ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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ヒウンジム戦、後編

「行きますよ! ポカブ、ひのこ!」

 

「ホイーガ、避けてころがる」

 

「ポカーーーッ!」

 

「イーガ!」

 

 鼻から放たれた火の粉を、ホイーガはかわすと回転。速さを少しずつ上げながら、ポカブに向かって突き進む。

 

「かわせ! そして、ニトロチャージ!」

 

「ポカポカポカ……カーブーーーッ!」

 

「右に。そして、転回だ」

 

「ホイッ!」

 

 ポカブがニトロチャージが迫るもかわされ、ホイーガのころがるも速さが上がったポカブにかわされる。

 

「互いに速くなってる!」

 

「高速戦か」

 

 速さを上げるニトロチャージ。速さが上がっていくころがる。

 ただ、二つの技には一つ違いある。ころがるはニトロチャージと違い、技の使用中しか速くならない。

 突破口を見出だすのならばそこから。どうにか動きを止めれば一気に勝機に繋がる。

 

「更にニトロチャージ!」

 

「ころがるを続けるんだ」

 

「カブーーー!」

 

「イーガッ!」

 

 互いの技により、二体の速さが更に増していく。そんな均衡がしばらく続くと、サトシの方が先に動いた。

 

「ポカブ、距離を取れ! そして、溜めるんだ!」

 

「ポカ!」

 

 幾度のころがるを避け、ホイーガから大きく距離を取ると、待ち構える。

 

(狙うは……!)

 

 ころがるを避けた直後。そこをギリギリでかわし、広範囲技のねっぷうで鈍らせ、次にひのこに繋げて大ダメージを与える。

 

「ホイーガ」

 

「ホイ!」

 

「来るぞ!」

 

「ポカ!」

 

 迫るホイーガ。サトシはタイミングを見計らい、指示を出す。

 

「ギリギリでかわせ!」

 

「ポカ――」

 

「ホイーガ、横に回転!」

 

「イガァ!」

 

「カブーーーーッ!?」

 

 ギリギリで避けようとするポカブ。しかし、その寸前でホイーガが横に猛回転し、ポカブに激突。効果抜群のダメージをぶつけた。

 

「しまった!」

 

 ホイーガの身体は円形ではなく、分厚いタイヤの形状。つまり、横に回転すれば、一気に範囲が広がるのだ。

 

「ホイーガ、ハードローラー!」

 

 横回転から止まったホイーガは、再度回転してポカブに迫る。

 

「ポカブ、地面にねっぷうでジャンプ!」

 

「ポカーーーッ!」

 

「ホイッ!? ガァッ!」

 

 ハードローラーをねっぷうの風で跳躍、更に突っ込んできたホイーガにダメージを与えた。

 

「ポカブ、ひのこ!」

 

「ホイーガ、どくばり!」

 

「ポカーーーッ!」

 

「ホイーーーッ!」

 

 火の粉と毒針が激突。お互いの技を打ち消し合い、煙が発生する。

 

「ホイーガ、ころがる!」

 

「ポカブ、たいあたり!」

 

「イーガ!」

 

「ポカァ!」

 

「えっ、ニトロチャージじゃない?」

 

「どうして?」

 

 転がり出したホイーガに対し、サトシはポカブにニトロチャージではなくたいあたりを指示する。

 

「ニトロチャージはたいあたりと違って、技の発動までに間がある。ころがるがその間に威力を上がるのを避けようと、たいあたりにしたんだろうね」

 

 今のポカブは、ニトロチャージの効果でかなり素早くなっている。その分、たいあたりも多少だが威力は上がっている。ころがるを潰すには最適だ。

 

「良い判断だ。だが――ホイーガ、てっぺき!」

 

「ホイッ! ガーーッ!」

 

「ポカーーーッ!」

 

「ポカブ!」

 

 ころがるの出を潰そうとしたサトシとポカブだが、ホイーガは速さは落ち出したが防御力を大きく上昇。その防御力が攻撃力となり、ポカブは吹き飛ばされた。

 

「てっぺきが攻撃技みたいに……!」

 

「そう、防御技を攻撃技の様に、防御を攻撃にする。名付けるならば、アタックシールドだね」

 

「アタックシールド……!」

 

「さぁ、これはどう攻略するかな?」

 

 ハイシールドに続く、第二のカウンターシールドの派生。ハイシールドが防御を更に固める技術なら、アタックシールドは防御で攻撃を高める正反対の技術。次はこれを攻略しなければならない。

 

「大丈夫か……?」

 

「相性は有利なのに……」

 

「ポカブのレベルが低いのか?」

 

 人々の声の一つ、ポカブに関してにカチンと腹立つも、頭をブンブンと振ってアーティの方を見る。

 

「ホイーガ、ころがる」

 

「ニトロチャージで速度を更に上げろ!」

 

「ホイッ!」

 

「ポカ!」

 

 再度ニトロチャージところがるの高速戦に突入する二匹。それを眺めながら、サトシは考える。

 アタックシールドは前の技や動作を上手く使うことで、防御を攻撃にした技術。

 つまり、破るにはころがるやホイーガの動きを攻略しないとならない。真正面から押し負ける以上、手は自ずと決まる。

 

「ポカブ! 離れて力を溜めろ!」

 

 先程の様にスピードを活かして距離を取り、ポカブはホイーガを待ち構える。

 

「ふむ。ホイーガ、ころがる」

 

 訝しむアーティだが、敢えて同じ行動を取る。ジムリーダーとして、挑戦者の誘いに乗ったのだ。

 

「ポカブ、そこだ!」

 

「――ホイーガ、そこで急停止」

 

 ポカブが技を放とうとした瞬間、ホイーガが急停止する。ねっぷうを注意してだが、次に使った技はねっぷうではない。

 

「全力でひのこ!」

 

「そう来たか。ホイーガ、どくばり!」

 

「地面に!」

 

 停止を誘発させ、その隙にひのこをぶつけると思いきや、ポカブはサトシの指示で足元に発射。大きな爆発が発生して小さなクレーターが出来、跳躍したポカブはどくばりをかわす。

 

(またこのパターン……)

 

 多少違うだけで、この展開は先程と同じ。おかしいと感じるアーティだが、最善と判断した指示を出す。

 

「ホイーガ、着地のタイミングを見計らって――ハードローラー!」

 

 落下したポカブに向かって、回転し出したホイーガ。着地した瞬間に当たると思ったが。

 

「ポカブ、身体の力を抜きながら、着地と同時に身体を捻れ!」

 

「――ポカ!」

 

 指示に従い、ポカブは身体の力を抜き、捻る。すると、ポカブはクレーターに転がり、更に捻りによって後ろにではなく横にカーブするように動いてハードローラーを回避した。しかも、ホイーガが目の前にいる状態になる。

 

「なんと!?」

 

「今だ、たいあたり!」

 

「ポカ!」

 

 素早くクレーターを蹴り、ポカブはホイーガに横から激突。ホイーガは面の部分から倒れた。

 

「不味い!」

 

 面の部分から倒れると、球状ではないホイーガは上手く動けなくなる。そして、これがサトシの狙いだった。

 

「これを待っていました! ポカブ、ひのこ!」

 

「ポカーーーッ!」

 

「ホイーーーッ! ――イガッ!」

 

 火の粉を諸に食らい、ホイーガは吹き飛ぶもそれを利用して体勢を建て直す。

 

「くっ、一気には無理か……!」

 

「当然さ。ただ、今のでかなり体力は削られたよ。まぁ――それはポカブもだけどね」

 

「ポ、カ……!」

 

 ポカブの身体から、紫色の泡が出ている。毒になったのだ。

 

「特性、どくのトゲ……」

 

「正解」

 

 ホイーガはフシデの進化系。ならば、フシデと同じ特性を持っているのが普通。

 サトシもその事は考慮していたが、だからと言ってアーティは直接攻撃を控えて倒せる相手ではない。やむを得ないだろう。

 

(それより……)

 

 ポカブもホイーガも余裕はない。しかも、こちらは毒状態。

 

(……行けるか?)

 

 まだ発動していないが、もうか状態ならアタックシールドを正面から打ち破る可能性がある。

 しかし、正直厳しいと直感的に悟っていた。ホイーガはてっぺきがあるからだ。

 だが、これ以外に防御を攻撃にするアタックシールドを突破する方法が――

 

(……待てよ?)

 

 あるかもしれない。アタックシールドを攻略する方法が。

 

「――ポカブ、次で決めるぞ!」

 

「ポカ!」

 

「最後の勝負かな? 良いだろう、受けて立とう」

 

 それが、ジムリーダーの役目なのだから。

 

「ポカブ、ニトロチャージ!」

 

「ホイーガ、ころがる!」

 

「ポー……カーーーッ!」

 

「ホー……イーーーッ!」

 

「お互いに真正面から!」

 

「けど、アーティさんにはさっきのアタックシールドがある……」

 

 真っ向勝負では、押し負けてしまう。もうかが発動していないこの状態では尚更だ。一か八かか、それとも。

 

「今だ、ホイーガ! てっぺき!」

 

 炎の突撃と回転の突撃がもうすぐぶつかろうとする。その瞬間にホイーガがてっぺきにより、防御力が更に向上した。

 

「今だ、ポカブ全力で下がれ!」

 

「ポカ! カブ――ブッ!」

 

 猛加速を、ポカブは足に力を込めて地面に痕を残しながら無理矢理止まり――一気に下がってアタックシールドをかわす。

 

「ここで下がった? 何故――」

 

 訝しむアーティだが、直後ホイーガの回転が減速し出した。それを見て、まさかとアーティが思うと同時に、サトシがニヤリと笑う。

 

(やっぱりだ!)

 

 アタックシールドは技や動作を活かすことで、防御を攻撃にする。要するに、あくまで防御が主の行動であり、使った瞬間から『攻撃ではなくなる』。

 となれば当然、動きは鈍くなり出し、威力は下がって行く。それこそが、アタックシールドの唯一の欠点。

 

「ポカブ、今度こそ決めるぞ! ニトロチャージ!」

 

「ポカポカポカ……カーブーーーーーッ!!」

 

「ホイーガーーーッ!!」

 

 回転がほとんど無くなり、攻撃力を失ったホイーガに炎の突撃が炸裂。ホイーガは吹っ飛ぶと――面から横になって倒れた。

 

「ホイーガ、戦闘不能! ポカブの勝ち!」

 

「ポカーーーッ!」

 

「良くやった、ポカブ!」

 

 イシズマイに続き、ホイーガも撃破し、サトシとポカブは叫んだ。

 

「これでアーティさんは後一体!」

 

「サトシはまだ三体のままだけど……」

 

 ハトーボーと同じく、ポカブもかなり消耗した上に毒状態にまでなっている。やはり、有利とは言えない。

 

「ポカブ、戻ってくれ」

 

「ホイーガ、ご苦労様」

 

 二人は互いのポケモンを、モンスターボールに戻す。

 

「サトシ兄ちゃん、つよ~い!」

 

「ハトーボーもポカブもすご~い!」

 

「よく鍛えられてるわ」

 

「それに、サトシ君の力量もじゃが、ハトーボーやポカブの頑張りも見事じゃのう」

 

「すげえな……!」

 

「あぁ、続けてアーティさんのポケモンを倒すなんて……!」

 

「流石、英雄だ!」

 

「……」

 

 保育園の先生や子供達の声にサトシは少し喜ぶも、その後の人々の言葉にまた少し苛立つ。しかし、今はジム戦だと払ってアーティに集中する。

 

「やれやれ、ハイシールドもアタックシールドも攻略されてしまったか。折角、頑張って考案したのにね」

 

 相手が元々の技術であるカウンターシールドの発案者なので無理もないが、それでも攻略されるのは残念である。

 

「じゃあ、僕の最後の一体と行こうか。――出てこい、ハハコモリ!」

 

「ハッハーーーン!」

 

 アーティが繰り出したのは、ヤグルマの森で彼で見せたハハコモリだ。

 

「出てきたな、ハハコモリ」

 

 かなり苦労はしたが、予定通りだ。

 

「さぁ、君は何を繰り出す? ハトーボー? それとも、最後の一体かい?」

 

「最後の一体です。――クルミル、君に決めた!」

 

「クルル!」

 

「ハハン……」

 

 サトシが繰り出した最後の一体は、クルミルだった。

 

「ほう、そのクルミルか。何故そいつに?」

 

「メンバーを選んでる時に、コイツがアーティさんやハハコモリと戦いたいって張り切ったんです」

 

「クルルル!」

 

 その通りとクルミルは頷く。アーティと勝負すると聞いた時、クルミルが申し出たのだ。アーティと、それもハハコモリと戦いたいと。

 親しい相手だからこそ、戦って勝ちたい。また最終進化系を前に闘争心を刺激されたのだ。サトシはその意志を汲み、三体目に選んだ。

 

「サトシらしいなあ」

 

「でも、決して悪い選択ではありませんね」

 

 クルミルもハハコモリも互いに弱点を突け、相手の攻撃を半減出来るタイプだ。チョイスとしては悪くない。

 

「君と僕の勝負を決めるには中々良いね」

 

 ヤグルマの森で出会った自分とサトシ。その切欠であるクルミル。彼等を助けたハハコモリ。自分達の戦いを決めるには、これ以上ないチョイスだ。

 

(これで決める)

 

 ハトーボー、ポカブは残っているとは言え、かなり疲弊している。この勝負の戦況次第では一気に敗北も有り得る。クルミルで決着を決める。それぐらいの覚悟で戦わねばならない。

 

「さぁ、行くよ。ハハコモリ、にほんばれ」

 

「ハッハーーーン」

 

 ハハコモリは両手を掲げ、その間から熱と光の塊を展開。上空へと発射する。発射された塊から、強い日差しがセントラルエリアに降り注ぐ。

 

「にほんばれ……!」

 

「おー、アーティさんやる気満々だな」

 

 ポッドも同じ技を扱うが、戦術は異なる。彼はそれを知っていた。

 

「ハハコモリ――れんぞくぎり!」

 

「――ハハン! ハンッ!」

 

「クル!? ――クルルーーーッ!」

 

 ハハコモリが地面を蹴った。すると、直ぐ様クルミルの手前に移動し、腕のカッターを素早く切り付けると、バックステップして距離を取る。

 

「何あの速さ!」

 

「まるで、こうそくいどうしたピカチュウみたい……!」

 

「僕のハハコモリの特性は、ようりょくそ。天気が日差しが強い時、素早さが大幅に増すのさ」

 

「ようりょくそ……!」

 

 確か、カベルネが自分に合うクルミルの特性と言っていた。

 

「そっちが速さを上げるなら――封じるだけです! クルミル、いとをはく」

 

「クルルーーーッ!」

 

「だよね。では、早速見てもらおうか。――ハハコモリ、やるんだ!」

 

「ハッハーーーン!」

 

 ハハコモリが糸を吐きながら、回転する。すると、粘着性の糸が渦を巻くように展開され、クルミルの糸と引っ付く。

 

「引っ張るんだ!」

 

「ハハン!」

 

「クルーーーッ!?」

 

「クルミル!」

 

 ハハコモリが手のカッターに糸を引っ掛け、グイっと引っ張ってクルミルごとブンブンと振り回す。

 

「地面に叩き付けろ、ハハコモリ!」

 

「ハーーーン!」

 

「クルルーーーッ!」

 

 ハハコモリは遠心力を付け、クルミルを地面に叩き付けてダメージを与えた。その際、糸が外れ、クルミルは脱出する。

 

「クル……!」

 

「今のも……!」

 

「ハイシールド、アタックシールドに続く第三の派生。名付けるなら、バインドシールドかな?」

 

「バインドシールド……!」

 

 攻防を同時に行なうカウンターシールドと違い、防御と拘束を同時に行なう技術。

 

「これまた厄介だね……」

 

 技を広く放つカウンターシールドと、敵の自由を奪う技はかなり相性が良い。バインドシールドこそ、正にその証明だ。最後の最後に、またしてもとんでもない強敵が出た。

 

「シュ、シューティー……。このアーティさんに勝ったの?」

 

「い、いや。僕の時はアーティさん、あんな技は使っていない」

 

 三つのカウンターシールドの派生を使うあのアーティを倒したのかとアイリスは尋ねるも、シューティーは否定する。

 ハイシールド、アタックシールド、バインドシールド。自分とのジム戦では、どれか一つすら使っていない。

 と言うか、使われていれば、対応仕切れずに敗北していただろう。要するに、今のアーティは自分の時よりも強い。

 

「さぁ、ようりょくそによる速さ、バインドシールド。この二つの戦術をどう攻略する? サトシ君、クルミル」

 

「ハハン」

 

「くっ……!」

 

「クル……!」

 

 アーティ達が強敵なのは分かっていた。しかし、これ程とは思わず、サトシはつい息を飲む。

 

「へへっ……!」

 

 だが、次の一瞬にはサトシは笑みを浮かべていた。アーティとハハコモリの強さに、燃えてきたのだ。

 

「クルミル、俺すっげぇ燃えてる。お前はどうだ?」

 

「――クルル!」

 

 そして、サトシ同様に、クルミルも燃えていた。強いからこそ、勝ちたいと。

 

「打ち破ります。そして、勝つ!」

 

「良い答えだ! ハハコモリ、ソーラービーム!」

 

「ハー……ハーーーン!」

 

 太陽の光をチャージし、ビームとして打ち出す。通常は溜めるのに時間が掛かるが、日差しが強いために素早く放てる。

 

「クルミル、かわしてはっぱカッター!」

 

「クル! クルルルッ!」

 

「れんぞくぎりで切り裂くんだ」

 

「ハハハハン!」

 

 クルミルはソーラービームをかわし、反撃に無数のはっぱカッターを発射。しかし、それはハハコモリのれんぞくぎりで全て切り落とされた。

 

「更にれんぞくぎり!」

 

「たいあたり!」

 

「クルーーーッ!」

 

「ハハン!」

 

 れんぞくぎりはその名の通り、連続で使うと威力が増す。その上がった威力を叩き込もうとしたハハコモリだが、その前にクルミルのたいあたりをカウンターで食らわされた。

 

「まだだ! クルミル、むしくい!」

 

「クル! ――クルルルルッ!」

 

「ハハッ……!」

 

 怯んだ隙に頭に飛び乗り、虫の力を込めた噛み付きを連続で浴びせる。

 

「――離れるんだ!」

 

 同じ台詞に、最初と最終進化系のポケモンが同時に距離を取る。

 

「速さを利用させてもらいました」

 

「やるね」

 

 速いのなら、向こうから来るのを待てば良い。単純だが有効だ。それに、移動しながら使えるたいあたりと違って、れんぞくぎりは移動してから腕を振る動作が必要になる。その差がクルミルのたいあたりを決めたのだ。

 

「速さに翻弄されず、しっかりと対応している。見事だ」

 

「熱さを持ちながらも、的確な指示を出す冷たさをも兼ね備えている」

 

「ふふふ、ハーデリアの速さに対応した時を思い出したよ」

 

 シャガやハチクが感心する中、アロエは最初のジム戦を思い出していた。

 

「ふむ、速さで押すのは危ないね。いとをはく!」

 

「はっぱカッター!」

 

「――やっぱり、そう来たね」

 

 斬撃の技であるはっぱカッターなら、粘着性の糸を切断しながら反撃も可能だ。バインドシールド対策の為にも、そう来るとアーティは確信していた。

 

「ところでサトシ君、知っているかい? 刃物は――刃でないと物を斬れないと言う事をね。ハハコモリ、低く構えてからのバインドシールド!」

 

「ハッハン!」

 

 腰を低くし、そこからバインドシールドを展開。すると、糸は切れずにはっぱカッターを刃の葉の面から絡み取る。

 

「はっぱカッターが……!」

 

「クルル……」

 

「ふふふ、見事だろう? だけど、これで終わりじゃないよ?」

 

「クルミル、避けろ!」

 

 ハハコモリはまだ回転している。渦巻き状に展開されたバインドシールドがこちらに迫っていた。クルミルが避ける中、サトシはバインドシールドの攻略法を探す。

 バインドシールドはカウンターシールドから攻撃の代わりに拘束に変更した技。つまり、弱点もほぼ同じく一点に弱い。

 ただ、クルミルには一点への強力な攻撃がない。なので、この弱点は突けない。違う方向から攻略する必要がある。

 

(けど、はっぱカッターじゃムリだし……)

 

 かといって、いとをはくで対抗しようにも、向こうの糸でくっつけられてしまう。

 

(……くっつく? そうか!)

 

 バインドシールドの最大の特徴。それこそに突破口がある事にサトシは気付いた。

 

「クルミル、ジャンプだ!」

 

「クル!」

 

「うん?」

 

 迫る糸を、クルミルは大ジャンプでかわす。その事にアーティは首を傾げる。

 ジャンプはバインドシールドにとって最大の狙い目。なのに、わざわざした。

 

「……ハハコモリ、やれ!」

 

「ハーーン!」

 

 アーティの指示で、糸を宙にいるクルミルに向かう。

 

「今だ、クルミル! いとをはくで一気に着地しろ!」

 

「クル! ――クルル!」

 

「むしくい!」

 

 糸を使い、クルミルは宙から地面へと一気に移動。そこからむしくいを叩き込もうとする。

 

「ハハコモリ、糸を振り――」

 

 下ろせと言おうとしたアーティだが、そこで気付いた。このまま落とすと、糸が地面にくっついてしまい、操れなくなる。

 

「なるほど、これを狙って」

 

「地面にくっついたら動かせませんからね!」

 

 糸の粘着力こそ、最大の武器であり、欠点でもあるのだ。

 

「ならこうしよう。ハハコモリ、右にだ! そして、移動!」

 

「ハン! ハハン!」

 

 アーティはハハコモリに糸を右に動かし、地面に付けた後、引っ張ってむしくいをかわしながら移動する。先ほどのクルミルと同じやり方だ。

 次に、ようりょくそで増したスピードでクルミルとの距離を詰めた。

 

「れんぞくぎり」

 

「ハン! ハハン! ハハハンッ!」

 

「クル! クルル! クルルーーーッ!」

 

 はっぱカッターを打った後を狙い、れんぞくぎりを連続で浴びせる。効果抜群により、ダメージは大きい。

 

「残念だったね。こっちも糸の使い方には詳しいんだ」

 

 何しろ、自分の切札であるハハコモリの得意技なのだから。

 

「クルミル、いとをはく!」

 

「ハハコモリ、糸を腕に引っ掛けて引っ張れ!」

 

「ハン! ハーン!」

 

「クルッ!?」

 

 近距離から絡めようと糸を吐く。しかし、ハハコモリは吐かれた糸を身体を捻って上手く避け、腕に敢えて付けて引っ張る。

 

「もう一度回して――」

 

「はっぱカッター!」

 

 そこからクルミルを回して叩き付けようとしたハハコモリだが、クルミルが不安定ながら無数の葉を発射。

 今度は糸を切りながらハハコモリに微かだがダメージを与え、クルミルは離れていく。

 

「ソーラービーム!」

 

「ハー……ハンーーーッ!」

 

「はっぱカッターだ!」

 

「クルーーーッ! ――クルルーーーッ!」

 

 しかし、クルミルは無理矢理動かされたせいで宙に浮いていく。そこをハハコモリは太陽の光を溜め、そして着地の場所を狙って発射。

 クルミルははっぱカッターで迎撃するが、二匹の能力と技の威力、一点と連射型の差からソーラービームに容易く打ち消され、吹き飛んだ。

 

「クルミル!」

 

「ク、ル……!」

 

 効果今一つでも、今までのダメージの蓄積や草タイプ最高クラスの大技なだけあり、クルミルには痛い一撃。かなり追い込まれていた。

 

「まだ立ち上がれたか。だけど、その分では後一撃と言った所かな?」

 

 その読みは正しく、クルミルの体力は残り少ない。後一発で倒れるのは確かだ。

 

「かなりピンチだな……」

 

「やっぱり、進化前で最終進化系に勝つなんて無理があるわね……」

 

「あぁ、このまま一気に追い込まれるかもな……」

 

 無視。とにかく無視とサトシは深呼吸して落ち着かせる。ここからは一瞬も油断出来ない。余計な事を考える暇はなかった。

 

「追い込まれたね、サトシ君、クルミル?」

 

「えぇ、でも――ピンチはチャンスです」

 

「――クルルーーーッ!」

 

「むしのしらせか」

 

 追い込まれたクルミルの身体から、玉虫色のオーラが漂い出す。特性、むしのしらせの発動だ。

 

「だが、それを発揮させる気はないよ。ハハコモリ、バインドシールド」

 

「ハッハーーーン!」

 

「やっぱりか……!」

 

 三度目のバインドシールド。二度に渡って大きなダメージを与えられたが、今度はそうは行かない。もう一つの欠点を突く。

 

「クルミル――避けるな!」

 

「クル!? ……クル!」

 

「な、何!?」

 

 バインドシールドに対し、サトシが取ったのは――敢えて受けるだった。誰もが驚く中、クルミルはハハコモリの糸を受ける。

 

「……ハハコモリ、引っ張るんだ!」

 

「今だ、クルミル! 走れ!」

 

「ハン!」

 

「クル!」

 

 くっついた糸から引っ張られた時の加速と、クルミルのダッシュ。それが合わさり、クルミルはとんでもない動きを描く。

 ハハコモリの周囲を高速で周り出した。糸がひっついたまま。すると、どうなったか。ハハコモリの糸が自分の全身にまとわりついたのだ。

 

「ハッ、ハハン!?」

 

「な、何と!?」

 

「利用させてもらいましたよ、その糸を! クルミル、はっぱカッターで自分についた糸だけを切れ!」

 

「クルル!」

 

「むしくい!」

 

「クルルルルルッ!」

 

「ハハン……!」

 

 糸をはっぱカッターで切断し、クルミルは自由が封じられたハハコモリの頭にむしくいを叩き込む。

 特性、むしのしらせで強化されたその技は強化されており、ハハコモリに大きなダメージを与えていく。

 

「ハハコモリ、ソーラービームの熱で糸を焼いて、そこから引き千切るんだ!」

 

「ハハーーーン……! ――ハン!」

 

「クル!」

 

 だが、このまま倒されるつもりはアーティもハハコモリも全くない。糸を腕に溜めたソーラービームの熱で焼失させ、そこから引き千切るとクルミルを地面に叩き落とす。

 

「ハハコモリ、れんぞくぎり!」

 

「クルミル、カウンターシールド!」

 

「クルルルーーーッ!」

 

「ハハーーーン!」

 

 止めのれんぞくぎりを放とうとしたハハコモリだが、クルミルが叩き付けられた体勢――背を地面に付けて体勢で回転しながらはっぱカッターを放ち、反撃のダメージを浴びせられる。

 

「クルミル、たいあたり!」

 

 

「クルルーーーッ!!」

 

「ハッハーーーン!」

 

「ハハコモリ!」

 

 ありったけの力を込め、クルミルは渾身のたいあたりをぶつける。それを受けたハハコモリは、ぐらっと身体を揺らすと――そのまま倒れた。

 

「ハ……ハン……」

 

「ハハコモリ、戦闘不能! クルミルの勝ち! 同時に、ジムリーダーの手持ち全て倒れた事により――チャレンジャーの勝利!」

 

「勝ったーーーっ!」

 

「クルルーーーッ!」

 

 ジムリーダー、アーティを撃破し、サトシとクルミルは勝利の歓声を上げる。

 

「ほー、一体も倒されずに勝つとは。見事な実力ですねえ」

 

「えぇ、本当に」

 

 アクロマとゲーチスが、サトシの力量を素直に認める。

 総合的なダメージだけで考えると二体は倒されているのだが、それでも三つの戦術を扱うアーティと戦い、最終的な結果は一体も倒されてないので見事と言えるだろう。

 Nも口には出さないが誉めていた。但し、彼はポケモン達を含めてだが。

 

「すげぇ、クルミルでハハコモリを撃破した!」

 

「やっぱり英雄の手持ちだけあるわね!」

 

「それに、英雄の指示あってだな!」

 

「……」

 

「――サトシ君」

 

 ムッとするサトシだが、アーティに呼ばれて彼の方を見る。

 

「やられたよ。まさか、糸を逆に利用してこちらの動きを封じるとは」

 

 自分がした事を、やり返されるとはどうして思わなかったのか。そこが人の限界なのかもしれない。

 

「まだまだ純情ハートが足りないと言う事か。まぁ、それはともかく――君の勝ちだ。受け取りたまえ、これが僕に勝った証、ビートルバッジだ」

 

「ビートルバッジ……ゲットだぜ!」

 

「ハトーーーッ!」

 

「ポカァ!」

 

「クルルッ!」

 

 アーティから差し出された虫の羽の形にした、金と玉虫色のバッジ、ビートルバッジをサトシは受け取ると決め台詞と共に構え、勝利に貢献した三匹も喜びの声を上げた。

 同時に人々からも歓声の声が上がる。二人の勝負に、現状を忘れる程にヒートアップしたのだ。

 

「――皆、聞いてくれ」

 

 その熱を損なわない様に、尚且つ染み込むように声が伝わり、一人の男性がサトシ達の元に近寄る。ヒウンシティの市長だ。

 

「今回、ヒウンシティはかつてない損害を受けた」

 

 都市機能は完全に麻痺し、イッシュ地方全体の損害になるほどの惨事に見舞われてしまった。

 

「しかし、我々が諦めない限り、必ず復興すると私は信じている。このヒウンシティを立て直すためにも、どうか力を貸して欲しい!」

 

「とても大変な道ではあるだろう。どれだけ時間が掛かるか分からない。だが、復興の道を共に歩んで欲しい! ヒウンシティ、率いてはイッシュ地方の為に!」

 

 市長とアーティの言葉を聞き、人々の心に奮い起ち、腕を振り上げながら一斉に声が上がる。それは二人の言葉に賛同し、復興の道を歩むと言う意志の証明だった。

 

「あの、アーティさん。もしかして、これもジム戦をした理由……?」

 

「隠していて済まないね、サトシ君。だけど、これぐらいしないとダメと考えたんだ」

 

 何しろ、復興と言うのは途方もない苦労や多大な時間を有する。高い意識がなければとてもだが出来る事ではない。

 だからこそ、自分達のバトルで気持ちを沸かせ、その勢いのまま復興への決心へと繋げたかった。

 

「怒った、かな?」

 

「いえ。アーティさんもヒウンシティやイッシュ地方の為にそうしたんですよね? だったら仕方ないです。寧ろ、力になれて良かったですよ」

 

「――ありがとう」

 

 そう言ってくれたサトシに、アーティは心の底から礼を述べる。英雄としての色々な言葉を掛けられたにもかかわらず、彼はこう言ってくれたのだから。

 二人は人々を見渡す。彼等の視線の先では人々はまだ声を上げており、暫し止むことは無かった。

 

 

 

 

 

「ワルビ」

 

「……」

 

 ヒウンシティの北にある荒野。そこを二体のポケモンが歩く。ワルビルとオノノクスだ。

 騒動も一段落し、トレーナー達に捕まらない為にも、二体は野を歩いていた。

 

『あー、あの後、サトシやピカチュウ、どうなったのかなー』

 

『さあな。ただ、お前に心配するほど彼等は弱くはあるまい』

 

 ただ、その為にワルビルは自分が狙うサトシやピカチュウの現状を知らない。なので、心配していたがオノノクスは大丈夫だろうと語る。

 

『旦那はそう思うのかい?』

 

『あぁ、強い彼等の事だ。我々が心配せずとも、立派に進む。寧ろ、余計なお世話だろう』

 

『それもそうか……』

 

 確かにサトシやピカチュウは強い。彼等はしっかりと進むだろう。もし、苦境に立とうが側にいる仲間が支えてくれるに違いない。

 ワルビルもオノノクスも、サトシの仲間を僅かながらもしっかりと見たことがあるのでそう思っていた。

 

『他者の心配より、自分が強くなる事を考えるのだな』

 

『そうしますー』

 

『行くぞ』

 

『うーす』

 

 意見も纏まり、師弟の二匹は旅を再開した。一方は強くなるために。一方は強さを確かめるために。

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

「どうしたんだい?」

 

 ジム戦から少し経ち、ポケモンセンターで手当をしている最中、サトシは何とも言えない表情で唸っていた。

 

「いや、英雄ってさ……何なのかって思ってさ」

 

「どういう事?」

 

「街の人々、勝ったのは俺のおかげとかばっか言っててさ。……正直、イヤだったな」

 

 アーティの前では、ヒウンシティの人々の事を考えて言い出せなかった。

 

「ハトーボーもポカブもクルミルも頑張ったのに」

 

 なのに、誉められるのは自分だけ。いや、例えポケモン達が誉められても、自分のポケモンだからとかである。結局、自分が中心なのだ。正直、嬉しくなかった。

 

「皆だってさ、仲間が頑張ったのに自分だけが誉められたのは嫌だろ?」

「わたしはイヤだな~。皆は?」

 

「……」

 

「そ、そうね、いやね」

 

「え、えぇ」

 

 英雄、いやそれ以外の立場でも賞賛を受けた時を想像し、純粋に嫌だと感じたベル、そうなった場合、嬉しくはあるが、同時にサトシとの差に感じて何も言えないシューティー、無言で見るデント、言葉を合わせたアイリスやカベルネ。彼等は様々な態度を取っていた。

 

「サトシ」

 

「なんだ、デント?」

 

「イヤなら、イヤで良いと思うよ。ただ――」

 

「ただ?」

 

「残念だけど、そう言う声援は立場がある人物には付き物なのが常。僕もジムリーダーだったしね」

 

 デントにも、そう言う声援があったのだとサトシは理解した。

 

「だけど、彼等も悪意があるわけじゃないんだ。……まぁ、だからこそ、一層来るかも知れないけどね」

 

 悪意がない分、返って傷付くケースもある。

 

「ただ、彼等が純粋に応援してるのは確かだし、英雄としてじゃなく、サトシ本人やポケモンを応援している人がいるのも確かだ。そんな彼等の声には応えても良いんじゃないかな?」

 

 保育園の人々や、アララギやマコモ、ショウロ姉妹はサトシだけでなく、ポケモン達の頑張りも誉めていた。

 

「応える、か……。けどさ……」

 

「それだと、自分や仲間の為にバトルする訳じゃなくなる。こんなところかな?」

 

「……正解」

 

 今まで自分は、自分や一緒に旅する仲間の為に戦ってきた。それを捨てたくない。

 

「まぁ、その事はゆっくり考えた方が良いよ。簡単な問題じゃないからね」

 

「……そうだな。そうするよ」

 

 確かに簡単な問題ではない。もし、ポケモンマスターになれば付きまとうだろう。ゆっくりと時間を掛けて考えて行こう。

 

「有名になるのも、良いことばかりじゃないんだね~」

 

 英雄として有名になり、悩むサトシへそう言ったベルの言葉に、彼女を含めたシューティー、アイリス、カベルネの四人が渋い表情を浮かべる。

 

「――じゃあ、僕は行くよ」

 

「シューティー」

 

 そんな中、微妙な空気をシューティーが変えるかのように立ち上がる。実際にこの空気を変えたかったのもあるが、微妙な表情のサトシからその理由は聞けたし、もういる必要は無かった。

 後は、少しでも早く強くなるために進みたいと言う理由もあるが。

 

「サトシ、次に会ったらまたバトルしてくれないか?」

 

「勿論だぜ。ナックラーもその時までには生まれると良いな」

 

「僕もそう思う」

 

 サトシの言葉に、シューティーはケースに入ったナックラーのタマゴを見下ろす。

 どんな性格のナックラーとどう付き合って行くかはまだ不安はあるものの、早く会ってみたい気持ちもあった。

 

「また」

 

「あぁ、また」

 

 最後の一言を告げ、シューティーは次の町に向けて歩き出した。

 

「私も行こうかしら」

 

 続いてカベルネも立ち上がる。彼女もこの空気のまま出たかったのだ。

 

「危険には気を付けてね。カベルネ」

 

「あんたに言われるまでもないわ。まぁ、流石に今回みたいなのはそうそうないでしょうけど」

 

「だろうね」

 

 と言うか、今回みたいな事件が頻繁に起きたらそれはそれで困る。

 

「じゃあばいばい」

 

 素っ気なく返すと、カベルネも次の街に向けて歩き出した。

 

「サトシ君、ポケモン達の治療が終わったわ」

 

「ゼルル~」

 

「サリィさん」

 

 薬や医療品の確認で一度来ていたサリィとゴチルゼルが、サトシに三匹の治療が終わった事を報告。サトシは三匹が入ったモンスターボールを受け取る。

 

「治療も終わったし、もう行くのかしら?」

 

「そのつもりです」

 

「頑張ってね。皆」

 

「サリィさんやゴチルゼルも」

 

「勿論」

 

 ヒウンシティの人々の為は勿論、ドクターになるためにも、頑張らなくてはならない。

 医療品と薬を受け取ったサリィとゴチルゼルはサトシ達に手を振ってお別れを告げると、自分達の役目を果たすべく現場に戻って行った。

 

「さて、我々はここで失礼するとしよう」

 

 その次はジムリーダー達。彼等は行きに使ったヘリでそれぞれのジムがある町に戻り、今回の件について話す予定だ。

 

「ただその前に――サトシ君。君は今のビートルバッジを含めると、バッジは幾つかな?」

 

「トライバッジ、ベーシックバッジと今回のビートルバッジで三つです」

 

「となると、残る我々七人の内、五人に勝てばリーグの出場権を得れる訳だな。誰と戦う気だろうか?」

 

 その台詞に、話しかけているシャガや無表情のハチクを除く五人のジムリーダー達が一斉にサトシを見る。どうやら、彼等はサトシと勝負してみたいだ。

 

「――全員です! 皆さんに勝って、バッジゲットします!」

 

 向けられる視線の中、サトシは軽く息を吐いて意を固めてから告げる。全員と勝負し、勝利して七つのバッジを手に入れると。

 

「くくっ……はっはっは! 面白い! では楽しみにして置こう! 但し――」

 

 瞬間、ジムリーダー達から凄まじい迫力が漂い出す。サトシは思わず息を飲む。

 

「我々も、簡単に勝たせる気は微塵も無い。全力で掛かってこい」

 

「勿論です……!」

 

 今までのジム戦も簡単では無かったが、これからのジム戦も苦戦は必須。サトシにそう思わせるには充分過ぎるほど、彼等から迫力を感じた。

 

「サトシ君、距離を考えると、次に戦うのは私になるわね。ライモンジムで待ってるわ」

 

「はい」

 

 最後にカミツレもサトシにそう告げると、他のジムリーダー達と同様に自分のジムがある街へと向かった。

 

「さて、私も研究所に戻らないとね。これから忙しくなるもの」

 

 一段落し、アララギもまた研究所に戻ろうとしていた。イッシュに散らばった他地方のポケモン達の対策は勿論、復興のために転送システムのサポートも必要になる。

 

「アララギ博士も元気で」

 

「皆もね。――それとサトシ君」

 

「何ですか?」

 

「貴方は貴方の道を行きなさい。他の誰でもない貴方の意思で決めたその道を」

 

「――はい」

 

「よろしい」

 

 英雄ではなく、一人のトレーナーとしての道を。そう言ったのだと理解したサトシはしっかりと頷き、アララギは満足そうな笑みを浮かべる。

 

「じゃあね」

 

 ジムリーダー同様、アララギもヘリで研究所に向けて帰還していった。

 その次は育て屋の保育園の人々。バスが用意され、帰る準備が整ったのだ。

 

「色々助けてくれてありがとうね、皆」

 

「礼を言っても言い足りん程じゃ。もし、保育園に来たらお礼させておくれ」

 

「元気でね~!」

 

「ヤブヤブ~!」

 

 ヒロタ達、ユリやキクヨ、ヤブクロンはバスに乗り、サトシ達に手を振りながら育て屋の保育園へと帰り出した。

 

「じゃあ、皆。ボクもここで失礼するよ」

 

 そして、Nもまたアクロマやゲーチスと共に、ヒウンシティを後にしようとしていた。

 即興で何とか準備したヘリで主な主要メンバーが自分達が拠点にしている建物に向かい、そこで今後の方針を決める予定だ。

 ちなみに、プラズマ団の団員達はバスが準備出来るまでボランティアとして、復興を少しでも手伝うとのこと。

 

「ではでは、失礼しまーす」

 

「またお会いしましょう。皆さん。N」

 

「ゾロア、ポカブ、イーブイ」

 

「ゾロロ」

 

「カブブ」

 

「ブイ~」

 

 アクロマとゲーチス、三匹が先にヘリに、最後にNが乗り込もうとする。

 

「あの、Nさん――」

 

「また会いに来るよ、サトシくん。――ボクとしてね」

 

 今までの一人としての人物のN、同時にプラズマ団の王としてのN。その両方の意味で、彼はサトシに告げていた。そして、サトシもそれを自然と理解していた。

 

「はい。また」

 

 だから、サトシはそう返した。彼の返事にNは微笑を浮かべるとヘリに乗り込み、手持ちやゲーチス、パイロットと共にヒウンシティを去って行った。

 

「これで、お前達も帰れるな」

 

「フーフー」

 

「帰っても元気でな。ただ、ロケット団のポケモン達が暴れている可能性もあるから、しばらくは気を付けろよ」

 

「フシ」

 

 最後にサトシ達は、セントラルエリアでフシデ達に会っていた。一度はぶつかり合ったが、協力し合った間柄だ。友達になったフシデもいる。

 別れの挨拶を含め、ロケット団のポケモン達について忠告していた。

 

「元気でな」

 

「フー!」

 

 フシデ達からの見送りを受け、セントラルエリアからライモンシティ側の出口に向かう。

 

「じゃあ、俺達も行こうか」

 

「ピカ!」

 

「うん、次に向けて」

 

「新たに出発しよう」

 

 友達になったフシデにも別れを告げ、サトシ達も短くも長い一時を感じたヒウンシティから旅立つ。

 

「うん、ライモンジムに向かおう~!」

 

 サトシ達の側には、ベルもいた。

 

「あれ、ベル?」

 

「あたし達と行くの?」

 

「うん、アーティさんとのジム戦は難しそうだし」

 

「確かにね」

 

 今日のジム戦は、復興が本格的に始まる今だからこそ行えた事だ。明日以降となると、多忙な中でしなければならない。かなり無理をしないと出来ないだろう。

 

「だから、アーティさんとのジム戦は止めようと思って」

 

 マイペースなベルだが、時と場合は流石に弁えている。

 

「でも、どうして俺達と?」

 

「何か有りそうって、何となく思ったから」

 

「何となくって……相変わらずマイペースね~」

 

「まぁ、彼女らしいけどね」

 

 これぞ、正にベルと言った感じである。

 

「じゃあ、改めて行こうぜ」

 

「うん、行こう」

 

「あぁ、行こうか」

 

「行っちゃお~!」

 

 ベルを加え、四人となったサトシ達はヒウンシティから歩き出す。他の多くの者達同様、新たな決意を抱いて。

 


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