魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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第15話 命の理由

「ごめんねフェイトちゃん、車出してもらっちゃって……」

 

「気にしなくて良いよ。私もフィルの迎えがあったしね……」

 

「うん……」

 

「……でも、何かしらの白黒が付いたとしても、どうなるんだろうね」

 

「当面は六課か教会で預かるしかないと思う。受け入れ先を探すにしても長期の安全確認が取れてからでないと……」

 

 

そんな話をしていると、病院から通信が入り―――――。

 

 

「フェイト執務官、聖王教会シャッハ・ヌエラです」

 

「どうされました?」

 

「すみません、こちらの不手際がありまして、検査の間にあの子が姿を消してしまいました」

 

「わかりました。すぐにそちらに向かいます」

 

「お願いします」

 

 

私はギアをトップに入れ、全速力で病院に向かった。

 

 

 

 

*     *    *

 

 

 

 

現在、検査の結果と今後の過ごし方について医者に説明を受けている。

治療魔法で傷口は何とかなっていたが、出血の方は輸血をしなくてはならないほどだったので、少し身体がけだるい状態だ。

 

 

 

「フィルさん、一応退院の許可は出します。しかしそれは、あくまで日常生活が出来るということです。戦闘はしばらく許可できませんよ」

 

「先生、どのくらいの期間になりますか?」

 

「最低でも10日、全快になるには2週間と見てください。補助魔法程度なら大丈夫ですけど、攻撃魔法なんて絶対に使わないでください。いいですね、六課の担当医にもその事は伝えておきますから」

 

「分かりました」

 

 

まぁ、しばらくでかい戦闘は無いはずだから、ここはゆっくりしておきますか。

戦闘以外でもやることはいっぱいあるしな。

 

 

《マスター、良い機会です。少し休んでください!! 私があれほど言っても、全く聞いてくれないし!!》

 

「……すまん」

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

私達が到着すると、シスターシャッハが走ってこっちやってきた。

 

 

「申し訳ありません!!」

 

「状況はどうなっていますか?」

 

「はい、特別病棟とその周辺の封鎖はすんでいます。今のところ飛行や転移、侵入者の反応は見られていません」

 

「外には出られないはずですよね」

 

「ええ……」

 

 

だったら、この建物のどこかにはいる。

子どもの足だったら、そう遠くには行っていないはず。

 

 

「では手分けをして探しましょう。フェイト隊長はシスターシャッハと一緒に、わたしは別の方を探してみます」

 

「フィルにも一応連絡する? 高町教導官」

 

「ううん、フィルには言わないでくれるかな。まだ完治している訳じゃないから……」

 

「そうだね……。それじゃ探しに行きましょう」

 

 

私とシスターシャッハは東の方、なのはは西の方を探すこととなった。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「検査では一応危険反応は見られなかったのですよね」

 

「ええ、魔力量はそれなりに高い数値でしたが、それも普通の子供の範疇でした」

 

「しかし、それでは……」

 

「悲しいことですが、人造生命体なのは間違いないです。どんな存在的な危険を持っているか……」

 

 

確かにあの子は人造生命体だ。

だからといって、その考えは間違ってる!!

 

 

「待ってくださいシスターシャッハ!! あの子のことは騎士カリムがフィルから聞いているはずです!!」

 

「だからこそです!! 聞いた話が本当なら、あの子はとてつもなく危険な存在です!! それだったら今の内に……」

 

 

シスターシャッハが次の言葉を発しようと瞬間、辺りに濃密な殺気が支配し―――――。

そこには……。

 

 

「今の内に……何ですか……」

 

「「フィル!?」」

 

「……今の言葉、どういうつもりか言ってもらおうか。シスターシャッハ……」

 

 

怒りに満ちたフィルの姿だった。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

わたしは女の子を捜して西の外れの方にやって来ていた。

今の所フェイトちゃん達からも連絡がない所を見ると、東の方にはいないかも知れない……。

そんなとき、茂みの中からウサギのぬいぐるみを持った小さな女の子が出てきた。

 

 

「あっ……」

 

 

女の子は怯えているみたい……。

今は不安にさせちゃいけないね……。

 

 

「心配したんだよ……」

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「どういうつもりかって聞いてるんだよ……」

 

「待ってフィル!! これは!!」

 

「ごめんフェイトさん。今は下がってもらえるかな。答えろ、シスターシャッハ。どういうつもりなんだ!!」

 

 

普段の優しいフィルとは違い、殺気に満ちた目でシスターシャッハを睨んでいる。

 

 

「そのままの意味です。あなたの話が本当なら、あの子が世界の破滅の鍵になっているじゃないですか。 それだったら、今の内にあの子を何とかすれ……ば……」

 

「……ふざけるな……」

 

 

な、何、この殺気は……?

なにも力を解放してないのに、この押しつぶされそうなプレッシャーは。

 

 

「ふざけるなよ………あんた……。人の命をなんだと思ってるんだよ!!」

 

「別に私は命を軽んじてなんかはいません!! ただ私は危機が分かっているのに手を打たないのがおかしいって言ってるのです」

 

「その考えが傲慢なんだよ!! 聖王教会はいつから人の命をそんな風に扱うようになったんだ!! あの子はなんにもしてないだろうが!!」

 

「何かあってからじゃ遅いんです!! って、あれは!!」 

 

 

シスターの視線の先には、なのはと女の子が庭先にいた。

 

 

「逆巻け、ヴィンデルシャフト!!」

 

「しまった!!」

 

 

フィルが急いで追いかけようとしたが、私は必死にフィルを止めた。

 

 

「待って、フィル!!」

 

「どうして止めるんですか!! このままじゃ!!」

 

「ここはなのはに任せよう。史実とちょっと違っちゃったみたいだけど、これってあの二人にとっては大事な出会いじゃなかった?」

 

「あっ……」

 

 

そう―――――。

ヴィヴィオはこの時の出会いから、なのはのことを意識し始めたと聞いている。

 

 

「大丈夫、本当に危なくなったら私が止めるから、それにフィルは、今は魔法使用禁止でしょう」

 

「うっ……」

 

「今はなのはを信じよう……」

 

「はい……」

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

ヴィンデルシャフトを構えたシスターシャッハは、今にも女の子を攻撃しそうな勢いだった。

女の子も怯えてしまい、ぬいぐるみを落として尻餅をついてしまっていた。

 

 

「シスターシャッハ、とりあえず武器を下ろしてもらえませんか……」

 

「はぁ……。でも……わかりました……」

 

 

シスターシャッハを止めたわたしは女の子に歩み寄ることにした。

まずはお話をしなくちゃね……。

 

 

「ごめんね、ビックリしたよね……大丈夫?」

 

「……うん」

 

 

地面に落ちていたウサギのぬいぐるみを渡してあげると、それを受け取り少女は立ち上がった。

ついでに服に付いていた埃も払ってあげた。

 

 

(緊急の危険はないようです。大丈夫ですよ)

 

(はい……)

 

 

念話で、シスターシャッハに話し、一旦この場を引いてもらった。

 

 

「初めまして、高町なのはって言います。お名前言えるかな?」

 

「ヴィヴィオ……」

 

「ヴィヴィオ、可愛い名前だね。ヴィヴィオ、どこかに行きたかった?」

 

「ママ……いないの……」

 

「!!」

 

 

そうだった。この子は……。

でもここで不安にさせちゃ駄目だよね……。

 

 

「……ああ、それは大変。じゃあ、一緒に探そうか?」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「どうやら大丈夫みたいだね」

 

「……考えてみれば、なのはさんがいるんだから大丈夫だよな」

 

「そうだよ。普段は私よりも冷静なのに……。まぁ、ヴィヴィオにもしもの事があったらと思うと、ああなっちゃうかも知れないけど」

 

「……すみません」

 

《まぁ、シスターシャッハのあの一言は、私もカチンと来ましたけど……》

 

「プリムも気持ちは分かるけど……ね……」

 

 

本当はフェイトさんも、いつバルディッシュを起動させてもおかしくなかった。

それでも、あの二人のためにギリギリまで手を出すつもりはなかったんだな。

 

 

「ともかく一旦六課に戻ろうか」

 

「はい」

 

 

俺たちはフェイトさんの車で六課に戻ることになった。

もちろんヴィヴィオも一緒に。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

六課に戻った私達は、部隊長室で私とフィルとはやてが、今後のことについて話し合っていた。

 

 

「臨時査察とフィルと私の出頭!?」

 

「うん、こないだの戦闘でフィルが完全解除したやろ。あれが地上本部のお偉いさんに見つかって、今日二人で地上本部に出頭しろって……」

 

「はぁ……。やっぱり突っ込まれましたか」

 

「まいったね。元々六課って保有制限オーバーしているのに、さらにフィルがあんな能力を持っているとなると……。そして、地上本部の査察は、海の査察と違って甘くないからね……」

 

 

 

でも、地上の査察が厳しいのではなく、海の査察が甘すぎるだけで、この位の査察は結構あるのだ。

私も最近知ったんだけどね。まだまだ勉強不足だ。

 

 

 

「うぇ~、うちは只でさえ、ツッコミどころ満載の部隊やしなあ……」

 

「今、配置やシフト変更があったら致命的だよ。特にフィルだったら……」

 

 

 

ここに来てこれはかなり痛手だ。

もしフィルがシフト変更となると、六課の機能が著しく低下してしまう。

 

 

 

「う~ん、なんとか乗りきらなぁ……」

 

「……ねぇ。これ、査察対策にも関係してくるんだけど。六課設立の本当の理由……そろそろ、聞いてもいいかな?」

 

「そうですね。もう教えてくれても良いと思いますよ。俺に言いにくいのなら、一旦席を外しますから……」

 

「……いや、フィルにも知っておいてもらいたいし。………実はな、今日これから聖王教会本部、カリムのところに報告にいくんよ。クロノ君も来るんや」

 

「クロノも?」

 

「本当はそこでまとめて話したかったんだけど、フェイトちゃんとフィルにはまた今度話すわ。今回はなのはちゃんと二人で行ってくるわ」

 

「わかった。なのは、戻ってるかな?」

 

 

 

私は手元でパネルを操作し、なのはの部屋に回線を繋いだ。

 

 

 

『うわぁぁぁぁん!! やだぁぁぁ!! いっちゃいやだぁぁぁ!!』

 

 

 

回線が繋がるとヴィヴィオの大きな泣き声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「あの……どんな騒ぎ?」

 

『あっ、フェイト隊長。実は……』

 

 

 

なのはの自室はヴィヴィオの泣き声でちょっとした戦場状態になっていた。

なのはにも仕事があるから、いつまでもこのままというわけにはいかない。

 

しかもこの後なのはは、はやてと一緒に聖王教会行きなのだ。それはさすがに外せない。

さらに私もフィルと一緒に地上本部に出頭しなければならないので、そう時間はない。

 

 

 

「ちょっと待っていてね、そっちに行くから……」

 

『うん、出来るだけ早くお願い……』

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「よう、苦労してるみたいだな」

 

「フィル!!」

 

「八神部隊長、それにフェイトさん」

 

 

 

俺たちがなのはさんの部屋に来てみると、ヴィヴィオが未だになのはさんの服をつかんだまま泣きじゃくっていた。

 

スバルの奴が何とかしようと一生懸命になっているのは分かるけど、それじゃ逆効果だぞ。

エリオとキャロが一歩離れているのはティアがしたんだな。

 

 

 

「エースオブエースにも、勝てへん相手はおるもんやね」

 

(フェイトちゃん、はやてちゃん、フィル、その……助けて)

 

 

 

なのはさんが、念話で必死に俺たちに助けを求めるが、この手のことは、本来なら女性の方が得意なんだけどな―――――。

 

 

 

「スバル、とりあえず落ち着け。こういう時は一旦引くんだ。子供はそういう所すごく敏感だぞ」

 

(フィル~ それだったら、フィルがどうにかしてよ~)

 

 

スバルが念話で俺に泣きついてきたが……。

 

 

(スバルお前な~ もう少し子育てのスキル身につけろ。女の子なんだから、そんなんじゃ将来困るぞ。ていうかティア、こういうのはお前の方が得意なんだから、どうにか出来たろうに……)

 

(そうなんだけどね。何かなのはさんのあの慌てようは、中々見れないから……)

 

(ったく、ティア良い根性してるよ……)

 

 

 

念話で話してるからみんなには聞かれないけど、聞かれたらシャレにならないな。

まぁ、俺がティアの立場だったら同じ事してるかもな。

 

とはいえ、いつまでもこうしてるわけにはいかないな。

 

 

 

(フェイトさん、ちょっと良いですか?)

 

(どうしたのフィル?)

 

(とりあえず、ヴィヴィオに泣きやんでもらわないといけないんですけど、どうやります)

 

(一応落ちているぬいぐるみを使って、何とかしようと思ったんだけど……)

 

 

これくらいしか、ヴィヴィオが興味を示す物がないし―――――。

 

 

(だったら、ちょっと俺に手伝わせてもらえませんか)

 

(えっ、どうするの?)

 

(それは見てのお楽しみと言うことで。プリム)

 

《(話は聞いてました。私も協力すれば良いんですよね)》

 

(ああ、うまくやってくれよ)

 

 

さて、細工は流々。

仕掛けは御覧じろってね。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「ヴィヴィオ、はい、これ……」

 

 

俺は落ちていたぬいぐるみを拾って、埃を払ってしゃがみ込んで、自分の視線をヴィヴィオの高さにあわせた。

 

相手に話す時は、まず目線をあわせることが大事だ。

さっきみたいに大泣きはしてはなく、ぐずる位にはなったので、俺の持っているぬいぐるみに興味を持ているみたいだ。

 

ちょっと手を動かしてみると、それにつられている。

これだったら、あの手で大丈夫だろう。

 

 

(プリム、準備は良いな)

 

《(いつでも良いですよ。マスター)》

 

 

 

とりあえずぬいぐるみに、魔力で創った糸を巻き付け操れるようにする。

ただこれだと丸見えなので、幻術で見えないようにする。ついでに魔力隠蔽もしておこう。

 

で、プリムにしてもらうことは……。

 

 

 

《こんにちはヴィヴィオ》

 

「えっ……」

 

『ええっ!!』

 

 

 

あの、エリオとキャロはともかく、スバルお前まで驚いてどうする。

これはお前とティアは見たことがあるだろ。

 

俺はフェイトさんと目があってウインクをすると、それで分かってくれたみたいでこっちにやってきた。

 

 

 

「ヴィヴィオ、この子はあなたのおともだち?」

 

「ヴィヴィオ、こちらフェイトさんとフィルくん、なのはさんの大切なお友達」

 

《あっ、フェイトお姉さんだ~》

 

 

 

俺がぬいぐるみを動かして、プリムがそれ合わせて話すんだけど、これ二人の呼吸が合わないと、ちぐはぐしちゃうから結構難しいんだよな。

 

 

 

「どうしたのかな、うさぎくん」

 

《あのね、フェイトお姉さん。僕ねヴィヴィオと遊びたいんだけど、ずっと泣いちゃってて……。でも、僕少しの時間しかいられないから……》

 

「そっか……。じゃお姉さんも一緒に話してあげるね」

 

《ありがとう、フェイトお姉さん》

 

 

 

それにしてもフェイトさん、打ち合わせもなしでよくあわせられるな。

さすがエリオとキャロの世話をしていただけはあるな。

 

 

 

「ヴィヴィオ、うさぎくんね、ヴィヴィオと一緒に遊びたいんだって、だけどほんの少ししかいられないから、すごく寂しがっているよ」

 

 

 

俺はうさぎのぬいぐるみの手を動かし泣き真似をして見せた。

ついでにのの字を書く仕草もしてみた。

 

 

 

《い~もん。い~もん。ヴィヴィオは僕より、なのはさんの方が良いんだ~》

 

「あっ……」

 

 

 

ヴィヴィオは完全に泣きやみ、意識はもうフェイトさんとうさぎに向いていた。

なのはさんのスカートを握りしめていた手も離れていた。

 

 

 

「ねぇ、ヴィヴィオ、なのはさんはこれからお仕事なんだって……」

 

「うん」

 

《だから、その間は僕と一緒に遊ぼう。もう少しだけだけど一緒にいられるからね》

 

「うん!!」

 

「良かったね。ヴィヴィオ」

 

「ということです、なのはさん……。って、あの………」

 

「あっ……。えっ……」

 

 

 

あらら、なのはさんもすっかり驚いてしまっているよ。

まぁ、初めて見るとちょっとビックリするかもな。

 

 

 

(ということで後は頼んだティア)

 

(いいわ。ていうかあんた、最初からあたしに引き継がせるつもりだったでしょう?)

 

(お見通しか……。さすがティア)

 

(まぁ、あんたもこれからフェイトさんと一緒に地上本部に行くんですものね。でもぬいぐるみを操っている間は、あたしは何も出来ないわよ)

 

(お前はもう報告書は書いてあるだろ。だったらあとは大丈夫だろ。あんまり手伝うなって、なのはさん達にも念を押させてるからな)

 

 

こないだも、俺とティアが手伝ってるのがばれて言われたしな。

元々スバルの方が成績良いんだから、少し慣れてもらわないと―――――。

 

 

 

(確かにね。あとエリオとキャロにも手伝わせるわよ。それで良い)

 

(その辺は任せるよ。じゃ、後は頼んだ)

 

(はいはい、さっさと行ってらっしゃい)

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「おい、フィル早くしろよ!!」

 

「すみません、あとサンダーを格納庫に入れればオッケーです」

 

 

 

実は本当は俺とフェイトさんは、車かサンダーで地上本部に行こうとしたんだけど、八神部隊長が行きはヘリで送るって言ってくれたので、ヴァイス陸曹に頼んでヘリで送ってもらうことになった。

 

でも、帰りは何の乗り物も無くなってしまうので、サンダーを格納庫に入れていたのだ。

 

 

 

「搬入完了です。それじゃヴァイス陸曹お願いします」

 

「んじゃ、行くぜ!!」

 

 

 

俺たち四人を乗せたヘリはヘリポートから飛び立った。

 

 

 

「ごめんねフィル、フェイトちゃん。お騒がせして」

 

「いやぁ、ええもん見せてもらったよ。ってかフィル、いったい何をしたんや?」

 

「そうだよ、レイジングハートにも何の反応もなかったし、いったいどうやってやったの?」

 

「ふふっ、フィル。そろそろなのは達に教えても良いんじゃない」

 

 

フェイトさんにはさっき種明かしをしたんだけど、なのはさん達にも言っておくか。

 

 

「まぁ、種明かしをしますと、魔力で創った糸で操っていただけなんです。声はプリムに担当してもらっていたんですよ」

 

「でも、糸は全く見えてなかったで。魔力反応もなかったし?」

 

「魔力反応は幻術で隠蔽したんですよ。糸が見えていたらバレちゃいますしね」

 

「私もフィルからその事を聞いて驚いたよ。まさかバルディッシュまで騙すんだから」

 

 

これくらいのことが出来なかったら、サーチャーを使って隠密行動をすることが出来ない。

操ってる魔力がばれちゃってたら、そこから逆探知されちゃうし―――――。

 

 

「幻術は俺とティアの得意分野ですからね。この分野に関しては隊長達にも負けませんよ」

 

「といことは今頃ティアナは大変だね。わたし達が戻ってくるまで、ぬいぐるみを操っていなければいけないんだから」

 

「その辺は大丈夫ですよ、なのはさん。ティアのことですから適当なところで、『僕はもう帰らなくちゃ』とかいって何とかしますよ」

 

「まぁ、それなら……。もしかして、ティアナもフィルと同じ事出来たんじゃない!?」

 

「そうですけど、大方スバル達がパニックになって、それの対応で精一杯だったんでしょう」

 

 

ティア、本当のことは言わないでおいてやるから今度なんかおごれよ。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

ヘリで地上本部のヘリポートに下ろしてもらった後、俺たちは地上本部の入り口に来ていた。

呼ばれることは予測していたけど……。

 

 

 

「……フィル、本当にレジアス中将が呼んだのかな? 」

 

「出頭命令状には、間違いなく本人の名前が記載してあるからね」

 

「でも、ちょっと腑に落ちないんだよね。何で二人一緒に?」

 

「こればっかりは行ってみないと分からないな……」

 

 

ロビーの受付嬢に俺たちが来たことを伝えると、最上階の部屋に来るようにと伝えられた。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「……失礼します」

 

「入れ」

 

 

 

私たちが中にはいると、そこには強面の体格の良い中年の男性と眼鏡をかけた凛とした女性がいた。

レジアス・ゲイズ中将とオーリス・ゲイズ三佐である。

 

 

 

「機動六課所属執務官フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、同じく機動六課所属二等陸士フィル・グリード。先日のことの報告にて出頭いたしました」

 

「ご苦労……。まぁ、そこに座りたまえ」

 

「「失礼します」」

 

 

 

私たちはソファーに座り、中将達も腰をかけた。

早速先日のことで話をするのかと思えば……。

 

 

 

「あ、あの……」

 

「ん? どうしたのかね。ハラオウン執務官」

 

「中将が私達を呼び出したのは、先日のことで説明ってことで、六課の方に出頭命令をしたんですよね。でも……」

 

 

そう、さっきから中将もオーリス三佐も、フィルと世間話をしているだけで、全く本題に入ろうとはしない。

 

 

「申し訳ありませんが、私達も時間が限られてますので、出来れば本題の方に……」

 

「……ぷっ」

 

「「「あはははは!!」」」

 

「えっ、えっ? 何か私、変なこと言いましたか?」

 

 

突然、3人が大笑いを始めてしまった。

私、そんなにおかしいこと言ったかな?

 

 

「おい、フィル。ハラオウン執務官にまだ言ってなかったのか」

 

「実は……。まだ……」

 

「駄目じゃない。彼女ポカ~ンとしちゃってるじゃない。またあなたのいたずら癖が出たの。訓練生時代から変わってないわね」

 

「オーリス姉、勘弁してよ。昔のことは……」

 

「ええっ!?」

 

 

 

もう私は訳が分からなくなっていた。

いったいどうなってるのよ!!

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

《マスター、いい加減にフェイトさんに話さないと……》

 

「そうだな。フェイトさん色々混乱してると思うけど、レジアス中将達と俺は古くからの顔なじみなんだ。そして……地上本部で唯一、話が分かる人でもある」

 

 

確かに強引な一面を持ってるけど、それはあくまで地上のことを考えてのこと。

 

 

「ちょっと待って!! まさかレジアス中将に!!」

 

「ご推察の通りです。私達はフィルから全てを聞いてます。そして……フィルが経験してきたことも……」

 

「そう……ですか……」

 

「追求されないんですね。もっと言われるかと思われましたが……」

 

「私はフィルがあなた方を信じて、全てを話されたのなら何も言うことはありません。それにいくら本局側だけ強化しても、地上がちゃんとしてないと意味がない。ミッドの町を守っているのは地上の人間なんですから……」

 

 

 

フェイトさんの言葉には嘘は感じられなかった。

本局の人間なのに、ちゃんと地上のことも見てたんだな。

 

 

 

「ほう……」

 

「どうやら、私達の目に狂いはなかったですね……」

 

「どういう事ですか?」

 

「本局の人間というのは、大半、次元世界を守るという名目で、地上の優れた人間を根こそぎ持って行ってしまう。実際、機動六課にはティアナ・ランスターとフィル・グリードという人材が持って行かれてしまっている」

 

「本来ならどちらかという約束だったのですが、リンディ・ハラオウン統括官が三提督に根を回して二人とも持って行かれてしまったのです」

 

「ちょっと待ってください!! 三提督って六課って、そんな大物がバックにあるんですか!!」

 

「フェイトさん、俺もオーリス姉に聞くまで知らなかったんだけど、機動六課ってかなりのバックボーンがあるんだよ」

 

 

確かに、六課はいろいろ他とは違っていたけど、まさかここまでの大物が控えてるとは思わなかったんだ。

 

 

「フィル、それいつから知ってたの!?」

 

「こっち戻ってきてからすぐ。中将達に話した時に聞いたんだ」

 

 

すると、レジアス中将は机を叩き怒りの表情で―――――。

 

 

「冗談じゃないぞ!! ティアナ嬢ちゃんまで持って行きおって!!」

 

「テ、ティアナ嬢ちゃん!? ねぇ、フィル。レジアス中将ってティアナとも知り合いなの?」

 

「ティーダさんのことは知ってますね。その時にティアにティーダさんのことを『無能な奴』といった馬鹿を制裁したのがレジアス中将だったんだよ。俺もその時からの知り合いなんだよ」

 

「あのときは馬鹿な部下のせいで、ティアナ嬢ちゃんの心に深い傷を追わせてしまった……」

 

「でも、あのとき中将が一発ぶっ飛ばしてくれたから、最悪の事態にはならなかったんですよ。もし中将がいなかったら……」

 

 

 

多分ティアは最悪精神崩壊していたか、自殺していたかも知れない。

ティアは両親がいなくなったから、ティーダさんの存在はかけがいのないものだったからな。

 

 

 

「そうだったんだね。人の噂なんて当てにならないんだね。私が聞いたレジアス中将のことって……」

 

「言わんでも良い。強引すぎる政策とか、メタボ親父とかそういったことだろう……」

 

「は、ははは……」

 

「いささかやり過ぎと言うことは認めているが、まだまだ若いモンには負けんぞ!!」

 

「きゃっ!!」

 

 

 

そう言って中将は上着を脱いで、上半身裸の状態でポージングをし始めた。

中将の肉体は歴戦の傷と鍛え抜かれた筋肉で構成されていた。

 

とても噂のようなメタボの身体ではない。

 

 

 

「中将……女性の前で醜いものを見せないでください。ハラオウン執務官、顔真っ赤になってしまっているじゃありませんか」

 

「オーリス、相変わらずきついな。すまんなハラオウン執務官、儂も少し興奮していたようだ」

 

「いえ……その、結構な肉体美で……あの……」

 

「レジアスの親父さん……あまり刺激の強いもの見せないでくれ。フェイトさん……本当に男性の裸とかにウブな所あるから……」

 

「フィル、お前まで言うか。せっかく身軽になったことだし、久しぶりに力比べでもするか」

 

「勘弁してくれ。純粋な力比べじゃあんたには勝てないよ。それに、そろそろ本題に入らないと……」

 

「それも、そうだな……」

 

 

 

レジアス中将は上着を羽織り、身なりを整えると目つきが仕事のものになっていた。

これからが本番だ……。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「さて、今日二人を呼んだのは先日の一件でのことでだ……」

 

「フィル、あなた限定解除したわね」

 

「……はい」

 

 

 

この二人を欺くのは正直無理だ。

例えこの場は何とかなっても、査察が入ってしまってはアウトだ。

 

 

 

「正直不味かったわね。あなたも知っているでしょう。六課の戦力はリミッターをかけてギリギリだと言うことを……」

 

「儂も正直ビックリしているぞ。まさか、隊長達と殆ど遜色ない力を持っていたなんてな」

 

「実際は完全には使いこなせてないんですけどね。何とか完全解除が可能になったというだけです」

 

「ハラオウン執務官、あなたの意見も聞いておきたいのですが、あの場で直接見たフィルの力はどんなものでしたか」

 

「はい、現在のフィルの力は魔力に関しては、私に匹敵するくらいの物を持っていますが、その魔力を使った戦闘技術についてはまだ未熟な所があります」

 

 

さすがフェイトさんだ。俺の弱点を即座に見抜いていた。

今まで少ない魔力を使った戦い方はしていたが、大きな魔力を使った戦闘技術に関しては苦手だ。

 

こないだもファナンクスシフトを使っただけで、魔力の殆どを使ってしまっていた。

せっかく魔力があっても、只全開で出しているだけじゃ意味がない。

 

 

「六課のチーム編成は見せてもらったが……。まさかメガーヌの娘も戦うつもりなのか」

 

「やりきれないですよ。いくら保護観察処分とはいえ、こんな少女を戦場に出さなくてはならないなんて……。本当はメガーヌさんと静かに暮らして欲しかったんだけど……」

 

「ルーテシアがしてしまった罪は、お前に対する殺傷魔法とアグスタの件だけだからな。殺傷魔法のことも被害者のお前は何もする気はないんだろ?」

 

「ええ、そんなことをするんでしたら、最初からこんな真似はしませんよ」

 

 

もし、最初から犯罪者として捉えるなら、もっとスマートなやり方をする。

 

 

「そうだった!! フィルお願いだから、もうこんな無茶はしないで!!」

 

「ハラオウン執務官の言うとおりですよ。あなたは昔からそうでしたね。自分を省みず行動するのは!!」

 

「フェイトさん、オーリス姉、勘弁してよ……」

 

「「そう思うならしっかり反省しなさい!!」」

 

「はい……。すみません……」

 

「ハラオウン執務官、オーリス、その件は後でゆっくりとするとして今は本題の方をするぞ」

 

 

 

後で追求されるのか……。

お願いだから、お手柔らかにして欲しい……。

 

 

 

「今話したように、今後ルーテシアまで加わるとなると、フォワード陣も編成を変更をすることになるし、お前と他のメンバーとの訓練内容は大きく変わってくる。それではお前は自由に訓練が出来ないし、フォワードの成長も妨げてしまう」

 

「そんなことは!?」

 

「ないと言い切れるのか。今は良いかもしれないが、このままお前を中心にやっていては、お前にもしもの事があった時や別行動をする時に支障が出てきてしまうぞ」

 

「!!」

 

 

 

痛いところを突いてくるな……。

確かにこのままじゃ俺も本格的な訓練が出来ないし、ティア達にも良いとは言えない。

 

 

 

「そこでだ、フィル。お前フォワードを一旦抜けろ……」

 

「待ってください!! それは!!」

 

 

 

今、六課を抜けることがあったら、行動が取れなくなる。

それに、俺自身もまだまだ鍛えなきゃならないし―――――。

 

 

 

「勘違いをするな。別に機動六課から異動しろと言うことではない。むしろこれからのためだ」

 

「これからの?」

 

「お前には単体で今後は動いて欲しい。そこでハラオウン執務官、君にはフィルに付きっきりで教導してもらいたい。リミッターが掛かっていては厳しいので、君だけになるが儂の権限でリミッターを撤去する」

 

「「ええっ!?」」

 

 

 

マジかよ。リミッター撤去って!! 地上本部は本局より厳しいのに!!

現に八神部隊長なんて、かなり面倒な手続きをしなきゃいけないのに!!

 

 

 

「本当はしたくないんですけど、リミッターが掛かっていて死んでしまいました。なんていうのではお話になりませんからね。昨日の戦闘だってあやうく……」

 

「あっ……」

 

 

―――――そうだった。

あの時、何とか間に合ったからフェイトさんは死ななかったけど……。

 

 

 

「そういうことだ。今お前がすべきことはお前のレベルアップだ。それには同等以上のパートナーが必要になる」

 

「ハラオウン執務官、フィルのことお願いしますね。この子は私達にとっても大事な子ですから……」

 

「……分かりました。フィルのことは、私が責任を持って鍛えます。覚悟してね!!」

 

「望むところですよ」

 

「ハラオウン執務官のリミッターは今から解除してもらうんだが、その人物がまだ来てないんだ……」

 

「いったい誰なんですか? 私のリミッターを解除してくれる人物は」

 

「すぐに分かる。ヒントを一つだけ言っとくと、君も知っている人物だ」

 

 

リミッター解除が出来る人間は限られてる。

かなりの権限がなければ、実行することは出来ない。

 

 

 

『失礼します、レジアス中将。来賓の方々がお見えになりました』

 

「分かった。こっちに来てもらうように伝えてくれ」

 

『了解しました』

 

 

しばらくすると、ドアからノックが聞こえてその人物が入ってきた。

 

 

「久しぶりだね。フェイト、フィル」

 

「お久しぶりね。フィル」

 

 

現れたのは、無限書庫司書長ユーノ・スクライアと戦闘機人ドゥーエだった。

 

 

「ユーノ!! それにあなたは確か戦闘機人の……」

 

「ええ、私はドゥーエ。ご推察の通り戦闘機人です。今はスクライア司書長の補佐をしているの」

 

 

そっか―――――。

ユーノさんから、ある程度のことは聞いていたけど。

 

 

「詳しい経緯はフィルに聞いてね。それよりも……」

 

「フェイト、今日僕がここに来たのは、レジアス中将に頼まれて君のリミッターを解除しに来たんだ」

 

「そうだったんだ。ユーノだったんだね。リミッターを解除してくれるのは」

 

「うん、一応無限書庫司書長には提督権限もあるんで、君たちのリミッターを解除できるんだ。但しその場合は地上本部の許可が必要なんだけど、まさか大元から解除申請が出るとは思わなかったんだけどね」

 

「しかたなかろう。だが特例はこれっきりだからな。只でさえ六課は……」

 

「そう……ですよね」

 

 

 

機動六課は地上にあるけれど、あくまで本局所属だ。

六課の存在は、地上の上層部にとっては煙たいものになっている。

 

 

 

「私たちもフィルから聞くまでは、八神二佐のことは誤解していたんですけどね」

 

「ちょっと良いですかオーリス三佐。八神二佐のことはいつ知ったんですか?」

 

「フィルが私たちに未来であったことを話したときにですよ。あれは六課ができる二年前になりますね」

 

「「ええっ!!」」

 

「ユーノ知っていたの!?」

 

「いや今初めて知ったよ。そんな前からフィルは準備をしていたんだ!!」

 

 

あの……。

そのことは言わないで欲しかったんですけど、特に六課の隊長陣には……。

 

 

「……あのね、それは言わない約束だったでしょう。オーリス姉」

 

「フィル、これは言っておいた方が良いことよ。いつまでも隠しきれるものじゃないわ」

 

「だけど!! これは俺が勝手にしたことだ。八神部隊長ならちゃんと……」

 

「確かに八神なら六課を作ること自体はできるだろう。だが本局で育てられた八神では、地上のことを頭では理解しても行動には移せん。例えナカジマに師事してもな……」

 

「それが分かっていたからこそ、あなたは事前策として、私たちにコンタクトを取ったんでしょう。少しでも六課と地上本部との確執をなくすために……」

 

 

確かにその通りだ。だからこそ俺はレジアス中将達とコンタクトを取ったんだから―――――。

全てを見抜かれ、俺は何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「ともかくだ。今はリミッターの撤去をしてしまおう。スクライア司書長」

 

「そうですね。それじゃフェイト、今から撤去するからじっとしていてね」

 

「分かった……」

 

 

そういってユーノは翡翠の魔法陣を展開し、リミッター解除の呪文を唱え始めた。

 

 

「我、ユーノ・スクライアの名の下に彼の者の束縛を解き放て。リミット完全撤去・リリース!!」

 

 

次の瞬間、私にかけられていたリミッターが完全に外され、魔力が体に満ちあふれてきた。

 

 

「……久しぶりかな。何にも制約がないのって」

 

「ハラオウン執務官、これは非公式ですので、この後代わりのリミッターはつけてもらいますよ」

 

「オーリス姉、それは俺がやるよ。自力で解除できるタイプなら普段から俺が使っているしね」

 

「そうね、それじゃそれで行きましょう」

 

「フェイトさん、と言うわけで一応リミッターはつけますけど……」

 

「フィルが普段やっているヤツと同じ物でしょう。それだと自分で解除できるし、自力を上げる訓練にもなるしね」

 

「分かりました……。じゃプリム頼むわ」

 

《了解しました。それじゃやりますね》

 

 

プリムが疑似封印の魔法陣を展開すると、私の体を包み、再び魔力が封印された状態になった。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「改めて言う必要はないと思うけど、このリミッターは自分で解除できるから不自由はしないと思います」

 

「ありがとう、フィル」

 

「……」

 

「フィル?」

 

 

―――――本当はこんな物、つけたくなかったんだけどな。

 

 

「これで用件は終わりだ。後は八神にこの意見書を渡しておいてくれ。査察の代わりだとでも言っておけばいい」

 

「えっと、これは俺に渡されてもどうしようもないんで、フェイトさんに……」

 

 

一介の二等陸士にこんな重要案件を渡されても、扱いに困る。

 

 

「いや、これはおまえが直接渡すんだ。今回のことも含めて八神とちゃんと話し合え」

 

「中将……」

 

「そうだね……。それにはやては気づいていると思うよ。だからこそフィルを無理に六課に入れたんだと思う。自分へのリミッターを強くしてでもね」

 

「フェイトさん……」

 

 

そうかもしれない―――――。

あの聡明な部隊長のことだ。きっと俺がしてきたことなんて気がついてる。

 

 

 

「フィル、僕からも一言だけ言っておくよ。あまり自分で抱え込まないこと。はやての件といい、僕のことといい、一人でやっていたよね」

 

「……はい」

 

「でも、それは言い換えれば、仲間を信用していないってとれるんだよ。だから……」

 

 

ユーノ司書長は俺の肩に手を置き……。

 

 

「もう少し、肩の力抜いてみたら。そうした方がうまくいくこともあるから……」

 

「ユーノさん……」

 

「ふふっ、少し前の司書長もフィルと同じだったんですよ」

 

「ドゥーエ、それは!?」

 

「いいえ、良い機会なのではっきり言わせてもらいます。いつもいつも三徹四徹あたりまえのようにやっていて、自分を省みないでやって、周りがどれくらい心配していると思っているんですか!!」

 

「……は、はい」

 

 

ユーノさんはすっかりドゥーエにタジタジになっていた。

 

 

「それでも最近はマシになったんだよ。クロノの無茶な依頼をドゥーエが説得して、減らしてくれたおかげで大分ゆとりができたしね」

 

「……ごめんユーノ、義妹として謝らせて……」

 

「フェイトが気にしなくても良いよ。これは元々あいつが悪いんだから……」

 

「そうですよ。クロノ提督には、私からきっちり『お話』しておきましたから……」

 

 

 

ドゥーエこわいぞ。その笑み。なんか切れたときのなのはさんみたいだぞ。

ていうか、女性って切れるとこんな感じなのか。

 

 

 

「フィル、とにかく六課に戻りましょう。はやてたちも戻ってくるだろうしね」

 

「もうこんな時間なんだ。たしかに部隊長たちも聖王教会から戻ってくる頃ですし……」

 

 

 

俺たちはそれぞれ解散し、俺とフェイトさんはサンダーで六課に戻ろうとしたんだけど……。

 

 

 

「あのね……フィル、一つだけ聞いて良いかな?」

 

「どうしたの?」

 

「あのとき、私にリミッターをかけたとき、何で辛い表情をしていたの?」

 

「!!」

 

 

気づかれてた!?

あの時、僅かに顔に出してしまっていたのを―――――。

 

 

「……やっぱりそうだったんだね。以前なのはから私たちのリミッターのことを話していたときも、そんな表情をしていたって聞いていたから……」

 

「なのはさんが?」

 

 

あの時……。なのはさん気がついていたんだ。

あのとき無意識だったけど、リミッターに嫌悪感を持っていたことに。

 

 

 

「そこまで、気づかれていたのなら話すよ」

 

 

俺はフェイトさんに、リミッターに対しての不満を全部言った。

 

 

こんな物があったら、事件現場に行ったとき自分より能力が高いヤツに遭遇したときはどうするのか。

知恵と判断力で乗り切れることなんて、たががしれてる。

 

 

ティーダさんの時だってそうだ。殉職したときの犯罪者はAAAの魔力持ちだった。

自分よりランクが上の相手を相手にするってことは、それだけ命がけのことなんだ。

 

 

 

「……そっか、ティアナのお兄さんのことは、フィルにも深い傷として残っていたんだね。それに気づかなかったなんて、恋人として失格だね」

 

「それは違う!! これはあくまで、俺個人が思っていたことで、フェイトさんが気にすることじゃ!!」

 

《マスター、少しはフェイトさんのことを考えてください!! 彼女は少しでも、あなたの力になってあげたいんですよ。例えどんな些細なことであってもです》

 

「プリム……」

 

《何回も言いますが、マスターは少しフェイトさんに甘えてください。そのくらいで丁度良いです!!》

 

「そうだね。前も言ったけど、フィルは甘えてくれるくらいで丁度良いから。はやてのことだって、私は全く知らなかったし……。これ以上隠してることはないでしょうね!!」

 

 

さすがにこれ以上はない!!

俺がやっていたことは、ユーノさんやマリーさんたちに、もう全部託しているし―――――。

 

 

 

「フィル、信じてあげるけど、これ以上隠していたら酷いからね」

 

「大丈夫だから……。それと悪いんだけど、明日の午後、ルーテシアを外に連れ出して良いかな?」

 

「ルーテシアを……? あっ、そういうこと」

 

「うん、メガーヌさんと会わせてあげたいと思ってね」

 

 

クアットロの危険も去ったし、そろそろ再会させてあげたいしね。

 

 

「良いけど、一つだけ条件があるよ。私も一緒に連れて行くこと。理由は知っていても、一応保護観察処分だから」

 

「それもそうだな。でも良いの? そっちだって、スカリエッティの捜査で時間がとれないのに……」

 

 

スカリエッティのことはフェイトさんにだけは、俺の知り得ることは全部教えているけれど……。

 

 

「それに関しては大丈夫。ギンガもいるし、アコーズ査察官も調べてくれているしね」

 

「そっか……じゃお願いします」

 

「うん!!」

 

 

 

俺たちはサンダーに乗り、六課に帰還した。

途中でヴィヴィオにおみやげとしてアイスを買ってあげたんだけど、それをティア達に見つかってしまい、今度みんなに手作りアイスを作る羽目になってしまったのは余談である。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

六課に戻った私たちは、それぞれ情報交換を行った。

 

はやて達からは、騎士カリムの予言のことと六課の意義について。

私たちからは、レジアス中将から渡された文書とその内容について。

 

 

 

「そっか……ありがとうな。査察を覚悟してた分、このくらいですんでよかったと思っているわ。最悪フィルが異動って言うのも、十分考えられたからな」

 

「でも、フィルをスターズから外せって、これは十分きついよ!!」

 

「なのはちゃん、これは近いうちに話すつもりやったんだけどな。ルーテシアが六課に入ってくれることになったやろ。これを機会に、スターズとライトニング再編成をしようと思ってな。現にスターズにティアナとフィル、二人のセンターガードがおるやろ。それもふまえてな」

 

 

今の部隊編成は、管理バランスか崩れてきている。

実際スターズに指揮官が二人とも来てしまってるし―――――。

 

 

「確かにエリオとキャロに対して、スターズの方に戦力が傾いているね。フェイトちゃん、レジアス中将の文書ではどうなってるの?」

 

「えっと、フィルをスターズから外し、所属をフリーにすること。後フォワードには組み込まないで、単独で行動する権利を与えること。その責任者として私がすること。以上のことが書いてあるよ」

 

「つまり今後の訓練は、フォワード陣をなのはちゃんが中心で、フィルの訓練はフェイトちゃんが中心というわけやな」

 

「うん、基本的には私がやるけれど、なのはもフィルに直接教えたいことがあるだろうから……」

 

「そうだね……。フィルにはちゃんと教えておいた方が良いね。集束魔法……スターライトブレイカーを……」

 

 

集束魔法に関しては、なのはの方が一枚上手だ。

その辺に関しては、なのはにお願いする。

 

 

「なのはさん……」

 

「まぁ、訓練のことは、明日以降やっていくとして、三人ともお疲れ様や」

 

「うん」

 

「はい、お疲れ様です」

 

「情報は十分……。大丈夫だよ……」

 

 

私たち三人は部隊長室を出て、廊下を歩いているとはやてがやってきて―――――。

 

 

「あ……あのな……」

 

「どうしましたか部隊長?」

 

「その……」

 

「俺……席外しますね。どうやらなのはさん達に話があるみたいですし……」

 

「いや、フィルにも聞いて欲しいんや!!」

 

「……本当にどうしたのはやて?」

 

 

意を決し、はやては話し始めた。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんは私の命の恩人で、大切な友達や!! そしてフィルは、六課のことで必死で本局と地上の溝を埋めてくれた。そのおかげで、私は六課をつくることができた!!」

 

「……何のことですか。俺は何もしていませんよ?」

 

「隠さなくてもええよ。私は知っていたからこそ、フィルを無理矢理でも六課に入れたんやから。地上が人材不足なのは知っていたけれど、フィルにはどうしても直接恩を返したかったんや!! 我が侭なのは分かっていたけどな……」

 

「八神部隊長……」

 

 

 

やっぱり部隊長は気づいてたんだな。

だから、自分にリミッターがかかっても俺を……。

 

 

 

「六課のことは、出向の時にちゃんと聞いたよ」

 

「私もなのはも、ちゃんと納得してここにいる。大丈夫……」

 

「そうですね。レジアスの親父さんには悪いけれど、六課に来れたのは、すごくうれしかったんですよ」

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん……。フィル……ありがとうな。フィル、一つだけ聞いてもええかな」

 

「なんですか?」

 

「どうして私を助けてくれたんや。一年前から闇の書事件のことを言う人間は本当に少なくなった。代表格だったレジアス中将が六課に対して、これだけ甘くなるなんて」

 

「……そうですね。理由は俺のエゴですけれど、被害者が攻め続けられるのはおかしい。そう思っただけですよ」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

三人とも驚いているけれど、闇の書事件はちょっと考えれば部隊長は立派な被害者だぞ。

ランダムで選ばれ自分の命が危険にさらされて……。

 

守護騎士がしてしまったことは許されないことでも、それはあくまで彼女たちがしたことだ。

八神部隊長は、むしろそれを止めていたし、自分の命を犠牲にしようとしたんだぞ。

 

 

 

「なのはさんもフェイトさんも、この事件は当事者なのでよく知っているでしょう。闇の書のページを集めていたのは守護騎士の意志で、部隊長本人はむしろ自分の命を犠牲にしようとしていた」

 

「そうだね……。はやてちゃんは、あのとき自分を犠牲にしようとしていた」

 

「そして、そんなはやてを助けたくて、シグナム達は……」

 

「せやけど守護騎士のしてきてことは、主である私の責任や!!」

 

「それが間違っているんです。騎士達の罪はあくまで騎士達の罪です。ましてや部隊長は闇の書を消滅させた。その時点で被害者達の無念を晴らしているんですよ!! なのになぜ誹謗中傷受けなければならないんですか!!」

 

 

 

当時9歳の女の子に、一体どれくらいのことが出来る?

必死に、人に迷惑を掛けないようにしているだけでも充分すぎるってのに―――――。

 

 

 

「「「あっ……」」」

 

「八神部隊長、平和を守るために、この道を選んだことは俺は何も言いません。だけどそれを罪の償いとしてやるのはやめて欲しいんです。あの事件は、誰がなんと言おうとあなたは被害者なんですから!!」

 

「…………私は……ゆるされても……いいんか……」

 

「許すもなにも……ないです………。本来、受けなくても良いことまで言われ続けてきたんですから………」

 

「フィル……」

 

「八神部隊長……。俺は、あなたの苦しみを少しでもなくせましたか?」

 

 

 

 

 

 

*      *      *

 

 

 

 

 

フィル……私のためにここまでしてくれていたんや。

もう限界だった。

 

私は涙がこらえきれなくなり、その場で泣き崩れてしまい―――――。

 

そんな私をフィルは何も言わず、そっと抱きしめてくれていた。

 

 

 

「……ごめんな。こんなみっともない姿を見せて……」

 

「みっともなくないですよ。辛いことははき出した方が良いんですから。俺もそうでしたし……」

 

「せやな。あれ?なのはちゃん達は?」

 

「そういえば……」

 

 

 

二人とも……ありがとうな……。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「はやてちゃん……よかったね……」

 

「うん……」

 

 

 

わたしたちは、はやてちゃんが泣き崩れてしまったとき、そっとその場を離れて、近くの廊下で様子を見ていた。

 

 

 

「でもフィル、本当に色々手助けしてくれていたんだね。今回のはやてちゃんのことだって……」

 

「そうだね。あの言葉は第三者のフィルが言ったからこそ、伝わったんだと思う。当事者の私たちじゃきっと駄目だった」

 

 

 

私たちは、あの事件の当事者だから、どうしてもはやてのことを思ってしまう。

だけど、フィルは闇の諸事件に関しては全く関係がない。

 

だから、客観的な見方ができたんだと思う。

 

 

 

「はやてのことはフィルに任せて、私たちは戻ろうか……」

 

「そうだね……。って、ちょっと様子が変だよ……」

 

 

 

 

*     *      *

 

 

 

 

「……フィル、一つお願いがあるんやけど」

 

「何ですか? 俺にできることなら良いですよ」

 

「あ、あのな。仕事以外の時は、私のことをはやてって呼んで欲しいんや」

 

「なのはちゃん達は名前で呼び合っているのに、私だけいつも八神部隊長やん。何か一人だけ距離を置かれている感じがして嫌なんや……」

 

 

立場上、こんな事が出来ないのは十分承知や。

でも、せめて仕事以外の時はもっとざっくばらんに話して欲しいんや―――――。

 

 

 

「ですけど……」

 

「それとも……。私みたいな女には、魅力がないかな……」

 

「そんなこと無いです!! 部隊長は魅力的な人ですよ。でなければ何かしたりはしないですよ!!」

 

「あ……ありがとうな……」

 

「なのはさんにはなのはさんの、フェイトさんにはフェイトさんの、そして……はやてさんには、はやてさんの魅力があります。ですからそんな風に言わないでください」

 

 

 

―――――あかんわ。

フィルに名前で呼んで欲しかっただけだったのに、こうもストレートに言われると思わなかったわ。

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「うわ……。ねぇ、フェイトちゃん。フィルって、あれ本気で言ってるよね……」

 

「……うん」

 

「……苦労するね、フェイトちゃん」

 

 

 

お願いだから、これ以上ライバルを増やさないで!!

ティアナだって、完全にあきらめた訳じゃないのに、これではやてまで自覚されたら……。

 

それに……。

なのはだって、最近ちょっと怪しいし……。

 

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

 

「そ、それじゃ、フィルお休みな」

 

「お休みなさい。八神部隊長」

 

「違うやろ。今は名前で呼んでな」

 

「はい……。お休みなさい、はやてさん」

 

「うん♪」

 

 

 

はやてさんは、笑顔で自分の部屋に戻っていった。

なんか今日はいろいろありすぎだろ。

 

それと……。

 

 

 

「そろそろ出てきたらどうですか、フェイトさん」

 

「気づいてたの?」

 

「あのね、俺は魔力反応を読める能力があるんだから気づきますよ。少しは自分の彼氏を信用して!!」

 

「だ、だって……。何かはやてと良い雰囲気になってたし……」

 

「そういうつもりじゃ……」

 

「分かってる。でもやっぱり不安になっちゃうんだよ。女の子ってそういう物だから……」

 

 

 

それは俺も同じだから。

フェイトさんが他の男性と話していると、やきもきするし……。

 

 

 

「フィル……」

 

「フェイトさん……」

 

 

 

俺はフェイトさんを抱き寄せ、キスをしようとしたとき……。

 

 

 

「じ~~~~」

 

「「うわっ!!」」

 

「何してるのかな、二人とも」

 

「なのはさん!!」

 

「なのは!!」

 

「フェイトちゃん、いつまでたっても戻ってこないし、心配して見に来てみれば……」

 

「ごめん、もしかしてヴィヴィオも……」

 

「フェイトちゃんとフィルを連れてくるって言って出てこられたけど、これじゃ本当にフィルも連れてこないと寝てくれないかも。ヴィヴィオ、フィルのことをずっとパパって言ってるし……」

 

 

 

ちょっとそれってどういうこと。

ヴィヴィオが俺のことをパパって言ってるって?

 

 

 

「はぁ……本当に自覚がないんだね。あのときフェイトちゃんと一緒にヴィヴィオの世話をして、さらにあれだけヴィヴィオのことを、気にかけてくれているんじゃ、懐かれて当然だよ」

 

「なのは、ということは……」

 

「うん、今日はフィルは、わたしたちの部屋で一緒に……。って、いない!?」

 

「そ、それじゃ、お休みなさい!!」

 

「「ふふっ」」

 

 

 

冗談とわかってるけど、ああいったことをいうのは勘弁してくれっての。

心臓に悪いっての……。

 

 

 

 

 

*     *    *

 

 

 

 

 

部隊長室に戻った私は、アルバムを見ていた。

懐かしいな……。

 

アリサちゃんやすずかちゃん達との思い出、シグナム達八神家での思い出。

そして……。

 

 

 

「グレアムおじさん……」

 

「私の命はグレアムおじさんが育ててくれて。うちの子達が守ってくれて。なのはちゃん達に救ってもらって……」

 

「そして……。私の心の闇は、フィルに助けてもらった……」

 

「だからこそ、これ以上フィルに悲しみを背負わせたらあかん!! そのために私の命を使う。それが私ができるフィルへの恩返しなんや!!」

 

 

 

フィル、私も最悪な未来にしないように頑張るから。

だから、フィルもこれ以上無茶せんといて―――――。

 

 

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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