ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 流れは同じですが、内用はそれなりに変わってます。


アイリスとドリュウズ

「行くぞ、ハトーボー! ゴッドバード!」

 

「ハトー……!」

 

 ハトーボーは闘志を一気に高め、身体から金色のオーラを漂わせ、全膂力で突撃。

 

「ボーーーッ!! ――ハトッ? ハトハトッ!」

 

 しかし、途中でオーラは消え、力も抜けて姿勢が不安定に。急いで羽ばたいてバランスを整え、落下は防いだ。

 

「失敗かー」

 

「ハトー……」

 

 ゴッドバードの失敗に、サトシとハトーボーは少し落ち込む。

 先日から一夜明け、サトシ達はポケモンセンターから少し離れた広場で特訓をしていた。

 

「ゴッドバードは、飛行タイプの技の中でも最強の大技。焦らずじっくりと身体と技を熟成させれば自由に使える様になるさ」

 

 この前、出来たのは追い込まれ、サトシ達の想いに応えようと潜在能力が引き出されたからだ。つまり、偶然なのである。

 

「そうだよな。頑張ろうぜ、ハトーボー」

 

「ハトッ!」

 

 もっともっと身体と技術を鍛えれば、自由に扱える様になる筈。その為にも、これからもトレーニングは必要不可欠だ。

 

「そう言えば、つばめがえしはどうするの?」

 

「もうしばらくやって行くよ」

 

「ハト」

 

 ゴッドバードがかなり不完全な以上、つばめがえしはこれからしばらく必要だ。練習を止めるつもりはない。

 

「さっ、後数回ゴッドバードの練習しようぜ」

 

「ハト!」

 

 失敗を繰り返した先に成功がある。少しでも習得に近付くべく、ゴッドバードの練習に戻った。

 

「しっかりと強くなっていくね。サトシくん達は」

 

「Nさんとしては、どう思いますか?」

 

「楽しみだよ」

 

 サトシが強ければ強い程、意味が増す。Nとしては、喜ぶべき事だ。

 

「行くわよ~、エモンガ!」

 

「エモ!」

 

「ほうでん!」

 

「エモ~~~ッ!」

 

 エモンガは大量の電撃を放出。電撃はバチバチと弾けると、パァンと弾けて美しい火花を残した。

 

「うん。良い感じ!」

 

「エモ」

 

 どうだと、エモンガは胸を張る。アイリスとエモンガはポケモンコンテストの練習をしていたのだ。

 

「でもね~……」

 

 自身ではそれなりの出来栄えだと思うが、サトシとピカチュウのと比べると、やはり大きな差があった。

 

「やっぱり、直接攻撃出来る技が一つはないとダメね~」

 

「エモ~……」

 

 今のままでは、アピールは技が派手なだけの域をどうしても出ない。エモンガの動きを活かした技が必要不可欠だ。

 

「デント、Nさん。エモンガが覚えれそうな直接攻撃技って何があります?」

 

「そうだね。エモンガは飛び方は翼で飛翔ではなく、膜を使っての滑空。翼を使った攻撃は出来ない」

 

「となると、飛ぶを利用した技、つばめがえしやアクロバットとかが良いかもしれない。エモンガは飛行技は覚えてないしね」

 

「エモンガ、そのどっちかの技を覚えよっか」

 

「エモ」

 

 その性格から、エモンガは身体を使う直接攻撃技が嫌いだった。しかし、今のままでは演技はダメなまま。なので、覚えることを決めたのだ。

 

「でも、どっちの方が良いかしら?」

 

「習得のしやすさだと、ハトーボーが覚えているつばめがえし。だけど、アピールを考えると、エモンガの滑空を見せ付けれるアクロバットの方かな」

 

 覚えやすさはつばめがえしの方が上。だが、魅力をアピールするならアクロバットが良いだろう。アイリスは少し考え、後者にした。

 

「エモンガ、アクロバットをやって見ましょ!」

 

「エモ!」

 

「エモンガ、アクロバット!」

 

「エモ! ――エモ、エモモ!」

 

「おっ、上手い!」

 

 跳躍し、左右に滑空するエモンガ。精度こそはそれなりに粗いが、失敗は無かった。

 

「行けるじゃない!」

 

「エモ!」

 

「そうか、普段の動作とそんなに変わらないから、やりやすいんだ」

 

 エモンガにとって、アクロバットは滑空の時に左右に動くだけの動作と大差がない。なので、習得しやすいのである。

 

「よ~し、アクロバット習得に向けて頑張るわよ~!」

 

「エモ~!」

 

 コンテストで魅力する為にも、アクロバットは必要。面倒は苦手なエモンガだが、理由があれば努力はする。

 エモンガは練習を続け、アクロバットの完成度をぐんぐん高めていく。

 

「え~と、ドリュウズ」

 

「……リュズ?」

 

「久々に、一緒に練習しない?」

 

 キバゴ、エモンガと違い、ドリュウズとは練習出来なかった。そろそろ、前のようにしないかと持ち掛けるも。

 

「……リュズ」

 

「そ、そっか。じゃあ、自由にして良いわよ」

 

 断られ、内心落ち込みながらも仕方ないと自分に言い聞かせる。ドリュウズは適当な木の下に移動すると、もたれ掛かった。

 

「――じゃあ、エモンガ。練習再開しましょ。キバゴも頑張って」

 

「エモ!」

 

「キバ!」

 

 アイリスは気持ちを引き締め、エモンガとキバゴの練習を続ける。

 

「うーん。まだダメか……」

 

「でも、デントくん。彼を見てごらん」

 

 ドリュウズを見ると、彼はチラチラとアイリスを見ているのが分かる。

 

「もう一歩、かもしれませんね」

 

「ボクもそう思うよ」

 

 ただ、その一歩はアイリス自身の力で踏み出さねばならないだろうと、Nもデントも思っていた。

 

「――エ~モモ!」

 

「出来た!」

 

 アイリスとエモンガの大きな声がした。どうやら、アクロバットが完成したようだ。

 

「上手く行ったのか?」

 

「うん。もっともっと練習は必要だろうけど、使う分には問題ないと思うわ」

 

「エモ!」

 

 最低限とは言え、アクロバットの完成にアイリスもエモンガも笑顔になる。

 

「――見付けたわよ!」

 

 練習を続けていると、突然大きな声がした。そちらを向くと、一人の少女がいた。

 肩辺りまでの赤の短髪、青緑の瞳、黄色の帽子を被っている。

 

「……誰だ?」

 

 全員が初めて見る人物の為、疑問符を浮かべた。

 

「あたしはラングレー。ドラゴンバスターよ!」

 

「ドラゴン、バスター……?」

 

「名前から推測すると、ドラゴンポケモンを倒す者って事になるのかな?」

 

「その通り。中々察しが良いじゃない」

 

「そのドラゴンバスター君が、ボク達に何の用だい?」

 

「アンタ達には用はないわ。用があるのは――そこの二人よ!」

 

 ラングレーが指差したのは、アイリスとサトシだった。

 

「あ、あたしと……」

 

「……俺?」

 

「そうよ、竜の里出身のアイリス! そして、理想の英雄! アンタ達二人こそ、あたしのターゲットよ!」

 

 理想の英雄に、サトシは少し不満気になる。

 

「どうして、この二人と?」

 

「さっきも言ったように、あたしはドラゴンバスター。つまり、ドラゴンタイプのポケモンを倒すのが生業。だから、あんた達がターゲットなの」

 

「アイリスだけでなく、サトシもターゲットなのは……」

 

「決まってるでしょ。あんたが理想の英雄足る存在、伝説のポケモン――ゼクロムよ!」

 

「……ゼクロムを倒す気なのかな? 彼女」

 

「怖いもの知らずと言うか、何と言うか……」

 

 伝説のポケモンは、何れも桁外れの実力者ばかり。普通のトレーナーでは、束になっても漸く戦える土俵に立てるレベルだ。

 

「……いや悪いけど、ゼクロムはいないぞ?」

 

「なんでよ!? あんた、理想の英雄でしょうが!」

 

「それは、周りが言ってるだけだし……」

 

 ゼクロムも協力してくれただけで、自分の手持ちではない。

 

「じゃあ、他のドラゴンポケモンはいないの!?」

 

「いるけど、カントーに預けてるしなぁ……」

 

 連れてこようにも、転送システムが破損しているので直接連れてこない限り無理だ。

 

「サトシ、ドラゴンポケモン持ってたの?」

 

「うん。シンオウでゲットしたフカマル。何考えてるのか、ちょっと分からない奴だけどな」

 

「どんなポケモンなんだい?」

 

「えーと――」

 

「こらーーーっ! アンタ達だけで盛り上がるんじゃないわよ!」

 

 サトシ達だけで楽しく話しそうとした所に、ラングレーが待ったを掛けた。

 

「まぁ、とにかく! アンタ今、ゼクロムもドラゴンポケモンも持ってないのよね?」

 

「あぁ」

 

「ならアンタには興味ないわ。アイリス! あたしと戦ってもらうわよ!」

 

 ラングレーはサトシを無視し、アイリスに挑戦を持ち掛ける。

 

「あたしと~?」

 

「そっ、そもそもアンタから戦うのは決まってたしね」

 

「なんで?」

 

「アンタ、バカ? いきなりゼクロムと戦う訳ないでしょ。先ずはアンタを倒してから挑む予定だったのよ」

 

「それもそうか……」

 

 彼女の言う通り、いきなりゼクロムに挑むのも無茶だ。先にアイリスと戦い、そこからゼクロムだったのだろう。それでもかなり突拍子だが。

 

「それに竜の里出身のトレーナーもドラゴンポケモンも倒したいしね」

 

「その事はさっきも言ってたね。どうしてだい?」

 

「昔、竜の里のトレーナーにボロ負けしたのよ。だから、ドラゴンポケモンを倒すドラゴンバスターになったの」

 

「……逆恨みじゃないかな?」

 

「そうよ。悪い?」

 

 それがどうしたと、ラングレーは堂々と腕を組む。

 

「はっきり言う人……」

 

「その理由でゼクロムにまで挑もうとしている訳だから、ある意味凄いね……」

 

 逆恨みが発端で、伝説のポケモンにまで戦う人物は早々いないだろう。ある意味大物だ。

 

「あたしの話はここまで。勝負受けるの? 受けないの? まぁ、怖いのなら別に逃げても構わないわよ」

 

「受けて立つわ!」

 

 ラングレーの挑発にアイリスは乗り、二人はバトルする事に。

 

「いでよ、ツンベアー!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

 ラングレーが繰り出したのは、雪のような白色の体毛の巨体と、氷で出来たような顎が特徴のポケモンだ。

 

『ツンベアー、凍結ポケモン。吐く息を凍らせて、氷の牙や爪を作り戦う 。北の寒い土地で暮らす』

 

「こ、氷ポケモン……。寒いの苦手なんだよね……。でも頑張ろ、キバゴ!」

 

「キバ!」

 

 ツンベアーに対し、アイリスはキバゴをぶつける様だ。

 

「ベンー……」

 

「キバ!?」

 

 キバゴも勢い良く出てはいるが、ツンベアーの巨体や息に少し怯む。

 

「大丈夫! 相性が悪くても、今までの練習を活かせば負けないわ!」

 

「キバ!」

 

「ンツー……」

 

 キバゴは張り切るも、ツンベアーは欠伸。その様子にキバゴは怒る。

 

「キバゴねぇ……。あたしとしては、もっと強そうなのを出してほしいんだけど。強くて大きいドラゴンポケモンを倒してこそ、ドラゴンバスターって感じじゃない?」

 

「偉そうな事は勝ってから言いなさい! キバゴ、ひっかく!」

 

「キバー!」

 

「――ツンベアー、受け止めてからきりさく!」

 

「ベー……ンツッ!」

 

「キバーーーッ!」

 

 ひっかくを身体で受け止め、そこから強烈な爪 の一撃でキバゴに手痛いダメージを与えて吹き飛ばす。

 

「つららおとし!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

 ツンベアーが空に向かって冷気の息を吐くと、大気の水分が凍り付き、氷柱となってキバゴに目掛けて降り注ぐ。

 

「キバゴ! 練習を思い出すの! しっかりと見てかわして!」

 

「――キバ! キバ、キババ!」

 

 ダメージに痛みながらも、キバゴはしっかりと氷柱を避けていく。

 

「ふ~ん。ちょっとはやるじゃない。ほんのちょっとだけど。――ツンベアー、れいとうビーム!」

 

「ベー、ンツーーーッ!」

 

「キバゴ、りゅうのいかり!」

 

「キ~バ~ゴ~~~!」

 

 竜と冷気のエネルギーがぶつかり合うも、りゅうのいかりは突破され、れいとうビームがキバゴに炸裂する。

 

「キバゴ!」

 

「キバ、ゴ……!」

 

「まだやれるのね。まっ、次で決まるでしょうけど」

 

 りゅうのいかりで軽減されたとは言え、大ダメージ。キバゴは戦闘不能寸前だった。

 

「こうなったら……! キバゴ!」

 

「キバ!」

 

「げきりん!」

 

「キ~……バ~~~~~!!」

 

「げきりんですって!?」

 

 追い詰められ、キバゴとアイリスは奥の手、げきりんを使用。竜の力が解放され、キバゴは高速で接近するとその力を本能のままぶつける。

 

「キバキバキバキバキバー……キバ~~~~~ッ!!」

 

「ベンーーーッ!」

 

「ツンベアー!」

 

 竜の猛攻に、流石のツンベアーも押され、〆の一撃で吹き飛んだ。

 

「どうよ!」

 

「今のは流石に驚いたわ。進化前とは言え、ドラゴンポケモンって事ね。でも――」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「あたしのツンベアーは、それだけで負ける程弱くないのよ」

 

 げきりんでダメージを受けはしたが、戦闘不能には程遠かった。

 

「そ、そんな……!」

「残念でした。それに、そのキバゴ見た方が良いわよ?」

 

「……えっ?」

 

「キバ~……キバ~……」

 

「キバゴ!?」

 

 キバゴはフラフラと、足取りがおぼつかない様子だ。

 

「げきりんの反動で混乱になったのか……」

 

 げきりんは凄まじい威力と引き替えに、使用者を混乱にしてしまう反動がある。それにより、キバゴは混乱したのだ。

 

「まぁ、このまま放って置いても混乱で勝手に自滅するでしょうけど――止めよ、ツンベアー! きりさく!」

 

「ベン、ツーーーッ!」

 

「キバ~~~!」

 

「キバゴ!」

 

 ツンベアーは爪を立、力を込めて右腕を振るう。混乱状態のキバゴは為す術なく食らい、戦闘不能になった。

 

「キバゴ、戦闘不能。ツンベアーの勝ち!」

 

「キバゴ、大丈夫!?」

 

「キバ……」

 

 アイリスは駆け寄り、キバゴを抱える。キバゴは申し訳なさそう表情だ。

 

「つららおとしを避けたのと、げきりん以外は全然ダメね。次のポケモンにしたらどう? そこにいるアンタの切札、ドリュウズを」

 

「知ってるのか?」

 

「えぇ、竜の里で聞いたのよ。まぁ、何かの件で仲は悪くなってるらしいし、無理そうね」

 

 ドリュウズの事については知ってはいるが、その根本までは聞いてない様だ。

 

「……それは昔の話よ。今は違うわ!」

 

「へぇ。じゃあ、ドリュウズで戦いなさいよ」

 

「望み通り、戦うわ! ドリュウズ!」

 

「……リュズ」

 

 ドリュウズは木から離れ、アイリスに駆け寄った。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「うーん、どうだろう……」

 

 彼女達は完全に仲直りした訳ではない。ラングレーとツンベアーにこの状態で勝てるかどうか。

 

「始め!」

 

「ツンベアー、つららおとし!」

 

「ドリュウズ、メタルクロー!」

 

 

「ベンツーーーッ!」

 

「リュズリュズ!」

 

 降り注ぐ氷柱を、ドリュウズは前進しながら鋼の爪で弾く。

 

「へぇ、やるじゃない。――もう一度つららおとし!」

 

「またメタルクローで――」

 

「周りに落としなさい!」

 

「ベンツ!」

 

「リュズ!?」

 

 ツンベアーはつららおとしをドリュウズの周囲に放ち、氷柱で閉じ込める。

 

「れいとうビーム!」

 

「ドリュウズ、あなをほる!」

 

「リュズ! ――ドリュ!」

 

「ベン!」

 

 ツンベアーのれいとうビームを、ドリュウズはあなをほるで回避。更に攻撃に繋げる。

 

「まだよ、ツンベアー! いわくだき!」

 

「いわくだき!?」

 

「ベンーーーッ!」

 

「リュズ!? ――ドリュ!」

 

 攻撃されながらも、ツンベアーは反撃のいわくだきをドリュウズに叩き込む。

 

「つららおとし!」

 

「ツベア!」

 

「ド、ドリュウズ、みだれひっかきで弾いて!」

 

「ド、ドリュ! リュズリュズ――ドリュ!」

 

 氷柱を爪の連撃で弾くも、間が遅れたせいで途中で直撃してしまう。

 

「……気のせいかしら? まぁ良いわ」

 

 最初よりも、動きのキレが無い様に見えた。しかし、ラングレーにはどうでもいい。

 

「リュ、ズ……!」

 

「ドリュウズ!」

 

「あれって……」

 

「つららおとしの追加効果で怯んだんだ」

 

 怯みにより、ドリュウズは短時間動けなくなる。そして、ラングレーはその隙を見逃すほど優しくない。

 

「ツンベアー、れいとうビーム!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「リュズ!」

 

 冷気の光線がドリュウズに直撃。その冷気で身体が凍り付く。

 

「ド、ドリュウズ! ドリルライナー!」

 

「ドリュ……ウズーーーッ!」

 

「ツンベアー、両手でいわくだき!」

 

「ベンッ!」

 

「リュズゥ!」

 

 ドリュウズのドリルライナーに対し、ツンベアーはいわくだきを両手で、更に振り下ろす様に発動。体重を込めた一撃で技を打ち破り、ドリュウズを地面に叩き付ける。

 

「止めよ! いわくだき!」

 

「ベンー……ツーーーッ!」

 

「リュズーーーッ!」

 

「ドリュウズ!」

 

 地面に押し付けられた所に、ツンベアーの下からのいわくだきがドリュウズに命中。ドリュウズは吹き飛び、岩にぶつかると仰向けに倒れた。

 

「リュ、ズ……」

 

「……ドリュウズ、戦闘不能だね」

 

「ドリュウズ!」

 

 先程のキバゴ同様、アイリスはドリュウズに駆け寄る。

 

「だ、大丈夫?」

 

「リュズ……!」

 

「戻って、ドリュウズ……」

 

 倒れたドリュウズを、アイリスはモンスターボールに戻す。

 

「さっきよりは歯応えあったけど、途中から動きが鈍くなってたし、所詮はこの程度って事ね。竜の里で見所あるって言われたからわざわざ会いに来たのに、ガッカリだわ。今度会った時はもうちょっと強くなってね。戻って、ツンベアー」

 

「ベンツ」

 

「バーイ」

 

 期待外れと感じたラングレーはツンベアーをモンスターボールに戻し、そのまま去って行った。

 

「大丈夫か?」

 

「随分とスパイシーな事を言われてたけど……」

 

「あそこまで言わなくて良いだろうに」

 

「あたしは平気です。それより、ドリュウズの方が心配で……あの時と同じ技で負けちゃって……」

 

「あの時? 同じ技?」

 

 その二つに、サトシ達は気になった様だ。

 

「確か、彼女のツンベアーが最後に放ったのはいわくだきだったね。その技で負けた事があるのかい?」

 

「はい。初めてポケモンバトルで負けた時の技で……それが原因でドリュウズが少し前まで動こうとしなかったんです」

 

「詳しく聞いて良いか?」

 

「うん。あたしは竜の里で暮らしてて、そこにいる野生のポケモン達と遊ぶのが大好きだった」

 

 毎日、水や土で汚れたり、切傷や打ち傷も付いていたが、そんなのお構い無しにアイリスは野生のポケモン達と遊び続けた。

 

「そんなある日、友達のミネズミが巣を奪われて……その原因がモグリューだったの」

 

「モグリュー?」

 

「ドリュウズの進化前のポケモンだよ」

 

「もしかすると、そのモグリューが進化したのが今キミといるドリュウズ?」

 

「はい。それでミネズミの住処を取り戻そうと……」

 

「……もしかして、ケンカを挑んだのかい?」

 

「まぁ、ボコボコにやられちゃいましたけど……」

 

 子供が野生のポケモンに勝てる訳もなく、アイリスはコテンパンにされてしまった。

 

「それでもあたしは次の日から毎日、ケンカを挑んでは返り討ちにされて。そんな日々が十日目だった頃なの。またケンカしたんだけど、その最中にモグリューが崖の上で蔓に絡まっちゃって、危ない所を助けたの」

 

 それからアイリスとモグリューは仲良しになり、ポケモンバトルでは全戦全勝と見事な結果を出した。どちらにも才能があったからこそだろう。

 

「自信を付けたあたしとモグリューは、竜の里で毎年行われるバトル大会に出ることになったの」

 

 その為、彼女達は山で猛特訓。それもあり、竜の里のバトル大会では並みいる相手に打ち勝ち、決勝戦ではドリュウズに進化。

 そのまま、大会にも見事優勝と、正に破竹の勢いと言えた。その時までは。

 

「……優勝した後、あたしはある人とバトルしたの」

 

「ある人?」

 

「……シャガさん。ドラゴンマスターの称号を持つ、ソウリュウジムジムリーダーの」

 

「アイリス、シャガさんと知り合いだったのか!?」

 

「……うん」

 

 思わぬ関係に、サトシだけでなくデントも驚いていた。

 

「……その時のあたし、その、今だから言えるんだけど……連戦連勝で天狗になってたの。だから、調子に乗ってシャガさんにバトルを挑んだんだ。百勝目の相手に、って」

 

「それは……確かに天狗になってたとしか言えないね。よりによって、あのシャガさんに勢いだけで挑むなんて……」

 

「……そんなに強いのか? シャガさんって?」

 

「あぁ、シャガさんはイッシュのジムリーダーの中でも最強と呼ばれ、四天王とも渡り合える程の実力者。そして、イッシュのジムリーダーの代表とも言える人物なんだ」

 

「イッシュのジムリーダーで、最強……!」

 

 確かに並々ならぬ気迫、威圧感があった。イッシュ地方、最強のジムリーダーと言われても納得出来る。

 

「その、結果は……?」

 

「……相手にもならなかったわ」

 

 シャガが出したオノノクスの能力は凄まじかった。攻撃しようとビクともしない防御力と、こちらを一撃で倒す攻撃力の前に、アイリスとドリュウズは惨敗。

 それ以降、ドリュウズは最近まで動こうとしなくなったのである。

 

「……あたしさ、サトシやデントとの旅の中で、ドリュウズがああなった理由が分かった気がするの」

 

「なんだ、それ?」

 

「多分、ドリュウズは……あたしに不信感を抱いたんだと思う。あの頃、調子に乗ってたあたしはシャガさんとの実力差に全く気付かず、無理に続けて……その結果が惨敗」

 

 思えば、ドリュウズが恐怖を抱いていた様子があったのだ。

 あの時に実力差を素直に悟り、敗けを認めるでもなく、格上の相手として挑むでもなく、根拠のない自信で戦わせて敗北。

 不信感を抱かない方が不思議だと、今までの旅からアイリスはそう推測に辿り着いたのだ。

 

 

「――アイリス」

 

「……なに?」

 

「これは僕の推測だけど……。もしかすると、ドリュウズも、その事には既に気付いているのかもしれない」

 

「……どういう事?」

 

「どこまでかは分からない。だけど、今のドリュウズにはほとんど不信感は無いと思う」

 

「それはボクも同意見かな。キミ達程、詳しくは知らない。だけど、彼がキミを見ていたのは確かさ。今日だってね」

 

 今も不信感で一杯なら、そんな行動は取らない。それ所か、動こうともしないだろう。

 

「……あたし、気付いて無かった。見えてなかったんだ。……情けないなぁ」

 

「遠慮してたのか?」

 

「……えっ?」

 

「いや、アイリスなら積極的に行く気がするけど、そうしなかっただろ? だから、遠慮してたのかなって」

 

「……それもあるかも」

 

 不信感を抱かせた申し訳なさから、知らず知らず内にドリュウズに遠慮してたのかも知らない。

 

「それはドリュウズも同じかもね」

 

「……ドリュウズも?」

 

「うん。さっき言ったように、ドリュウズは少なくとも負けた頃とは君が違う事が分かっていた可能性がある」

 

 少し前から動くようになり、アイリスと何度も接しているからだ。

 

「もし、ドリュウズにも後ろめたさがあったとしたら――」

 

「彼もまた、キミに遠慮していたのかもしれないね」

 

「……そっか。あたしもドリュウズも、遠慮してたんだ」

 

 その事が可笑しくなったのか、アイリスはドリュウズが入ったモンスターボールを見て、ふと笑う。

 

「なぁ、アイリス。ドリュウズと向き合って見たらどうだ? 言いたい事を言い合って、ぶつけ合って。そうやって仲良くなるもんだろ?」

 

「……サトシらしい、単純な案よね~」

 

「な、なんだよ、それ!」

 

 折角言ったのに、アイリスにやれやれとされ、サトシは少し怒る。

 

 

「……でも、そうだよね。そうしなきゃ、なにも伝わらないもんね」

 

 言わなければ、届かない。届かなければ、伝わらない。それが常なのだ。

 

「あたし、決めた! 今日はドリュウズと向き合って見る!」

 

「頑張れ、アイリス!」

 

「やるからには、とことんね」

 

「きちんと話し合えば、お互いの気持ちは伝わる筈さ」

 

「はい!」

 

 その後の夜、アイリスは森にドリュウズといた。

 

「ドリュウズ、怪我はどう?」

 

「……リュズ」

 

 アイリスは怪我に効く塗り薬を塗りつつ、様子を確かめる。少し痛みはあるが、ドリュウズは問題なさそうだ。

 

「……え~と、ドリュウズ?」

 

「……リュズ?」

 

 アイリスは話そうとはするが、いざ対面すると中々話が出なかった。ドリュウズもだ。

 

「え~とえ~と……。あっ、そうだ! 昔話しましょ! モグリューの頃、毎日ケンカしてた時の事とか」

 

「……ドリュ」

 

 自分とアイリスの出会い話だけあり、ドリュウズも気になった。

 

「あたし、毎日毎日挑んでは返り討ちにされたんだけど……実はその後、勝とうと練習してたんだ~。知ってた?」

 

「……リュズ」

 

 そうなのかと、驚きの反応を期待していたアイリス。しかし、ドリュウズは知ってたと言いたげに頷く。

 

「……えっ、知ってたの?」

 

「……ドリュ」

 

 うんと、またドリュウズは頷いた。実は一回だけ偶々その様子を目撃したのだ。

 ちなみに、ケンカが理由とは言え、自分にまた会いに行こうとした事が嬉しかったのは秘密である。

 

「あはは、知ってたんだ……」

 

 驚かせようとしたのに失敗し、アイリスは少し恥ずかしくなった。

 

「……リュズズ」

 

 そんな彼女に、ドリュウズは微かだが笑った。

 

「……あっ、笑った」

 

「……!」

 

 アイリスに言われ、ドリュウズは気付いた様だ。

 

「久々に見たわ。……あの時以来よね」

 

「……ドリュ」

 

 シャガとのバトル以来、漸く笑ったのを見れた。ドリュウズも肯定する。

 

「……あの時までは全勝で、誰にも負けないって自惚れてて……その結果があの惨敗。……ごめんね」

 

「……!」

 

 アイリスの謝罪に、ドリュウズが強く反応した。

 

「あの後、意気地無しなんて思ったりもしたけど……それだったら、あたしは大馬鹿者よね。ドリュウズの気持ちに全く気付かなかったんだから。……本当にごめん」

 

「……リュズリュズ」

 

 また謝るアイリスに、ドリュウズは顔を左右に振る。

 彼女だけが悪い訳ではない。ドリュウズも薄々感付いていたのだ。アイリスが最近あの時の事に気付いたことや、旅の中で少しずつ成長していたのも。

 しかし、彼女が悪いのだと、こちらからは全く切り出さず、今までずっと待っていた。

 アイリスだって、初めての敗北で悔しかっただろう。だが、次の勝負に向かって前に進もうとしていた。

 なのに、自分は不信感を理由に殻に籠った――違う、言い訳にして逃げたのだ。あの時の恐怖と、それを感じた自分から。乗り越えようとは少しも考えかった。

 

「……リュズ」

 

 こっちこそ、ごめんとドリュウズは頭を下げた。

 

「あ、謝らないで、ドリュウズ! あたしが悪かったの!」

 

「ドリュリュ!」

 

 彼女達は互いに謝り合う。自分の方が悪かったと。

 

「――ぷっ、なんかおかしいわね、あたし達」

 

「リュズ」

 

 何回も何回も自分が悪い。その謝罪が繰り返されると、彼女達はそのおかしさに同時に笑い出した。

 

「じゃあ、こうしよっか。あたしも悪くて、ドリュウズも悪い。で、謝ったからこれでおしまい」

 

「リューズ」

 

 アイリスの案に、ドリュウズは首を縦に振った。

 

「――ドリュウズ」

 

「リュズ?」

 

「一から頑張ろ。昔の様に上手く行かなったとしても、何度失敗しても、一歩一歩確かに進めるように」

 

「――ドリュ」

 

 あぁと、笑顔でドリュウズは返し、アイリスも笑うと彼女達は手と手を重ねた。それは二人が完全に和解した証だった。

 

「じゃあ、今日は昔のように特訓しよっか! 今度はラングレーとツンベアーに勝つために!」

 

「リュズ!」

 

 リベンジに向け、アイリスとドリュウズは特訓をする事に。

 

「じゃあそうね~。昔みたいに今の技の特訓する?」

 

「リュズズ」

 

「違うのするの?」

 

「ドリュ」

 

 山ごもりの時と同じく、既存の技の特訓をアイリスは提案するが、ドリュウズは違うのをすると告げ、背を向ける。

 ドリュウズは両手を構え、その間に力を込めると不安定ながらある技になる。

 

「これ、きあいだま!」

 

「リュズ」

 

 そう、ズルッグも使う技、きあいだまだ。

 

「そう言えば、今まで遠距離攻撃出来る技って無かったわよね……」

 

 どろかけは少し離れた場所を攻撃する技なので、中距離技と言うべきだ。

 

「やろっか! きあいだま!」

 

「リュズ!」

 

 戦いの幅を増やすべく、きあいだまの特訓を開始する。

 

「ドリュウズ、きあいだま!」

 

「ドリュー……ウズッ!」

 

 再び闘気を球体にしていくが、形が安定せす、投げても軌道はフラフラ。とてもだが、使い物にならない。

 

「ダメね~……」

 

「リュズ……!」

 

「あっ、そう言えば……」

 

 どうしたものかと考え、アイリスはふとサトシとズルッグの特訓を思い出した。あれと同じ様にすれば上手く行くかも知れない。

 

「確か、サトシは……。――ドリュウズ! 先ずは形をしっかりさせる為にも、焦らずゆっくりと力を込めましょ」

 

「ドリュ! リュズー……」

 

 構えた両手の間で、闘気をゆっくりと込めて丸形を維持しながら、少しずつ大きくしていく。

 

「次は……。ドリュウズ! しっかりと踏ん張ってから投げる!」

 

「リュー……ズッ!」

 

 足に力を込め、確かに踏ん張ってから球を投擲。きあいだまは軌道もほとんど逸れずに、岩に命中する。

 

「やった! かなり良い感じよ!」

 

「ドリュ!」

 

 きあいだまの完成度が一気に高まり、アイリスとドリュウズは喜ぶ。ズルッグよりも基礎の能力があるため、後は技術が身に付ければ取得は難しくなかった。

 

「よ~し、この調子で続けるわよ~!」

 

「リューズ!」

 

 完成度は高まりはしたが、まだ完成ではない。最低でも実戦で難なく使える様、彼女達は練習を朝まで続けた。

 

「――まだ行ける? ドリュウズ?」

 

 

「ドリュ……ドリュ……! ――リュズ!」

 

 昨夜から朝までぶっ通しの特訓で、ドリュウズは疲労こそ蓄積していたが、やる気は微塵も衰えていなかった。

 

「きあいだま!」

 

「ドリュー……ズッ!」

 

 疲労を物ともしない気迫を素早く球にし、足をきちんと踏ん張って、腕をしっかりと振るう。きあいだまは歪みなく直進し、目標の岩に激突、吹き飛ばした。

 

「うんうん! 速さも狙いももうバッチリ! ほぼ完成ね!」

 

「リュズ!」

 

 一晩中鍛錬した甲斐もあり、きあいだまは実戦で使っても問題ないレベルに仕上がった。

 その事に、アイリスとドリュウズは手を繋いで喜び合う。

 

「――お疲れ様。アイリス、ドリュウズ」

 

「皆!?」

 

「一晩中頑張って疲れたろう」

 

「休んだらどうだい? 食事もデントくんが作ってくれてるよ」

 

「わぉ、最高! ドリュウズ、沢山食べるわよ!」

 

「ドリュ」

 

 特訓で腹ペコのアイリスとドリュウズは、サトシ達と朝ごはんを頂こうとするが。

 

「お、俺達の朝飯……」

 

「へ~え、あなた達のご飯だったの。でもまだ残ってるし、足りなかったら作れば良いじゃない」

 

 その朝食は、昨日のラングレーに一人分を除いて食べられていた。かなり大食いらしいが、四人分は流石に無理の様だ。

 

「あら? 昨日の負け犬のドリュウズちゃんがいるじゃない」

 

「リュズ……!」

 

 ドリュウズを見て、ラングレーは挑発的な笑みと台詞を出す。

 

「ねぇ。またツンベアーで勝負してくれない?」

 

「イ、ヤ、よ。――って言うのはウソ。アンタの驚く顔をちょっと見たかったの。良いわよ、受けて上げるわ」

 

 アイリスが再戦を提案。ラングレーは一旦断ると見せ掛けてから、意地悪な表情で受ける。

 

「あっでも、その前にご飯を食べさせてくれない? 昨日からの特訓で腹ペコで……」

 

「さっさと食べなさいよ。あぁでも、負けた言い訳には出来るし、そのまま戦った方が良いんじゃない?」

 

「今度は負けないわ!」

 

「そう。まっ、結果は同じでしょうけど」

 

 今度は負けないと告げるアイリスと、結果は変わらないと言うラングレー。食事も簡単に済ませ、二人は再戦を始める。

 

「ツンベアー、きりさく!」

 

「ドリュウズ、メタルクロー!」

 

「ベン!」

 

「リュズ! ――ドリュ!」

 

 爪と爪がぶつかり合い、ツンベアーが力の差でドリュウズを吹き飛ばす。

 

「つららおとし!」

 

「ベンツッ!」

 

「あなをほるでかわして!」

 

「リュズ!」

 

 つららおとしを昨日と同じく、あなをほるで地中に潜って回避する。

 

「またそれ? ――ツンベアー、地面にいわくだき!」

 

「ベン!」

 

「――リュズ!?」

 

「地面から引きずり出された!」

 

 ツンベアーはいわくだきの衝撃で、ドリュウズを地中から追い出す。

 

「回避もこなせて、どこから来るか分からない面倒な技。対策ぐらいするわ。――もう一度いわくだき!」

 

「ベンツッ!」

 

「リュズッ!」

 

「まだよ、ドリュウズ! きあいだま!」

 

「リュー、ズッ!」

 

「ベンーーーッ!」

 

 いわくだきで効果抜群の一撃を受けるドリュウズだが、直ぐに踏ん張って闘気を球にして投げて命中させる。ツンベアーも効果抜群の一撃を受けた。

 

「なるほど? 確かに昨日よりは出来そうね。――つららおとし!」

 

「ベンツッ!」

 

 ツンベアーは氷柱を、昨日の様にドリュウズの周りに落として包囲する。

 

「更につららおとし!」

 

「ベン!」

 

「地中に潜ってもダメ……! ならドリュウズ、メタルクロー!」

 

「リュズリュズ!」

 

 地中への回避は対応される。なら、技を直接防ぐしかない。メタルクローを振るい、氷柱を全て弾いた。

 

「どうよ!」

 

「リュズ!」

 

「それでつららおとしを攻略したつもり? ――甘いわよ! ツンベアー、つららおとし!」

 

「何度来てもメタルクローで――」

 

「大型よ!」

 

「えっ!?」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「デカイ!」

 

 冷気で氷柱を作り出すも、それは一つにした分、遥かに大きくなっていた。重力に従い、落ちてくるそれはメタルクローでは明らかに対応出来ない。

 

「ドリュウズ、きあいだま!」

 

「リュー、ズッ! ――リュズズ!」

 

「そんな!」

 

 闘気の球をぶつけるも、巨大な氷柱は砕けると大小様々な幾つもの氷柱となってドリュウズに降り注いだ。

 いわくだきの効果で防御力も下がった事もあり、かなりのダメージだ。

 

「残念でした~。そのつららおとしは砕いても、破片が氷柱になって相手にダメージを与えるのよ」

 

「厄介だな……」

 

 対応しなければ、大ダメージ。下手に迎撃しても、破片が降り注ぐ二段攻撃。となると回避しかないが、それも対応される。八方塞がりだ。

 

「怯みは出てないけど、問題ないわ。ツンベアー、また大型のつららおとしよ!」

 

「ベンー……!」

 

「来る……!」

 

 また食らえば、戦闘不能かそうでなくても窮地になるのは目に見えている。

 

(どうするの……! どうしたら……! サトシなら……!)

 

 必死に考える中、アイリスはサトシについて考える。彼はピンチの中でも、ひっくり返してきた。予想外の発想や相手の技を利用して。

 

(――技を利用?)

 

 そこでアイリスは、あるものに目が付いた。向こうが動きを封じる為に落とした氷柱に。

 

「ドリュウズ、メタルクローで氷柱をツンベアーに向かって跳ばして!」

 

「リュズ! ドリュリュ!」

 

「ベンツツ!?」

 

 鋼鉄の爪で、ドリュウズは氷柱をツンベアーに返す。

 

「こっちの氷柱をぶつけた!? けど、つららおとしは出来てるわ!」

 

 生成は中断されたが、技としては充分。氷柱がドリュウズに向かって落ちていく。

 

「ドリュウズ、ドリルライナー!」

 

「ドリュ、ウズーーーッ!」

 

「ベンーーーッ!」

 

 降り注ぐ氷柱を、ドリュウズは回転で弾きつつ、ツンベアーに突撃。かなりのダメージを与える。

 

「れいとうビーム!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「リュ、ズ……!?」

 

 ドリルライナーを受けつつも、ツンベアーはれいとうビームをドリュウズを氷付けにする。

 

「ツンベアー、きりさく!」

 

「ドリュウズ、きあいだまを破裂させて!」

 

「――リュズーーーッ!」

 

「ベンッ!」

 

 闘気を球にしてから敢えて破裂。その衝撃で氷が飛散、破片がツンベアーに迫り、怯ませる。

 

「メタルクロー!」

 

「ドリュ、ウズッ!」

 

「ベン、ツッ!」

 

 ドリュウズは鋼の爪を右、左の順に叩き込み、ツンベアーを後退させる。

 

「さっきよりも威力が上がってる。メタルクローの効果ね」

 

 これ以上攻撃が上がる前にここで決めると、ラングレーは止めの一撃を指示する。それは、アイリスもだ。

 

「ツンベアー、いわくだき!」

 

「ドリュウズ、ドリルライナー!」

 

「ベン、ツーーーッ!!」

 

「ドリュ、ウズーーーッ!!」

 

 岩を砕く拳と、螺旋の突撃がぶつかり合う。数秒の激突の後、回転しながらドリュウズは地面に倒れる。

 

「ふん。――なっ!?」

 

「ベン、ツ……」

 

「――リュズ!」

 

 勝ち誇った様子のラングレーだが、次の瞬間ツンベアーは倒れ、ドリュウズはフラフラながらも立ち上がった。

 

「ツンベアー、戦闘不能! よって、この勝負、アイリスの勝ち!」

 

「やったーーーっ!」

 

「リューズ!」

 

 リベンジを果たし、アイリスとドリュウズに近付き、抱き着いてから喜びの声を上げた。

 

「百勝目だよ、ドリュウズ!」

 

「リュズリュズ!」

 

 ラングレーとの再戦で見事百勝目になり、その事にもアイリスとドリュウズははしゃぐ。

 

「……くっ! ……まぁ、良いわ。ドラゴンタイプに負けた訳でも無いし、昨日は二回勝ってるしね」

 

 言い訳の様に告げるラングレーだが、間違ってはいない。彼女は昨日二勝しているのだから。

 

「だったら、もう二勝負しない?」

 

「……なんですって?」

 

「あたし、まだ二匹手持ちいるの。後二戦して、白黒はっきり着けようって言ってるの。どう?」

 

 後二戦し、二勝すればアイリスの逆転勝利。一戦でもラングレーが勝てば、彼女が勝った事がはっきり決まる。

 

「不利なのに?」

 

「けど、ドリュウズは勝ったわよ? それに負けたままで良いの?」

 

「分かったわ。受けるわ」

 

 挑発に乗り、ムッとしたラングレーはその案を受ける。最近ゲットしたあの手持ちとの一体感を高める目的もあった。

 

「次の二戦勝って、あたしの方が上だって事を思い知らせてあげる」

 

「じゃあ、早速二戦目と行こう。両者、構えて」

 

「ドリュウズ、ご苦労様。ゆっくり休んで」

 

「リュズ」

 

 アイリスはドリュウズを戻し、ラングレーの向かい側に立つ。

 

「……大丈夫かな?」

 

「どういう事だい、デントくん?」

 

「アイリスの残りの手持ちはキバゴと……」

 

「……あっ、エモンガ」

 

 キバゴはともかく、エモンガはバトル嫌いだ。まともに戦うかどうか怪しい。その事はアイリスも今頃心配していた。

 

(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……!)

 

 勢い良く挑戦を申し込みはしたが、頭は焦りで一杯。身体から冷や汗が大量に流れ出す。

 何しろ、エモンガが戦ってくれなければ不戦敗だ。どうにかして、バトルさせねばならない。

 

(でも、エモンガはコンテストの方が好き――あっ)

 

 頭を必死に絞ると、ポケモンコンテストの中に、エモンガをやる気にさせる可能性がある方法があった。この際、それに賭けるしかない。

 

「行くわよ、エモンガ!」

 

「――エモ!」

 

「エモンガ? 竜の里出身の癖に、ドラゴンタイプのポケモンがキバゴしかいないじゃない」

 

「別に良いでしょ! それよりエモンガ、今からバトルするんだけど――」

 

「エ~?」

 

 バトルと言われ、エモンガは不満気だ。

 

「な~に? そのエモンガ、バトル嫌いなの? それで戦えるの?」

 

「黙ってて! サトシ、デント!」

 

「どうした?」

 

「何だい?」

 

「前にコンテストの中に、特殊なルールのバトルがあるって言ってたでしょ?」

 

 その事を思い出し、あっとエモンガは呟いた。

 

「コンテストバトルだね」

 

「……コンテストバトル? なにそれ?」

 

「ボクも気になるかな」

 

 ポケモンコンテストを知らない為、ラングレーは首を傾げ、Nは尋ねた。

 

「あんたは知る必要ないでしょ。それでその特殊なバトルって事は、つまりコンテストでも戦うのよね?」

 

「あぁ、そうだぜ。時間制限とかあるけど、倒れたら負けは変わらないな」

 

 それだけ聞けば充分だ。知りたい事は知れたのだから。ちなみに、Nは結構気になるのか、後に詳細を聞こうかなと考えている。

 

「エモンガ、今の聞いた? ポケモンコンテストでも、バトルの強さはある程度必要なの。途中で倒れて負けるなんて、イヤでしょ?」

 

「……エモ」

 

 それは確かに嫌だ。やるからには最後までやりたい。

 

「だから、ポケモンバトルも頑張ろ! コンテストの練習だと思えば良いのよ」

 

「エモ!」

 

 ポケモンバトルではなく、コンテストの為の練習。そう聞いて、エモンガはやる気を出した。

 その様子にアイリスはよしと手を握る。これでバトルしてくれるはずだ。

 

「さぁ良いわよ!」

 

「やれやれ、やっと? 全く、ポケモンコンテストが何なのかは知らないけど、これはあたしとアンタのポケモンバトルって事は忘れないでよ」

 

「わ、分かってるってば」

 

「じゃあ、あたしの二匹目よ。出でよ――ユキメノコ!」

 

「――メノ!」

 

 ラングレーが繰り出したのは、頭に二つある氷塊の突起、白と橙の振袖を纏い、頭から垂れ下がっている腕が特徴の雪女に見えるポケモンだった。

 


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