魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ Remember my heart ~   作:アルフォンス

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第9話 互いの思いとフィルの思い

「えっと……報告は以上かな。現場検証は調査班がやってくれるけど、みんなも協力してあげてね。しばらく待機して何もないようなら撤退だから」

 

「「「「はい」」」」

 

「で……ティアナは……」

 

「……」

 

「ちょっと……わたしとお散歩しようか……」

 

「……はい」

 

 

 

わたしとティアナはみんなから少し離れ、森の奥に入っていた。

ここで少し話そうかと思う。

 

 

「失敗しちゃったみたいだね……」

 

「すみません……一発逸れちゃって……」

 

「わたしは現場にいなかったし、ヴィータ副隊長に叱られて、もうちゃんと反省していると思うから、改めて叱ったりはしないけど……」

 

「ティアナは時々、少し一生懸命すぎるんだよね。それでちょっとヤンチャしちゃうんだ。でもね……」

 

「ティアナは一人で戦っている訳じゃないんだよ。集団戦でのわたしやティアナのポジションは、前後左右全部が味方なんだから、その意味と今回のミスの理由、ちゃんと考えて同じ事を二度と繰り返さないって、約束出来る?」

 

「……はい」

 

「なら、わたしからはそれだけ……約束したからね……」

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「……んっ…ティア……」

 

「ティア!!」

 

「……フィル……スバル……」

 

「色々……ごめん……。特にフィルには、カバーまでしてもらったのに……」

 

 

はぁ……やっぱり気にしていたか……。

確かに無茶はまずかったが、いい加減に切り替えないと自分が参るぞ……。

 

 

「ううん、全然………なのはさんに怒られた?」

 

「少しね……」

 

「そう……」

 

 

なのはさん、絶対曖昧にしてるだろうな……。

優しいのはいいんだけど、なんでティアがああいった行動をしたのか理解しないと意味無いぞ。

 

 

「ティア、少し向こうで休んでていいよ。検証の手伝いは、あたしとフィルでやるから……」

 

「そう言うことだ……お前は少し休め」

 

「ううん、大ミスまでしてサボりまでしたくはないわよ。一緒にやろ」

 

「うん!!」

 

「そうだな」

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「えっと、シャーリーさん……」

 

「はいなー」

 

「フェイトさんと一緒にいらっしゃる方、考古学者のユーノ先生って伺ったんですけど……」

 

「そう、ユーノ・スクライア先生。時空管理局のデータベース、無限書庫の司書長にして、古代遺跡の発掘や研究で業績を上げている考古学者。局員待遇の民間学者さんってのが、一番しっくり来るかな。なのはさん、フェイトさんの幼なじみなんだって」

 

「はぁ……はっ……」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「そう……ジュエルシードが……」

 

「うん……局の保管庫から、地方の施設に貸し出されていて、そこで盗まれちゃったみたい……」

 

「そっか……」

 

 

あのとき、フィルにスカリエッティのことは聞いているが、やはり高エネルギー体のジュエルシードは目に付けられたという訳か。

 

おそらくガジェットに組み込まれていたのはコピー品のはずだ。

あれは物が物のだけに量産型に入れる訳はないし、何より数が21しかないのに無駄に使う訳がない。

 

 

「まぁ、引き続き追跡調査の方はしているし、私がこのまま六課で事件を追っていけば、きっとたどりつくはずだから……」

 

「……フェイトが追っている……スカリエッティ?」

 

「うん……でも、ジュエルシードを見て、懐かしい気持ちも出て来たんだ。寂しいさよならもあったけど、私にとっては、いろんな事の始まりの切欠でもあったから………」

 

「うん……」

 

 

―――――やっぱりだめだ。

六課隊長陣全員とは言わなくても、せめて、フェイトだけには伝えよう。

 

 

――――フィル、あの時君が言っていた気持ちはわかる。

でも、全部抱えこんじゃだめだ。

 

そんなんじゃ、君がつぶれてしまうから……。

そして、彼女ならきっと君の助けになってくれるから……。

 

 

「フェイト、今から僕が話すことは、まだはやてにもなのはにも言わないでね」

 

「えっ?」

 

「フィルのことなんだけど……」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「そ、そんな……それじゃフィルは……」

 

「これ以上のことは直接フィルから聞いてね。僕も全部知っている訳じゃ無いから……」

 

「……うん」

 

 

 

ユーノから聞かされたことは驚きを隠すことは出来なかった。

荒唐無稽なことだらけだが、ユーノがこういう顔で嘘をつくことは絶対にない。

ということは全部本当の話だ。

 

 

でも信じられない……フィルが……。

 

 

「ユーノ君、フェイトちゃん」

 

「なのは」

 

「なのは、丁度良かった。アコーズ査察官が戻られるまで、ユーノ先生の護衛を任されているんだ。交代お願い出来る?」

 

「うん、了解!!」

 

「エリオ、キャロ。現場検分を手伝ってくれるかな」

 

「あっ、はい」

 

「今、行きます……」

 

「じゃ、また後でね……」

 

「うん」

 

 

私はエリオとキャロと一緒に、現場検分をするために、なのはにユーノのことを任せた。

 

 

「今日は偶然なのかな……」

 

「うーん、アコーズ査察官は今回のオークションに、機動六課が護衛に派遣されてくることはご存じだったみたいだよ。それで、オークションの見物がてらって事で同行して下さったんだ」

 

「そうだったんだ……」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

-ホテル内喫茶店-

 

 

 

「部隊、うまくいっているみたいだね……」

 

「うん、アコーズ査察官のお姉さん、カリムが守ってくれているおかげや」

 

「うん、僕も何か手伝えたらいいんだけどね……」

 

 

本当は僕も手伝ってあげないんだけど、今は手が離せない仕事があって、六課の方に力を貸してあげられない。

 

 

「アコーズ査察官は遅刻とさぼりは常習やけど、基本的にはいそがしいんや」

 

「ひどいや」

 

「ふふ、カリムも心配しとるんよ。かわいいロッサのこと、いろんな意味で……」

 

「心配はおあいこだよ。はやてだって、僕とカリムにとっては、妹みたいなものなんだから……」

 

「うん……あっ、そういえばロッサ。ユーノ君とはお友達やったん?」

 

「僕が無限書庫に調べもので行った時に、彼が直々に案内して下さってね。つい最近のことだよ……」

 

「ふぅ~ん」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

-ホテル近郊の森内-

 

 

 

「そういえばなのは、さっき新人の子に、何か言っていたみたいだけど……」

 

「ユーノ君見てたの?………うん、スターズのフォワードの子がね。ちょっと……」

 

 

わたしは機密事項に引っかからない程度にユーノ君にさっきのことを話した。

最初は穏やかに聞いてくれてたけど、だんだん険しい顔つきになっていった。

 

 

「なのは……」

 

「なに、ユーノ君?」

 

「何で彼女が、そんな無茶をしたか分かる?」

 

「多分……彼女の過去が、原因じゃないかな……」

 

「……そう……なのははそう思うんだ……」

 

「えっ?」

 

 

なのははキョトンとした顔で僕のことを見る。

おそらくなのはは……。

 

 

「なのは……教導官は、ただ戦闘技術を教えればいいってものじゃないよ……。それと……」

 

「……みんな、なのは達みたいに、力に恵まれている訳じゃないんだ。その事は忘れないで……」

 

「分かってるよ、大丈夫……」

 

 

 

―――――分かってないよ。

 

 

さっきあの子に何であんな事をしたのか聞いたの。

人の過去なんて根本にはなっても、今の苦しみと問題が違うよ。

 

 

―――――でも。

 

これは僕が言うことじゃない。

部外者に近い僕じゃ説得力は無いし、できれば自分で気づいてほしい。

 

 

 

 

「ユーノ君?」

 

「どうしたの、なのは?」

 

「なんか……難しい顔をしてたから……」

 

「何でもないよ……」

 

 

 

時間が経ち、撤収準備が整い機動六課メンバーは隊舎へ戻ってきた。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「みんな、お疲れ様。じゃあ、今日の午後の訓練はお休みね」

 

「明日に備えて、ご飯食べて、お風呂でも入ってゆっくりしてね」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 

なのはさん達が一足先に隊舎に引き上げ、俺たちもという段階になったとき……。

 

 

「……スバル、フィル……」

 

「あたし、これからちょっと、一人で練習してくるから……」

 

「自主練? じゃあ、あたしも付き合うよ」

 

「あ、じゃあ僕も!!」

 

「わたしも!!」

 

「ゆっくりしてねって言われたでしょ……あんた達はゆっくりしてなさい」

 

「それにスバルも……悪いけど、一人でやりたいから……」

 

「うん………」

 

 

一人でやりたいと言うことは、昼間のことが原因だな。

正直心配だが止めてもやるのなら、こっちで注意しておけばいい。

 

 

「ティア……俺は止めないけど、やりすぎはするなよ。コンディションを整えるのも仕事だからな」

 

「フィル……ありがとう……」

 

 

ティアは隊舎に一回戻り、訓練の準備をしに行った。

多分裏でやるんだろうな。

 

ティア……無理するなよ……。

 

 

 

「フィル……」

 

「スバル……今は一人にしてやろう。ガムシャラになるのも、いいのかも知れない」

 

「だけど……」

 

「だから、ティアが本当に無茶をしている時は、俺たちが止めればいい。ティアのことを信じてやろうぜ」

 

「うん、そうだね!!」

 

「エリオもキャロも悪いが、この件はそっと見守っててくれ。手助けして欲しい時はこっちから言うから……」

 

「はい!!」

 

「任せて下さい!!」

 

 

エリオもキャロも本当にいい奴だよな。

本当はティアのことが心配で、どうしようもないのに……。

 

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

-六課隊舎内-

 

 

「……あのさ……二人とも、ちょっといいか」

 

 

ヴィータちゃんから声をかけられ、わたし達は休憩コーナーに移動し、改めてヴィータちゃんの話を聞くことにした。

 

 

「訓練中から、時々気になってたんだよ……ティアナのこと」

 

「うん……」

 

「強くなりたいなんてのは、若い魔導師ならみんなそうだし、ムチャも多少はするもんだけど……時々ちょっと度を越えてる。あいつ……ここに来る前、何かあったのか?」

 

「うん……実は……」

 

 

わたしは話すことに少しためらったが、昼間もユーノ君に聞いてもらっているので、みんなの意見も聞きたく話すことにした。

 

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

-隊舎、女湯-

 

 

 

 

「ティアさんの……お兄さん?」

 

「うん……」

 

 

湯船につかりキャロが聞いているが、あたしはこのことを話す時はどうしても暗くなってしまう。

エリオにはフィルが同じ内容を話しているが、フィルの方が辛いんだろうな……。

 

 

 

「執務官志望の、魔導師だったんだけど……ご両親を事故で亡くしてからは、お兄さんがひとりでティアを育ててくれたんだって……」

 

「だけど……任務中に……」

 

「亡くなちゃったんですか……?」

 

「うん……ティアがまだ10歳の時にね……」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

-隊舎、男湯-

 

 

 

 

「えっと、フィルさん。ティアさんのお兄さんのこと知っているんですか……?」

 

「まぁな……。ティーダさんには一時期、俺もお世話になったことがあったんだ。……精密射撃の基本はその時にティーダさんに教えてもらったんだ」

 

「フィルさん……」

 

「でも、そのあとが問題だったんだ……」

 

「問題って……?」

 

「それはスバル達と一緒に話すよ。とりあえず上がろう……」

 

 

俺たちは風呂から上がって、食堂でキャロ達を待つことにした。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「ティアナのお兄さん、ティーダ・ランスター。当時の階級は一等空尉。所属は首都航空隊……享年21歳」

 

 

なのはが目の前にウィンドウを展開し、ティアナの兄貴のデータを表示し説明をする。

 

 

「けっこうな、エリートだな……」

 

「そう……エリートだったから……なんだよね」

 

「どういうことだ?」

 

 

あたしはフェイトの言うことに、ちょっと引っかかる物があった。

いったいどういう事なんだ?

 

 

「一等空尉が亡くなった時の任務……逃走中の違法魔導師に、手傷は負わせたんだけど、取り逃がしちゃってて……」

 

「まぁ、地上の陸士部隊に協力を仰いだおかげで、犯人はその日のうちに取り押さえられたそうなんだけど……」

 

「その件についてね……。心ない上司がちょっとひどいコメントをして、一時期、問題になったの……」

 

「コメントって……何て……?」

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

-六課食堂-

 

 

 

 

「『犯人を追い詰めながら取り逃がすなんて、首都航空隊の魔導師としてあるまじき失態で、たとえ死んでも取り押さえるべきだった』とか……」

 

「もっと直球に、『任務を失敗した役立たずは』云々とか……」

 

「ひどい……」

 

「あんまりです!!」

 

 

エリオとキャロは大人達の行ったことに怒りを思えていた。

 

―――――ティアはあのときどんなに傷ついたか。

 

 

俺もあの葬儀で、ティーダさんのことをあんな風に言われて憎しみすら覚えた。

まぁ、それでもちゃんと言ってくれた人もいた。

 

ティアはもしかして、忘れてしまっているかもしれないけどな。

 

 

「当時、ティアはまだ10歳……。たったひとりの肉親を亡くして、しかもその最後の仕事が無意味で役に立たなかったなんて言われて……あいつはすごく傷ついたんだ……」

 

「だから、ティアは証明するんだって……お兄さんが教えてくれた魔法は、役立たずなんかじゃないって……どんな場所でも、どんな任務でもこなせるって……」

 

「それで……残された夢を……ティーダさんが叶えられないで、終わってしまった執務官になるって夢を叶えるんだって……ティアが……あいつが、あんなに一生懸命で必死なのは、そのせいなんだ」

 

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

 

-夜間、隊舎裏-

 

 

俺が様子を見に行ってみると、ティアはまだ裏庭でのトレーニングを続けていた。

周囲にターゲットとして配置し魔力スフィアが多数。その中のどれかひとつがランダムに発光する仕組みになっていて、発光したスフィアに素早く照準を合わせる。

 

そうすることで、ターゲティングの速さと正確さを高めることを目的とした訓練である。

 

俺はティアに近づこうとしたが、ヴァイス陸曹が同じように様子を見ていたみたいで一旦様子を見ることにした。

 

 

「もう4時間も続けてるぜ。いい加減倒れるぞ……」

 

「ヴァイス陸曹………見てたんですか……?」

 

「ヘリの整備中に、スコープでチラチラとな……」

 

「ミスショットが悔しいのはわかるけどよ……精密射撃型のスキルはそうホイホイうまくなるもんでもねぇし、ムリな詰め込みで妙なクセを付けんのもよくねぇぞ」

 

「……って、昔なのはさんが言ってたんだよ。俺はなのはさんやシグナム姐さん達とは、割と古い付き合いでな」

 

 

ヴァイス陸曹の言い方には、何か実体験を感じさせる物があった。

確かヴァイス陸曹は……。

 

 

「それでも……詰め込んで練習しないと、上手くならないんです。……凡人なもんで……」

 

「凡人か……。俺からすりゃ、お前は充分に優秀なんだがな……うらやましいくらいだ……」

 

「まっ……邪魔する気はないけどよ。お前らは体が資本なんだ。体調には気ぃつかえよ……」

 

「ありがとうございます……。大丈夫ですから……」

 

 

とりあえずヴァイス陸曹が殆ど言ってくれたので、俺は隊舎の方へ戻ることにした。

でも、このままじゃ前の時と同じだ。

 

 

 

《マスター、まさかティアさん達の自主練、一緒にやる気じゃないですよね!?》

 

「それは……」

 

《絶対にダメですよ!! 忘れたんですか!! 女神に言われた世界の修正力のことを!!》

 

 

 

 

――――――世界の修正力。

 

 

 

それは、女神から言われた歴史を修正するうえで最も大事なこと。

 

 

 

「だけど、このままじゃティアもなのはさんもどっちも……」

 

《気持ちはよくわかります。でも、八神部隊長のこと、ユーノさんのこと、これだけ歴史を変えてしまってるんです。これ以上下手に動いてしまったら、最悪のことになることだって……》

 

 

―――――だけど。

 

 

ゆりかご決戦後のティアの、あの悲痛な思いは今でも忘れない。

 

 

 

『あの時……もう少しクロスレンジの技術があったら、もう少し早く戦闘機人を倒せて、エリオ達を助けにいけたかもしれないのにね……』

 

 

あの時のティアの涙は本当に辛かった―――――。

 

 

もし、例えなのはさんに言っても、ティアを上手く説得してくれなかったら結果は前回と同じだ。

いや、下手をすれば完全にこじれてしまい取り返しが付かない事態になりかねない。

 

アグスタの時のなのはさんの感じを見ると、駄目だろうな―――――。

 

 

 

「……結局、俺は何もできない。これじゃ、何のために戻ってきたんだ……」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

翌朝

 

 

 

 

「ティア、起きて……ティア……」

 

「あっ……ごめん……起きた……」

 

「練習行けそう?」

 

「……行く」

 

 

 

正直眠くて仕方がないけど、特訓をしなきゃ……。

凡人のあたしにはそれしかできないから―――――。

 

 

「そう……じゃ、トレーニング服」

 

「ありがとう……」

 

「さて。じゃ、あたしも……」

 

「って、なんであんたまで!!」

 

 

 

何かごく普通に会話していたが、どうしてスバルまで……。

 

 

 

「一人より二人の方が、いろんな練習できるしね。あたしも付き合う」

 

「いいわよ、平気だから……あたしに付き合ってたら、まともに休めないわよ」

 

「知ってるでしょ。あたし、日常行動だけなら4、5日寝なくても平気だって」

 

「日常じゃないでしょう。あんたの訓練は特にキツイんだから、ちゃんと寝なさいよ」

 

 

スバルの訓練は正直ハードそのもの。

例えスバルの身体が頑丈でも身が持たなくなる。

 

 

「嫌だよ~」

 

「あたしとティアはコンビなんだから。一緒にがんばるの!!」

 

「……勝手にすれば」

 

「うん」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

-六課隊舎裏庭-

 

 

 

 

「で、ティアの考えてることって?」

 

「短期間で、とりあえず現状戦力をアップさせる方法。うまくできれば、あんたとのコンビネーションの幅もグッと広がるし、エリオやキャロのフォローも、もっとできる……」

 

「ティア……いったいどうするの?」

 

「実はね……」

 

 

 

幻術は切り札にはならないし、中距離から撃ってるだけじゃ、それが通用しなくなった時に必ず行き詰まる……。

 

だから新しい技を身につけたい……。

 

 

 

「何かわくわくするね」

 

「そうね……」

 

 

 

*    *    *

 

 

 

ー六課隊舎前ー

 

 

 

「ふぅ、何とか今日の仕事も終わった……」

 

 

 

私はエリオ達の訓練を見た後、スカリエッティのことを調べていた。

アグスタ事件の後、ずっと私はユーノの話をずっと考えている。

 

フィルのことを聞かされ、正直戸惑いが隠せなかった。

そんなことを考えていると、隊舎裏から射撃音が聞こえてきた。

 

 

 

「今のって射撃の音だよね。いったい誰が?」

 

 

気になって裏庭に言ってみると、ティアナ達がこんな夜遅くまで自主練をしていた。

 

 

「ティアナ、それにスバルまで……!?」

 

 

何でこんな無茶なことをやっているの。

 

昼間のなのはとの訓練で身体がボロボロになっているのに……。

 

しかも今やっている内容は普段の逆、ティアナが近接戦闘の要になっている。

これじゃなのはが教えていることの全くの逆だ。

 

確かに間違いじゃないんだけど、今のティアナ達の技量じゃ……。

 

 

しばらくすると、自主練を終了してティアナとスバルが隊舎に戻っていった。

 

 

 

「そこで隠れていないで、出てきたらどうですか。フェイトさん」

 

「フィル!? いつからそこにいたの!?」

 

 

フィルがいたのに全く気配を感じなかった。

私だって、気配を察知するスキルは持ってるのに!!

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「自主練の最初からですよ。これで一週間繰り返してますよ。フェイトさんのその様子じゃ、結構前から見ていたみたいですね……」

 

「フィル、貴方がいてなぜこんな無茶をさせるの。こんなことをやって身体を壊したんじゃ、取り返しが付かないことになるよ!!」

 

「……わかってますよ。それは」

 

 

そんなことは、フェイトさんに言われるまでもない。

こんな事を繰り返してたら、完全につぶれてしまう。

 

だけど―――――。

 

 

「だったら何で!?」

 

「……たとえ間違っていても、時には足掻くしかないときがあるんです。特に俺やティアみたいなタイプは」

 

 

 

そうさ、俺はなのはさんたちみたいに天才じゃない。

ティアはともかく、俺は完全な凡人だ。

 

 

 

「……今ここで止めても、ティアナ達、またやるよね」

 

「ええ、止めるのは出来ます。だけど、自分で本当に納得しない限り、また同じ事をします。お願いです!! もう少しだけ、ティア達の好きなようにやらせてください!!」

 

 

 

本当なら、一緒に付き合ってティアたちと一緒にいたい。

でも、それは今の俺には許されていないから―――――。

 

そして、今ティア達に言っても、きっと元の木阿弥になってしまうから。

 

 

 

「……分かった。フィルを信じて、このことは今は、私の胸の内に納めておくね。でも、最悪のことになる前に必ず止めること!! 止められないときは私に報告してね。私が何とかするから……」

 

「……フェイトさん、ありがとうございます」

 

 

こんな事、フェイトさんの立場だったら見過ごせないレベルだ。

だけど、フェイトさんはティア達を、そして俺を信じてくれた。

 

 

本当にすみません―――――。

 

未来でも、こっちでも……。本当に迷惑掛けっぱなしで……。

 

 

「でも、どうしても一つだけ言っておくことが……」

 

「………ティア達の……フォーメーションのことですね?」

 

「うん……」

 

 

 

そう、あのフォーメーションは、明らかに今のティア達には向かない物だ。

センターガードのティアが前線に出て、攻撃を仕掛けるのは……。

 

でも、それ以上に大切なことがある―――――。

 

 

「フェイトさん、センターガードってなんだと思います?」

 

「えっ?」

 

「センターガードってチームの中央に立って、誰より速く中長距離を制する。確かにそれが第一なんですけど、実際はいろんな所から攻撃も来ますし、その場で立ってなんてやってられないです。そんなことをしてたら蜂の巣になるのがオチです。なのはさんみたいに魔力が高い人は、プロテクションを張りながらとか出来るかもしれないけど、俺たちみたいに魔力が少ない奴らはそんなことは出来やしない」

 

「それに、単体で戦う時はそんな固定砲台みたいなことをやっていたら、あっという間にやられてしまう。なのはさんの考え方は、味方が必ずいるという前提の考え方だ」

 

「それは……」

 

 

 

なのはさんの言っていることは、正しくもあるが間違いでもある。

チーム戦でなら、これ以上ないことなんだけど、単体で行動するときはこのセオリーは通用しなくなってくる。

 

 

 

「……なのはさんの気持ちはわかるんです。でも……」

 

「……そうだよね。『未来』から来たんだから、なのはの事は、私たちから聞かされていても、不思議じゃないよね」

 

「!?」

 

 

どういことだ!? どうしてフェイトさんから、未来なんて言葉が……。

 

 

 

「まさか!!」

 

「ごめん……ユーノから聞いてたの。全部じゃないけど、ある程度のことは……」

 

「……そう……ですか……」

 

 

 

ユーノさん、フェイトさんに言ってしまったんですね―――――。

いつかはバレることだけど、こんな形でとはな……。

 

 

 

「……未来じゃどんなことがあったの。センターガードのティアナ達が前線で戦うほどのことだったの?」

 

「………あれは……地獄ですよ……。絶望しかないあの世界は……」

 

 

 

そう、あれは地獄でしかない。

人々が生きる希望をなくし、犯罪者が好き勝手なことをやり、罪もない人が次々と殺されていく。

 

 

 

「……確か、スカリエッティとの戦いでみんな死んじゃったんだよね。なのはも私も……」

 

「六課で生き残ったのはスターズの二人と、俺だけだったんですよ。しかも、戦っていくうちにスバル達も死んでしまい………そして、最後はティアまで……。俺が見殺しにしてしまったようなもんですけどね……」

 

 

 

―――――そうさ。

 

 

スバルやギンガさんが死ぬ時も、ティアが死ぬ時も俺は無力だった。

 

 

 

「結局、俺は……誰も守れなかったんですよ……。誰も……」

 

 

 

大事な人は、誰一人守れなかったんだからな―――――。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

「フィル……」

 

 

 

いつの間にか雨が降り出し、フィルはずっと辛い表情をして立っていた。

全身が雨で濡れてるのに傘も差そうとしない。

 

雨のせいで泣いているのか解らなかったが、心はずっと泣いていたんだね。

 

 

私は、悲痛な表情をしているフィルを抱きしめていた。

今フィルにしてあげられることは、これくらいしかない―――――。

 

今にも砕けてしまいそうな、そんな雰囲気だから……。

 

 

フィルはずっと一人で戦っていたんだね。

こっちの世界でもティアナ達のことを考えたり、世界のことを考えたり………。

 

 

色々とユーノやクロノに協力をしてもらって居るみたいだが、それはあくまで世界のことだ。

フィル自身の心は、ずっと孤独のままなんだ。

 

 

 

仲間を………。

 

 

そして愛する人を亡くしてから………。

 

 

―――――ずっと独りぼっちだったんだ。

 

 

 

「フィル………私じゃ駄目かな」

 

「……フェイト……さん?」

 

「私はフィルの上司だけど、ただ教導するだけじゃないんだよ。だから少しは私を頼って欲しいし、何よりフィルの心の支えになってあげたい……」

 

 

最初は、どことなく気になる男の子だった。

でも、一緒にいるうちに少しずつ興味を持ってきて、フィルのことを知っていくようになって、どうにか助けてあげたくなって――――。

 

でも、たった一人で抱え込んでしまってて、自分を傷つけてばかりでいて――――。

 

心はどんどん孤独でボロボロになってるのに――――。

 

 

 

「フィル……。一人で全てを抱え込まないで……。あなたの悲しみも苦しみも、私が一緒に持ってあげる……」

 

 

だから――――。

 

 

一人だなんて思わないで。私もいるんだから……ね……。

 

 

 

「俺は……俺は……」

 

 

フィルは、ずっと必死に声を殺して泣いていた。

今までの苦しみを吐き出すかのように――――。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

数日後

 

 

「悪いわね、クロスミラージュ。あんたのことも、結構酷使しちゃって……」

 

《お気になさらず》

 

「明日の模擬戦が終わったら、シャーリーさんかフィルに頼んで、フルメンテしてもらうから」

 

《ありがとうございます》

 

 

あたしはこんなに乱暴にしているに関わらず、黙って付いてきてくれる相棒に感謝をした。

そうだよね……。

クロスミラージュはフィルが一生懸命考えてくれたデバイスなんだよね。

大事にしてあげなくちゃ……。

 

 

「ただいまー」

 

「ティア。スポーツドリンク、飲む……?」

 

「ありがとう」

 

 

スポーツドリンクを飲みながらあたし達は、明日の模擬戦のことを考えていた。

 

 

「明日の模擬戦……いけるかな?」

 

「成功率は、約6割くらいかな……」

 

「うん、そんだけあればきっと大丈夫」

 

「でも……あんたは本当にいいの……?」

 

「何が?」

 

「あんたは……憧れのなのはさんに、ある意味逆らうことになる……から……」

 

「あたしは怒られるのも叱られるのも慣れてるし……逆らってるって言っても、強くなるための努力だもん。ちゃんと成果を出せば、きっとわかってくれるよ。………なのはさん、優しいもん」

 

「さぁ、明日の早朝特訓は最後のおさらい!! 早く寝とこ……」

 

「うん」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

翌日 訓練場

 

 

「さーて、じゃあ、午前中のまとめ。2on1で模擬戦やるよ!!」

 

「まずはスターズからやろうか。フィルはちょっと外れていてね。バリアジャケット、準備して」

 

「「はい」」

 

「エリオとキャロ、フィルはあたしと見学だ」

 

「「「はい」」」

 

 

 

俺はエリオ達と一緒に近くの廃ビルの屋上に行った。

 

 

「やるわよ、スバル!!」

 

「うん!!」

 

 

バリアジャケットをまとった二人はやる気十分だった。

 

 

「……あ、もう模擬戦始まっちゃってる?」

 

「フェイトさん……」

 

 

フェイトさんが息を切らせながら、走ってこっちにやってきた。

 

 

「私も手伝おうと思ってたんだけど……」

 

「今はスターズの番……」

 

「本当は、スターズの模擬戦も私が引き受けようと思ってたんだけどね……」

 

「あぁ、なのはも、ここんとこ訓練密度濃いからな……。少し休ませねぇとな……」

 

「なのは、部屋に戻ってからもずっとモニターに向かいっぱなしなんだよ………。訓練メニューを作ったり、ビデオでみんなの陣形をチェックしたり………」

 

「なのはさん、訓練中もいつも僕達のことを見ててくれるんですよね……?」

 

「ほんとに……ずっと……」

 

「……」

 

 

確かに訓練メニューを真剣に考えてくれていると思う。でも、それだけなんだ……。

結局今日までスターズの隊長も副隊長も、今日まで特訓については一度も言ってこなかった。

 

いくらこっちが気を付けていたとはいえ、オーバーワークには違いなかった。

ヴィータ副隊長の様子を見ていると、不安とかは見られない。考えたくはなかったが………。

 

 

見ててくれるのは訓練の時だけで、それ以外の場所じゃ、ちっともティア達を見てなかった……ということかよ……。

 

 

分かるさ。それが社会の常識と言うことくらいは、メンタル面はあくまで自己管理と言うことくらいは――――。

 

だけど―――――。

 

 

それを認識した瞬間、俺は苛立ちが募っていた。

拳を握りしめ、少し血が出ているが、それ以上に隊長達に悲しみを感じていた。

 

 

あの時……事件の後……ティアがどんな気持ちだったと思ってるんだ。

 

 

せめて……その事だけでも、聞いて欲しかった……。

 

 

俺のそんな様子を感じたのか、フェイトさんがこっちに近づいてきた。

 

 

 

 

「フィル、気持ちは分かるけど、なのはの気持ちも、分かってあげて……」

 

「そう……ですね……。すみません。色々と……」

 

「いいよ。結局なのはは、あれから……」

 

 

俺は無言で横に首を振った。

 

 

「……そう」

 

「その代わりフェイトさんが、あの日から毎日こっそり、見に来てくれていたみたいですけどね」

 

「き、気づいてたの!?」

 

「一応気配は探れますから……。フェイトさんだって色々疲れているのに……本当に嬉しかったです」

 

 

あの時―――――。

フェイトさんに話して本当に良かった。

 

 

「言ったでしょう、訓練を見るだけが上司の仕事じゃないって。それにフィルが対応出来なくなったときに、そばにいなくて、何も出来ませんでしたじゃお話にならないしね。何より、あんなフィルを見て、ほっとける訳無いよ……」

 

「フェイトさん……」

 

 

そんな中ティアが、牽制用のクロスファイアを撃とうとしていた。

 

 

「クロスファイア……シュート」

 

「…………ん? なんか、キレがよくねぇな……」

 

「コントロールは、いいみたいだけど……」

 

「それにしたって……」

 

(フィル……)

 

(ええ……)

 

 

 

俺とフェイトさんは、念話で会話をする。

このクロスファイアはあくまで囮、速度を落として相手に回避運動をさせやすくする。

その分コントロールを重視し、狙い通りの位置に導くのが狙いだ。

 

なのはさんはウイングロードで、迫ってくるスバルはフェイクだと思っている。

通常なら相手に余力があるのに真っ正面からの攻撃は自殺行為に等しい。

 

 

―――――だけど。

 

 

「!!」

 

「フェイクじゃない……本物!!」

 

《Divine Shooter》

 

 

放たれた魔力弾はスバルに向かっていくが、プロテクションで対応しそのまま向かっていった。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ………りゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

スバルはディバインシューターをしのぐと、リボルバーナックルとなのはさんの展開したラウンドシールドと激突するが……。

 

 

「っ……きゃぁぁぁぁ!!」

 

 

なのはさんは激突のエネルギーを利用してスバルをはじき飛ばした。

なんとか維持されていたウイングロードの上に着地した。

だが、これは計算尽くの行動だった。

 

 

「こら、スバル、ダメだよ。そんな危ない機動!!」

 

「すいません……。でも、ちゃんと防ぎますから!!」

 

「ティアナは……?」

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

なのはさんはティアを探していたが、さっきのクロスファイアから姿を消している。

そんなときなのはさんはクロスミラージュのレーザーポインターが、頬に当てられているにの気付いた。

 

 

「砲撃!? ティアナの奴が!!」

 

 

ヴィータ副隊長がティアの行動に驚いているが、これもフェイクだ。

実際の狙いは、なのはさんの意識をスバルから離すことだ。

 

 

(特訓の成果……クロスシフトC!!…………いくわよ、スバル!!)

 

「おうっ!!」

 

 

スバルはリボルバーナックルのカートリッジをロードし、咆哮と同時に突撃をかけた。

なのはさんもラウンドシールドで防ぐが、それがあいつらの狙い。

 

今度ははじき返すことは出来ず、砲撃体制に入っていたティアの方へ視線を向けた。

 

しかし……。

 

 

「!!」

 

「あっちのティアさんは幻影……」

 

「本物は?」

 

 

ティアはその間にクロスミラージュのトリガーを引き、カートリッジをロードさせ魔力刃を作り、ウイングロードを駆け上っていく。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

(バリアを斬り裂いて、フィールドを突き抜ける!!)

 

 

 

そう、これが今回のクロスシフト。

空中では戦いにくいあたし達が、なのはさんに対抗するため、フロントアタッカーのスバルが動きを押さえ、あたしが本命の攻撃をたたき込む。

 

 

だが、これには欠点もある。現在のあたしでは、なのはさんの防壁を貫ける砲撃は持っていない。

あたしが足止めという考えもあったが、空で機動力を持たないあたしでは攻撃の手段が限られ、足止めにはならない。したがってスバルしかいない。

だけど、魔力を一点集中すれば、あたしでも攻撃出来る。それに懸けた。

 

対砲撃型魔導師用シフト………クロスシフトC………。

 

 

(一撃、必殺!!)

 

 

この一撃で防御壁を貫く。全力でやっても破壊出来るかどうかなので、全力でやれる。

破壊した後はスバルがフリーになるので、それでとどめの一撃を打てばいい。

 

 

「っ、けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

魔力刃はなのはさんに迫っていた。

 

 

が……

 

 

 

「…………レイジングハート、モードリリース……」

 

 

 

ボソっとつぶやいた瞬間………爆発が起き、衝撃がこっちまできた。

 

 

 

「なのは!!」

 

「ティア、スバル!!」

 

 

どうなったんだ……決まったのか……!?

 

 

それとも―――――。

 

 

 

「……おかしいなぁ……二人とも、どうしちゃったのかな…………」

 

 

 

ティアの魔力刃も、スバルのリボルバーナックルも、なのはさんが直接受け止めていた。

頭上から一撃を加えたティアはその場に留まり、桃色の魔力光に包まれている。

おそらくはなのはさんが、浮遊の効果をティアに与えているのだろう。

 

 

 

―――――だが。

 

 

 

ティアを守っているはずの、なのはさんからは……。

 

 

 

―――――感情の色が完全に抜けていた。

 

 

 

 

 

「がんばってるのはわかるけど……模擬戦はケンカじゃないんだよ……」

 

 

その言葉にスバルはハッとし、身動きが取れなくなり……。

 

 

「……練習の時だけ言うこと聞いてるフリで、本番でこんな危険なムチャするんなら……練習の意味、ないじゃない……」

 

 

次の言葉でティアが息を呑む……。

 

 

「……ちゃんとさ、練習どおりやろうよ……」

 

 

二人は完全に戦意は消失しているが、さらになのはさんは言葉を続けた。

 

 

「ねぇ………」

 

「あ……あああ……」

 

 

まるで、二人に言霊を刻み込みかのように―――――。

 

 

「わたしの言ってること……」

 

「わたしの訓練………そんなに間違ってる…………」

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「まずいぞ!! このままじゃティアは!!」

 

 

 

なのはさんがやっていることは、明らかにやりすぎだ。

これ以上は教導の意味はない。

 

 

もう、形振りなんて構っていられない。

今、ウイングロードはティアが立っている一直線分しかない。

 

 

このまま、なのはさんがティアを落とすと……。

 

 

 

ティアの命はない!!

 

 

 

 

《Blade erase》

 

 

 

魔力刃を解放し、背後のウィングロードへと飛び移り、ティアはなのはさんへとクロスミラージュをかまえる。ティアもういい。やめろ……やめるんだ!!

 

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 

「あたしは……もう誰も、傷つけたくないから!! 失いたくないから!! だから……強くなりたいんです!!!」

 

 

そんなティアの悲痛な叫びも無視し、なのはさんはスフィアを作り……。

 

 

「………少し……頭……冷やそうか………」

 

 

 

「クロスファイア……」

 

 

 

「わぁぁぁぁぁぁぁっ!!!……ファントム、ブレイ」

 

 

 

「……シュート……」

 

 

ティアのファントムブレイザーよりも早く、桜色の魔力弾の渦はティアを吹っ飛ばしていた。

 

 

「ティア!! っ!! バインド!?」

 

「じっとして……。よく見てなさい……」

 

 

スバルもいつの間にかバインドがかけられ身動きが取れなくなっていた。

さらになのはさんは、さっきと同じクロスファイアをティアに撃つつもりだ。

 

意識が朦朧としているのに………。

 

それでも、残された力で立ち続けるティアに向けて………。

 

 

 

「っ!! なのはさん!!」

 

 

スバルが悲鳴に誓い叫びでなのはさんに言ったが、全く意に介さず……。

 

 

 

発射された砲撃は……。

 

 

 

強大な桜色の閃光となって、ティアに迫るが………。

 

 

 

「……はぁ……はぁ。な、なんとか間に、あった」

 

 

 

間一髪のところで、自分の身体を盾にして、ティアが砲撃を受けるのを防いだ。

 

 

 

「………うっ」

 

 

 

どうやら意識はあるみたいだな……。

ティアの状態を確認すると、俺はなのはさんの方を向いた。

 

 

「どういうつもりなの……?」

 

「それはこっちのセリフです。まだティアを痛めつける気ですか。これ以上は何の意味もない……」

 

「邪魔……しないで……」

 

 

 

なのはさんはまたティアにクロスファイアを放った。

まずい、完全に切れている。

 

 

「ぐっ…ぁぁぁああああ!!」

 

 

俺は自分の身体を盾にしてクロスファイアを受け止めた。

強烈な砲撃を受け、全身がバラバラになるような痛みを襲われる。

 

ティアの方は俺が盾になっているから大丈夫だけど、そうは持たない。

 

 

「どうして邪魔するの……。フィル……」

 

 

未だになのはさんは感情が消えた目で俺とティアを見ている。

こんな状態で伝わるか分からないけど、せめて、俺の思いは伝えなきゃ―――――。

 

 

このことに何もしなかった俺自身が許せない。

 

 

 

「なのはさん、ちゃんとティア達に言ったんですか!! 自分の教導の思いを、ちゃんと自分の言葉で伝えたんですか!!」

 

「えっ……?」

 

 

なのはさんが俺たちのことを思ってくれてるのは分かってるよ。

それは、かつて未来でティアに残してくれたディスクで痛いほど伝わってきたよ―――――。

 

 

「なのはさんがやっていることは間違ってないです。だけど、それをちゃんと言葉で伝えようとせず、ただプログラムを組んで、それをやればちゃんと伝わっている。そんな風に思っているんだったら、それは間違いです!! それじゃ何も伝わらないです……」

 

「あっ……」

 

「人ってそんな器用じゃないでしょう。思っているだけじゃ、相手には伝わらない。それはよく知っていることでしょう!!」

 

 

そうさ―――――。

黙っていたって、自分の思いは伝わるわけが無いんだ。

 

なのはさんは俺の言葉を、ただ黙って聞いていた。

 

 

「それとティア、お前にもちゃんと言わなきゃな……」

 

 

意識を取り戻したティアに言っておかなくてはならない。

これだけは、今でなければいけないんだ。

 

 

「お前が無茶をして、俺みたいに庇う奴が出てくる。身近な相手だと、俺とスバルになる……」

 

「あ……ああ………」

 

「お前が攻撃することを否定してるんじゃない。だけど、仲間がいるんなら、パートナーを信じろ。でないと最悪なことが起きて、取り返しが付かないことになる。それがいやなら、もっと練習して実戦で使えるようになってからにしろ。後、強くなりたいなら、何でなのはさん達に相談しなかったんだ……」

 

「それは……」

 

「ティア、人に聞くことは、決して恥なんかじゃないんだ。なのはさんに言いにくかったら、俺でもよかったんだぞ。そんなに信用ないか?」

 

「ごめん……なさい……」

 

「いや、俺もちゃんと言葉で、言えばよかったんだ。さっき、自分で言っておいて何だけど、思っているだけじゃ、お前に伝わっていなかってんだからな……」

 

「フィル……」

 

 

結局、ティアとなのはさんがこうなったのは、俺のせいじゃないか……。

世界の修正力を恐れて、何もしないでただ見ていただけ。

 

 

 

一番、最低なのは俺だ―――――。

 

 

 

だけど、後悔するのは後だ。今は……。

 

 

 

「少しは……落ち着きましたか……?」

 

「うん……」

 

 

なのはさんも落ち着きを取り戻したな。

そして、なのはさんにも見せなきゃいけない物がある。

 

 

「これを……見てください……」

 

「これは!?」

 

 

ウィンドウを出して見せたのは、もしティアをあのまま墜としていたらのシミュレートだった。

二度目のクロスファイアを放っていた場合、ウイングロードの上には落下せず、地面に激突していた。

しかも仮に助かったとしても、岩が多いところなので、それで失明していた可能性があったと、プリムのシミュレートでは、はじき出していた。

 

 

「そんな……わたしの手で……ティアナを……」

 

「これはあくまでシミュレートです。けど、これに近い結果にはなっていたと思います……くっ!!」

 

「フィル、どうしたの? えっ……その傷は!?」

 

 

さっきの砲撃を受けて、俺の右肩から出血がしていた。

出血はそんなでもないけど、バリアジャケットの防御力を上回ってしまったのか。

 

リミッターはかかっていても、オーバーSランクは伊達じゃないってことか。

 

 

「……わたしのせいで……フィルに……」

 

「大丈夫ですよ……。これくらい、何ともないですから……」

 

 

 

俺が傷つくのはかまわない。

だけど、こんな形でティアに、そしてなのはさんに、これ以上心の傷を作って欲しくないから―――――。

 

 

 

「さっきティアにも言ったんですけど、もう少し自分の周りに相談してください。なのはさんならフェイトさんや八神部隊長に話せば良いんです。親友って、楽しいときだけじゃなくて、苦しいときも分かち合える物でしょう」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

「後でいいですから……ティア達と……話し合ってくださいね。なのはさんの思いとティアの思い、それぞれあると思いますしね……」

 

「うん……本当にごめんね……」

 

「じゃ、俺は戻りますね……」

 

 

 

俺はなのはさん達の元を離れ、近くの木陰に移動した。

そこで待っていたのはフェイトさんだった。

 

 

 

「もう……無茶しないの」

 

「……すみません」

 

「フィル、どうしたの?」

 

「もっと早く、俺が行動に移していれば……」

 

 

その言葉にフェイトさんは横に首を振って―――――。

 

 

「それは駄目だったと思うよ。今の所、六課で、フィルのことを知っているのは、私だけでしょう。何も知らない人が、例え、あのことを話しても伝わらないし、結局、遅かれ早かれこうなったと思うよ」

 

「……フェイトさん」

 

「それにね。こういうのは、あまりお節介しすぎても駄目。ちょっと乱暴だけど、意見のぶつかり合いも時には必要だよ……」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

結局は、俺もティアも、そしてなのはさんも同じだって事かな―――――。

思っているだけじゃ、相手には伝わらない。

 

 

本当に難しいよ。自分の思いを伝えるのは……。

 

皆様、現在自サイトのみで公開しています『とある休日シリーズ』になりますが、こちらでも見てみたいという方がいらっしゃいましたら、アンケートにお答えいただけたらと思います。

  • 見てみたいので公開してほしい
  • まあまあ興味がある
  • どちらでもいい
  • 興味がないので公開はしなくて良い

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