゃないわね。でも、そんなあんたもあたしは大好きだからね♪」

 

 

 

 

今までずっと一人で戦い続けてきたフィル。

 

 

 

―――――あいつは、ずっと、自分は、不幸を呼ぶ存在と思い続けてきた。

 

 

 

でも、そんなことないんだからね!!

 

 

 

幸せになっちゃいけない人なんていないんだから……。

 

 

 

それでも、まだそんなバカなこと考えるのなら……。

 

 

 

あたしがずっとそばにいて、いっぱい幸せにしてやるんだから!!

 

 

 

だから、二人で幸せになろうね。

 

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。