ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「ピカピカピカピカーーーーーッ!」
「ミジュミジュミジュミジューーーーーッ!」
「ポーポーポーポーーーーーーッ!」
「カブカブカブカブーーーーーッ!」
「…………」
早朝。静かな一匹を合わせた五匹が、森の中を全力で走っていた。サトシのポケモン達だ。
「頑張ってる頑張ってる」
「昨日のあのオノノクスのバトルは、彼等にとって良い刺激になったみたいだね」
「俺もそう思う」
昨日、ベルと出会い、ちょっとした騒動の中で出くわした色違いかつ、桁外れの強さを持つ片刃の黒いオノノクス。
サトシはバトルしたものの、結果はオノノクスが止めはしたが、実質こちらの完敗も同然だった。
戦ったピカチュウとツタージャはリベンジのため、実力不足が故に戦えなかったミジュマル、マメパト、ポカブは次の戦い時には参加し、勝つため、トレーニングに精を出していた。
「――おっ?」
「どうしたんだい、サトシ?」
「なんか今、タマゴがちょっとだけ動いた気がする」
鞄から出した、ケースに入った状態のタマゴがさっき動いた様な音をしたのだ。今は静かだが。
「産まれるのが近いのかな?」
だとしたら、嬉しい。一日でも早く会いたいのだから。
「それか、もしかすると――」
「もしかすると?」
「仲間の頑張りに反応したのかもね」
必死に頑張る仲間達に、タマゴが反応をした。当たってるかは不明だが、デントは料理を作りながらそう推測する。
「ふーん、やんちゃなのかな?」
「流石に、僕もタマゴまでは詳しくないから何とも言えないけど――元気が良さそうな子が産まれそうな気がするよ。君にピッタリだ」
「褒めてる?」
「勿論さ」
「ありがと」
「どういたしまして」
そんなやり取りでサトシとデントが笑っていると、アイリスが二人に近付いてきた。溜め息を吐いており、表情は少し暗い。
「進展……なし?」
「……うん」
ドリュウズに話し掛けていたが、今日もまた全て無視されていた。
「元気出して、アイリス」
「……そうする」
キバゴを落ち込ませない為にも、アイリスは気丈に振る舞って暗さを隠す。
「ちなみに、キバゴはどう?」
「頑張ってるよ、ほら」
サトシが親指で示した方向を向くと、キバゴとヤナップがいた。例の慣れる為の練習である。
「キバキバ~!」
「ナプナプ」
「全く当たっていないけどね」
必死にひっかくを放つキバゴだが、攻撃は全て回避されていた。
「だけど、やる気マンマンだぜ」
「やっぱり、あのオノノクスを見たから?」
「十中八九そうだろうね」
キバゴにとって、オノノクスはいずれ自分が至るべき姿。それが目の前に現れ、更に圧倒的な強さを見せたのだ。
怖くとも、キバゴがああなりたいと、頑張るのは当然であった。
「キバゴー、次はりゅうのいかりにしましょ」
「キバ? キバキバ!」
アイリスが戻り、キバゴは笑みを浮かべると同時に更にやる気を高めていた。
「イシズマイ、お願い」
「マーイ」
「ナプ」
イシズマイがヤナップに近付き、交代と告げる。ヤナップは頷くと少し離れた。
「イマイ」
イシズマイはキバゴに向き合うと、殻に込もって防御を固めた。この状態のイシズマイに必死に攻撃することで、キバゴの攻撃力を鍛えようという訳である。
「じゃあ、キバゴ! 今日は十五よ!」
「キーバー……!」
キバゴの口の中に、青白い竜の力が溜まり出す。
「発射!」
「キバー!」
ボヒューと、少し抜けた音をしながら、大体直径十センチ程度のりゅうのいかりが発射。イシズマイに向かって行くが、岩に簡単に弾かれて消えた。
「やっぱり、こんなものね~」
「キババー」
今のは本来に比べれば六分の一にも満たない。この程度の威力しか出なくて当然だろう。
「でも、最初の時に比べればずっと威力はあるよ」
それで暴発もしていないのだ。順調に特訓の成果が出ている証である。
「分かってるけど、やっぱりもっと早く完成させたいのよね~」
「キバババ!」
まだ子供のため、少しでも早く完成させたいと思うアイリスとキバゴ。
特にキバゴは少しでも早く黒いオノノクスみたいになりたいという想いが強く、その為に次もやりたいと言っていた。
「急がば回れ。じっくりとやって行くことも大切だよ」
特にキバゴはタマゴから生まれたばかりでレベルが低い。無理をしても、成果はほとんどでないだろう。
「まぁでも、折角のやる気を削るのも良くないね」
「だな。今日はもう一段階上げて良いぜ」
「ありがと! キバゴ、今日はもう一段階だけ規模を上げるわよ!」
「キバ!」
許可を貰い、再びりゅうのいかりを放つ。先程よりも力を溜めたその一撃は、一瞬ブレはしたものの、見事に発射。
しかし、イシズマイの防御は突破出来ないが、成功はしている。
「キバキバ!」
「もっとやりたいの?」
「キバ!」
「うーん……気持ちは分かるけど、これ以上は絶対に失敗するからダメ」
「キバー……」
しょぼんと落ち込むキバゴに、つい賛成したくなるも、サトシやデントに迷惑を掛けない為にも前の二の舞は踏まない。アイリスはしっかりダメと告げる。
「キバゴ、今はグッと我慢だよ」
「あぁ、焦らなくてもお前なら出来るさ。だから、今は耐えようぜ」
「……キバ!」
仲間達に言われ、キバゴは逸る気持ちをグッと抑えた。
「偉いよ、キバゴ。ヤナップ、練習に付き合って気持ちを発散させて上げて」
「ヤナ。ナプナプ」
「キバー!」
キバゴは我慢した気持ちをぶつけるべく、ひっかくを放っていく。ヤナップはそれを次々とかわす。
「キバゴ、頑張るわよー!」
「キバキバー!」
「張り切ってるなー」
「良いことだよ」
「だよな。あ、デント、あとどれぐらいで料理出来そう?」
「数分あれば出来るよ」
「分かった。皆ー、もう少ししたらご飯が出来るから、そろそろ仕上げに掛かってくれー」
サトシの声に、五匹は声を出したり頷くとラストスパートに入る。
そして、デントが料理を完成すると、彼等は全員で楽しい朝食を始めるのであった。
早朝の訓練を終え、色々な人やポケモンと出会い、出来事を経験し、サトシ達は遂にシッポウシティに到着する。
「ここがシッポウシティかあ!」
「うわぁ、倉庫ばっかりね!」
「この町は使われなくなった倉庫を芸術家に使ってもらってる事から、芸術の町とも呼ばれているんだ。また、お洒落度が高いことから、憧れの町ともね」
物知りなデントが、サトシとアイリスにこの町の事を話す。
「言われてみれば、そんな感じの町よね~」
至るところ建物の絵や模様もそうだが、歩く人達が色々とお洒落をしているのも目立つ。アイリスは興味津々だ。
「芸術だろうが、憧れだろうが俺には関係ないぜ! 目的は一つ! シッポウジムだけだ!」
だが、サトシにはどうでも良い。彼の目的はポケモンジムで二個目のバッジをゲットすることなのだから。
「なら、博物館に向かおうか。シッポウジムはその中にあるかね」
「へぇ~、博物館の中にジムが」
それは少し興味があるサトシだが、早速挑戦するべく、博物館を目指す。
「――はぁ、今日もダメか」
「あれ? あの後ろ姿は……」
シッポウジムがある博物館。扉の前の、見覚えのある後ろ姿にサトシは話し掛ける。
「おーい、シューティー!」
「――サトシ!?」
その後ろ姿はシューティーのものだった。彼はサトシの声に振り向く。
「カレントタウン振りだな。シューティーもジムに挑戦か?」
「あぁ、そのつもりで来たんだけど……」
「何かあったのかい?」
「閉まってるんです。ジムが」
「閉まってる!?」
「本当だ……」
シューティーの言葉にサトシはショックを受ける。デントが確認すると、確かに閉館していると記した看板があった。
「しかも妙なことに、今日から秘宝展が開かれるはずなんです」
「秘宝展?」
シューティーがポスターのある場所まで三人を案内。ポスターを見せる。
「確かに今日からだね……」
「じゃあ、何で閉まってるのよ?」
「僕に聞かれても困るよ。そのせいか、昨日からアロエさんにも会えないから理由も不明だからね……」
その間は、この町にはバトルクラブがあるので、そこで経験を積んでいるため、時間の無駄になってない。
「あのー、すみません! シッポウジムにチャレンジしに来たんですけどー!」
扉を叩き、人が中にいれば届くように大声で語り掛けるサトシだが、返事は無かった。
「どうする、サトシ?」
「どうするって言われてもなあ」
折角挑戦しに来たのに、閉館している以上は開くまで待つしか無いが、どうにもすっきりしない。
「なら、サトシ。僕とまたバトルしてくれないか?」
「おっ、良いね!」
シューティーに誘われ、サトシはその提案を受ける。シッポウジム戦前の調整には最適だ。
「言っておくけど、前の様には行かないよ」
前は二匹も温存され、しかも一匹しか倒せなかった。今回はそうは行かないとシューティーは不敵な笑みを浮かべる。
「へへっ、楽しみだな」
こうして、二人のバトルが始まろうとしていた――その時。
『うわぁ~~~~っ!?』
「何だ!?」
「悲鳴!?」
「建物の中からよ!」
突如、博物館の中から誰かの悲鳴が聞こえ、次に扉が何かにぶつかる音が。
その数秒後、悲鳴が鳴りながら扉が中から開いて眼鏡を付けた男性が慌てた様子で飛び出してきたが、地面に転ぶ。
「大丈夫ですか?」
「あれ、貴方は……」
シューティーが男性に尋ねると同時に、デントは見覚えのある人物に反応した。
「デント、知ってるのか?」
「確か、ジムリーダーのアロエさんの旦那さんだよ。名前は確かキダチさん。以前、お見掛けしたことがある」
「で、デントさん? どうしてここに……。い、いえ、それよりもあれを!」
キダチが建物の中に向けて指を指す。しかし、見えるのは廊下だけだ。
「見えるのは、廊下だけですが……」
シューティーが注意深く見つめるも、写るのは廊下だけだ。
「カブトの化石に追い掛けられていたんです! ほら!」
「化石に……?」
「追い掛けられた?」
ポルターガイストの様な超常現象に、サトシ達は先程より注意して見るが。
「何もいませんが……」
写るのはやはり、廊下だけだった。
「でも、いたんですよ!」
「……とりあえず、調べてみないか?」
「そうだね。確認した方が速い」
サトシの提案にデントが頷く。こうなれば、直接確認した方が手っ取り早い。
という訳で、四人は博物館に入り、飛んでいたというカブトの化石を探す。
「あっ、これじゃないか?」
サトシ達は例の化石を発見。近くに記録がある事から、カブトの化石はここの物だと分かる。
「ここにありましたよ」
「そんな……さっきは確かに僕を……」
「何があったのか、聞かせてくれませんか?」
「は、はい……」
とりあえず、一度話を聞くべきだと考え、五人は博物館の外にある休憩スペースに移動。
そこでサトシ達は、キダチから話を聞く。秘宝展開催の準備が遅れ、スタッフと一緒に深夜まで作業し、その後に最終チェックを行なっていると、照明が消えたり、後ろから足音や鳴き声が聞こえたり、人魂が出たりしたとのこと。
怖くなり、キダチは翌日スタッフと調べたが原因は不明。何が起きるか分からないと、安全面から秘宝展は延期にし、スタッフを返してから再度確かめると、浮遊したカブトの化石に遭遇。さっきの騒ぎに繋がるという訳である。
「不思議な事があるもんだな~」
「ピーカ」
「……」
驚いた様子のサトシとピカチュウ。隣のシューティーは、何かを考えている様だ。
「これは……祟りよ」
「祟り!?」
「ピカ!?」
アイリスの祟りという言葉に、サトシとピカチュウは思わず引いてしまう。
「そう……あらぶる魂が、この博物館に災いをもたらそうとしているのよ……!」
「わ、災い!?」
「キキキ、キバ!」
大層な様子で説明するアイリスにキダチは怯み、キバゴは脅えからアイリスの髪の中に引っ込んだ。
「ほら、キバゴもそれを感じてる」
「いや、それは君の発言が原因だと思うよ?」
キバゴの引っ込みをアイリスの自身の考えの裏付けだと語るが、シューティーは怖いことを言ったから怯えただけだと告げる。
「ははっ、確かにね。それにそういう超常現象は大体は思い込みか、勘違いが原因なものさ」
「あたしの勘違いって言いたいわけ!?」
「科学的に調べれば、本当の原因がわかるはずさ」
「じゃあ、デントは科学的に調べなさいよ! あたしはあたしのやり方で調べるから!」
「お、おい、アイリス……」
「望む所だよ。ふふっ、中々にスリリングなテイストになって来たね」
「あの、デントさん?」
自分達を余所に論弁するアイリスとデントに、サトシとシューティーが話し掛けるも、ヒートアップする二人には届いていない。
「えと、協力して頂ける、と思って良いんですか?」
「はい! あらぶる魂の怒りが何に怒り、何に祟ろうとしているのか、調査します!」
「僕は超常現象の原因を、科学的なアプローチから解明させてもらいます」
アイリスとデントがキダチに協力を申し掛けるが、ここでサトシとシューティーが大声で話す。
「ちょっと待てよ! 二人だけで勝手に話を進めるなよ!」
「そうですよ! それに、僕達にはジム戦が……!」
「そんなの後回しよ!」
「僕も同意見だ。それに、この祟りが終わらないことには、ジム戦なんてまともに出来ないと思うよ?」
「うっ、た、確かに……」
「一理……ありますね」
確かにこの騒動が片付かない限り、博物館の中にあるジムのバトルは上手く行かないだろう。いつ中断されるか分かったものではない。
「おや、お二人はジムに用があったんですか。ですが、まだママは出張中なので、出来ませんよ?」
とここで、キダチはアロエがそもそもいないと話す。
「えっ、そうだったんですか!?」
「でしたら、その事を看板などで報告して貰えると……」
「あぁ、すみません……。何分準備で忙しかったので……」
説明出来なかったことに、キダチは頭を下げる。
「二人はどうする?」
「まぁ、いないのなら手伝いぐらい良いかな」
「そうですね。帰ってきても戦えないとなると困りますし」
「じゃあ、決まりね!」
サトシとシューティーも、この怪奇現象の調査に参加することにした。
「あと、自己紹介します。俺はサトシです。こっちは相棒のピカチュウ」
「ピカ」
「僕はシューティーです」
「あたしはアイリスです」
調査する以上、自己紹介はした方が良い。三人は素早く簡潔に名乗った。
「では、早速中を調べさせてください」
「はい。では先ず、中をざっくりとですが、館内を案内しますね」
先ずサトシ達が来たのは、先程のカブトの化石がある部屋だった。
「甲羅ポケモンであるカブトは、何と三億年も前から砂浜で暮らしていたとのことです」
「カブト……」
『カブト、甲羅ポケモン。化石から復活したポケモンだが、稀に当時から行き続けているカブトを存在する。その姿は三億年変化していない』
「なるほど……」
シューティーが図鑑でカブトの情報を検索する。正に生きた化石とも言えるポケモンだ。
「この化石や他の展示物、写真を撮っても良いですか? 旅の記録にしたいんです」
「えぇ、どうぞ」
許可を貰い、シューティーはカブトの化石の写真を撮る。良い記録になりそうだと、心の中で思った。
その後、カイリューの骨や、とある隕石、他にも幾つかの展示品をキダチの説明を聞きながら回り、秘宝展が並ぶ部屋に着く。
「そして、ここが今回の目玉、秘宝展の部屋です」
「うわぁ、格好良いな!」
「これは、随分と凄いですね……」
サトシとシューティーは並んでいる甲冑に注目する。どれもかなりの代物だ。
「それらは、かつてのイッシュ地方で使われていた甲冑なんです」
「迫力満点ですね!」
「甲冑……」
デントもサトシとシューティーと同じ反応を取るが、アイリスは何かを考えるような態度を取る。
「うわ、何だこれ?」
一ヶ所、遺跡を再現したような場所に金色の棺桶があった。
「それはデスカーンだよ。まだ君は見たことが無いかもしれないね」
「デスカーン?」
「えぇ、遺跡にいるとされるポケモンで、これはそのレプリカです」
まだ聞いた事のないポケモンの名前に、サトシが尋ねるとキダチが簡単に説明する。
「ここには遺跡で発掘した物を並べているので、似合うと思ってデスカーンのレプリカを用意し、置いているんです」
レプリカである事を、キダチは動かして証明する。
「なるほど。しかし、よく出来てますね……」
遠くからではパッと見、本物と区別が付かない。それほど精巧なレプリカだった。
「……」
「どうした、アイリス?」
デスカーンのレプリカに考えている様子のアイリス。サトシに聞かれると、その事を話す。
「もしかしたら、祟りと関係あるかもしれないわ」
「根拠は?」
「勘よ!」
「つまり、具体的な証拠はないと」
「むー……!」
推測をデントに否定され、アイリスは不満そうだ。
「キダチさん、これは?」
サトシがある展示品に目を付ける。それは、マスクのような物だった。
「それは遺跡によく現れるポケモン、デスマスが持っているマスクですよ」
「ちなみに、デスマスはデスカーンの進化前のポケモンだよ。これもレプリカですか?」
「えぇ」
「――感じる。何か感じる……」
説明や質問が交わされると、アイリスが突如そう言い出す。彼女はそのマスクから、何かを感じ取っていた。
「わぁー……!」
展覧会の部屋から、サトシ達は大量の本の部屋に入る。そこには途方もない数の本があった。
「ここの本は全て、さっきの展示物の関係書類なんです。入場者は好きなだけ読めるんですよ」
「これ全てをですか!?」
「至れり尽くせりですね!」
興味がある人にとって、夢中になれる部屋だろう。勉強タイプのシューティーやデントはどんな本が有るのか、興味を抱いていた。
「これで館内の案内は終わりですが……どうですか?」
「うーん、僕はこれと言って……」
「あたしは少し嫌な感じがしたけど、その理由がまだ……サトシとシューティーは?」
「俺は……腹が減った」
その言葉に、ピカチュウ、アイリスとデント、シューティーも軽くずっこける。
「とりあえず、夕食にした方が良いかと。その間に話したい事がありますし……」
シューティーの提案にサトシ達は分かったと頷くと、スタッフが料理を作ったり、食事をする部屋に向かう。
夜、路地裏でロケット団が仲間を待っていた。
「時間になったわね」
「あぁ、ここに仲間が待っているとの話だが……」
「その仲間なら、ここにいる」
ロケット団の背後から、新しい仲間のフリントが現れる。
「いつの間に……全然気配を感じなかったのにゃ」
「これぐらい、必須の技術だろう。それはともかく……本部からの任務を伝える」
雑談をしに来た訳ではない。フリントは手短に任務について話す。
「大体は分かっているだろうが、展示物の中にある隕石――メテオナイトをダミーとすり替えることだ」
「けど、本部の目的のメテオナイトはリゾートデザートにあるはずでしょ?」
「方針を変更したのか?」
「いや、本星はあくまでリゾートデザートのメテオナイト。今回のは、その為の奪取だ」
「ふーん。まぁ、アタシ達は隕石に詳しくないし、とりあえず博物館のを摩り替えて来れば良い訳ね?」
「そう言うことだ」
自分達は指示通りに任務をこなす。それだけで良い。
「ちなみに、下調べは終わっているだろうな?」
「勿論にゃ」
「なら良い。後はそちらに任せるとしよう」
こっちもこっちでするべき任務がある。連絡も終わった以上、自分はその任務に戻るだけ。
「さらばだ」
フリントはニャース達に背を向けると、そのまま闇に紛れて姿を消した。
「にゃー達も、準備を始めるにゃ」
頷いたムサシとコジロウと共に、ニャース達も姿を消した。
デントが作った簡単な夕食を平らげ、アイリスが話を切り出す。
「それで、なんなの? 話したい事って」
「そもそも、僕はこの超常現象って何が原因なのかって思ったんだ」
「それは、あらぶる魂が原因に決まってるわ!」
「僕は、機材の故障だと思ってるよ」
シューティーの問いに、アイリスとデントはそれぞれの意見を迷わずに告げる。
「シューティーは?」
「僕の答えは――どちらかと言うと、君よりになるね。アイリス」
「えぇ!?」
「ほら、シューティーも感じたのよ!」
シューティーの答えに、アイリスは上機嫌に、デントはショックを受ける。
「シューティー、君は超常現象等という、得体の知れないものを信じるのかい!?」
「落ち着いてください、デントさん。第一、僕もあらぶる魂とか祟りとか、そんな迷信は信じてませんよ」
「ちょっと!? どういうことよ!?」
「君、人の話は最後まで聞くって言う基本を知らないのかい?」
「うっ……」
今度は自分の意見を否定され、声を荒げるアイリスだが、シューティーの正論に言葉に詰まる。
「じゃあ、シューティーは何が原因だと思ってるんだ?」
「あらぶる魂や祟りはない。だけど、そんな不思議な力を持つ存在はいるだろう? 僕達の間近に」
シューティーの言葉にいち早く反応したのは、サトシだった。
「もしかして……ポケモン?」
「あぁ、それもエスパーやゴーストタイプのポケモンだと思う」
サトシの答えとシューティーの補足に、あっと呟くアイリスとデント。
「そうか、エスパーやゴーストタイプのポケモンなら、超常現象の類いを起こせても全く不思議じゃない……」
「ってことは、この館内のどこかにそれを起こしてるポケモンがいるってこと?」
「そう考えるのが、現実的だろう?」
「うっ、まぁ……」
「確かに……。僕とした事が、その可能性に至らないなんて……」
思い込みから視野が狭くなり、ポケモンの仕業だと考えなかった自分にデントは溜め息を吐く。
「となると、そのポケモンを見付ければこの騒ぎも片付くよな?」
「問題はどこにいるかだけど……」
うーんと悩む一同。そもそも、そのポケモンがどんなポケモンなのか知らないため、探しようがない。
「何か手掛かりがあれば……」
「あのマスクは?」
「あのマスク……デスマスの?」
「うん、あれからは何か力を感じたのよ」
さっき感じた、デスマスのマスク。それに手掛かりがあるのではとアイリスは話す。
「だけど、あれはレプリカですよね?」
「えぇ、レプリカです」
「じゃあ、違うね。他の物だろう」
「隕石とかは?」
回っている際、隕石の説明も聞いていたが、何かしらの宇宙エネルギーを持っているとの話だ。
「ですが、あれは今回の展覧会の準備が始まる前からありました。なのに、最近起きたというのは……」
「少し変ですね」
また悩む一同。どうにも、正体まで掴めない。どうしたらと考えていると、サトシがふとあることを思い付いた。
「なぁ、シューティー。シューティーって確か、プルリルやヒトモシを持っていたよな?」
「それがどうしたんだい?」
「プルリルもヒトモシもゴーストタイプを持ってるだろ? その二匹なら、もしかしたら感じられるんじゃないか?」
「なるほど、それは良い考えかもしれないね」
霊の力を持つ二匹なら、エスパーやゴーストの存在を感じ取れるのではないか。サトシはそう提案していた。
「とりあえずやってみるよ。プルリル、ヒトモシ」
シューティーは二つのモンスターボールを投げ、プルリルとヒトモシを出す。
「プル」
「モシー」
「プルリル、ヒトモシ。この博物館の中には、エスパーかゴーストポケモンがいるはずなんだ。感じられないか?」
二匹は頷くと、集中してその気配を感じ取っていく。
「プル」
「モシ」
その反応がする場所に向け、二匹は動き出す。
「感じ取ったみたいだ」
「追い掛けよう!」
動き出した二匹に、付いていくサトシ達。
「――やっと動いたか」
「全く、昨日は妙な騒ぎ。今日はあんな子供がいるなど、聞いて無かったぞ」
部屋の一ヶ所から、ロケット団を追っていた三人組が現れる。
彼等は本来、昨日の夜にすり替えをしようとしたのだが、博物館に向かうと、逃げるキダチを見て予想外の事態になったと知り、今日改めて来たのだ。
しかし、今日来たら来たらで、今度はサトシ達がいた。更に余計な手間が掛かり、今まで長引いてしまったのである。
「とりあえず、今は好機だ。奴等の動きの間を狙い、さっさと済ませるぞ」
三人組はサトシ達が目的の場所と違うのに向かったのを見て頷くと、スコープを付ける。
これは何がいても対処するための、特製のスコープ。姿を消しているポケモンでも見える優れものだ。
彼等はそれで、周りを確かめながら無駄なく隕石がある部屋に移動。
「直ぐに調べろ」
「ジャミングも忘れるな」
「あぁ」
三人組はセンサーを一旦解除するとケースを外し、メテオナイトを機材で調べる。
もしかしたら、既にロケット団にすり替えられている場合も有るので、調べる必要があったのだ。
「大丈夫だ。これは本物。奴等はまだ奪っていない」
「なら、入れ替えるぞ」
一人が持っていた鞄を開き、例の失敗作と素早く入れ替え、隕石を鞄の中に仕舞う。
「よし、終了だ」
「余計な事態になる前に出るぞ」
三人組はセキュリティを再起動させると素早く動き、入ってきた窓から脱出。そのまま、夜の町の暗さに紛れて闇の中へと姿を消していった。
一方、そんなことがあったとは思いもしないサトシ達。二匹の案内で着いたのは、秘宝展の部屋だった。
「ここにいるのか?」
「いや、まだ二匹は動いてる」
「あれ? あの方向は……」
「プル」
「モシ」
二匹はある物の前に立ち、それに向かって指差す。それはデスマスのマスクのレプリカだった。
「これから感じたのか?」
二匹は頷く。これから同タイプの力を感じるのだ。
「でも、これはレプリカ……ですよね?」
「え、えぇ、その筈です。輸送の時に落ちていて、本来はデスカーンのしか無かったんですけど、向こうがサービスで用意してくれて――」
「待ってください。……これは本来無かった物なんですか?」
今初めて聞いた話に、サトシ達全員が強く反応する。
「じゃあ、このマスクってもしかして……!」
その時、ガシャンと金属製の何かが動いた音がした。そちらに振り向くと、展示品の甲冑の一つが一人で動き出したのだ。
「これは……サイコキネシスか!」
「とりあえず、この甲冑を何とか操ってるポケモンを探さないと!」
「展示品なんで、出来れば傷付けないで頂けると嬉しいんですが……」
「えぇ、しかし……いや、仕方ないですね」
展示品に傷が付けば、展覧会に影響が出るだろう。仕方ないと判断したサトシ達は、どうやって甲冑を傷付けずに対処するかを考える。
「なら、僕に任せてくれ。プルリル、サイコキネシスで甲冑の動きを封じろ!」
「リル!」
プルリルの念動力が、同じ念動力で動く甲冑を止める。
「ヒトモシ、くろいきり!」
「モシー!」
ヒトモシから、大量の黒い霧が放たれる。
「念動力で力を止め、黒い霧で見えないポケモンが何処にいるのかを探ってるのか。やるね」
霧が部屋を覆っていくが、その一部が不自然に避けていた。
「そこだ! 姿を見せろ、デスマス!」
「……」
居場所や正体を知られたと理解し、そのポケモン――デスマスが姿を現す。
『デスマス、魂ポケモン。古代文明の遺跡をさ迷うゴーストタイプのポケモン』
「やはり、デスマスだったのか……!」
「けど――て言うか、そもそも何でデスマスがここにいるのよ?」
遺跡のポケモンがどうして、博物館にいるのか。それがそもそもおかしい。
「さあね。ただ、そんなのは後回しだ。ヒトモシ、デスマスに――」
「ま、待て待て、シューティー! 攻撃する気か!?」
攻撃の指示を出そうとしたシューティーを、サトシが慌てて止めに入る。
「それ以外に何があるんだい?」
「話を聞いてからでも良いじゃないか」
「どうやって? 第一、このポケモンがいる限り騒ぎは収まらないし、ジムバトルも出来ない。それは君も困るだろう」
サトシは先輩ではある。タメになる言葉も聞いた。しかし、だからと言ってなんでもかんでも聞く訳ではない。自分はイエスマンではないのだから。
「それとこれは話が別だ! 事情があるかもしれないだろ!」
「どんな理由だろうが、このデスマスが騒ぎを起こした事には変わりはない。先ずは倒してからの方が確実で安全だ」
「怒って仕返しに来たらどうするんだよ!」
ここでサトシとシューティーが、やり方の差で揉め始めてしまう。しかも厄介な事にどっちも正しい手段を告げていた。
話し合いで成功すれば、傷も恨みも出ることなく最善の形で終わる。しかし、デスマスの性格が分からない以上、それが百%上手く行く保証はない。
一方で、倒してからは確実性こそはあるが、恨みを買って報復に来る可能性がある。
どちらも選択肢としては間違っていないために、今度は二人がヒートアップしていた。
「ちょっと、何喧嘩してるのよ~!」
「あらら~、テイストの差が出ちゃったね……。――危ない!」
その声にサトシとシューティーが振り向く。さっきとは別の甲冑が自分達に迫っていた。
「危なっ!」
「全く、君は甘いね。まぁ、それが君の良いところで、やり方何だろうけど――僕には僕のやり方がある」
それはサトシが相手だろうと、変えるつもりはない。まだまだ新人とも言える頑固さだが、そう思うのが間違いかと言えば否だ。彼には彼なりの考えの上で行動しているのだから。
「僕のやり方で対処させてもらう。プルリル、ヒトモシ、デスマスに――」
「だから待ってって! デスマス、お前はなんで暴れてるんだ!? どうしたら止まるんだ!?」
プルリル、ヒトモシとデスマスの間に入り、攻撃を中止させるとサトシはデスマスに問い掛けた。
「……マス」
デスマスは指で、ケースの中にあるマスクを指す。
「あのマスクか? キダチさん! 出してくれませんか!?」
「わ、分かりました!」
キダチはカードキーを差し込み、ロックを解除する。
「えっ? ち、ちょっと――」
すると、マスクが浮いて少しした後、デントの顔に付着。デスマスはその隣に移動する。
「デント! おい、何を――」
『これで……話せる……』
「えっ、話せる?」
マスクを付けられたデントから、低い声が聞こえた。
『昨日の夜起きたら……遺跡からこの近くにいて……大事なマスクが無かった……。だから、探して見付けた……。けど、その中に閉じ込められてたから……』
「――だから怒って、同時にその時博物館に一人だけいたアンタをマスクを奪った犯人だと思い、騒ぎを起こした。って所かね」
デスマスの説明の後に、女性の声が部屋の入り口から聞こえる。
そこには、緑のドレッドヘアに褐色肌、着ているエプロンが特徴の女性がいた。
「ママ!」
「ママって事は……あなたがアロエさん!?」
キダチがママと言った。つまり、この女性がアロエだという事になる。
「あぁ、シッポウジムのジムリーダー、アロエだよ。それはともかく……デスマス、アンタが騒ぎを起こしたのは、さっきので合ってるかい?」
デスマスはコクンと頷く。キダチが自分のマスクを盗んだと思い、怒って暴れたのだ。
「多分、寝ている時に遺跡から物を運ぶ際に紛れてしまったんだろうね。マスクもおそらく、その時に落とした」
「それをキダチさんがケースに入れてしまい、取り出せなくなったから暴れたのか……」
これが今回の事件が起きた経緯、と言うわけである。
「ほら、事情があっただろ?」
「……僕は、間違った判断はしてないと思ってるよ。……早計だったかもしれないとも思ってるけどね」
シューティーは自分の判断が間違いではないが、遠回しには非を認めた。それを聞いて、サトシも苦い表情だが、シューティーが間違った判断はしてない事は認めていた。
「……デスマス、知らなかった事とは言え、申し訳ないことをしました! 本当に申し訳ありません!」
キダチはアロエの隣に駆け寄ると、デスマスに向けて頭を何度も下げる。
「私からも謝るよ。済まなかったね」
『……こちらも済まない。早とちりで暴れ、迷惑を掛けた……申し訳ない……』
それを言うと、デスマスはマスクをデントから外し、下の部分に引っ掛けるとアロエとキダチに頭を下げる。
「デント、大丈夫か?」
「う、うん。話の内容も聞いてたよ」
「あの子、悪い子じゃなかったのね~」
「……みたいだね」
事情を聞いたり、謝罪している所を見ると、シューティーはまた申し訳なくなってしまう。
「デスマス、ありがとう」
「ありがとうございます」
「デース、デース」
また頭を下げるキダチとアロエに、デスマスも頭を下げた。
「意外と礼儀正しくて可愛いやつだな」
「ピカピカ」
「それに神秘的なテイストを感じるね」
「いい子ね~」
「キバキバ」
「……」
サトシ達は思いの外礼儀正しいデスマスにそれぞれの印象を言うが、シューティーはさっきの判断もあって、表情はまだ苦いままだった。
「モシモシ」
「リルリル」
「……ありがとう」
そんなシューティーを、ヒトモシとプルリルが間違ってないよと励ました。
「デスマス、もう行くのかい?」
「デース」
まだ夜が暗い博物館の前。サトシ達はそこに移動し、デスマスは元いた遺跡に向かおうとしていた。
「もう行くかい?」
「マース」
自分の住処はここではない。用件も終わった以上は帰るのが普通だ。
「デスマス、もし良ければまたこの博物館に来てください。歓迎します」
「デース」
コクンとデスマスは頷く。この博物館には自分がいた遺跡から持ち出された物や、多くの珍しい物があるため、遊び場としては悪くないのだ。
「デスマース」
バイバイとデスマスは手を振ると、夜空の向こうへと去って行った。
「今日は済まないね。家の旦那が仕出かした騒ぎに付き合ってもらって」
「本当にありがとうございました」
デスマスは去った後、アロエとキダチの夫婦は改めてサトシ達にお礼を述べた。
「アロエさん、ジム戦を申し込んでも構いませんか?」
怪奇現象も片付き、シューティーはアロエにバトルを申し込む。
「おや、チャレンジャーかい?」
「はい、俺達二人共です」
サトシとシューティーの言葉を聞いて、アロエは二人が挑戦者だと理解した。
「分かった、二人共受けるよ。順番は?」
「僕から――で良いかい、サトシ?」
「あぁ、良いぜ」
先に待っていたのはシューティー。ならば、先ずは彼が挑戦するのが筋だ。
「了解。ただ、今日はもう遅いから明日にしてくれるかい?」
「分かりました」
今回の一件で少し疲れたし、アロエも帰って来たばかり。互いにベストコンディションになるため、休息は必要だろう。シューティーは異論は無かった。
「じゃあ、明日。待ってるよ」
それだけ言うと、アロエはキダチと一緒に博物館の中へと戻った。
「シューティー、頑張れよ」
「勿論」
二個目のバッジ獲得を賭けたバトル。イッシュリーグ挑戦の為にも、負けるつもりはない。
「じゃあ、今日はもう夜だし、ポケモンセンターでゆっくりしようか」
シューティーははいと頷き、サトシ達と一緒にポケモンセンターへと向かった。
やはり、考えの差があるからこそのライバルだと思っているので、サトシとシューティーの言い合いは外せませんでした。
あと皆さん、健康の為にも風邪には気を付けましょう。