ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 また先週投稿出来ず申し訳ありません。収拾後のヒウンシティです。


イッシュのジムリーダー

「ふわぁ……」

 

 目が覚めたサトシ。身体を動かすと、少し重く感じた。身心の疲労がまだ残っているのかもしれない。あれだけ頑張ったのだから、仕方ないだろう。

 

「ピカ!」

 

「ピカチュウ、おはよう――って、何か変な感じだな」

 

「ピカチュ」

 

 今日の朝はもう体験している。なのに、お早うは少し変かもしれない、そう思っていた。それでもしたかった。お互いがあの夜を乗り越えれた事を確かめ合うように。

 

「気分はどうだ?」

 

「ピーカ、チュ。ピカー……」

 

「いまいちかあ」

 

 軽く電気を出してみるが、微妙だった。昨日、あれだけ戦った影響もあるだろう。

 

「外、どうなってるかな……」

 

「ピカ……」

 

 昨日、ロケット団がメテオナイトの危険性を知らずに暴走させた結果、ヒウンシティは大惨事に見舞われた。

 多くの人々、ポケモン、そしてゼクロムの力により、事態は片付きこそしたが、それで全てが済む程度ではない惨事でもあったのも確かだ。

 それに、ズルッグ達や、アララギ博士、マコモとショウロの姉妹、ユリやキクヨと子供達、アーティやサリィもどうなっているか気に掛かる。

 

「――あっ、皆」

 

「サトシ、お早う」

 

「お早う」

 

 確かめようと、サトシとピカチュウがバトルクラブの広間に行くと、皆と遭遇した。但し、一人だけいない。

 

「あれ、Nさんは?」

 

「いや、それが朝見たらいなかったんだ」

 

「別の所で寝たとか?」

 

「Nさん一人だけ? どうして?」

 

「私に聞かれても困るわよ」

 

(もしかして)

 

 皆の話にサトシはあの惨事の際に会った人物、プラズマ団のゲーチスを思い出す。確かNの父親との事だが、彼と一緒にいるのかもしれない。

 

「まぁ、事態自体は片付いているし、Nさんは大丈夫だろう。それより深刻なのは……」

 

「ヒウンシティだろうね……」

 

 メテオナイトの暴走や、飛行艇による火災や五千のポケモン達の暴走による、戦闘の痕。はっきり言って、とんでもない被害を受けた筈だ。

 

「外……確認して見る?」

 

「……気になるな」

 

「あたしも……」

 

 現在のヒウンシティがどうなったのか。全員が気になっており、外に出ることにした。

 

「うわ……」

 

「ぼろぼろ……」

 

「ピカピ……」

 

 外に出たサトシ達の視界に入ったのは、至るところが焦げたり、破損しているビルの数々。イッシュ地方一の大都市の姿はまるで無かった。

 

「こんなに……」

 

「この様子だと、都市機能は勿論、交通や交易も麻痺しただろうね……」

 

 何れの産業も、大打撃を受けたのは間違いない。

 

「も~! ヒウンシティをこんなにして、ロケット団ってひどい!」

 

「同意見ね。最低の悪党だわ」

 

「あはは……」

 

 確かにロケット団は悪党なので、反論のしようがないが、ムサシ、コジロウ、ニャースの三人組と時には協力したサトシとしては、微妙な様子だった。

 

(ただ、ロケット団もこんな惨事にはしたかった訳じゃないだろうけど……)

 

 ヒウンシティの人々にとっては、そんなもの言い訳にすらならない。彼等にとってロケット団とは、最低の連中以外の認識しか抱かないだろう。

 

「で、どうするの?」

 

「現状を知りたいなら、アーティさんやアララギ博士に聞くのが手っ取り早いだろうけど……」

 

「簡単に会える?」

 

「難しいね……」

 

 ジムリーダーは非常時には、その街への対応をする存在だ。この様子だと、市長と今後の方針について話し合うのが普通。会うのは難しい。アララギも同じ状態だろう。

 

「じゃあ、他の人達を探そうよ。保育園の人達とか」

 

「マコモさんやショウロさん、サリィさんも気になるし……」

 

「ズルッグ、イーブイ、キバゴも大丈夫なのか知りたいね……」

 

「フシデ達も……」

 

 とにかく、知りたい事が多すぎる。一つ一つ知っていこうとヒウンシティを歩こうとする。

 

「――あっ、理想の英雄!」

 

「本当だ!」

 

 直後、サトシの姿を見た人々が事件の立役者である彼に次々と声を掛け、近寄ってくる。

 

「本当にありがとうな!」

 

「君とゼクロムのおかげだ!」

 

 サトシは苦笑いを浮かべるも、人々は次々にしてもしたりないと言いたげにサトシを賞賛する。

 

「おいおい、言いたい気持ちは分かるけど、やることあるだろ」

 

「そうそう、それに彼等にもする事があるでしょう。邪魔はダメ」

 

 冷静な人や上の立場の人に言われ、人々は不満気ながらも仕方ないと離れる。

 サトシは彼等に賞賛や謝罪を何度も聞きながら、皆とヒウンシティを進んでいった。

 

「何か、一躍有名人って感じだよね~、サトシ君」

 

「あはは……」

 

 次々と声を掛けられる様は確かに有名人だが、リーグ優勝等でなるならともかく、こういう事件でなってもイマイチ喜べない。大惨事なら尚更だ。

 

「あっ、サトシ君」

 

「サトシ兄ちゃ~ん!」

 

「ヤブ~!」

 

 そんな風に歩いて行くと保育園の人達に遭遇。彼女達は避難していたヒウンジムにおり、サトシ達はいつの間にか到着していた。

 

「皆さんはこれからどうするんですか?」

 

「育て屋に戻るわ。それが一番安全だから」

 

「この事態を見て見ぬ様で申し訳なくはあるがの」

 

「仕方ないですね……」

 

 子供達やタマゴを考えると、このまま留まるのは悪手。帰還は当然の判断だろう。

 

「だから、バスの準備が終わったら直ぐに戻ることに」

 

 子供達やタマゴの事情から、彼女達は最優先で帰る事になったのだ。

 

「ね~、サトシ兄ちゃん。昨日のゼクロムは?」

 

「あたしも会いたい!」

 

「ぼくも!」

 

「こら!」

 

 子供だけあり、ヒロタ達は伝説のゼクロムに強い興味を抱いていた。ちなみに、雨の最中に寝ていたので去っている事は知らない。

 

「あはは、ごめん。だけど、ゼクロムはもうどこかに行っちゃってさ」

 

 サトシのその言葉に、ヒロタ達はそんな~と残念そうに溢す。

 

「いないのなら、仕方ないでしょ。さぁ、準備が出来るまでゆっくりしましょう」

 

「待ちなさい、ユリ。その前に一つ確かめたい事がある」

 

「確かめたい事?」

 

「ちょっとの。少し待っておくれ」

 

 そう言ってキクヨは離れ、少しして戻って来た。その手には、ケースに入ったナックラーのタマゴがある。

 

「シューティー君、これをちょっと持ってみてくれんかのう」

 

「あっ、はい」

 

 名指しされ、シューティーが恐る恐るナックラーのタマゴを持つ。すると、ゴロゴロとタマゴが軽く揺れた。

 

「わわっ……」

 

「動いた!」

 

「でも、どうして?」

 

 キクヨが持っていた時は、静かだった。しかし、シューティーが手にした途端、動き出した。まるで、喜んでいるかのように。その反応に、キクヨはやはりと心の中で呟く。

 

「シューティー君。そのタマゴを育ててはどうかの?」

 

「……えっ?」

 

 キクヨからの提案に、当の本人のシューティーは勿論、サトシ達も驚く。

 

「ぼ、僕が……ですか?」

 

「うむ、どうやらナックラーはまだタマゴのままでも君に助けてもらった事を理解しておるようなのじゃ」

 

「シューティーくん、タマゴを助けたの?」

 

「ま、まぁ……」

 

「それももう、サトシみたいに必死に」

 

「ふーん、似合わないわね」

 

「う、うるさいな。僕もそう思ってるけど、命がかかっていたんだから仕方ないだろう」

 

 カベルネに茶化され、シューティーはムッとする。

 

「話を戻して……。どうかの、シューティー君?」

 

「ですが、これは他の育て屋から預かったタマゴでは……」

 

「理由を話せば、納得してくれるじゃろう」

 

 何しろ、身を呈してタマゴを助けたのだ。そんなトレーナーなら、受け取る事にも賛同するだろう。

 

「まぁ、シューティー君が嫌と言うなら、わたしゃらも無理にはせん。ただ、もし君さえ良ければ受け取ってほしいのじゃ」

 

「……」

 

 シューティーはタマゴを見て迷う。正直、いきなりこのタマゴを育てると言われても、戸惑いはあった。

 まだ新人の自分が、何れ生まれるナックラー一から育てれるのだろうかと。

 

「シューティー」

 

「サトシ……」

 

「そのタマゴは、ナックラーはシューティーを選んだ。育てて見ても良いんじゃないか?」

 

「……」

 

 今までの手持ちは、自分が選んだポケモン。だが、このナックラーは自分を選んだポケモン。

 その事が、なんだか特別な感じがした少し嬉しい。それに、目指しているサトシもズルッグをタマゴから育てている。大変かもしれないが、彼に追い付く為には必要な経験かもしれない。

 

「あの……」

 

「なにかの?」

 

「僕は、新人です。まだまだ未熟で、このナックラーを一から上手く育てれるか分かりません。でも――頑張って行きたいと思います。ですので、僕で良ければ有り難く受け取ります」

 

「大切に育てておくれ」

 

「はい」

 

 こうして、他地方から来たナックラーはシューティーが受け取る事となった。

 

「良かったな、シューティー」

 

「あぁ」

 

 新しい仲間になるだろう、ナックラーをシューティーは期待を抱きながら見ていた。

 

「うわ~、シューティーくん、ナックラーを育てるんだ~。良いな~」

 

「タマゴがあいつを選んだんだから、諦めなさい」

 

 他の地方のポケモンをゲットすることになったシューティーを羨ましそうに見つめるベルだが、カベルネに言われては~いと素直に諦める。

 

「そうそう。サトシ君、アイリスちゃん。あら、N君はいないの?」

 

「あっ、はい」

 

「とにかく、話しておく事は大切じゃろう。サトシ君、アイリスちゃん、先程ズルッグ、キバゴ、イーブイが目を覚ました」

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ、色んな人達の手当を受けて、先程目覚めたわ」

 

「良かった……! どこにいますか?」

 

「こっちじゃ」

 

 キクヨに案内されながら、ヒウンジムの中を歩く。すると、見覚えある人とポケモンが見えた。

 

「サリィさん、ゴチルゼルも」

 

「あら、皆」

 

「ゼルゼ~ル」

 

 昨日の騒動により、絆創膏や包帯を付けたサリィとゴチルゼルがサトシ達を見て挨拶を掛ける。

 

「大丈夫ですか? 何か、疲れているみたいですけど……」

 

「昨日から、怪我人の手当であまり寝てないの」

 

「休んだ方が……」

 

「まだ研修医だけど、それでもわたしは医師。怪我人がいたら治すのが仕事。沢山の患者がいるのに、弱音を吐くなんて出来ないわ。ゴチルゼルも手伝ってくれるしね」

 

「ゼ~ル」

 

 互いを見て、笑顔になるサリィとゴチルゼル。彼女達を知る三人やピカチュウは過去の様子を見ている風に感じた。

 

「サリィさん達はこの後どうするんですか?」

 

「しばらくは、ヒウンシティで勤める事になるわ。怪我人がいるから」

 

 それに、復興に頑張る人達の手当も必要だろう。しばらくはここで働く様にとの指示が出る方が自然だ。

 

「ゴチルゼルはどうするの?」

 

「わたしと一緒に。それが終わった後は、その時に考えるわ」

 

「ゼルゼル」

 

 サリィとゴチルゼルは、しばらく一緒にいる様だ。そして、役目を終えた後、彼女達がどうなるかは彼女達次第だろう。

 

「で、サトシ君達は何の用? もしかして、ズルッグ達の様子を?」

 

「そうです。ユリやキクヨさん達から聞いて」

 

「じゃあ、直ぐに会ってあげて。小さな身体で大きな敵に立ち向かったあの子達に」

 

「はい」

 

 それを言うと、サリィとゴチルゼルは患者の手当を再開するべく、仕事に励む。

 

「ズルッグ!」

 

「キバゴ!」

 

「ルッグ!」

 

「キバキバ!」

 

 サトシ達は、案内で三匹にいる部屋に入る。すると、目が覚めたズルッグとキバゴがサトシとアイリスに近付く。

 

「頑張ったな、ズルッグ」

 

「……ルグ」

 

「お疲れさま、キバゴ」

 

「キババ!」

 

「ブイ……?」

 

 誉められ、嬉しそうになる二匹だが、イーブイはNがいないことに疑問符を浮かべていた。

 

「今いないんだ。だから一緒にNさんに会いに行こう」

 

「ブイイ!」

 

 分かったと頷くイーブイ。知り合いだけあり、素直に聞き入れた。

 

「君達、この子達は回復したけど、反動がまだ残ってる様なんだ。だから、もう一日だけゆっくりさせてあげてくれ」

 

「分かりました」

 

 どうやら、ジュエルの反動はまだ残っている様だ。もうちょっとゆっくりさせようとサトシとアイリスは決めた。

 

「これで三匹や保育園の人達や、サリィさんと会えたね」

 

「後は……マコモさんやショウロさんか」

 

「その二人は知らないわね」

 

「サトシくん、どんな人達?」

 

 ベルとカベルネが合流したのは、マコモとショウロに会った後だ。なので、二人は姉妹を知らない。

 

「一人は研究者の人で、もう一人は転送システム管理者だよ。で、姉妹なんだ」

 

「ただ、妹のショウロさんは僕達よりも若いけどね」

 

「うわっ、すごい」

 

「文字通りの天才って訳ね」

 

 自分達より年下にもかかわらず、転送システムの管理をしているショウロに、二人の少女は驚きを隠せない。

 

「転送システムか……」

 

「どうした、デント?」

 

「いや、大丈夫なのかと思ってね。これほど惨事に巻き込まれたんだ。もしかすると――」

 

「転送システムが破損していても、何ら不思議じゃありませんね……」

 

「えぇ!? それ、かなりやばいんじゃ……!?」

 

 転送システムが損傷していた場合、イッシュ地方でポケモンの転送や預かりが出来ない事を意味する。

 そうであれば、トレーナー達の旅や、他の様々な事に間違いなく影響が出る。

 

「その人はどこにいるのよ?」

 

「確かあっちの方だ」

 

「これからの旅に影響するだろうし、会って状況を聞いた方が良いだろうね」

 

 と言う訳で、サトシ達はショウロが管理する転送システムの場所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、やっぱりダメか~」

 

「回せそうなのもほとんどないわね……」

 

「マコモさん、ショウロさん」

 

「あら、サトシ君。それに皆も」

 

「ん~? でも、一人いませんし、いなかった人がいますね」

 

 サトシ達に気付き、近寄る姉妹。周りではムンナとムシャーナがねんりきで壊れた部品や破片を整理していた。

 

「その二人は?」

 

「こっちがベルで、もう一人はカベルネです」

 

「マコモです」

 

「ショウロだよ~」

 

 姉妹の挨拶に、二人の少女も挨拶する。

 

「ところで、二人はここで――」

 

「転送システムの状態を見に来たの」

 

「けど、状態はこの有り様ですよ~。完全にダメダメです」

 

 転送システムのメインサーバーを見るサトシ達。しかし、全てがほとんど大破、全壊しており、無事なサーバーは一つもない。

 

「やっぱり、ポケモンを預かったり送ったり出来ないってことですよね……」

 

「ん~、完全に出来ない訳じゃないんですよ。色んな街にあるサブサーバーを使い回せば、長距離の転送も可能です」

 

 転送システムはメインの負担を減らすため、各街に補助の為のサブサーバーが設置してある。それを使えば、可能ではあるのだが。

 

「ただ、サブの方はこれから復興の為に使うでしょうし、使う余裕がないです。それに、他の地方との転送は当然不可能ですよ」

 

 つまり、転送は出来るが、自分達が使う間が無いのである。

 

「となると、これを直さない限りは僕達は入れ替えが出来ないと……」

 

「そう言うことです」

 

「修理にどれだけ掛かるんですか?」

 

「そうですね~、軽く見積もっても最低半年は掛かるかと。……はぁ」

 

「そんなに!?」

 

 早くても半年の言葉に、驚く一同。

 

「メインサーバーには特注の部品が使われてるの。再発注には材料の調達や精製に時間が当然掛から……」

 

「それに復興の事も考えると、更に時間が掛かります。プログラムの構築なら、一月足らずで造り直せるんですけどね~」

 

「あの、イッシュ地方全ての転送システムのプログラムを一月で造り直せるんですか?」

 

 さらりととんでもない事を言ったショウロに、シューティーやデントが唖然とする。

 

「あたし、転送システムの管理者ですよ? それぐらい出来なきゃ、名乗れませんよ」

 

 えっへんと胸を張るショウロに、サトシ達は改めて彼女が天才なのだと知る。

 

「とにかく、暫くは使えない以上、当面のあたしの仕事は決まりましたね」

 

「何をするんですか?」

 

「ここである程度サブサーバーを作った後、各街に行って、サブサーバーの機材やプログラムの調整です。メインがダメですし」

 

 しばらくはサブサーバーを頻繁に使うことになる。少しでも負担を減らすためにも、その調整が仕事になるのは当然だ。

 

「なら、ショウロ。私も手伝うわ」

 

「助かるよ、お姉ちゃん」

 

 大仕事だなと思うショウロに、マコモが手伝うと告げる。姉の彼女は分野は違えと優秀な科学者。少なくとも、赤の他人よりは遥かに助かる。

 

「あの、ショウロさん、マコモさん。二人だけで全部の街のシステムの調整をするんですか?」

 

 とんでもない重労働だ。出来るのだろうかと、サトシ達が不安がっても普通の反応である。

 

「可能なら、アララギや彼女の下にいる職員達にも協力を求めるわ」

 

 流石に、二人だけは負担が大き過ぎる。余裕があればアララギ達の手も借りたい。サトシ達も二人だけではないと聞いて少し安心した様だ。

 

「と言う訳で、しばらくは不便ですが我慢してください。すみません」

 

「いえいえ、悪いのはロケット団ですし……」

 

「そうですよね! あの悪党共のせいで、あたしが手塩を掛けに掛けたこの特製メインサーバーが台無しになったんですから! 絶対に、許さない!」

 

 ロケット団の単語に、うが~と叫ぶショウロ。背後からただならぬ気迫を漂っている。

 

「ごめんなさい。ショウロ、転送システムを毎日大切に管理してたから、あれが傷付いたり、ハッキングなんかされたりすると、あんな風に怒っちゃうの。前なんか、ハッキングした相手のデータを逮捕用に保存してから全部破壊なんてことをしたぐらいで……」

 

 どうやらショウロは、思った以上に根を持つ性格の様だ。

 

「……凄いですね。色んな意味で」

 

「人とポケモンの為のシステム。だからこそ、それに貢献したいって、あの子前々から言ってたから。だから、転送システムへの想いは人一倍あるのよ」

 

 人とポケモン。その為の転送システム。それに誇りを持っているからこその発言に、サトシ達は感嘆の呟きを漏らす。

 

「とにかく、私達も一日でも早く転送システムを復旧させるから、サトシ達も頑張って」

 

「ムンナ~」

 

「シャ~ナ」

 

 マコモとムンナ、ムシャーナに見送られながらサトシ達はその場所を後にした。

 

「う~ん、やっぱり自由に預かったり送ったり出来ないって厳しいよね~」

 

「使えなくなってから、その有り難みが分かるわね」

 

 場所こそ必要だが、気軽に使える転送システム。それが使えないことにサトシ達は不便さを感じた。

 

「さて、あと気になるのは、アーティさんとフシデ達」

 

「どっちに会う?」

 

「やっぱり、フシデ達の方が早いかな」

 

「じゃあ、セントラルエリアに向かおうよ」

 

 フシデ達はセントラルエリアで保護されていた。ならば、会える確率が最も高いのはそこだ。サトシ達に異論はなく、セントラルに向かう。

 

 

 

 

 

「フシシー」

 

「よっ、フシデ。元気そうだな」

 

「フー」

 

 大量のフシデ達の中から、一匹のフシデがサトシを見て近付く。サトシ達が手当したあのフシデで、まだ絆創膏を付けていた。

 

「ジュンサーさん、フシデ達はこの後どうなりますか?」

 

「まだ決まってはいないけど……多分、元いた巣に帰ってもらう事になるわ。ロケット団の脅威も終わったから」

 

 共闘してくれたとはいえ、一応安全の為にいるジュンサーがサトシの質問に答える。

 事態も片付いた以上、フシデ達は元いた場所に戻るのが一番だろう。

 

「あの、そう言えばロケット団ってどうなったんでしょう?」

 

 本来、この街を襲撃するはずだったロケット団の団員達。今まで気にする余裕すら無かったのが、こうして事態が片付き、サトシ達は彼等について聞くことにした。

 

「ほとんど逃げられたわ。ただ、逃がす気は無いけどね。他の街の警察と連携して、今ロケット団の団員達を捕らえようとしてる所」

 

「捕まりますか?」

 

「かなり逮捕出来ると思うわ」

 

 この事態がロケット団にとって不測の事態だとすると、直ぐにイッシュから出ることは難しいはず。

 おまけに今回の件で残った飛行艇や潜水艦の残骸から、カントーのロケット団に捜査のメスが入るだろう。二重の意味で簡単に出れない。その間に検問を敷き、捕らえる予定だ。

 

「私達も、ヒウンシティをここまで荒らしたロケット団を簡単に逃がすつもりは微塵も無いわ。徹底的にやるつもり」

 

「……そう言えば、被害はどうなんですか?」

 

「不幸中の幸いにも、死人はいなかったわ」

 

 ただ、しばらく治療が必要な範囲の重傷者は多数いる。それでも死者がいないのは素直に喜ぶべきだろう。

 

「あの、オノノクスは?」

 

「オノノクス?」

 

「うん、ほら前にサトシくんと戦ったあのオノノクス。ピンチのわたし達を助けてくれたの」

 

「そう言えば……」

 

 ゼクロムに乗って彼女達の所に移動した際、オノノクスを見たのをサトシは思い出す。どうやらワルビル同様、オノノクスも尽力を尽くしていたようだ。

 

「うーん、いつの間にかいなくなってたわ。多分、野生だから捕まるのを避けて離れたんじゃないかしら」

 

「じゃあ、ワルビルもかな」

 

「ワルビル? まさか、あのワルビルもいたのかい?」

 

「あぁ、助けてもらってさ。礼を言いたかったんだけどなー」

 

 ただ、どこに行ったか分からない以上、探すのは不可能。今はそんな余裕も無いし、次に会えた時オノノクスを含めてお礼を言うとサトシは決めた。

 

「アララギ博士やアーティさんは今どうしてますか?」

 

 最後に、二人について尋ねる。警官のジュンサーなら二人の現状を知ってると思ったのだ。

 

「確か、市長の屋敷で話し合っていたわね。場所はあそこ。会うなら入って聞いてみたら?」

 

 そうしますとサトシ達は屋敷に向かう。少し大きいと思った後、入ろうとしたが、その前に玄関の扉が開いた。

 

「――となると、やっぱりそれぞれで預かるしかないと」

 

「数を考えると。このままは不味いから」

 

「えぇ、他にも――おや、皆?」

 

 アララギとアーティ、黄色の髪の女性と話していたが、サトシ達に気付く。

 

「ピカチュウ……」

 

 その際、女性がピカチュウを見て、ピカチュウを肩に乗せるサトシに一瞬だけ鋭い視線を向けていたのは、誰も気付かなかった。

 

「アララギ博士! アーティさん!」

 

「おはよう――いや、今はこんにちはね。皆」

 

「やぁ、皆。疲れは取れたかい?」

 

「あんまり……。それより――」

 

「カミツレさん」

 

 隣の女性は誰なのか、それを聞こうとしたサトシだが、その前にデントが話し掛ける。

 

「あら、デントくんじゃない」

 

 カミツレと呼ばれた女性も、デントに気付くと声を掛けた。

 

「デント、この女の人と知り合いなのか?」

 

「いや、まぁ。――ジムリーダーだからね」

 

「……えっ、ジムリーダー?」

 

「ライモンシティのライモンジム、ジムリーダー、カミツレよ。よろしくね」

 ウインクしながら語るジムリーダー、カミツレの自己紹介に、サトシ達は思わず声を上げた。

 

「あらあら、驚かせちゃったかしら」

 

「まぁ、突然来ればね」

 

「イッシュ地方の大惨事よ? 来ない方がおかしいわ。だからこそ――」

 

「こうして、ワシ等も来ることになったんだからな」

 

 そう言ったのは、厳つい表情、小柄だがガタイは良く、西部劇の保安官風の格好をした男性だ。

 

「ですね。これほどの大惨事、駆け付けなければジムリーダー失格です」

 

 ベルトと合わさった水色の飛行服、へそが出てるボトムズに身を包み、分厚いグローブ・ブーツ、出した髪の一ヶ所をプロペラみたいな飾りで止めた女性が同調する。

 

「それに、これは今後のイッシュ全体に関わる事態」

 

 はだけた着物に、水色のアイマスクをしており、その一部をチョンマゲに結っている長髪の男性が静かに語る。

 

「直接話し合うのは必須。故に、こうして来たわけだ」

 

 白髪に、口が竜の下顎のような大きな髭で隠れており、逞しい体つきの男性が重さが伝わる口調で断言する。

 

「おかげで、ライブは中止になっちゃったけどね~」

 

 小柄で厚底ブーツを履き、髪型は白に前を縛ってちょんまげ。鼻の上にピンク色のそばかすがあり、水色と紫色のボーダーを来た少女が、手に持つ黒と紫の刺々しいワーロックベースを不満を散らすように弾いている。

 

「仕方なか。おいらはジムリーダー。人々とポケモンの危機には駆け付けるのは当然たい」

 

 青い髪型に真っ黒に日焼けした身体、鰭らしき部分がある海パンの格好をし、訛りのある男性が少女を納得させる様に話す。

 

「えと、あなた達は……?」

 

「ん? あぁ、そういやまだ言ってなかったな。ワシはホドモエシティにある、ホドモエジムのジムリーダー、ヤーコン様だ」

 

「フキヨセシティのフキヨセジム、ジムリーダー、フウロです」

 

「セッカシティ、セッカジム、ジムリーダー、ハチク」

 

「ソウリュウシティ、ソウリュウジムのジムリーダー、シャガだ」

 

「タチワキシティ、タチワキジムのジムリーダー、ホミカさ」

 

「セイガイハシティ、セイガイハジム、ジムリーダー、シズイたい」

 

「う、嘘~~~!?」

 

 目の前のジムリーダー達に、ベルが思わず声を上げる。彼女が上げなければ、他が出していたかもしれない。

 

「ジ、ジムリーダーがこんなに……!?」

 

「あ、あう……」

 

 集まったジムリーダーに、思わず息を飲むサトシやシューティー。ただ、驚きからアイリスがジムリーダーの一人を困った様子で見ていた事に気付けなかった。

 

「言っておくが、まだ全員じゃないよ?」

 

「えっ、それって……」

 

「まさか?」

 

「おーい、どうしたんだよ」

 

「話はまだ――って」

 

「おやおや、あんた達もいたのかい」

 

「ポッドにコーン!」

 

「アロエさんも!」

 

 アーティの言葉に、まさかと思ったサトシ達の前にサンヨウジムのポッドとコーン。シッポウジムのアロエが現れる。

 

「久しぶりだな、デント!」

 

「うん。元気そうだね、ポッド、コーン」

 

「えぇ。ただデントやサトシ君達もヒウンシティにいると言う事は……」

 

「あんた達も騒動に巻き込まれたのかい?」

 

「まぁ……」

 

 サトシ達がこのヒウンシティにいることから、ポッドやコーン、アロエは彼等が件の事態に巻き込まれたのを察した。

 

「大丈夫だったか、デント?」

 

「怪我はありませんか?」

 

「ないとは言えないけど、仕方ないさ」

 

「あんた達も無茶はしてないかい?」

 

「結構……」

 

「……しました」

 

 アロエにそう言われ、サトシもシューティーも気まずそうだ。

 

「ポッドやコーン、アロエさんもとはね」

 

「こんな事態だからな」

 

「えぇ、来るのは当然です」

 

「こうして皆一緒に会うのは久しぶりだねぇ」

 

「あぁ。それと、もうすぐ新しい一人が来る予定になっている。――来たか」

 

「シャガさん」

 

 サトシ達の後ろからシャガの名前を呼んだのは、一本立った黒い短髪に白い服と青いズボン、ネクタイを着こなすまだ少年と言える人物だった。

 

「彼は……?」

 

「会った事はあるだろうが、改めて紹介しよう。彼は――」

 

「チェレン!」

 

 ジムリーダー達がその人物達について聞き、シャガが話そうとしたが、その前にベルが出て彼の名前を告げる。

 

「……ベル? ベルだよね?」

 

「そうだよ! うわ~、こんな所で再会するなんて!」

 

「ぼくもだよ」

 

 ベルとチェレン、二人の少年少女が再会を喜び合う。

 

「ベル、知り合いなのか?」

 

「うん、三人には前に言ったことあるでしょ? わたしには、先に旅立って今ではジムリーダー候補になってる幼なじみがいるって。それがこのチェレン」

 

 ベルと初めて会ったその日、彼女がそう言っていた事をサトシ達は思い出す。

 

「初めまして、チェレンです」

 

 チェレンは礼儀正しく、頭を下げて自己紹介する。

 

「彼はまだ候補ではあるが、能力的に問題はない。なので、呼ぶことにしたのだ」

 

 ジムリーダー達はシャガの判断なら大丈夫だろう納得したのか、異論を口にすることは無かった。どうやら、彼がジムリーダー達の代表とも言える人物の様だ。

 

「えと、あの……。何で、ジムリーダーがこんなに?」

 

「確か、今後のイッシュに関わると言ってましたけど……」

 

「ピカチュウを乗せたトレーナー。君がサトシ君だな? アーティから話は聞いている。何でも、ゼクロムと共にこの事態を解決したと。大したものだ」

 

「そ、そんなことないです! ゼクロムが力を貸してくれたからです!」

 

「謙虚だな」

 

 ゼクロムと共にいた。それは即ち、英雄の素質を持つと言う事だ。なのに傲らないサトシに、ジムリーダー達は感心の声を上げる。一人だけは何とも言えない複雑な様子だが。

 

「さて、この事は事件の当事者の君達にも関係ある話。説明して置くべきだろう」

 

「じゃあ、僕が話そう」

 

 シャガの言葉に、アーティが自分が話すと申し上げ、説明を始めた。

 

「僕達ジムリーダーは先程までアララギ博士や市長を交え、二つの話をしていたんだ」

 

「一つは当然ながら、ヒウンシティの復興ですね?」

 

「えぇ、ヒウンシティはイッシュ地方の中でも一番企業が集まり、交易が盛んな場所。一日早く立て直さないと」

 

「他の街で一部受ける事は出来るが……全てとなると流石に無理があるからな」

 

「シャガ殿、その事に関しては?」

 

「多くの街に報告し、復興の為の材料を早急に調達する予定だ。だが、それだけに集中するわけにもいかん。もう一つ対応すべき事がある」

 

 シャガの言葉にアーティ、カミツレ、ヤーコン、ハチクが順に話し、念を押すようにシャガが語る。

 

「もう一つと言うのは……?」

 

「ロケット団のポケモン達についてです」

 

「何せ、大量に出てきちゃったもんね~」

 

「あぁ、しかも全て他地方のポケモン達だ」

 

「おまけに、ヒウンシティにこれだけの被害を出した要因の一つ」

 

「一番悪かは、ロケット団なのは分かっておるが……」

 

「このまま放って置くわけには行かないのさ。自然への影響を考えれば尚更」

 

 サトシの疑問に、フウロ、ホミカ、ポッド、コーン、シズイ、アロエが順に説明する。ちなみに、これは遅れていたチェレンに対しての説明でもある。

 

「じゃあ、あのポケモン達はどうなるんですか?」

 

「彼等は僕達が預かる事になった」

 

「……と言うと?」

 

「ポケモン達はロケット団に所属していた。このまま返すのはまたロケット団に復帰する恐れもあるし、何よりヒウンシティやイッシュの人々が絶対に納得しないわ」

 

「だから、ワシ等で預かってそれぞれの街でボランティアなどの慈善活動に参加させるって事さ」

 

「罰を与える様で心苦しくはありますが……。これぐらいはないと納得しません」

 

「ただ、それでも問題はまだ残っている。と言うよりは、現在進行中だが」

 

「進行中?」

 

「ロケット団のポケモン達は、このヒウンシティから逃走した様なのだ」

 

「逃走!?」

 

 思わぬ言葉に、サトシ達は驚愕する。

 

「先ずその経緯から話そう。ゼクロムはポケモン達が鎮圧した後、雨を降らしていたが、その時に多数のポケモン達が逃走したのだ」

 

 ゼクロムとの力の差、雨の冷たさで頭が冷えたのか、ポケモン達は次々と逃げ出していたのだ。

 

「まぁ、それ以外のポケモン達は、新たに捕獲して問題ないけどな」

 

「新たに捕獲?」

 

「戦いの影響により、彼等のモンスターボールは破損したようなのです。無理もありませんが」

 

 何せ、ポケモン達は暴走していた。そんな状況下で耐えきれる訳もなく、彼等のモンスターボールは彼等との戦闘により、機能が発揮されない程に破損、全壊したのだ。

 

「って訳で、モンスターボールで新たにゲットしたって事」

 

「だけど、用意までの時間は掛かっちゃったし、消火にも専念しないとダメだったから多数のポケモン達が逃げたのさ」

 

「だから、彼等の保護を兼ねた捕獲が必要になるんだ」

 

 消防士や警官は先ず人々や街を優先した事もあり、ポケモン達は逃走に成功。再ゲットする事態になったのだ。それらを聞き、ベルが挙手してある質問をする。

 

「あの、って事はもしかして、そのポケモン達ってゲット出来るんですか?」

 

 だとしたら、他の地方のポケモンをゲットする絶好のチャンスだ。

 

「確かに出来るだろうが……」

 

「? 何か不味い――」

 

「あんたねぇ……。犯罪組織に所属していたポケモンをゲットしたいの?」

 

「……あっ」

 

 シャガの困った様子に疑問符を浮かべていたベルだが、カベルネに指摘され気付いた。確かにそれは不味い。

 

「ただ、今回の出来事を知らない、それぞれの理由でゲットするトレーナーも少なからずは出るだろう。彼等がロケット団と勘違いされるのを避ける為にも、素早い対策は必要か」

 

 出来るだけ早く伝えるつもりだが、それでも逃走したポケモン達を捕獲する人物は必ず出てくる。彼等の為にも、何らかの措置は必須だ。

 

「では、彼等に関してはその様にしましょう。話は戻して、さっき新たにゲットしたポケモン達をどう預かるかだけど――まぁ、これはほとんど決まっているけどね」

 

「と言うと?」

 

「それぞれの専門のタイプを基準に、預かる事になったの。アーティなら虫タイプ、アロエさんならノーマルタイプと言った具合にね」

 

 専門のタイプなら、知らないポケモンとでも比較的に上手く付き合える。そう判断したのだ。

 

「……だとしたら、僕もジムリーダーに戻った方が良いでしょうか?」

 

「デント……」

 

 その理屈なら、草タイプのジムリーダーだったデントもいた方が当然良い。

 

「君が復帰してくれるのならば、助かるのは確かだ。ただ、理由は二人を通して既に聞いている。今の君はジムリーダーではなく、一人のトレーナー。強制する権利は我々にはない」

 

「ただ、ジムリーダーの矜持があるならばするべき」

 

 シャガはどちらでも構わないと言うが、ハチクは戻るべきだと静かに語る。

 

「ハチクさん、デントの分は残る俺達がカバーする。だから頼むよ」

 

「今デントは、ジムリーダーとしてポケモンソムリエとしても更なる成長を果たそうと旅をしています。どうか」

 

「ポッド、コーン……」

 

 自分の為に頭を下げる兄弟の二人に、デントは深い感謝を抱いた。

 

「ハチクよぉ、二人がこうまで言ってる訳だし、デントの旅の続行を認めてやれよ」

 

「第一、今のデントくんはシャガさんが言っているように、一人のトレーナー。私達がどうこう口出す権利はないわ」

 

「えぇ、ハチクさんの気持ちも分かりますが、ここはデントさんの意志を尊重するべきです。……羨ましいですが」

 

 三人のジムリーダーが兄弟を擁護する。その際、フウロがポツリと溢したその一言を溢していた事には誰も気付かなかった。

 

「分かっている。私はイッシュ地方についての最善を提案しただけだ」

 

 ただ、他地方のポケモン達との触れ合いも成長の切欠になる。とはハチクは言わなかった。

 デントが旅をした理由にも一理あるし、シャガ達が言うように今の彼は一人のトレーナーだ。口出しは出来ない。

 

「ただ、旅で遭遇したロケット団のポケモン達の保護の為の捕獲ぐらいはすべき。とは私は考える」

 

 旅をするからこそ出来るその方法を聞き、デントは分かりましたと返した。

 

「旅かあ。楽しそうだねぇ。あたしもジムリーダー止めて、皆と一緒に旅するシンガーになろうかな?」

 

「こらこら、そんなこと言っちゃダメか」

 

「まぁ、次々とジムリーダー達が辞めてもらうのは困るしねえ。特に今」

 

「分かってます~だ」

 

 ホミカはジャーンとギターの弦を鳴らし、自分も旅をしようかと考えるも、シズイやアロエに言われるとあっさり止めた。

 

「彼に対しての話はこれで終わりだ。話はロケット団のポケモン達にまで戻そう。保護はしたが、これに関しては一つだけ問題がある」

 

「問題?」

 

「ポケモンの数が多すぎるのよ。何せ、数百はいるから」

 

 そんな数のポケモンをジムリーダーとジムトレーナー達だけで預かるのは困難と言わざるを得ない。なので、どうすれば良いかを考えていた。

 

「では、我々も力添えしましょう」

 

 そこに現れたのは、プラズマ団のゲーチス。隣には、Nもいる。

 

「あなたは?」

 

「彼がプラズマ団と呼ばれる一団のゲーチスさん。彼等と共に、この一件の解決に力を尽くしてくれた者達で、リーダーの――」

 

「いえ、プラズマ団のトップはワタクシではありません」

 

「では、誰が?」

 

 てっきり、ゲーチスがプラズマ団のトップかと思ったが、本人が否定した。となると、誰がトップかが気になる所だ。

 

「紹介します。プラズマ団のトップ――我らが王、Nです」

 

「――初めまして、Nと申します」

 

 Nがゾロアやポカブと共に前に出ると同時に、サトシ達から驚きの声が上がる。

 

「え、Nさんがプラズマ団のトップ……!?」

 

「ってか、王とか言ったけど……!?」

 

「じゃ、じゃあ、Nさんって王様なの!?」

 

「わ、私に聞かれても知らないわよ!」

 

 サトシと三人の少女が戸惑う中、残るシューティーとデントがNを見る。

 

「……君はどう思う?」

 

「僕はサトシ達ほどあの人と交流がありませんので、何とも言えませんが……少し引っ掛かりますね」

 

「僕もそう思ったところだよ」

 

 彼がプラズマ団のトップなのは間違いない。しかし、だとしても若すぎる。それに、何故リーダーではなく、『王』なのだろうか。微かな違和感がどうしても消えない。

 

「ブイ!」

 

「あっ、イーブイ。もう大丈夫かい?」

 

「ブイイ♪」

 

「まだちょっと辛そうだね。今日はゆっくりしようか」

 

「ブイ~……」

 

 心配させまいと笑顔を向けるイーブイだが、Nは身体を触わった時の反応や感触で不調だと悟り、ゆっくりさせようと判断。優しく抱き抱える。

 

「改めまして――プラズマ団の王、Nです」

 

 今までの一人の人間ではなく、プラズマ団のトップ、王としてNは自分を紹介する。

 

「……」

 

 興味、驚愕、困惑、サトシ達がそれらでNを見る中、アララギだけは何とも言えない表情で見つめていた。

 Nは一度だけアララギに視線を向け、次にサトシ達やジムリーダー達と向かい直す。

 

「我々を手伝うとの事ですが……そもそも、貴方達の目的は?」

 

 シャガがNとゲーチスに、説明を求める。そもそも、このプラズマ団は何の団体なのかさっぱり分かっていない。その実態を知るためにも、ここで話を聞く必要があった。

 

「ボク達はポケモンの自由の為に行動しています」

 

「自由?」

 

「もっと簡単に言えば、解放です。今の人とポケモンの関係を、本当の意味で対等にしたいのです」

 

「今のトレーナーやポケモンの関係が対等ではないと?」

 

「モンスターボールで捕まえ、中に入れる。それで人とポケモンの対等と言うのは些か不自然ではないか? また、トレーナーが指示し、ポケモンが戦うポケモンバトルについてもです。そう考え、今の人とポケモンの在り方を変えるべく、同じ考えの者達と共に活動を始めた一団。それが我々、プラズマ団です」

 

 ゲーチスの言葉に、サトシはNと最初会った時に彼が話していた事を思い出した。

 

「なるほど、一理ある」

 

 プラズマ団の掲げる信条を聞き、全員は各々の反応を見せる。主に納得した者、戸惑う者、特に変わらない者などだ。

 

「このヒウンシティに来たのは、その事を演説する為に?」

 

「はい。イッシュ一の都会ならば、演説には最適ですので。まぁ、この様な事態になってしまい、中止致しました。皆様が大変なこんな時に演説するつもりはありませんので」

 

 どうやら良識は有るようだと、一同は感じた。

 

「ただ、それでも我々に出来る事はあります」

 

「それが、ポケモン達の保護の手伝いと」

 

「その通りです」

 

「……ふむ」

 

 有難い申し出ではある。何しろ、この事態は自分達だけでは手に余る。プラズマ団がどれだけいるかは分からないが、彼等が手伝うとなれば、相当助かるに違いない。

 問題なのは、まだ知らない相手であるプラズマ団に保護をさせる点だ。彼等が善意の集団なら、何の問題は無い。ただ、もし彼等が――

 

「しかし、民間の団体である貴方達が、犯罪組織に所属していたポケモン達を保護するのは大変な苦労だろう」

 

「それは承知の上です。先程も言った様に、ボク達はポケモン達の為に活動します。犯罪組織に所属していたからと言って、差別と変わりませんし、何より放置すれば多くのポケモンが傷付くのは火を見るより明らか。手伝うのは当然の行動です」

 

「それに、今の数だけでも相当辛いのでは? これ以上保護すれば、表現は悪いですが爆弾を抱え込む様な物です」

 

 ゲーチスの台詞は正しい。一ヶ所に多数のポケモンを預けた場合、何らかの切欠で暴走し、被害が出るのが怖い。

 

「……」

 

 腕を組んだまま、悩みに悩むシャガ。自分達だけで解決出来る事態ではないため、助力は欲しいが、何の実績もないプラズマ団に任せる事も出来ない。

 

「シャガ殿、貴方のお悩みは分かります。我々が万が一悪用した時を恐れているのですね?」

 

 ゲーチスの台詞に、サトシ達はシャガの悩みを理解する。確かにそうなった時、プラズマ団は一気に脅威と化してしまう。

 

「では、こう致しましょう。我々の行動を逐一貴方達や、警察に報告します。勿論、何処で活動しているのかも。また、定期的な視察も受けます」

 

「……ほう」

 

 その提案に、シャガは鋭い眼差しでNやゲーチスを見つめる。定期的な報告に視察。この二つを受けると言う事は、常に監視されるに等しい。

 

「まだ駄目でしょうか?」

 

「……了解した。必ず定期的な報告をし、視察を受けてもらう」

 

 暫し逡巡した後、シャガが提案を受けた。どう足掻いても自分達だけではこの事態は対応出来ない。一早い解決の為にも、プラズマ団の力は必要だった。但し、徹底的に警戒はするが。

 

「はい。必ず」

 

 話は纏まり、ロケット団のポケモン達はジムリーダー達とプラズマ団が主体となって保護する事になった。

 

「さて、サトシくん」

 

「何ですか、アーティさん?」

 

「話は片付いた。約束した通り、ジム戦を始めようか。色々あって遅れてしまったからね」

 

「えっ、でも……」

 

 戸惑うサトシ。こんな事態でジム戦と言うのも如何なものだろうか。

 

「サトシくん、僕が今君とのジム戦を行うのは理由がある」

 

「理由?」

 

「先ずはジムリーダーとして、ジム戦を今日まで待ってくれた君に応えたい。次に、これが最も重要なのだけど――ヒウンシティの人々に活気を与えたいんだ」

 

「……どういう事ですか?」

 

「今回の件で他地方のポケモン達に恐怖を抱くかもしれない。また、ポケモンバトルそのものにもね。だけど、ポケモンバトルは本来ぶつかり合い、競い合う事で強さと心を鍛え、観客を沸かせるもの。それを思い出して欲しいんだ。どうかな?」

 

 自分だけでなく、ヒウンシティの為。そんな理由があるのなら。

 

「分かりました。俺で良ければ!」

 

「なら決まりだ。今から二時間後、僕と君のジム戦を行おう。場所はヒウンジムではなく、セントラルエリア。形式は三対三で、入れ換えは挑戦者の君だけが行えるルールだ」

 

 サンヨウ、シッポウと違う、今までのジムと同じルールだ。

 

「ちなみに、二時間なのはフシデ達に少し離れてもらう説明と少し休む時間が欲しいんだ。何しろ、今まで働き詰めだったからね」

 

 だとしたら、休みたいのも無理はない。ヒウンシティに活気を取り戻す切欠になるためにも、挑戦者としっかりと戦うためにも休憩は必要だ。

 

「それと、一応聞いておきますが、プラズマ団のお二人も彼等が戦う事について、どう思いますか?」

 

「思うところはあります。ただ、今ポケモンバトルは多くの人々を沸かせるものであるのは確か。理由も理由ですから仕方ありません」

 

 今回は何も言う気は無いと、ゲーチスは語る。

 

「全力で掛かって来たまえ、サトシ君」

 

「はい、全力で挑みます!」

 

 こうして、サトシの三つ目のバッジを賭けたジム戦が行われようとしていた。

 


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