魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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Memory;04 ファースト・コンタクト

救助隊の仕事も終わり、後は家でのんびりするだけだと思っていた。

だが―――――。

 

そこに現れたのは……。

 

 

「貴女にいくつか伺いたいことと、確かめさせていただきたいことが」

 

 

このところ賑わせている通り魔事件の犯人らしき人物が、あたしの前に現れた。

 

 

「質問するならバイザー外して名を名乗れ」

 

「失礼しました」

 

 

そう言って、碧銀の女がバイザーを外すと……

 

 

「カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせていただいています」

 

 

やっぱり、予想通りの噂の通り魔か……。

こいつはやっかいなことになりそうだ。

 

 

「噂の通り魔か?」

 

「否定はしません」

 

 

女は街灯の上から、地面に降りてきてさらに……。

 

 

「伺いたいのは貴女の知己である『王』達についでです」

 

 

なんだと――――。

こいつ、一体何が目的なんだ?

 

 

「聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリア」

 

「貴女はその両方の所在を知っていると……」

 

 

その言葉に、あたしはカチンと来た。

クローンだと、あいつはそんなんじゃねえ。

 

 

「知 ら ね え な」

 

「聖王のクローンだの、冥王陛下だのなんて連中と、知り合いになった覚えはねえ!!」

 

 

そうさ――――。

 

 

「あたしが知ってるのは……」

 

 

ヴィヴィオも――――。

 

 

「一生懸命生きているだけの……」

 

 

イクスも――――。

 

 

「普通の子供達だ!!」

 

 

一生懸命生きようとしている普通の女の子だ!!

 

 

「―――――理解できました。その件については、他を当たるとします。では……もう一つ確かめたいことは……」

 

「あなたの拳とわたしの拳……。一体どちらが強いのかです」

 

 

*    *    *

 

 

「防護服と武装をお願いします」

 

「いらねえよ」

 

 

こんな茶番に、まともに付き合ってられるか。

 

 

「そうですか」

 

「よく見りゃまだガキじゃねーか。何でこんな事してる?」

 

「―――――強さを知りたいんです」

 

「ハッ!! 馬鹿馬鹿しい」

 

 

こういう馬鹿は、きっついのをお見舞いして、さっさと終わらせてやる。

あたしは、不意打ちの飛び膝蹴りで胸を狙う。

 

 

「くっ!!」

 

 

女はあたしの不意打ちの膝蹴りは、腕を使ってガードをする。

だけど、その一撃はあくまでフェイク。

 

本命は―――――。

 

 

右腕から繰り出す、スタンショット。

こいつが本命だ。

 

それに反応して、今度は胸部だけでなく、頭部もガードに入った。

スタンショットは、そのガードごと女を吹っ飛ばすが、威力を殺されてしまった。

 

ガードの上からとはいえ、不意打ちとスタンショットをマトモに受けきった。

ち、言うだけのことはあるってか!!

 

仕方がねえ。

使いたくはなかったけど……。

 

 

「ジェットエッジ」

 

《Start Up》

 

 

あたしは相棒であるジェットエッジを起動して、バリアジャケットと武装を身にまとう。

フィルが修理・改良してくれた新型ジェットエッジ。

こんな私闘には使いたくなかったんだけどな……。

 

でも、そんなことは言ってられねぇ。

 

 

「ありがとうございます」

 

「強さを知りたいって正気かよ?」

 

「正気です。そして今よりも強くなりたい」

 

「なら、こんな事してねーで、真面目に練習するなりプロ格闘家目指すなりしろよ!!」

 

「単なる喧嘩馬鹿ならここでやめとけ。ジムなり道場なり、良いところ紹介してやっからよ」

 

 

こんな事したって、何も得る物なんかありはしねえんだ。

 

 

「御厚意痛み入ります。ですが、わたしの確かめたい強さは―――――生きる意味は……」

 

「表舞台にはないんです」

 

 

構えを取った―――――。

この距離で? 空戦(エリアル)? 射砲撃(ミドルレンジ)?

 

 

「――――って!!」

 

突撃だと!!

あたしは何とか、右のストレートを辛うじてかわすが……。

 

 

「がはっ!!」

 

 

ステップを切り替えて、あたしの懐に飛び込んできて、腹に思いっきりアッパーをぶちかまされた。

 

やべえ……。

 

今のはかなり効いたぜ……。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「列強の王達を全て斃し、ベルカの天地に覇を成すこと。それが私の成すべき事です」

 

「寝ぼけたこと抜かしてるんじゃねえ!!」

 

「昔の王様なんざ、みんな死んでる!! 生き残りや末裔達だって、みんな普通に生きてるんだ!!」

 

 

ヴィヴィオだって、イクスだって、みんな必死で生きようとしてるんだ。

そんな昔の因縁なんか、今のあいつらには関係ない話だ!!

 

 

「弱い王なら……」

 

「この手で……只屠るまで……」

 

 

何だと――――。

 

 

「このバカったれが!!」

 

 

 

もう我慢の限界だ!!

ヴィヴィオやイクスのことを、何もしらねえくせに、勝手なことばかりいいやがって!!

今を必死に生きてる奴を、自分の身勝手な理由で、それを壊して良いわけねえだろうが!!

 

 

「ベルカの戦乱も聖王戦争も!!」

 

「ベルカって国そのものも!!」

 

「もう、とっくに終わってるんだよ!!」

 

 

あたしは得意のエアライナーを発動し、あたしは女の頭上を取った。

ローラーを駆使しての動きに、あいつは目で追ってはいるが、完全には追い切れていない。

 

 

「っ!!」

 

 

そして―――――。

 

 

バインドで、両手両足を完全にロックする。

このバインドは、素人には簡単には解除できない。

 

 

「喰らいな!!」

 

 

ローラーの機動力をフル活用した、あたしの必殺の蹴り!!

 

 

「リボルバー・スパイク!!」

 

 

あたしの蹴りは、左首にまともに命中し手応えも充分!!

これで終わりだ!!

 

だが……。

 

 

「!?」

 

 

女は左手で、あたしの足をつかむと……。

 

 

「終わってないんです」

 

 

バインドでこちらの動きを封じてしまった。

油断していたあたしは、完全に動きをロックされてしまう。

 

どうかしてやがる!!

防御を捨てて、反撃準備をするなんて……。

 

普通の神経じゃねえ!! いかれてるとしか思えねえ!!

 

 

「私にとってはまだ何も……」

 

 

女は、あたしが仕掛けたバインドを無理矢理壊し……。

 

 

右腕を振り上げ……

 

 

「覇王……」

 

 

その拳は……。

 

 

「断空拳」

 

 

練り上げられた力と共に振り下ろされた……。

 

 

 

「がはっ!!」

 

 

背部にまともに喰らって、息ができねえ……。

すまねえ……ヴィヴィオ……。

 

 

 

「弱さは罪です。弱い拳では……」

 

「誰のことも……」

 

「守れないから……」

 

 

 

*    *    *

 

 

「やば、かなり遅くなってしまったな」

 

 

コロナを無事家に送り届けた俺は、サンダーのスロットルを全開にして家に向かっていた。

コロナのお願いで、少しだけ遠回りして送り届けたんだけど、調子に乗って俺も予定より多く一緒にいたもんだから、こんな時間になってしまった。

 

 

《でも、相棒、家に戻ってもフェイトさんは……》

 

「そうなんだよな……」

 

 

実は、フェイトは今朝から出張が入ってしまい、しばらく家には帰ってこない。

ここしばらくは出張はなかったから、ずっと一緒だったけど、やっぱり誰もいない家に帰るのはちょっと寂しいな……。

 

 

「しょうがないさ。とりあえず、近くのコンビニで弁当でも買って帰るか」

 

《相棒、今日は自分で作らないんですか? いつもなら、ちゃんと自炊するのに?》

 

「さすがにこの時間じゃ自炊は勘弁かな?」

 

《ですね……》

 

 

もう少し早い時間だったら、買い物をして何か作るんだけど、こんな遅いとさすがに自炊する気はなれない。

フェイトが一緒だったら、頑張って作るんだけど、一人だったら、多少手を抜いても良いかな?

 

 

「というわけでサンダー、近くのコンビニを探してくれないか?」

 

《了解です。サーチを開始しますね》

 

 

*    *    *

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

あの時の彼女の一撃――――。

 

 

凄い打撃だった――――。

 

 

正直言ってかなり危なかった。

この身体は……。

 

間違いなく強いはずなのに……。

 

 

私の心が弱いから……。

 

 

「武装形態……解除……」

 

 

武装形態である姿を解除して、私は元の姿に戻る。

そして、コインロッカーから、私物を取り出し、家に帰るため歩き出す。

 

帰って、少しだけ休もう。目が覚めたらまた……。

 

 

「!?」

 

 

突然激しい頭痛が私を襲う。

これは、さっきの一撃が……。

 

疲労とダメージでもう意識を保てない……。

 

駄目……。

こんな所で倒れたら……。

 

 

*    *    *

 

 

 

「さて、弁当も買ったし、帰るとするか」

 

《そうですね。でも、また唐揚げですか? 外で食べるときや買って食べるときはそれが多いですね》

 

「仕方がないだろ。安くてボリュームがあるのって、それしかないんだからな」

 

 

お腹いっぱいになって、安く上げられるのって、唐揚げ弁当かファーストフードくらいしかない。

無駄にお金は使えないからな。

 

 

「じゃ、帰るとしますか」

 

 

俺がサンダーのエンジンに火を入れようとしたとき……。

 

 

「ん?」

 

 

視界に誰かが倒れてるのを見つけた。

よく見ると、小さな女の子か?

 

 

「サンダー」

 

《ええ、行ってみましょう。それに、あの子からノーヴェさんが使っている発信器の反応があるんです》

 

「どういうことだ?」

 

《分かりません。ですが、倒れている人を無視するのは駄目でしょう。相棒》

 

「だな」

 

 

 

いろいろ分からないことだらけだが、とにかく今はあの子の保護が最優先だ。

俺は、急いで女の子の元に向かった。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「ジェット無事か?」

 

《I'm OK》

 

 

あいつの最後のカウンター―――――。

あれは半端じゃない攻撃だった。

 

今もダメージで立つことができねえ―――――。

だけど、只じゃころばねえ。スパイクをぶち込む瞬間、発信器を付けてやった。

これであいつを捕縛できるはずだ。

 

 

後は、なんとかスバルに連絡を……。

そう思っていたら―――――。

 

 

「こちらフィル・グリード。ノーヴェ、聞こえるか」

 

「フィル!? どうしておめえが!?」

 

 

フィルから、通信が入り、あたしの目の前にスクリーンが現れた。

やっばいな……。この状況で、よりによって、フィルからかよ。

 

正直、あいつを巻き込みたくなかったんだけどな……。

 

 

「実は、お前が使っている発信器の反応が、今保護した女の子からあってな。ちょっと聞きたかったんだけど……。って、おい、どうしたんだ!?」

 

「すまねえ……。ちょっと、喧嘩で負けて動けねー」

 

「喧嘩って……。ってことは、この子としたのかよ……?」

 

「……まぁな」

 

 

もう隠しておくことはできねえ。

こうなったら、フィルに協力してもらう方が良い。

 

でも、ティアナとフェイトさん、絶対に怒るだろうな……。

 

 

「理由は、後で聞くとして、とりあえずお前も助けに行くよ。悪いけど、今俺ん家はフェイトがいないから、この子の保護もお願いできるか?」

 

「ああ、最初からスバルに頼むつもりだったからな。願ったり叶ったりだ……」

 

「じゃ、全速でそっちにいくからな」

 

 

そう言って、フィルからの通信が切れた。

10分後、ロードサンダーに乗ったフィルがやってきて、前に保護した少女と、後ろにあたしを乗っけて、ナカジマ家に向かった。

 

フィルは執務官のため、非常時はバイクの変則乗りは認められている。

 

事前にフィルがスバルに連絡を入れてくれたため、すぐに少女はスバルに抱えられて、あたしもフィルとギンガに肩を貸してもらって、何とか自分の部屋に付くことが出来た。

 

その後、フィルはすぐに帰ってしまったけど、保護した少女のことがあるから、明日の朝、またナカジマ家に来るとのことだった。

 

何にしても、今後のことは、明日になってからだな。

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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