魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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Memory;15 インターミドル

21:37 フィルの寝室にて

 

 

 

「あいたた……。やっぱり頭が痛い」

 

「あたりまえだよ。マキシマムの情報処理を全部一人でやってたんだから……」

 

 

模擬戦が終わった後、俺はプリムのメンテナンスのためみんなより早く抜けさせてもらった。

あと、先に抜けさせてもらったもう一つの理由は、俺の身体の不調だ。

 

久しぶりの実戦と言うこともあったけど、マキシマムの情報処理で頭がオーバーロード状態になってしまったのだ。

 

 

「本来はプリムと役割を分けてやるんだけど、今回はテストだったからな」

 

 

マキシマムは本来プリムと役割を分担して行うシステムだ。

例えば、プリムがビットの機動を担当して、俺が射撃担当をしたり、その逆をしたり、もしくは片方が全てを担当して行ったりする。

 

そうした汎用性の高さが、このシステムの狙いなんだけど……。

 

 

「フィル、無茶しすぎ。本来はプリムでもギリギリの情報処理なのに、それを人がしようとしたんだから……」

 

「無限書庫でユーノさんにマルチタスクを習って、何とか出来るようにはなったけど、システムを最大限に生かすにはプリムと協力するのが一番だな」

 

《マスター、今回はテストと言うことで全部一人でしてましたが、元々は私と一緒に動かすシステムなんですから、一人でやる必要はありません!!》

 

「そうだね。これは執務官として言わせてもらうけど、無理して一人でやっても実戦では使い物にはならない。あんなふうに止まっていたら格好の的になるだけ」

 

「……そうなんだよな」

 

 

―――マキシマムの最大の弱点。

機動性の著しい低下。

 

いくらビットが高速機動していても、術者本人が動けなくなってしまうのはデメリットの方が高い。

 

 

 

「問題点はこれから何度もテストを繰り返して改善していくよ。マルチタスクの方も無限書庫でもう一度鍛え直してくるし……」

 

 

 

あそこで資料を調べたりするのは、マルチタスクの良い練習になる。

しかも、ユーノさんが暇なときはコーチもしてもらえるから独学でやるよりもずっと良いし……。

 

 

「そうだね。でも、フィルも変わったよね。前だったら絶対に相談なんかしなかったのにね」

 

《ですね。出来ることは全部一人でやって、周りに相談なんて滅多にしなかったのに》

 

「……勘弁してくれよ。さすがにゆりかごのことで懲りてるよ。一人でやれることは限度もあるし」

 

「ふふっ、だね。それが分かってるなら大丈夫だね」

 

「……だな」

 

「あっ、そういえば、ヴィヴィオ達がインターミドルに出ることを決めたみたいだよ」

 

「インターミドルか……」

 

 

 

インターミドル。

毎年一回開催され、優勝者は管理世界女子最強の称号も得る。

 

 

「うん、ルーテシアが熱心にアインハルトのことを勧誘してたからね」

 

「良いことだと思う。今日の戦いで分かったよ。アインハルトの探してる強さは競技者としての物だ。俺みたいな……強さじゃない」

 

 

 

俺の力は、あの地獄の世界で身につけた物。

生きるため……そして、あのクアットロを殺すために身につけた。

 

そんな強さは、ヴィヴィオやアインハルトは決して必要ない物。

この力を得る代償は大きすぎる。

 

一生後悔に苛まれなければならないのだから……。

 

 

 

「……そうならないように私達がしっかりしなきゃね」

 

「だな。さてと、そろそろアップルパイも焼き上がるし、ヴィヴィオ達の所に行くか」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「みんな、おやつを持ってきたぞ」

 

『やったー!!』

 

 

 

焼き上がったアップルパイを持ってリビングに行くと、なのはさん達と一緒にインターミドルの話題で盛り上がっていた。

 

 

 

「そっか、アインハルトも出ることにしたんだな……」

 

「はい。迷いましたけど、何より……」

 

 

アインハルトは、決意を込めた目で……。

 

 

「……強い人たちと……戦ってみたいから」

 

「……だったら、精一杯のサポートをしてやるさ。そうなると、デバイスが必要になるんだよな……」

 

 

 

インターミドルは、安全のためCLASS3以上のデバイスが必要になる。

もちろん、コロナとヴィヴィオのデバイスはその基準は余裕でクリアしている。

 

俺が作るデバイスは、実戦でも使えるのが最低ラインだから。

 

 

「デバイス持ってないんです。真正古代(エンシェント)ベルカのデバイスは、作るのが難しいから……」

 

「そう言うと思ってた。ルーテシア、はやてさんと連絡は取ってあるか?」

 

「ばっちりだよ!! 明日の午前中、話を出来るようにアポ取ったよ」

 

「サンキュー。じゃ、アインハルト、明日一緒に話をしていこうか」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

翌日、はやてさんと連絡を取り、アインハルトのデバイスについてプランを固めていった。

アインハルトの事を考えると、ヴィヴィオのセイクリッドハートと同じく、補助・制御型の方が向いてるので、その方向で進めていくことになった。

 

基本ベースは、セイクリッドハートを使い、古代ベルカのシステムで組めば、さほど時間もかからず作ることが出来る。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

二週間後

 

 

 

「ちょっと、早く来すぎてしまいました」」

 

 

午前8時、今日は私のデバイスが出来上がる日。

どうにも気持ちが抑えきれなくて、待ち合わせの時間より早く来てしまいました。

 

 

フィルさんが来る予定の時間は8時30分。

少し、どこかで時間をつぶそうとしたとき……。

 

 

「おはよう。待たせたみたいだな」

 

「お、おはようございます!! い、いえ、私が早く来ちゃっただけですから……」

 

「そっか。でも、ちゃんとご飯は食べたのか?」

 

「い、いえ……」

 

 

実は、舞い上がってしまって朝ご飯を食べるのも忘れちゃったんです。

普段はこんなことないのに……。

 

 

「だったら、ほら、こんな事もあるかと思って、サンドイッチを作っておいたから、車の中で食べな」

 

「……すみません」

 

 

顔から火が出るような思いって、こういうことを言うんですね。

本当に恥ずかしいです。

 

フィルさんの案内で、駐車場まで行くと、そこには白くて流線型のスポーツカーがありました。

 

 

 

「今日はロードサンダーじゃないんですね?」

 

「ああ、サンダーはオーバーホール中で動かせないから、今日は車で来たんだ」

 

「良い車ですね。無駄がないって言うか……綺麗なラインで」

 

「ああ、こいつは俺のお気に入りの車なんだ。バイクとはまた違った感触が味わえるしな。さてと、先に乗りな」

 

 

フィルさんは、さりげなく助手席の扉を開けてくれて、エスコートをしてくれた。

こういったことをさりげなくできる人って、なんか……良いです。

 

 

乗ってみますと、運転席の方はいろいろ機械がありましたが、助手席の方は乗りやすいシートでこれなら長時間座っていても疲れません。

 

 

「じゃ、出発するぞ」

 

 

フィルさんがエンジンをかけ、ギアを入れると静かに発進する。

スポーツカーだから、もっとグンとくるかと思ってましたが……。

 

 

「ずいぶん、静かなんですね。この車」

 

「まぁな。スピードを出そうとしたら、300kmは余裕で出せるけど、普段は負担をかけないように、出来るだけ静かに使ってる」

 

「そうなんですね」

 

「あとは、隣に可愛い子が座ってるのに、無茶な運転はする気はないさ」

 

「……もう、知りません」

 

 

 

ヴィヴィオさんやフェイトさんに聞いてましたけど、フィルさんって身内にはこういういたずらっ子な面を出すことがあります。

 

私の緊張を和ませるために言ってるんでしょうけど……。

 

 

 

「ちょっとだけ、音楽を流すけど良いか?」

 

「大丈夫です。私も家ではよく聞いたりしてますから」

 

 

 

フィルさんは、カーコンポにCDをセットして、ある曲を流す。

その曲は……。

 

 

「これ……知ってます。確か『BRIGHT STREAM』ですよね」

 

「正解、最近よく聴くんだ」

 

 

この曲は私も好きな曲です。

聴いてますと元気が出てきますし、でも、家で聴いててもここまで良い音でないです。

 

 

「フィルさん、この車何か……換えてますか?」

 

「んっ、まあな。スピーカーとかを換えてる。長時間移動するとき、音楽を聴いたりするから、音が良くないとストレスたまるし……」

 

 

 

その後もしばらく、色んな曲を聴きながら八神指令の所へ向かっていたのですが……。

 

 

「……はぁ、こういう馬鹿がいると迷惑だな」

 

「ですね……」

 

 

 

前方には、二台の車が幅を寄せ合って通行の邪魔をしています。

しかも、ここは高速道路。

 

こんなスピードでこんな事をしていたら……。

そう思っていた次の瞬間……。

 

互いの車が接触し、一台の車がスピンしながらこちらに突っ込んできます!!

もうダメ!!

 

 

「……」

 

 

フィルさんは全く慌てる様子を見せず、ハンドルとギアを使ってぶつかるすれすれで躱していきます。

それはまるで神の領域―――。

 

 

「……あーあ。後玉突きだな。こりゃ、事故処理大変だな」

 

「え、えっと、後の人たち大丈夫なんですか?」

 

「あの様子だったら、たいしたけが人は出ていないと思う。それにここで引き返す方がかえって危ない。管理局には連絡入れておいたから、後はそっちにまかせるさ」

 

 

確かに高速道路でUターンする方が危ないです。

でも、あの動きは本当にびっくりしました。

 

 

「すごいです。フィルさん、人間業じゃありません」

 

 

デバイスや制御コンピューターの補助なしで、あんな事が出来るなんて……。

 

 

「大したことないよ。あのくらいなら何度も運転すれば、出来るようになる」

 

 

い、いや、それは絶対にありませんから……。

本当にこの人は、自分のことを分かってないです。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「……やっと落ち着きました」

 

 

さっきの事故で、気分が少し悪くなってしまい、近くのスペースに車を止めてもらいました。

私は、何とか我慢しようとしましたが……。

 

 

『無理するな。あれだけ手荒な運転したんだ。まだ時間もあるから休憩してから行こう』

 

 

フィルさんに気付かれてしまって、こうして休憩中です。

ふと海岸の方を見ると……。

 

 

「んっ、どうした。何かおもしろい物でも見つけたのか?」

 

「あ、いえ……」

 

「ああ、ストライクアーツの練習中か。ん? あれはミウラか」

 

「お知り合いですか?」

 

「まあな。八神家道場の通い子だよ。時々俺も見ることがある。あいつも今年初参加するそうだ」

 

「そうなんですか……」

 

 

 

少し変わった型だけど、動きや練度が分かる。

しばらく見てると、今度は目標から距離を置き……。

 

 

一瞬の動きと鋭い蹴りで、目標物を破壊した。

 

 

 

「あ、ああ……。またやっちゃった……!!。せっかく師匠とヴィータさんが立ててくれたのに~!!」

 

 

覇王流の歩法ともストライクアーツの踏み込みとも違う。

だけど速い!!

 

それに、蹴打のあの威力―――。

 

 

こんな所にもあんなすごい子が……。

 

 

 

「挨拶でもしていくか?」

 

「いえ、練習の邪魔をしては……」

 

 

 

初参加の子でもあのレベル―――。

 

 

ノーヴェさんやフィルさんの言うとおりだ。

 

 

―――インターミドル。

 

 

今の私達じゃ全く通用しない―――。

 

 




以上、ここまでがVivid編の本編になります。
いつの日か、続きが構想できたときはこの続きを書き上げたいと思います。

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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