ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 二日続けての投稿です。
 タイトルに?と思う人も多いと思いますが、投稿違いではありません。また、その意味もしっかりとあります。
 では、嵐の前の一時をどうぞ。


幾度の再会

「皆、無事だったかい?」

 

「はい。ただ……」

 

「何かあったのかね?」

 

「実は……」

 

 Nやシューティー、アーティや市長達の出迎えを受けるサトシ達だが、表情は暗い。

 市長が理由を尋ねると、アララギがフシデ達の暴れた原因を話す。但し、メテオナイトの本質については色々な事情から口を閉ざす。

 

「という事です」

 

「ロケット団……確か、指名手配されている連中ですね」

 

「そんな連中がいたのか……」

 

「僕も行くべきだったかもしれませんね……」

 

 アーティの言葉に、Nやシューティーも行くべきだったかと思っていた。

 

「いえ、フシデ達の様子を見ることも大切です。お気に召さらず」

 

 結果としては暴れなかったが、もしかしたらフシデ達が暴れていた可能性もある。アーティ達の判断は間違っていない。

 

「一応、ロケット団は目的を終えたのでフシデ達を戻しても大丈夫だとは思いますが……」

 

「少し様子を見るべきかもしれませんね……」

 

 影響は消えたとはいえ、もう安全だと言う確証が無い。もう少しここで保護するべきかもしれない。

 

「では、もう少し様子を見るように伝えよう」

 

「助かります。皆さんはゆっくり休んでください」

 

「はい。アララギ博士はどうしますか?」

 

「研究所も心配だけど……もう一度リゾートデザートに行く可能性も考えて、この街にいて置くわ」

 

 カノコタウンからリゾートデザートは遠い。また、フシデ達のためにも、アララギはヒウンシティに少しの間いることにした。

 

「では、適度な場所を用意しましよう」

 

「ご心配なく。この街には知り合いがいますから」

 

「そうでしたか。では、我々はここで」

 

「僕も失礼するよ。フシデ達を見てないとね。サトシ君、済まないがジム戦はもう少し待っててくれ」

 

 

「はい」

 

 市長は頭を下げると、様々な業務を片付けるべく離れた。アーティもセントラルエリアに向かう。

 

「アララギ博士、知り合いというのは?」

 

「サトシ君には言った事があるわよね。前にヒウンシティに、ポケモンの転送システムを担当するショウロって子がいるって」

 

「あっ、そう言えば……」

 

 ヤグルマの森の先にあるポケモンセンターで、そう話していたのをサトシは思い出した。

 

「折角だから会ってみる? 預かって欲しいポケモンがいたら送れるわよ?」

 

「今のままで良いです。ただ、どんな人か会ってみたいです」

 

 サトシは預かるのはともかく、アララギの知人のショウロには興味があった。

 

「皆は?」

 

「あたしも興味あります!」

 

「僕もです」

 

「では、ボクも」

 

「じゃあ、僕も会ってみます」

 

 他もショウロに興味を抱いたらしく、会うことにした。

 

「じゃあ、私に着いてきて。彼女が管理してるシステムの場所はこっちよ」

 

 アララギの案内の下、ショウロがいる場所へと向かう。

 

 

 

 

 

「ここですか?」

 

「えぇ、ここで彼女が預かりシステムを管理してるの。さぁ、入り――」

 

「お姉ちゃん! どうして、研究を再開しないの!」

 

 ショウロがいる場所に着き、入ろうとしたサトシ達だが、その前に少女の声が響く。

 

「分かって、ショウロ。私はもう、あの研究はしないって決めてるの」

 

「あれ? この声……?」

 

 少女と話している女性。シューティーを除いたサトシ達はその声に聞き覚えのあった。

 

「マコモ?」

 

「あら? この声は……アララギ?」

 

 中に入る。すると、左右を軽く束ねた茶髪で眼鏡を掛けた少女と、サンヨウシティで夢の煙の騒動で出会った女性、マコモがいた。彼女の隣にはムンナとムシャーナがいる。

 

「マコモさん!」

 

「サトシ君! それも皆も……」

 

「ム~ンナ」

 

「シャ~ナ」

 

 マコモとの再会に、サトシ達は挨拶。マコモとムンナやムシャーナは返す。

 

「そちらの彼は見たことが無いわね。貴方は?」

 

「シューティーです」

 

「私はマコモ。アララギの友人である研究をしてたの。今は止めてるけど……。ところで、アララギ達はどうしてここに?」

 

「ショウロちゃんに会いに来たの。マコモに会うのは予想外だったけど」

 

「で、ショウロって人は?」

 

「あっ、それはあたし」

 

 眼鏡を掛けた茶髪の少女が、ぶかぶかの袖を上げる。

 

「えっ、まさかこの子がポケモン転送システムの管理者!?」

 

「滅茶苦茶若いじゃない!」

 

「僕達よりも若いかも……」

 

 想像以上に幼いショウロに、サトシ達は驚愕する。

 

「ふふ~ん、スゴいでしょ。このあたしこそ、イッシュ地方の転送システムの管理者なの」

 

 ショウロは自信満々に、どや顔で胸を張る。

 

「あたしの事はさんでもちゃんでも構わないから。で、アララギ博士は何のようで?」

 

「少しの間、ヒウンシティに留まることになったの。だから、ここに泊めてくれないかしら?」

 

「良いですよ。それにアララギ博士なら、お姉ちゃんを説得出来るかもしれませんし」

 

「説得? それにお姉ちゃん?」

 

「ショウロは私の妹なの」

 

 マコモとショウロが姉妹と知り、サトシ達はなるほどと呟く。

 

「で、説得というのは……?」

 

「夢のエネルギーの研究再開だよ!」

 

 夢のエネルギーと聞き、アイリスとシューティーを除くサトシ達は目を見開く。

 

「ムシャーナと再会出来たのに、お姉ちゃんは全くやらないから直接こうやって話し合ってたの。お姉ちゃん、どうして再開しないの?」

 

「ショウロちゃん。夢のエネルギーは前に――」

 

「結果については知ってるよ。聞いたから」

 

 ショウロはマコモの妹。夢のエネルギーの結果に付いて聞いても何ら不思議ではない。

 

「だけど、科学に失敗は付き物。失敗を糧に成功を果たし、世に貢献をもたらす。それこそ科学者の役目でしょ?」

 

 ショウロの言葉に、サトシ達は思わず唸る。アララギも確かにと呟く。

 

「だけど、ショウロくん。マコモさんはしっかりと考えた上で、しないと決めた事。その意志は尊重するべきじゃないかな?」

 

 Nは、マコモの意志を大事にするべきだと語る。

 

「そうかな? あたしには失敗を恐れて、科学から逃げた風にしか見えないよ」

 

「ショウロさん! 幾ら何でもそんな言い方はないだろ!」

 

 ショウロの逃げたという言葉に、サトシは思わず声を荒らげる。

 マコモの色々と考えた上での選択を逃げたと言われれば、流石にサトシも我慢ならない。

 その場を見ていたNやデント、話を聞いていたアララギも厳しい表情になっていた。

 

「……確かにそうだね。言い過ぎた。ごめん、お姉ちゃん」

 

「良いのよ。そう言われても否定出来ないから」

 

 妹が、自分を思ってそう言ったのは姉として分かっている。

 

「だけど、ショウロ。私はよく考えた上でこの選択を選んだの。それを簡単に変えるつもりはないわ」

 

 夢のエネルギーの危険性、ムンナやムシャーナへの負担を考え、マコモは中止を選んだ。その意志は簡単には変わらない。

 

「……そっか。お姉ちゃんの意志は固いみたいだね。だったら、あたしもこれ以上は言わないよ。だけど、もし夢のエネルギーの研究再開をするつもりなら何時でも言ってね。あたし、協力するから」

 

「その時は私も協力するわ」

 

「ありがとう、アララギ、ショウロ」

 

 力になる親友と妹に、マコモはお礼を告げた。

 

「じゃあ、話は終わり。アララギ博士、部屋を用意しますね。お姉ちゃんも今日はここで休んで」

 

「助かるわ。じゃあ皆、用があったらここに来てね。それとサトシ君。これを渡して置くわ」

 

 アララギが手渡したのは、錠剤だった。それを見て、サトシはこれが何か直ぐに分かった。ピカチュウの体調を改善するための薬なのだと。

 

「ありがとうございます。あっそうだ。アララギ博士、これを」

 

 サトシは二つのモンスターボールをアララギに渡す。

 

「これは……?」

 

「Nさんのです」

 

「あぁ、そう言うことね。分かったわ、預かります」

 

 Nを見る。コクリと頷いており、彼が何らかの理由――おそらくはポケモンの為に使ったモンスターボールだと知り、アララギは預かった。

 

「じゃあ、失礼します」

 

 アララギやマコモ、ショウロに頭を下げ、サトシ達はその場を後にした。

 

「いやー、まさかマコモさんと再会するなんてなー」

 

「うん、正にサプライズだね」

 

「ムンナとムシャーナも元気そうで何よりだよ」

 

「サトシ、デントさん、Nさん。夢のエネルギーとは?」

 

「あっ、それはあたしも聞きたい」

 

 アイリスはポケモンセンターで待機したため、夢のエネルギーやムシャーナについての経緯はシューティーと同じく知らなかった。

 なので、サトシ達はその経緯について簡単に話した。

 

「――と言うわけ」

 

「なるほどねー」

 

「にしても、その件でもロケット団は関わっているのか」

 

 シューティーのその言葉に、デントは考える仕草を取る。

 

「……そう言えば、ロケット団はそもそも何故夢のエネルギーを狙ったんでしょうか?」

 

「メテオナイトを狙った経緯を考えると……やはり、エネルギー目当てじゃないかな?」

 

 そう考えるのが妥当だ。しかし、何かが引っ掛かる。夢のエネルギー、博物館の隕石盗難騒ぎ、そして今回のメテオナイト。

 後者二つの繋がりから、夢のエネルギーも何か関連しているようにデントは思えるのだ。

 

(……これ以上は無理か)

 

 情報が足りない。これ以上の推測は不可能だ。モヤモヤは残るが切り上げるしかない。

 

「この後はどうしようかな?」

 

「僕とのバトルだろう」

 

「あっ、忘れてた」

 

 昨日、シューティーとバトルの約束をしていたのを思い出す。

 

「じゃあ、しようぜ。何処でする?」

 

「この街のバトルクラブ。あそこなら問題なく出来る。案内するよ」

 

「頼む」

 

 シューティーの案内に従い、サトシ達はヒウンシティのバトルクラブに向かう。

 

 

 

 

 

「バトルの事なら何でもお任せ。バトルクラブへようこそ」

 

 バトルクラブに到着したサトシ達は、この街のバトルクラブを管理するドン・ジョージと対面する。

 

「今日は何用かね?」

 

「僕と彼の試合を」

 

「了解した。ちなみに、今はバトルの最中だが見るかね?」

 

「見ます」

 

「ではこちらだ」

 

 ドン・ジョージにバトルフィールドに案内してもらう。途中、何かの声が聞こえた。

 

「あぁもう! あんた、突撃ばっかりじゃない! 猪にも程があるわよ!」

 

「フタフタ!」

 

「こ、これがわたしの戦い方だもん!」

 

「チャオチャオー!」

 

「あれ? また何か聞いた事がある声が……」

 

「う、うん、確かに聞いたことがあるような……」

 

「もしかして、この声は……」

 

 まさかと思いつつ、バトルフィールドに到着すると、そこには二人の少女とポケモンがいた。

 

「ベル!」

 

「それにカベルネも!」

 

「あっ、サトシくん!」

 

「げっ……」

 

 ヒウンシティの前で出会った少女、ベルと新築のフレンドリィショップで出会ったポケモンソムリエール、カベルネがいた。彼女達はチャオブーとフタチマルでバトルしていた。

 

「久しぶり~! 元気だった?」

 

「あぁ、ベルも元気そうだな」

 

「うん! バッジも二つ目ゲット!」

 

「相変わらずな感じね~」

 

「カベルネも元気で何より」

 

「……あんた達もね」

 

 ベルは楽しく、カベルネは素っ気なく答える。

 

「サトシくん。彼女達は?」

 

「あっ、この二人は旅で知り合ったんです。こっちがベルで、あっちがカベルネ」

 

「ベルって言います! よろしくね!」

 

「私はカベルネ。今はCクラスのポケモンソムリエールよ」

 

「僕はシューティー」

 

「ボクはN。宜しく」

 

「シューティー君に、N……さん?」

 

「変わった名前ね……」

 

「良く言われるよ」

 

 互いに自己紹介する四人。ベルとカベルネはやはりNの珍しい名前に不思議そうな表情をしている。

 

「ゾロ」

 

「カブブ」

 

「ブイ~」

 

「この三匹はNさんの?」

 

「そうだよ」

 

「ゾロア、ポカブ、それにこのポケモン……もしかして、イーブイ? イッシュにはいないポケモンじゃない」

 

「うわっ、本当だ~! 可愛い~!」

 

 イッシュにはいない、また可愛らしさからイーブイに近寄るベル。ちなみに、シューティーはフシデ達の監視の際に見て聞いているのでもう驚いていない。

 

「あなた、どこでゲットしたの?」

 

「ゲットと言うよりは、育て屋から託されたタマゴから産まれた子だよ」

 

「良いな~。こんな珍しいポケモンゲット出来て~」

 

「――ベルくん」

 

「は、はい?」

 

 珍しいポケモンと呟いた直後、Nから強い言葉を掛けられ、ベルは思わず戸惑う。

 

「この子はこの子。それだけだよ。珍しいポケモンだとかはボクには関係ない」

 

「ブイイ~」

 

 Nは、イーブイはイーブイと言うポケモンであるだけ、自分はそれ以外はどうでもいいと、抱き抱えて優しく撫でながら語る。イーブイは嬉しそうに目を細めた。

 その様子に、ベルはNがイーブイを特別視してない事を理解する。

 

「あの、すみませんでした」

 

 特別扱いで傷付く場合もある。なので、ベルはNとイーブイに謝った。

 

「分かってくれたのなら構わないよ。だよね?」

 

「ブ~イ」

 

 

 ありがとうございますと、ベルは返した。

 

「そう言えば、サトシ君達はどうしてここに? やっぱりバトルしに?」

 

「あぁ、シューティーとな」

 

「と言うか、あんたは私とバトルの最中なんだけどね」

 

「あっ、忘れてた」

 

 サトシ達が気になり、カベルネとのバトルをすっかり忘れていたベル。

 

「じゃあ、再開~!」

 

「チャオ~!」

 

「マイペースね……。やるけど」

 

「チマ」

 

 試合を再開する二人。ベルは前と同じく突撃ばかりの猪突猛進な攻めばかりし、カベルネは何とか対応しながら反撃。

 最終的な結果はぶつかり合いの末、引き分けに終わった。

 

「引き分けか~。お疲れさま、チャオブー」

 

「まぁ、負けなかっただけ良いわね。ご苦労様、フタチマル」

 

 二人は頑張ったポケモンを労い、モンスターボールに戻した。

 

「何て言うか、ベルは相変わらずね~」

 

「だけど、速さと威力は上がってた。前よりも強くなってる」

 

「カベルネも良い感じだったね」

 

 ベルもカベルネも、二人共成長していた。

 

「サトシ」

 

「あぁ」

 

 サトシ達が二人を誉めると、シューティーが呼び掛ける。サトシは頷くと、シューティーと一緒にバトルフィールドに立つ。

 

「形式は?」

 

「一対一で良いか? 一番に調整してやりたいやつがいてさ。それに明日はジム戦かもしれないし」

 

「分かった」

 

 本番に備え、軽い調整に留めたいと言うサトシの要求をシューティーは受けた。

 同時に何を繰り出すかも大体読め、自分が出すポケモンも決まった。

 

「ハトーボー、君に決めた!」

 

「さぁ行け、ハトーボー!」

 

「――ボー!」

 

 二人のトレーナーは、互いにハトーボーを繰り出した。

 

「ハトーボー対ハトーボー!」

 

「サトシのハトーボーは昨日進化したばかり。自分の新しい力をより良くコントロール出来るように選んだんだろうね」

 

「なるほど。よく考えてるね」

 

 今後の為にも、ハトーボーには経験を積ませる。その判断にNは感心した様子だ。

 

「じゃあ、シューティーはどうしてハトーボーを? 相性で考えたら、バニプッチの方が良さそうな気が……」

 

「彼なりに考えがあるんだと思うよ」

 

 口ではこう言うデントだが、実際は分かっていた。シューティーは敢えて前のバトルと同じにして、今の自分がサトシに何処まで通用するかを試しつつ、可能ならリベンジを果たそうとハトーボーにしたのだと。

 

「サトシ君のマメパト、進化したんだ~」

 

「その様ね」

 

「カベルネちゃんは知ってるの?」

 

「戦ったわ。結果は完敗」

 

「私も~」

 

 ベルもカベルネも、サトシのマメパトに負けたので、進化してハトーボーになった事に注目していた。

 

「行くぜ! ハトーボー、でんこうせっか!」

 

「こっちははがねのつばさ! 受け止めるんだ!」

 

「ハトー!」

 

「ハー……ボーーーッ!」

 

「ボッ!?」

 

 進化した速さと威力が上がったでんこうせっかで先制攻撃を狙うサトシ達。その一撃を、シューティーのハトーボーは翼を鋼の様に硬化させて受けとめる。

 

「弾け!」

 

「ボーーーッ!」

 

「ハトッ!」

 

「そこだ! エアカッター!」

 

「ハトー……ボー!」

 

「ボーッ!」

 

「ハトーボー!」

 

 受け止めたシューティーのハトーボーは鋼化した翼で弾き飛ばし、隙を作らせる。そこにエアカッターを発射。見事に命中させた。

 

「はがねのつばさで素早い一撃をダメージを軽減しつつ防御。反撃に活かす……」

 

 更にはがねのつばさの追加効果で防御力が上がる。見事な防御だ。

 

「ハトーボー! もう一度でんこうせっか! 吹き飛ばされた勢いを利用して加速しろ!」

 

「――ボーーーッ!」

 

「速い!」

 

 攻撃の衝撃を逆利用し、先程以上のスピードのでんこうせっかを放つ。

 

「ハトーボー、速さに惑わされるな! もう一度はがねのつばさで防御だ!」

 

「ハト!」

 

 シューティーのハトーボーは翼を再度硬質化。迫るサトシのハトーボーに対し、耐える体勢を取る。

 

「そこだ、急停止! その勢いを使って、かぜおこし!」

 

「ハトー……ボーーーーッ!」

 

 ハトーボーは当たる少し手前で止まり、その際に発生した慣性の力を利用したかぜおこしを放つ。

 

「ハトー!?」

 

 不意を完全に突かれた上で強風に煽られ、シューティーのハトーボーは姿勢を崩す。

 

「今だ、かまいたち!」

 

「トー……ボーーーーッ!!」

 

 片翼を構え、素早く振るう。エアカッター以上に鋭い空気の刃が放たれ、シューティーのハトーボーに命中する。

 

「更にでんこうせっか!」

 

「ハトー!」

 

「かげぶんしんだ!」

 

「ボー!」

 

 無防備な所に高威力の攻撃を受け、シューティーのハトーボーは更に隙を見せる。

 サトシ達は追撃を仕掛けるも、シューティー達は回避しながら分身を展開、惑わせる。

 

(前のバトルを考えると、サトシはここでかぜおこしを使ってかげぶんしんを消してくるはず)

 

 そこを耐え、つばめがえしでダメージを与える予定をシューティーは組んでいた。

 

「ハトーボー――かまいたち! 広く薙ぎ払って分身を沢山消せ!」

 

「何!?」

 

「ハトボー!」

 

 サトシはここで前と同じかぜおこしではなく、かまいたちを指示。ハトーボーは普通よりも長いかまいたちを放ち、多数の分身を打ち消す。

 

「もう一度!」

 

「ハトッ!」

 

「ハトーボー、かわせ!」

 

「ボッ!」

 

「ハトーボー、でんこうせっか!」

 

「ハトー!」

 

「ボー!」

 

 もう一度かまいたちを放ち、残りの分身ごと当てようとする。

 シューティーのハトーボーは咄嗟に回避するも、そこをサトシのハトーボーがでんこうせっかを当てた。

 

「どうして、さっきかぜおこしじゃなく、かまいたちを使ったんだい?」

 

「何か、ありそうな気がしたんだよなあ。最初のでんこうせっかを見事に対処されたし」

 

「……なるほど」

 

 初手を見事に対処したことや、似た展開にサトシは危険を感じ、かまいたちに切り替えたのだ。そこは多くのバトルをした彼だからこその直感だろう。

 

「そう言うの困るよ、全く」

 

 作戦を重視するシューティーには、直感で対応されるのが一番困るのである。思わず苦笑いしてしまう。

 

「そう言われても、これが俺だしなあ」

 

「だろうね。――かげぶんしん! そこからつばめがえし!」

 

 シューティーのハトーボーは分身を再展開。そこからつばめがえしを放つ。

 

「ハトーボー、かぜおこし!」

 

 でんこうせっかやつばめがえしでは隙が出来る。かまいたちは間に合わない。かぜおこししかなかった。

 

「――ハトーボー、反転! その風を利用しろ!」

 

「ハトー!」

 

 かぜおこしの風を逆利用し、シューティーのハトーボーは加速する。

 

「つばめがえし!」

 

「ハトー……ボーーーーッ!!」

 加速で威力を高めた、つばめがえしが迫る。

 

(こっちもつばめがえし……いや、ダメだ)

 

 ハトーボーは進化したばかりで、自身の力を完璧にコントロールしたとは言い難い。更に向こう加速で威力が増している。ぶつかり合いでは力負けしてしまう。

 

「ハトーボー、かぜおこし!」

 

「サトシ、今のハトーボーをそれで止めるのは――」

 

「回転しながら受け流す様に!」

 

 サトシの指示に疑問符を浮かべたシューティーだが、次の一瞬で気付く。直ぐに対応しようとしたが遅かった。

 受け流しの風に煽られてシューティーのハトーボーは更に加速させられ、姿勢を崩して落下する。

 

「決めるぞ、つばめがえし!」

 

「ハトー……ボーーーーッ!!」

 

「ボーーーーッ!」

 

 最大の隙を狙い、サトシのハトーボーはつばめがえしを放つ。その一撃は落下して隙だらけのシューティーのハトーボーに直撃。シューティーのハトーボーは戦闘不能となった。

 

「ボー……」

 

「勝ったぜ!」

 

「ボーーーッ!」

 

「……ご苦労、ハトーボー」

 

 ハトーボーを労いながらモンスターボールに戻し、シューティーは自分の未熟さに溜め息を付く。

 

「……まだまだか」

 

 作戦を立てていた序盤以外は悉く上回れてしまった。まだまだ遠い。

 

「うわ~、サトシ君やっぱり強~い!」

 

「確か、シューティーだっけ? あいつも充分強いわよ」

 

 シューティーも自分やベルでは運が良くて勝てるレベルの実力者だ。ただ、サトシがそれ以上に強い。それだけである。

 

「シューティーくん、戦術の幅が広がっているね」

 

「えぇ、それに作戦の質も上がっています」

 

 負けこそはしたが、シッポウシティの時よりもシューティーは確実に成長している。Nとデントはそれを実感していた。

 

「ハトーボー、新しい身体は使いこなせたか?」

 

「ボー」

 

 コクンとハトーボーは頷く。進化して得たこの身体とこの力は、まだまだ制御は完全ではないがサトシに追い付き始めたと上機嫌だ。

 そのハトーボーの笑みに、サトシは良かったと安心する。この様子だと進化に対しての苦悩は無さそうだ。

 

「お疲れさま。ゆっくり休んでくれ」

 

 バトルも終わり、サトシはハトーボーを労うと休ませるべくモンスターボールに戻す。

 

「サトシ君、この後どうするの?」

 

「ポケモンセンターで休ませるよ。明日に備えたいしな」

 

「じゃあ、私も行くわ。フタチマルを回復させないといけないし」

 

 と言う訳で、サトシ達はポケモンセンターに向かう。

 

「ねぇねぇサトシ君、わたしこの街のセントラルエリアにフシデが大量にいるのを見たんだけど、どうしているの?」

 

「あぁ、ちょっとした騒動でフシデ達が暴れたんだ。それでセントラルエリアに保護してるんだよ」

 

「物騒ねえ。明日には出た方が良さそうね」

 

 その後、色々と話し合っていると、一つのバスがバス停の近くで停止。扉が開いて中から人が出てくる。

 

「はーい、到着。皆、ヒウンシティに着いたわよ」

 

「ゆっくり出るのじゃぞー」

 

「は~い、ユリ先生~。キクヨ先生~」

 

「ユリ先生?」

 

「キクヨ先生?」

 

「それにこの複数の声って……」

 

「まさか?」

 

 サトシ君がそちらを向く。するとそこには。

 

「あら、サトシ君?」

 

「N君にアイリスちゃんやデント君も」

 

「あっ、サトシお兄ちゃ~ん!」

 

「皆も!」

 

 育て屋の保育園の幼児達や、先生のユリやキクヨがいた。ユリやキクヨはサトシ達を見て驚き、子供達はサトシに近付く。

 

「ヤブー!」

 

 

「おっ、ヤブクロンも元気そうだな!」

 

「ヤブヤブ!」

 

 バスから、その一件で一緒になることとなったヤブクロンも出てきた。愛嬌のある笑みを浮かべ、サトシ達に挨拶する。

 

「そっちも元気そうで何よりじゃのう。それと、その子達は知り合いかの?」

 

「そうです」

 

 シューティー達は簡単に挨拶し、ユリやキクヨ達も返す。

 

「あっ、そうだ。こいつ、見てください」

 

「この子も」

 

「――ルッグ!」

 

「ブイブ~イ」

 

 サトシとNは、受け取ったタマゴから産まれたズルッグとイーブイを彼女達に見せる。

 

「この二匹は……」

 

「はい。託されたタマゴから産まれました。ズルッグ、この人達はタマゴの時のお前がいた場所の人だよ」

 

「キミも同じだよ、イーブイ」

 

「ルグ……」

 

「ブイ~……」

 

 前の親とも言える人達に会い、ズルッグとイーブイは何とも言えない懐かしさを抱いていた。

 

「二匹共、大切に育てられておるようじゃのう。やはり、君達に渡して正解じゃった」

 

 ズルッグもイーブイも自然体かつ、良い表情をしている。サトシとNが二匹をしっかりと育てているのが分かる。

 

「ありがとうございます。それにしても、皆はどうしてここに?」

 

「実は新しいタマゴをヒウンシティで受け取る予定なのじゃ」

 

「ヒウンシティで? 育て屋では受け取らないんですか?」

 

 わざわざヒウンシティに来てまで受け取りに来たことに、Nは疑問を抱いた。

 

「実はそのタマゴは他地方のポケモンのタマゴなの。だから、船でヒウンシティに運ばれて、私達は素早く受け取れる様にバスでここまで来たのよ」

 

「向こうでは預かれなかったのですか?」

 

「運悪く、一杯でのう。じゃから、繋がりのあるわたしゃらが預かる事となったのじゃ」

「おかげでヒウンシティまでわざわざ来る事になって、子供達やヤブクロン、タマゴも連れていかないとならなくなっちゃったの」

 

 育て屋の保育園は少人数なため、全員で行くしかなかったのだ。

 止むに止まれぬ事情を聞き、サトシ達は納得する。

 

「他地方のポケモンのタマゴ……! わたし、すっごく見てみたいです!」

 

「私も興味あるわね……」

 

 シューティーも口には出さないが、他地方のポケモンのタマゴには気になっていた。

 

「残念じゃが、受け取った後は育て屋に直ぐに戻らねばならんのでの」

 

「話し合いに関係者以外を通す訳には行かないし……」

 

「それもそうですよね~……すみません」

 

「それにその方が良いと思います。今、ちょっと危ないですし……」

 

「危ない? どういう事じゃ?」

 

「実は――」

 

 ユリやキクヨにも、フシデ達の件について話す。但し、メテオナイト関連については触れない。

 

「そうだったの……。これは早めに出た方が良さそうね、お婆ちゃん」

 

「じゃのう……」

 

 ある程度事態は鎮静化しているとはいえ、万一の可能性もある。子供達が巻き込まれないよう、受け取りが終わったら直ぐに戻るべきだ。

 

「え~、折角サトシ兄ちゃんやピカチュウに会えたのに直ぐに戻るなんてヤダ~!」

 

「ヤダヤダ!」

 

「ヤブヤブー!」

 

 しかし、サトシ達に再会したヒロタ達はもう少しいたいと駄々を捏ねる。ヤブクロンも同調する。

 

「でも、今ヒウンシティにはそれなりの危険があるの。貴方達を巻き込む訳には行かないわ」

 

 う~と唸るヒロタ達。しかし、ヤブクロンの一件で多少は自重を学んだのか、仕方ないと諦める。但し、見るだけで分かる程の落ち込み具合だが。

 

「じゃが、到着まではもうしばらく掛かるし、タマゴケースの調整もあるからの。今日直ぐに帰るのはちと難しいのう。それに話してる間は暇じゃろ?」

 

「じゃあ!?」

 

「サトシ君、それと皆ももし良ければじゃが、少しだけこの子達といてくれんのかのう」

 

「俺は良いですよ」

 

「あたしも良いです!」

 

「僕もです」

 

「ボクも構いません」

 

 何時も一緒に旅する三人組のサトシ、アイリス、デントとNは頷く。やったと子供達ははしゃぐ。

 

「ただ、その前にポケモンセンターでポケモンを休めたいんで、その後で良いですか?」

 

「えぇ。良いわね、皆?」

 

 笑顔ではーいと頷く子供達。サトシ達と遊べるのだ。ちょっとぐらいの我慢など、簡単である。

 

「では、治療したらここのこの部屋に来ておくれ」

 

「分かりました」

 

 場所を聞き、サトシ達はポケモンセンターへの移動を再開。少しして到着する。

 

「さて、早く回復してもらって――」

 

「では、緊急時はその様に」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「いえいえ、これも私達の役目ですから。じゃあ、これで――あら?」

 

 ジョーイと話していた一人の女性が、サトシ達を見る。

 

「サリィさん!」

 

 その女性は、スカイアローブリッジで出会ったサリィだった。

 

「こんなに直ぐ再会するなんて、びっくり」

 

「俺達もです。ゴチルゼルとは?」

 

「来る最中にちょっとだけ会ったわ」

 

 自分がいた場所からヒウンシティに行くには、スカイアローブリッジを渡る必要がある。その時にゴチルゼルと再会し、ほんの少しやり取りしていた。

 

「他の子はお友達?」

 

「そうです」

 

「初めまして。わたしはサリィ。ドクターを目指してて、今は研修医なの」

 

 サリィを知らないシューティーとベル、カベルネが自己紹介する。

 

「ところで、サリィさんは何故ヒウンシティのポケモンセンターに?」

 

 確か、スカイアローブリッジの近くで研修医として頑張っているはず。何故ヒウンシティにいるのだろうか。

 

「サトシ君達は、先日のフシデ達の騒動について知ってるかしら?」

 

「はい。この二人を除いて関わってましたから」

 

 この二人とは、ベルとカベルネの事である。

 

「その事で毒の影響を受けた人の為や、再度騒動が起きた時に備えて、わたしや他の医師達が臨時に来ることになったの」

 

「それで」

 

 死者こそは出てないが、まだ毒の影響を受けてる者はいる。その治療や再発の時に適切かつ素早い対応の為、サリィ達はここに来たのだ。

 

「それで、さっきまでジョーイさんと万一の事態に備えて、どうするかを話し合っていたの」

 

 サリィ達の専門は人間だが、医療関係でポケモンセンターと上手く連携を取れればスムーズに動ける。

 さっきまではその打ち合わせをしており、終わった所にサトシ達と再会したと言う訳である。

 

「さて、わたしは先生方にこの事を話さないと行けないから、失礼するわね。皆も気を付けてね」

 

 説明も終わり、サリィはポケモンセンターを後にした。その後、サトシ達はポケモンの回復をジョーイに頼み、モンスターボールを預ける。

 

「にしても、サトシ君って、色んな人に出会ってるんだね~」

 

「言われてみるとそうだな」

 

 最初はアララギ博士。次は順にシューティー、アイリス、N。デントを筆頭としたジムリーダー達や、ベルやカベルネ。

 そして、さっき再会したマコモ、育て屋の子供達や先生、サリィ。こうして見ると、結構な人々との出会いを果たしている。

 

「旅に置いて、出会いは色々と知ることが出来る良い切欠。多い方が良いと思うよ」

 

「そうよね~。それがあるから、あたしとサトシ達は旅してる訳だし」

 

「それに、その出会いがあるこそ、多くの経験も得れるからね」

 

 特にNは、理想の為の貴重な経験を幾つも体験出来て良かったと思っている。

 

「素敵~」

 

「経験、ですか」

 

 その言葉に、ベルは感動の笑みを浮かべ、シューティーは動かしていた手を止める。

 

「そう言えば、あんたさっきから何やってるのよ?」

 

「今日のバトルについて書いてる」

 

 シューティーがしていたのは、メモ帳に今日のバトルについてだった。より強くなるため、バトルの流れを事細かに書き、良かった所や反省点を見直して、次に活かすのだ。

 頭の中で考えただけでは、忘れてしまうかもしれない。それを避ける意味を込めて、メモ帳に書くことにした。ちなみに、これは既に二冊目である。

 今日のバトルについての詳細、今後の課題を書き終えると、シューティーはメモ帳を閉じてポーチに仕舞う。

 

「勉強家だな」

 

「強くなるための努力さ。」

 

 自分はまだまだ新人。少しでも早く強くなるには、色々しなければならない。

 

「ねぇねぇ、見ても良い?」

 

「断る」

 

「ケチ~」

 

 内容が気になったベルにねだられるも、シューティーは断った。ただで見せる気は無い。逆に言うと、何か対価を支払ってくれるのなら良いのだが。

 

「はーい、終わりましたよー」

 

「ありがとうございます」

 

 サトシ達はそれぞれ、回復してもらったポケモンが入ったモンスターボールを受け取る。

 

「じゃあ、あの子達がいる場所に向かおうか」

 

「そうね」

 

「場所はあっちだね」

 

「待っているだろうし、早く行って上げよう」

 

「ね~、サトシ君~。わたしも行って良い~?」

 

 サトシ、アイリス、デント、Nの四人がヒロタ達がいる場所に行こうとしたが、そこにベルが手を上げて参加を促す。

 

「ベルも?」

 

「うん! 楽しそうだし! カベルネちゃんやシューティー君も行ってみない?」

 

「なんでよ。意味分からないわ」

 

「同意見だ。あの子達が会いたがってるのはサトシ達だろうし、僕達が行く意味も理由もない」

 

「でも、もしかしたら他の地方のポケモンのタマゴ、見れるかもしれないよ? 気にならない?」

 

 行く気が無い二人だが、ベルの次の言葉に少し考える様子を見せる。確かにそうすれば、例のポケモンのタマゴを見れる可能性があった。

 

「……まぁ、ちょっと興味はあるわね」

 

「だけど、タマゴの状態だろう。孵化するまでいるわけじゃないから、どんなポケモンかは知れない」

 

「それでも、サトシ君のピカチュウや、Nさんのイーブイ以外の他の地方のポケモンのだよ~? わたしは気になるな~」

 

 ベルのマイペース振りや、ピカチュウやイーブイと同じく、他の地方のポケモンへの興味もあり、二人はしばらく悩む。

 

「……まぁ、たまには良いかもね」

 

 最終的には他の地方のポケモンへの好奇心が勝ったのか、カベルネは了承する。

 

「シューティーは?」

 

「……この状態で僕だけ断ると空気が悪くなりそうだし、僕も同行させてもらうよ」

 

 あと、何か仲間外れ感がしたので、それがちょっと嫌で同行することにしたのは内緒である。

 

「じゃあ、レッツゴー!」

 

 何故かベルが先導し、サトシ達は全員でヒロタ達に会いに向かった。

 多くの再会と共の一時。だが、それが嵐の前の静けさであった事を、彼等はまだ誰一人知らない。

 


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