ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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それぞれの激闘、後編

「ハハコモリ、いとをはく!」

 

「ハッハーーーン!」

 

「……ロス。――カイ!」

 

「ハハン……!」

 

 カイロスは迫る粘着性の糸をかわすと、素早くハハコモリに接近。右から攻撃――と見せかけ、左から攻撃を放ち、ダメージを与える。

 フェイントと呼ばれ、素早く放てるのとまもるなどの防御技を無効にする技だ。

 

「カイ!」

 

「シザークロス! ハハコモリ、こちらもシザークロスで迎え撃て!」

 

「ハッハーーーン!」

 

 ハハコモリはその両手で、カイロスはその鋏で交差の一撃を放つ。

 

「――ロス!」

 

「ハハンッ!」

 

 同じ技が激突するも、威力は力があるカイロスの方が上だった。押し負けたハハコモリは後退させられる。

 

「――カイ!」

 

「ハンッ!」

 

 更に後退した間を狙い、カイロスは再びフェイントを放つ。少しずつだが、着実にハハコモリはダメージを受ける。

 

「大丈夫かい、ハハコモリ?」

 

「ハ~ン」

 

「良かった。にしてもハハコモリ以上の素早さと力強さ、か」

 

 おまけに、それらを十二分に活かす技術と冷静さも感じられる。

 

「なるほど、今まで倒してきたポケモン達とは一味も二味も違うね」

 

「……」

 

 ジムリーダーの自分でも手こずる相手だと、アーティは素直にカイロスの実力を認めた。

 

「アーティさんでも手こずるんだ……」

 

「私達以外を倒したポケモン。……それだけの実力の持ち主と言う事ね」

 

 アーティと渡り合えるカイロスに、マコモやショウロ達は改めて戦慄を抱く。

 

「仕方ない。――ホイーガ、イシズマイ!」

 

「――イーガッ!」

 

「――イマッ!」

 

 アーティは二つのモンスターボールを取り出し、二匹のポケモンを繰り出す。

 一匹は、デントの手持ちと同じイシズマイ。もう一匹は、繭に刃や目が付いた様な繭百足ポケモン、ホイーガ。フシデの進化系だ。

 

「一体を相手に複数と言うのはジムリーダーとしては情けないが、ヒウンシティを守る為。それに、君達も仲間は大量にいるからね」

 

 敵はカイロスだけではない。他にもいる。ジムリーダーのプライドと、ヒウンシティと多くの人々やポケモン。どちらか大事かと言えば、後者だ。故に、全力を尽くす。

 

「……」

 

 一方、カイロスは敵が増えても動じない。周囲の敵に対応しながら一匹ずつ確実に倒す。それだけだ。

 

「ハハコモリ、再度いとをはく! イシズマイ、うちおとす! ホイーガ、どくばり!」

 

「ハッハーーーン!」

 

「イマイ!」

 

「イーーーガッ!」

 

「……ロス」

 

 迫る糸、岩、針。それらを無駄の無い動きでかわしながら、カイロスはあるヶ所を見る。

 マコモとショウロ――正確には、彼女達といるムンナとムシャーナにも注意を払っていた。

 厄介な状態異常である眠りにする、さいみんじゅつを警戒してだ。トレーナーや警官達を相手している時に放ったため、二匹が使うのは知っていた。

 

「――ロス!」

 

 カイロスは足に力を込めて地面を蹴る。すると、物凄い音と共に瞬時にイシズマイに接近した。

 

「――カイ!」

 

「イマ!? ――ズマーーーッ!」

 

 角で挟み、そのまま物凄い力で地面に叩き付け、ダメージを与えてからホイーガに向かって放り投げる。

 ハハコモリが慌ててキャッチしようとしたが、そこをカイロスは追撃しようとしていた。

 

「ホイーガ、どぐばり!」

 

「ホイー……!」

 

「――ロス!」

 

「何!?」

 

「ガガッ!」

 

 再度毒の針を発射しようとしたホイーガだが、その前にカイロスが毒の針を放つ。

 

「カイ! ――ロス!」

 

「ホイッ! ガッ!」

 

 思わぬ攻撃に怯んだ隙に、カイロスはまたフェイントをホイーガに叩き込む。更に続けてシザークロス。

 

「……」

 

 連続攻撃を当てると、素早く後退。無闇に深追いはしない様だ。

 

「やるね……。イシズマイを攻撃したのは、ばかぢからか」

 

 全身の力を引き出して攻撃する大技。しかし、その分余程鍛えてないと攻撃や防御が低下する反動がある。

 それが無いことから見ても、やはりこのカイロスは鍛えられている。また、カイロスは足に力を集中させる事で、瞬発力を高める応用も使っていた。

 

(ただ、どくばりが少し気になるね……)

 

 見たところ、カイロスには毒タイプの雰囲気が感じられない。

 勿論、毒タイプだけの専門技とは限らないため、単なる思い込みの可能性もあるが、針の要素が無いカイロスが使ったのがどうにも引っかかる。

 

「ロス!」

 

「またフェイントか! ホイーガ、てっぺき!」

 

「イーガ!」

 

「――カイッ!」

 

 迫るカイロスに、ホイーガは防御力を高めた。しかし、カイロスは寸前で動きを変更し、ハハコモリに角からぶつかる。

 

「ハハコモリ! 反撃のむしのさざめき!」

 

「ロス! カイッ!」

 

 虫の力が込められた音を、カイロスは素早く跳躍してかわす。着地すると、ばかぢからの力で猛加速。イシズマイに迫る。

 

「イシズマイ、うちおとす!」

 

「イシ――」

 

「ロスッ!」

 

 力で作った石を放とうとしたイシズマイだが、それよりもカイロスが先に同じ行動を取り、石をイシズマイに命中させて吹き飛ばす。

 

「うちおとす!? ハハコモリ、いとをはく! ホイーガ、どくばり!」

 

「ハー……!」

 

「ホイー……!」

 

「カイーーーッ!」

 

 糸と毒針で対応しようとしたが、カイロスは今度は口から粘着性の糸を発射する。

 

「今度はいとをはく!?」

 

 次々と技を出すカイロスに、アーティは驚く。

 

 

「アーティさん! そのカイロス、技を次々と使ってるんです!」

 

「それも、虫タイプのポケモンが使わない様な炎タイプや飛行タイプ、水とか電気の技まで~! だから、対応仕切れなくてやられたんですよ~!」

 

 炎に飛行、水や電気。それらの要素が無いにも関わらず、多種多様にも程がある。少し考え――気付いた。

 

「――そうか、さきどりか」

 

 相手が使った技を返すオウムがえしと似ているが、違うのは相手が使おうとした技を威力を増した状態で放つ技だ。ただ、先に放たなければ失敗する扱いの難しい技でもある。

 そんな技をトレーナー無しでもある程度上手く使う所を見ても、このカイロスの実力が分かる。やはり相当手強い。

 

(それに、複数の相手との戦い方が上手い)

 

 カイロスは武器である角で敵を挟んで身動きを封じ、別の相手に投げたりしてくる。

 それが、まもるなどの防御技を封じるフェイントが上手く噛み合っている。

 少しでも早く倒そうとホイーガやイシズマイを出したのは、逆効果と言わざるを得ない。

 おまけに、ジムリーダーとしての実力があるため、こちらが一対多の対応は慣れているが、その逆は慣れてないのもこの苦戦の原因だった。

 

「う~! 全然隙がな~い!」

 

「迂闊に放っても、アーティさんのポケモン達に当たったら不味いし……」

 

「ムナ~……」

 

「シャナ~……」

 

 アーティ達と、カイロスのバトルをマコモとショウロはただ見ている訳ではない。

 隙有らば、さいみんじゅつでカイロスを眠らせようとしているが、向こうはこちらを常に警戒しており、先ず当たる様子が無かった。

 下手すると、アーティのポケモン達に命中する可能性もあったため、彼女達は技を出せなかったのだ。

 

「――だったら」

 

「何か手があるの、お姉ちゃん?」

 

「一つ。耳を貸して」

 

 ショウロは頷き、マコモからその作戦についての説明を聞くと、おぉと関心した表情になる。

 

「ショウロ、タイミングは分かってるわね?」

 

「勿論!」

 

 そのタイミングを見計らうべく、マコモとショウロはアーティ達とカイロスのバトルを見守る。

 

「カイ!」

 

 カイロスがフルパワーを地面に叩き付ける。地面のコンクリートが破片となって浮かび上がり、アーティとそのポケモン達を襲う。

 

「目眩ましと攻撃を同時に……!」

 

「ロス! ――カイッ!」

 

 礫に気を取られた隙に、カイロスが高速で迫る。フェイントだ。ハハコモリに攻撃――と見せ掛け、中止してイシズマイを角で挟み込み、ばかぢからを発動してからホイーガに叩き付けた。

 

「ホイーーーッ!」

 

「ズマーーーッ!」

 

「ホイーガ、イシズマイ! ハハコモリ、れんぞくぎり!」

 

「ハハハンッ!」

 

「カイッ!」

 

 ハハコモリのれんぞくぎりを、カイロスはシザークロスで弾き飛ばす。

 

「カイ!」

 

「ハハン!」

 

「そこだ! イシズマイ、うちおとす!」

 

 そして、再度シザークロスを放ち、逆にダメージを与える。しかし、その直後にうちおとすが迫る。

 技を放った後の為、カイロスは食らう。効果抜群のダメージに少し表情を歪めるも、まだ終わりではない。ホイーガが回転しながら迫って来た。

 

「ハードローラー!」

 

「ホイーーーッ!」

 

「カイ……!」

 

 猛回転しながらの体当たり。怯ませる追加効果も有る虫タイプの技、ハードローラーだ。

 ハハコモリ、イシズマイ、ホイーガの連携を前に、流石のカイロスも避けきれずに直撃する。

 

「ロス……!」

 

 食らったカイロスは軽く後退するも、残念ながら怯みの追加効果は発生していなかった。だが、二度命中させれた。

 

「どうだい?」

 

「ロス……」

 

 不敵な笑みのアーティに、やるなと呟くカイロス。やはり、彼等は手強い。

 

「カー――」

 

「――今だよ、ムンナ! さいみんじゅつ!」

 

「ムンナーーーッ!」

 

 反撃にフェイントを仕掛けようとしたカイロスだが、そこにムンナのさいみんじゅつが迫る。

 

「――ロス!」

 

 しかし、カイロスは身体を捻って軽々と回避する。その直後だった。背後から嫌な予感がしたのだ。思わず振り向くと、ムシャーナとマコモがいた。

 何をする気だと訝しむカイロス。ムシャーナはさいみんじゅつの軌道上にいる。

 あのままでは当たるだけ、何故タイミングをずらして放たない。その一瞬の思考の間が、勝敗を決めた。

 

「ムシャーナ、マジックコート!」

 

「シャナ~!」

 

 ムシャーナの前に光の壁が展開される。それはさいみんじゅつの波動を跳ね返し、迷いで一瞬だけ動きが鈍ったカイロスに見事命中した。

 

「カ……イ……!」

 

「ハハコモリ、シザークロス! ホイーガ、ハードローラー!」

 

「ハッハーーーン!」

 

「イーーーーガッ!」

 

「ロス……!」

 

 迫る強烈な眠気に必死に抵抗しようとしたカイロスだが、そこにハハコモリとホイーガの技を受けて吹き飛ぶ。

 

「ムンナ!」

 

「ムシャーナ!」

 

「サイケこうせん!」

 

「ムンナーーーッ!」

 

「シャナーーーッ!」

 

「カイ……!」

 

 更にムンナとムシャーナから、サイケこうせんを食らわされ、続いて吹き飛ぶ。

 

「イシズマイ、がんせきほう!」

 

 そして、アーティはイシズマイに岩タイプ最強技を指示する。

 

「イシー……ズマーーーッ!!」

 

 イシズマイは巨大な岩石を出すと、カイロスにしっかりと狙いを定め――岩石を発射。それは寸分の狂いもなく命中。

 

「カ、イ……」

 

 流石のカイロスも、無防備な状態で続けざまの攻撃や、岩タイプ最強の技を食らっては耐えきれず、悔しそうに倒れた。

 

「済まないね、カイロス。だが、こちらは手は選んでいる余裕がないんだ」

 

 カイロスに謝るアーティ。彼としては、自分と三匹の実力だけで勝ちたかったが、こんな状態ではそんな余裕はない。

 

「やった~!」

 

「にしても、手強いポケモンだったわ……」

 

「確かに」

 

 ジムリーダーの自分でさえ、慣れてない状況にしてしまった失敗があるが、それでもマコモやショウロの姉妹、ムンナやムシャーナのサポートが無ければ、負けはしないがもっと苦戦していただろう。

 カイロスの実力。また、これほどのポケモンを出してきたロケット団の力を、アーティは強く実感した。

 

「僕もまだまだ純情ハートが足りないと言うことか」

 

「……純情ハート?」

 

「あ~、それ気にしなくて良いよ、お姉ちゃん。アーティさん独特の持論だから」

 

 妹の台詞に、余裕も無いので姉はそうすることにした。

 

「マコモさん、ショウロちゃん。ここはしばらく僕が防衛する。その間に傷付けたポケモン達や人々の手当を」

 

「わかりました」

 

「お任せ~」

 

 姉妹は頷くと、負傷した人々やポケモン達をバトルクラブに誘導する。

 

「ハハコモリ、ホイーガ、イシズマイ。戦いの後でキツイだろうが、もうしばらく頼むよ」

 

「ハハーン」

 

「ホイ」

 

「マイマイ」

 

 このヒウンシティの為に戦う。その使命を持って、彼等は次に来るポケモン達と対峙する。

 

 

 

 

 

「サトシくん、このポケモン達の名前とタイプは?」

 

「紫色のポケモンがゲンガーで、タイプはゴーストと毒。飛んでいるのは、プテラでタイプは岩と飛行です」

 

「ありがとう」

 

 セントラルエリアへ続く道路。そこでは、サトシとN、更に合流したワルビルがゲンガー、プテラと対峙していた。

 

「――ゲン!」

 

 ゲンガーが先手を打つ。自身の後ろに白い球を複数出すと――白い球が強烈な光を発生させる。

 

「眩し……!?」

 

「これはフラッシュ……!」

 強い閃光で相手の眼を眩ませる技だ。本来は不意を突いたり牽制する為の技だが、ゲンガーは違う。同時に次の技の布石になる。

 

「ガーーーッ!」

 

「うわぁああっ!?」

 

「くっ!?」

 

「ピカァッ!」

 

「ゾロッ!?」

 

「カブッ!?」

 

「ワルビッ!」

 

 光で怯み、腕で覆ったり、眼を瞑るサトシ達に、何かが攻撃した。

 

「い、今のは……!?」

 

「……分からない」

 

 光で見えなかっため、何が起きたかは不明。だが、何らかの攻撃なのは間違いない。

 

「ゲゲゲ……ッ! ――ゲン!」

 

「プテ! ラーーーッ!」

 

 不敵に笑うゲンガーだが、それは一瞬。仲間に呼び掛ける。プテラはそれに素早く応え、飛び立つと爪翼で羽ばたく。すると、風が周囲に吹き荒れ出す。

 

「この技は……!」

 

「おいかぜだね……」

 

 特殊な風により、自身や味方の速さを上げる事が出来る補助技だ。これでゲンガーとプテラのスピードが増した。

 

「ゲン!」

 

「プテ!」

 

「――速い!」

 

 ゲンガーとプテラが迫る。二匹は凄まじい速度で迫り、ゲンガーは影の力を込められた爪――シャドークローを、プテラは速度を活かし、翼を構えながら突撃――つばさでうつを放つ。

 

「ルビッ!」

 

「カブッ!」

 

 その速度は凄まじく、ワルビルとポカブがかわす間もなく食らう。威力も充分にあり、ダメージは小さくない。

 

「ゲン!」

 

「あの球!」

 

「またフラッシュ……!」

 

「ガーーーッ!」

 

 また閃光が炸裂。サトシ達は視界を眩ませられ、その直後に衝撃が走る。

 

「これは……」

 

 その際、Nがあるものを見た。ゲンガーのこの技の正体を。

 

「くそっ、何なんだ、あの技……!?」

 

「かげうちだよ」

 

「かげうち……」

 

「分の影を伸ばして攻撃する技。ただ、普通は複数の相手を同時に攻撃出来ない」

 

「じゃあ、ゲンガーはどうやって?」

 

「フラッシュ。あの技で自分の影を複数作って、同時攻撃しているんだ」

 

 フラッシュは目眩ましだけではなく、かげうちに繋げる為の事前の準備だったのだ。

 

「……厄介ですね」

 

 フラッシュとかげうちのコンボ。これの厄介な点は、フラッシュで視界を制限された状態で攻撃される事だ。回避がほぼ出来ない。

 

「うん、厄介だ。だけど、対応出来ない訳じゃない」

 

 種が分かれば、手の打ちようはある。それに、本来は一つの影で攻撃する技を複数にしていると言うことは、その分力を使うか本来よりも威力が低下しているはず。後者ならダメージを抑えれる。

 

「プテー……ラーーーッ!」

 

「げんしのちから!」

 

 ゲンガーの種は分かったが、敵はもう一体いる。翼竜が空から原始のエネルギーを塊にする。更にプテラは塊に追い風を当て、加速させて発射した。

 

「ピカチュウ、10まんボルト!」

 

「ピーカ、チューーーッ!」

 

「ワルビーーーッ!」

 

 電気と無数の岩が、げんしのちからを相殺していく。

 

「ガーーーッ!」

 

「ポカブ、はじけるほのお。ゾロア、シャドーボール」

 

「カブーーーッ!」

 

「ゾローーーッ!」

 

 しかし、敵はプテラだけではない。ゲンガーがシャドークローを構えた状態で迫るも、そこはN達がカバー。

 炎と影の球により、ゲンガーは接近を中断。距離を取って様子を見る。

 

「ありがとうございます、Nさん」

 

「どういたしまして。……にしても、やはり強いね。彼等」

 

「えぇ……」

 

 技の威力、身体能力共に高い。どちらも強敵だった。

 

「それに……他にも不味い事がある」

 

「……それって?」

 

「おいかぜ。他のロケット団のポケモン達がその影響で速くなっている」

 

 周りを見るサトシ。Nの言う通り、他のポケモン達はおいかぜによってスピードが増し、トレーナーや警官達に苦戦を強いていた。

 

「早く、プテラを倒さないと……!」

 

「いや、仮に直ぐに倒せてもおいかぜはしばらく続く」

 

 おいかぜとはそういう技だ。一度使われた以上、時間が立たない限りは消えない。となると、次の間までに倒すしかない。

 

「だったら――ミジュマル、ハトーボー、ポカブ、クルミル!」

 

「ミジュ!」

 

「ハトー!」

 

「カブ!」

 

「クルル!」

 

 四匹を繰り出すサトシ。但し、この四匹はゲンガーとプテラを倒すために出したのではない。

 

「皆、俺達がゲンガーとプテラと戦う間、他の人達の援護をしてくれ!」

 

 サトシの指示に少し間を置いてから四匹は頷き、トレーナーや警官達の援護に回る。

 

「それと――ツタージャ!」

 

「――タジャ」

 

 更にサトシは、アイリスに預けたズルッグを除いた残る一匹、ツタージャも出す。これで準備は整った。

 

「良い判断だ、サトシくん」

 

 ゲンガーとプテラは強い。残念だが、あの四匹では優れた指示があっても倒されてしまうだろう。

 それに、他の暴走しているポケモン達はともかく、この強敵には数を多くすると、指示や判断が鈍くなる可能性がある。

 ならば、対抗出来るだけの実力を持つポケモン達だけで戦い、残りは援護に回した方が良い。

 

「サトシくん、少し耳を」

 

 Nはサトシにある作戦を伝える。強敵とはいえ、時間は掛けられない。一気に決める必要がある。

 

「行こう」

 

「はい」

 

 作戦を立て、サトシ達はゲンガーとプテラに挑む。

 

 

 

 

 

「ドードドドーーーーッ!」

 

「ミジュ!」

 

「ポカッ!」

 

 喜び、悲しみ、怒り、それぞれ異なる三つの顔と三尾が特徴の、鳥ポケモン、ドードリオが三つの顔を使ってみだれづきを放つ。

 攻撃を受けて軽く吹き飛ぶミジュマルとポカブだが、直ぐに体勢を立て直すと左右に分かれる。

 分かれた二匹の内、ドードリオはミジュマルを優先したらしく、そちらに向かって突いていくも、そこをポカブが丸い身体にかみついた。

 

「ポカーーーッ!」

 

「ドードー!」

 

「ミジュマ!」

 

「ドーーーーッ!」

 

 痛みに苦しむドードリオが再度、みだれづきをポカブに放とうとするも、そこをミジュマルがシェルブレード。防御を下げつつダメージを与える。

 

「ポカ! カー……ーーーッ!」

 

 ミジュマルがアシストした隙に、ポカブは離れて着地。続いて身体に熱を溜め込むと、鼻から一気に発射。高熱の突風――ねっぷうをぶつける。

 

「ドドドーーーーッ! ドー……!」

 

「ミジュー――マー!」

 

 ねっぷうを食らったドードリオだが、まだ終わりではない。ミジュマルはアクアジェットを発動し、素早くダメージを与える。

 

「ド、ドー……!」

 

「ポカポカポカ……カーブーーーッ!」

 

 二匹の連携に、ドードリオはどう対応すればと戸惑っていると、ポカブがその隙にニトロチャージを当てる。

 

「ミジュー……マーーーッ!」

 

「ドーーーーッ! ド、ド……」

 

 ミジュマルは力を込めると、口から塩分が混ざった水――しおみずを発射。技の性質により、残り少ない体力を容赦なく削り取り、ドードリオは倒れた。

 

「ミジュ!」

 

「ポカ!」

 

 よっしゃ、やったと二匹はドードリオ撃破に喜ぶも、互いを見ると頷き、一緒に次を倒しに行く。

 

「ドゴーーーッ!」

 

「ボーーーッ!」

 

「クルル!」

 

 青紫色の身体に、大きな耳、厳つい顔や大きく開いた口が特徴の大声ポケモン、ドゴームが大声で叫ぶ。さわぐだ。

 耳鳴りするほどの音量のその技を食らい、ハトーボーとクルミルはダメージを負うも、やられっぱなしでいる気は無い。

 

「ハトー……ボーーーッ!」

 

「ドゴ……!」

 

 風により、ドゴームはその場に留められる。

 

「クルルルルッ!」

 

 そこに、風を利用してで加速したクルミルがドゴームに接近。むしくいでダメージを与えていく。

 

「クル!」

 

「――ボーーーッ!」

 

「ドゴッ!?」

 

 何度か噛むと、クルミルはドゴームを足場に離れ、その直後にハトーボーがでんこうせっかを叩き込む。

 

「クルーーーッ!」

 

「ドゴゴゴッ!?」

 

 ダメージに怯んだ所に、クルミルが糸を吐き出し、ドゴームの全身に巻き付けて動きを封じる。

 

「ハトー……ボッ!」

 

「クルルル!」

 

「ドゴゴーーーッ!」

 

 ハトーボーとクルミルが、真空の刃と草の刃を発射。糸を切りながらも、ドゴームにダメージを蓄積させる。

 

「ドゴー……!」

 

「クル!」

 

「ムッ!?」

 

 さわぐでハトーボーとクルミルを吹き飛ばそうとしたが、そこにクルミルがたいあたりで妨害した。

 

「ハトー……ボーーーーーッ!!」

 

「ゴーーーームッ!」

 

 たいあたりで怯んで出来た隙に、ハトーボーがつばめがえしを放つ。ドゴームは転がると、目を回して倒れた。

 

「クル!」

 

「ボーッ!」

 

 ハトーボーとクルミルは互いを見合わせ、うんと頷いた。一匹倒したが、まだ敵はいる。次へと二匹は向かう。

 

 

 

 

 

「ツタージャ、メロメロ!」

 

「ター……ジャ」

 

 時間は作戦を決めた後まで戻る。ツタージャがウインク。ハートマークが現れ、プテラに迫る。

 

「プテ!」

 

 メロメロだと分かり、プテラはげんしのちからを発動。ハートマークを壊していく。

 その時、横から地面を蹴るような音がした。プテラがそちらを振り向くと――ツタージャがいた。どうやら、建物を蹴ってここまで跳躍したらしい。

 

「プテー……!」

 

 メロメロは自分に近付く為のフェイクかとプテラは判断した。

 しかし、甘い。飛行出来ないポケモン以外で自分に空中戦を仕掛けるのは無謀だ。そう言わんばかりにつばさでうつを放とうとした。

 

「――タジャ」

 

 その直後だ。声がして振り向くと――ツタージャがもう一匹いた。ツタージャが増え、プテラの目が困惑で見開く。

 

「――ピッカァ!」

 

「プテ!?」

 

 そこに、更にピカチュウも迫っていた。

 

「ゲンー……!」

 

「させないよ。ポカブ、はじけるほのお。ワルビル、ストーンエッジ」

 

「カブーーーッ!」

 

「ワルビーーーッ!」

 

「ガッ!?」

 

 プテラの状況を見て仲間が不味いと判断し、助けに行こうとしたゲンガーだが、Nは行かせるつもりはない。炎弾と尖石で少しのダメージを与えながら妨害する。

 

「ピカチュウ、アイアンテール! ツタージャ、アクアテール! そして――ナイトバースト!」

 

「ピッカァ!」

 

「タジャ!」

 

「――ゾロ!」

 

「プテーーーッ!」

 

 一方、N達のおかげでサトシは戸惑ったプテラに鋼と水の尾、暗黒の力を叩き込めた。

 三つの技、しかもその内二つは効果抜群の技を受け、プテラはかなりのダメージを負って落下するも、戦闘不能になってはいない。

 翼を広げ、ゲンガーの方に移動。ゲンガーはプテラを守るように前に出る。

 

「くそっ、今ので倒せなかったか……!」

 

「でも、小さくないダメージは受けてる」

 

 その上、アイアンテールで防御が低下している。倒しやすくはなっているはずだ。

 

「冷静に次のチャンスで決めよう」

 

「分かってます。――後、どれだけ行けますか?」

 

「一回が限度だろうね」

 

 サトシとNがその作戦について話していると、プテラもゲンガーにさっきのツタージャが増えた件を話していた。

 かげぶんしんか他の何かではとゲンガーは考えるが、プテラは違うと語る。

 もう一体のツタージャは違う技を、それも見たことない技を使っていた。分身なら同じ行動を取るはずだ。

 

「――悪いけど、こっちには時間が無い。直ぐに決めさせてもらうよ。ゾロア、シャドーボール。ポカブ、はじけるほのお」

 

「ピカチュウ、エレキボール! ツタージャ、たつまき! ワルビル、ストーンエッジ!」

 

「ゾロローーーッ!」

 

「カブーーーッ!」

 

「ピカピカァ!」

 

「ター……ジャ!」

 

「ワルー……ビーーーッ!」

 

 一気に終わらせる為にも、二匹に考える隙など与えない。五つの攻撃を仕掛ける。

 

「プテーーーッ!」

 

「ゲーーーンッ!」

 

 プテラは原始のエネルギーの塊を、ゲンガーは影の力を球状にした技、シャドーボールを複数放って相殺していく。

 

「ゲン!」

 

 更に、ゲンガーは閃光を放つ球を展開する。今度はプテラも前に出た。

 

「フラッシュが来る」

 

 またフラッシュで目眩ましをし、その隙にかげうちを放つのだろう。おまけに今度はプテラもいるため、先程よりも厄介だ。

 一つ数える前に、球が音もなく弾ける。強烈な閃光が放たれた。

 

「ガーーーッ!」

 

「プテ……ラーーーッ!」

 

 複数の光により、ゲンガーの影が複数になる。その影がサトシ達に高速で迫る。プテラは口から竜の力の強烈な波動、りゅうのはどうが放たれ、やはりサトシ達に迫る。

 

「ワルビル、前に壁にするようにストーンエッジ!」

 

「ワルビィ!」

 

「伏せるんだ!」

 

 ワルビルが地面に拳を叩き付ける。尖った太い岩がサトシ達の前に次々と現れ、かげうちとりゅうのはどうを受け止めた。

 しかし、一匹で格上二匹の技を止めきれる訳もなく、全て破壊される。だが、サトシ達は咄嗟に伏せたため、ダメージは最小限だった。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ポカブ、ころがる。ジグザグに」

 

「ピー……カッ!」

 

「カブカブカブ!」

 

「ゲン!?」

 

「プテ!?」

 

 煙から、ピカチュウとポカブが高速で動いてゲンガーとプテラを翻弄する。

 

「今だ、出てこい!」

 

 サトシの声に、ゲンガーとプテラが反応。二匹はサトシを見るも、それはフェイク。二匹の足下からコンクリートが盛り上がる。

 

「ワルビーーーッ!」

 

 ワルビルが姿を現す。煙を目眩ましにし、あなをほるを仕掛けたのだ。

 

「ゲン!」

 

「プテ!」

 

 しかし、二匹は素早く反応。ゲンガーはシャドークローで引っ掻き、プテラはつばさでうつで移動しながら攻撃。ワルビルはかなりのダメージを受ける。

 

「――ゾロア、シャドーボール」

 

「ゾロ!」

 

「ゲン!? ガーーーッ!」

 

 その直後、穴からゾロアが出てきて、零距離でシャドーボールをゲンガーに向けて放つ。

 

「ツタージャ――おいうち!」

 

「――タジャ!」

 

「ゲンーーーッ!」

 

 更に、ゾロアと一緒に穴に潜んでいたツタージャが高速で迫り、ゲンガーに蹴りを叩き込む。

 ゴーストタイプに抜群のダメージを与える悪タイプの技であり、相手が後退したり、追撃時に放つと威力が増すテクニカルな技だ。

 シッポウシティのバトルクラブの特訓により、身に付けた技である。

 

「今だピカチュウ、エレキボール!」

 

「ポカブ、はじけるほのお」

 

「ピカ――」

 

「カブ――」

 

「プテーーーッ!」

 

 ゲンガーに止めを刺そうとしたサトシ達だが、そこにプテラが妨害するようにつばさでうつを仕掛ける。

 

「かわせ、皆!」

 

 咄嗟に回避するピカチュウ達だが、その間にゲンガーがかげうちを発動。

 ピカチュウ、ゾロア、ポカブ、ツタージャ、ワルビルを高速かつ順番に攻撃する。

 

「テラーーーッ!」

 

「うぅっ!」

 

「くぅ……!」

 

 そこに、プテラが上空からげんしのちからを発動。サトシ達に向かって叩き落とし、ダメージを与えていく。

 

「ゲンーーーッ!」

 

 しかし、二匹の攻撃はまだ終わらない。ゲンガーは複数のシャドーボールを発射。サトシ達を追い込んでいく。

 

「プテーーーッ!」

 

「ゲンーーーッ!」

 

 翼竜と影ポケモンが、追い込みにシャドーボールとりゅうのはどうを放つ。

 

「おりゃーーーっ!」

 

「よっと」

 

 迫る二つの技を、その前にサトシとNが五匹――サトシがピカチュウ、ツタージャ。体格が勝るNがゾロア、ポカブ、ワルビル――を担ぎ、技から回避させる。

 

「間一髪……!」

 

「試合なら反則だけどね」

 

 ポケモンを担いで攻撃を避けさせるなど、ポケモンバトルだったら反則だ。とはいえ、今は試合ではないのでセーフである。

 二人はポケモン達を見る。全員、ゲンガーとプテラの猛攻により、ダメージを受けていた。特に、ツタージャ、ポカブ、ワルビルはかなり消耗している。

 

「次で決めよう」

 

「ですね」

 

 これ以上のダメージは厳しい。次で一気に決着を着けるべきだ。

 

「ツタージャ、フルパワーでたつまき!」

 

「ター……ジャ!」

 

 ありったけの力を込め、大規模な竜巻を放つツタージャ。これで二匹の足止めの時間を稼ぐ。

 

「ワルビル、出てこい!」

 

「ワルビーーッ!」

 

 再度、ゲンガーとプテラの下からワルビルが現れた。二匹は即座に反応、攻撃しようとしたが――直後、ワルビルの姿が歪む。

 

「ゲン!?」

 

「プテ!?」

 

「――ゾロ」

 

 そのワルビルは、ワルビルではなかった。特性、イリュージョンで変化していた、ゾロアだったのだ。

 先程のもう一匹のツタージャの正体もゾロアであり、イリュージョンによる翻弄こそ、Nの提案した作戦だった。

 

「――ワルビッ!」

 

 二匹がイリュージョンに驚いたその隙。そこを、本当のワルビルが突く。

 

「ルビッ! ワルゥ!」

 

「ゲンーーーッ!」

 

「プテーーーッ!」

 

 ゲンガーにかみつくを命中させ、次にその状態で身体を回してプテラをゲンガーに叩き付けながら離す。二匹は軽く吹き飛ぶ。

 

「ピカチュウ、10まんボルト!」

 

「ゾロア、ナイトバースト」

 

「ピーカ……チューーーーーッ!!」

 

「ゾロ……アーーーーーッ!!」

 

 一緒に吹き飛んだゲンガーとプテラに、強烈な電撃と暗黒が命中した。

 

「ワルー……ビルーーーーーッ!!」

 

 まだ終わりではない。次にワルビルが大型の方のストーンエッジを放ち、二匹の体力を削っていく。

 

「これで……!」

 

「決める」

 

「ツタージャ、ゲンガーにおいうち!」

 

「ポカブ、プテラにころがる」

 

「――タージャ!」

 

「――カブーーーゥ!」

 

「ゲーーーンッ!」

 

「テラーーーッ!」

 

 〆に、おいうちところがるが命中。ゲンガーとプテラは大きく転がると――目を回した。

 

「ゲ……ン……」

 

「プ……テ……」

 

「よーーーしっ!」

 

「倒したね」

 

 かなり消耗しながらも、何とかこの強敵二匹を撃破出来た。

 

「ミジュジュ!」

 

「ボー!」

 

「ポカポカ!」

 

「クルル!」

 

「皆! 良かった、無事だったか……」

 

 直後、ミジュマル、ハトーボー、ポカブ、クルミルの四匹がサトシの元に戻って来た。四匹は少なくないダメージを受けていたが、笑って見せた。

 

「皆、頑張ってくれてありがとな」

 

 気にしないでと四匹はまた笑い、サトシは頑張った彼等を労うように撫でた。

 

「ワルビルもありがとな」

 

「君がいて助かったよ」

 

「ワルビ」

 

 ワルビルがいなければ、もっと苦戦していただろう。仲間が倒されていた場合もあり得た。

 

「にしても、ヒウンシティにまで来たんだな」

 

「ルビルビ」

 

「お前とピカチュウを倒すためだってさ」

 

 とはいえ、今はこんな事態。自分の事情より、パニックになっている人々やポケモン達の救助の方が優先。だからこそ、サトシ達に協力したのだ。

 

「皆さん、傷薬や木の実で手当をします。少し休んでください」

 

「でも、直ぐに向かわないと――」

 

「サトシくん、休憩や手当も必要だ。逸る気持ちは分かるけど、今は僅かなこの時間をしっかりと休もう。自分の身を疎かにして倒されては、元も子もない」

 

「……はい」

 

 サトシは逸る気持ちをグッと抑え込む。Nの言っている事は正論だ。自分だけでなく、仲間を倒されるのは避けるべきである。

 救助やフシデ達の確認に備え、サトシはしっかりと休んだ。

 こうして、七体の強敵とのバトルは、少なくない被害を出しながらもサトシ達が勝利したのであった。

 だが、まだ終わりではない。ポケモン達はまだまだ暴れているのだから。

 

 

 

 

 

「テッカーーーッ!」

 

「ヌケーーーッ!」

 

「ハトーボー、つばめがえし! プルリル、たたりめ! ヒトモシ、かえんほうしゃ!」

 

「ヤナップ、かみつく!」

 

「ボーーーッ!」

 

「プルーーーッ!」

 

「モシーーーッ!」

 

「ヤナ!」

 

 手当で手持ちが回復したシューティーとデント達は、虫タイプを持つ二匹のポケモンの技、れんぞくぎりやシャドークローを回避すると、その二匹の弱点を突く技を当てる。

 

「テッ、カ……」

 

「ヌ、ケ……」

 

 その技が決め手となり、その二匹のポケモンは倒れた。

 

「ふぅ、どちらも厄介なポケモンだったね……」

 

 二人が倒したのは、片方は忍ポケモン、テッカニン。もう片方は脱け殻ポケモン、ヌケニン。一匹のポケモンから進化する二匹だった。

 

「特性、『かそく』に『ふしぎなまもり』……。どちらも普通に相手したら苦戦しますよ、これ」

 

 かそくは時間が経てば経つほど、速さが上がる特性。ふしぎなまもりはなんと、弱点攻撃以外では状態異常や特殊な技ではないとダメージを受けないと言う、とんでもない特性だ。

 どちらも正面から戦っていた場合、苦戦は必須だろう。時間が経って今程ではないが、まだ興奮していたため、直ぐに倒すことが出来た。

 テッカニン、ヌケニンを倒したシューティーとデントは、他のトレーナーや警官達に協力し、周りのポケモン達を撃破する。

 

「倒したけど……」

 

「全然前に行けませんね……」

 

 苦労してフーディンを倒したというのに、まだまだ来るポケモン達のせいで、救助も避難誘導も上手く行かない。

 休憩もままならないため、精神的にも肉体的にも疲れるばかりだ。ユリやキクヨは無事だろうか。

 

「……助けとか来ませんか?」

 

「……難しいね」

 

 警官達によると、通信機能がやられているため、救援は期待出来ない状態だった。

 

「――オムーーーッ!」

 

「――プスーーーッ!」

 

「くっ、次のポケモン達か!」

 

 また迫るポケモン達。シューティーは素早い対策を取るべく、先ずは前にいる二匹、水色の触手がある身体に、背中の大きな殻が特徴のポケモンと、茶色の身体に鎌が特徴の二足歩行のポケモンの情報を図鑑で得る。

 

『オムスター、渦巻きポケモン。オムナイトの進化系。鋭い牙と触手が武器だが、背中の殻が大きくなりすぎた結果、エサを取れなくなって絶滅らしい』

 

『カブトプス、甲羅ポケモン。カブトの進化系。狙う獲物が海から陸に住処を変えたため、カブトプスも陸に上がったと推測されている』

 

「カブトの進化系……!?」

 

 シッポウジムがある博物館で見た、カブトの化石。その進化体に、シューティーは驚く。

 

「それに、もう片方のオムスター。絶滅したらしいって事は……あのポケモンも昔のポケモン?」

 

 また、絶滅したというオムスターの情報に、デントは昔のポケモンでは予想していた。

 

「ブトーーーッ!」

 

「ムスーーーッ!」

 

「つじぎりととげキャノン!」

 

 カブトプスは得物である鎌で切りかかり、オムスターは棘型のエネルギーを連射する。

 シューティーとデントは、急いで回避の指示を出し、ダメージを最小限に抑える。

 

「このままだと……!」

 

 回復したとはいえ、フーディン戦での消耗は激しい。このまま戦い続けたら、こっちが先に限界を迎えてしまう。

 

「トプーーーッ!」

 

「スターーーッ!」

 

「しまっ……!」

 

 蓄積した疲労で判断が鈍ったその一瞬に、オムスターとカブトプスが迫る。不味いと思ったその時――横から無数の同じ攻撃が放れ、オムスターとカブトプス、他のポケモン達も吹き飛ばす。

 

「オムッ!?」

 

「ブトッ!?」

 

「今のは……?」

 

 十は簡単に超える大量の攻撃。しかし、それだけの量を一体誰が放ったのだろう。シューティーとデントが攻撃の放れた方向を向くと。

 

「き、君達は……!」

 

 その存在達に、驚愕から二人だけでなく、多くのトレーナーや警官達が目を見開いた。

 

 

 

 

 

「オノォ! ノノォ!」

 

 ポケモンセンター前。片刃の黒竜、オノノクスが雄叫びを上げながら両手のドラゴンクローで一匹一匹倒す。

 

「――ノクス!」

 

 尻尾で薙ぎ払って吹き飛ばし、腕をブンと勢い良く振るう。すると、ポケモン達の上から岩石が落下し、ポケモン達を襲う。その攻撃により、また数匹が倒れた。

 

「オノォオオォーーーッ!!」

 

 手持ちのポケモン達が倒され、回復まで戦線離脱したベルやカベルネ達に代わり、一匹でこの場所を守っていたオノノクス。

 その実力は圧倒的で、一匹だけにも関わらず、ロケット団のポケモン達を次々と撃破していく。カイリキーやボスゴドラを含めると、既に五十は倒していた。

 そのあまりの強さと迫力、次々と倒れた味方達の姿、暴走中のポケモン達すら実力差を悟って恐れ戦き、後退りしていた。

 

「……」

 

 オノノクスは雄叫びを上げると、次に無数の敵を無言ながらも鋭い眼差しで睨み付けた。ロケット団のポケモン達はビクッと脅え、下がっていく。

 

「エビィ!」

 

「サワァ!」

 

「カポォ!」

 

 しかし、その内の三匹が意地から前に出る。パンチを得意とするパンチポケモン、エビワラー。キックを専門とするキックポケモン、サワムラー。角を使い、逆立ち状態からの独特な攻撃を扱う逆立ちポケモン、カポエラー。

 ちなみにこの三匹、同じポケモンから進化するポケモンだったりする。

 

「エビエビエビッ!」

 

 自分の間合いまで距離を詰め、れんぞくパンチを放つエビワラー。

 

「――オノ」

 

「ワラッ!?」

 

 拳の速さ、鋭さはパンチポケモンと言われるだけあって中々なものだが、オノノクスは両手で軽々と受け止める。得意の技を難なく止められ、エビワラーは目を見開く。

 

「サワーーーッ!」

 

 そこに、サワムラーが飛び上がると蹴りを放つ。外すとダメージを受けるリスクはあるが、格闘タイプの中でも最高峰の威力の技、とびひざげりだ。

 

「――ノクス」

 

「エビッ!?」

 

「サワ!? ――ムラーーーッ!」

 

 オノノクスはその力でエビワラーをサワムラーに向け、放り投げる。二匹は衝突し、地面に落下した。

 

「カポーーーッ!」

 

 カポエラーが近付き、逆立ち状態で回転しながら蹴りを放つ。トリプルキックと呼ばれる技だ。

 

「――オノ」

 

「エラ!?」

 

 オノノクスにとって初見の技だが、長年の戦いの経験から瞬時に最適な行動を取る。

 尾で逆立ちの起点である角を救い上げ、足を掴むとエビワラーとサワムラーに向けて放り投げた。

 

「オノ!」

 

 三匹の格闘ポケモンが固まった所に、オノノクスが竜の力を込めた爪――ドラゴンクローを連続で叩き込む。

 

「エビ……」

 

「サ、ワ……」

 

「カポ~……」

 

「……」

 

 三対一と言うのに、難なく撃破したオノノクスは周りのポケモン達を見渡す。それだけでロケット団のポケモン達は後退する。

 

「うわっ、すご!」

 

「一体で、これだけの数を……!」

 

「どれだけ強いのよ、あのオノノクス……」

 

 ポケモンセンターから、ある程度回復を済ませたベルやカベルネ、ジュンサーや他の数人のトレーナー、警官達が出てきた。

 だが、まだまだ余裕があるオノノクス、倒れたポケモン達の姿に、驚愕の様子を見せていた。

 

「何にしても助かったわ、オノノクス。……まだ協力してくれるかしら?」

 

「……ノクス」

 

 途中で投げ出すつもりはない。ジュンサーの問いに、オノノクスは頷く。

 

(にしても、これだけの強さなら、ここの戦力を割いて救助に送れるかも……)

 

 この様から見ても、このオノノクスは間違いなく桁外れに強い。このオノノクスを重点にすれば、防衛の戦力を救助に回せれる。

 だが、いち早い補充のため、手当はまだ数人のみ。オノノクスだけに全てを任せるのは流石に負担が大きいし、回せれなない。

 もっと戦力があれば。ジュンサーがそう思った時、ロケット団のポケモン達の横から先程のシューティー、デント達と同じ攻撃が放たれる。

 

「今の、誰……?」

 

 ベルの戸惑いの声は、オノノクスを含めた全員の総意だった。一同がそちらを向く。

 

「あ、あれは……!」

 

 

 

 

 

「ドリュウズ、みだれひっかき!」

 

「ドリュリュ!」

 

「ユキキッ!」

 

 爪による乱撃が、雪山の様な頭を持つポケモン、樹氷ポケモン、ユキカブリに命中する。

 

「キカーーーッ!」

 

「タネばくだん! ゴチルゼルが」

 

「ゼル!」

 

 ユキカブリが放った大型の種を、手当で戦線復帰したゴチルゼルがサイケこうせんで相殺する。

 

「ドリュウズ、メタルクロー!」

 

「リュズ!」

 

「カブーーーッ!」

 

 ユキカブリに接近し、ドリュウズは鋼の爪を叩き込む。効果抜群の一撃により、ユキカブリは倒れた。

 

「リュ……リュズ……」

 

「ドリュウズ、大丈夫?」

 

「……リュズ」

 

 ドリュウズは頷くが、肩で息をしていた。身心の疲労が溜まっているのは一目瞭然だ。

 しかし、ここはバンギラスによって防衛ラインが崩されたため、避難していた人々の手助けがあっても、頼れる戦力であるドリュウズを下げる訳には行かなかった。

 だが、このまま戦い続けても、ドリュウズは何時か疲労で力尽きてしまう。長期戦のためにも、休ませたいがその余裕がない。

 どうしたらとアイリスが悩んでいると、次のポケモン達が迫って来る。

 

「あぁもう、どれだけ来るのよ!」

 

 倒しても倒しても、また次が来る。終わりが見えず、思わず叫ぶアイリスだが、直ぐに気を引き締め直し、次の敵を倒そうとした。

 その直後だ。次のポケモン達が、後ろから放たれた大量の攻撃により、吹き飛んだのは。

 

「嘘……!」

 

 思わず後ろを見る。その攻撃の主達に、アイリスだけでなく、全員が表情を驚きに染めた。

 

 

 

 

 

「ツボーーーッ!」

 

 赤色のホヤを思わせる甲羅に、黄色く細長い頭部、手足のようなものが飛び出し、高い防御力が持ち味の発酵ポケモン、ツボツボが口から虫の力の波動を放つ。

 

「むしのていこうか! 皆、避けるんだ!」

 

 アーティの指示で三匹は避けると、攻撃の構えを取る。

 

「ハハコモリ、シザークロス! ホイーガ、ハードローラー! イシズマイ、うちおとす!」

 

「ムンナ、ねんりき~!」

 

「ムシャーナ、サイコウェーブ!」

 

「ハハーン!」

 

「ホイーーーッ!」

 

「マイッ!」

 

「ムンナ~」

 

「シャーナ!」

 

「ツボーーーッ!」

 

 高い防御力のツボツボだが、この前にもダメージを受けていたため、今の攻撃で倒れた。

 

「硬いポケモンだったね……」

 

 攻撃力が低い分、防御力が高いのだ。かなり攻撃して漸く倒せた。ただ、アーティはまた好きな虫タイプのポケモンとの交戦に眉を顰めている。

 

「こんなポケモンもいるんですね~」

 

「ショウロ、迂闊に近付いたらダメ」

 

 変わった姿のツボツボに、ショウロは興味津々。ツンツンと指先でつついていた。ただ、数回するとショウロは姉の忠告通り離れた。

 

「むっ、次か……」

 

 ツボツボを含め、数体を倒したアーティ達だが、やはり他の場所同様、休む間がない。少しずつ疲労が溜まり出していた。

 

「アーティさん、何とかなりませんか、これ~!」

 

「無茶言わないでくれ。今が一杯一杯なんだ」

 

「余裕が全くありませんしね……」

 

 今の戦力では維持が限界なのだ。助けも期待出来ない。それに仮に来ても余程の数でないと、収めるまでに時間が掛かってしまう。

 

(数千規模の援軍か、或いは……)

 

 桁外れの力。そのどちらかが無い限り、この事態はまだまだ続くだろう。

 

(余計な事は考えるな)

 

 ふと考えてしまったが、それを振り払うアーティ。無い物ねだりしても、何も変わらない。都合良くそんな援軍が来るわけが無いのだから。

 新たな敵に向き合うアーティ達だが、その後ろからも他の三ヶ所と同様、ロケット団のポケモン達へと攻撃が放たれた。

 

「……! アーティさん! あれを!」

 

 ショウロの言葉に振り向き――アーティは微笑む。

 

「まさか、君達が来てくれるとはね」

 

 

 

 

 

「へへっ、ありがとな」

 

「助かるよ」

 

 そして、それはサトシ達の場所でも同じ事が起きていた。

 ゲンガー、プテラを撃破し、手当や休憩を済ませたが、中々前に進めない所に突如援護攻撃が放たれたのだ。

 サトシとN達も最初は驚いたが、その攻撃の主達を見て、笑顔を浮かべ――その名を呟く。

 

「フシデ!」

 

「――フーーーーーッ!!」

 

 その攻撃の主は、セントラルエリアに保護されていたはずの大量のフシデ達だった。

 思わぬ援軍に、一部以外は驚愕していたが、その驚きはまだ続く。駆け付けた援軍は、フシデ達だけではないのだから。

 

「――なんだ!?」

 

「……誰か来る?」

 

 ロケット団のポケモン達の背後から、人やポケモン達の声がするのだ。

 声が違うのでフシデ達ではない。となると、避難にしに来た者達かと思いきや、彼等はロケット団のポケモン達を攻撃し、戦闘不能にしていく。

 

「――ご無事でしたか」

 

「あ、あなたは……?」

 

「……」

 

 一人の男性が、サトシに声を掛ける。妙齢で、特徴的なモノクルやマントを着け、穏やかな表情をしている。

 

「我々は、『プラズマ団』」

 

 彼は告げる。自分達の組織の名前を。

 

「貴方方に――協力しに来ました」

 

 遂に、彼等は表舞台に立つ。

 そして――この後訪れる始まりの『その時』は、迫っていた。

 


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