魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~ 作:アルフォンス
「うぅぅ……。はっ!!」
「くっ!!」
「ううっ……」
俺達はアギトと名乗る、融合騎の攻撃の前に防戦一方の状態になっていた。
キャロはさっきの攻撃で、意識を奪われてしまってまだ回復していない。
おまけに召喚師の少女が召喚したあの召喚獣は、こっちの戦力じゃ現状ギンガさんしか対抗出来ない。
融合騎の攻撃もかなりの連続攻撃で、隙がないし、接近戦能力は無いが、中距離戦には秀でている感じだ。
「ティア、フィルどうする?」
「任務はあくまでケースの確保だ。撤退しながら引きつけるしかない」
「こっちに向かってきている、ヴィータ副隊長やリイン曹長にうまく合流出来れば、あの子達も止められるかも……だよね」
「スバル……救援を期待するな。あっちもガジェットに対応していて、なかなかこれない状態みたいだ」
予想以上にガジェットの数が多くて、全部片付けるにはもう少し時間が掛かるみたいだ。
* * *
「ちいぃ、どうなってやがるんだ!! いくら片付けてもきりがない!!」
「幻影と実機の複合パターンなのは分かっているんですけど、こう多いと……」
くそっ!! フォワード達が危ないってのに、これじゃ助けにいけない。
フィル、すぐに片付けるから、なんとかもち堪えてろよ!!
* * *
「じゃ、どうするの!?」
「……一か八か、俺のワープでヴィータ副隊長達に合流する」
「ちょっと待って、あんたのワープって一人を運ぶのが限度のはずでしょう!!」
「だから、キャロの力を借りるんだ。俺にブーストをかけてもらい、魔力を一時的にあげる」
リミットを解除してもいいが、時間制限がある以上、デメリットの方が大きい。
「う……ううん……」
「キャロ、気がついたのね」
「はい、すみません……。今まで……。って、どうしたんですか?」
俺はさっきの案をキャロに説明する。
すると、キャロは少し考えていたみたいだが―――――。
「確かにわたしのブーストを使えば、可能かもしれません。でも、それじゃフィルさんに相当の負荷が……」
「大丈夫、俺を信じてくれ。キャロ」
「フィルさん……」
俺にかかる負荷だったら、どうとでもなる。
とにかく今はここを脱出しないと―――――。
「……皆さん、全員を転移させるとなると、かなりブーストをかけなくちゃなりません。すみませんがその間、わたしとフィルさんに敵を近づけさせないようにしてください」
「キャロ……。あんた……」
「分かったよキャロ。あいつらの攻撃は、あたし達が何とか食い止めるよ!!」
「キャロ、フィルさん、お願いします」
「フィル、あなたに賭けるわ。私はスバル達を援護するね」
「みんな……頼むぞ……。だけど、俺とキャロの周りから離れないでくれ」
転移の効果範囲はそう広くない。
なんとかして、相手に気づかれずにやらないと―――――。
「……だったら、あたし達全員でプロテクションを張るから、その間に済ませて」
「ティア、すまない」
「フィル、今はあんたの策に賭けるしかないでしょう。あんたは余計なことを考えないで集中して!!」
「わかった……。その前にヴィータ副隊長聞こえますか。こちらスターズ5、フィル・グリード応答願います」
* * *
「なんだよフィル、どうしたんだ。こっちはガジェットの相手で手一杯なんだ」
フィルからの緊急通信が入るが、正直こっちはこいつらを撃退するので精一杯だ。
(時間がないんで簡潔に言います。現在レリックを狙う召喚師と召喚獣と地下で交戦中です。ただ、ここで戦うのはかなり不利なので、転移で場所を移動します)
なるほど、そういうことか―――――。
地上の方があたし達にとっても戦いやすいし、フォローにも回れる。
(わかった。だったら、あたしかリインのどっちかが降りた方がいいか?)
(そうしてもらえると助かります。副隊長達が空にいますと転移した時、投げ出される形になっちゃうのでリイン曹長かヴィータ副隊長のどちらか、ビルか地上に降りてもらえませんか)
「わかりました、私が近くのビルに行きますので、私の魔力を目印にしてください」
(すみませんリイン曹長)
* * *
「これで転移が出来るぞ……。やるぞ、キャロ!!」
「はい!!」
俺はプリムと一緒にワープの術式を発動させ、キャロもブーストの準備に取りかかった。
そしてティア達も全員で、俺たちの周囲にサークルプロテクションを張り、攻撃に備える。
「ケリュケイオン!!」
《Boost Up Magic Power》
「我が乞うは、強き魔力……」
* * *
「ルールー……。あれってもしかして!?」
「……増幅魔法。ブースト……」
「へっ!! 何するか知らねえが、バリアごとぶち抜いてやる。くらえ!!」
炎の球は俺たちに一直線に向かってくる。
「「「「うわぁぁぁぁ!!」」」」
何とか持ちこたえたが、何度も喰らうとプロテクションが持たない。
「フィル、キャロ。まだなの!!」
「……気高き戦士に……さらなる力を……」
キャロの詠唱が終わると、魔法陣が強く輝き、キャロの両手に力が集められた。
「ブーストアップ、パワーインジェクト!!」
キャロの魔力増幅を受けとると、全身に魔力がみなぎり、広範囲のワープが出来るようになる。
「みんなつかまれ!!」
「うん!!」
「はい!!」
「ええ!!」
「分かりました!!」
「OKよフィル!!」
全員が効果範囲に入ったのを確認し―――――。
「全員つかまったな。いくぞ!!」
次の瞬間、俺たちの姿はこの場から完全に姿を消した。
* * *
「リイン、そっちはどうだ。フォワード達の反応はあったか!?」
「まだです。こっちには来てません!!」
フィルに言われてビルに来ていますけど、お願いです。無事でいてください……。
「フィル……。これは!!」
「どうしたリイン!!」
「転送反応あり!! フォワードのみんなです!!」
「本当か!!」
次の瞬間、白色の魔力球に包まれたフィル達が現れた。
転移が成功したんですね。
「フィル、無事だったんですね!!」
「ティアナ達も無事みたいだな」
『はい!!』
* * *
「……逃がさない」
合流できたのも束の間―――――。
紫色の転送用魔法陣が現れ、ルーテシアとアギト、そしてガリューが出現した。
「……どうやら、戦うしかないな。だがな、さっきみたいに行くと思うなよ。みんないいな!!」
『おう!!』
「フォワード陣とギンガはフィルの指示に従って動け。あたし達はあの召喚獣を何とかする。お前達は召喚師をなんとか押さえろ!!」
『はい!!』
「散れ!!」
ヴィータ副隊長の合図で、副隊長達は召還獣に、俺たちはルーテシアに攻撃を仕掛ける。
* * *
「ふっとべぇぇぇぇぇぇ!!」
あたしの一撃は完全に捕らえたかと思われたが、召還獣がベルカ式の魔法陣を展開し防がれてしまった。
「くっ!! こいつ!!」
《この程度の攻撃で、やられる俺と思うな……》
「こいつしゃべれるのか!?」
召喚獣ってやつは、自分の意志を持っていたとしても言葉を発する事は少ない。
ってことは、こいつはかなりの力を持ってるのか!?
《俺は巫女を……ルーテシアを守るために存在する。そう簡単にやられるわけにはいかん》
「そうかよ……。だったらこれならどうだ!!」
《!!》
あたしは自分の周りに幾つもの鉄球を出現させた。
シュヴァルベフリーゲン―――――。
通常ならグラーフアイゼンで撃ち出さなくてはならない。
だけどな……。
《無駄だ……。お前は古代ベルカの騎士みたいだが、察するにその鉄球は単体では威力はないはず……。打ち出す時間など与えん!!》
「……はん!! 言ったろ。ベルカの騎士を甘く見るなって……。こいつは、こういう使いかたもあるんだ!!」
合図と同時に、鉄球は一斉に召還獣に放たれる。
アイゼンでぶっ叩いてないから、威力は100%じゃないけど……。
《くっ……だが、この程度ではやられん》
確かにこの鉄球は足止め程度にはなっているが、倒すほどの威力はない……。
「何度も言わせんじゃねえ!! あたしをなめんなよ。こいつが本命だ!!」
アイゼンをギガントフォームにスイッチし、フルパワーで思いっきりフルスイングでぶっ叩いた。
「ふっとびやがれ!!」
《しまっ……》
召喚獣も気づいたが、時すでに遅し。
ギガントフォームの一撃が、決まり近くのビルに叩きつけられていた。
* * *
副隊長達が召喚獣と戦っている時、あたしたちもルーテシアとアギト、そしてルーテシアの召喚した新たな召喚虫と戦っていた。
「なんなの!! このデカブツは!!」
「気をつけろ!! こいつは重力で相手をつぶすだけでなく、放電能力もある。そいつを喰らったらバリアジャケットがあっても、しばらく動けないぞ!!」
「分かってるわよ!!」
フィルから事前に、こいつらのことは聞いているけど、実際に遭遇するとやっぱりやっかいよね。
副隊長達があっちを押さえてくれているから、こいつだけですんでいるけど……。
「ティア、呑まれるな。召喚虫が厄介と言っても、俺たちで何とかなる奴だ。それにルーテシアを押さえれば……」
「……そうね。あいつは自立行動は出来なそうだから、召喚師を押さえればどうにかなるわ。あとはあの融合騎ね……」
召喚師さえ押さえてしまえば、あのデカブツは力を発揮することが出来なくなる。
「フィル、あの融合騎はあたしが何とかするから、あんたとスバルで召喚虫のほうを押さえて!!」
「分かった。お前のサポートはギンガさんに任せる。頼むぞティア!!」
「あんたの方こそ、ドジ踏むんじゃないわよ!!」
「確かにな……。行くぞ、スバル!!」
「うん!!」
「ギンガさんは、あたしのサポートをお願いします。……散って!!」
* * *
ティアの合図を切欠に俺たちはそれぞれの相手に向かっていった。
俺とスバルは地雷王に、ティアとギンガさんはアギトに……。
「スバル、俺がシューターであいつを攪乱するから、お前はその隙を突いてディバインバスターを叩き込め!!」
「でも、あいつかなり身体が硬いよ。普通に撃ち込んでも……。それに、電撃で迂闊には打ち込めない!!」
「それについては俺に考えがある。俺を信じてくれ」
うまくいくかどうか分からないけど、やってみる価値はある。
「……分かった。今はフィルの作戦を信じるよ」
「任せなって………プリム、カートリッジロード」
《了解です》
カートリッジを2発ロードし、俺はスフィアを展開する。
「うそ!? そのスフィアの数!!」
スバルは驚いているが、たがが16個のスフィアにすぎない。
現になのはさんなんて、この倍以上のスフィアを自在に操ってるんだぞ。
「……言ったと思うが、未来ではこのくらいのことは当たり前にしてたんだ。それになのはさんなら、この位あっさりやるぞ……」
「そ、そりゃそうだけど……」
「とにかく、あいつの動きが止まったら全力でぶちかませ。いいか、チャンスは一回だぞ」
「分かったよ、フィル」
「……いくぜ、ブラストシューター!!」
一斉に放たれたスフィアは、地雷王の周りを攪乱するが、攻撃は一つも当たっていない。
だが、これがこっちの狙いなんだ―――――。
《ウォォォォォン……》
「よし……奴さん。俺に集中してきたな」
《ええ……地雷王はスフィアしか見ていませんね。シューターが、かなりイライラするみたいですね》
「ルーテシアも地雷王を信じて、何かをする様子は見られないな。だがな、ブラストシューターは、攻撃用に撃ったんじゃない。こいつはあくまで囮だ」
そう、スフィアはあくまで囮、こいつで攻撃したって、ダメージは与えられないのは充分分かってる。
《でも、それも限界ですね。これ以上は危険です》
「分かっている……。本命はこれからだ。やれ、キャロ!!」
「はい!! 錬鉄召喚、アルケミックチェーン!!」
地雷王の足下に魔法陣が展開され、周囲から拘束用の鎖が召喚され、全身を捕縛する。
地雷王が暴れて鎖を引きちぎろうとするが、鎖はびくともしない。
おまけにこいつは鋼鉄の鎖だ。
地雷王が電撃を出してもアースの役割で、全部地面に吸い込ませられる。
《ウォ……ウォォォォン!!》
「地雷王!! ……くっ!!」
「おっと……そうはさせないぜ。ルーテシア、お前の相手は俺がする」
「フィル……グリード……」
牽制用のバレットはギリギリでかわされてしまったが、動きを止めることは出来た。
* * *
「スバル、キャロが動きを止めているうちにやれ!!」
「オッケー!! 行くよマッハキャリバー!!」
《了解です。ウイングロード展開》
「一撃……必倒……ディバイン……」
こいつを昏倒させるには、普通に撃っても効かない。
眉間に……それもゼロ距離で撃つしかない!!
「スバル!! 無茶だ!!」
「フィル、あたしを信じて!! 絶対に決めるから!!」
そう、この位出来なきゃ、これから先は戦っていけない。
絶対に決める!!
「バスター!!」
《グォォォォォォン!!》
ディバインバスターは、地雷王の眉間に正確にヒットし、意識を刈り取った。
「やった!! ってうわぁぁぁ!!」
「スバル!!」
ディバインバスターを命中させたはいいがバランスを崩してしまった。
《sonic move》
「きゃぁぁぁ!! ……ってフィル?」
バランスを崩して、地面に激突する寸前フィルが高速移動で助けてくれた。
「ったく、お前って奴は本当に後先考えないな。攻撃に全てを使っちまったら、ああなるに決まっているだろ」
「えへへ、ごめん。だけど今のあたしにはあれしか通じそうになかったから。それにフィルがいたからフォローはしてくれるっておもったんだ」
実際ソニックムーブで助けてくれたしね。
でもフィルがいなかったら、もっと安全策でいったよ。
* * *
「確かに全力でぶちかませって言ったのは俺だからな。ああなるとは予測してたけどな……」
「本当は助けてもらってばかりじゃいけないんだけどね。だけどフィルがいるって思うとあたし達は全力で戦えるんだよ」
「……だったら、もう少し配分を考えて戦え。そんなんじゃすぐ倒れちまうぞ」
ペース配分が出来なきゃ、長期戦なんて出来ないぞ。
スバルの良いところは真っ直ぐな所なんだけど、こういうときは弱点にもなりかねないからな。
「うん、そうだね。戦いはこれで終わる訳じゃないんだからね」
「ああ、地雷王は押さえたが、まだ……」
そう、召喚師であるルーテシアを押さえなくちゃ意味がない。
スバルはさっきのディバインバスターで殆ど余力が残ってないし、キャロもさっきのブーストとアルケミックチェーンで、相当の負担がかかってしまった。
「地雷王……戻って……」
どうやら地雷王は、送喚したみたいだな。
あとはルーテシアを止めるだけだな。
* * *
「地雷王!! ちっくしょう!! やりやがったな、あいつら!!」
「あんたもいい加減に観念しなさい。あたし達をなめすぎたのが、あんた達の敗因よ!!」
「うるせぇ、まだあたしは負けてねえ!! これでもくらいやがれ!!」
なに、あのでかい魔力球は……。
大きさから推測して、くらったら間違いなくノックダウンされる。
まずいわね、あっちは空、こっちは地上。
迎撃しようにも、空戦が出来ないあたしじゃ……。
「ティアナ、ここは私に任せて」
「ギンガさん?」
「あれが発射されるには、少しタイムラグがあるわ。あたしが囮になる」
「でも、ウイングロードじゃ気づかれてしまいますよ」
ウイングロードでは、空中に道を作る必要があるし、第一それを許してくれるとは思わない。
「だから、貴女の幻術が必要なのよ」
「そういうことですね……。分かりました、やってみます!!」
ギンガさんの考えてることが分かり、あたしはすぐに実行に移る。
「頼むわよティアナ。じゃ……」
「ええ……」
「「GO!!」」
* * *
「へっ!! 何小細工しようといてるか知らねえが、こいつでまとめてぶっ飛びやがれ!!」
「これでも喰らいなさい!!」
「そんなへなちょこ弾に当たるかよ!!」
そんな攻撃に当たってたまるかよ!!
こいつの攻撃はおとりだ。
こいつらの本命は……。
「反対側にいるてめえの方だ!! くらえ!! 轟炎!!」
こいつを倒しちまえば、あのオレンジ髪の奴なんて大したことない。
「……ふっ、甘いわね」
「う、嘘だろ!! 受け止めやがった!!」
あたしの最大攻撃魔法をうけとめやがった―――――。
こっちはフルパワーでやってるのに!!
* * *
「ギンガさん、もう少しだけ頑張ってください……」
あの融合騎はあたしが作った、シルエットあたしに気をとらわれている。
もっともあたしのシルエットのシューターに気づかれたら、それまでなんだけどね。
未熟なシルエットは、ギンガさんのフォローで何とかカバーできる。
「ここからが本番ね、クロスミラージュ!!」
《yes》
「距離はギリギリだけど、やってみせる!!」
「これくらいやらなきゃ、フィルと一緒には戦っていけない……」
今のあたしに使える最高の砲撃……。
なのはさんが教えてくれた、クロスファイアの最終形態。
《ティアナ、集中してください。スフィアは多く展開しなくていいですから》
「それは分かっているんだけど……」
《集束系は集中力が大事なんです。少ない魔力でも一点に集めれば破壊力は増します。フィルのブラストブレイザーと同じ原理です》
とはいっても、やっぱりきついわね。
なのはさんもフィルも本当にすごいわ。これだけの魔法を実戦で使いこなしてるんだから―――――。
―――――でもね。
「ランスターの弾丸に、貫けない物はないのよ!!」
次の瞬間スフィアは一点に集まり、一つの魔力球となった。
* * *
(集束反応……ティアナね……。だったらこれで私の役目は終わりね。この魔力球も、ここで押さえておく必要はないわね)
「はぁぁぁぁぁ!!」
「まじかよ!! あれを蹴り飛ばしやがった!!」
あたしの轟炎を……。
非常識にもほどがある……。
「おい、逃げる気か!!」
おかしい?
あたしに攻撃をするわけでもなく……。
なんだこの反応は……魔力反応!?
まさか!! こいつらの狙いは!?
* * *
「気づくのが、少し遅かったわね」
《集束完了、今です!!》
「いっけぇ!! クロスファイアシュート!!」
引き金を引かれたクロスファイアシュートは、一直線にターゲットに向かっていった。
「し、しまった!! かわせるか!!」
クロスファイアはギリギリでかわされてしまったが、リイン曹長が隙を突いてバインドをかけ、動きを封じることに成功した。
「「リイン曹長!!」」
「二人ともよく頑張りましたね。フィル、こっちも捕まえましたですよ」
* * *
「アギトまで……」
「ルーテシア……」
俺が彼女の近くに行こうとすると……。
「来ないで!!」
召還された紫色のダガーが俺の右肩を貫く。
貫かれた痛みで、俺は意識が朦朧とし始める―――――。
アギト達が捕らえられて、我を忘れているな。
魔法が殺傷設定状態になっている。
「フィル!!」
《マスター!!》
「………く、来る、な。スバル」
「何言ってるのよ!! 相手はあんたを殺す気なのよ!!」
いつの間にかティアとギンガさんが合流していた。
どうやら、そっちはうまくいったみたいだな。
「ティア、ここは俺に任せてくれないか……。頼む……」
「フィル……」
未来では、この女の子を死なせてしまった。
この子は、俺がお世話になったあの人の子だったのに―――――。
今度は絶対に死なせない!!
―――――俺の命に代えてもだ!!
「分かった……。でも、死んだら許さない!!」
「すまん……」
「ティア!! どうして止めないの。このままじゃフィルは!!」
「スバル、いくら言っても無駄よ。ああなったフィルは止められないって、昔から知っているでしょう」
「……うん」
みんな、本当に済まない―――――。
俺のわがままを聞いてくれて……。
「今はフィルを信じましょう……」
* * *
「ぐっ……ぐわぁ!!」
《マスター、これ以上は危険です!! 攻撃してください!!》
「駄目だ……」
《何でなんですか!! このままじゃマスターが死んでしまいます!! せめてプロテクションだけでも!!》
マスターの身体は、ダガーの攻撃で全身傷だらけです。
最も酷いのは、右肩と左足に刺さったダガーだ。
―――――もしかしたら、動脈も切っているかも知れない。
出血が全然収まりません!!
「駄目だ!! プリム、これは最初で最後のチャンスなんだ。ルーテシアに魔法の本当の怖さを教える……」
《どういうことですか……?》
「いいか、ルーテシアは母親を取り戻すためだけに、簡単に殺傷設定にしてしまっている。それではいつか本当に殺人鬼になってしまう」
《だからといって!!》
このままじゃ、マスターは本当に死んでしまいます!!
せめて治療魔法で傷を塞がないと―――――。
「未来で、キャロと同士討ちになったのは覚えているな。あのとき……キャロに殺傷設定の魔法を何発も使っていた。キャロは最後までルーテシアを信じ……攻撃を受けていた」
《!!》
「そして、キャロは最後の力で、何とか白天王を止めたけど……」
《そう……でしたね……》
キャロがしたのは、ヴォルテールで白天王と相打ちにすることでした。
二つの強大な召喚獣の力が激突して、二人とも助からなかったんです……。
「だから、ここでルーテシアに、人を傷つけることの怖さと命の重さを伝える……。殆ど賭だけどな……」
マスター……全くあなたって人は……。
《分かりました……でも、せめて右肩と左足の傷は私が治しますよ。そんな傷があったら伝える前にマスターが死んでしまいますから……》
「サンキュー……相棒……」
* * *
プリムに治療魔法を掛けてもらうと幾分か回復した。
右肩と左足の治療に集中したせいで、他の所は殆ど代わっていなかったが、大分ましになった。
「まだ……来るの……来ないでよ!! なんで、何で倒れないの!!」
「倒れるわけにはいかないんだよ……お前が……間違いに気づくまでな……」
「なんで……私……何、間違っているの。私はお母さんを助けたいだけなのに!!」
その思いは痛いほど分かる。
だからといって、人殺しの魔法を使って言い訳じゃない!!
「母親を助けたいからと言って、平気で人に殺傷設定の攻撃魔法を使うな!! それと召喚獣達にむやみな殺しをさせるんじゃない!!」
「違う!! ガリュー達にそんなことさせてない!!」
「ガリューはともかく、自立行動のとれない他の召喚獣達は、お前の行動一つで決定するんだぞ!!」
召喚獣は、召喚師の意志で行動が決定する。
「私、殺しなんてやってない!!」
「こっちを見てみろ、ルーテシア!!」
「……あ……あぁ……」
ルーテシアは、血だらけの俺を見て驚愕している。
出血多量で、意識を保つのも辛いけど、ここで倒れるわけにはいかない。
ルーテシアに人間としての感情を取り戻させるまでは―――――。
「ちゃんと見るんだ……。ルーテシア……・」
「私……何を……」
「いいか、お前の感情一つで簡単に人を殺せるんだぞ。お前の持っている力はそう言う物だ……」
「あ……あぁ……」
ルーテシアの奴、どうやら理性を取り戻してきたみたいだな。
混乱はしているが、今なら話も聞いてくれる……。
「あっ……」
俺は出来るだけ優しく彼女を抱きしめる。
これ以上責めるのは逆効果だから―――――。
「でもな……。お前がちゃんと気づいてくれれば、俺はそれでいい。お前はまだ、誰も殺していないんだからな」
「だけど……だけど、あなたが……」
「心配するな、死にはしないよ。この程度ならな」
こんな程度でくたばっていたら、未来では何十回って死んでいる。
「でも!!」
「だったら俺がちゃんと教えてやるよ。お前の力の正しい使い方を、そして……」
「何より、俺は……お前の友達になりたい」
「とも………だち……?」
「ああ、友達だ。今まで独りぼっちだったんだろ。母親がいなくなってから、ずっと……」
「……うん」
* * *
確かにアギトもガリューも、一緒にはいてくれたけど……。
「俺は……お前と友達になって、お前の笑顔を見たい。それじゃ駄目か……?」
「いいの……。私で……?」
本当に甘えていいの。私……。
この人は管理局の人なのに、だけどすごく暖かい物を感じる。
まるで……。
「ふぅ……お前の場合はこっちが待つよりも、多少強引にやった方がいいみたいだな。いいか、もうお前は俺の友達だ。お前が嫌わない限りな……」
「うん!!」
「良い笑顔だ。よろしくな、ルーテシア」
こうして抱きしめてもらっていると、なんか心が温かくなる。
何でだろ……不思議だな……。
* * *
『フィル!!』
「フェ、フェイトさん!?」
いつの間にフェイトさんから通信が入ったんだ。
いったい、誰が?
『また、無茶やったの!! その傷だらけの身体はどういう事!?』
《聞いてくださいよ、フェイトさん。マスターったら、本当に無茶なことをして……》
「こらプリム、余計なことを言うんじゃない!!」
こんな事フェイトさんにばれたらどうなるか!!
案の定、画面のフェイトさんは笑顔なんだけど、目が笑ってない―――――。
『説明………してくれるんでしょうね』
「は、はい……」
俺はさっきまでのことをフェイトさんに報告する。
するとフェイトさんは……。
『……ば、か』
嗚咽をこらえながら……。
『どう、して……どうして、いつもいつも無茶ばかりする、の。本当に、心配したんだよ……』
通信はそこで切れてしまった。
俺は何も言えなかった。
なのはさんにも言われていたのに、好きな人を泣かして……。
「フィル、あんた、帰ったらフェイトさんにちゃんと謝りなさいよ。さっきだって、ブーストかけてのワープなんてやってるんだから……」
「……ああ」
ティアの言うとおりだ。
ちゃんと、フェイトさんに謝ろう。
* * *
「おーい、お前ら無事か?」
「ヴィータ副隊長!! 無事だったんですね」
「あたしを誰だと思ってるんだ。ほれ、連れてきてやったぞ」
「ガリュー!!」
ヴィータ副隊長が連れてきたのはガリューだった。
傷だらけの戦士に、バインドを掛ける真似はしなかった。
『ルーテシア、無事か』
「うん、ガリュー……ごめんね。私が無理を言ったから」
『気にするな。それと良かったな……』
「えっ?」
『リンクでお前の気持ちが伝わってきた。良き仲間が出来たみたいだな……』
「うん……」
『仲間を……友を大切にな……』
「ありがとうガリュー……ガリューも傷だらけだよ。戻って傷を癒して……」
『そうさせてもらう……。また、必要な時は呼んでくれ』
「うん……」
ガリューはルーテシアが送喚用の魔法陣を作るとそこに入っていった。
* * *
「さてと、こっちは何とかなったけど……」
「なのはさんとフェイトさんは、さっきの通信でもう片が付いて、こっちに向かっているって聞いたけど……」
「それでもかなりの距離だからな。しばらくは掛かるだろうな」
ここから、フェイトさん達がいるところまでは結構距離がある。
戻ってくるまで時間がかかる。
「はやての方も、ガジェットが幻術と実機で多数出現したけど、そろそろカタが付きそうだしな」
「でも、フィル。あんた本当に大丈夫なの? その傷……」
今、俺はキャロとルーテシアに治療魔法をかけてもらっている。
ルーテシアが自分のせいでこうなってしまったんだからといって、治療魔法をかけてくれていたんだけど、
途中からキャロも一緒にかけてくれた。
キャロ曰く、この傷は二人でかけても、この場では完全には回復しないとのことだ。
「大丈夫だ。キャロとルーテシアにやってもらったからな。かなり楽になったよ」
「本当にごめんなさい……。私のせいで……」
「ルーテシア、もう気にするな。ほら、そんな泣き顔じゃなくて笑顔の方が良いぞ。俺は大丈夫だから……」
そんな泣きそうな顔だと、こっちも辛い。
女の子は笑顔の方が良いんだからな―――――。
「うん……」
まぁ、気にするなと言っても、なかなか厳しいかな。
でも、無理した甲斐はあった。
エリオにキャロ……そしてルーテシア……。
これで3人を、あんな形で戦わせなくてすむんだから……。
皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。
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見てみたいので公開してほしい
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まあまあ興味がある
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どちらでもいい
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興味がないので公開はしなくて良い