ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「ハハコモリ、いとをはく!」
「ハッハーーーン!」
「……ロス。――カイ!」
「ハハン……!」
カイロスは迫る粘着性の糸をかわすと、素早くハハコモリに接近。右から攻撃――と見せかけ、左から攻撃を放ち、ダメージを与える。
フェイントと呼ばれ、素早く放てるのとまもるなどの防御技を無効にする技だ。
「カイ!」
「シザークロス! ハハコモリ、こちらもシザークロスで迎え撃て!」
「ハッハーーーン!」
ハハコモリはその両手で、カイロスはその鋏で交差の一撃を放つ。
「――ロス!」
「ハハンッ!」
同じ技が激突するも、威力は力があるカイロスの方が上だった。押し負けたハハコモリは後退させられる。
「――カイ!」
「ハンッ!」
更に後退した間を狙い、カイロスは再びフェイントを放つ。少しずつだが、着実にハハコモリはダメージを受ける。
「大丈夫かい、ハハコモリ?」
「ハ~ン」
「良かった。にしてもハハコモリ以上の素早さと力強さ、か」
おまけに、それらを十二分に活かす技術と冷静さも感じられる。
「なるほど、今まで倒してきたポケモン達とは一味も二味も違うね」
「……」
ジムリーダーの自分でも手こずる相手だと、アーティは素直にカイロスの実力を認めた。
「アーティさんでも手こずるんだ……」
「私達以外を倒したポケモン。……それだけの実力の持ち主と言う事ね」
アーティと渡り合えるカイロスに、マコモやショウロ達は改めて戦慄を抱く。
「仕方ない。――ホイーガ、イシズマイ!」
「――イーガッ!」
「――イマッ!」
アーティは二つのモンスターボールを取り出し、二匹のポケモンを繰り出す。
一匹は、デントの手持ちと同じイシズマイ。もう一匹は、繭に刃や目が付いた様な繭百足ポケモン、ホイーガ。フシデの進化系だ。
「一体を相手に複数と言うのはジムリーダーとしては情けないが、ヒウンシティを守る為。それに、君達も仲間は大量にいるからね」
敵はカイロスだけではない。他にもいる。ジムリーダーのプライドと、ヒウンシティと多くの人々やポケモン。どちらか大事かと言えば、後者だ。故に、全力を尽くす。
「……」
一方、カイロスは敵が増えても動じない。周囲の敵に対応しながら一匹ずつ確実に倒す。それだけだ。
「ハハコモリ、再度いとをはく! イシズマイ、うちおとす! ホイーガ、どくばり!」
「ハッハーーーン!」
「イマイ!」
「イーーーガッ!」
「……ロス」
迫る糸、岩、針。それらを無駄の無い動きでかわしながら、カイロスはあるヶ所を見る。
マコモとショウロ――正確には、彼女達といるムンナとムシャーナにも注意を払っていた。
厄介な状態異常である眠りにする、さいみんじゅつを警戒してだ。トレーナーや警官達を相手している時に放ったため、二匹が使うのは知っていた。
「――ロス!」
カイロスは足に力を込めて地面を蹴る。すると、物凄い音と共に瞬時にイシズマイに接近した。
「――カイ!」
「イマ!? ――ズマーーーッ!」
角で挟み、そのまま物凄い力で地面に叩き付け、ダメージを与えてからホイーガに向かって放り投げる。
ハハコモリが慌ててキャッチしようとしたが、そこをカイロスは追撃しようとしていた。
「ホイーガ、どぐばり!」
「ホイー……!」
「――ロス!」
「何!?」
「ガガッ!」
再度毒の針を発射しようとしたホイーガだが、その前にカイロスが毒の針を放つ。
「カイ! ――ロス!」
「ホイッ! ガッ!」
思わぬ攻撃に怯んだ隙に、カイロスはまたフェイントをホイーガに叩き込む。更に続けてシザークロス。
「……」
連続攻撃を当てると、素早く後退。無闇に深追いはしない様だ。
「やるね……。イシズマイを攻撃したのは、ばかぢからか」
全身の力を引き出して攻撃する大技。しかし、その分余程鍛えてないと攻撃や防御が低下する反動がある。
それが無いことから見ても、やはりこのカイロスは鍛えられている。また、カイロスは足に力を集中させる事で、瞬発力を高める応用も使っていた。
(ただ、どくばりが少し気になるね……)
見たところ、カイロスには毒タイプの雰囲気が感じられない。
勿論、毒タイプだけの専門技とは限らないため、単なる思い込みの可能性もあるが、針の要素が無いカイロスが使ったのがどうにも引っかかる。
「ロス!」
「またフェイントか! ホイーガ、てっぺき!」
「イーガ!」
「――カイッ!」
迫るカイロスに、ホイーガは防御力を高めた。しかし、カイロスは寸前で動きを変更し、ハハコモリに角からぶつかる。
「ハハコモリ! 反撃のむしのさざめき!」
「ロス! カイッ!」
虫の力が込められた音を、カイロスは素早く跳躍してかわす。着地すると、ばかぢからの力で猛加速。イシズマイに迫る。
「イシズマイ、うちおとす!」
「イシ――」
「ロスッ!」
力で作った石を放とうとしたイシズマイだが、それよりもカイロスが先に同じ行動を取り、石をイシズマイに命中させて吹き飛ばす。
「うちおとす!? ハハコモリ、いとをはく! ホイーガ、どくばり!」
「ハー……!」
「ホイー……!」
「カイーーーッ!」
糸と毒針で対応しようとしたが、カイロスは今度は口から粘着性の糸を発射する。
「今度はいとをはく!?」
次々と技を出すカイロスに、アーティは驚く。
「アーティさん! そのカイロス、技を次々と使ってるんです!」
「それも、虫タイプのポケモンが使わない様な炎タイプや飛行タイプ、水とか電気の技まで~! だから、対応仕切れなくてやられたんですよ~!」
炎に飛行、水や電気。それらの要素が無いにも関わらず、多種多様にも程がある。少し考え――気付いた。
「――そうか、さきどりか」
相手が使った技を返すオウムがえしと似ているが、違うのは相手が使おうとした技を威力を増した状態で放つ技だ。ただ、先に放たなければ失敗する扱いの難しい技でもある。
そんな技をトレーナー無しでもある程度上手く使う所を見ても、このカイロスの実力が分かる。やはり相当手強い。
(それに、複数の相手との戦い方が上手い)
カイロスは武器である角で敵を挟んで身動きを封じ、別の相手に投げたりしてくる。
それが、まもるなどの防御技を封じるフェイントが上手く噛み合っている。
少しでも早く倒そうとホイーガやイシズマイを出したのは、逆効果と言わざるを得ない。
おまけに、ジムリーダーとしての実力があるため、こちらが一対多の対応は慣れているが、その逆は慣れてないのもこの苦戦の原因だった。
「う~! 全然隙がな~い!」
「迂闊に放っても、アーティさんのポケモン達に当たったら不味いし……」
「ムナ~……」
「シャナ~……」
アーティ達と、カイロスのバトルをマコモとショウロはただ見ている訳ではない。
隙有らば、さいみんじゅつでカイロスを眠らせようとしているが、向こうはこちらを常に警戒しており、先ず当たる様子が無かった。
下手すると、アーティのポケモン達に命中する可能性もあったため、彼女達は技を出せなかったのだ。
「――だったら」
「何か手があるの、お姉ちゃん?」
「一つ。耳を貸して」
ショウロは頷き、マコモからその作戦についての説明を聞くと、おぉと関心した表情になる。
「ショウロ、タイミングは分かってるわね?」
「勿論!」
そのタイミングを見計らうべく、マコモとショウロはアーティ達とカイロスのバトルを見守る。
「カイ!」
カイロスがフルパワーを地面に叩き付ける。地面のコンクリートが破片となって浮かび上がり、アーティとそのポケモン達を襲う。
「目眩ましと攻撃を同時に……!」
「ロス! ――カイッ!」
礫に気を取られた隙に、カイロスが高速で迫る。フェイントだ。ハハコモリに攻撃――と見せ掛け、中止してイシズマイを角で挟み込み、ばかぢからを発動してからホイーガに叩き付けた。
「ホイーーーッ!」
「ズマーーーッ!」
「ホイーガ、イシズマイ! ハハコモリ、れんぞくぎり!」
「ハハハンッ!」
「カイッ!」
ハハコモリのれんぞくぎりを、カイロスはシザークロスで弾き飛ばす。
「カイ!」
「ハハン!」
「そこだ! イシズマイ、うちおとす!」
そして、再度シザークロスを放ち、逆にダメージを与える。しかし、その直後にうちおとすが迫る。
技を放った後の為、カイロスは食らう。効果抜群のダメージに少し表情を歪めるも、まだ終わりではない。ホイーガが回転しながら迫って来た。
「ハードローラー!」
「ホイーーーッ!」
「カイ……!」
猛回転しながらの体当たり。怯ませる追加効果も有る虫タイプの技、ハードローラーだ。
ハハコモリ、イシズマイ、ホイーガの連携を前に、流石のカイロスも避けきれずに直撃する。
「ロス……!」
食らったカイロスは軽く後退するも、残念ながら怯みの追加効果は発生していなかった。だが、二度命中させれた。
「どうだい?」
「ロス……」
不敵な笑みのアーティに、やるなと呟くカイロス。やはり、彼等は手強い。
「カー――」
「――今だよ、ムンナ! さいみんじゅつ!」
「ムンナーーーッ!」
反撃にフェイントを仕掛けようとしたカイロスだが、そこにムンナのさいみんじゅつが迫る。
「――ロス!」
しかし、カイロスは身体を捻って軽々と回避する。その直後だった。背後から嫌な予感がしたのだ。思わず振り向くと、ムシャーナとマコモがいた。
何をする気だと訝しむカイロス。ムシャーナはさいみんじゅつの軌道上にいる。
あのままでは当たるだけ、何故タイミングをずらして放たない。その一瞬の思考の間が、勝敗を決めた。
「ムシャーナ、マジックコート!」
「シャナ~!」
ムシャーナの前に光の壁が展開される。それはさいみんじゅつの波動を跳ね返し、迷いで一瞬だけ動きが鈍ったカイロスに見事命中した。
「カ……イ……!」
「ハハコモリ、シザークロス! ホイーガ、ハードローラー!」
「ハッハーーーン!」
「イーーーーガッ!」
「ロス……!」
迫る強烈な眠気に必死に抵抗しようとしたカイロスだが、そこにハハコモリとホイーガの技を受けて吹き飛ぶ。
「ムンナ!」
「ムシャーナ!」
「サイケこうせん!」
「ムンナーーーッ!」
「シャナーーーッ!」
「カイ……!」
更にムンナとムシャーナから、サイケこうせんを食らわされ、続いて吹き飛ぶ。
「イシズマイ、がんせきほう!」
そして、アーティはイシズマイに岩タイプ最強技を指示する。
「イシー……ズマーーーッ!!」
イシズマイは巨大な岩石を出すと、カイロスにしっかりと狙いを定め――岩石を発射。それは寸分の狂いもなく命中。
「カ、イ……」
流石のカイロスも、無防備な状態で続けざまの攻撃や、岩タイプ最強の技を食らっては耐えきれず、悔しそうに倒れた。
「済まないね、カイロス。だが、こちらは手は選んでいる余裕がないんだ」
カイロスに謝るアーティ。彼としては、自分と三匹の実力だけで勝ちたかったが、こんな状態ではそんな余裕はない。
「やった~!」
「にしても、手強いポケモンだったわ……」
「確かに」
ジムリーダーの自分でさえ、慣れてない状況にしてしまった失敗があるが、それでもマコモやショウロの姉妹、ムンナやムシャーナのサポートが無ければ、負けはしないがもっと苦戦していただろう。
カイロスの実力。また、これほどのポケモンを出してきたロケット団の力を、アーティは強く実感した。
「僕もまだまだ純情ハートが足りないと言うことか」
「……純情ハート?」
「あ~、それ気にしなくて良いよ、お姉ちゃん。アーティさん独特の持論だから」
妹の台詞に、余裕も無いので姉はそうすることにした。
「マコモさん、ショウロちゃん。ここはしばらく僕が防衛する。その間に傷付けたポケモン達や人々の手当を」
「わかりました」
「お任せ~」
姉妹は頷くと、負傷した人々やポケモン達をバトルクラブに誘導する。
「ハハコモリ、ホイーガ、イシズマイ。戦いの後でキツイだろうが、もうしばらく頼むよ」
「ハハーン」
「ホイ」
「マイマイ」
このヒウンシティの為に戦う。その使命を持って、彼等は次に来るポケモン達と対峙する。
「サトシくん、このポケモン達の名前とタイプは?」
「紫色のポケモンがゲンガーで、タイプはゴーストと毒。飛んでいるのは、プテラでタイプは岩と飛行です」
「ありがとう」
セントラルエリアへ続く道路。そこでは、サトシとN、更に合流したワルビルがゲンガー、プテラと対峙していた。
「――ゲン!」
ゲンガーが先手を打つ。自身の後ろに白い球を複数出すと――白い球が強烈な光を発生させる。
「眩し……!?」
「これはフラッシュ……!」
強い閃光で相手の眼を眩ませる技だ。本来は不意を突いたり牽制する為の技だが、ゲンガーは違う。同時に次の技の布石になる。
「ガーーーッ!」
「うわぁああっ!?」
「くっ!?」
「ピカァッ!」
「ゾロッ!?」
「カブッ!?」
「ワルビッ!」
光で怯み、腕で覆ったり、眼を瞑るサトシ達に、何かが攻撃した。
「い、今のは……!?」
「……分からない」
光で見えなかっため、何が起きたかは不明。だが、何らかの攻撃なのは間違いない。
「ゲゲゲ……ッ! ――ゲン!」
「プテ! ラーーーッ!」
不敵に笑うゲンガーだが、それは一瞬。仲間に呼び掛ける。プテラはそれに素早く応え、飛び立つと爪翼で羽ばたく。すると、風が周囲に吹き荒れ出す。
「この技は……!」
「おいかぜだね……」
特殊な風により、自身や味方の速さを上げる事が出来る補助技だ。これでゲンガーとプテラのスピードが増した。
「ゲン!」
「プテ!」
「――速い!」
ゲンガーとプテラが迫る。二匹は凄まじい速度で迫り、ゲンガーは影の力を込められた爪――シャドークローを、プテラは速度を活かし、翼を構えながら突撃――つばさでうつを放つ。
「ルビッ!」
「カブッ!」
その速度は凄まじく、ワルビルとポカブがかわす間もなく食らう。威力も充分にあり、ダメージは小さくない。
「ゲン!」
「あの球!」
「またフラッシュ……!」
「ガーーーッ!」
また閃光が炸裂。サトシ達は視界を眩ませられ、その直後に衝撃が走る。
「これは……」
その際、Nがあるものを見た。ゲンガーのこの技の正体を。
「くそっ、何なんだ、あの技……!?」
「かげうちだよ」
「かげうち……」
「分の影を伸ばして攻撃する技。ただ、普通は複数の相手を同時に攻撃出来ない」
「じゃあ、ゲンガーはどうやって?」
「フラッシュ。あの技で自分の影を複数作って、同時攻撃しているんだ」
フラッシュは目眩ましだけではなく、かげうちに繋げる為の事前の準備だったのだ。
「……厄介ですね」
フラッシュとかげうちのコンボ。これの厄介な点は、フラッシュで視界を制限された状態で攻撃される事だ。回避がほぼ出来ない。
「うん、厄介だ。だけど、対応出来ない訳じゃない」
種が分かれば、手の打ちようはある。それに、本来は一つの影で攻撃する技を複数にしていると言うことは、その分力を使うか本来よりも威力が低下しているはず。後者ならダメージを抑えれる。
「プテー……ラーーーッ!」
「げんしのちから!」
ゲンガーの種は分かったが、敵はもう一体いる。翼竜が空から原始のエネルギーを塊にする。更にプテラは塊に追い風を当て、加速させて発射した。
「ピカチュウ、10まんボルト!」
「ピーカ、チューーーッ!」
「ワルビーーーッ!」
電気と無数の岩が、げんしのちからを相殺していく。
「ガーーーッ!」
「ポカブ、はじけるほのお。ゾロア、シャドーボール」
「カブーーーッ!」
「ゾローーーッ!」
しかし、敵はプテラだけではない。ゲンガーがシャドークローを構えた状態で迫るも、そこはN達がカバー。
炎と影の球により、ゲンガーは接近を中断。距離を取って様子を見る。
「ありがとうございます、Nさん」
「どういたしまして。……にしても、やはり強いね。彼等」
「えぇ……」
技の威力、身体能力共に高い。どちらも強敵だった。
「それに……他にも不味い事がある」
「……それって?」
「おいかぜ。他のロケット団のポケモン達がその影響で速くなっている」
周りを見るサトシ。Nの言う通り、他のポケモン達はおいかぜによってスピードが増し、トレーナーや警官達に苦戦を強いていた。
「早く、プテラを倒さないと……!」
「いや、仮に直ぐに倒せてもおいかぜはしばらく続く」
おいかぜとはそういう技だ。一度使われた以上、時間が立たない限りは消えない。となると、次の間までに倒すしかない。
「だったら――ミジュマル、ハトーボー、ポカブ、クルミル!」
「ミジュ!」
「ハトー!」
「カブ!」
「クルル!」
四匹を繰り出すサトシ。但し、この四匹はゲンガーとプテラを倒すために出したのではない。
「皆、俺達がゲンガーとプテラと戦う間、他の人達の援護をしてくれ!」
サトシの指示に少し間を置いてから四匹は頷き、トレーナーや警官達の援護に回る。
「それと――ツタージャ!」
「――タジャ」
更にサトシは、アイリスに預けたズルッグを除いた残る一匹、ツタージャも出す。これで準備は整った。
「良い判断だ、サトシくん」
ゲンガーとプテラは強い。残念だが、あの四匹では優れた指示があっても倒されてしまうだろう。
それに、他の暴走しているポケモン達はともかく、この強敵には数を多くすると、指示や判断が鈍くなる可能性がある。
ならば、対抗出来るだけの実力を持つポケモン達だけで戦い、残りは援護に回した方が良い。
「サトシくん、少し耳を」
Nはサトシにある作戦を伝える。強敵とはいえ、時間は掛けられない。一気に決める必要がある。
「行こう」
「はい」
作戦を立て、サトシ達はゲンガーとプテラに挑む。
「ドードドドーーーーッ!」
「ミジュ!」
「ポカッ!」
喜び、悲しみ、怒り、それぞれ異なる三つの顔と三尾が特徴の、鳥ポケモン、ドードリオが三つの顔を使ってみだれづきを放つ。
攻撃を受けて軽く吹き飛ぶミジュマルとポカブだが、直ぐに体勢を立て直すと左右に分かれる。
分かれた二匹の内、ドードリオはミジュマルを優先したらしく、そちらに向かって突いていくも、そこをポカブが丸い身体にかみついた。
「ポカーーーッ!」
「ドードー!」
「ミジュマ!」
「ドーーーーッ!」
痛みに苦しむドードリオが再度、みだれづきをポカブに放とうとするも、そこをミジュマルがシェルブレード。防御を下げつつダメージを与える。
「ポカ! カー……ーーーッ!」
ミジュマルがアシストした隙に、ポカブは離れて着地。続いて身体に熱を溜め込むと、鼻から一気に発射。高熱の突風――ねっぷうをぶつける。
「ドドドーーーーッ! ドー……!」
「ミジュー――マー!」
ねっぷうを食らったドードリオだが、まだ終わりではない。ミジュマルはアクアジェットを発動し、素早くダメージを与える。
「ド、ドー……!」
「ポカポカポカ……カーブーーーッ!」
二匹の連携に、ドードリオはどう対応すればと戸惑っていると、ポカブがその隙にニトロチャージを当てる。
「ミジュー……マーーーッ!」
「ドーーーーッ! ド、ド……」
ミジュマルは力を込めると、口から塩分が混ざった水――しおみずを発射。技の性質により、残り少ない体力を容赦なく削り取り、ドードリオは倒れた。
「ミジュ!」
「ポカ!」
よっしゃ、やったと二匹はドードリオ撃破に喜ぶも、互いを見ると頷き、一緒に次を倒しに行く。
「ドゴーーーッ!」
「ボーーーッ!」
「クルル!」
青紫色の身体に、大きな耳、厳つい顔や大きく開いた口が特徴の大声ポケモン、ドゴームが大声で叫ぶ。さわぐだ。
耳鳴りするほどの音量のその技を食らい、ハトーボーとクルミルはダメージを負うも、やられっぱなしでいる気は無い。
「ハトー……ボーーーッ!」
「ドゴ……!」
風により、ドゴームはその場に留められる。
「クルルルルッ!」
そこに、風を利用してで加速したクルミルがドゴームに接近。むしくいでダメージを与えていく。
「クル!」
「――ボーーーッ!」
「ドゴッ!?」
何度か噛むと、クルミルはドゴームを足場に離れ、その直後にハトーボーがでんこうせっかを叩き込む。
「クルーーーッ!」
「ドゴゴゴッ!?」
ダメージに怯んだ所に、クルミルが糸を吐き出し、ドゴームの全身に巻き付けて動きを封じる。
「ハトー……ボッ!」
「クルルル!」
「ドゴゴーーーッ!」
ハトーボーとクルミルが、真空の刃と草の刃を発射。糸を切りながらも、ドゴームにダメージを蓄積させる。
「ドゴー……!」
「クル!」
「ムッ!?」
さわぐでハトーボーとクルミルを吹き飛ばそうとしたが、そこにクルミルがたいあたりで妨害した。
「ハトー……ボーーーーーッ!!」
「ゴーーーームッ!」
たいあたりで怯んで出来た隙に、ハトーボーがつばめがえしを放つ。ドゴームは転がると、目を回して倒れた。
「クル!」
「ボーッ!」
ハトーボーとクルミルは互いを見合わせ、うんと頷いた。一匹倒したが、まだ敵はいる。次へと二匹は向かう。
「ツタージャ、メロメロ!」
「ター……ジャ」
時間は作戦を決めた後まで戻る。ツタージャがウインク。ハートマークが現れ、プテラに迫る。
「プテ!」
メロメロだと分かり、プテラはげんしのちからを発動。ハートマークを壊していく。
その時、横から地面を蹴るような音がした。プテラがそちらを振り向くと――ツタージャがいた。どうやら、建物を蹴ってここまで跳躍したらしい。
「プテー……!」
メロメロは自分に近付く為のフェイクかとプテラは判断した。
しかし、甘い。飛行出来ないポケモン以外で自分に空中戦を仕掛けるのは無謀だ。そう言わんばかりにつばさでうつを放とうとした。
「――タジャ」
その直後だ。声がして振り向くと――ツタージャがもう一匹いた。ツタージャが増え、プテラの目が困惑で見開く。
「――ピッカァ!」
「プテ!?」
そこに、更にピカチュウも迫っていた。
「ゲンー……!」
「させないよ。ポカブ、はじけるほのお。ワルビル、ストーンエッジ」
「カブーーーッ!」
「ワルビーーーッ!」
「ガッ!?」
プテラの状況を見て仲間が不味いと判断し、助けに行こうとしたゲンガーだが、Nは行かせるつもりはない。炎弾と尖石で少しのダメージを与えながら妨害する。
「ピカチュウ、アイアンテール! ツタージャ、アクアテール! そして――ナイトバースト!」
「ピッカァ!」
「タジャ!」
「――ゾロ!」
「プテーーーッ!」
一方、N達のおかげでサトシは戸惑ったプテラに鋼と水の尾、暗黒の力を叩き込めた。
三つの技、しかもその内二つは効果抜群の技を受け、プテラはかなりのダメージを負って落下するも、戦闘不能になってはいない。
翼を広げ、ゲンガーの方に移動。ゲンガーはプテラを守るように前に出る。
「くそっ、今ので倒せなかったか……!」
「でも、小さくないダメージは受けてる」
その上、アイアンテールで防御が低下している。倒しやすくはなっているはずだ。
「冷静に次のチャンスで決めよう」
「分かってます。――後、どれだけ行けますか?」
「一回が限度だろうね」
サトシとNがその作戦について話していると、プテラもゲンガーにさっきのツタージャが増えた件を話していた。
かげぶんしんか他の何かではとゲンガーは考えるが、プテラは違うと語る。
もう一体のツタージャは違う技を、それも見たことない技を使っていた。分身なら同じ行動を取るはずだ。
「――悪いけど、こっちには時間が無い。直ぐに決めさせてもらうよ。ゾロア、シャドーボール。ポカブ、はじけるほのお」
「ピカチュウ、エレキボール! ツタージャ、たつまき! ワルビル、ストーンエッジ!」
「ゾロローーーッ!」
「カブーーーッ!」
「ピカピカァ!」
「ター……ジャ!」
「ワルー……ビーーーッ!」
一気に終わらせる為にも、二匹に考える隙など与えない。五つの攻撃を仕掛ける。
「プテーーーッ!」
「ゲーーーンッ!」
プテラは原始のエネルギーの塊を、ゲンガーは影の力を球状にした技、シャドーボールを複数放って相殺していく。
「ゲン!」
更に、ゲンガーは閃光を放つ球を展開する。今度はプテラも前に出た。
「フラッシュが来る」
またフラッシュで目眩ましをし、その隙にかげうちを放つのだろう。おまけに今度はプテラもいるため、先程よりも厄介だ。
一つ数える前に、球が音もなく弾ける。強烈な閃光が放たれた。
「ガーーーッ!」
「プテ……ラーーーッ!」
複数の光により、ゲンガーの影が複数になる。その影がサトシ達に高速で迫る。プテラは口から竜の力の強烈な波動、りゅうのはどうが放たれ、やはりサトシ達に迫る。
「ワルビル、前に壁にするようにストーンエッジ!」
「ワルビィ!」
「伏せるんだ!」
ワルビルが地面に拳を叩き付ける。尖った太い岩がサトシ達の前に次々と現れ、かげうちとりゅうのはどうを受け止めた。
しかし、一匹で格上二匹の技を止めきれる訳もなく、全て破壊される。だが、サトシ達は咄嗟に伏せたため、ダメージは最小限だった。
「ピカチュウ、でんこうせっか!」
「ポカブ、ころがる。ジグザグに」
「ピー……カッ!」
「カブカブカブ!」
「ゲン!?」
「プテ!?」
煙から、ピカチュウとポカブが高速で動いてゲンガーとプテラを翻弄する。
「今だ、出てこい!」
サトシの声に、ゲンガーとプテラが反応。二匹はサトシを見るも、それはフェイク。二匹の足下からコンクリートが盛り上がる。
「ワルビーーーッ!」
ワルビルが姿を現す。煙を目眩ましにし、あなをほるを仕掛けたのだ。
「ゲン!」
「プテ!」
しかし、二匹は素早く反応。ゲンガーはシャドークローで引っ掻き、プテラはつばさでうつで移動しながら攻撃。ワルビルはかなりのダメージを受ける。
「――ゾロア、シャドーボール」
「ゾロ!」
「ゲン!? ガーーーッ!」
その直後、穴からゾロアが出てきて、零距離でシャドーボールをゲンガーに向けて放つ。
「ツタージャ――おいうち!」
「――タジャ!」
「ゲンーーーッ!」
更に、ゾロアと一緒に穴に潜んでいたツタージャが高速で迫り、ゲンガーに蹴りを叩き込む。
ゴーストタイプに抜群のダメージを与える悪タイプの技であり、相手が後退したり、追撃時に放つと威力が増すテクニカルな技だ。
シッポウシティのバトルクラブの特訓により、身に付けた技である。
「今だピカチュウ、エレキボール!」
「ポカブ、はじけるほのお」
「ピカ――」
「カブ――」
「プテーーーッ!」
ゲンガーに止めを刺そうとしたサトシ達だが、そこにプテラが妨害するようにつばさでうつを仕掛ける。
「かわせ、皆!」
咄嗟に回避するピカチュウ達だが、その間にゲンガーがかげうちを発動。
ピカチュウ、ゾロア、ポカブ、ツタージャ、ワルビルを高速かつ順番に攻撃する。
「テラーーーッ!」
「うぅっ!」
「くぅ……!」
そこに、プテラが上空からげんしのちからを発動。サトシ達に向かって叩き落とし、ダメージを与えていく。
「ゲンーーーッ!」
しかし、二匹の攻撃はまだ終わらない。ゲンガーは複数のシャドーボールを発射。サトシ達を追い込んでいく。
「プテーーーッ!」
「ゲンーーーッ!」
翼竜と影ポケモンが、追い込みにシャドーボールとりゅうのはどうを放つ。
「おりゃーーーっ!」
「よっと」
迫る二つの技を、その前にサトシとNが五匹――サトシがピカチュウ、ツタージャ。体格が勝るNがゾロア、ポカブ、ワルビル――を担ぎ、技から回避させる。
「間一髪……!」
「試合なら反則だけどね」
ポケモンを担いで攻撃を避けさせるなど、ポケモンバトルだったら反則だ。とはいえ、今は試合ではないのでセーフである。
二人はポケモン達を見る。全員、ゲンガーとプテラの猛攻により、ダメージを受けていた。特に、ツタージャ、ポカブ、ワルビルはかなり消耗している。
「次で決めよう」
「ですね」
これ以上のダメージは厳しい。次で一気に決着を着けるべきだ。
「ツタージャ、フルパワーでたつまき!」
「ター……ジャ!」
ありったけの力を込め、大規模な竜巻を放つツタージャ。これで二匹の足止めの時間を稼ぐ。
「ワルビル、出てこい!」
「ワルビーーッ!」
再度、ゲンガーとプテラの下からワルビルが現れた。二匹は即座に反応、攻撃しようとしたが――直後、ワルビルの姿が歪む。
「ゲン!?」
「プテ!?」
「――ゾロ」
そのワルビルは、ワルビルではなかった。特性、イリュージョンで変化していた、ゾロアだったのだ。
先程のもう一匹のツタージャの正体もゾロアであり、イリュージョンによる翻弄こそ、Nの提案した作戦だった。
「――ワルビッ!」
二匹がイリュージョンに驚いたその隙。そこを、本当のワルビルが突く。
「ルビッ! ワルゥ!」
「ゲンーーーッ!」
「プテーーーッ!」
ゲンガーにかみつくを命中させ、次にその状態で身体を回してプテラをゲンガーに叩き付けながら離す。二匹は軽く吹き飛ぶ。
「ピカチュウ、10まんボルト!」
「ゾロア、ナイトバースト」
「ピーカ……チューーーーーッ!!」
「ゾロ……アーーーーーッ!!」
一緒に吹き飛んだゲンガーとプテラに、強烈な電撃と暗黒が命中した。
「ワルー……ビルーーーーーッ!!」
まだ終わりではない。次にワルビルが大型の方のストーンエッジを放ち、二匹の体力を削っていく。
「これで……!」
「決める」
「ツタージャ、ゲンガーにおいうち!」
「ポカブ、プテラにころがる」
「――タージャ!」
「――カブーーーゥ!」
「ゲーーーンッ!」
「テラーーーッ!」
〆に、おいうちところがるが命中。ゲンガーとプテラは大きく転がると――目を回した。
「ゲ……ン……」
「プ……テ……」
「よーーーしっ!」
「倒したね」
かなり消耗しながらも、何とかこの強敵二匹を撃破出来た。
「ミジュジュ!」
「ボー!」
「ポカポカ!」
「クルル!」
「皆! 良かった、無事だったか……」
直後、ミジュマル、ハトーボー、ポカブ、クルミルの四匹がサトシの元に戻って来た。四匹は少なくないダメージを受けていたが、笑って見せた。
「皆、頑張ってくれてありがとな」
気にしないでと四匹はまた笑い、サトシは頑張った彼等を労うように撫でた。
「ワルビルもありがとな」
「君がいて助かったよ」
「ワルビ」
ワルビルがいなければ、もっと苦戦していただろう。仲間が倒されていた場合もあり得た。
「にしても、ヒウンシティにまで来たんだな」
「ルビルビ」
「お前とピカチュウを倒すためだってさ」
とはいえ、今はこんな事態。自分の事情より、パニックになっている人々やポケモン達の救助の方が優先。だからこそ、サトシ達に協力したのだ。
「皆さん、傷薬や木の実で手当をします。少し休んでください」
「でも、直ぐに向かわないと――」
「サトシくん、休憩や手当も必要だ。逸る気持ちは分かるけど、今は僅かなこの時間をしっかりと休もう。自分の身を疎かにして倒されては、元も子もない」
「……はい」
サトシは逸る気持ちをグッと抑え込む。Nの言っている事は正論だ。自分だけでなく、仲間を倒されるのは避けるべきである。
救助やフシデ達の確認に備え、サトシはしっかりと休んだ。
こうして、七体の強敵とのバトルは、少なくない被害を出しながらもサトシ達が勝利したのであった。
だが、まだ終わりではない。ポケモン達はまだまだ暴れているのだから。
「テッカーーーッ!」
「ヌケーーーッ!」
「ハトーボー、つばめがえし! プルリル、たたりめ! ヒトモシ、かえんほうしゃ!」
「ヤナップ、かみつく!」
「ボーーーッ!」
「プルーーーッ!」
「モシーーーッ!」
「ヤナ!」
手当で手持ちが回復したシューティーとデント達は、虫タイプを持つ二匹のポケモンの技、れんぞくぎりやシャドークローを回避すると、その二匹の弱点を突く技を当てる。
「テッ、カ……」
「ヌ、ケ……」
その技が決め手となり、その二匹のポケモンは倒れた。
「ふぅ、どちらも厄介なポケモンだったね……」
二人が倒したのは、片方は忍ポケモン、テッカニン。もう片方は脱け殻ポケモン、ヌケニン。一匹のポケモンから進化する二匹だった。
「特性、『かそく』に『ふしぎなまもり』……。どちらも普通に相手したら苦戦しますよ、これ」
かそくは時間が経てば経つほど、速さが上がる特性。ふしぎなまもりはなんと、弱点攻撃以外では状態異常や特殊な技ではないとダメージを受けないと言う、とんでもない特性だ。
どちらも正面から戦っていた場合、苦戦は必須だろう。時間が経って今程ではないが、まだ興奮していたため、直ぐに倒すことが出来た。
テッカニン、ヌケニンを倒したシューティーとデントは、他のトレーナーや警官達に協力し、周りのポケモン達を撃破する。
「倒したけど……」
「全然前に行けませんね……」
苦労してフーディンを倒したというのに、まだまだ来るポケモン達のせいで、救助も避難誘導も上手く行かない。
休憩もままならないため、精神的にも肉体的にも疲れるばかりだ。ユリやキクヨは無事だろうか。
「……助けとか来ませんか?」
「……難しいね」
警官達によると、通信機能がやられているため、救援は期待出来ない状態だった。
「――オムーーーッ!」
「――プスーーーッ!」
「くっ、次のポケモン達か!」
また迫るポケモン達。シューティーは素早い対策を取るべく、先ずは前にいる二匹、水色の触手がある身体に、背中の大きな殻が特徴のポケモンと、茶色の身体に鎌が特徴の二足歩行のポケモンの情報を図鑑で得る。
『オムスター、渦巻きポケモン。オムナイトの進化系。鋭い牙と触手が武器だが、背中の殻が大きくなりすぎた結果、エサを取れなくなって絶滅らしい』
『カブトプス、甲羅ポケモン。カブトの進化系。狙う獲物が海から陸に住処を変えたため、カブトプスも陸に上がったと推測されている』
「カブトの進化系……!?」
シッポウジムがある博物館で見た、カブトの化石。その進化体に、シューティーは驚く。
「それに、もう片方のオムスター。絶滅したらしいって事は……あのポケモンも昔のポケモン?」
また、絶滅したというオムスターの情報に、デントは昔のポケモンでは予想していた。
「ブトーーーッ!」
「ムスーーーッ!」
「つじぎりととげキャノン!」
カブトプスは得物である鎌で切りかかり、オムスターは棘型のエネルギーを連射する。
シューティーとデントは、急いで回避の指示を出し、ダメージを最小限に抑える。
「このままだと……!」
回復したとはいえ、フーディン戦での消耗は激しい。このまま戦い続けたら、こっちが先に限界を迎えてしまう。
「トプーーーッ!」
「スターーーッ!」
「しまっ……!」
蓄積した疲労で判断が鈍ったその一瞬に、オムスターとカブトプスが迫る。不味いと思ったその時――横から無数の同じ攻撃が放れ、オムスターとカブトプス、他のポケモン達も吹き飛ばす。
「オムッ!?」
「ブトッ!?」
「今のは……?」
十は簡単に超える大量の攻撃。しかし、それだけの量を一体誰が放ったのだろう。シューティーとデントが攻撃の放れた方向を向くと。
「き、君達は……!」
その存在達に、驚愕から二人だけでなく、多くのトレーナーや警官達が目を見開いた。
「オノォ! ノノォ!」
ポケモンセンター前。片刃の黒竜、オノノクスが雄叫びを上げながら両手のドラゴンクローで一匹一匹倒す。
「――ノクス!」
尻尾で薙ぎ払って吹き飛ばし、腕をブンと勢い良く振るう。すると、ポケモン達の上から岩石が落下し、ポケモン達を襲う。その攻撃により、また数匹が倒れた。
「オノォオオォーーーッ!!」
手持ちのポケモン達が倒され、回復まで戦線離脱したベルやカベルネ達に代わり、一匹でこの場所を守っていたオノノクス。
その実力は圧倒的で、一匹だけにも関わらず、ロケット団のポケモン達を次々と撃破していく。カイリキーやボスゴドラを含めると、既に五十は倒していた。
そのあまりの強さと迫力、次々と倒れた味方達の姿、暴走中のポケモン達すら実力差を悟って恐れ戦き、後退りしていた。
「……」
オノノクスは雄叫びを上げると、次に無数の敵を無言ながらも鋭い眼差しで睨み付けた。ロケット団のポケモン達はビクッと脅え、下がっていく。
「エビィ!」
「サワァ!」
「カポォ!」
しかし、その内の三匹が意地から前に出る。パンチを得意とするパンチポケモン、エビワラー。キックを専門とするキックポケモン、サワムラー。角を使い、逆立ち状態からの独特な攻撃を扱う逆立ちポケモン、カポエラー。
ちなみにこの三匹、同じポケモンから進化するポケモンだったりする。
「エビエビエビッ!」
自分の間合いまで距離を詰め、れんぞくパンチを放つエビワラー。
「――オノ」
「ワラッ!?」
拳の速さ、鋭さはパンチポケモンと言われるだけあって中々なものだが、オノノクスは両手で軽々と受け止める。得意の技を難なく止められ、エビワラーは目を見開く。
「サワーーーッ!」
そこに、サワムラーが飛び上がると蹴りを放つ。外すとダメージを受けるリスクはあるが、格闘タイプの中でも最高峰の威力の技、とびひざげりだ。
「――ノクス」
「エビッ!?」
「サワ!? ――ムラーーーッ!」
オノノクスはその力でエビワラーをサワムラーに向け、放り投げる。二匹は衝突し、地面に落下した。
「カポーーーッ!」
カポエラーが近付き、逆立ち状態で回転しながら蹴りを放つ。トリプルキックと呼ばれる技だ。
「――オノ」
「エラ!?」
オノノクスにとって初見の技だが、長年の戦いの経験から瞬時に最適な行動を取る。
尾で逆立ちの起点である角を救い上げ、足を掴むとエビワラーとサワムラーに向けて放り投げた。
「オノ!」
三匹の格闘ポケモンが固まった所に、オノノクスが竜の力を込めた爪――ドラゴンクローを連続で叩き込む。
「エビ……」
「サ、ワ……」
「カポ~……」
「……」
三対一と言うのに、難なく撃破したオノノクスは周りのポケモン達を見渡す。それだけでロケット団のポケモン達は後退する。
「うわっ、すご!」
「一体で、これだけの数を……!」
「どれだけ強いのよ、あのオノノクス……」
ポケモンセンターから、ある程度回復を済ませたベルやカベルネ、ジュンサーや他の数人のトレーナー、警官達が出てきた。
だが、まだまだ余裕があるオノノクス、倒れたポケモン達の姿に、驚愕の様子を見せていた。
「何にしても助かったわ、オノノクス。……まだ協力してくれるかしら?」
「……ノクス」
途中で投げ出すつもりはない。ジュンサーの問いに、オノノクスは頷く。
(にしても、これだけの強さなら、ここの戦力を割いて救助に送れるかも……)
この様から見ても、このオノノクスは間違いなく桁外れに強い。このオノノクスを重点にすれば、防衛の戦力を救助に回せれる。
だが、いち早い補充のため、手当はまだ数人のみ。オノノクスだけに全てを任せるのは流石に負担が大きいし、回せれなない。
もっと戦力があれば。ジュンサーがそう思った時、ロケット団のポケモン達の横から先程のシューティー、デント達と同じ攻撃が放たれる。
「今の、誰……?」
ベルの戸惑いの声は、オノノクスを含めた全員の総意だった。一同がそちらを向く。
「あ、あれは……!」
「ドリュウズ、みだれひっかき!」
「ドリュリュ!」
「ユキキッ!」
爪による乱撃が、雪山の様な頭を持つポケモン、樹氷ポケモン、ユキカブリに命中する。
「キカーーーッ!」
「タネばくだん! ゴチルゼルが」
「ゼル!」
ユキカブリが放った大型の種を、手当で戦線復帰したゴチルゼルがサイケこうせんで相殺する。
「ドリュウズ、メタルクロー!」
「リュズ!」
「カブーーーッ!」
ユキカブリに接近し、ドリュウズは鋼の爪を叩き込む。効果抜群の一撃により、ユキカブリは倒れた。
「リュ……リュズ……」
「ドリュウズ、大丈夫?」
「……リュズ」
ドリュウズは頷くが、肩で息をしていた。身心の疲労が溜まっているのは一目瞭然だ。
しかし、ここはバンギラスによって防衛ラインが崩されたため、避難していた人々の手助けがあっても、頼れる戦力であるドリュウズを下げる訳には行かなかった。
だが、このまま戦い続けても、ドリュウズは何時か疲労で力尽きてしまう。長期戦のためにも、休ませたいがその余裕がない。
どうしたらとアイリスが悩んでいると、次のポケモン達が迫って来る。
「あぁもう、どれだけ来るのよ!」
倒しても倒しても、また次が来る。終わりが見えず、思わず叫ぶアイリスだが、直ぐに気を引き締め直し、次の敵を倒そうとした。
その直後だ。次のポケモン達が、後ろから放たれた大量の攻撃により、吹き飛んだのは。
「嘘……!」
思わず後ろを見る。その攻撃の主達に、アイリスだけでなく、全員が表情を驚きに染めた。
「ツボーーーッ!」
赤色のホヤを思わせる甲羅に、黄色く細長い頭部、手足のようなものが飛び出し、高い防御力が持ち味の発酵ポケモン、ツボツボが口から虫の力の波動を放つ。
「むしのていこうか! 皆、避けるんだ!」
アーティの指示で三匹は避けると、攻撃の構えを取る。
「ハハコモリ、シザークロス! ホイーガ、ハードローラー! イシズマイ、うちおとす!」
「ムンナ、ねんりき~!」
「ムシャーナ、サイコウェーブ!」
「ハハーン!」
「ホイーーーッ!」
「マイッ!」
「ムンナ~」
「シャーナ!」
「ツボーーーッ!」
高い防御力のツボツボだが、この前にもダメージを受けていたため、今の攻撃で倒れた。
「硬いポケモンだったね……」
攻撃力が低い分、防御力が高いのだ。かなり攻撃して漸く倒せた。ただ、アーティはまた好きな虫タイプのポケモンとの交戦に眉を顰めている。
「こんなポケモンもいるんですね~」
「ショウロ、迂闊に近付いたらダメ」
変わった姿のツボツボに、ショウロは興味津々。ツンツンと指先でつついていた。ただ、数回するとショウロは姉の忠告通り離れた。
「むっ、次か……」
ツボツボを含め、数体を倒したアーティ達だが、やはり他の場所同様、休む間がない。少しずつ疲労が溜まり出していた。
「アーティさん、何とかなりませんか、これ~!」
「無茶言わないでくれ。今が一杯一杯なんだ」
「余裕が全くありませんしね……」
今の戦力では維持が限界なのだ。助けも期待出来ない。それに仮に来ても余程の数でないと、収めるまでに時間が掛かってしまう。
(数千規模の援軍か、或いは……)
桁外れの力。そのどちらかが無い限り、この事態はまだまだ続くだろう。
(余計な事は考えるな)
ふと考えてしまったが、それを振り払うアーティ。無い物ねだりしても、何も変わらない。都合良くそんな援軍が来るわけが無いのだから。
新たな敵に向き合うアーティ達だが、その後ろからも他の三ヶ所と同様、ロケット団のポケモン達へと攻撃が放たれた。
「……! アーティさん! あれを!」
ショウロの言葉に振り向き――アーティは微笑む。
「まさか、君達が来てくれるとはね」
「へへっ、ありがとな」
「助かるよ」
そして、それはサトシ達の場所でも同じ事が起きていた。
ゲンガー、プテラを撃破し、手当や休憩を済ませたが、中々前に進めない所に突如援護攻撃が放たれたのだ。
サトシとN達も最初は驚いたが、その攻撃の主達を見て、笑顔を浮かべ――その名を呟く。
「フシデ!」
「――フーーーーーッ!!」
その攻撃の主は、セントラルエリアに保護されていたはずの大量のフシデ達だった。
思わぬ援軍に、一部以外は驚愕していたが、その驚きはまだ続く。駆け付けた援軍は、フシデ達だけではないのだから。
「――なんだ!?」
「……誰か来る?」
ロケット団のポケモン達の背後から、人やポケモン達の声がするのだ。
声が違うのでフシデ達ではない。となると、避難にしに来た者達かと思いきや、彼等はロケット団のポケモン達を攻撃し、戦闘不能にしていく。
「――ご無事でしたか」
「あ、あなたは……?」
「……」
一人の男性が、サトシに声を掛ける。妙齢で、特徴的なモノクルやマントを着け、穏やかな表情をしている。
「我々は、『プラズマ団』」
彼は告げる。自分達の組織の名前を。
「貴方方に――協力しに来ました」
遂に、彼等は表舞台に立つ。
そして――この後訪れる始まりの『その時』は、迫っていた。