ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 すみません、どういう訳か話の順番が正反対になっていました。



炎対炎、灼熱の戦い

「へへっ、良かったぜ。直ぐに戦えてよ」

 

「それは嬉しいです」

 

 サンヨウジム。先の戦いの痕が残るバトルフィールド。片方の端には挑戦者のサトシ。

 そして、もう片方の端にいる挑戦者を迎え撃つジムリーダーは――ポッド。サトシは次の相手にポッドを指名したのだ。

 

「あぁ、後俺には敬語は良いぜ。砕けた方が楽だからな」

 

「じゃあ、そうするよ」

 

「さぁ、俺とお前の猛火の様に激しくて熱いバトルを始めようか! 出てこい、バオップ!」

 

「バップゥ!」

 

 ポッドのモンスターボールから現れたバオップ。その瞳には、炎の様な闘志を宿す。

 

「さぁ、お前が出すポケモンは何だ? セオリー通りの水タイプか?」

 

 サトシは一つのモンスターボールを取り出し、暫し見つめて考える。

 ポッドの言う通り、ここは確かに水タイプのミジュマルの出番だろう。初戦の強敵、コーンとヒヤップには苦戦しながらも勝利した。

 このバトルにはミジュマルを、最後のデントにはポカブを当てる。それが最善だ。

 

(何だけどな……)

 

 先のバトルをサトシは思い出す。コーンとヒヤップは電気、草タイプ対策を見事にしていた。

 ポッドとバオップにも、同様の対策が有るのではないかとサトシは懸念していた。だとすれば、セオリーは逆に危険だ。

 

「……ちょっと良いか?」

 

「ん? 考え事か? まぁ、好きにしな。但し、考えるからにはしっかりしてくれよ」

 

 三兄弟の中では、一番血気盛んだと自覚しているポッドだが、ジムリーダーとして待つことに不満はない。

 中途半端よりも、しっかりとした方が良いと考えているのも理由だが。

 

「何迷ってるのよ、サトシ」

 

「キバキバ」

 

 ここはどう見ても、ミジュマルの出番。アイリスはそう思うことに何ら疑問を抱かない。キバゴも同様だ。

 

「……」

 

 サトシはモンスターボールを構え、中にいるポケモンに語り掛ける。

 

「……ミジュマル。俺を信じてくれるか?」

 

 中にいるミジュマルは、サトシの言葉に強く頷く。彼の判断なら、自分は信じられると。

 

「……分かった。ありがとう。――決めたよ! ポッド!」

 

「やっとか! さぁ、何を出すんだ?」

 

「――ポカブ! 君に決めた!」

 

「カブゥ!」

 

 サトシのモンスターボールから、火豚ポケモン、ポカブが現れる。その瞳もバオップ同様、炎の様な気迫に満ちていた。

 

「え、えぇ!? ポカブ!?」

 

「キバ!?」

 

(……驚いてる?)

 

 咄嗟にアイリスは声は抑え、その声はポッドには届かなかったものの、観客席に近いデントの耳には聞こえていた。

 

(……ポカブで驚いてる。それに彼は僕達全員との試合を要求した。それとピカチュウの不調を考えると……)

 

 最低でも、サトシは他に三体の手持ちを持っていることになる。おそらく、その中にはバオップに有利か、互角に戦えるタイプのポケモンがいるに違いない。

 なのに、サトシは炎タイプを出した。互いに効果が今一つのポカブを。

 

(……もしかして、気付いたのかな?)

 

 このサンヨウジムの、もう一つの『目的』に。だとすれば、サトシがポカブを出したのも納得出来る。

 

(まぁ、どちらにしても……)

 

 自分は見学者に過ぎない。第三試合が来るまで、このバトルを見つめるだけだ。

 

「ふーん、ポカブかあ。炎使いの俺とバオップに、炎で勝てるとでも?」

 

「勝って見せるさ!」

 

「カブ!」

 

「はっはっは! 良いねぇ、良い返事だ! ――口だけにはするなよ?」

 

 サトシとポカブの表情と台詞に、大声で笑うポッドだが、次の瞬間、その瞳には凍るような冷たさがあった。

 

「第二試合、サトシ対ポッド、ポカブ対バオップ。――始め!」

 

「折角だ! 最初を煽ってやるよ! バオップ、にほんばれ!」

 

「バオー!」

 

「えっ、にほんばれ!?」

 

「いきなり出たわ! ポッド様、必勝のパターンが!」

 

 アイリスが驚愕、女性客達が黄色い声援を送る中、バオップの掲げた両手の中央に、高熱と光の塊が展開。

 それをバオップは上へと発射。塊は天井付近で止まると、部屋に高熱と光を浴びせる。

 

「にほんばれ! 炎タイプの技の威力を高めると同時に水タイプの技の威力を下げる状態を作り出す技……!」

 

「そうよ。炎タイプのバオップには非常に有利だろ?」

 

「俺のポカブにもな!」

 

 しかし、この天気はこちらにも利点に働く。何しろ、ポカブは炎タイプだ。にほんばれの影響を受ける。

 

「だな。でもよ――だからこそ、ポケモンの能力の差、トレーナーの力量が諸に影響する。そう思わないか?」

 

「確かに!」

 

「さぁ、見せてくれサトシ! ポカブ! お前達の熱い熱い闘志を! バオップ、挨拶代わりのほのおのパンチ!」

 

「バップ!」

 

 バオップの右手から拳二回り分ぐらいの炎が上がる。それはにほんばれの影響を受け、バオップの顔以上にまで巨大化した。

 

「ち、ちょっと! 明らかに挨拶代わりってレベルじゃ――」

 

「ぶちかませぇ!」

 

「バオッ!」

 

「ポカブ、かわせぇ!」

 

「ポカァ!」

 

 バオップは素早くポカブに近付くと、炎の拳を放つ。それはポカブの移動で回避されたが、地面に接触した瞬間、爆音と人を容易く飲み込む規模の火柱が発生した。

 火柱は直ぐに火の粉となって散ったが、その痕跡はフィールドに大きな焼け跡として残っていた。

 

「はっはっは! これぐらいかわしてくれねえとな。一撃で決まったら拍子抜けにも程があるぜ」

 

「な、なんて威力よ……!」

 

「キ、キババ……」

 

 ポッドは笑うも、アイリスもキバゴもそれどころではない。にほんばれで暑いにもかかわらず、全身が冷えていた。

 あんなの炎技を半減出来る水タイプであろうが、まともに受ければただでは済まない。下手すれば一撃で勝負が付いてしまう。

 

「あぁ、なんて凄まじい火力……!」

 

「相性不利な水すら蒸発し尽くす、正に灼熱の猛火……!」

 

「あの子もこの熱さには勝てないでしょうね!」

 

 女性客達は、にほんばれの暑さに負けないぐらい熱気でポッドを応援していた。

 

「どうだ、サトシ。これが俺とバオップの炎だ! ――怖じ気付いたか?」

 

「まさか! 寧ろ、燃えてきたよ! なぁ、ポカブ!」

 

「カブ!」

 

 確かに相手の炎は凄まじい。判断を誤れば、一気に燃やし尽くされてしまうだろう。

 だが、判断さえ間違わなければ決して勝てない相手ではないと、サトシは確信していた。

 ポカブも身震いこそはしたが、サトシへの強い想いがそれを塗り潰し、またこれほどの炎を操る同タイプのバオップへの対抗心も、闘志の炎を昂らせる要因となっていた。

 

「ポカブ! ひのこ!」

 

「カーブー!」

 

「バオップ、かえんほうしゃ!」

 

「バー、プー!」

 

 ポカブから炎の粉の塊が、バオップから炎の帯が放たれる。それらはにほんばれで強化され、威力を高めた状態でぶつかり、大爆発を起こした。

 

「ポカブ、回避!」

 

 しかし、爆発の煙の奥からまだ炎の帯が迫ってくる。ひのこはかえんほうしゃの前方を相殺しただけで、奥はまだ残っていた。それをポカブは咄嗟にかわすも、まだ危機は終わっていない。

 

「ほのおのパンチ!」

 

 バオップがほのおのパンチを構え、接近してきたのだ。

 

「ポカブ、ひのこを薙ぎ払うように放て!」

 

「悪くはねえ! だが、その程度だ! バオップ、ほのおのパンチでひのこを焼き尽くせ!」

 

 ポカブが扇状にひのこを放ち、その一部にバオップがほのおのパンチを叩き込む。爆発と黒煙が発生する。

 

「バオップ、かえんほうしゃで薙ぎ払え!」

 

「ポカブ! かわしてかみつく!」

 

 炎の波が、黒煙ごとポカブを焼き尽くす勢いで放たれる。

 

「来るぞ、バオップ! ほのおのパンチを構えろ!」

 

「オプ!」

 

 バオップはほのおのパンチを構え、ポカブを迎え撃とうとする。

 

(この炎の範囲と勢いだ。必ずジャンプでかわし、反撃を仕掛けてくる)

 

 空中にいる所にほのおのパンチを叩き込み、一気に勝負を付ける。そう決めたポッドだが、ポカブが来ない。

 

「――カブゥ!」

 

「何!?」

 

「バオッ!?」

 

 しかし、ポカブが現れたのは炎の下からだった。ポカブは炎の波を飛び越えるのではなく、潜り抜けることでかわしたのだ。少しは受けたが、戦闘不能には程遠い。

 速度もトップギアで、意表を突かれて動きが鈍ったバオップの腕にポカブが強く噛み付いた。痛みにバオップが悲鳴を上げる。

 

「バオップ、噛み付かれた手にほのおのパンチ!」

 

「させるな! かみついた状態でひのこ!」

 

 炎と火が発生し、バオップの腕を中心に、再び爆発。その勢いで二匹は大きく吹き飛ばされる。

 

「大丈夫か、ポカブ!」

 

「まだやれるな、バオップ!」

 

「カブ!」

 

「バオ!」

 

 ダメージは受けた。しかし、まだまだやれるとポカブもバオップは火と炎を軽く放つ。

 

「へっ、やるなサトシ! お前とポカブも良い熱さを持ってるぜ!」

 

「そっちこそ!」

 

「だが、俺達の熱さには敵わねえ! それに俺達がただ熱いだけじゃないって事も教えてやる。――バオップ、あなをほる!」

 

「バオッ!」

 

 バオップは両手で地面に穴を掘り、地中へと姿を隠した。

 

「こんな技も持ってたのか……!」

 

 単純に威力が高い技だけでなく、トリッキーな技も覚えていた。しかも、あなをほるは地面タイプの技。炎タイプのポカブが受けたら大ダメージは免れない。

 

「全力で走り回れ!」

 

「狙いを付けさせないつもりだな。だが、甘え! バオップ、地中から全力でかえんほうしゃ!」

 

「ポカブ、直ぐにそこから――」

 

 直後、地中から巨大な炎柱が大量の土塊を巻き上げながら、天を焼き尽くすかの如く立ち上る。

 

「カブー!」

 

「ポカブ!」

 

 同属性で効果は半減しても尚、強烈なダメージを与える炎の柱を受けたポカブは吹き飛ばされ、大きく転がされる。

 

「そこだ! 出てこい!」

 

「オプーーッ!」

 

 更に追撃のあなをほる。地中からの一撃をバオップはポカブに撃ち込んだ。

 

「ポカブ! ひのこだ!」

 

「――カブゥ!」

 

「肉を切らせて骨を断て! ほのおのパンチ!」

 

 サトシはひのこで距離を稼ごうとしたが、ポッドの指示でバオップは直撃を受けながらも、ポカブに炎の拳を叩き込む。

 ポカブは怒涛の連撃によりまた吹き飛び、サトシの方へと転がっていった。

 

「あんな炎を受けた上に、あなをほるやほのおのパンチまで……!」

 

「キバ~……」

 

 先のダメージを考えると、ポカブはもう戦闘不能になっても不思議ではない。それほどの猛攻だった。

 

「残念ながら、コーンを倒したお前でも、圧倒的な力の差を覆すのは無理があったな。――俺達の勝ちだ」

 

「ポカブ……!」

 

(……ここまでかな)

 

 ポカブは動かない。力の差を考えれば、ここまで奮闘しただけでも立派だろう。審判のデントがポッドとバオップの勝利を宣言しようとした。

 

「カ……ブ……!」

 

「ポカブ……!」

 

 しかし、ポカブは立ち上がった。ボロボロで今にも倒れそうな状態にもかかわらずだ。

 そして、その瞳に写る闘志の炎も消えていない。寧ろ、今まで以上に燃えている様だ。

 

「ほう……。まだ立てるか! だが、その状態で俺とバオップに勝てるかな?」

 

「バプバプ」

 

「……ポカブ、まだやれるか?」

 

「カブゥ!」

 

 ポカブのダメージ、何より境遇を考えると、これ以上のバトルは躊躇われた。

 しかし、ポカブがまだ戦いを望んでいる。ならば、トレーナーとして最後まで己の役目を果たす。サトシはそう決意した。

 

「まだ――やれる!」

 

「良いねえ! やっぱり、熱いぜお前らは! だが――」

 

「カーー……!」

 

「え、なにあれ……?」

 

「これは……!」

 

 炎の様に赤く、揺らめくオーラ。それが突如、ポカブの身体の内から現れ出した。

 その様子にほとんどの者達がざわめく中、サトシはいち早く気付いた。この現象の正体に。

 

「――ブーーーーッ!!」

 

 ポカブの雄叫びと共に、全身を纏うオーラが炎へと変化。周りを急激に焼き、熱していく。

 

「こいつは……『もうか』か!」

 

 炎のエキスパートだけあり、ポッドはサトシの次に現象の正体を理解した。

 ポカブの特性、もうか。炎の力を高めるこの特性が、体力がぎりぎりになったポカブに力を与えていたのだ。

 

「ポカブ……!」

 

「カブ!」

 

「はっはっは! 熱い……! 最高に熱いぜお前ら! そんなお前らにサービスだ! バオップ、にほんばれ!」

 

「オプ!」

 

 最初にバオップが放った技、にほんばれ。高温と熱の塊を再度バトルフィールドの天井付近に展開する。

 

「さぁ、舞台は整った! 決着を着けようじゃねえか! バオップ、かえんほうしゃ!」

 

「ポカブ、ひのこ!」

 

「オプーーッ!」

 

「カー……ブーーッ!」

 

 バオップからは炎の帯。ポカブからはもうかとにほんばれで強化された、ひのことは思えない規模の大きさの炎球が発射される。

 二つの炎が激突。結果は先程負けたポカブのひのこが、今度はかえんほうしゃとせめぎ合っていた。つまり、互角だ。

 

「バププ……!」

 

「なんつー威力だ……! これがもうかで強化された炎か! ひのことは思えねえな……!」

 

「ポカブ、たいあたり!」

 

「やべえ!」

 

 ひのこはかえんほうしゃと違い、発射すれば自由に動ける。それを活かし、サトシは接近を指示。ポカブは忠実に動く。

 

「バオップ、この際受けても仕方ねえ! 受けるのを覚悟であなをほるに切り替えろ!」

 

「バオ!」

 

「かわされるか……!」

 

 バオップはまた両手を使い、ひのこが迫る中、あなを直ぐに掘り始める。

 

「――カブゥーーッ!」

 

「えっ!?」

 

「な、何っ!?」

 

 その時、全員に予想だにしない事が起きた。走るポカブの身体から炎が噴き出すと、ポカブが急に加速。

 炎を特性と天気で増幅させ、更に先に放ったひのこをも取り込み、巨大な炎の塊と化してバオップに突撃。大きく吹き飛ばす。

 

「バプゥーーッ!」

 

「バオップ!」

 

「ポカブ、ひのこ!」

 

「ポカーッ!」

 

 謎の現象に驚きは隠せないサトシだが、これは好機だ。追撃を命じ、ひのこをバオップに当てる。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 しかし、ポッドが黙っているわけもなく、反撃のかえんほうしゃを命じる。それを見てサトシは迎撃のひのこを指示。

 三度激突するも、かえんほうしゃが直ぐに破れた。しかも、バオップの姿が無く、穴が見える。

 

「かえんほうしゃを目眩ましにしてから、あなをほるを! ポカブ、下がれ!」

 

 ポカブが下がった直後、その下の地中からバオップが突き出てきた。判断が後一瞬でも遅ければ、間違いなくポカブは戦闘不能になっていただろう。

 

「なら、バオップ! もう一度あなをほる!」

 

「それを待ってたぜ! ポカブ、穴に向けてひのこ!」

 

「なっ、しまっ――」

 

 

 バオップが穴に潜る。また穴からかえんほうしゃを放ち、今度こそ決めようとしたポッドだが、サトシの指示にしまったと顔を青ざめる。

 急いで地中からバオップを出そうとしたが、その前にポカブが穴に向けてひのこを発射。穴から炎の柱が立ち上り、バオップが押し出されていく。

 

「そこだ、かみつく!」

 

「させるな! ほのおのパンチ!」

 

「……ポカブ、高く飛べ!」

 

 追撃のかみつくと反撃のほのおのパンチ。真正面ではやられるとサトシは本能的に判断し、ポカブを跳躍させる。炎の拳は空を焼くだけだった。

 

「避けられたが――貰ったぜ! バオップ、かえんほうしゃだ!」

 

 空中にいては鳥ポケモンではないポカブは自由に動けない。これで決まるとかえんほうしゃを指示。

 

「俺達の勝ちだ――ぐあっ!?」

 

「――パブゥ!?」

 

「な、何? 何が起きたの?」

 

「キババ?」

 

 ポッドとバオップが動きを見る、狙いを付けるとポカブを見上げた瞬間だった。彼等は腕で目を覆る行動を取ったのだ。アイリスや女性客達は戸惑うも、コーンとデントは何が起きたのか察した。

 

「これは……逆光!」

 

「にほんばれを利用して!」

 

 そう、跳躍したポカブの上にあるにほんばれの熱と光の塊。それを直視し、ポッドとバオップは目が眩んだのだ。そして、その隙を当然サトシとポカブは見逃さない。

 

「ポカブ、たいあたり!」

 

「ポーカー……ブーーーーッ!」

 

 ポカブが落下した直後、激突音と土煙が発生。衝撃でフィールドが少し揺れた。

 煙が徐々に晴れ、二匹の姿が露になる。そこには、満身創痍ながらもまだ立ち続けるポカブと、目を回したバオップの姿があった。

 

「カブゥ!」

 

「バ……プ……」

 

「バオップ、戦闘不能! ポカブの勝利! よって、第二試合……チャレンジャー、サトシの勝利!」

 

「よーーーしっ!」

 

「カブーーッ!」

 

 第二試合も勝利に、サトシとポカブは雄叫びを上げる。

 

「そ、そんなあ……」

 

「コーン様とポッド様が続けて負けるなんてえ……」

 

「こ、こんな事が……」

 

 続けての敗北に、女性客達は心底ショックな様だった。アイリスは場を見下ろし、ポカブがサトシの元を戻るのを眺めている。

 

「ご苦労様、ポカブ。本当に頑張ってくれたよ!」

 

「カブカブ!」

 

 サトシはポカブの奮闘に、ポカブはサトシの期待に応えれて、互いに喜びの表情を浮かべていた。

 

「カ、カブ……?」

 

 そこでポカブが力なく尻餅を付いた。激戦で疲れたのだろう。こうなっても当然である。

 

「ゆっくり休んでてくれ」

 

 サトシはポカブを休めるべく、モンスターボールに戻した。

 

「見事だったぜ、サトシ。まさか、にほんばれを利用されるなんてな。俺もまだまだか」

 

 やれやれと、残念そうなながらも、ポッドもコーンと同じくチャレンジャーの勝利を称えていた。

 

「にしても、あの土壇場でニトロチャージを使うなんて予想外だったぜ」

 

「ニトロチャージ?」

 

 あの炎を纏った技らしきものの名前だろうか。身体を回転させながら炎を放って突撃する技、かえんぐるまとは違っていたが。

 

「知らないのか? ニトロチャージは炎を纏い、突撃する技だ。自分の速度も高める効果もあるが……。どうも、さっきのは偶々使えただけらしいな」

 

 よくよく考えれば、ポカブの速さは増してなかった。おそらく追い詰められ、もうかを発動していた結果、不完全ながらもニトロチャージが出たのだろう。完全な習得ではないのだ。

 

「そっか……」

 

 新技を習得したかと思いきや、偶々だったと知ってサトシは少し残念だった。

 

「お前とポカブならその内完全に習得するさ。ゆっくり覚えていきな」

 

「あぁ、そうするよ」

 

 急いでも技は習得出来ない。ゆっくりと鍛えれば必ず覚えてくれるだろう。

 

「残る試合は後一戦。まっ、ここまで来たらデントにも勝つんだな」

 

「勿論、そのつもりだ」

 

 サトシが視線を動かす。その先にいるのは、最後の相手であるジムリーダー、デント。彼は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「二戦も戦ったんだ。少し休んでからでも僕は構わないよ?」

 

「いや、直ぐにするよ。最後の試合、受けてもらうぜ」

 

「――喜んで」

 

 デントがジムリーダー側の場所に移動。コーンが審判を務める。

 

「サトシ。君の実力は実に見事だよ。まさか、コーンとポッドに続けて勝つなんて。本当に予想外だった」

 

「どういたしまして」

 

「勝敗は決まり、君のバッチ獲得は確定した。だけど、このまま敗けっぱなしというのは、ジムリーダーとして避けたいからね。――勝たせてもらうよ」

 

 静かながらも、闘志に満ちた眼差しをデントはサトシにぶつける。

 

「そうこなくちゃ! あと、俺達はこのバトルにも勝つ! 完全勝利でバッチは頂くぜ!」

 

「ふふふ、勇ましい。――さぁ、始めようか。マイビンテージ、ヤナップ!」

 

「ミジュマル、君に決めた!」

 

「ヤプ!」

 

「ミジュ!」

 

「ミジュマル……?」

 

 最後の一匹に、サトシとアイリスとキバゴ以外、全員が怪訝な表情を浮かべる。

 

「やっぱり、ミジュマル……」

 

「キバ……」

 

 ピカチュウが出れない以上、残るは消去法でミジュマルしかない。ヤナップと相性不利のミジュマルを。

 

「草タイプのヤナップに、水タイプのミジュマル……?」

 

「あの子、続けて勝ったからって、調子に乗ってるんじゃないの?」

 

「消化試合って訳? 何それ、最悪!」

 

 女性客達からは批判の声が上がる一方、ポッドとコーンは真剣に考えていた。

 

「コーン、お前はどう思う?」

 

「彼のバトルセンスや心構えを見る限り、敵を甘く見ているからミジュマルを出した、とは程遠いですね」

 

 しかし、それにしてもミジュマルは予想外だった。ポカブは炎同士のため互角だったが、今回は完全にサトシ達の方が不利だ。

 

「この勝負を捨てた、僕を甘く見ている、という訳じゃ無さそうだね」

 

「あぁ、このミジュマルで勝つ! というかさ、相性良いポケモン出しても、それに抜群の技を使ってくるだろ?」

 

「正解。このサンヨウジムでは、タイプ相性を二重の意味で知って貰うと決めてるからね」

 

 有利なタイプを出すだけでは勝てない。それをしっかりと知ってもらうため、三人は苦手なタイプの対策を施していた。

 

「やっぱり、気付いてたな。サトシのやつ」

 

「まぁ、彼ほどのトレーナーなら気付くでしょうね」

 

 例えば、ポッドは自分との勝負時にミジュマルが出ていれば、四つの技にはソーラービームを加えるつもりだった。ポカブが出たので、あなをほるに変更していたが。

 ちなみに、コーンはヒヤップには高威力のみずタイプ技や、こおりタイプの技を覚えさせてない。

 みずてっぽうの方が連射可能、隙がなく、手頃に使える。それらの技の中に自分のバトルスタイルに合うのが無いためだ。ただ、今日の敗北を機に覚えさせようかと考えてはいる。

 

「まぁ、どちらにしても僕はサンヨウジムのジムリーダーとして全力で迎え撃つ。それだけさ」

 

 相手がどんなポケモン、戦術を繰り出そうとも、ジムリーダーとして迎え撃つ。それが自分の役目だ。

 

「これより、最終試合。チャレンジャー、サトシとデントのバトルを行います。――始め!」

 

 サンヨウジム戦、最後の試合が始まる。

 


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