魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

29 / 81
Epilogue 永遠の絆

 

 

「ここは……?」

 

 

なんだ、この真っ白い空間は……。

あの時、俺はフェイトさんをかばって心臓を貫かれて―――――。

 

 

でも、この空間見覚えがある。

 

 

 

「まったく……あんたは、本当にばかなんだから……」

 

 

ま、まさか……。

 

 

 

「でも、あんたらしいかもね。フィル」

 

 

 

そこに立っていたのは―――――。

 

 

 

「……ティア」

 

 

 

二度と会えないって思っていた―――――。

 

あの笑顔をもう、見ることはないって思っていたのに――――。

 

 

 

「何泣いてるのよ……。まったくあんたはそんなに泣き虫だったかしら?」

 

「いいだろ……。こんなときくらい……泣いたってよ」

 

 

泣きたかった―――――。

 

 

もう、あえないと思っていた人に会えたんだから―――――。

 

 

そんな俺をティアは黙って抱きしめてくれた。

 

 

 

「……ごめんね。あんたをそこまで追い詰めちゃったのは……あたしだよね」

 

「違うさ。お前がいてくれたから……。そして、フェイトさんが居てくれたから……。俺はここまでがんばれたんだ」

 

「……そっか。フェイトさんにあんたのことを託したのは……間違いじゃなかった」

 

「本当、おまえは……損な性分だよ。人のことばかり護ろうとしてさ……」

 

「それは、あんたには言われたくないわよ……」

 

「かもな……」

 

 

でも、後悔はない。

世界の修正力は、俺の命一つで済んだんだ。

 

 

みんなが生きてくれるのなら、それでいいさ。

 

 

 

「フィル、あんたにどうしても見せたい物があるの……」

 

「見せたいもの?」

 

「これを見て……」

 

 

 

そういってティアが映し出したのは――――。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

「……あのね。今日はね、エリオとキャロがね……」

 

 

 

あの日からもう、一ヶ月の時が流れた―――――。

 

ゆりかごで泣きじゃくっていた私達を、ヴァイス達が迎えにきてくれて、フィルは急いで病院に担ぎ込まれた。

 

 

病院に着いたフィルは、すぐに緊急手術が行われ、手術は18時間に及ぶ大手術だったけど、何とか命だけは助かった。

 

 

ゆりかごは、リンディ義母さんがアルカンシェル・ノヴァで、完全消滅させ、JS事件と呼ばれたこの事件は無事解決をする。

 

 

だけど、フィルはまだ意識を取り戻さない――――。

 

 

 

「なのはもね、ティアナに自分の技術を全部教えるんだって張り切ってるんだよ」

 

 

 

ねぇ……。

 

 

 

いつまで寝ているの……。

 

 

 

私、そんなに強くないんだよ―――。

 

 

 

フェイトって、呼びかけてよ――――。

 

 

 

私を、ぎゅっと抱きしめてよ――――。

 

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

「……フェイトさん」

 

「フィル……あんたはまだ、こっちにきてはだめ。あんたにはまだやることがあるでしょう」

 

「……ああ、だが……」

 

 

 

――――本当に世話が焼けるわね。

 

 

「心配しなくても、あたしがあんたの命になってあげるから……」

 

「だめだ!! それだけは駄目だ!! フェイトさんだけじゃなく、ティアまで犠牲にするなんて」

 

 

 

――――ばかね。

 

 

あんたって本当に女心が分かってないのよね。

 

 

女はね、好きな人の力になれるなら、どんな形でもいいから一緒にいたいって思う物よ――――。

 

 

 

「だから……」

 

 

あたしは残された最後の力で、フィルのリンカーコアの代わりになる――――。

 

 

「あたしのぶんまで、しっかりと生きなさいね!!」

 

 

これが、あたしがしてあげられる最後のことよ。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

「……今日も……来ちゃった……」

 

 

 

いつものように、私は眠っているフィルの手を握りしめ、日常のことを話し出す。

 

 

 

「……いい天気だよね。こんな日は、一緒に出かけたいよね」

 

 

 

思い出すのは、あの一日だけのお休みの日――――。

私とフィルが、一緒に出かけた海岸でのこと。

 

 

 

「あの時、フィルは私が作ったお弁当を、本当に美味しそうに食べてくれたよね……」

 

 

今、私が食べているのはあの時と同じサンドイッチ。

 

 

でもね――――。

 

 

「一人で食べたって……ね。美味しくなんか……ない……よ」

 

 

失って初めて気づくこと……。

フィルとの時間。一緒にいたときは、ずっと続くと思っていた幸せな時間――――。

 

 

私は、ぎゅっとフィルの手を握っていた。

すると信じられないことが――――。

 

 

 

「……だったら、さ」

 

 

フィルが目を覚まし――――。

 

 

「また、一緒に……食べよう」

 

 

私の手をぎゅっと握りかえしてくれた。

 

 

「フィ、ル……。夢じゃ……ゆめじゃ……ないよね」

 

 

夢だったら、覚めないでほしい――――。

 

 

「夢じゃないよ……。ほら……」

 

 

フィルは、座位になって、私を自分の方へ抱き寄せる。

 

 

「……うん。ぐすっ……うん……」

 

 

 

――――夢じゃない。

 

 

私を包んでくれるこの暖かさは、夢なんかじゃない!!

 

 

 

「大切なこと言ってなかったね。ただいま、フェイトさん……」

 

「うん……。おかえり、フィル」

 

 

 

私とフィルは、どちらからともなくキスをする。

 

 

 

この唇のぬくもり――――。

 

 

もう、二度と放さないからね――――。

 

 

 

「あのね……。お願いがあるんだけど……」

 

「なに? 俺に出来ることなら……いいよ」

 

 

これはね、フィルにしか出来ないんだよ――――。

 

 

「私のことを……。これからは、さん付けしないで、フェイトって呼んで……」

 

「えっ……? で、でも……」

 

 

やっぱり、フィルは困惑の表情をした。

でも、これは絶対にゆずれない!!

 

 

 

「むぅ―――。ティアナはティアって愛称で呼んでいるのに、恋人の私はさん付けなの!?」

 

「あ……いや……その……わかった。フェイト……」

 

「うん♪」

 

 

 

フィル、これからはずっと、あなたのことを支えるから。

だから、あなたもいっぱい私に甘えてね――――。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

3週間後

 

 

あれから、俺は、フェイトと一緒に苛烈なリハビリを繰り返していた。

 

ずっと眠っていたせいで、全身の筋肉がやせ細ってしまい、歩くことも困難になっていたからだ。

ドクターの診断では、もう、二度と戦うことは出来ないって言われたけど――――。

 

 

なのはさんは、俺と同じ状況になっても決してあきらめたりはしなかった。

 

 

だから、俺もあきらめない!!

 

 

俺に、魔力と命を与えてくれたティア達のためにも――――。

 

 

 

「焦らないで良いんだからね……。一緒に……直していこう」

 

「……ありがとう。フェイト」

 

 

 

本当、俺には過ぎた女性だよ――――。

 

 

 

 

月日は流れ――――。

 

 

 

 

今はもう12月――――。

 

 

 

 

ようやく、日常生活が不自由がないくらいにはなったが――――。

やっぱり、完全に復帰するには時間がかかる。

 

 

 

でも、今の俺にも出来ることはある。

フェイト達のサポートや、事務処理の仕事はすることが出来る。

 

 

元々、俺はサポートがメインだったんだ。

これが本来の俺の役割なのだから――――。

 

 

 

そして、ある日。

 

 

遅れながらJS事件の解決祝いと、俺の復帰祝いを兼ねてのパーティを開いてくれた。

俺も料理を手伝おうかと言ったのだが――――。

 

 

 

「だーめ。今日はフィルは主役なんだから、おとなしくしてなさい」

 

 

フェイトやティア達に止められてしまい、仕方がなく俺はパーティが始まるまでのんびりすることにした。

あんまりにも暇だったので、結局は大量のアイスクリームを作ってしまった。

 

ノリで作ってしまったが――――。

 

 

これ、どうしようか……。

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

「えっと……今日は、フィルの復帰祝いと、先日の事件の労いもかねて、ささやかながらパーティをすることにしました。今日は無礼講ですので、みんな楽しんでください。長い挨拶は私も嫌いなので、さっさと乾杯してしまいましょう………。というわけで、乾杯!!」

 

 

 

『乾杯!!』

 

 

 

乾杯の後、それぞれグループに分かれてパーティーを楽しんでいた。

 

フォワード陣はエリオとスバルとギンガさんが大食い競争は始めてしまい、ティアとキャロが少し引いてしまっていた。

 

 

お前らな……。

 

 

大食い大会をやるなら、どっか行って賞金でも稼いでこい!!

 

なのはさんはヴィヴィオと一緒にほのぼのと楽しんでいた。

 

うん、あそこを見ていると俺もなごむ……。

 

フェイトはどうしても外せない仕事があってここにはいなかった。

 

 

はやてさんは八神家全員集合状態になっていて、大家族といった会話をしていた。

ここでも狼形態のままのザフィーラさんが、哀愁を誘っていた。

 

ザフィーラさん……ご愁傷様です……。

 

アルトさん達はロングアーチメンバーと一緒になって酒盛りをやっていた。

俺の感があそこは、深く関わらない方が良いと警鐘を鳴らしていた。

 

ルーテシアは体調が回復したメガーヌさんと一緒に楽しんでいた。

家族が一緒になれて本当に良かったよ。

 

 

さてと、俺もみんなの所に挨拶に行くか……。

まずは……。

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

「あっ……。フィルさん、お疲れ様です」

 

「お疲れ、フィル」

 

 

 

ここで俺を出迎えてくれたのは、ティアとキャロだった。

スバル達は食べ物の方に夢中だった。

 

 

 

「お疲れさん……ていうか、あの三人まだ食べているのか。はやてさん、かなり作ってたんだけどな……」

 

「エリオ君、料理がおいしくて夢中になってるんですよ。わたしもフィルさんみたいに、料理が出来たら手伝えたんですけど、簡単なのしかできないから……」

 

 

その気持ちだけで十分だよ。

今は出来なくても、その気持ちがあれば、俺レベルの料理なんて、絶対に覚えられるから――――。

 

 

 

「あ、あの……フィルさん、これ、良かったら食べてみてください……」

 

 

 

そう言って渡してくれたのはクッキーが入った袋――――。

かわいいラッピングがしてあって、いかにもキャロらしい物だった。

 

 

 

「これ、キャロの手作り?」

 

「はい……。ちょっと不格好ですけど……」

 

「そんなことないよ。綺麗に出来てる……食べて良いかな」

 

「はい!!」

 

「じゃ、いただくね……。うん、美味しい!!」

 

 

 

キャロの作ったクッキーは、バタークッキーとチョコクッキーだった。

甘さもきつくないし、食べやすいものだった。

 

 

 

「よかったです。喜んでもらえて……」

 

 

 

キャロと話していると、大食い大会をしていたエリオ達を止めに行ったティアが、二人を連れて戻ってきた。

 

 

 

「あっ、フィル、お疲れ!!」

 

「お疲れじゃねえだろ!! お前ら食い過ぎだ!!」

 

「良いじゃない、誰にも迷惑かけてるわけじゃないんだから!!」

 

「思いっきり迷惑だ!! 料理を作るはやてさん達の身にもなれ!!」

 

 

 

お前らの料理を用意するのに、朝早くからずっと作ってたんだぞ!!

それとギンガさん、食べるのは知ってたけど、一緒になって食べないで、お願いだからスバルを止めてください!!

 

 

 

「ごめんなさい……フィルさん………」

 

「エリオは気にしないで良いぞ。お前はもう少し子供らしく、甘えても良いんだからな。ちょっと食べすぎではあるがな……」

 

「ずるい!! エリオだけ何で!!」

 

「お前とギンガさんを基準にしていたら、いくらあっても足りないっての!! 30人前用意して30分持たないなんて!!」

 

 

 

エリオだって精々5人前だったんだぞ。

お前らの胃袋、どうかしてるぞ――――。

 

 

 

「そう言えばティア、お前ちゃんと食べてるか? エリオ達の面倒見ていて、食べてないだろ」

 

「あんたほど忙しくなかったから、ちゃんと食べてるわよ」

 

 

 

そうは言ってるが、あんまり食べていないよな――――。

まぁ、この連中と一緒だったら、食欲も無くなりそうだし。

 

 

 

 

「なんか、胃に軽い物でも作ってやろうか?」

 

「ううん、いい。それよりも……今度、あたしだけのために……その……ケーキ……作って欲しい……。以前、あたしの誕生日に作ってくれた……あれ……」

 

「そっか……分かった。今度のティアの誕生日に作ってやるよ……」

 

「ありがとう……でも、ちょっと悔しいな。フェイトさんも、あのケーキを食べたことあると思うと……」

 

「無いぞ。あれは大切な思い出の物だからな。ティアにしか作ってないぞ」

 

 

 

誕生日にティアに作ったケーキは、ティアにしか作ってない。

あれはティアとの大切な思い出だからな……。

 

ちなみにそのときに作ったケーキはダブルチーズケーキだ。

別名ドゥーブルフロマージュ。

 

正直、俺のレシピの中でもっとも難しいケーキでもある。

 

 

 

 

「そっか……嬉しい……」

 

「楽しみにしててくれ……。おっと、他の所にも行っておかないと……」

 

「そうだね。さっきからアルトさん達が手招きしてるわね……」

 

「……出来るだけ、あのグループは避けたいのだが……。はぁ……」

 

 

 

アルトさんとシャーリーさんの所。あそこは絶対酔っぱらいの集団だ。

酔っぱらいの相手は疲れんだよな……。

 

 

 

「………終わったら、愚痴聞いてあげるから、頑張ってきなさい」

 

「ありがとう……。お前くらいだよ、そう言ってくれるのは……」

 

 

 

ティア達の所を離れ、次のグループの所に行くことにした。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

「こんばんわ、メガーヌさん、ルーテシア」

 

「こんばんわ、フィルさん……」

 

「ごきげんよう、フィル」

 

 

本当ならお母さんは六課メンバーじゃないから駄目なんだけど、八神部隊長とフィルさん達が、『無礼講だから、ある程度は身内連れてきて良いよ』という声で一緒に参加することが出来た。

 

 

 

「ここにいたんだ、ルーテシア」

 

「うん、お母さんと話してたの……。滅多に会えないから」

 

「そうだね、メガーヌさんもまだ、完全に回復した訳じゃないからね」

 

 

お母さんは、治療の甲斐があって大分回復してきている。

最初の頃とは雲泥の差――――。

 

 

 

「メガーヌさん、メディカルポッドで大分回復してますが、ちゃんと通院はしてくださいね」

 

「ええ、でも、本当にありがとう。こうして親娘で一緒の時間を過ごせるのも、あなたのおかげよ」

 

「俺も、こうして二人が穏やかな時間を、過ごせるようになって良かったです……」

 

「フィルさん……本当にありがとう。フィルさんがあの時教えてくれなかったら、今でも私は……」

 

 

あの時……。

 

 

フィルさんが命をかけて止めてくれなかったら、きっと私は……。

 

 

今でもクアットロの操り人形だったと思うから――――。

 

 

「だから、気にするなって言ってるだろ。あれは俺が勝手にしたことなんだから……な……」

 

「うん……。あの……フィルさん……」

 

「んっ? どうした?」

 

「少しだけ……かがんでくれますか」

 

 

こんなことするのは、とっても恥ずかしい。

 

 

でも、私が出来る精一杯の感謝の気持ちを込めて――――。

 

 

私はフィルさんの頬にキスをする――――。

 

 

 

「……これが……私の精一杯の……お礼です」

 

「……俺なんかには、もったいないよ。本当……ありがとうな」

 

 

 

フィルさんだから……あげたんですよ。

私の……ファーストキス。

 

そして、私の初恋の人だから――――。

 

 

 

「げっ!! アルトさんとシャーリーさんが手招きしていやがる……」

 

 

さっきから、シャーリーさん達がフィルさんのことを手招きして呼んでいる。

フィルさんが、本気で嫌そうな顔をしているのって、あんまり見ないんだけどね。

 

 

 

「それじゃ、メガーヌさん、ルーテシア、親子の会話を楽しんでください」

 

 

そういって、フィルさんはシャーリーさん達のところに行ってしまった。

残念……。

 

もう少し、一緒にいたかった。

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

「遅いよ!! フィル!!」

 

「そうだよ!! 待ってたんだよ!!」

 

 

 

出迎えたのはアルトさんとシャーリーさんのお祭りコンビだった。

ヴァイス陸曹はラグナちゃんと一緒にいて、こっちには来られないみたいだ。

 

開始早々にグリフィスさんは潰されてしまい、止める奴がいなくなってしまった。

 

 

 

「ねぇ、フィル。今日こそ教えてよ。どうやって、フェイトさんとつきあうことになったのかを!!」

 

「アルトさんしつこいですよ!! 言いたくありませんって、何度も言ってるでしょう!!」

 

「いいじゃない!! 減る物じゃないし~」

 

「シャーリーさんもいい加減にしてください!! あんまりしつこいと、お二人のことを『クアットロ』って呼びますよ!!」

 

「「それだけは勘弁してください!!」」

 

 

 

六課内ではクアットロという名前は、最低最悪という意味を持っている。

この名前を出すだけで、嫌悪感がでるくらいなのだ。

 

 

 

「アルト、シャーリー、その辺にしておけ。お前らだって、いつか彼氏が出来て、そんな風に根掘り葉掘り聞かれたくないだろ」

 

 

見るに見かねてヴァイス陸曹が、ラグナちゃんと一旦離れてこっちに来てくれた。

 

 

 

「「は~い」」

 

「済まなかったな……。さっきからこっちのグループに顔出すの躊躇ってたの、こいつらが原因だろ」

 

「ははは……」

 

 

 

ヴァイス陸曹だけなら別に良いのだが、ゴシップ好きのアルトさんとシャーリーさんが一緒だと、いつも俺とフェイトのことを聞かれる。

 

あの時のことは、誰にも言いたくはない……。

 

 

 

「俺はお前とフェイトさんが、どうやってつきあうようになったかなんて、別にかまいやしねえよ。だけどな……」

 

 

ヴァイス陸曹は、俺の胸に拳をコツンと打ち……。

 

 

「フェイトさんのこと……これ以上、絶対に悲しませるな。お前が意識不明の時、あの人……本当に生きる希望を失っていたんだからな……」

 

「ヴァイス陸曹……」

 

「言いたいことはそれだけだ。まだ、行ってない所あるんだろ。こいつらの面倒は、俺が見るから行ってこい」

 

 

 

ヴァイス陸曹と別れた俺は、はやてさんの所に行くことにした。

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

「おっそいで!! 何しとったんや!!」

 

「そうですよ!! 待ってたんですから!!」

 

「済みません。ちょっと色々なところに行ってましたから。そのかわり、ちゃんとおみやげありますから」

 

 

 

取り出したのは、さっきできあがったばかりのバケツアイスだった。

 

 

 

「まじかよ!! 良いのか、これあたし達で食べて!!」

 

「試作品なので、味はあまり期待しないでくださいよ」

 

「サンキュー、リイン、一緒に食べようぜ!!」

 

「はいです!! ヴィータちゃん!!」

 

 

 

ヴィータ副隊長とリイン曹長はアイスを持って、別のテーブルに行ってしまった。

 

 

 

「良いのか? 全部渡してしまって」

 

「あれは、あの二人のために作ったやつですから」

 

「お前も苦労性だな。本当なら、休んでても良いのに、アイスを作ったり、こうやってみんなの所に顔を出したりと……」

 

「そうでもないですよ、シグナム副隊長。はやてさんの方がよっぽど大変じゃないですか」

 

 

今日だって、朝早くからみんなの料理を作ったりして。

やっぱり、手伝えばよかった……。

 

 

「そうですね。はやてちゃんもフィルも、一人で悩み事とか抱え込んでしまうところとか、本当に似てますよ」

 

「シャマル……」

 

「シャマル先生……」

 

 

確かに、俺もはやてさんも、あんまり人には話さないかも……。

 

 

「やっぱり……ええな……。こうしてみんなで、バカ騒ぎ出来るのって……」

 

「そうですね……」

 

 

 

みんなとこうして、馬鹿騒ぎできる一時……。

未来では、叶えることができなかった優しい時間。

 

こんな時が来るなんて思わなかった。

 

 

 

 

「フィル……」

 

「はい?」

 

「……私な。もう二度と……みんなの笑顔はみられへんって思っていたんや。あんたが意識不明になってから六課は、本当にボロボロやった……」

 

 

後から、なのはさんから聞いたけど、ティアたちの訓練もボロボロで正直見てられなかったし、何より、フェイトがいつ壊れてもおかしくなかったって……。

 

 

 

「……はやてさん」

 

「フィル、あんたは六課だけでなく、私やフェイトちゃん達にとっても、大切な人なんや。だから、あんな無茶は二度と……やめてや」

 

「……はい」

 

 

 

そして、はやてさんと俺は持っていたグラスで――――。

 

 

 

「それじゃ、もう一度乾杯といこうか」

 

「いいですね……。何にしますか?」

 

「せやな……。この大切なひとときに……ってのはどうや?」

 

「……賛成です」

 

「それじゃ……」

 

「「乾杯……」」

 

 

 

俺たちはグラスを合わせ、ワインをクイッと飲む干す。

本来なら、お酒は避けなきゃいけないけど、今日くらいは良いだろう。

 

こんなに美味しい酒なら、いつまでも飲んでいたいから――――。

 

 

そして……。

 

 

いつの間にか俺たちは、ワイン3本をあけていて、はやてさんは完全に酔い潰れてしまった。

はやてさん、俺のペースで飲むからだよ……。

 

 

基本的に俺は酒は強い方なんだから……。

 

 

もっとも、未来では、飲んでも、酔えなかったといった方が良い。

悲しみを忘れるために、酒を飲んでいたに過ぎなかったんだから――――。

 

 

 

「フィル、はやてちゃんのことは私に任せて、はやくヴィヴィオの所に行ってあげて。さっきから待っているみたいよ」

 

「あちゃ……。なのはさんとヴィヴィオ、かなり待ってたんだな……。ヴィヴィオ、もう疲れて眠っちゃってるよ」

 

「一応、顔は出しておきなさい……ね……」

 

 

 

俺はシャマル先生に、はやてさんの事をお願いして、なのはさんのところに向かった。

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

「フィル、ほんっとうに遅い!!」

 

「済みません……。こんなに時間がかかると思わなかったので……。ヴィヴィオの笑顔で、最後癒されたかったから、後にしたんだけど、寝ちゃいましたね」

 

「うん……ヴィヴィオ、ずっと待ってたんだよ。フィルパパはいつ来るのって、ずっと言っていて大変だったんだから……」

 

「ごめんな……。ヴィヴィオ」

 

 

 

フィルはヴィヴィオの髪にそっと触れる。

こうしてると、フィルって、父親の素質十分だよね。

 

 

 

「そういえばなのはさん、決めたんですね。ヴィヴィオの本当のママになること……」

 

「うん……」

 

「これで俺のヴィヴィオのパパの役目は終わりですね。いつか、なのはさんに素敵な相手が出来て、その人がパパになってくれれば……」

 

「残念だな……。フィルなら、ヴィヴィオのパパにピッタリなのに……」

 

 

フィルなら、最高の父親になれると思う。

優しいだけでなく、心の痛みを知ってるから――――。

 

 

 

「なのはさんなら、すぐに見つかりますよ。大丈夫です」

 

「そうでもないよ。だってわたしって管理局内じゃ、鬼の教導官とか、ヴィータちゃんが広めてくれた白い悪魔とか言われてるんだよ……。これじゃ、いつの日やら……」

 

 

正直わたしは、結婚は半分あきらめている。わたし自身こんな性格だからね……。

すると、フィルは、真剣な表情で……。

 

 

「悪いけど……そんな風に外面だけで見る男なら、なのはさんのためにもヴィヴィオのためにも、結婚なんかしない方が良いです。突き放すようで悪いけど、ちゃんとした相手でなかったら、二人でいた方がよっぽど幸せです。ヴィヴィオだって、きっとそう思います……」

 

 

――――そんなこと無い。

 

 

フィルの優しさは、ちゃんと伝わってるよ……。

 

 

こんな風に言ってくれる男性は、今までいなかったから――――。

 

 

 

「やっぱり……優しいよ。そうやって、わたしやヴィヴィオのこと、真剣に考えてくれるんだもの……」

 

 

フェイトちゃん……。

 

 

フィルのこと大切にしなきゃ駄目だからね。

 

 

でないとわたしが奪っちゃうよ。

 

 

こんな風に思ってくれる人なんていないんだから――――。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

 

「何してるの?」

 

 

パーティも無事終わり、眠れなくてベッドに座っていたら、仕事から戻ってきたフェイトが、俺の部屋にやってきて隣に座った。

 

 

「フェイト……か。ちょっと眠れなくてこうしてたんだ」

 

「……まだ、呼び方慣れてないみたいだね」

 

「当分は無理かも……」

 

「ふふっ……だめだよ。頑張ってちゃんと呼んでね。でないと、またすねちゃうよ」

 

 

 

そう言ってフェイトは俺の肩の上に頭を預けた。

反射的に俺もフェイトの髪を撫でていた。

 

フェイトはこうされるのが好きで、目を細めて甘えていた。

二人はしばらく無言で寄り添って、何もない時間を満喫していた。

 

 

 

「部屋に……戻らないの?」

 

「一旦戻ったんだけど、なのはとヴィヴィオがベッドを占拠していて、私の場所がないの」

 

「……そっか」

 

 

 

あの二人、よっぽど疲れたんだな……。

でも、そのおかげでこうしてられる。

 

ちょっとだけ、感謝かな……。

 

 

 

「……フィル」

 

 

 

そう言って、フェイトは俺を押し倒し……。

 

 

 

「…………フィル、私を抱いて」

 

 

俺を押し倒すなんて、普段のフェイトだったら考えられない行動だ。

すると、フェイトの瞳から、ぽろぽろと涙があふれ出し――――。

 

 

 

「……もう、あんな悲しい思いはいや!! 大好きな人のぬくもりを感じられないのは……。もう……いやなの……」

 

 

 

あの日から、フェイトはずっと俺のためにつくしてくれた。

歩けなくなって、自暴自棄になりかけたときも、ずっと支えてくれた。

 

 

こうしていられるのも、フェイトがずっと支えてくれたからだ。

 

 

俺も、フェイトのぬくもりを感じたい……。

 

 

大好きな人と一緒になりたい……。

 

 

 

 

「……いいんだな」

 

「……うん……フィルじゃなきゃ……いやだ………」

 

 

 

 

瞳を閉じ、俺たちはキスをし――――。

 

 

 

「あっ……」

 

「……愛してるよ……フェイト……」

 

「……私も……愛してるよ……フィル……」

 

 

 

フェイトは、俺にギュッと抱きついて……。

 

 

 

「………やさしく……してね。その……初めてだから………」

 

「……大切に……するよ。俺も、そうだから……」

 

 

 

俺はフェイトにキスをすると、フェイトは、最初は緊張したが、段々自分からキスを求めてきて、深いキスをしばらく繰り返していた。

 

 

 

そして、俺たちは……。

 

 

このとき、本当の意味で……。

 

 

――――ひとつになった。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

新暦76年4月28日  機動六課隊舎

 

 

 

「長いようで短かった一年間、本日をもって機動六課は任務を終えて解散となります。みんなと一緒に働けて、戦えて、心強く嬉しかったです。次の部隊でも……頑張ってください……」

 

 

 

はやてさんの挨拶が終わった後、俺たちは練習場に集められて、そこで最後の模擬戦をした。

まぁ、俺たちらしい終わり方だなと思ったよ。

 

 

 

 

六課解散後は、それぞれ各地に散らばっていった。

 

 

 

エリオとキャロ、ルーテシアは辺境自然保護隊に転属。

 

スバルは特別救助隊からスカウトされ、フォワードトップとして活躍中。

 

ティアはフェイトの元で、執務官補佐をすることになった。

時折、ちょっとしたドタバタはあるけれど、それはそれでうまくやっている。

 

 

ヴァイス陸曹は武装局員資格を再取得し、ヘリパイロット兼狙撃手の道に戻った。

 

 

はやてさんは特別捜査官として復帰。守護騎士一同と共に任務を続けている。

 

 

ヴィヴィオは正式になのはさんの養子になり、名前も高町ヴィヴィオとなり、本人の希望で聖王教会系列の魔法学院に通っている。

 

 

なのはさんはJS事件での昇進は辞退し、教導隊に戻り、戦技教導官としてそして空戦魔導師としての道を選んだ。

 

 

戦闘機人の連中は、ギンガさんの更正プログラムを受け、それぞれ管理局内で働くことになった。

何人かはナカジマ三佐が、養子として引き取った。

 

こんな事、俺がいた世界じゃ、絶対考えられなかったのにな……。

本当に、良い意味で歴史は変わったよ。

 

 

 

俺の進路はというと……。

 

 

マリーさんの元でデバイスマイスターの資格を取るために、しばらく本局勤めになる。

残念ながら、今の状態では、執務官の過酷な任務は難しい。

 

 

体が完治するまでは、色んな方面の資格を取って視野を増やそうと思う。

完治したら、フェイトかティアの元で執務官の研修を受けて、資格を取ろうと思っている。

 

 

ちなみにフェイトにこの話をしたら――――。

 

 

 

「フィルの執務官研修は、絶対に私がするからね!! ティアナの元に行っちゃ駄目だよ!!」

 

 

 

その気持ちは嬉しいんだけど、フェイトが担当するのは難しいと思う。

おそらく俺は、ティアかクロノ提督のところでやることになるかな……。

 

 

できれば、クロノ提督が良いんだよな。

あの人は、修羅場をくぐってきてるし、公平に育ててくれるからな。

 

 

 

まぁ、出来たとしても今すぐじゃない。

その時になったら、お願いしてみよう――――。

 

 

 

そして――――。

 

 

 

 

 

数年後

 

 

 

 

 

『おめでとう、フェイトちゃん、フィル!!』

 

 

 

様々な事を乗り越え――――。

 

 

今日俺とフェイトは、結婚式を迎えることになった。

 

 

旧六課メンバーもみんな来てくれて、盛大な結婚式だ。

さらに戦闘機人のみんなも来てくれている。

 

 

みんなに祝福される結婚……。

 

 

こんな時を迎えられるなんて思わなかった。

 

 

 

 

 

「……私達、ずっと……一緒だよね」

 

「誓うよ……。俺たちは、ずっと一緒だ……」

 

 

 

 

俺たちはみんなが見守る中、誓いのキスをする。

 

 

 

不器用で、優しい恋人同士が、永遠の絆と愛を誓い合った。

 

 

 

幸せな……誰よりも幸せな二人……。

 

 

 

空は、そんな二人を……。

 

 

 

祝福するかのように、晴れ渡っていた――――。

 

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。