魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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第20話 翼、ふたたび

『……こちらは昨日、テロ事件の被害を受けた、時空管理局、ミッドチルダ地上本部の上空です。施設の被害や負傷者の数、事件の詳細については、未だ、管理局側からの発表はありません。事件直後に、犯人らしき人物から犯行声明があった模様ですが、その内容については、慎重な検討の後に公表すると、広報部からの報告がありました……』

 

 

 

部屋一帯に、机を叩いた音が響き渡る。

 

 

 

「くそ!! 本部をみすみす落とされるとは!!」

 

「……中将」

 

「これでは。何のためにあいつが警告してくれたのか!!」

 

 

 

地上本部が落とされ、管理局内のシステムは、まだほんの一部しか回復していない。

 

 

 

「状況はあまり良いとはいえません。先程、委員会より連絡がありました。中将への緊急査問が行われるそうです」

 

「……やはり、現場に出たのは拙かったか」

 

「はい。また、非魔導師によって構成された部隊による成果が大きかったのも、一因かと」

 

「それならかまわん。むしろ好都合だ」

 

 

 

儂らがした戦い方は、魔法が使えない奴らでも戦えるやり方だ。

己の肉体を磨き上げ、そこら辺にある道具で対応していたのだからな。

 

 

 

「同時に、アインヘリアルの運用も……」

 

「中断されたのか?」

 

「はい」

 

「……やっとか。むしろ止まってくれた方がありがたい」

 

 

 

あんなガラクタない方がマシである。

 

守るべき市民もろとも、街ごと吹っ飛ばすような大砲を向けたところで、抑止力になるわけがない。

犯罪が無くなるどころか、むしろ増える。

 

 

 

「オーリス、お前にはしばらく苦労をかけるが、フィルのこと頼んだぞ」

 

「はい、おそらくこれが、あの子にしてあげられる………最後のことでしょうから……」

 

 

 

先ほど八神はやてから、後で話がしたいと連絡があった。

さて、お前があいつのしてきたことを託せるか、それを見定めてもらうぞ。

 

 

 

 

*    *    * 

 

 

 

 

機動六課 

 

 

昨夜、襲撃を受けたこの場所も、地上本部に負けず劣らず酷い有様だった。

地上本部と同じく、破壊された施設にガジェットの残骸が散乱、本局や地上本部の調査班が現場検分を行っている。

 

昨日の戦闘で、傷が少なかったあたしは検分に立ち会っていた。

とはいえ、フィルが抜けてしまった事は、全員の心に深い傷となっていた。

 

 

 

「酷い事になってしまったな……」

 

 

 

あたしが検分を行っていると、後ろからシグナム副隊長が近付いてきた。

 

 

 

「あ、シグナム副隊長。病院の方は?」

 

「重傷だった隊員達も、峠は越えたそうだ」

 

「そうですか……良かった。とりあえずはひと安心ですね」

 

「高町隊長は?」

 

「中です」

 

「様子はどうだ」

 

「いつも通りです、しっかりお仕事されてます。さらわれちゃったヴィヴィオの事とか

……負傷した隊員たちのことを確認だけしたら、後は少しも……」

 

 

でも、明らかに無理しているのがわかる。

なのはさん、あたし達の前だから気丈に振る舞っているけど――――。

 

 

 

 

「そうか……」

 

「あっ……」

 

「こちらは私が引き継ぐ。お前も病院に顔を出してくるといい」

 

「ですが……」

 

「行ってやれ。ギンガやスバルのこともあるからな……」

 

「……はい」

 

 

 

正直ありがたかった。

今はスバルのそばに一刻も早く言ってあげたかったから……。

 

あたしは、フィルの残してくれたサンダーを取りに行くため、格納庫に向かっていた。

あのバイクは、あいつとの思い出のバイクでもある。

 

あたしは今後の予定を組み立てつつ、歩きながらなのはさんに念話を飛ばした。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

(なのはさん、ティアナです)

 

(ああ……なに?)

 

(シグナム副隊長が、現場を変わってくださって。ちょっと病院のほうに行ってきます)

 

(そう。フェイト隊長も、向こうに向かってるはずだから……)

 

(了解しました……行ってきます)

 

(うん、気をつけて……)

 

 

 

ティアナとの通信が終わり、しばらく歩いていると……。

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

そこにはヴィヴィオが持っていたウサギのぬいぐるみが、ボロボロになって落ちていた。

それを拾い上げたときは、いたたまれない気持ちでいっぱいになっていた。

 

なんで、わたしはあの時ヴィヴィオを助けにいかなかったんだろう。

何のためにフィルが傷ついて、戦闘機人と戦ったんだ。

 

 

 

 

 

*     *      *

 

 

 

 

聖王医療院

 

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……留守を預かっていたのに……六課のこと守れなくて……うわぁぁぁぁぁ……」

 

「シャーリーのせいなんかじゃないよ。泣かないで……」

 

「それにヴィヴィオのことも……なのはさんや、みんなに、なんて謝っていいか……」

 

「シャーリー……アルト……」

 

 

 

交代部隊は六課に残っていたとは言え、彼らには悪いが、正直対ガジェットや戦闘機人戦の戦力としては、ほとんど役に立たない。

 

あの時六課に残っていて、敵に対抗できるだけの力を持っていたのは、シャマルとザフィーラ、そして辛うじてヴァイスだけだった。

 

 

完全に私達のミスだ!!

フィルから聞いていて、この事は予測できていたことなのに!!

 

 

そしてフィルは、クアットロの罠に落ちてしまった……。

 

 

フィル……本当にごめんなさい……。

 

 

私……肝心なときに助けてあげられなかった……。

 

 

そしてティアナ――――。

 

 

あなたとの約束……守れなかった。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「無理すんな……酷い怪我だったんだぞ……」

 

「平気よ。ザフィーラに比べれば、私の怪我は軽いもの……」

 

 

 

戦闘機人は何とか倒したが、あの二人を倒すのに、魔力の大半を使ってしまった私達には、六課を守りきる力はのこされていなかった。

正直、生きていることが奇跡かもしれない。

 

 

 

「そっちは、大丈夫だったの?」

 

「ああ……ゼストのおっさんも投降してくれてからな。今は保護観察として、いてもらってる」

 

「そう……」

 

「ザフィーラは完治まで時間が掛かるだろうって……ヴァイス君も……峠を越えたとはいえ、当分は……」

 

「ああ……」

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

サンダーをかっ飛ばして、病院に駆けつけたあたしは、スバルとギンガさんとエリオの収容されている病室の位置を確認していた。

 

 

でも、ここにフィルはいない。

 

 

あのとき――――。

 

 

フィルは最後の力を使って、転移でどこかに行ってしまったから……。

 

 

フィル、今あんたはいったいどこにいるのよ……。

 

 

 

「「「あっ……」」」

 

 

 

室に入ると、それに反応したチビッ子トリオが振り向いた。

左腕をつってはいるが、何とが動けるエリオと、ヴォルテールの暴走で、魔力を使いすぎてしまったキャロ。

その暴走とまとめようとして、真竜の間近までいき、キャロを止めたルーテシア。

 

 

 

 

「……ティア」

 

「ティアナ……」

 

 

 

スバルもギンガさんも、身体の損傷の方は問題なさそうだったが、精神的に参っているようだった。

 

 

 

「差し入れ。色々買ってきたわよ。どうせ五人とも、ロクにご飯も食べてないんでしょ?」

 

 

 

両手に提げていた巨大な袋を、テーブルの上にと置いた。

エリオ達にはパンを、スバルとギンガさんには缶ジュースを渡した。

 

ギンガさんの方は、もう殆ど支障はない状態になっている。

毒素も完全になくなっていて、フィルが魔力を与えたので、もうじき完全に回復する。

 

 

 

「もう……動かせるんだ……」

 

「神経ケーブルがいっちゃってたから……まだ、うまく動かせないんだけど……何日かで元通りだって……」

 

「ちびっ子たちには、どこまで?」

 

「……あたしとギン姉の生まれとか、その辺は……」

 

「悪かったわね。あたしが止めてたの、スバルの身体のこと。しばらく秘密にしときなさいって……」

 

「あっ……」

 

「いえ……」

 

 

 

スバルは相変わらず落ち込んでいるのか、動きに精彩を欠いて目にも力が無い。

ギンガさんも同じような状態だった。

 

 

 

(エリオ君、ルーちゃん……)

 

(あっ……)

 

(うん……)

 

「スバルさん、ギンガさん、あったかいスープとか、欲しくないですか?」

 

「食堂で売ってましたから、買ってきます!!」

 

「ちょっと……行ってくる……」

 

 

 

エリオとキャロとルーテシアは病室から出て行った。

あの三人にも気を遣わせちゃったわね。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

「ティア……ごめんね……」

 

「ごめんなさい……」

 

「ふぅ……何に対してのごめんよ。あたしやフィルの言うことを聴かずに先行しすぎたこと? 大怪我してみんなに迷惑かけたこと? ギンガさんは……もしかしてあのこと気にしてるんですか?」

 

「……ええ……」

 

「……色々……」

 

「後で、マッハキャリバーにも謝っときなさいよ。酷い破損状況だったんだから……」

 

「うん……」

 

 

 

ギンガさんもスバルも、後悔でさいなまれてしまっている。

こういった時、あいつならどういう風に言うんだろう……。

 

 

 

「私は……取り返しのつかないことをしてしまった……私の油断のせいで、フィルをあんな目に!!」

 

「ギンガさん……」

 

「私がいなければ、フィルはあんな目に遭わなくて済んだのよ!! フィルだってきっと私のこと恨んでる!!」

 

 

そんなことはあいつは思っていない。

そんなことを聞いたら、あいつは本当に悲しみますよ!!

 

 

 

「ギン姉!!」

 

「ギンガさん!!」

 

 

 

いったいどうしたらいいの――――。

今のギンガさんを救えるのはあいつだけ。

 

でも、そのあいつは――――。

 

 

そう思っていたとき――――。

 

 

 

 

「……そんなこと、これっぽっちも思ってないよ……」

 

 

病室の扉が開き、そこには――――。

 

 

「「「フィル!?」」」

 

 

 

フィルの姿があった。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

「フィル……あんた、いったい今までどこに?」

 

「説明は後だ。それよりギンガさん……」

 

 

 

俺はギンガさんの元にいき、しゃがんで視線を同じにし、ギンガさんの両肩に手を置く。

肩がふるえてるのが伝わってくる。

 

 

 

「ギンガさん、それ以上自分を責めないで。そんなこと誰も望んでないです……」

 

「だけど、私のせいであなたは!!」

 

「ふぅ……少しはプラスに考えましょう。前の歴史だとギンガさん、スカリエッティに連れさらわれ、スバルとガチで戦っていたんですよ。そう考えれば、俺の怪我くらいですんだんですから……」

 

 

前の時――――。

ギンガさんとスバルは、スカリエッティの罠にはまり、死闘を繰り広げてしまった。

 

世界の修正力を考えても、俺の怪我くらいですめば安いものだ。

 

 

 

「……ばか……本当に馬鹿よ……あなたは……」

 

「馬鹿で大いに結構。それが俺の性分ですしね」

 

 

 

 

 

しばらくギンガさんも落ち着き、俺もそっと離れる。

少し時間がいると思い、俺とティアは部屋から出た。

 

 

部屋から出てから、ティアの様子が少し違っていた。

さっきもそうだったが、ああいったときは普段なら、怒鳴られるところだが……。

 

 

 

「あんた……今までどこにいたのよ。あの傷は、正直そんなすぐに治るものじゃないわよ」

 

 

ティアの目は嘘は許さないって訴えてる。

 

 

「そうだな……ティアには話しておくよ……実はな……」

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

昨日 アースラ艦内

 

 

 

「ルーテシア……大丈夫かしら……」

 

 

 

自分の娘が管理局員となって戦っているのは、親として不安でしょうがないが、自分がしてしまった罪の償いと、それを自分の意志で戦うと決めた、あの子の気持ちは止められない。

 

 

そんなことを考えてると、フィルが転移で現れた。

 

 

 

「……ぐっ……っぅぅぅぅ……」

 

「フィル!! 酷い傷!! 急いでメディカルポッドに入れないと!!」

 

 

 

私は緊急通信でマリーさんに連絡を入れて、フィルをメディカルポッドに運んだ。

傷がかなり酷く、正直メディカルポッドを使っても、助かる可能性は10%以下だそうだ。

 

 

 

「どうですか……フィルの容態は……」

 

「傷は何とかふさがったけど、魔力が足りないの。このままじゃ……」

 

 

 

生命力とも言える魔力が決定的に少なすぎる。

このままじゃ間違いなくフィルは死ぬ。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

(フィル!! フィル、応えて!!)

 

 

 

さっきからフィルに呼びかけてるけど、生命力がほとんど無く、全く反応がない。

さっき、ギンガに魔力を殆ど渡しちゃったから……。

 

こうしてる間も体温が低下してきてる。

 

 

 

(……もう……これしかない……)

 

 

 

私は、かつて女神と会ったときのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

異空間  

 

 

「フェイトさん、あなたにお願いがあるんです……」

 

「お願いって何ですか?」

 

「私は、これからフィルの魂をここに呼び寄せます。そして、彼に過去を変えて欲しいと頼むつもりです」

 

「過去を……ですか?」

 

「先にティアナ・ランスターにお願いしたのですが、生き返るチャンスは、彼に与えて欲しいと言われ……」

 

 

 

ティアナ、相変わらずフィルのことが優先なんだね。

その一途な気持ちは、うらやましい。

 

 

 

「単刀直入に言います。あなたの魔力を彼に託してほしいのです。今のまま行っても、返り討ちになってしまいます。ですから……」

 

「何で私なんですか。それでしたらティアナでも……」

 

「………情けない話ですが、フィルと合う魔力波長が、あなたしかいなかったんです。安らかな眠りについていたあなたに、こんな事を頼むのは申し訳ないのですが、これしか手が浮かばなかったんです。私のことをいくら恨んでくれてもかまいません。お願いです。彼の力になってあげてください!!」

 

「頭をあげてください……むしろ感謝しますよ」

 

 

 

どんな形にしろ、もう一度戦うことが出来て、みんなの力になれるんですから……。

なにより、大好きなフィルの力になれるんだから……。

 

 

 

「フェイトさん……」

 

「だから、私はフィルのために力を貸します」

 

「ありがとう……ございます……」

 

 

 

こうして私はフィルに力を貸すことになった。

 

具体的には魔力融合すると、フィルの魔力が上がり、私が使えていた技が使えるようになる。

それによって戦闘機人達とも互角に渡り合える。

 

だが、万が一ということもある。

 

最後の切り札として女神に渡された力で、私が持ってる魔力を全て、生命力に変えることによってフィルの命を助けることが出来る。

 

その能力でフィルを助けるしかない。

 

 

ごめんね………フィル……。

 

 

もう、あなたの力になれないけど、このままあなたが死ぬよりはずっと良いから……。

 

 

 

(私の魔力……お願い……命となってフィルを救って……)

 

 

 

フィル……私達はずっと一緒だよ。

 

 

 

そして――――。

 

 

この世界の私、フィルのことお願いね……。

 

 

金色の光がフィルを包み込み――――。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「フェイトさん!!」

 

「気がついたのね、フィル」

 

「メガーヌさん、マリーさん、ここは?」

 

「アースラの医務室よ。あなたは最後の力でここにきたのよ」

 

「そう……だった。最後のあがきで、何とかアースラにワープしたんだった」

 

 

最後の賭だったが、うまくいったんだ。

意識も朦朧としていたから、駄目かと思ったけど――――。

 

 

 

「それにしても、よくあの傷が治ったわね。いくらメディカルポッドを使ったといっても、直る見込みはほとんど無かったのよ」

 

「えっ? でも俺、完全に直ってますよね」

 

 

 

傷口を見ても完全にふさがっているし、体力も完全に復活してる。

あれ……おかしいぞ。魔力がいつもより少ない?

 

 

 

「マリーさん、治療中に何か変わったことありましたか!!」

 

「えっ?」

 

 

 

マリーさんは、治療中の様子をモニターで確認すると……。

 

 

 

「これは!! 魔力? フィルのとは違うわね……どちらかというとフェイトさんに近い?」

 

 

 

まさか……そんな!!

俺は体内の魔力を探ると――――。

 

 

――――感じられない。

 

 

フェイトさんの魔力が、全く身体の中から感じられない!!

 

 

 

(マスター)

 

(どうしたんだ、プリム)

 

(お話ししたいことがあります。お一人できてもらえますか)

 

(わかった)

 

 

 

俺はプリムをおいてある、自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

《マスター……》

 

「いったい何があったんだよ!!」

 

 

さっきから嫌な予感が止まらない――――。

 

 

《……》

 

「プリム!!」

 

 

 

プリムがようやく口を開き、話し始めた。

 

 

 

《落ち着いて聞いてください……。彼女は……マスターの命を助けるために、魔力を命に変換したんです!!》

 

「なん……だと……」

 

《………彼女からの……最後のメッセージがあります。聞いてください……》

 

 

 

プリムが、最後に託されたフェイトさんからのメッセージを再生すると……。

 

 

 

『これを聞いてるって事は、フィルは助かったって事だよね。勝手なことをしてごめんね。でも、あのままあなたを死なせることは私には出来なかった。もう残された手段は、私の魔力であなたの命になること。それしか無かったの……』

 

「フェイト……さん……」

 

 

なんだよ……。また俺は大切な人を犠牲にしたのかよ。

本当に俺は、なにをやってるんだよ――――。

 

 

 

『フィル、悲しまないでね。元々私は、スカリエッティとの戦いで死んでしまってるの。だから私は、みんなの元にいくだけ……本来のあるべき所へね……』

 

「……はい……」

 

『最後まで一緒に戦えなくてごめんね。信じてるよ……フィル達が勝つのを………』

 

 

 

そこで再生メッセージは終了する。

 

 

 

《これが彼女からの最後のメッセージです。マスター!!》

 

「……ああ……分かってる。プリム、絶対勝つぞ、この戦い!!」

 

《はい!!》

 

 

 

――――今は泣いてはいけない。

 

 

今まで、俺の力になってくれたあの世界のフェイトさん。

 

 

そして――――。

 

 

俺に希望と託したティアのためにも、俺は負けるわけにはいかないんだ!!

 

 

見ていてくれ、ティア、フェイトさん。

二人のためにも、みっともない戦いは出来ない!!

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「と、いうわけだ……」

 

 

 

フェイトさんの魔力が無くなったことはぼかしているが、それ以外のことは全部話した。

 

 

 

「……そう」

 

「ティア?」

 

 

 

ティアが、いきなり俺に抱きついてきた。

驚いてティアの顔を見ると、ティアは涙をボロボロ流していた。

 

 

 

「ティア……」

 

「心配したんだからね!! あんたがこのままいなくなったらって……うわぁぁぁぁ………」

 

 

 

何やってるんだよ、俺は。

身近な人が傷ついて、一番傷つきやすいのはティアじゃないか。

 

ティーダさんの時で、それは分かっていたことだろうが!!

 

 

 

「ごめん……ティア……」

 

 

 

俺はただごめんとしか言えなかった。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

地上本部、最上層エリア直通エレベーター

 

 

 

「……それで、私に聞きたいこととは?」

 

「レジアス・ゲイズ中将のお仕事についてと……フィルが私達に極秘で動いていたことです」

 

「特秘事項が多分に含まれます。個人として解答出来ることは、ほとんどありませんが」

 

「聞くだけ……聞いていただけますか……」

 

 

 

正直レジアス中将のことはどうでも良い。

でも、フィルがどのくらい私達のためにしてくれていたのか……。

 

オーリス三佐……お願いや。

 

せめてそのことだけは教えて欲しいんや……。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

陸士108部隊、部隊長室

 

 

 

「まずは、どっから話したもんかな……」

 

『三佐が追っていらした、戦闘機人事件からでしょうか』

 

 

 

モニター越しに提案してきたのはクロノ・ハラオウン提督。

隣には聖王教会騎士カリム・グラシアの姿もあった。

 

 

 

テーブルを挟んだ反対側のソファーには、機動六課の高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、シグナム、ヴィータの四人が座っている。

 

 

 

「出来れば、ギンガとスバルの事。奥様の事についても……」

 

「ああ……戦闘機人の大元は人型戦闘機械。これはずいぶん古くからある研究でな。旧暦のかなり古い時代から行われてきた。人間を模した機械兵器、いろんな形式で開発されたが、ものになった例はあまり多くない。それがあるとき劇的な進化を遂げた……。25年前ばかりのことだ……」

 

『機械と生体の融合自体は、特別な技術ではない。人工骨格や人工臓器など、それこそ古くから使われている。ただ……』

 

『足りない機能を補うことが目的ですから、強化とはほど遠く拒絶反応や長期使用におけるメンテナンスの問題もあります』

 

「だが、戦闘機人はな。素体になる人間の身体の方を弄る事で、それを解決しやがった」

 

「「「!!」」」

 

「誕生の段階で戦闘機人のベースとなるよう……機械の身体を受け入れられるよう……遺伝子レベルで調整された子供達……それを生み出せる技術を、あの男は作り出した……」

 

 

 

それが……ジェイル・スカリエッティ。

 

 

 

「十一年前。まだスカリエッティなんて男が絡んでるとは知らなかったが……うちの女房は陸戦魔導師として、捜査官として戦闘機人事件を追ってた。違法研究施設の制圧、暴走する試作機の捕獲。スバルとギンガは、事件の追跡中に女房が助けた戦闘機人の実験体なんだ。……うちは子供が出来なくてな。二人とも、髪の色や顔立ちも、なんだか自分に似てるしってよ……」

 

「まあともかく、俺達の娘として、人間として育てる……って言い出した。技術局でのメンテだの、検査や研究協力だのも多少はあったが、二人とも、実に普通に育ったよ」

 

「女房が死んだのは、あいつらに、それなりにものごころがついた頃だった。特秘任務中の事故だとかで、死亡原因も真相も未だに闇の中だ。女房はどっかで、見ちゃいけねぇものを、踏み込んじゃいけねぇ場所に踏み込んじまっただろうと思っている………命を捨てる覚悟で、事件を追っかけりゃ良かったんだが……女房との約束でな。ギンガとスバルをちゃんと育ててやるってのは。だが、まぁずっと、地道に調べてはいたんだ。そのうち、告発の機会もあるかもしれねぇってな……」

 

 

 

俺はすっかり冷め切った湯飲みの茶を、一気に飲み干した。

 

 

 

「八神は自分の所の事件に戦闘機人がからむって予想して、俺に捜査の依頼をしてきたって訳だ。あのちびだぬきはよ!!」

 

「「「「ふふっ」」」」

 

「まぁ、家の女房と娘達についてはこんなとこだ……。後は合同捜査の方だが……お嬢……」

 

「はい……」

 

 

 

次は現在進行形で行われている、捜査についての報告に移行する。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

地上本部

 

 

 

会議が終わり、私と八神二佐は廊下を一緒に歩いている。

 

 

 

 

「戦闘機人、人造魔導師。いずれも、かつてはレジアス中将が、局の戦力として採用しようとした技術です」

 

「随分と昔の話です……」

 

「安定して数を揃えられる量産可能な力。倫理的問題を問われず、量産によるコストダウンさえできれば実現可能な計画。レジアス中将はその計画をどこかで、秘密裏に進めてはいませんでしたか?」

 

「スカリエッティは、その依頼先として理想の存在です。違法研究者でさえなければ、間違いなく歴史に残る天才ですから」

 

 

 

なるほど、一応そこにはたどり着いていたんですね。

でも、まだ足りない……。

 

 

 

「恐らくは、スカリエッティとの司法取引が行われ、中将は、機が熟するのを待っていた。スカリエッティが、人造魔導師や戦闘機人を大量生産し、それを地上本部が発見、摘発する……という状況を作れるのを。そうなれば、摘発したそれらを試験運用、という形にもって行けるでしょうし……その途中、掴まれたくない事実に近付いた捜査員を事故死させるのも、優秀な人造魔導師素体を得ることも!!」

 

「………というのが……2年前までなら言えたんですけど……」

 

「ほう……」

 

「最近は地上本部の動きが違ってきてます。機動六課のこともそうですけど、何よりアインへリアルの計画が事実上停止している状態です。これをおかしいと思わない方が変です……」

 

 

本局育ちで、大局が見えない子かと思ってましたが――――。

 

 

「正直、そのことよりもこっちが本題なんです。フィルが私達に内緒でしていることは何ですか!!」

 

「何をとは……どういう意味ですか?」

 

「もう……隠さないで欲しいんです。フィルが私達に、危害が及ばないようにしてるってのはわかります。でも、私は機動六課部隊長として、そして……」

 

「大切な仲間として、もうフィルだけに背負わせるのは嫌なんです!! お願いです!! フィルがしようとしていることを教えてください!!」

 

 

フィル――――。

あなたが必死で護ろうとした人達は、ちゃんとあなたの気持ちを分かってくれてますよ。

 

だから私も――――。

 

 

「………八神二佐」

 

「はい……」

 

「これを……」

 

 

 

私が彼女に渡したのは一枚の書類――――。

その書類の中身は……。

 

 

 

「これは!!」

 

 

 

後は……頼みましたよ。

未来は、貴女達にかかってるんですから――――。

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

ミッドチルダ 秘密ドック

 

 

私はオーリス三佐から聞いてこの場所にやってきた。

あの書類では、フィルはもう半年前からこの事をしていたとのことだった。

 

クロノ君と連携を取っただけでなく、地上本部から許可を得たり、スカリエッティにばれないように隠密に行動したりしてた。

 

本局のことだけでなく、地上のこと、そして今後のことも考えてのことだった。

 

 

その結果、この新型実験艦アースラが完成した。

 

 

 

「フィルは……たった一人でここまで進めていたんやね」

 

「ああ……クロノ君の協力もあったけど、実質やっていたのは彼だったからね……」

 

「ロッサ、私は本当に部隊長として失格やね。ヴィヴィオもさらわれてしまったし、部隊員も怪我させてしまった」

 

 

フィルはたった一人で、未来を変えようとがんばっていたのに――――。

 

 

「はやて……後悔ならいつでも出来る。今は彼が作ってくれた道を受け継ぎ、そして今度は君がそれを引き継ぐ番だよ」

 

「せやな。フィルはここまで道を作ってくれた。今度は私がやる番や!!」

 

 

 

今度は私が頑張るから――――。

それが、ここまでがんばってくれたフィルへの私の答えや。

 

 

「アースラ……この戦いは私達の未来が掛かってる。私達と一緒にもう一度羽ばたいてや……」

 

 

 

本当なら廃艦となっていたはずのアースラ。

だけど、この戦いのために生まれ変わった。

 

 

だから――――。

 

 

私も、もう一度羽ばたくんや!!

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

機動六課、仮隊舎 屋上

 

 

 

「なのは……さん?」

 

「フィル……」

 

「どうしたんですか……。こんなところで……」

 

 

 

なのはさんのいつも感じさせている活発な印象は全くなく酷く落ち込んでしまっている。

珍しく濃い目の化粧をしているようだけど、そんなんじゃごまかせない。

 

恐らく昨日は一睡も出来ず、目の下に出来た隈や、やつれた顔を誤魔化すためにやっている。

 

 

 

「ヴィヴィオの事……考えてましたか?」

 

「うん……約束……破っちゃったなって……」

 

 

 

脳裏によぎったのは、最後の指切りの約束……。

 

 

 

「わたしがママの代わりだよって……守っていくよって約束したのに……。側にいてあげられなかった……わたしは守ってあげられなかった!! あの子……きっと、泣いてる……」

 

「なのはさん……」

 

 

 

取り乱しそうな、なのはさんの身体を、俺はきゅっと抱き寄せる。

全身が悲しみで震えて――――。

 

 

「ヴィヴィオがひとりで泣いてるって、悲しい思いとか、痛い思いをしてるかもって思うと、身体が震えて、どうにかなりそうなの!!」 

 

「今すぐ助けに行きたい!! だけど……わたしは……」

 

「大丈夫、ヴィヴィオは絶対大丈夫ですから…………」

 

「う……うっ……うわぁぁぁぁぁ………」

 

 

 

なのはさん、今はいっぱい泣いてください。

俺に出来るのは、そんなあなたに泣く場所を貸すことくらいですから――――。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「……本当にありがとう。ずっと……ぎゅっと、してくれてたんだね」

 

「……俺に出来るのは……これくらいでしたから……」

 

 

そんなことないよ――――。

こうやって、わたしのことを包み込んでくれていると安心する。

 

 

不安も消えていく……。

 

 

わたし一人じゃ、ヴィヴィオのことで押し潰れてたから――――。

 

 

 

 

「………俺も、ヴィヴィオのことは後悔してました」

 

「えっ?」

 

「何で、俺がここに残らなかったのか、どうして転移で真っ先に戻らなかったんだ……。そんな後悔を……いっぱい……いっぱいしました」

 

 

そっか――――。

 

 

後悔してたのは、わたしだけじゃなかったんだね……。

 

 

フィルも……すっと後悔してたんだね……。

 

 

 

 

「だから、お互いに、これ以上後悔しないように助けましょう……。二人できっと……」

 

「うん!!」

 

 

ごめんねフェイトちゃん。今だけはフィルに甘えさせてね。

だから――――。

 

 

 

「ちょ、ちょっと……なのはさん……」

 

「なぁ~に」

 

 

わたしはフィルにぎゅっと抱きついた。

恥ずかしいけど、いっぱいわたしの思いが伝わるように……。

 

 

「あのですね……。 こんな所、誰かに見られたら……」

 

 

むぅ~。フィル、空気読めなさすぎ。

こういうときは黙って抱きしめてくれるのが、男の子なんだよ。

 

 

 

「別に良いのに……。フェイトちゃんなら、今日くらいは許してくれると思うし、それに……」

 

「それに?」

 

「実は……さっきから、見られてたんだよ。わたし達……」

 

「えっ?」

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

なのはさんの言葉で、扉を見ると、フェイトさんだけでなく、ティアとキャロ、そしてルーテシア、さらに、はやてさんまで覗いていた。

 

 

 

「お、お前ら……」

 

「ごめんフィル……。でも、あんたはきっと、なのはさんと同じように後悔してるって……そう思ったから……」

 

「ティア……」

 

「フィルさん、きっとわたし達がヴィヴィオのことを言っても、逆にこっちが励まされてしまうと思いましたから、悪いとは思いましたが……」

 

「申し訳ないと思ったけど、フィルさんとなのはさんのことずっと見てた。今のフィルさんとなのはさん、同じ後悔を持っている同士だったから……」

 

 

キャロも、ルーテシアも、みんな、俺たちのこと心配してくれてたんだな……。

 

 

「そっか……済まない。みんなに気を遣わせて……」

 

「ほら、そうやって自分より私達を優先しようとする。やっぱり良かったよ。あの場で気持ちをはき出させて……似たもの同士だよ、なのはもフィルも……」

 

「「あ、あははは……」」

 

 

 

そんなに似てるか。俺となのはさん?

少なくても俺の方が、もう少し自己中だぞ。

 

 

 

「でもね……」

 

 

 

そう言ってフェイトさんは人差し指で、俺のおでこをツンとして……。

 

 

 

「二人じゃないよ。三人だからね。私だってヴィヴィオのママなんだからね……」

 

「「フェイトさん (ちゃん)」」

 

「それも違うで」

 

「「はやてさん (ちゃん)?」」

 

 

はやてさんは、俺たちみんなを見渡して……。

 

 

「みんなでや。六課のみんなでヴィヴィオを助けるんや。そやろ、ティアナ、キャロ、ルーテシア!!」

 

「そうよ、あたし達のこと忘れんじゃないわよ!!」

 

「みんなで力を合わせて」

 

「ヴィヴィオを……助ける」

 

「「みんな……」」

 

 

 

そうだ、俺にはこんなにも心強い仲間がいる。

大丈夫、俺たちは負けない――――。

 

 

この仲間達がいる限り……。

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

スカリエッティ・ラボ

 

 

 

処置台の上に両手、両足をバインドで、動きを封じられた聖王のマテリアルの姿があった。

右側にはディエチが、左側にはクアットロの姿があった。

 

 

 

「あ……ああ……ふぇぇ……」

 

「はい、お姫様。怖くないですよ~」

 

「バイタルも正常。魔力安定よし、移植準備オーケー」

 

「ふむ、良いタイミングだ」

 

 

 

私とウーノは部屋に入り、ウーノからレリックを受け取る。

 

 

 

「ああっ……いやぁぁぁぁぁ!!」

 

「お姫様、きっと分かるのよ。自分がこれからどうなるのかってことを~」

 

「ママッ!! パパッ!!」

 

「泣いても叫んでも、だ~れも助けになんか来てくれませんよ~」

 

 

 

クアットロではないが、子供の泣き叫ぶ声は、何度聞いても快感だな。

 

 

 

「うわぁぁぁ……うわぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

私はレリックを持ち、マテリアルに近づく……。

 

 

 

「さて、始めようか。聖王の器に王の印を譲り渡す。ヴィヴィオ、君は私の最高傑作になるんだよ!!」

 

「ママァァァァ、パパァァァ!!」

 

 

 

 

 

*       *      *

 

 

 

 

翌日、機動六課 仮隊舎 ミーティングルーム

 

 

 

八神部隊長の命令で、負傷者以外のメンバーが全員集結させられた。

負傷者もモニター越しに話を聞いていた。

 

 

いよいよアースラの出番になる――――。

 

 

秘密ドックまではトランスポーターを使うので、その座標を打ち込んでいた。

 

といっても仮隊舎なので、ポーターが3基しかないので、全員の移動にはかなり時間が掛かることになる。

 

しかも、先に俺が行っておかないと、向こうとの連携が出来ないのでそれも苦労する。

事前には連絡してあるが、それでも六課メンバーとマリーさん率いるメカニックとの連携をとる必要があるからだ。

 

だから、こっちの方はティアとフェイトさんに任せることにした。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

「これで最後ですね」

 

「うん、私となのはで最後だよ」

 

「それじゃ、出発前にデータを消しておきますね。ここからドックの居場所がばれないように……」

 

「お願いね、ティアナ」

 

「はい!!」

 

 

 

あたしはポーターを操作し、この転移が終わったら座標データは完全に消去するようにした。

これでばれてしまったら、今までの苦労は水の泡になってしまう。

 

フィルが何のために、今まで苦労して秘密裏でやってきたと思うのよ。

操作が終わると、あたし達はドックに移動した。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

 

ドックに来ると、はやてを始め全員がそれぞれ部署に就き始めている。

ティアナもフォワードと合流し、自分たちの部署に散っていった。

 

フィルがマリーさんと一緒に進めていたこともあって、メカの方は最終チェックを除いて準備完了になっていた。

 

戦闘班もそれぞれ各部署の武器の説明を受け、シミュレートをしていた。

管制室の方もグリフィスが中心となり、発進準備を始めている。

 

そして私となのはは、ブリッジに向かった。

 

 

 

「はやて、発進準備はどのくらい出来てる」

 

「現在、85%といったとこや。現在合流出来るメンバーは全員乗り込んだよ」

 

「武器と補充物資の方は」

 

「そっちの方は万全や。前々から準備していただけあって、とんでもないものもあるで……」

 

 

スクリーンの映し出されたのは、一機の戦闘用ヘリだった。

 

 

「戦闘用ヘリ、JF705 XX 六課で手に入れられなかったヘリや。地上本部がこれだけは押さえてたから

な」

 

「それがどうして……」

 

「フィルや。レジアス中将に話をつけてくれて、やっと一機だけ回してくれたんや」

 

「「フィル……」」

 

 

 

画面には、フィルが各部署に指示を出している姿があった。

今、この場で的確な指示が出来るのはフィルだ。

 

現場を知らない私達よりも、的確に正確に指示してくれている。

 

だからこそ、スムーズに発進準備ができている。

 

 

そんなとき、本局のクロノから通信がきた。

 

 

 

『………こちら……クラウディア……アースラ……応答してくれ……』

 

 

 

通信スクリーンに出されたのは、ボロボロの艦内とノイズだらけの通信だった。

 

 

 

「こちらアースラ、いったい何があったんや!?」

 

『……よく……聴いてくれ……。本局は………次元艦隊は……スカリエッティによって壊滅した』

 

「「「!!」」」

 

 

 

次元艦隊が壊滅!?

いったい何があったというんや!!

 

 

 

『俺たちクラウディアも……君たちを助けに……向かうため、本局で準……備してい……た……クアッ…ロのサイバー……テロ……本局に…る…艦隊は全……やら……た……』

 

「そんな!!」

 

 

通信が段々、とぎれとぎれになって、被害の酷さを物語っている。

 

 

「クロノ、被害状況はどのくらいなの」

 

『本のコン……ピュ……と艦隊のコンピ……ュータは、ても………アウ……。クラ……ウ…ィア……の通り……だ……』

 

 

 

いよいよノイズが酷くなり、話も聞き取りづらくなってきた。

それでも、クロノは何とかして私達に通信を送ってくれた――――。

 

 

『残念ながら……もう……アースラが……の希望だ……俺たちも……ポーター……も復…させ……そ……援軍を………ように……』

 

「分かった……こっちは何とかするよ。だからクロノ君達も頑張ってな………」

 

『済まない……何とか……頑張っ…』

 

「クロノ!!」

 

「クロノ君!!」

 

 

通信機器がすべてやられ――――。

 

 

クラウディアからの通信は切れてしまった。

 

 

「二人とも聞いての通りや。援軍は正直期待できない。私達だけでやるしかないんや!!」

 

「「うん!!」」

 

 

 

フィルが、危惧していたことが本当になってしまった。

幸いアースラはコンピュータが独立していたので、サイバーテロは避けられた。

 

 

 

「フェイトさん!!」

 

 

 

フィルが報告のためブリッジにやってきた。

血相変えてきたのは、さっきの通信のことを知ったのだろう。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

「……本局が、やられたんですね……」

 

「うん……」

 

 

 

やっぱり、本局を攻撃してきたか。

俺があっちの立場なら、真っ先に本局をたたく。

艦隊さえ押さえてしまえば、地上の戦力じゃゆりかごは押さえられないからな。

 

 

 

「フィル、報告の方は?」

 

「はい、各部署、全機関オールグリーンです。いつでも発進可能です」

 

「了解や。乗組員に次ぎます。これよりアースラは発進します。全員部署についてください」

 

『了解!!』

 

 

 

部隊長の号令で全員各部署に就き、発進を待った。

発進も間近になったとき、爆発がおき、ドック全体が崩れ始めた。

 

 

 

「な、何や!!」

 

「どうしたの!!」

 

「フィル。もしかして」

 

「どうやら……ここがバレたみたいですね」

 

 

 

外の様子をスクリーンに出すと、大量のガジェットがドックを攻撃していた。

数は500機以上、どうやら本気で、ここで俺たちを生き埋めにしたいらしいな。

 

ドックも本格的に崩壊しだしたとき、マリーさんから通信が入った。

 

 

 

『フィル、ここは私達に任せて、あなたたちは発進して!!』

 

「マリーさん!! でも、このドックの武装じゃ……」

 

 

 

お世辞にもここの設備は武装が十分とは言えない。

ばれないように作ったため、最低限の設備しかなかったのだ。

 

しかも、最終チェックのため、あと30分は発進できない……。

 

 

 

 

『わかってる。でも、なんとか持ちこたえて見せるから……』

 

「……マリーさん、アースラの最終プログラムのインストールを早められませんか? あれさえインストールしてしまえば、発進はできます」

 

 

 

最終プログラム、アルカンシェル・ノヴァに必要なラストプログラム。

完成までぎりぎりまでかかってしまって、今になってしまったが、それさえ入れてしまえば……。

 

 

『出来るだけやってみる。テストなしになっちゃうから、ぶっつけ本番になっちゃうけど……』

 

「それでもかまいません。ここで沈むよりはずっとマシです!!」

 

『……そうね。ここまできたんですもの。ミッドの未来……私たちの未来、あなたたちに託すわね!!』

 

 

 

ガジェットの攻撃で、ドックの中はめちゃくちゃになり、発進ゲートがかろうじて生き残っているだけだった。

そして……。

 

 

 

『プログラム、インストール完了!! アースラ、発進準備完了!!』

 

 

マリーさんからの通信で、ゲートが開いていき……。

 

 

 

「八神部隊長!!」

 

「了解や!! アースラ、緊急発進!!」

 

 

 

 

アースラはその巨体を大空に羽ばたいた。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

スカリエッティ・ラボ

 

 

 

「やはり、出てきましたわね。アースラ……」

 

「うむ……」

 

「本当なら、真っ先に叩いておきたかったんですけど~」

 

 

 

今まで色々調べたけど、アースラだけはどうしても場所特定が出来なかった。

他の戦艦は全部掌握出来たのに、アースラだけは掌握できなかった。

 

 

 

「色々面倒になりそうですわね~」

 

「心配することはないさ。本局の戦力は無力化したし、たがが一隻で何が出来ると言うんだね」

 

「それもそうですわね~」

 

 

 

まぁ、アースラ一隻くらい大目に見ましょう。

そのくらいの戦力がなかったら、張り合いもありませんものね。

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

アースラ ブリッジ

 

 

 

「ふぅ……何とか発進したな……」

 

「まったくやで。一時はどうなるかと思ったわ」

 

 

 

アースラを発進させた後、ドックは完全に制圧されてしまったな。

 

スタッフは全員無事脱出して、とりあえずナカジマ三佐の所に向かうそうや。

全く無茶やで、マリーさんもスタッフのみんなも――――。

 

 

 

「八神部隊長……これを……」

 

「これは……?」

 

 

 

フィルから託されたのは、銀色に光り輝く鍵――――。

この鍵は……もしかして……。

 

 

 

「アースラの……最終兵器、アルカンシェル・ノヴァの封印を解くキーです……」

 

「アルカンシェル・ノヴァ……」

 

「そうです。これが、俺たちの残された最後の武器です……」

 

 

アルカンシェル・ノヴァ――――。

本局艦隊がいない今、私たちが対抗できる手段はもうこれしかない。

 

 

 

「……八神部隊長、マリーさんから託された鍵、あなたに託します……」

 

「フィル……」

 

 

 

――――重い。

 

 

マリーさんとフィルはこれを完成させるために、血の滲む思いをしてきたんや。

この鍵はみんなの……そして……ミッドの人々の思いが込められてる。

 

 

 

「はやてちゃん」

 

「はやて」

 

 

 

鍵を握っている私の手に、なのはちゃん達が手を添えてくれた。

 

 

 

「なのはちゃん……フェイトちゃん……」

 

 

二人は、うんと言って、私を励ましてくれた。

そして、もう一人……。

 

 

 

「フィル……」

 

「はやてさん……」

 

 

 

私達三人の手に、さらにフィルの手が添えられる。

 

 

 

「みんな、ありがとうな。それにフィルも、私のこと名前で呼んでくれて……」

 

「あっ……済みません。任務中に……」

 

「ええよ。私な、いつも思ってたんや。なのはちゃん達は、今では任務中だって名前で呼んでるのに、私は部隊長って呼ばれて、私だけ疎外感がある感じやったし……」

 

 

だから、この戦いの間は名前で呼んで欲しいんや!!

 

 

「「はやて (ちゃん)……」」

 

「本当に……良いんですね」

 

「もちろんや。部隊長って言ったら怒るで。今だけは部隊長として考えないでな。一人の仲間としてみてや。ちなみにこれは命令やで」

 

「分かりました。この戦いの間だけは部隊長としてでなく、一人の仲間として考えます。……はやて……さん」

 

「うん!!」

 

 

 

スカリエッティとの戦い……。

 

 

 

前の時はみんな死んでしまった……。

 

 

 

フィルは、そんな世界でたった一人で戦ってきたんや……。

 

 

 

もう、これ以上フィルの心に悲しみはいらへん!!

 

 

 

スカリエッティ、クアットロ、あんたら、まとめて借りは返したるで!!

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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