ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

19 / 66
 無理がない程度の変化を加えています。


石宿借の意地

「この新鮮で軟らかいポテトサラダに、スパイシーなテイストが漂う大粒の胡椒を振り掛ける。そして、これをパンに塗り、更に中に木の実のスライスを挟む。ポテトサラダの刺激と、木の実の甘さが合わさり、正に――」

 

「はぁ~~~……」

 

 側に川がある岩場で、デントはポテトサラダのサンドイッチを表現しながら作っていたのだが、その途中、曇った表情のアイリスの溜め息で中断されてしまった。

 

「元気出しなよ、アイリス」

 

「そう言われても……」

 

 アイリスが曇っている理由は簡単。ドリュウズだ。今日も話し掛けたのだが、やはり無視されてしまい、落ち込んでいたのだ。

 

「気を落とさないようにね。ほら、食べて」

 

「……そうする。……うん、美味しい」

 

 気分は曇っているも、デントのサンドイッチにアイリスは少しだけ表情を緩ませる。

 落ち込んでも仕方ないし、キバゴを心配させるだけ。深呼吸して、気持ちを強引に奮い立たせた。

 

「早く仲直り出来たら良いのにな~」

 

「僕もそう思うよ。はい、どうぞ」

 

「ありがと」

 

 アイリスを心配するサトシにデントは直ぐにサンドイッチを渡す。

 

「サンキュー。――美味い。デントが作るサンドイッチは本当に美味いよ」

 

「でしょ?」

 

 カットされた二つのサンドイッチを縦に重ね、サトシもかぶり付く。

 その野性的な様に、デントは微笑みつつ、やはりサトシとアイリスは似た者同士だと感じた。

 

「皆、デント特製のポケモンフーズは美味いか?」

 

「ピカ!」

 

「ミジュ!」

 

「ポー!」

 

「ポカ!」

 

「タジャ」

 

 練習を終えたばかりの五匹のポケモン達は頷く。味付けだけでなく、食感も絶妙なのだ。

 しかも、所々味を変えており飽きさせない。食べる側への心遣いを感じさせるフーズだ。

 彼等の内、ピカチュウやツタージャ、手が無いポカブとマメパトもゆっくりと丁寧に食べていたが、唯一ミジュマルだけはガツガツと、時々食べ滓を撒き散らしながら荒っぽく食べている。

 

「タジャタジャ」

 

「ミジュ?」

 

 その食べ方に、ツタージャははしたないと感じたのか、ミジュマルに注意。しかし、ミジュマルは気にせずに食事を続ける。

 

「……タジャ?」

 

「ミジュ!?」

 

 蔓を伸ばし、冷たい声と合わせて威圧するツタージャ。その迫力や、彼女がこの中でピカチュウに次ぐ実力の持ち主であることもあり、ミジュマルはすみませんと思わず頭を下げると、ゆっくりと食べ始めた。ツタージャも食事を再開する。

 

「何か、お姉さんみたいだね」

 

「ほんとだな」

 

「そうね」

 

 そのさまを、デントは駄目な弟を注意する、姉みたいだと感じていた。サトシやアイリスもである。

 

「キバ?」

 

「タジャ?」

 

「どうしたの、キバゴ?」

 

「ツタージャ、どうしたんだ?」

 

 純粋さのキバゴと、野生で過ごしてきた期間で培った直感でそれを感じたツタージャ。

 ツタージャがサトシに話そうとする前に、キバゴとピカチュウが先にそちらに向かう。

 

「ピカピカ?」

 

「キバキバ、キ~バ」

 

 岩影でキバゴを連れ戻そうとするピカチュウだが、説明にこっそりとそちらを覗く。サトシ達も合流し、その存在を見る。

 

「あれは……」

 

 サトシの目に写ったのは、オレンジ色の身体と大きな前足と爪、小さな尻尾と黒い瞳が特徴のポケモンだ。

 これまた、初めて見るポケモンであり、前足の爪で岩に何かをしていた。

 

「イシズマイだ。それも、家を背負っていない。珍しいね」

 

「家を背負ってないイシズマイ……」

 

『イシズマイ、石宿ポケモン。手頃な岩を見付けると、岩の底をくり貫いて身体を守る殻の代わりにする』

 

「へぇ……」

 

 図鑑で出たのと違い、今のイシズマイは本体だけである。

 

「きっと今、その家を作ってる最中なのよ~」

 

「そうだね。こんな場面に遭遇出来るなんて……ラッキーだよ」

 

「うん。イシズマイは家を作る時、人気のない場所で行うからね。かなり運が良い」

 

「……えっ?」

 

 自分達以外の声に、三人が振り向く。そこには。

 

「やぁ、皆。また会えたね」

 

 謎の青年、Nがそこにいた。ポカブやゾロアも勿論いる。

 

「Nさ――」

 

「しっ。大声を出したら気付かれる。そしたら、逃げてしまうかもしれない」

 

「すみません」

 

 Nは人差し指を立て、大声を出しかけたサトシを止める。

 

「ところで、どうしてここに?」

 

「この辺りを回ってたら、微かに音がしてね。で、その音を頼りに来てみたらキミ達とまた会えたって事さ」

 

 サトシ達とNがカレントタウンから出たのは一日差が有るも、Nは一人なので追い付いたのだ。

 

「ズマー……マイッ!」

 

 イシズマイの頑張りの声に、サトシ達の視線が集中する。イシズマイは岩を倒すと、短い間隔で岩を削っていく。

 

「イマイマイマ……!」

 

「頑張ってるなー」

 

「自分の住処になる岩だからね。一生懸命なんだよ」

 

「マーーーッ!」

 

 作業を続けていると、イシズマイは途中で口から液体を出し、岩に掛けた。

 

「あっ、口から何か出した」

 

「あれは確か、岩を削りやすくするための液体だよ。多分、中をくり貫くためだね」

 

「凄いなぁ。イシズマイ……!」

 

「ピカピカ」

 

「マイマイマイ……!」

 

「にしても、家作りって大変なのねー……」

 

 さっきからひっきりなしに岩を削り続けるイシズマイに、アイリスはハードだと感じた。

 

「外敵から敵を守るための殻だからね。念入りにしないと。――おっと、完成かな?」

 

 イシズマイは岩をある程度まで小さくし、次に面から中を削ると後ろ向きに入っていく。

 

「あれ、出てきちゃったけど……」

「多分、違和感があったのかな?」

 

 しかし、出てきてしまった。デントの推測通り、微妙に合わなかったらしく、もう少しだけ削ると、今度はしっくり来たのか入る。

 

「今度はバッチリみたいだ」

 

「あれが、本来のイシズマイの姿だよ」

 

「凄く喜んでるね」

 

 自分の家の完成に、イシズマイは上機嫌にくるくる回っていた。

 

「背中の岩がもこもこと動いてて、何か可愛い!」

 

「キバキバ!」

 

「おい、大声は……」

 

「ここまで来たら大丈夫だと思うよ」

 

 そんなイシズマイを見て、可愛いと思ったアイリスはキバゴと共に少し声を出す。サトシは止めるが、デントは完成後である以上は大丈夫だろうと考える。

 

「――あれ、何か少し揺れてない?」

 

「何か来るね。これは……地中?」

 

 Nがそう呟いた直後、歩き出したイシズマイの前の岩が盛り上がり、地中から何かが出てきた。

 

「イシズマイ? それも三匹」

 

「仲間のイシズマイかな?」

 

 それは三匹のイシズマイ。前に出ている少し大きなイシズマイと、二匹のイシズマイだった。サトシ達は仲間か友達だと考えていたが。

 

「イーーーシ!」

 

「マイーーーッ!」

 

「イマイッ!」

 

「えっ、攻撃した!?」

 

「どういう事!?」

 

 しかし、三匹の中のリーダーと思われる大きいイシズマイが子分の二匹を指示を出し、その二匹はイシズマイに体当たりをした。

 

「イシー……」

 

「ズマイッ!」

 

「――イマイッ!」

 

 二匹のイシズマイは更に、イシズマイへ攻撃を仕掛ける。きりさくだ。

 イシズマイは殻に籠って、からにこもるを発動。高めた防御力で二匹の攻撃を弾く。

 

「イシズマイを襲ってるのか?」

 

「ピカ?」

 

「でも、なんで?」

 

「……知らない外敵ならともかく、同族をいきなり攻撃だなんて、普通はあり得ないね」

 

「――イマイ!」

 

 殻に籠っていたイシズマイが防御体勢を解き、反撃にきりさくを放つ。

 

「イシ!」

 

「ズマ!」

 

「――イーーーッ!」

 

 しかし、イシズマイの攻撃は二匹のからにこもるで弾かれた。更にそのタイミングを見計らって、ボスのイシズマイがイシズマイに攻撃。

 イシズマイは吹き飛ばされた挙げ句、殻が外れてしまった。

 

「イーシ」

 

「マイッ!?」

 

 ボスのイシズマイはイシズマイの殻を引っ掛けると、それを自分の殻の上に乗せ、二匹の糸でくっ付けてしまう。

 

「イマイッ!?」

 

「イシズマイの作ったばかりの家が!」

 

「……それを奪うために、襲ったという事だね」

 

 トモダチ――ポケモンのそんな非道を前に、Nは苦い表情を浮かべる。

 

「三対一でなんて、卑怯だぞ!」

 

「……意地悪なテイストだね」

 

「おい、お前ら――」

 

 三匹の悪事に、サトシ達の表情が険しくなる。我慢出来なくなったサトシが出ようとしたが、三匹のイシズマイはもう用はないと言わんばかりに穴を掘って移動。

 イシズマイも奪われた家を取り戻そうと、同様に穴を掘って三匹を追い掛ける。

 

「取り戻す気か?」

 

「だったら、ヤナップ! あなをほるでイシズマイ達を追うんだ!」

 

「ナプゥ!」

 

「皆も、あのイシズマイ達を追ってくれ!」

 

「ポカブ、ゾロア。キミ達もお願い」

 

 ポケモン達はそれぞれペアを組み、イシズマイ達を捜索しに行くも、辺りに詳しい訳ではないので見付からず、戻って来た。

 

「ヤナップ、どうだった?」

 

「ナプナプ……」

 

「こっちも見付からなかったって」

 

「ボク達の方も残念ながら」

 

「うーん、イシズマイ達はどこに――」

 

 手掛かり無しの状態に、どうしたものかと一堂が悩むと、彼等の近くの地面の一ヶ所が盛り上がり、一匹のポケモンが出てきた。家を奪われたあのイシズマイだ。

 

「――イマ! マーイ……」

 

「さっきのイシズマイ!」

 

「家が無いまま。つまり……」

 

 あの三匹から自分の家を取り戻せなかった。という事になる。

 

「大丈夫? 落ち込んでないかい?」

 

 そんなイシズマイに、デントは優しく語りかけながら手を差し伸べる。

 

「イマーーーッ!?」

 

 しかし、イシズマイはデントを見ると驚いて後ろ足で全力で走ってしまう。

 

「ち、ちょっと?」

 

「パニックになってるね」

 

「ま、待てよ、イシズマイー」

 

「イママイ、ママイーーーッ!」

 

 あたふたと逃げるイシズマイを追い掛けるサトシ達。途中、アイリスが素早く身のこなしでイシズマイの前に立つ。

 

「怖がらなくて良いのよ~?」

 

「イママ!」

 

 アイリスは笑顔でそう告げるが、イシズマイはまだ混乱から収まっておらず、急いでUターン。しかし、サトシ達が目の前におり、逃げ場が無くなってしまう。

 

「落ち着いてくれよ、イシズマイ」

 

「僕達は危害を加える気はないんだ」

 

「そう。キミの手助けをしたいと思ってるだけなんだ」

 

「ピカピカ」

 

「ゾロゾロ」

 

「――……イマーーーイッ!」

 

 また優しく話し掛けるサトシ達だが、パニックになったイシズマイが爪を振り回す。

 

「ヤナナ!? ――ナプ!」

 

 しかも、運が悪い事にその攻撃により岩がヤナップの方に飛び、近距離や突然の事もあって彼のの頭に命中。倒れてしまう。

 

「ヤナップ!」

 

「イマ!?」

 

「大丈夫か、ヤナップ?」

 

 ヤナップやデントの叫びに、イシズマイは目を見開く。デントと一緒に近付くと頭を下げていた。

 デントは素早く傷薬を傷に吹き掛け、絆創膏を貼り付ける。その様子を、イシズマイが不安げに見ていた。

 

「大したことはなさそうだけど……」

 

「だとしても、頭の近くだ。何らかの影響が残ってるかもしれないし、今日はゆっくりさせた方が良い」

 

「そうします」

 

 Nの言葉をデントは素直に頷いた。一方、イシズマイはまたヤナップに近付くと、申し訳なさそうに頭を再び何度も下げる。

 

「ヤナナ」

 

 ヤナップはそんなイシズマイに手と声、表情で気にしないでと伝える。

 

「悪気があったんじゃないだろ?」

 

「家を奪われた直後で、焦っていたんだろう? 仕方ないさ」

 

「ボク達は分かってるよ」

 

「イーマ……」

 

 サトシ達は仕方ないと言ってくれるが、イシズマイには申し訳なさで一杯だった。

 

「また新しい家を作ったら?」

 

「――イマイマ!」

 

 アイリスに新しい家を作る事を提案されるも、イシズマイはそれは嫌だと顔を勢いよく左右に振り、強い意志が込められた眼差しを見せる。

 

「あれが良いの?」

 

「イマイッ!」

 

「そりゃあ、一生懸命作ったんだからね」

 

「凄く気に入ってるんだ……」

 

「イママイ!」

 

「それに、今のままだと、新しく作ってもまたあのイシズマイ達に取られるかもしれない」

 

「それもそうですね……」

 

「マイマイ!」

 

 新たに作っても、あのイシズマイ達に襲われれば、先の二の舞だ。ここはガツンと攻めるべき。家を取り戻すためにも、イシズマイはそう思っていた。

 

「よほど取り戻したいんだな……」

 

「やられっぱなしなんて嫌だもんな。だったら、俺達が協力するぜ!」

 

「ピカピカ!」

 

「……イマイマ!」

 

 やる気に満ちたイシズマイに、サトシ達が助力を申し出るも、当の本人はそれを拒絶。また穴を掘ってどこかに行ってしまう。

 

「おい、イシズマイ!」

 

「とりあえず、全員で家を奪わったイシズマイ達を探そう」

 

 先ずは、あのイシズマイ達を見付けないことに話が始まらない。サトシ達は捜索に走った。

 

「……ナプ」

 

 その時、ヤナップが少しふらついたが、本人が周りに気づかって隠してしまう。

 

「ミジュミジュ!」

 

「クルッ、ポー!」

 

「カブカブ!」

 

「タジャ」

 

「皆、どうだった?」

 

 夕暮れ。一組二匹の二ペアにイシズマイ達を捜索させたサトシだが、四匹は首を横に振る。見付からなかった様だ。

 

「こっちもダメだった」

 

「ゾロ……」

 

「カブ~……」

 

 Nの方も、ゾロアとポカブが捜索に赴いていたが、進展は無かった様だ。

 

「どこに行ったんだろ……?」

 

「キババ……」

 

 手詰まりになり、全員がどうしたものかと悩むと地面がまた盛り上がって、息を荒くしたイシズマイが出てきた。残念な様子から、成果は無かったらしい。

 

「どうする?」

 

「仕方ない。今日はここまでにして、夕食にしようか」

 

 夜になれば、視界が悪くなって危険が増してしまう。今日はここまでと打ち切る。

 

「そうだな」

 

「Nさん、一緒にどうですか?」

 

「ボクもかい? ……そうだね。折角だから、ご一緒させてもらうよ」

 

 特に断る理由もなく、Nはデントの提案を受け入れた。ゾロアとポカブも、Nが賛成したのならと同意する。

 

「イシズマイ、君もおいで」

 

「マイ?」

 

「ナプナプ」

 

 日が完全に沈み、焚き火を灯りにしてサトシ達は夕食を頂く。作ったのは勿論、デントだ。

 

「どうですか、Nさん。お口には召しましたか?」

 

「とても。デントくんって、料理上手なんだね」

 

「サンヨウジムで料理を沢山作って来ましたので」

 

 初めて自分の料理を味わうNに、口に合うかと質問するデント。彼の美味しいとの評価に、表情を笑顔にする。

 

「ゾロア、ポカブ。そのポケモンフーズ、口には合うかい?」

 

「……ゾロ」

 

「カブカブ!」

 

「美味しいだって」

 

「良かったです」

 

 研究所以上の味付けに、ポカブは満足。ゾロアはこんなに美味いなんてと、少し不満ながらも食べていた。

 

「イシズマイ、お前はどうだ?」

 

「イママイ!」

 

「……ナ、プ」

 

 初めてのポケモンフーズに、上機嫌なイシズマイだが、その直後にヤナップが倒れてしまう。

 

「ヤナップ!?」

 

 全員がヤナップに近付き、デントが体調を伺う。頭に触れるが、熱はない。

 

「熱じゃない……。何が原因だ……?」

 

「ナ、ナ……プ……」

 

「頭が揺れて、気分が悪いって言ってる」

 

「頭……あっ!」

 

 意識を振り絞り、症状を訴えるヤナップ。それをNが翻訳すると、全員が思い至った。

 

「昼間の……!」

 

「イーマイ……」

 

 自分のせいでヤナップがこんなにも苦しんでしまい、イシズマイは自責の念に駆られる。

 

「どうする?」

 

「こればかりは横にして、安静にするしか……」

 

「……ねぇ、ちょっと周りの草花を採って来てくれない?」

 

「何でだ?」

 

「あたし、薬草には詳しいの。もしかしたら、気分を和らげる薬が作れるかも」

 

「分かった!」

 

「ボクも手伝わせてもらうよ」

 

 サトシとNはポケモン達と一緒に周りの草花を集め、アイリスに出す。

 

「えーと……あっ、これ!」

 

 その中に適した薬草を発見し、早速調合。ヤナップに差し出す。

 

「ヤナップ、はい」

 

「ナプ……?」

 

「気分を和らげる薬。ちょっと苦いけど飲んで」

 

「……ナプ」

 

 ヤナップは薬を含み、僅かな苦さを体験しながら飲み込んだ。

 

「これで、少しは楽になると思うけど……」

 

「治りはしないのか?」

 

「この状態の時は、強い薬は厳禁なの。薄めた軽い薬で和らげて、後は様子を見るしかないわ。おばば様もそう言ってた」

 

「そうか……。何にしてもありがとう、アイリス」

 

「それはヤナップが良くなってからね」

 

 デントは礼を言うが、アイリスはそれはヤナップが完全に回復してからと返す。

 

「にしても、アイリスって薬草に詳しいんだな」

 

 自分にはさっぱりの知識を、アイリスが知っていることに驚くサトシ。

 

「旅に出るに当たって、おばば様から沢山助言貰ったから」

 

「良い人なんだね」

 

「はい」

 

 Nの言葉に、アイリスは頷く。その片原では、イシズマイがヤナップを心配そうな表情で見ていた。

 その後、就寝時間にもなったので、焚き火を中心に全員が眠りに付く。

 

「ん……?」

 

 途中、ふと目が覚めたデントがヤナップを見つめるイシズマイの姿が目に入る。

 

「心配なのかい?」

 

「イマイ? ……イマ」

 

 デントに呼び掛けられるが、イシズマイはまだ落ち込んだ表情をしていた。

 

「アイリスが調合した薬のおかげで少し楽にはなった様だし、表情も悪くない。きっと、明日には良くなってるよ」

 

「イマ……」

 

 デントはそう言ってくれるも、イシズマイからすれば自分のせいでこうなったため、どうしても申し訳なさがあった。

 

「気にするな、イシズマイ。それに、お前にはやることがあるだろう? もう寝なよ」

 

「――ヤナ……」

 

「イマ?」

 

 ヤナップの声に振り向くと、寝返りを打ったせいか布団が外れていた。イシズマイは布団を丁寧に掛け直すと、自分もゆっくりと寝始めた。

 

 

 

 

 

「気分はどうだい、ヤナップ?」

 

「ナープ」

 

 翌日、体調が回復したヤナップは皆に心配かけて申し訳ないと頭を下げる。

 

「ヤナップ、イシズマイがお前の看病をしてくれたんだよ」

 

「ヤナナ」

 

「イママイ」

 

 看病をしてくれたお礼をするヤナップ。イシズマイはどういたしましてと笑顔だ。

 

「大分良くはなったみたいだけど、万一もあるから、今日もゆっくりさせた方が良い」

 

「ですね」

 

 折角回復したのに、無理をさせてまた悪化するのは避けたい。Nの助言をデントは聞き入れた。

 

「じゃあ、あのイシズマイ達を探しましょ!」

 

「あぁ!」

 

 サトシ達は手持ち達に頼み、三匹のイシズマイ達の捜索を始める。

 

「――来た!」

 

「ご苦労様、皆」

 

 幸い、近くにいたため直ぐに発見。三匹のイシズマイ達と対峙するサトシ達。

 

「――イシシ!」

 

 しかし、ボスのイシズマイは用は無いと言いたげに背を向け、子分の二匹と共に走り出した。

 

「逃がすか!」

 

 だが、この機を見す見す手放すつもりはない。ピカチュウとキバゴがイシズマイ達の追跡する。

 

「ピカ?」

 

「キバキバ?」

 

 辺りを見渡す二匹。しかし、周りには岩ばかりでイシズマイ達はいない。と、そこでピカチュウがある岩に視線を集中させる。

 

「ピカ~?」

 

「キババ?」

 

 それは三つ並んだ岩で、一つは他の二つよりも高い。その岩を疑わしそうに凝視するピカチュウ。

 と言うも、あのイシズマイ達が背負っていたのがこれぐらいの岩だったからだ。それに、心なしか何か焦った雰囲気を感じる。

 

「ピー、カー……」

 

「マイ!?」

 

 とりあえず、攻撃しようとしたピカチュウに驚き、殻に隠れていたイシズマイ達が姿を表す。

 

「見付けた! ご苦労様、ピカチュウ、キバゴ」

 

「ピカピ!」

 

「キバキバ!」

 

「イママー……!」

 

「――待った、イシズマイ。ボクに少しだけ時間をくれないか?」

 

「マイ?」

 

 自分の家を奪った憎きイシズマイ達に、速攻で攻撃しようとしたイシズマイだが、Nが前に出て止めに入る。

 

「何をする気ですか?」

 

「彼等を説得したいんだ。ダメかな?」

 

「説得……。君はどう思う? イシズマイ」

 

「……イママイ」

 

 自分の手で取り戻したいイシズマイだが、戦わずに済むのならそれが一番。Nの提案に分かったと頷く。

 

「ありがとう。――イシズマイ。キミ達が今背負っている岩だって、必死になって作り上げたものだろう? もし、キミ達の岩が奪われたら当然悔しいし、悲しいよね?」

 

「なるほど、そう説得を……」

 

「これなら、行けるかも……!」

 

 イシズマイ達に被害者側に立った時の事を話し、自分達が悪いことをしたのだと自覚させる。

 Nの中々のやり方に、サトシ達は上手く行くかもと期待を寄せていた。

 

「……イマ」

 

「だよね? だから、その家をイシズマイに返してあげて欲しい」

 

 むむと、少し申し訳なさそうに顔を俯かせるボスのイシズマイに、これは行けると思ったNは返却を求めた。

 

「――イマイ!」

 

「――っ!?」

 

「Nさん!」

 

 直後、ボスのイシズマイが顔を上げる。表情をニヤリと歪ませて。そして、二匹のイシズマイと共にNに襲いかかる。

 

「ポカ!」

 

「ゾロ!」

 

「イマ!」

 

 Nに迫ろうとした三匹のイシズマイの攻撃だが、ポカブとゾロアに防がれる。

 不意打ちに失敗し、三匹のイシズマイは悔しそうに表情を歪ませた。

 

「いきなり攻撃!?」

 

「ど、どういう事だろう?」

 

 突然の事態に、サトシ達は困惑する。

 

「イシイシ、ズママーイ」

 

「……え?」

 

「イママイ!? イマイマ!」

 

 ボスのイシズマイが何かを話す。それを聞き、Nは驚愕の後に呆然と、イシズマイは怒りを顔に浮かばせる。他のポケモン達もだ。

 

「ど、どうしたの、イシズマイ?」

 

「イママイ! イマイマーーーッ!」

 

「Nさん、彼等は何と……?」

 

「……彼等、家を作ってない。そう言ってる」

 

「え? でも、岩を背負ってる……」

 

「ま、まさか……!?」

 

 三匹のイシズマイは家を作った事がない。にも拘らず、彼等は自分の家を持っている。それらが結びつく答えはただ一つ。

 

「あいつら……他のイシズマイ達からも家を奪ってたのか!?」

 

 今自分達といるイシズマイ以外のイシズマイ達からも、家を奪った。それしか考えられなかった。

 

「イママーイ」

 

 その通りと言いたげに、イシズマイ達はニヤリと口元を歪ませた。

 彼等は必死になって自分で作るより、他から奪って合わせた方が楽だと考え、イシズマイ達から家を強奪していたのだ。

 

「このイシズマイ達、とんでもない悪党じゃない!」

 

「必死に家を作ったイシズマイが他から奪うなんて考えづらかったけど……最初から、話し合いが通じる相手じゃなかったのか……!」

 

「……みたい、だね」

 

「え、Nさん、元気出してください! あんな奴らばかりじゃないですよ!」

 

「カブカブ!」

 

「ゾロゾロ!」

 

 親しみを持つトモダチ――ポケモンがこんな悪党だと知り、深く落ち込むNを、サトシやポカブ、ゾロアが慰めていた。

 

「イママイーーーッ!」

 

 悪党だと知り、容赦する必要がないと悟ったイシズマイは爪を振り上げて迫る。

 

「イーマ!」

 

 迫るイシズマイに、ボスのイシズマイは子分に指示。時間差攻撃でイシズマイにカウンターを叩き込んで吹き飛ばす。

 

「イシズマイ!」

 

「三対一……。圧倒的に不利よ!」

 

「だったら、加勢するまでだ! ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

 自分の力で作ろうともせず、他から奪う悪党に遠慮する必要はない。サトシはイシズマイに協力しようとする。

 

「――イママイ!」

 

 しかし、それを遮るようにイシズマイが前足の爪を横に向ける。

 

「イママイ、イマイマ!」

 

「自分の力で取り戻したいのか?」

 

「イマイ!」

 

 あのイシズマイ達が悪党とはいえ、イシズマイの自分の力で取り戻すという意志が変わることは無かった。

 

「……分かった。頑張れ、イシズマイ!」

 

「イマ!」

 

 果敢に立ち向かうイシズマイ。しかし、数は三倍の上に、身を守る殻が無いと言う圧倒的に不利な立場では敵わず、あっという間に返り討ちにあってしまった。

 三匹のイシズマイ達も、その場から立ち去り、姿を消してしまう。

 

「イマー……」

 

 数分後、手当てを済ませたサトシ達はイシズマイに助言する。

 

「なぁ、イシズマイ。やっぱり、三対一は無理があるよ」

 

「うん。流石に分が悪すぎる。せめて、一匹ずつじゃないと……」

 

 先程まで落ち込んだいたNだが、今はイシズマイ達攻略の助言をしていた。あの三匹が悪党だと分かった以上、流石のNも遠慮はしない。

 

「分断ぐらいさせて。ね?」

 

「……イマ」

 

 やられっぱなしなため、また、あくまで自分の力で倒すというスタンスは崩れてないため、イシズマイはその申し出を受け入れた。

 

「後は、どうやって分断するかだね」

 

 それも、イシズマイの意地を立たせるよう、武力以外の方法でだ。

 

「よし、ポケモンフーズを使おう。香りが強い特製のフーズで誘き寄せるんだ」

 

「良い考え!」

 

「ボクもそう思う」

 

「流石、デント!」

 

 と言うわけで、早速三つ用意。また、ポケモンフーズには糸を付いており、ポケモン達が引っ張ると釣られて移動し、三匹は離れていくという訳である。

 サトシ達とポケモン達がそれぞれの岩影でじっと待つと、イシズマイ達が香りに誘われて現れた。

 

「合図が出たよ!」

 

 イシズマイ達の出現に、空にいるマメパトが合図を出す。トレーナーの指示を聞き、ピカチュウ、キバゴ、ゾロアが走り出す。

 それに釣られてイシズマイ達も走り、作戦通りに分断される。

 

「一匹ずつ、確実に倒していこう」

 

「イマイ!」

 

 予定通り進み、イシズマイは行動を開始する。

 

「マイマイ~」

 

 何故か離れていくポケモンフーズが止まり、味わう子分のイシズマイ。

 

「マーーイッ!」

 

 そこに、きりさくを放とうとするイシズマイの襲撃。茶色の岩を背負う子分のイシズマイは咄嗟に反応し、岩でガードする。

 

「防御されたか!」

 

「なぁに、これからさ!」

 

「イマーーーッ!」

 

「マイッ!」

 

 防御から反撃に移った子分のイシズマイの岩を斬る攻撃を、イシズマイは後退でかわす。そして、岩場で軽やかに動いて敵を翻弄する。

 

「岩場に誘い込んでるの?」

 

「あぁ、今のイシズマイには身を守る殻がない。だから、地形を利用しようとしてるんだ」

 

「それに、岩がない分、身軽で素早い点を活かせる。良い戦術だよ」

 

「中々やるね、あのイシズマイ!」

 

 今あるものを最大限に活用し、敵を倒そうとするイシズマイに、デントや他の三人も感心していた。

 

「イマ……?」

 

 イシズマイは素早く動きながら、勝つための思考を続ける。すると、尖った岩山を見付けた。

 イシズマイがピンと思い付くのと同時に、子分のイシズマイが岩の陰から現れる。

 

「イマイ!」

 

「イーーマ!」

 

「シザークロス!」

 

 イシズマイが岩山に近付くと同時に、子分のイシズマイが両爪を交差しながら突撃する。

 

「イマイ! ――イー……マイ!」

 

 その一撃で岩が無いからこその身軽さで回避。更に岩山の尖端付近にきりさくで斜めに一閃。

 斬られた尖端の岩は重力に従い、子分のイシズマイへとずり落ちていく。

 

「惹き付けると同時に技の後の硬直を狙って、岩を落とした!」

 

「イシズマイはこれを狙っていたんだ!」

 

「イ……マーーーッ!」

 

 岩と激突し、子分のイシズマイは大きく吹き飛ばされた。

 

「良いぞ、イシズマイ! 一気に決めろ!」

 

「イマ!」

 

 着地した子分のイシズマイだが、それだけに何も出来ず、そこを狙ったイシズマイの連続攻撃が命中。あっさりと倒された。

 

「先ず一匹目!」

 

「数で押していたんだ。所詮はあの程度ということだろうね」

 

「えぇ。ですけど、イシズマイの実力もあります。シザークロスからのきりさく。中々スパイシーな技のコンビネーションですよ」

 

「この調子で次行くわよ!」

 

 二匹目は、ゾロアに付いたポケモンフーズを追い掛ける子分のイシズマイ。しかし、ゾロアの速さもあって追い付いていない。

 

「ゾロゾロ」

 

 そろそろ来るかなとゾロアが思っていると、その予想は的中。イシズマイがもう片方の子分のイシズマイに攻撃を仕掛ける。

 その一撃もまた外れるが、イシズマイは動揺せずに次の手を行なう。岩壁の細い隙間の近くに立ち、子分のイシズマイを誘う。

 そして、子分のイシズマイが岩を使った突撃をしたのを見計らい、岩壁の向こうに後退。

 一方、子分のイシズマイは岩があるために面積が広く、岩壁の隙間に引っ掛かってしまった。

 

「イーマイ!」

 

 勿論、その機を見逃す訳もなく、イシズマイはきりさくとシザークロスの連続攻撃を叩き込み、瞬く間にもう片方の子分のイシズマイを撃破する。

 

「二匹目撃破!」

 

「後は、あのボスのイシズマイだけだよ!」

 

 イシズマイやサトシのテンションが上がる中、ボスのイシズマイはと言うと、子分がやられてるなど思いもしないまま、デントのポケモンフーズを食べていた。そこに、サトシ達が近付く。

 

「さぁ、イシズマイ! 自分の力で自分の家を取り戻すんだ!」

 

「イマイ!」

 

「ズシ? ズシシ?」

 

 声に反応して振り向くボスのイシズマイ。イシズマイを見て、また子分達と共に撃退しようするも、子分が二匹共いないことに気付く。

 

「残念でした! 仲間はもう倒されてるのよ!」

 

「一対一の勝負! 付き合ってもらうよ!」

 

「思いっきり行けぇ、イシズマイ!」

 

「先の二匹同様、使えるものを活かして戦うんだ」

 

「イマイ!」

 

「イマ……!」

 

 こうなったらやるしかないと割り切ったボスのイシズマイは、先に背負った岩での体当たりを仕掛ける。

 

「イママイ! イマーーーッ!」

 

 イシズマイは身軽さで素早く避け、反撃のきりさくを放とうとする。

 

「マイ!」

 

「イマイ!?」

 

 ボスのイシズマイがニヤリと笑い、宿を向ける。それを見て、イシズマイは慌てて攻撃を止めるも、そこを狙われて岩を叩き付けられる。

 

「どうして、攻撃を止めたんだ?」

 

「ピーカ?」

 

 イシズマイの行動に疑問を抱くサトシ達だが、デントが気付いた。

 

「――そうか! 自分の家を盾にされたからだ! 自分が一生懸命作った家に攻撃なんて出来るわけがない!」

 

 況してや、今取り戻そうとしている家だ。攻撃出来るわけが無かった。

 

「あのイシズマイ、本当に悪い奴ね~!」

 

「狡猾、だね」

 

 ボスのイシズマイの悪どさに、アイリスは腹立たしそうな表情を、Nは苦い表情をしていた。

 

「マーイ!」

 

 ボスのイシズマイは防御を解くと、きりさくを放つ。それは回避されたが、まだ空中にいるイシズマイへすかさず力を込めた弾丸を発射。命中させる。

 

「うちおとす!」

 

「子分と違って、それなりの力量はある、か」

 

 腐っても、ボスということだろう。子分よりも強さがあった。

 

「大丈夫か、イシズマイ?」

 

「イマイ!」

 

 吹き飛ばされたイシズマイに呼び掛けるデント。イシズマイはまだやれると立ち上がる。

 

「よし、負けるなイシズマイ!」

 

「頑張って、イシズマイ!」

 

「手強いけど、勝てない相手じゃない。冷静に」

 

「ピカピカ!」

 

「キバキバ!」

 

 サトシ達の応援や助言を聞き、イシズマイは周りを見渡してから次の行動に移る。ボスのイシズマイに接近――と見せ掛け、ある方向へと走っていく。

 ボスのイシズマイは追跡するも、途中で岩を背負っているために地形に引っ掛かって動きが止まる。

 

「また地形を活かして、動きを止めた!」

 

「やるう!」

 

「――イマイ!」

 

 そのタイミングに合わせ、イシズマイはシザークロスを放つ。見事直撃するも、直後にボスのイシズマイの反撃のきりさくが命中する。

 

「イマイ! ――イマーーーッ!」

 

「な、なんだ?」

 

 痛烈な反撃を受けたイシズマイだが、その身体に亀裂らしきものが走ると、真っ赤に輝く。

 

「あれはからをやぶるだよ」

 

「からをやぶる?」

 

「防御力が下がる代わりに、攻撃力や素早さが高まる技よ!」

 

「もっと簡単に言えば、防御を捨てて攻撃に特化した状態になる技だよ。ハイリスクな技だけど、今のイシズマイには最適だろうね」

 

 イシズマイには防御のための殻が無く、また連戦やこのバトルで残り体力が少ない。リスクは控え目だろう。

 

「イーー……マーーーイッ!」

 

 イシズマイはからをやぶるで高めた力を爪に込め、強烈な一撃をボスのイシズマイに叩き込む。

 その威力でボスのイシズマイは大きく転がり、イシズマイは止めの一撃を叩き込もうと素早く接近する。

 

「イマイ!」

 

「シズ!」

 

「また宿を盾に!」

 

 しかし、またボスのイシズマイが宿を盾にした。それを見て急停止したイシズマイに、ボスのイシズマイが逆に止めを差そうと岩で殴打しようとする。

 

「――マイ!?」

 

 だが、その一撃による感触は無かった。何故とボスのイシズマイが思った瞬間、目の前にイシズマイが現れる。

 

「あれを避けた!」

 

「ああ来ると読んでいたんだよ」

 

 先の件から、イシズマイはボスのイシズマイが追い詰められれば、自分の家を盾にすることは用意に読めた。だから、止まったと見せ掛けて回避したのだ。

 

「イー……マーーーッ!!」

 

「マイーーーッ!」

 

 そして、万策が尽きたボスのイシズマイに、イシズマイがきりさくを叩き込んだ。

 その一撃により、ボスのイシズマイは戦闘不能。家からも追い出されて転がされる。

 

「やった、イシズマイの勝ちだ!」

 

「後は、イシズマイの家とこの家を離すだけだけど……」

 

 力を込めるが、粘着力が強くて離れない。これ以上は家が壊れる可能性もあるため、力強く以外の方法が必要だった。

 

「なら、炎で粘着を溶かそう。そうしたら離れるはずだ」

 

「分かりました。ポカブ、出てこい!」

 

「カブ!」

 

「繋ぎ目の所を熱するんだ!」

 

「ポカブ、手伝って」

 

「カブーーーッ!」

 

 二匹のポカブが繋ぎ目を炎で熱する。その後に家を引っ張ると、二つの家が外れた。

 

「はい、イシズマイ。君の家だよ」

 

「イマ。イマイマイマ。――マーイ!」

 

 デントから差し出された家を受け取り、後ろの尾に引っ掛ける。自分の家を取り戻し、イシズマイは喜んでいた。

 

「頑張ったね、イシズマイ」

 

「マーイ!」

 

 家を離す手伝いこそはしたが、それ以外は自分の力で取り戻せてイシズマイは上機嫌だ。

 

「――イーマ!」

 

「あっ、子分のイシズマイ!」

 

 しかし、そこに子分のイシズマイ二匹がボスと合流してきた。ボスがやられた仕返しにイシズマイに報復しようとする、が。

 

「まだやる気か?」

 

「言っとくけど」

 

「これ以上は、僕達も」

 

「容赦はしないよ?」

 

 イシズマイの顔は十分立てた。これ以上は自分達も相手になると、サトシ達がイシズマイの横に立ち、ポケモン達を出す。

 大量のポケモン達を前に、子分のイシズマイ達は勝ち目がないと瞬時に悟り、逃げようとする。

 

「待て!」

 

「マ、マイ? マイマーイ」

 

 呼び止めたサトシに、イシズマイ達がもう何もしませんよおと、前足の爪で胡麻を擂る。

 

「お前らが背負ってるその岩も、他のイシズマイから奪ったやつだろ! それも渡すんだ!」

 

「そうよ! じゃないと許さないわよ!」

 

 二匹の子分のイシズマイ達は互いに顔を見合わせると、渋々ながら奪った家を外し、ボスのイシズマイを連れてあたふたと走り去って行った。

 

「全く、これで反省すると良いけど」

 

「痛い目に遭ったんだ。彼等ももう止めてくれると……嬉しいかな」

 

「お、落ち込まないでください……」

 

 まだイシズマイ達が悪党だったことにショックを隠せないNを、サトシが慰める。

 

「後はこの三つの家を、本来の持ち主に返すだけだね。イシズマイ、協力してくれるかい?」

 

「マイ」

 

 同族なら、今いる場所がある程度分かるのではと考え、デントは協力を申し出る。イシズマイは喜んで頷いた。

 

 

 

 

 

 薄暗く、辺りはボロボロの場所。今は廃れた地下鉄のホームで、三人と一匹のポケモンがいた。

 ロケット団と、最近イッシュに来た新たなエージェント、フリントだ。

 

「フリント、これがメテオナイトのデータよ」

 

 ムサシがあるUSBメモリを取り出す。中身は、フリント経由でのサカキからの指示で、アンチモニー研究所から盗み出したメテオナイトの研究データだった。

 

「なるほど、先遣隊としての実力は確かのようだな」

 

 ムサシからUSBメモリを受け取り、フリントは彼等への印象を、多少改める。

 

「誉め言葉は無用だ」

 

「さっさと行くにゃ」

 

「そうしよう。ただ一つ確認しておく。ここしばらくもやはり奴等とは遭遇していないか?」

 

 奴等とは勿論、謎の組織の事である。

 

「えぇ、全く」

 

「ふむ……」

 

 こうも動きを見せない謎の組織に、フリントは訝しむ。幾らなんでも大人しすぎる。

 

(……本当に何を狙っている?)

 

 色々と考えるも、向こうの思惑が読めない。

 

「今は動きを見せない連中の事なんて、どうでも良いだろ?」

 

「そうにゃ。その間に、向こうが手の打ちようがないほどに進めれば良いだけの話にゃ」

 

「……それもそうだな」

 

 向こうの不気味さが引っ掛かるフリントだが、ニャースの尤もな発言に頷く。

 規模、目的、場所が判明していない現状、下手に動くのは危険過ぎる。ならば、向こうが動いても無駄になるほどに準備を進めてしまえば良い。

 

「だが、気は抜くなよ。その油断を狙って、奴等が襲ってくるかもしれん」

 

「分かったわ」

 

 前に一度襲われた経験もあるので、ムサシ達は頷いた。

 

「では、また会おう」

 

 そのやり取りを最後に、ロケット団は地下鉄のホームから去っていった。

 

「――と、これが奴等のやり取りです」

 

 地下鉄がある街のホテル。その一室で、三人組の男が目の前の男に報告をしていた。内容は、ロケット団の会話だ。

 

「なるほど、こちらの思惑通りに進んでいる様ですね」

 

「その様です、スムラ様」

 

 自分達の予定通りに進んでいる事に、スムラと呼ばれた紳士的な顔立ちの男性が静かに頷く。

 

「後は、向こうがどこまで、ですね」

 

「はい」

 

 彼等にとっては、それが一番重要なのだ。それ次第では、今後の予定がかなり変わるのだから。

 

「分かりました。では、この件に関しては私の方からあの方に伝えるとします。貴方達は引き続き、彼等の追跡を。とのことです」

 

「ははっ」

 

「では、失礼しますよ。急いで王を捜索せねばなりませんから」

 

 スムラは三人組に任務の続行を伝えると、もう一つの任務の務めに戻った。

 

「……ふむ、まだ王は見付かっておらぬのか」

 

「我等の内、一人が参加するべきではないか?」

 

 時期が迫っている。早い内に王を発見しないと、手遅れにはならないが、手間が増える。

 

「我等の任務は、奴等の追跡。そう指示された以上、それをこなす事に全力を尽くせ」

 

「――了解」

 

 一人の言葉に二人が頷く。彼等は準備を済ませると、追跡の続行を始めた。

 

 

 

 

 

 時間が立って夕暮れ。イシズマイの案内で宿を持ち主に返したサトシ達は、イシズマイに別れを告げようとしていた。

 

「それじゃ、イシズマイ。僕達はもう行くね」

 

「元気でな! 会えたら、また会おうぜ!」

 

「ピカピカ!」

 

「もう家を取られちゃダメよ~」

 

「達者でね」

 

「……イママイ!」

 

 イシズマイに背を向け、シッポウシティへと歩くサトシ達だが、途中呼び止められた。

 

「なんだい、イシズマイ?」

 

「イママ、イママイ!」

 

「デントくんと行きたいって言ってる。仲間になりたいんだよ」

 

「そうですか……」

 

 Nの翻訳に、デントは少し考える。

 

「自分の力で家を取り戻すどっしりとした味わいと、ヤナップを看病する優しいフレイバー……。それに、僕もポケモントレーナーとして一から旅をする必要がある。――よし、僕と行こうか」

 

 自分は草タイプのジムリーダーだが、今は多くの経験を得たい。ならば、他のタイプのポケモンをゲットし、旅をするのも良い経験になるだろう。

 また、イシズマイの意思も尊重したかったため、デントはゲットを決意した。

 

「一緒に行こう、イシズマイ!」

 

「イマイ!」

 

 デントはモンスターボールを取り出し、投げる。イシズマイがスイッチに触れると中に入り、地面に落ちて数度揺れるとパチンと鳴って止まる。

 

「んー、イシズマイ、ゲットで――グッドテイスト!」

 

 右手でモンスターボールの香りを堪能するように息を吸い、左手でポーズを取りながらデントは決め台詞を告げた。

 

「良かったな、デント!」

 

「あぁ。ヤナップ、君も嬉しい?」

 

「ナプナプ!」

 

「キバキバ!」

 

「キバゴも仲間が増えて嬉しいって!」

 

 新しい仲間に、ヤナップやサトシ、アイリスやキバゴが喜ぶ。

 

「おめでとう、デントくん」

 

「カブカブ」

 

「ありがとうございます。Nさん、ポカブ」

 

 また、Nやポカブもイシズマイがデントの手持ちになった事を祝ってくれた。ゾロアは微妙そうだが。

 

「じゃあ、ボクはここで。今日はキミ達と一緒に居れて良かったよ」

 

 良いものであるデントとイシズマイの繋がりの誕生。悪いものであるが必要な、悪者のイシズマイ達。

 しかし、どちらも見るべきではあった。ポケモンとトレーナーが協力があったからこそ解決したこの件。ポケモン達にも、悪者はいる。

 その両方を間近で体験して良い経験になったと思いながら、Nは去ろうとする。

 

「あの、Nさん」

 

「なんだい?」

 

「良かったら、俺達と一緒に旅をしませんか?」

 

「……キミ達とかい?」

 

 サトシの提案に、Nは驚きの様子を見せる。

 

「はい。俺達、何度もこうして会ってますし、いっそのこと一緒に旅をするのも良いんじゃないかと思って」

 

「確かに、Nさんがいるとミステリアスな雰囲気が加わって良いかもしれませんね」

 

「あたしは……二人が良いなら良いわ!」

 

 サトシの意見にデントは賛成。アイリスは、苦手さは完全に消えないが、彼がいればドリュウズとの仲の改善が上手くかもと思い、二人が良いならと告げる。

 

「……嬉しい提案だけど、ごめんね。ボクは旅は一人ですると決めてるから」

 

 撒くためにも、基本は一人の方が良いのだ。

 

「そうですか……」

 

「残念です……」

 

 Nの返答に残念と思うサトシ達だが、本人がこう言う以上は納得するしかない。

 

「まぁ、また会えるよ。その時はよろしく」

 

「はい。Nさん、また!」

 

「またね」

 

 Nは三人に別れを告げると、違う道を歩んでいった。

 

「残念だったなー……」

 

「Nさんがそう言ってたんだから仕方ないじゃない。それに、今日はイシズマイが仲間になった日よ? そんなにくよくよしないの」

 

「そうだね。出ておいで、イシズマイ」

 

「――マイ!」

 

 残念な気持ちを払うべく、デントはイシズマイを出す。イシズマイは笑顔でデントやサトシ達を見上げる。

 

「よーし、気を引き締めて……。皆シッポウジムに向かおうぜ!」

 

 イシズマイの笑顔に、気を引き締めたサトシ達は、シッポウシティへ向けての旅を再開した。

 ちなみに、三匹のイシズマイ達はその後、他のイシズマイ達からこっぴどいお仕置きを受け、反省して真面目になったのは余談である。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。