ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 急ピッチで完成……。それでも遅れました。申し訳ありません。


暴れん坊の特訓と一騎打ち

「最初は速さと回避を身に付けるぞ。マメパト!」

 

「ポー!」

 

 先ずは、マメパトが最初の相手としてズルッグの前に立つ。

 

「ズルッグ、今からマメパトがでんこうせっかを放つ。それを避けるんだ」

 

 これならピカチュウでも良さそうだが、マメパトは空を飛べる分、色々な方向から攻撃出来る利点がある。

 

「マメパト、でんこうせっか! ――それなりの速さと威力で」

 

「ポー!」

 

 速さと威力を抑えたでんこうせっかを放つマメパト。ズルッグは身体を動かし、軽々避けた。

 

「うん。これは避けたな。じゃあ、マメパト、少しずつ上げていくぞ!」

 

「ポーポー!」

 

 サトシの指示通り、速さを上げながらマメパトは何度もでんこうせっかを放つ。

 

「ルッグ! ルッグ!」

 

「ブイブーイ!」

 

 イーブイの声援を受けながら、ズルッグはひたすらかわす。最初は多少の余裕があったものの、徐々に速くなるマメパトに直ぐに無くなり、必死になる。

 

「これ以上はキツいかな。マメパト、その速さを維持したまま、でんこうせっかを続けろ!」

 

「ポーー!」

 

 マメパトは今のスピードを維持しつつ、あらゆる方向からでんこうせっかを放つ。

 ズルッグは多方向から来るマメパトの突撃を、一生懸命かわす。

 しかし、徐々にかするようになり、遂に直撃する――瞬間、マメパトが急上昇。自分から外した。

 

「ズルッグ、今のは当たってたな」

 

「……ルグ」

 

 マメパトが外さなければ、間違いなく食らっていた。ズルッグは悔しさから歯を食い縛る。

 

「もう止めるか?」

 

「ルグルグ!」

 

 ズルッグはまだまだやれると、横にぶんぶんと振る。

 

「マメパト、再開してくれ」

 

「ポー!」

 

 特訓が再開。ズルッグはまた避けていく。それが数分繰り返されると、サトシが切り上げた。

 

「終わり! 少し休憩――」

 

「ルグルグ!」

 

 かなり疲労が溜まっていたが、ズルッグはまだやれると意気込む。

 

「ダメだ」

 

「……ルッグ」

 

 目で直ぐにやりたいと強く訴えるズルッグだが、サトシも強い目でダメと告げる。しばらくすると、ズルッグは根負けし、休むことにした。

 

「ブイブイ」

 

 イーブイにお疲れ様と言われてズルッグは気を休め、それから十分の休憩を挟むと、次の特訓を始める。

 

「次はずつきの練習。ツタージャ、頼むな」

 

「タジャ」

 

 次はツタージャが出て、ズルッグと向き合う。

 

「ツタージャ、今からズルッグがずつきをするから受け止めてくれ」

 

「タジャ」

 

「良いかズルッグ、今度はずつきの威力を高めるんだ」

 

「ルッグ!」

 

 ズルッグがツタージャを強く睨む。昨日、止められた事を思い出し、対抗心を高めていた。

 

「ズルッグ、ずつき!」

 

「ズルッグーーーッ!」

 

「――タジャ」

 

 全力でズルッグはずつきを放つも、ツタージャの蔓で軽々と受け止められる。

 

「タジャジャ」

 

 さっさと次をしなさいと促すツタージャ。ズルッグは更に対抗心を高めると、次のずつきを放つもまた止められる。

 むむむと、ズルッグは悔しさを募らせながら放つも、その全てを防がれてしまう。

 

「タジャタージャジャ」

 

 もっと身体に力を込めて放ちなさいと、ツタージャは防ぎながらもズルッグにアドバイスする。

 

「……ルッグ!」

 

 その後、ズルッグがずつきを何度か放つと、防御に使った蔓が押された。

 

「タジャ、タジャジャ」

 

 まぁ、少しは形になったわねと、ツタージャは彼女なりに誉めた。

 

「次に行くぞ、ポカブ!」

 

「カブ!」

 

 ツタージャと代わるように、ポカブが前に出る。

 

「ズルッグ、次は当てる練習だ。ポカブの動きを見抜いて、ずつきを当てるんだ」

 

「ルグ! ――ルッグ!」

 

「ポカ!」

 

 またズルッグはずつきを放つ。しかし、ポカブに軽々とかわされた。

 

「ズルッグ! そんなんじゃ、簡単にかわされるぞ! もっと早く動いて、しっかりと放つ!」

 

「ズルッグ!」

 

「ポカポカ」

 

 もっと相手を見てからと、ポカブも丁寧に話す。彼等の言葉を聞き、ズルッグはしっかりとポカブの動きを見ながら放つも、当たらない。

 

「……ズルッグ!」

 

 しかし、ズルッグは諦めない。ぶんぶんと、何度も振っていく。その回数がかなりの数に到達すると、ポカブが回避に大きなジャンプ。その着地点に狙いを定め、ずつきを放つ。

 

「ルッグーーーッ!」

 

「カブ! カブブ……」

 

 ずつきが見事直撃。転がっていったポカブは少し痛そうだが、ズルッグに近付くとよくやったねと笑顔で褒める。

 

「ル、ルッグ……」

 

 う、うんと、ズルッグは少し戸惑った様子でそう言う。

 

「ブイ、ブブイ」

 

「……ルグ」

 

 優しくて、頼りになるポケモン達ばかりだねと、イーブイは笑顔で告げる。ズルッグは間を置いてコクリと頷いた。

 サトシの頼みもあるとはいえ、昨日、喧嘩を吹っ掛けた自分に付き合ってくれてる。ズルッグに、後ろめたさが宿っていく。

 

「結構疲れたみたいたし、また休憩」

 

「ルッグ」

 

 再度休憩し、身体をしっかりと休める。

 

「次! ミジュマル!」

 

「ミジュ!」

 

 次は自分と、ミジュマルは腕を組んで前に出て、自信満々にドヤ顔を浮かべる。

 

「ズルッグ。昨日、お前はミジュマルのたいあたりを皮で防御してたよな?」

 

「ルッグ」

 

 昨日、喧嘩になった時にミジュマルのたいあたりを皮で防御した事を思い出す。あれは本能的にそうしていた。

 

「それを磨くんだ。防御力が上がる」

 

「ルグ!」

 

「ミジュマル。お前はみずてっぽうを発射してくれ。弱めに」

 

「ミジュ。――ミジュマーーーッ!」

 

「ルグ!」

 

 弱めの水柱を、ズルッグは皮を持ち上げて防御する。但し、少し後退した。

 

「ズルッグ、手だけなく、足にも力を入れて踏ん張らないと後ろに下がるぞ!」

 

「ズルッグ!」

 

 再び水が来た。ズルッグは皮を広げて手に力を入れながら足にも力を込めて踏ん張り、見事水の勢いと衝撃に耐える。

 

「次! ミジュマル、周りを動きながら軽くみずてっぽう! ズルッグ、周りを見ながらやらないと防げないぞ!」

 

「ミジュ、ミジュジュ」

 

「ルッグ! ルグルグ!」

 

 ミジュマルはズルッグの周囲を周りながら軽くみずてっぽうを放つ。

 ズルッグは身体を動かし、放れた方向に真っ直ぐ向けつつ勢いで怯まぬように手足に力を込めて皮で防御していく。

 

「上手いぞ、ズルッグ!」

 

「回避、攻撃、命中の鍛錬で少しずつコツを掴んできたみたいだね」

 

「えぇ、まだまだ荒削りとは言わざるを得ませんが、それでも進歩してます。内の才能を感じさせますね。ただ……」

 

 今日中にデンチュラに勝つとなると厳しい。身体も出来ておらず、技術をマスターする時間もない。これで勝つのは無理があった。

 

「まぁ、見届けるしかないよ」

 

「ですね」

 

 これはズルッグの戦いのため、サトシを除いた、自分達には出来るのは見守ることだけだった。

「終わり!」

 

「ルッグ……」

 

「ミジュミジュ」

 

 ミジュマルは上から目線だが、ズルッグに近付くと疲れた彼を労うようによく頑張ったと誉めた。

 

「次が最後だ、ズルッグ。――ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

 ミジュマルが引っ込み、最後の相手であるピカチュウが出てきた。

 

「ズルッグ、最後の特訓はにらみつけるの練習だ。効果が出るように頑張るぞ」

 

 防御を下げれれば、格上の相手でも攻撃が通用するようになるし、ダメージも期待出来る。デンチュラに勝つにはこの技は必須だった。

 

「ルッグ!」

 

「じゃあ、早速! ズルッグ、にらみつける!」

 

「ルッグゥ……!」

 

「どうだ、ピカチュウ?」

 

「ピカピカ」

 

 早速、凄い形相でにらみつけるを放つズルッグだが、ピカチュウは一瞬怯みこそはしたが昨日と同じく効果が出てない。

 

「ズルッグ、もっと気持ちを心の底から出してから、ぶつけるように放つんだ!」

 

 サトシはズルッグにアドバイスを出しつつ、ピカチュウにアイコンタクトである指示を出す。

 

「――ルー……ッグゥ!」

 

「ピー……カァッ!」

 

「ルッグ!?」

 

 言った通りに気持ちを心の底から出してから睨んだズルッグだが、ピカチュウに凄い表情で睨み返され、自分が逆に怯んだ。

 

「ズルッグ、まさか自分が睨まれないとでも思ってたのか? そんなんじゃあ、にらみつけるを使えるようになるまで遠いぞ」

 

「……ルグ」

 

 確かにとズルッグは頷いた。睨み返されて怯む程度の気持ちでは、全然ダメだ。

 

「やれるか?」

 

「ルッグ!」

 

 ズルッグは首を縦に振り、ピカチュウに向かって再度にらみつける。勿論、心の底から気持ちを引き出してぶつける。

 

「ズル……ッグゥ!」

 

「ピィ……カァ!」

 

 しかし、ピカチュウの並々ならぬ迫力に思わず押されてしまう。何度やってもだ。

 

「もっともっと! 勝つ! 倒す! って気持ちを全部ぶつけるんだ!」

 

 

「ルッグ……!」

 

 さっきまでは主に肉体的な疲労だったが、今回は精神的な疲労。産まれたばかりのズルッグにはキツいが、それでも続けていた。

 

「ズー……ルー……グーーーーーッ!!」

 

「――ピカッ!?」

 

 精神的な限界が迫る中、ズルッグは今まで以上の全身全霊の気迫を込め、ピカチュウにぶつける。

 すると、ピカチュウはビクッと震えた後に自分の防御力が落ちたのを感じた。つまり、成功だ。

 

「ピカピカ!」

 

「そっか! やったな、ズルッグ! にらみつけるが成功したぞ!」

 

「ズルッグ!」

 

 とはいえ、今のズルッグではかなり気迫を高めないと効果が出ないのが気掛かりだが、全く使えないよりは遥かに良いだろう。

 

「これで一通りの特訓が終わったね」

 

「はい」

 

「ルッグ……」

 

 回避、命中、攻撃力、防御、技術の特訓を済ませた。ただ、何度も休憩はしたが、ズルッグはかなり疲れたようだ。

 

「ただ……」

 

 やはり、付け焼き刃でしかない。これだけでは、勝てないだろう。他にも何かいる。

 

「うーん……。あっ、そうだ。Nさん、さっき言ってた試合の事ですけど」

 

「なんだい?」

 

 サトシはNからある話を聞くと、ズルッグともう一つある特訓をし、しっかりと休憩してから皆と試合の場所に向かう。

 

 

 

 

 

「――チュラ」

 

「待たせたな、デンチュラ」

 

「ズルッグ!」

 

 勝負の場所、昨日騒動を起こした樹の付近で、ズルッグとデンチュラが向かい合う。

 サトシはズルッグの後ろに、その周りにはN達やポケモン達がいた。

 

「チュラチュラ~」

 

 デンチュラはズルッグを見て、昨日と違い、感心した様子で立派立派と言っていた。騒動ではなく、試合のために敵意が無いからだろう。

 ズルッグからは鋭い視線と敵意を向けられてるが、それでも微動だにしない。

 

「こっちから行かせてもらうぜ。ズルッグ、にらみつける!」

 

「ズル……ッグーーーッ!」

 

「チュラ!?」

 

 デンチュラにとって、予想外の顔と迫力を向けられ、防御が下がってしまう。

 その間にズルッグが自分なりに素早くデンチュラに接近。首を後ろに傾け、狙いを定めてから身体の力を溜めてから放つ。

 

「ルッグ!」

 

「――チュラ!」

 

 しかし、その一撃はデンチュラの前足に防がれてしまう。但し、デンチュラは防御が下がったのと思った以上に威力があったので、ちょっと痛かった様で前足をフーフーしていた。

 

「よし!」

 

「ピカ」

 

「カブカブ!」

 

「タジャ」

 

 成果が確かに出ていることに、先ずはにらみつけるの特訓担当のピカチュウ、命中を担当したポカブ、攻撃力を担当したツタージャの三匹が喜ぶ。

 

「ズルッグ、下がれ!」

 

「ルッグ!」

 

 サトシはズルッグに距離を取るように指示。同時に、ズルッグには見えない様に両手を合わせ、デンチュラに謝っていた。チラッとNを見ると、彼も同様だ。

 

(あー、なるほどね)

 

 ズルッグは本気なのだろう。少年――サトシも、その為に本気でやらざるを得なくなったのだとデンチュラは理解した。

 

(どうしたものかなー)

 

 デンチュラはさっき、この勝負の形式を決めた際のNのやり取りで、ズルッグはまだ赤子であるため、可能なら加減してやってほしいと言われた事を思い出す。

 デンチュラは悶着ならともかく、勝負で赤子相手に本気になるのは大人気ないと頷いたのだが、ここまでズルッグが本気だとは思わなかった。かといって、本気や全力を出すのはやはり大人気ない。

 少し考え、さっきまで出そうとしていた加減した力をちょっとだけ上げ、早目にズルッグを倒すしかなさそうだ。

 

「――チュラチュラ」

 

「ミサイルばりだ!」

 

 デンチュラは口から細い針を一発ずつ発射。軽いダメージで怯ませ、少し強めの一撃で気絶させる。という予定だった。

 

「ズルッグ、かわせ!」

 

「ルッグ!」

 

 しかし、軽々とかわされた上に接近されてしまい、あれぇ!?とデンチュラは驚く。

 

「ずつき!」

 

「ルッグ!」

 

「チュラッ!」

 

 またずつき。今度は防御する間もなく、ズルッグの頭突きを頭に受ける。

 

「チュチュラッ!?」

 

 しかも、その際にずつきの追加効果が発生。デンチュラは怯んで隙を出してしまう。

 

「にらみつける! からのずつき!」

 

「ズルッグッ! ――ルッグーーーッ!」

 

「チュララッ!」

 

 また防御を下げられた上に、ずつきを受ける。更に防御が下がり、ダメージが増えていた。

 

「また下がれ!」

 

「ルッグ!」

 

 反撃が来る頃だと考え、ズルッグにまた後退する。

 

「回避も出来たな」

 

「ルッグ!」

 

「ポーポー」

 

 攻撃面だけでなく、回避もしっかりと出来ていた。その事に回避の特訓の相手をしたマメパトも笑顔だ。

 

(うーん……どうしようかなー?)

 

 デンチュラは目を閉じ、前足を組んでどうするかを考える。加減したミサイルばりはかわされてしまった。

 

(違う技でやろう)

 

 デンチュラは組んだ前足を構え、弱めの電気を球体状に変化させていく。

 

「なんだ?」

 

 見たことのない技にサトシが疑問符を浮かべ、ピカチュウは注意深く見つめていた。

 

「チュラ!」

 

 球体状の電気を、デンチュラは高速で発射。スピードが優先されてるので弱い一撃だが、ズルッグにはこれでも充分だろう。

 

「ズルッグ、防御!」

 

「ルッグゥ!」

 

 特訓で鍛えた皮での防御。ズルッグは手足に力を込め、電気の球を防ぐ――だけでなく、弾力でデンチュラに跳ね返した。

 

「デーン!?」

 

 うそーん!?と、驚愕したデンチュラに自分の攻撃である電気の球が直撃。しかも、そこにまたまたズルッグが近付いている。

 

「またまたにらみつける! で、続けてずつき!」

 

「ルッググッ! ズルッグーーーッ!」

 

「チュララッ!」

 

 またまた防御を下がり、ずつきで受けるダメージが無視出来ない範囲に近付いてきた。

 デンチュラは痛たと、前足でダメージを受けた箇所をすりすりする。

 

「ミジュミジュ」

 

 先ほどのガードに、防御担当のミジュマルも笑顔で流石自分が付き合っただけあると頷く。

 

「……なんか、あのデンチュラが気の毒に見えて来たんだけど、あたしの気のせい?」

 

「……ちょっと同感」

 

「……」

 

 しかし、一方でデンチュラは相手が赤子の為に、全力を出せない。しかし、ズルッグは全力で来て受けるダメージが増えていく。

 そんなデンチュラに、事情を知ってるアイリスとデントは同情の視線を少し向けていた。提案したNも、どうにも気まずそうだ。

 

「ブイブーイ!」

 

「キバキバー!」

 

 その上、イーブイとキバゴはズルッグにやっちゃえやっちゃえと全力で応援しており、何とも言えない。

 

「チュラー……」

 

 また前足で組んで、思考に入るデンチュラ。ちょっとずつイライラはしてきたが、やはり全力はダメだ。大人気ないにも程がある。

 

(――これしかないかー)

 

 また前足を使う。但し、今度は電気を球状ではなく、糸を編むかのように変化させていく。

 

「また見たことない技……」

 

 デンチュラが放とうとする初見の技に、警戒心を高めていくサトシ。

 

「――チュラ!」

 

「なに!?」

 

「ルッグ!?」

 

 デンチュラが電気を放つ。それはまるで、蜘蛛の巣の様な形で、広範囲に広がる。

 

「ルッグーーーッ!」

 

「ズルッグ!」

 

 これはかわしきれず、ズルッグはこの勝負で初めての攻撃を受けてしまう。弱めの電気だが、それでもかなりのダメージを食らった。

 

「ル、ッグ……!」

 

「まだ行けるか!?」

 

 まだ戦うと言わんばかりにズルッグは立ち上がろうとするも、さっきの一撃でキツいのか、上手く動けない。

 

「ブ、ブイ……?」

 

 負けちゃうのか、イーブイや他の皆がそう思った時、一ヶ所から大きな声が上がる。

 

「キバー! キババー!」

 

「ルッグ……?」

 

 声の正体はキバゴだった。彼はありったけの声で、ズルッグに負けるなと応援していた。何度も何度もだ。

 

「キバゴ……」

 

「キババ! キバキバ!」

 

「……ルッグ!」

 

「キバ!」

 

「ブイ!」

 

 お前に言われるまでもない。そんな反抗心が、ズルッグを立ち上がらせた。それを見て、キバゴとイーブイは喜ぶ。

 

「チュラー……」

 

 ちなみに、デンチュラは居心地が悪さに苦笑い。勝たせてやりたいところだが、かといって赤子に負けるのは流石に面子に関わる。加減しつつ、倒すことにした。

 

「ルッグルッグ!」

 

「あぁ、分かってる。勝とうぜ」

 

 だが、ダメージは大きい。長期戦は不利だろう。となると、奥の手を使うしかない。

 

「ズルッグ、奥の手だ!」

 

「ルッグ! ――ルグ!?」

 

 奥の手を使おうとしたが、ズルッグの動きが鈍い。

 

「サトシ、さっきデンチュラが使った技はエレキネット。食らうと、素早さが下がる効果があるんだ」

 

「それで……」

 

「ちなみに、その前に放ったのはエレキボール。電気を球状にして発射する技で、使用者の素早さが高ければ高いほど威力が上がる」

 

「ありがと、デント!」

「……」

 

 エレキボールとエレキネットの説明を聞いたサトシは、デントにお礼を言う。

 そして、ピカチュウがエレキボールの説明にしっかりと耳を傾けた事は、本人を除けばNだけが気付いていた。

 

「ズルッグ、速さは下がったけど、やることは変わらない。行くぞ!」

 

「ルッグ! ルグルグ……」

 

 ズルッグは樹に向かって走り出す。そして、樹の影に移動すると――そのまま出てこない。

 

「チュラ……?」

 

 樹の裏から、何かをする気だろうか。デンチュラは何が起きても良いよう、慎重に移動しながら樹の後ろを見る。

 

「……チュラ?」

 

 しかし、ズルッグの姿が見当たらない。また向こうに移動したのだろうか。デンチュラがそう思った瞬間だった。

 

「今だ、ズルッグ! 全力でずつき!」

 

「ズル……ッグーーーーーッ!!」

 

「チュラ!?」

 

 ズルッグの声が聞こえた。何処からとデンチュラが辺りを見渡していると――ゴツンと頭に凄い衝撃が走る。上から。

 そう、ズルッグはこの大きな樹を登り、高い場所にある枝から降りて、落下を利用したずつきをデンチュラに叩き込んだのだ。

 今の力が低いなら、他の場所の力を利用して高めれば良い。サトシはそう判断し、ズルッグに最後の特訓――木登りの特訓をさせたのである。

 

「デ、デンチュ~~……」

 

「――ル、ッグ!」

 

「大成功!」

 

 地面に倒れたデンチュラに、サトシとズルッグは笑顔を浮かべる。しかし、直後にズルッグはふらついた。

 

「ズルッグ、大丈夫か?」

 

「ル……ルッグ! ――ルグ~……」

 

「結構ふらついてる……」

 

「まぁ、あれだけの威力だからね」

 

「反動が出ても仕方ないよ」

 

 ズルッグはまだ、やり過ぎれば自分がふらつく程の身体しかない。そんな彼があれほどの威力のずつきをしたのだ。こうなっても仕方ないだろう。

 

「ル……グ!」

 

 まだフラフラするズルッグだが、気合いだけで踏ん張り、デンチュラを睨む。

 

「ところでデンチュラだけど、これって……」

 

「気絶、してるね」

 

「頭にあれだけの衝撃を叩き込まれた訳だからね……」

 

「ズルッグの勝ちってこと?」

 

「……どうだろう」

 

 デンチュラは目を回して倒れている。しかし、これはダメージによる戦闘不能というよりは、衝撃での気絶だ。試合の勝ちかと言われると難しいところだった。

 

「ズルッグは立ってる。一方で、デンチュラは倒れてる。それだけで考えると、やはりズルッグの勝ちじゃないかな」

 

「そうだね。この間にずつきでダメージを重ねれば、何時かは戦闘不能になるだろうし……ズルッグの勝ちで良いと思うよ」

 

「なら。俺達の勝ちだな、ズルッグ」

 

「ルッグ!」

 

「ブイブイ!」

 

「キバキバ!」

 

 勝利し、ズルッグは嬉しさからはしゃぐ。イーブイやキバゴもすごいすごいと、大はしゃぎだ。

 

「ピカピカ」

 

「ポーポー!」

 

「ミジュジュ」

 

「ポカポカ!」

 

「タジャ」

 

 特訓に付き合ったピカチュウ達も、ズルッグの勝利に笑顔だ。

 

「……」

 

 そんな彼等を見て、ズルッグははしゃぐのを止めて近付くと――ペコリと頭を下げた。

 昨日、迷惑掛けた件のお詫びと、今日、特訓に付き合ってくれたお礼に。

 

「ピーカ」

 

「ポー」

 

「ミジュマ」

 

「カブブ」

 

「タジャジャ」

 

 そんなズルッグに、ピカチュウ達は笑顔で応える。この瞬間、ズルッグは本当の意味での、仲間になる第一歩を歩んだのだ。その様子にサトシも笑みを浮かべた。

 

「……良いなあ」

 

 その様子に、アイリスがポツリと呟く。たった一日で、暴れん坊のズルッグとピカチュウ達との仲を良くした。

 ドリュウズとの仲が一向に良くなる気配がないアイリスにとって、それが羨ましい。

 

「アイリス、君は君のやり方で、だよ」

 

「うん。いきなり真似しても、同じ結果が出るとは限らない。参考にするぐらいでね」

 

 勿論、アイリスが強く望むのなら、話は別だが。

 

「……はい」

 

 少女はしっかりと頷くと、キバゴを心配させないようにその気持ちを押し込めた。

 

「にしても、まさか本当に勝つとは予想外ですね」

 

「ボクも。とはいえ、デンチュラが最初から本気だったら、とっくに勝敗は付いていただろうね」

 

「えぇ」

 

 Nとデントは小言で話す。デンチュラはNに言われ、手加減していた。

 なので、それがなければ全力の技で直ぐに大ダメージを受けてズルッグは負けていた。

 更に言えば、さっきのずつきも頭に決まって無ければ、デンチュラは気絶せずに反撃で倒されただろう。

 とはいえ、どんな形でもこの勝利は勝利。何より、サトシとズルッグが勝とうと努力し、奮闘せねばこうならなかった。だから、この勝負はサトシとズルッグの勝ちだ。

 

「チュララ……」

 

「あっ、デンチュラが起きたわ」

 

 とそこで、デンチュラが目を覚ました。痛む頭を片方の前足で抑えながらサトシ達にさっきまでどうなったのかを聞く。

 

「ずつきを頭に食らって、気絶してたんだよ」

 

「チュラー……」

 

 そっかーと頭が痛む様からも、デンチュラは納得した様だ。

 

「チュラ、チュララ」

 

「じゃあ、この勝負はそっちの勝ちだねって」

 

「ありがとな、デンチュラ」

 

 怒らないどころか、負けを受け入れてくれたデンチュラ。かなり心が広い。

 

「ズルッグ。昨日の事、謝ろうな」

 

「……ズルッグ」

 

 少しの間の後、ズルッグはデンチュラに昨日の件についてごめんなさいと謝った。

 すると、頭に何が乗る。デンチュラの前足がズルッグの頭を良い子良い子と撫でていたのだ。本人も笑顔である。

 

「デデン」

 

「ん?」

 

 そこで待っててと言うと、デンチュラはミサイルばりの針を一発だけ樹に向けて発射。直後に何かが落下し、地面に落ちた。

 

「――チュラ」

 

「これ……オボンの実?」

 

 デンチュラが拾い、はいとズルッグに差し出したのは、体力を回復させるオボンの実だった。これで試合でのダメージを癒せと言うことだろう。

 

「ズルッグ」

 

「……ルッグ」

 

 オボンの実を一口ずつかじる。悪くはない味が広がる度に身体の痛みが薄くなり、疲労が無くなっていく。

 

「――ルググ」

 

「チュラ?」

 

 オボンの実を食べ終え、ごちそうさまと言うズルッグ。デンチュラに美味しかったかを聞かれ、ゆっくりと頷いた。

 

「チュラ、チュララー」

 

 ズルッグの言葉を聞いたデンチュラは良かった、じゃあ元気でねと前足を振りながら器用に後ろ歩きで樹の根元の中へと戻って行った。

 

「じゃあ、ここから離れようか」

 

「はい」

 

 ここはデンチュラの縄張り。あまり長居するのは良くないと、その場を後にした。

 

 

 

 

 

「試合も終わったし、昼食にしませんか?」

 

「良いと思う」

 

 デントの提案で昼食になり、サトシ達は一緒に食べる。

 

「――ルグ」

 

 そこには、ズルッグもいた。彼はピカチュウ達の近くで食事をしている。

 ただ、まだ二日目という事もあってか、距離は微妙に取ってるし、積極的に話そうとはしない。しかし、昨日よりは遥かに良い状況なのは見て取れた。

 

「ブイブイ♪」

 

「キバキバ!」

 

 そこにイーブイとキバゴが近付く。ズルッグはイーブイには笑顔だが、キバゴにはキツい表情――と思いきや、微妙そうな表情。

 さっきの応援が、ズルッグにキバゴの認識をほんの僅かにだが改めさせた様だ。

 

「キババ」

 

「……ルッグ」

 

 しかし、仲良しにはまだまだ程遠い様で、ズルッグはキバゴの提案を無視していた。

 

「キバー……。――キバキバ」

 

 少し落ち込むキバゴだが、めげずに一緒に食べように話し掛け、最後におにいちゃんだからねと告げる。

 その瞬間、ズルッグの表情が険しくなる。キバゴのその言葉は、琴線に触れるのと同じ。調子に乗るなとずつきを叩き込む。

 

「――ルッグ!」

 

「キバッ!?」

 

「ブイ!?」

 

「お、おい、ズルッグ!?」

 

 突然の攻撃に驚いていると、ずつきを受けたキバゴが目を涙で滲ませ、なにするんだと叫びながらひっかくを放つ。

 

「あぁ、キバゴも!」

 

「喧嘩になっちゃった……」

 

「こっちはまだまだかな……」

 

 二匹はもみくちゃになりながら相手に頭突きしたり、引っ掻いたりしまくる。

 

「こら、止めろって!」

 

「キバゴも!」

 

「ズルズル!」

 

「キバキバ!」

 

 サトシはズルッグ、アイリスはキバゴを掴むも、二匹はじたばたと暴れる。

 

「――そうだ。サトシ、アイリス。ズルッグとキバゴで試合をしてみたらどうだい?」

 

 とそこで、デントからズルッグとキバゴの試合を提案される。

 

「どういうこと?」

 

「二匹の実力に大きな差はない。練習相手には最適と思わないかい?」

 

「なるほど、良い案だね」

 

「ブイブーイ?」

 

 Nが納得していると、そこにわたしは?と聞くイーブイ。彼女も、試合をしたいみたいだ。

 

「今は彼等が先」

 

 それに、自分達はサトシ達と一緒にいることは多いが、常にいるわけではない。

 その事を考えても、ズルッグとキバゴの方が試合の相手としては適任だろう。

 

「ブイー……」

 

 Nの言葉にプクーと、膨れっ面になるイーブイ。しかし、今はズルッグとキバゴについて話しているので、言うことは素直に聞く。

 

「どうだい? サトシ、アイリス」

 

 サトシとアイリスは、ズルッグとキバゴを見る。確かに良いかも知れないと考え、頷いた。

 

「俺は良いぜ。ズルッグは?」

 

「ルッグ!」

 

「あたしも良いわ。キバゴはどう?」

 

「キバキバ!」

 

「じゃあ、早速」

 

 と言う訳で、ズルッグ対キバゴの試合が行われる事になった。ちなみに、これはサトシとアイリスの初バトルでもある。

 

「行くぞ! ズルッグ!」

 

「やっちゃうわよ、キバゴ!」

 

「ルッグ!」

 

「キバ!」

 

「始め!」

 

 デントの言葉により、試合が開始される。

 

「キバゴ、ひっかく!」

 

「ズルッグ、惹き付けてしっかり見抜いて避けろ!」

 

「キバキバー!」

 

「ルグルグ!」

 

 両手を上げ、しっかりと力を込めてひっかくを放つキバゴ。ズルッグはそれを特訓で身に付けたばかりの動作だが、それでも一撃一撃見てかわす。

 

「反撃だ! ズルッグ、にらみつける!」

 

「ズルッグゥ!」

 

「キバッ!」

 

 にらみつけるを食らい、キバゴは怯んで防御が下がる。

 

「ずつき!」

 

「ズル、ッグーーーッ!」

 

「キバーーーッ!」

 

「あぁ、キバゴ!」

 

 ずつきにより、キバゴは軽く吹き飛ぶ。ダメージもそれなりの様だ。

 

「キバゴ、もう一回ひっかく!」

 

「キバキバキバ!」

 

「ズルッグ、防御!」

 

「ルッグ!」

 

「キバッ!?」

 

 再度ひっかくを放つキバゴだが、ズルッグに皮で受け止められ、更に弾力で転がってしまう。

 

「そこだ、ずつき!」

 

「ルッグ!」

 

「キババーーーッ!」

 

「キバゴ!」

 

 

 そこにずつき。キバゴはまたダメージを受けた。

 

「……以外と差があるね」

 

「えぇ、ズルッグは昨日産まれたばかりですが、サトシ達との特訓で必要最低限の技術を身に付けてます」

 

 一方、キバゴは身体こそズルッグよりは上だが、技術が無い。それにトレーナーの差も加わり、ズルッグの方が優勢になったのだろう。

 

「このままじゃ……キバゴ、りゅうのいかり!」

 

「キバッ! ――キーバー……!」

 

「させるか! ズルッグ、ずつき!」

 

「ズルッグーーーッ!」

 

 竜の力をある程度になるまで溜めていくキバゴだが、それを易々とさせるつもりはサトシは無い。ズルッグにまたまたずつきを指示。ズルッグは素早く近付いて、キバゴの頭にずつきを叩き込む。

 

「――クシュン!」

 

「――あっ」

 

「――い」

 

「――う」

 

「……えっ?」

 

 直後、大爆発が発生。その場にいた全員が飲み込まれた。

 

「あはは~、また爆発しちゃった……」

 

「キバー……」

 

「……叩いても、暴発するんだな」

 

「ピカ……」

 

「これは、今後の課題だねー……」

 

「す、凄い威力……」

 

「ゾ、ゾロ……」

 

「カブブ……」

 

「ブイ~……」

 

 サトシとデントが、溜める途中でも暴発しないように特訓しないと言ってる傍ら、初めて爆発を受けたN達はそういうしか出来なかった。

 

「まぁ、今日は引き分けという事で」

 

「仕方ないな」

 

「ルッグー……」

 

「ほっ……」

 

「キバ……」

 

 試合は引き分け。優勢だったズルッグは不満そうだが、次は勝つと意気込んでいる。一方で、アイリスとキバゴはホッと安心していた。

 

「じゃあ、サトシ。最後にモンスターボールを」

 

「あぁ」

 

 ズルッグはまだモンスターボールでゲットされていない。面倒を避けるためにも、ゲットする必要があった。

 

「これから宜しくな。ズルッグ」

 

「ルッグ」

 

 モンスターボールを軽く当て、ズルッグをゲット。改めて、仲間にした。

 

「また仲間が増えたね」

 

「あぁ。――あっ、そうだ。Nさん」

 

「なんだい?」

 

「その、これを」

 

 サトシが手渡したのは、モンスターボールだった。

 

「ボクには必要ないよ?」

 

「それは分かっています。だけど、問題を避けるためには、これを使った方が良いと思います。イーブイは珍しいポケモンですし……」

 

「……なるほど」

 

 例えば、何らかの要因で他のトレーナーのモンスターボールに入ってしまった場合をサトシは言っているのだ。

 イーブイはまだ赤子。はぐれた場合、ゲットされてしまう恐れはかなり高い。

 

「……仕方ないね。サトシくん、二つくれないかい? ゾロアの分も」

 

「分かりました」

 

 Nはサトシから二つのモンスターボールを受け取ると、ゾロアとイーブイを入れる。

 

「あれ? ゾロアって、Nさんの手持ちじゃ……」

 

「うん。だけど、Nさんはモンスターボールを使わないことにしてるんだ」

 

「えぇ、そうなの!?」

 

 初めての事実に驚くアイリス。一方、Nはゾロアとイーブイを出した後、モンスターボールをサトシに手渡す。

 

「サトシくん。これはアララギ博士に送ってくれないかな?」

 

「分かりました」

 

 使うのは、あくまで衝突を避けるために。それ以外では必要ない。それを理解したサトシは、ゾロアとイーブイのモンスターボールを受け取る。

 

「じゃあ、ボクたちはここで」

 

「ブイ~……」

 

「ルッグルッグ」

 

「キバキバ」

 

 ここで別れると聞き、イーブイは悲しそうな目をするも、ズルッグとキバゴにまた会えるよと言われ、笑顔になる。

 その時はバトルしようねとイーブイは告げ、ズルッグとキバゴは頷いた。

 

「またね、皆」

 

「はい、また!」

 

 サトシ達の見送りを受け、N達は去っていった。

 

「じゃあ、俺達も行こうか」

 

「えぇ」

 

「だね」

 

 新たな仲間、ズルッグを加え、サトシ達はヒウンに向けての旅を再開した。

 

 

 

 

 

「ここがヒウンシティか」

 

「イッシュ地方最大の街と言われるだけあって、流石に大きいわね」

 

「人の数も凄い多いにゃ」

 

 夕暮れ。大きな建築物が至るところに並び、港からは大量の船が次々と行き来する街、ヒウンシティ。その裏路地にロケット団がいた。

 

「見ている場合か。任務をさっさと済ませるぞ」

 

 そこにはフリントもいる。彼の言葉に頷いたロケット団は、素早く下水道に侵入すると、中をゆっくりと歩く。

 

「今日はここの下見だ。来るべき時に備え、我等が素早く動くためのな」

 

「分かってるわ」

 

 リゾートデザートの下見が終わった以上、後は作戦を実行する場所であるヒウンシティのみ。

 ただ、ここはイッシュ地方の最大の都市。その下水道もかなり広い。全てを見るには一日掛かるだろう。

 

「気を付けて進め。例の組織の連中がいないとは限らない」

 

「ここで襲われたら、結構やばいからな……」

 

 ここは道が入り組んでいるため、自分達も相手側にも身を隠せれる。思わぬところで敵に遭遇する可能性も高い。

 

「そんなに気にしなくても良いんじゃない? 全く動きを見せないし」

 

「とはいえ、その可能性があるのも事実にゃ」

 

 最初の遭遇以降、不気味なまでに動きを見せない謎の組織。未だに狙いも目的も不明。気を付けるべきではある。

 

「にしても、古代の城では惜しかったわねー。あとちょっとでお宝ゲットだったのに」

 

 歩く途中、ムサシは古代の城で発見したお宝について話す。

 

「だよなあ。だけど、なんなんだろうな、あの白い球」

 

「デスマスによると、いつの間にかあった、よく知らない物だそうにゃ」

 ただ、凄い雰囲気が漂うために、野生のポケモンは誰も近付こうとはしなかった。とのこと。

 

「無駄話は止めろ」

 

「ミネミネ」

 

「はいはい。にしても、そのミネズミ、アンタに合ってないわねー」

 

 これはムサシだけでなく、コジロウやニャースも思っていた。ミネズミはフリントの雰囲気に合ってない。

 

「そっちも、片方は餌付けでなつかれて捕獲しているだろう?」

 

「まあな」

 

 コジロウのデスマスは、彼が腹を空かせたところにご飯をあげた事でゲットしたのだ。

 

「やれやれ、前もそうだが、変だと思わんか?」

 

「にゃー達は正義の悪にゃ。困った者がいたら助けるのは当然にゃ」

 

「前に失敗したのも、違う固体のデスマスが原因だろう。腹は立たんのか?」

 

「それとこれは別だ」

 

「……変な奴等だ」

 

 どうにも、悪の組織の一員とは思えない可笑しな連中である。と言うか、悪の組織に正義は無いだろう。

 

「まぁ良い。ミネズミ、みやぶるで周りを遠くを把握しろ」

 

「ミネミネ」

 

 ミネズミはその優れた視力で、下水道の向こうを見ていく。敵や怪しい影はない。

 

「行くぞ」

 

 了解と頷くと、ロケット団はヒウンシティの下水道を進み始めた。今の話を全て聞かれているとは思わないまま。

 

 

 

 

 

「いやはや、まさかそこにあったとはね」

 

「えぇ、彼等には感謝ですね」

 

 何処かの場所、前にロケット団がメテオナイトを狙っていると聴いて嘲笑をしていた二人の男性が話し合っていた。

 今回も彼等は、下水道内部に盗聴器を仕掛け、話を聴いていたのだが、その中に一つ、とびっきりの情報があった。捜し物についての。

 

「今すぐ向かいます?」

 

「いえ、そちらはアスラとロットに任せましょう。そろそろ、こちらも向かうべきですからね」

 

「確かにその方が良さそうですね。この分では、数日以内に向こうはメテオナイトを手に入れるでしょうし。準備を始めるのなら確かに今」

 

 こちらの移動を考えると、この辺りで動くのが最善。それは二人共同じ考えだった。しかし、一つだけ不安要素がある。

 

「で、まだ王様は行方知らずなのですか?」

 

「残念ながら」

 

「やれやれ、このままでは無いまま動くしかありませんね」

 

「のようですね」

 

 それ自体は、ここ最近の成果から仕方ないとは思っているが、やはり簡単には割り切れない。

 

「とりあえず、準備は進めます。貴方は引き続きそちらを」

 

「えぇ」

 

 予定も決め、二人はそれぞれの仕事に取り掛かった。

 また、『その時』に向けて、時が一日流れる。

 


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