魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~ 作:アルフォンス
廃ビルの屋上に水色のボディスーツの上にケープを纏った、大きな丸メガネの少女。
そして―――――。
自分の身長よりも大きな長物を杖のように立て、遠くを見渡していた少女がいた。
「ディエチちゃ~ん、ちゃんと見えてるぅ?」
「ああ。遮蔽物もないし、空気も澄んでる。よく見える」
少女は左目の瞳孔がまるで望遠レンズのように収縮し、遥か遠くを睨んでいた。
その瞳で捕捉しているのは、機動六課のヘリ、JF704……。
ディエチちゃんが砲撃の準備をしていると、通信ウィンドウが開いた。
『クアットロ。ルーテシアお嬢様とアギト様が捕まったわ』
「あ~ら、それはまた………フォロー……します?」
『……良いわ。あの様子だと、もう取り戻せそうにないから、セインにも撤退してもらったわ……』
「そうですか……。じゃ、あれ処分しましょうか……」
駒がもうこちらの思うようにいかないのなら、あれはもう置いておく必要なありませんものね。
『それなんだけど……。あれはもう無いわ』
「どういう事ですの、ウーノお姉様!!」
『………やられたわ。フィル・グリードにね』
* * *
リイン曹長にBCCを解除してもらった後、みんなはルーテシアのお母さん、メガーヌ・アルビーノさんのことを考えていた。
「でもどうするの? スカリエッティがルーテシアのお母さんを人質にしていると、こっちにルーテシアが来ちゃうと……」
「そうだよ、ルーテシアと友達に慣れたのは嬉しいけど、あっちにとっては裏切り行為になっちゃってるよ」
「そうだぜ!! あの変態とアバズレ。ルールーのお母さんを殺しちまう!!」
「………うん」
「フィルさん、このままじゃ殺されちゃいます!!」
「フィルさん、何とかならないんですか!!」
みんなメガーヌさんのこと、心配してくれているんだな。
さっき仲間になったばかりだって言うのにな。
ホントこいつらは、俺には出来過ぎた仲間だよ。
《マスター、もう種明かししても良いんじゃないですか?》
「そうだな、そろそろクアットロ達も、事の異変に気づいていると思うしな」
「おい、フィル。何か隠してるんだったら言えよ。何となく予想は出来るんだけどな。ルーテシアの関係する事だろ……」
あれ? ヴィータ副隊長、もしかして感づいてます。
そんなに俺、隠し事下手ですか?
まぁ、それはともかく―――――。
「あのな、もう隠していても意味がないから言うけど、ルーテシアのお母さん。メガーヌ・アルピーノさんは俺が助け出してるぞ」
「「「「「「ええっ!!」」」」」」
「やっぱりな……」
「だと思いました……」
フォワードのみんなとルーテシア達は驚いていたが、リイン曹長とヴィータ副隊長は、やっぱりかって顔をしている。
「副隊長とリイン曹長は驚かれないんですね……?」
「お前が、考えなしでこいつを保護するとは思わなかったからな。絶対事前策を取ってると思ってた」
「今までのフィルの行動を考えれば、この結論に達するのは簡単ですよ」
「本当に勘が良いですね。お二人の予想通り、スカリエッティの事を調べている時に、偶然発見したんですよ」
俺がスカリエッティの基地を探っている時、すでに基地は破棄していたが、人造魔導師や戦闘機人の
素体がそこにはたくさんあった。
そこで見つけたのは―――――。
メガーヌ・アルピーノとかかれていた生体ポッドだった。
「基地を破棄していたせいか、生命維持装置がもう限界状態だったんだ。すぐにポッドから出して、とある所に連れて行ったんだ」
「とある所? お母さんは無事なの!! どこにいるの!?」
「大丈夫、発見したのが早かったから無事だよ。それと11番のレリックはもう必要ないからな。まぁ、後のことは六課に戻ってから話すよ。ここじゃ誰が聞いているか分からないからな」
あのクアットロのことだ。近くにスパイ用のサーチャーかなんかがあっても不思議じゃない。
迂闊なことを言ったら、今まで秘密裏にしてきたことが全てお釈迦になってしまう。
「そうですね。詳しいことは六課に戻ってからにしましょう。レリックの確保もありますしね」
「キャロ、それじゃお願いね」
「はい」
キャロはレリックの封印作業を開始した。
これでもう大丈夫だな。
* * *
『こないだ、メガーヌ・アルピーノのことで破棄した基地内を調べていたんだけど、すでにポッドから奪還されもぬけの殻だったわ』
「……忌々しいですわ。ディエチちゃん!!」
「なに……」
「作戦を変更しますわ。六課のヘリ、完全に撃墜しますわ!!」
予定とは違いますが、ここまで狂わされてしまったのでは、癪に障りますわ!!
「でもいいのか? クアットロ。撃っちゃって……ケースもマテリアルも破壊しちゃうことになる」
「ドクターとウーノ姉さま曰く、あのマテリアルが当たりなら、本当に聖王の器なら、砲撃くらいでは死んだりしないから、大丈夫……だそうよ。それに……」
「ここまでコケにしてくれた、あのフィル・グリードに、これ位しなければ気が済みませんわ!!」
「まぁ……いいけどね……」
ディエチはイメースキャノンでヘリの狙撃準備に取りかかった。
まぁ、私もあの男にやることがありますわ……。
* * *
「ふう……封印完了です」
「ご苦労さん、キャロ」
「えへへ……はい!!」
俺がキャロの頭にポンと置いてやると、すごく喜んでいた。
訓練の時もこうしてやると、キャロはいつもご機嫌になる。
理由はよく分からんが―――――。
事件はこれで、終わりのはずだが………。
まてよ!?
「しまった!! ヘリの護衛に行かないと!!」
「おい、待てよ!! お前はフォワード達と一緒に戻れ!! その怪我じゃ無理だ!!」
「ヴィータ副隊長、まだ終わっていないんです。クアットロは間違いなくヘリを狙っています。だから急いで向かわないと!!」
そうだった。ルーテシアのことでヘリのことを忘れていた。
あいつのことだ、絶対狙撃してくる!!
そんなとき……。
『ごきげんよう、六課の皆さん……』
「「「「「「!!」」」」」」
「……クアットロ」
『お初にお目に掛かりますわ。私はクアットロ。ドクターの最高傑作の一人ですわ』
ついに出てきやがったか、クアットロ。
相変わらず、その面を見るだけで反吐がでやがる!!
「出やがったな、アバズレ!!」
『あ~ら、誰かと思ったら、欠陥融合騎のアギトさんじゃありませんか~』
「なんだと!!」
「落ち着けって、何の用だ!! クアットロ!!」
『フィル・グリード……。あなたには、随分煮え湯を飲まされましたので、こちらもそれ相応のことをと思いましてね……』
「何をする気だ。メガーヌさんはこっちの手にあるし、ルーテシアのBCCも解除してあるぞ」
BCCさえなかったら、ルーテシアが暴走して白天王をよびだすことはない。
お前の野望もこれでお終いだ!!
『くっ!! 本当に忌々しいですわ。ですけど、その余裕も今の内ですわ~』
* * *
「見えた!! 良かった、ヘリは無事……」
ガジェットはなのはに任せ、私は何とかヘリを目視で捕らえられる距離まで来ていた。
正直なのはだけに任せるのは心苦しかったけど、何かさっきから嫌な予感が止まらないんだ。
それに、もしヘリに長距離砲撃が来たら、今の私の位置からじゃ間にあわないかもしれない……。
そしてその事が、現実の物になろうとしていた。
『市街地にエネルギー反応!!』
『大きい……』
『そんな……まさか!!』
『攻撃のチャージ確認……物理破壊型、推定Sランク!!』
そんなチャージ時間が早い!!
あの威力だったら、もっと時間が掛かるはずなのに!!
このままじゃ、ヴァイスとシャマルが!!
「バルディッシュ!! ソニックムーブ全開!!」
《yes、sir sonic move》
* * *
「インヒューレントスキル、ヘヴィバレル……発動」
廃ビルの屋上では、イメースカノンを構えたディエチちゃんが、エネルギーチャージを行っていた。
私は口の端を歪め、話しかけることにした。
「バカな!! もう発射態勢になっているなんて!!」
『驚きましたか。これがドクターの技術ですわ。あなた達の常識じゃ無理でしょうけどね』
精々悔しがりなさい。
目の前で絶望を見るのは、本当に快感ですわね♪
「くそっ!! 間に合うか!!」
『無駄ですわ、もう発射しますわ~。 フィル・グリード、あなたは”また”何も守れませんわ……』
「!?」
「発射……」
ヘヴィバレルは一直線にヘリに向かっていた。
間違いなく砲撃はヘリを捉えますわ!!
『フィル、心配しないで!! あれは、私が止める!!』
「フェイトさん!!」
* * *
ソニックムーブで、何とか発射線上に着いた私は、急いでシールドを展開した。
「バルディッシュ、ラウンドシールド展開!!」
《Round Shield》
「くっ!! なんて衝撃なの!!」
《このままだと、シールドが持ちこたえられません……》
ラウンドシールドが砲撃に耐えられなくてひび割れをし始めてる。
このままじゃ―――――。
「頑張ってバルディッシュ!! なのはがもう少しで来るから……」
『その期待は無駄ですわ。フェイトお嬢様』
「クアットロ!!」
『高町なのはは、トーレお姉様が押さえてますわ。いくら待っても無駄ですのよ~』
「くっ!!」
* * *
「ここから先には、行かせるわけにはいかん」
「あなたは、誰なの?」
「私はトーレ。戦闘機人の一人だ」
せっかくガジェットを、全滅させてきたって言うのに……。
この人、とんでもない戦闘能力を持っている。
今のままじゃ、勝てない!!
「レイジングハート、エクシードモード、ドライブ!!」
《ignition》
杖はエクセリオンモードを改良した形になり、バリアジャケットも短期決戦用の物に切り替わる。
「そこをどいてもらうよ。わたしは、フェイトちゃんを助けに行かなきゃいけないんだから!!」
「通れる物なら通ってみるが良い!! IS、ライドインパルス!!」
「エクシードモード、A.C.S始動!!」
ACSとインパルスブレードの激突で、空中で大爆発が起こった。
* * *
『そう言うことですわ。諦めなさい、フィル・グリード』
クアットロは嫌ったらしい笑いをして、通信を切った。
「くそったれ!!」
俺は急いで、リミットを解除しようとしたが―――――。
《無茶です。今解除したら身体が持ちません!!》
「今は、そんなこと言ってる場合じゃない!!」
《駄目です!! 死ぬつもりですか!!》
「プリム、俺はもう愛する人を失うのはたくさんだ!! フェイトさんが死ぬかも知れないってのに、黙っていられるか!! ぐっ……」
今ここで、やらないでどうするんだ!!
また、あの悲劇を繰り返す気か!!
ティアを……目の前で失った時みたいに……。
《その身体では立っているのがやっとです!! いくら何でも無茶です!!》
「畜生……動きやがれ!! 俺の身体!!」
なんとか立ち上がり、魔力を振り絞ろうとするが、ダメージが酷く集中力が出ない。
せめて、痛みさえなかったら―――――。
「フィルさん!!」
「キャロ……」
キャロが俺に治療魔法を使うと、痛みが引いていく。
これは、さっきのと違う魔法か?
「フィルさん、今使ったのは、痛みを止めただけです。傷口がふさがったわけではありませんので、無理はしないでください……。っていっても無理ですよね」
「すまないキャロ。リミットリリース!!」
リミットを解除すると、魔力が溢れてきた。
制限時間は15分……絶対に止めてみせる!!
「フィル、急げ!! フェイトはもう持たないぞ!!」
「間に合ってくれ!!」
* * *
『フェイトちゃん、今行くから待っててな!!』
私は全速力でフェイトちゃんの元へ飛んでいるが―――――。
私の位置からじゃ、間に合わない。
そんなことは分かってる!!
それでも、やらずにはいられないんや!!
「無理だよ……はやて、そこからじゃ間に合わないよ……。それにもう持たない……かな……」
『諦めたらあかん!! 最後まで希望を捨てたら駄目や!!』
「ごめんね……みんなのこと……フィルのことお願いね……」
フェイトちゃんはもう完全に諦めちゃってる。
あかん!! それだけは絶対にあかん!!
『バカなこと言わんといて!! フェイトちゃん、フィルを一人にする気か!! 大切な人に……愛する人に、これ以上悲しみを背負わす気か!!』
フェイトちゃんは、リインフォースみたいに全てを託して、フィルに悲しい思いをさせる気なんか!!
私はそんなの絶対に許さへんよ!!
「はやて……まさか!?」
『知ってるに決まってるやろ!! 私をナメたらあかんよ。私はな、フェイトちゃんが本当の笑顔を見せてくれるようになって、本気で嬉しかったんや。だから……あえて黙っといたんや!!』
「はやて……」
フィルと一緒いるときのフェイトちゃんは、本当に良い笑顔を見せていた。
その笑顔は、私やなのはちゃんも本当に嬉しい気持ちになったんや―――――。
『だからそんな簡単にあきらめたらあかん。そんなんじゃフィルが怒るで!!』
「そうですよ。フェイトさん……」
「えっ……」
どうやら、お姫様を守る騎士の登場やな―――――。
あとは、まかせたで。
* * *
「……フィル、なの?」
そこに現れたのは、ボロボロのバリアジャケットをまとったフィル。
「間に合ってよかった」
「ど、どうしてここに……。立ってるのがやっと、なのに」
さっきの通信で見た感じ、戦うなんて絶対無理なのに。
傷だらけのフィルを見てるのがつらくて、思わず通信を切ってしまったくらいなのに……。
「理由なんかないさ。大切な彼女を助けに来た。ただ、それだけさ」
「ば、か……。ほんとうに、ばか、だよ。私のために、無茶をして……」
そうやって、傷だらけになって。
自分を顧みないで、人のために頑張って……。
でも、そんなあなただから私は好きになったんだよ。
* * *
「ラウンドシールド、三重展開!!」
俺が作り出したラウンドシールドは砲撃を押し返すように展開する。
それでもしだいにシールドに罅が生じてきた。
《第1シールド大破、第2シールドも、そう耐えられません!!》
「………くそっ!! なんて威力なんだ。このままじゃ耐え切れん!!」
『うっふふ~。これは思わぬ収穫ですわ。フェイトお嬢様だけでなく、あなたまで始末できるなんてね』
《第2シールド大破!! このままじゃ最後のシールドも時間の問題です!!》
最後のシールドも、罅割れてきて、いつ砲撃が貫いてもおかしくない。
これまでか……。
フェイトさんを……好きな人一人守れないのか俺は……。
(フィル……)
(なんだ……この声は……?)
頭の中に直接語りかけるこの声は―――――?
(今こそあなたの力になるね……。みんなを……そして……)
(そして……『私』を助けてね……)
次の瞬間、俺の全身に溢れんばかりの魔力が宿る。
これはもしかして―――――。
与えられた魔力が全部一つになったのか……。
さっきの声、そしてこの魔力の暖かさ……。
女神から渡された魔力の正体は……。
まさか!!
《マスター、その力は!! 完全に一つになったんですね!!》
「ああ、フェイトさんが……俺に力を託してくれた………」
《フェイトさんが……どういう事ですか?》
「あの時渡された力は、未来のフェイトさんの魔力だったんだよ。ティアと同じように、俺に全てを託してくれたんだ……」
《そうだったんですね……。ティアさんもフェイトさんも、本当に素敵な人です。死して尚、マスター達の力になってくれているなんて……》
プリムの言うとおりだ。二人とも本当に素敵な人たちだよ。
ティア……フェイトさん……。
本当に……ありがとう……。
二人の想い、決して無駄にはしない!!
「やるぞプリム!! フルドライブを、【フリーダム】を起動するぞ!!」
《今の状態じゃ自殺行為です!! 本当に死んでしまいますよ!!》
確かに、こんな状態でフルドライブなんか使ったらどうなるかわからない。
身体は傷だらけ、プリムの言う通り自殺行為だ。
「プリム、今はこれしかないんだ。頼む、俺を信じてくれ!!」
《…………分かりました、フルドライブ【フリーダム】起動します!!》
俺はフルドライブを起動させると、バリアジャケットが変化する。
黒基調から、なのはさんのバリアジャケットと同じく、白基調の青のラインがデザインに変わる。
フリーダムは以前、なのはさんの攻撃を受けたとき、防ぎきれなかったことで考えた物だ。
防御力を高めて、さらに機動力を増すことができる。
このことをコンセプトにして改良し、ようやく完成した物だ。
これは普段なら、通常の状態でも使うことができるが、今の俺には維持するのもきつい。
《マスター、終わったら、絶対に病院に行ってもらいますよ!!》
「すまないな……。見せてやるぜ、完全解除した力を!! ラウンドシールド・リフレクター!!」
《Round Shield Refrecter》
次の瞬間、ラウンドシールドが鏡面化し、光の盾となり、砲撃を上空へはじき飛ばした。
『う、嘘でしょう!! ディエチちゃんのフルパワーの攻撃を弾くなんて!?』
「はぁ……はぁ……はぁ……やったぞ……。こちらスターズ5、何とかフェイトさんとヘリの防衛成功させました」
* * *
「やった!! ギン姉。フィルがやってくれたよ!!」
「まったく無茶ばかりやるんだから……」
「でも、本当に良かった。間に合って……」
「「「……」」」
「どうしたの? ティア、キャロ、ルーテシア」
「キャロ、ルーテシア、あんた達も同じ事考えてたの?」
あたしの考えが正しければ、フィルは間違いなく自分の限界を超えて行動する。
いや、フルドライブなんて使ってる時点でいつ限界が来てもおかしくない。
「はい……フィルさん、これ以上無茶しなければ良いんですけど……」
「痛み止めの効果は、後どれくらい持つの?」
「10分……おそらくそれが限界……」
フィル、その前にケリつけなさいよ。
あんたが倒れたら、そこでおしまいなんだからね。
* * *
「す……すごい……ラウンドシールドであんな事出来るなんて……」
「未来でティアが考え出したオリジナルのシールドです。完全版なら相手にはね返せるんですよ。最も、魔力を多量に使うのと、術式が複雑なのであまり多用していなかったんです」
これだけの術式を高速展開するには、プリム並みの処理能力が必要になる。
俺個人だったら、間違いなく展開さえ難しいだろう―――――。
『きぃぃぃ!! どこまで私の邪魔をすれば気が済むんですの!!』
「今度はこっちから反撃させてもらうぞ!!」
* * *
「見つけたぞ、クアットロ!!」
「フィル・グリード、あんたいつの間に!!」
俺とフェイトさんはワープで、クアットロを見つけ出した。
こいつの気は嫌と言うほど知っている。
この腐りきった気は、忘れろったって忘れられる物じゃない!!
「観念しなさい、市街地での危険魔法使用、及び殺人未遂の現行犯で逮捕します!!」
「今日は遠慮しておきますわ~。IS起動……シルバーカーテン!!」
シルバーカーテンで姿をくらませたつもりだろうが、俺にはお前の気が丸わかりだ。
《マスター、捕らえました。方位、10時の方向、距離4km》
「八神部隊長!!」
* * *
「待っとったで、こっちは詠唱完了してるんや!!」
「はやて、場所は分かっている?」
「大丈夫、データはフィルに送ってもらったから、位置はしっかり特定できとるよ。後は任せておき!!」
私は戦闘機人の姿を捕らえ、広域空間攻撃【デアボリック・エミッション】の発射準備をとる。
この魔法は本来は自身を中心として発動させる魔法だが、こういったこともできるんや!!
覚悟せぇ、私の大事な仲間を………。
家族を………。
そして、親友を殺そうとしたこと後悔させたる!!
「追ってこない……何で……?」
「まさか!!」
「広域……空間攻撃!!」
「うそ~ん」
そのふざけた態度もこれまでや。
これでもくらって頭冷やしぃ!!
「遠き地にて、闇に沈め……」
「デアボリック・エミッション!!」
黒き巨大な魔力球は戦闘機人にめがけて眼下へ放たれた。
* * *
頭上の闇が一瞬収束したかと思うと、爆発的に膨れ上がり、二人をを飲み込もうと迫っていた。
ディエチちゃんを抱えたままだと逃げ切れないわね……。
しかたないわね。こうなったら多少のダメージは覚悟しますか。
私はダメージを負いながらも、何とか離脱をしたが……。
《投降の意志なし……。逃走の危険ありと認定》
《砲撃で昏倒させて捕らえます》
前方にはフェイト・T・ハラオウンが砲撃準備で待ちかまえていて……。
後方にはフィル・グリードがデバイスを突きつけ、同じく発射態勢になっていた。
* * *
「クアットロ、ディエチ!! くそっ!!」
「おっと、逃がさないよ」
わたしは、レイジングハートを戦闘機人に突きつけ……。
「高町なのは!!」
「フェイトちゃん達の邪魔はさせない。今度はあなたが足止めされる番だよ」
「ちぃぃい!!」
フェイトちゃん、フィル。こっちは押さえるから後は任せたよ。
クアットロを必ず捉えて!!
* * *
「ここまでだな、クアットロ。トーレはなのはさんが押さえてる。お前の援軍はないぞ!!」
《マスター、痛み止めの効果はあと5分です!! これで決着をつけないと……》
「分かっている、これに全てをかける!! やるぞプリム!!」
《了解です!!》
どのみち俺に残された体力も少ない。
一気に決着を付けなければこちらが危ない。
「フェイトさん!!」
「分かってる………。フィル、ここで終わらせるよ!!」
「はい!!」
「プリム、一か八かあれでやるぞ」
《マスター?》
「フェイトさんの得意技、フォトンランサー・ファランクスシフト……それでやる」
《いけません!! さっきのフルドライブで、もうマスターの身体は限界なんです!! せめてブラストブレイザーで!!》
確かにブラストブレイザーなら、リミットを完全解除した状態なら、そんなに負荷が掛かる訳じゃない。
だけど……。
「こいつに一直線の攻撃じゃ逃げられる可能性がある。全方位で囲んで仕留めるしかない!!」
《…………だったら、フォトンランサーの誘導は私がやります。マスターはスフィアを作り出すことを考えてください!!》
「サンキュー、相棒!!」
俺は今作り出せる量のフォトンスフィアを作りだし、クアットロの全方位を囲んだ。
38基。これが俺が出来る限界だ。
「トライデント……」
フェイトさんが、バルディッシュのカートリッジをロードさせ……。
「フォトンランサー・ファランクスシフト……」
俺もプリムのカートリッジをロードし、発射準備をする。
今の状態じゃ撃ったら間違いなく、俺の攻撃能力が無くなる……。
「スマッシャー!!」
「ファイア!!」
360°全方位からのフォトンランサーとフェイトさんのトライデントスマッシャーの同時攻撃だ。
回避は絶対不能だ。
白と金の魔力はクアットロに命中して、爆炎をあげた……。
「やった……」
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
頼む、これで倒せていてくれ………。
だが、俺の予想どおりだったらこの攻撃は―――――。
「……残念でしたわね、フィル・グリード。私はまだ生きてますわよ~」
「!!」
「くっ……やっぱり……駄目か……」
そこには自分の周囲に防御壁を張っていたクアットロの姿があった。
ディエチの方は気絶しているみたいだが、あいつは全くの無傷だ。
あの砲撃からは回避は不能だ。
おまけにフェイトさんと俺、二人とも手加減なしで撃ってる。
あれは……クアットロの周りに張られているシールド……。
あの防御壁の七色の光……。
外れていて欲しかったが……やはり……。
「やっぱり気づいてたんですね………。そう、私は未来でティアナ・ランスターとあなたに殺された、あのクアットロですのよ。いつ気づきました?」
やはり、俺が逆行者って言うことを知っていたか。
「言葉の節に『また』って使った時だ。あんな言葉は、俺のことを知っていなければ、出てこない言葉だからな」
本来ならこの世界では、俺は表舞台には立っていなかったんだからな。
今の段階で俺のことを知っているのは、おかしいしな。
「それはとんだミスでしたわ。さすがですわね」
「そんなことより、なぜ貴様が生きている!! あのときティアのスターライトブレイカーでお前は死んだはずだ!!」
ティアが命と引き替えにして放ったスターライトブレイカー。
あれで間違いなくあいつは死んだはずだ。
「さて、なぜでしょうね。いずれそれはわかることですわ。そんなことよりも、せっかく、あなたと同じく再び生を与えられたんですから、思う存分楽しませてもらいますわ~」
「そしてフィル・グリード、あなたには再び恐怖と悲しみを与えてあげますわ。今度はどうやってお仲間を殺してあげましょうか~」
―――――黙れ。
その下種な笑いを止めやがれ!!
「以前と同じじゃおもしろくありませんわ。今度はあなたの大事な人をなぶり殺しにでもしてみましょうか~。あはははっ!!」
「だまれッッ!! その減らず口を二度とたたけないようにしてやる!!」
俺は最後の力を振り絞って、銃口をクアットロに向ける。
「出来るのかしら~。さっきの砲撃で殆ど力を使ってしまっていうのに~」
くそっ!! 腐ってもやはり参謀型って訳か。
こっちの状態を正確に把握してやがる。
おまけに、痛み止めの効果はもうすぐ切れてしまう……。
「今日のところは引き上げますわ~。またお会いしましょう~」
「待ちなさい!!」
フェイトさんがプラズマランサーをクアットロに放ったが、当たる直前にシルバーカーテンで姿をくらませてしまった。
「待て、クアッ…ト……ロ……」
《マスター!!》
「フィル!!」
さっきのフォトンランサーで力を使い果たし、出血多量で俺は浮遊も保てなくなっていた。
そんなとき……。
「ふぅ……間に合った……」
「なのは!?」
「なのは……さん?」
なのはさんが間一髪の所で、俺を抱えてくれた。
* * *
「その怪我で無理しすぎだよ、フィル!!」
「すみ……ません……」
「完全解除が出来るようになったと言っても、その怪我で無理しずぎ!!」
フィルの怪我はかなりの物だ。
元から重傷箇所があったのに、それを治療魔法で無理矢理治して、さらに痛み止めの魔法を使って動いてたんだから……。
リミットの解除……。
フルドライブの使用……。
多量の魔力を使う攻撃魔法……。
これだけの悪条件があれば、こうなって当たり前だ。
「まったく、フェイトちゃんをあまり泣かせちゃ駄目だよ。最も、心配してるのは、わたしもなんだからね……」
「はい……」
「ほら、ヘリまで飛ぶから一緒に行くよ……」
「大丈夫ですよ……。自分で飛べますから……」
「だ~め。無茶ばかりする悪い子の言うことは聞けません~」
わたしはフィルを抱えて急いでヘリへ向かう。
これだけのダメージを負って、正直よく意識を保ってると思う。
まったく、いくらフェイトちゃんのためだといっても無理しすぎだよ。
こんなに思われてるフェイトちゃんがうらやましいな……。
* * *
「それにしても、散々だったな。私は高町なのはには押さえられ、レリックとお嬢様達は六課に奪われる。最悪だな……」
「そうでもありませんわ、トーレお姉様」
「どういう事だ、クアットロ」
「確かにルーお嬢様達とレリックは奪われましたけど、フィル・グリードは当分戦闘には参加できませんわ。これで六課に大きな痛手を負わせることが出来ましたわ」
あの男が動けなくなるのは、こっちにとって好都合。
これで、こっちの計画もゆっくり進められますわ。
「確かに……な……」
「それに、すぐに取り返せば良いんですから~」
「お前な……」
「それよりも、機動六課の連中に、もっと苦しみを与えてあげましょう。そのほうがおもしろいですから~」
そう、正直レリックの一つや二つどうでもう良い。
やはりフィル・グリードはこっちに来ていたみたいね……。
あなたの大切な物……かならず壊して見せますわ……。
* * *
聖王医療院
ここの特別病棟の一室に、機動六課によって保護された少女が寝かされていた。
意識は戻っていなく、衰弱状態もまだ回復してないが……。
「フェイトちゃん、保護した女の子とフィルの状態は……?」
「保護した女の子は検査の方は一通り終了、大きな問題はなさそうだよ。フィルの方も今は麻酔が効いて病室で眠っているよ。傷口は治療魔法でふさがっていたから、そんな大事には至らないって、ただ出血がかなりしていたから、しばらくの間は任務は禁止だって……」
「フィル、本当に無茶して………。でも、ある意味良かったかも、これでやっと休暇を取らせられるよ」
「皮肉だけど……こんな事でもないと、フィルって休まないもんね」
「フェイトちゃん、フィルのことお願いね。任務をしようとしたら……」
「大丈夫、私が無理矢理でも休ませるから、それにフォワード達やシャーリー達にも良い機会かもよ」
「フィルにどれくらい頼ってたかって事だね……」
実際、スバル達の報告書とかを見ても、ティアナ以外の物はフィルが手直ししていることが殆どだ。
エリオやキャロは、事務仕事に慣れていないのはしょうがないとしても、スバルはもう少しその辺はちゃんとして欲しい。
シャーリー達もフェイトちゃんが言ってくれたから、今は大丈夫だけど、それまではかなり頼っていた面があった。
「まぁ、フィルは何もなければ明日には退院みたいだし、それに報告書を書くために、わたし達も戻らないとね……」
「そうだね、資料とかはここに来る前にそろえてあるから、そんなに時間が掛からないよ」
「にゃはは、ありがとう……。あっ、そうだ。ちょっと女の子の様子見てくるね」
「だったら私も行くよ」
「いいよ、ちょっと見てくるだけだから。フェイトちゃんは駐車場で待ってて……」
「分かったなのは、じゃ外で待ってるから」
「うん、じゃ30分後にね……」
フェイトちゃんと別れたわたしは部屋に向かうため、廊下を歩いていると売店があり、くまさんとうさぎさんのぬいぐるみがあった。
なんとなくうさぎさんのほうがかわいかったので、うさぎさんの方を買った。
わたしはそのぬいぐるみを女の子の頭の近くにそっとおいた。
目が覚めた時に、それに気づいてくれれば良いんだけどね。
「……ママ」
意識は戻って無くても、夢は見ているのかもしれない。
何か怖い夢でも見ているのかな……。
「大丈夫だよ、ここにいるよ。こわくない……」
わたしは語りかけながら、少女の頬をそっとなでていた。
もしかしたら、無意識のうちに自分の小さい頃と照らし合わせたのかもしれない。
わたしはしばらくの間、少女のことを見守っていた。
皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。
-
見てみたいので公開してほしい
-
まあまあ興味がある
-
どちらでもいい
-
興味がないので公開はしなくて良い