ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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サトシVSN

「では、これよりサトシ君対N君のバトルを行なう。数は二匹ずつ。交代は自由。どちらかのポケモンが全て倒れた試合終了とします」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

 ドン・ジョージの説明に、バトルフィールドの両側に立つ少年と青年が頷く。サトシとNだ。

 

「へへっ、まさかNさんとバトルすることになるなんてな」

 

「ピカピカ」

 

 今まで何度も会い、時には協力し合った謎の青年、N。彼とのバトルになるとは流石に予想外だった。

 

「何度か会ってるけど、こうして戦うのは初めてだね」

 

「そうですね」

 

 そもそも、こうなったのはNが提案したからだ。サトシとシューティーのバトルで闘争本能が刺激されたゾロアとポカブの為、また、一度サトシとのバトルを経験したいとNも考えたのだ。

 

「サトシとNさん。……どんなバトルになるんだろう?」

 

「僕にも全く予想が出来ないね。Nさんはミステリアスなテイストに満ちているけど、同時にポケモンへの想いは本物だ」

 

 謎に満ち、掴み所が無さげに見えて、しっかりとした芯のある。それがデントが見て感じたNという人物の評価だ。

 ただ、バトルは一度も見てないため、やはりどう来るかが予測出来ない。

 

「持っているのは、サンヨウジムのバッジのみ、ですよね? デントさん」

 

「うん。まだ一つだけと言ってた」

 

 これだけを考えると、幾つもの地方を周り、多くの経験を得たサトシには勝てる要素がない。

 

(なんだけど……)

 

 シューティーはどうも、引っ掛かる。Nのあの静かさに満ちたあの雰囲気が。

 

「では――始め!」

 

「ツタージャ、君に決めた!」

 

「ポカブ、行こう」

 

「――タジャ」

 

「カブ!」

 

 草蛇と火豚の二匹のポケモンが、バトルフィールドに立つ。

 ツタージャはポカブの向こうにいるNに、何とも言えない表情になるが、ここに立った以上は戦うまでだ。ポカブはやる気まんまんである。

 

「ツタージャ、たつまき!」

 

「タジャ!」

 

「ポカブ、かわしてころがる」

 

「カブ!」

 

 ツタージャはクルンと周って竜の力を込めた風を作り上げ、ポカブに向けて放つ。

 迫る竜巻に、ポカブは軽やかな動きでかわし、更に移動しながら身を丸くして回転。そのまま突撃する。

 

「かわせ、ツタージャ!」

 

「ジャ!」

 

 勢い良く突撃する球を、ツタージャもまた軽やかに避ける。しかし、通り過ぎていったポカブは軌道をUターン。再びツタージャに向かって突撃する。しかも、先程よりも威力や速さが増していた。

 

「ツタージャ、回避に専念!」

 

 それも避けるが、また次が来る。やはり、威力と速さが増していた。

 

「ねぇ、どんどん威力と速さが上がってない!?」

 

「ころがるは、転がり続ける程に威力と速さが増す技だからね」

 

「あのまま回避だけしていたら、威力と速さが上がり続けて手が付けられなくなる。だけど――」

 

 サトシなら、攻略出来る。シューティーも、デントもそう思っていた。

 

「ツタージャ、目の前に強くたつまき!」

 

「ター……ジャア!」

 

「風でころがるの威力を削ぐ気かな? だけど、わざわざ突っ込む必要はないよ。ポカブ、右、そして左」

 

 向こうの狙いにわざわざ乗る必要はない。的確な指示を出し、更に風の流れを加速に利用。ポカブは更に速くなる。

 

「ツタージャ、ジャンプ!」

 

「タジャ!」

 

 微かに触れながらもツタージャはかわし、背後から高速で迫るポカブに向き合う。

 

「これ……凄い速さよ!?」

 

「ツタージャ、アクアテール! 地面に叩き付けろ!」

 

「ター……ジャ!」

 

 草蛇の尾に、水の力が集約していく。チャージが完了すると、たつまきで削れた場所に放つ。衝撃と共に地面が凹み、そこにポカブが入って来た。

 すると、変化した地形に合わせてポカブの動きも変わり、勢い良く空へと放り出されてしまう。

 

「カブ~~~!?」

 

「ツタージャ、もう一度アクアテール! 着地する所を狙え!」

 

「タジャ!」

 

「――ポカブ、スモッグ」

 

「カブ!」

 

 宙に浮き、ジタバタと足掻いて隙だらけのポカブを見て、サトシは追撃を指示。ツタージャは着地を狙って再度アクアテールを放つ。

 しかし、Nがそのまま決めさせる気は全くなく、迎撃を指示。ポカブは鼻から紫色の煙を放出する。

 

「ツタージャ、下がってたつまき!」

 

「タジャ!」

 

 ツタージャは下がると回転し、たつまきを作って放つ。たつまきはスモッグを巻き込み、ポカブに向かっていく。

 

「――かわしながらたつまきに、はじけるほのお連発」

 

「ポカァ!」

 

 炎の連弾がポカブから放たれる。それはたつまきに直撃すると同時に四方に分散。更にたつまきの影響を受け、火の粉を大量に拡散する。

 

「ツタージャ、近付く火を打ち消しながら後退!」

 

「タージャ!」

 

 水の尾で火を打ち消し、ツタージャはそのまま後退する。

 

「あのツタージャ、ドラゴンタイプだけじゃなく、水タイプの技も……!」

 

「うん、分かる分かる。あたし達も最初は驚いたし」

 

 ツタージャは草タイプでありながら、水タイプの技も修得していた。苦手な炎への対策として。

 ちなみに、ダルマッカの炎での小火を鎮火したのもこの技である。

 

「しかし、Nさんやポカブも見事だね……」

 

 たつまきを逆に利用して加速や、広範囲に分散させる。ピンチでも素早く指示を出し、迎撃する。これらの判断力は並みではない。

 また、それに付いていくポカブの力量も見事だ。技も強力な上、身体能力も良い。よく鍛えられている証だ。

 

「あのポカブって、ミジュマルやジャノビーと同期なのよね?」

 

「あぁ、ジャノビーがツタージャの頃にアララギ研究所で一緒にいた」

 

「つまり、ミジュマルやジャノビーと一緒にいた時間に大差はない。にも拘らず、Nさんはポカブの能力を既にあそこまで引き出している……」

 

 Nのトレーナー能力が高い証左だ。並のトレーナーなら、ポカブが宙に浮いた時点で致命傷か、一気に戦闘不能にまで陥るだろう。

 

「ツタージャ、メロメロ!」

 

「ター……ジャ」

 

「ポカブ、上に向けてはじけるほのお」

 

「カブー!」

 

 艶やかな動作でツタージャは片目をウインク。ハートマークが次々と現れ、ポカブに向かう。

 しかし、それはポカブが放った炸裂する炎弾の飛散した火を受け、一つ残らず焼かれた。

 

「ころがる」

 

 ポカブが再び体を丸め、土煙を立てながら突撃してくる。

 

「ツタージャ、アクアテール!」

 

「タジャ!」

 

 ころがるは転がれば転がるほどに威力が増す。先の手段がもう使えない以上、今の内に弱点の技を叩き込み、止めるまでだ。

 

「――ジャンプ」

 

「ポカ!」

 

 水の力が込められた尾が放たれる。二つの技がもう少しで激突――と思いきや、その寸前でポカブが跳躍。アクアテールは外れてしまう。

 

「直ぐにUターン」

 

「カブ!」

 

 ツタージャを飛び越えたポカブは、身体を傾け、ドリフトで地面に跡を残しつつUターン。またまた加速して迫る。

 

「――ポカブ、その状態のまま、スモッグ。一瞬でも良いよ。但し、定期的に」

 

「カブッ!」

 

「かわせ、ツタージャ!」

 

 球から微量の毒を含んだ紫色の煙が上がる。それを見て、サトシはダメージ覚悟のぶつけ合いから回避に変更する。

 しかし、それで安心は出来なかった。煙が次々とフィールドに現れ、毒々しい彩っていくのだから。

 

「これはとんでもなく厄介な戦術だね……!」

 

「ど、どうして? たつまきで払えば――」

 

「……いや、ころがるの特性を考えると、今は大丈夫でも、直ぐに無理になる」

 

 何しろ、どんどん速くなって行くのだから。発動の間など直ぐに無くなるだろう。

 

「うん。そして、防戦一方では、スモッグはどんどんフィールドを埋めていく。つまり、逃げ場が無くなってしまう……!」

 

「ちょっ、それって……!」

 

 そう短くない内に、ツタージャは確実にころがるかスモッグ、悪ければその両方を受けてしまうという事だ。

 

(どうする……!)

 

 早くしないと、間違いなくやられる。サトシは頭を必死に働かせる。この状況を打破する手段を。

 

「――ツタージャ、フルパワーでたつまき! スモッグを全部払え!」

 

 ポカブがUターンするタイミングに、ツタージャは最大のたつまきを展開。毒煙を巻き上げていく。

 

「ポカブ、威力は充分。そのまま突っ切って」

 

 触れるだけでもダメージを与えるほどに高速回転しているポカブは、力強くでたつまきを突破する。しかし、手応えは全く無かった。

 

「……いない? ――いや、違うね」

 

 Nは瞬時に理解した。ツタージャは巨大なたつまきの中にもう一つのたつまきを展開し、それを使って上に移動して避けたのだ。

 事実、たつまきが消えるとツタージャは無傷で宙におり、直後に着地した。しかし、ポカブが直ぐに迫っている。

 

「――ツタージャ、かわしながらポカブの上側につるのムチ! それも後ろから!」

 

「――タジャ!」

 

 その指示に、ほとんどが疑問符を浮かべるが、ツタージャは自身の能力をフルに使って、上手くつるのムチをポカブに当たる。まるで、ころがるの速度を上げるように。

 事実、その一撃により、ポカブのころがるの速さは更に増した。

 

「な、何してるのよ、サトシ! 攻撃どころか、手助けして――」

 

「カブブゥ!?」

 

「――えっ!?」

 

 ポカブが戸惑いの悲鳴を上げ、高速で地面を転がっていく。サトシはころがるを減速させるのではなく、逆に加速させることで制御出来なくしたのだ。

 

「今だ、アクアテール!」

 

「たいあたり」

 

 回避は不可能。ならば、少しでも威力を打ち消すべく、Nはたいあたりを指示する。

 

「ター……ジャア!」

 

「ポカ……ブーーーッ!」

 

 水の尾と体当たりがぶつかるも、威力は前者が上。更に苦手な属性の技を食らい、ポカブは吹き飛ぶ。

 

「まだだ、つるのムチ!」

 

「交互にかわして」

 

 しなやかな軌道の蔓を、ポカブは効果抜群の技で大ダメージを受けたばかりとは思えない動きで避ける。

 

「メロメロ!」

 

「はじけるほのお」

 

 再びのハートマーク。しかし、先程同様に弾ける炎で全て焼かれ、煙を出す。

 

「――まだ来てるよ」

 

 煙の向こうから、更にハートマークが出てくる。またメロメロをしたのだとNは理解した。しかし、今度は左右に広く別れている。

 

(はじけるほのおじゃ、ダメか)

 

 上に射てば打ち消しは出来る。しかし、距離が近い現状では、その間にツタージャに攻撃されてしまう。

 かといって、先にツタージャを攻撃しても、煙があるので直撃しないだろうし、その間にメロメロを受けて詰んでしまう。

 

「ころがる」

 

 真正面に身体を回転させて進むポカブ。敢えて、前に進む判断をしたのだ。

 

「つるのムチ!」

 

 二本の蔓が煙から突き出て、ポカブを叩こうとする。

 

「左」

 

 しかし、ポカブは途中で軌道を変更。ハートマークを振り払いながら、速さと威力を上げていく。

 

「まだだ、ツタージャ! 薙ぎ払え!」

 

 蔓が横から迫る。しかも、上下に並んでおり、跳躍で無ければかわせないが、そこを狙ってくるだろう。

 

「ジャンプ」

 

「今だ、ツタージャ!」

 

「タジャ!」

 

 Nにしては単純なのが引っ掛かるも、だからと言って隙を見逃すつもりもない。

 

「ポカブ、ころがるを中止。蔓に噛み付いて」

 

「カブ!」

 

「タジャ!?」

 

 迫る蔓に、ポカブが噛み付いた。ツタージャとサトシは驚くものの、サトシはそれを利用することを思い付く。

 

「ツタージャ、蔓を縮めてポカブを引き寄せろ!」

 

「ポカブ、スモッグ――」

 

「そこで停止――からの蔓で捕まえろ!」

 

「はじけるほのお。地面に」

 

 サトシが中止したのに合わせ、Nもポカブへの指示を変更。地面に炎を撃ち込み、接近していた蔓やメロメロを焼く。

 

「アクアテール!」

 

「たいあたり」

 

 その間を狙ってツタージャが接近。Nはやはりかわせないと理解していた。しかし、メロメロを破壊しない場合は受けてメロメロになっていただろう。

 Nは迎撃を指示。再び、アクアテールとたいあたりがぶつかり、またポカブが吹き飛んだ。

 

「カブー……!」

 

 踏ん張ったポカブの身体から、炎のオーラが漂い出す。特性、もうかの発動だ。

 

「はじけるほのお」

 

「ツタージャ、かわせ!」

 

 炎はもうかにより、大人を軽々飲み込る程にまで巨大化。地面に接触すると、人の顔サイズの火球に別れて周囲に撒き散らし、滞留する。

 

「あれ、ちょっとヤバイな……!」

 

 はじけるほのおが放たれる度に、フィールドが炎に包まれる。何れは逃げ場が無くなってしまう。

 

「連続ではじけるほのお」

 

「たつまき!」

 

「それも焼くだけさ。ポカブ」

 

 竜巻が出現し、炎を巻き上げるもそこにパワーアップしたはじけるほのおが炸裂。竜巻を消し、炎をフィールドに更に撒き散らした。

 

「さぁ、このままだと炎はフィールド全体を覆うよ? どうするかな、サトシくん?」

 

(……ただ、アクアテールでやってもダメだ)

 

 寧ろ、消す度に炎が増えていって逃げ場が無くなるだけ。

 

「タージャ」

 

「ツタージャ……」

 

 さっさと指示なさい。どれだけ無茶だろうが、勝つためのを。ツタージャは鋭い眼差しで伝える。

 

「分かった。ツタージャ、突っ込め!」

 

「タジャ!」

 

「捨て身の突撃? ダメだよ、それじゃあ、ね。――はじけるほのお」

 

「ポー……カブ!」

 

「今だ、つるのムチ! 炎を叩け!」

 

「――!」

 

 炎が発射された直後、ツタージャは炎の熱さに耐えながら蔓で炎を叩く。すると、はじけるほのおは技の性質でその場で炸裂。使い手のポカブを怯ませた。

 

「アクアテール!」

 

「スモッグ」

 

 水の力を宿した尾を出すも、ポカブが怯ませるための毒の煙を鼻から吐き出す。

 しかし、ツタージャは知ったことかと言わんばかりに煙に入り込み、中から出てアクアテールをポカブに叩き込んだ。

 

「ター……ジャ!!」

 

「カブーーーッ!」

 

 吹き飛ぶポカブだが、ギンとツタージャを睨む。

 

「ポカーーーッ!」

 

「何!?」

 

 そして、最後の足掻きとして技を使った直後の彼女へ自分の意志ではじけるほのおを放つ。

 

「アクアテール!」

 

「ター――ジャア!」

 

「ツタージャ!」

 

 アクアテールで迎撃を試みるも、硬直のせいで中途半端な威力になっており、炎をある程度しか削れなかった。技を受けて吹き飛ぶツタージャだが、身体を起こす。

 

「ツタージャ! 大丈夫か!?」

 

「……タ、ジャ」

 

 コクンと頷くツタージャだが顔色が悪い。スモッグで毒状態になってる上に、軽減されてるとは言え、苦手な炎を受けたのだ。当然だろう。

 

「カブー……」

 

 一方、先に吹き飛んだポカブは、最後に足掻きこそはしたものの、そこが限界だったようで気絶していた。

 

「ポカブ、戦闘不能! ツタージャの勝ち!」

 

「勝った!」

 

「だけど、ツタージャは毒状態の上に、ダメージもある……。良い状態とは言えないね」

 

「えぇ……。それにしても、あの人……」

 

 相性有利の差があったとは言え、能力ならツタージャが上。その状態であのサトシと互角と戦っていた。とんでもない実力の持ち主だ。

 

「……やっぱり、強いのあの人?」

 

「……さっきのバトルを見て、あの人が弱いと思うのなら、君、基本からやり直した方が良いよ」

 

「つ、強いのは理解してるわよ! だけど、こんなにとは思わないじゃない!?」

 

「まあね……」

 

 まだ短い間だが、アイリスもデントもサトシの実力の高さはよく知っているつもりだ。

 Nはそんな彼と互角に戦える。つまり、サトシに匹敵か、互角、或いはそれ以上の可能性もあり得るのだ。

 Nがそんな人物だと突然知れば、アイリスが戸惑うのも無理はないかもしれない。

 

「……次のバトルはどうなるんでしょう」

 

「……激しくなるだろうね」

 

 サトシはおそらく、ツタージャからピカチュウに入れ替えるだろう。Nは勿論、ゾロアだ。

 サトシにとって、一番の相棒がピカチュウ。ならば、Nにとっての一番の相棒は誰か。

 ポカブは最近、アララギ博士から授かったと聴く。となると、自ずと限られる。ゾロアだ。

 つまり、二人共一番のパートナーで戦うことになる。そのバトルが中途半端なはずがない。

 

「ツタージャ、ご苦労様。戻ってくれ」

 

「ご苦労様、ポカブ」

 

 サトシはツタージャをモンスターボールに戻す。Nは熱されたバトルフィールドを平気で歩き、ポカブを抱えると、自分の立ち位置にまで戻る。

 

「一旦、バトルフィールドを安定させたいので、少し待ってもらいたい」

 

 先程のバトルで、バトルフィールドには大量の熱が溜まっている。少し整備をしておきたかった。

 

「構いません」

 

「分かりました」

 

 職員が入り、バトルフィールドに水を掛けて熱を奪い、整備も手短に行なう。

 

「では、再開!」

 

「ピカチュウ、頼むぜ」

 

「ゾロア、行こう」

 

「ピカ!」

 

「ゾロ」

 

 ピカチュウとゾロアがバトルフィールドに立つ。

 

「ゾロアか……」

 

『ゾロア、わるぎつねポケモン。相手の姿に化けて見せる驚かせる。無口な子供に化けている事が多く、こうやって自分の正体を隠す事で、危険から身を守っているのだ』

 

 最初の遭遇時はNの雰囲気もあって、検索する間が無かったため、ここでポケモン図鑑でゾロアの情報を調べる。

 

「人に化けるポケモン……」

 

「そう。特性、『イリュージョン』。ゾロア、やって上げて」

 

「――ゾロ!」

 

 クルンクルンと回ると、ゾロアの身体が変化。ある人物の姿へとなる。

 

「――俺!?」

 

「ゾロロ! ――ゾロ!」

 

「今度はあたしに!」

 

 次はアイリス。他にもデントやシューティー、Nにもゾロアは化ける。最後には元の姿に戻った。

 

「さぁ、始めよう」

 

「えぇ!」

 

「シャドーボール」

 

「でんこうせっか!」

 

 ヒトモシと同じ技、霊の力を込めた黒色の球体を展開、ピカチュウへ打ち出すゾロア。

 その威力もそうだが、速さもヒトモシを軽々と上回っていた。瞬く間にピカチュウに迫る。

 

「――ピッカァ!」

 

 しかし、ピカチュウはそれをかわす。確かに速いが、軌道は直線的。ピカチュウなら避けるのは難しくない。

 

「ゾロア、連射」

 

「ゾロロ!」

 

 ゾロアはポンポンと黒い球を次々と作り出し、連射。ピカチュウはでんこうせっかでかわしながら距離を詰めていく。

 

「ハイパーボイス」

 

「ゾローーーッ!」

 

「ピカチュウ、下がれ!」

 

 ゾロアが突然大声を上げる。それは扇状の衝撃波を発生させ、ピカチュウに迫るがサトシの指示もあって回避された。

 

「かなりの威力だな……!」

 

 シャドーボール、今のハイパーボイス。どちらも威力、速度が高く、発動までが素早い。先程のポカブ以上の力を持っているのは確かだ。

 

「ゾロア、走って」

 

「ゾロ!」

 

「ピカチュウ、お前もだ! でんこうせっか!」

 

「ピッカァ!」

 

 次々と突撃していくピカチュウ。その速さは凄まじく、普通なら一撃か二撃は簡単に食らうだろう。

 

「ゾーロロ」

 

 しかし、ゾロアは一定の距離を保つ、また近付くと見せ掛けては離れ、逆に離れる振りをしては近付くという複雑な動きをする事ででんこうせっかを避けていた。

 

「やはりできるね、あのゾロア……」

 

 サトシやピカチュウとは正反対の、掴み所のない動作により、でんこうせっかをかわす。言うだけなら簡単だが、かなり難しい。

 

「10まんボルト!」

 

「ハイパーボイス」

 

「ピーカー……チューーーッ!」

 

「ゾーロー……アーーーッ!」

 

 電撃と衝撃がぶつかり合う。直後、電撃が衝撃波に削られながらも突き破り、ゾロアに命中して吹き飛ばす。

 

「ゾローーーッ!」

 

「貰った、アイアンテール!」

 

「ピーカァ!」

 

 転がった隙を狙い、ピカチュウは尾を鋼に硬化させて強烈な一撃を降り下ろす。

 

「――だましうち」

 

「――ゾロ」

 

 とそこでゾロアが素早い動作で起き上がった。アイアンテールを避けると、ピカチュウの身体に体当たりを叩き込んで吹き飛ばす。

 

「態と倒れたフリを……!」

 

「正解。この子はこういう技が好きでね」

 

「ゾロゾーロ」

 

 悪戯っ子の様な笑みを、ゾロアは浮かべる。

 

「ピカチュウ、大丈夫か?」

 

「――ピカ!」

 

 キツい一撃ではあったものの、戦闘不能に成る程ではない。体勢を整え、ゾロアを睨み付けるピカチュウ。

 

「そうこないと。シャドーボール」

 

「ゾロ!」

 

「アイアンテールで弾き返せ!」

 

「ピカァ!」

 

 迫るシャドーボールを、ピカチュウは鋼化した尾でまるで、野球の様に高速で打ち返す。

 

「おや」

 

「ゾロ!?」

 

「でんこうせっか!」

 

 咄嗟に避けるゾロアだが、その動きを狙ってピカチュウが突進。速さが上がりきっていないゾロアにぶつかる。

 

「踏ん張って。――ナイトバースト」

 

「ゾローーーッ!」

 

 ゾロアは全ての足で踏ん張ると、身体から円状に黒色の波動を解放。その一部が接近したこともあり、ピカチュウに命中。強く吹き飛ばす。

 

「ピ……カ……!」

 

「今のは……」

 

「ナイトバースト。闇の力を放つ、今のところこの子や進化系のポケモンしか使えない技さ」

 

「ゾロアの最強技って事ですか……」

 

 実際、ナイトバーストの威力は他の三つを上回っていた。この技がゾロアにとっての切札なのだろう。

 

(10まんボルトで相殺は……難しいか)

 

 ゾロアの最強技だけあり、ナイトバーストの威力はかなり高い。絶好調とは言え、まだ完治してないピカチュウの10万ボルトでは相殺しきれない。

 

「シャドーボール」

 

「もう一度アイアンテールで打ち返せ!」

 

「ゾロ!」

 

「ピカ!」

 

 クルンと身体を回転させ、鋼の尾で黒球を叩くピカチュウ。しかし、直後にシャドーボールが爆発。爆風に巻き込まれ、動きが鈍る。

 

「なっ……!?」

 

 驚くサトシとピカチュウ。これはゾロアがシャドーボールを前とその後ろに大小の二発を作ったため、打ち返したシャドーボールが後のシャドーボールと衝突し、爆発したのだ。

 

「ハイパーボイス」

 

「ゾローーーッ!!」

 

「ピカ!」

 

「ピカチュウ!」

 

 そして、Nは貴重な隙をみすみす手放しはしない。距離を詰めたゾロアから強烈な轟音が響き、ピカチュウにダメージを与えながら吹き飛ばそうとする。

 

「地面に尻尾を刺して踏ん張れ!」

 

「ピカ!」

 

 ピカチュウは自分の稲妻の様な形をした尾を地面に突き刺し、吹き飛ばしを避ける。

 

「ゾロ!?」

 

「へぇ」

 

「アイアンテールで地面の土を掬い上げろ!」

 

「ピー……カッ!」

 

 身体を捻り、アイアンテールの威力で地面の土を持ち上げる。それは無数の土塊となって、ゾロアに迫る。

 

「……回避」

 

「そこだ、でんこうせっか!」

 

「ピカピカ!」

 

 ゾロアが動くと同時に、ピカチュウも全速力で走り出す。

 必死に避けようとしたゾロアだが、土塊への回避の間のせいでかわしきれずに直撃、転がっていく。

 

「アイアンテール!」

 

「ピカァ!」

 

 そこにピカチュウは鋼の尾を叩き込もうとする。しかし、アイリス達はさっきの光景を思い出した。

 

「だましうち」

 

「――ゾロ」

 

 ニヤリとゾロアは笑うと、また素早く起き上がって不意を突こうとする。

 

「今だ、ピカチュウ! 地面に叩き付けろ!」

 

「ピカ!」

 

 しかし、サトシもさっきの二の舞は踏まない。叩き付けの指示を地面に変更。

 アイアンテールの衝撃で大地を揺さぶり、体勢を崩しつつ土塊を跳ね上げてぶつけ、ゾロアの動きを鈍らせた。

 

「ゾローーーッ!?」

 

「アイアンテール!」

 

「ピカァ!」

 

「ゾロー!」

 

 今回の攻防の結果は先程と違い、ゾロアがダメージを受ける。

 

「だましうち返し、ってところです!」

 

「ピカピカ!」

 

「一本取られたね」

 

「ゾロー……!」

 

 何時もは自分が欺く側なのに、今回は自分が欺かれた。その事実に悪狐は頬をプクーと膨らませる。

 

「シャドーボール。大量展開。但し、その場で待機」

 

「ゾロロロッ!」

 

 黒い球が次々と展開。それをゾロアは目の前で待機させる。

 

「ハイパーボイス。範囲を絞ってからシャドーボールに当てて」

 

「ゾローーーッ!!」

 

 圧縮した音波が無数の黒球にぶつかる。すると、黒球が超高速で前に打ち出された。

 

「10まんボルト!」

 

「ピーカ……チューーーッ!」

 

 強烈な電撃が放たれ、迫る黒球を相殺していくが、流石に数が多すぎた。消しきれず、直撃こそはしないがその場に留められる。

 

「ゾロ!」

 

 その間に、ゾロアはピカチュウに接近していた。

 

「でんこうせっか!」

 

「シャドーボール」

 

 ピカチュウは真っ直ぐに突撃するが、ゾロアはそれを拒むように黒球を展開する。

 急ブレーキを掛け、真横に素早く方向転換するピカチュウだが、そこに放たれたシャドーボールが迫る。

 直撃こそは避けたが、そこに攻撃体勢に入ったゾロアが近付く。

 

「だましうち」

 

「ゾロ」

 

 ゾロアは右を見る。ピカチュウはその視線に釣られて右を見たが、瞬間にゾロアに左から攻撃される。

 

「ハイパーボイス」

 

「ジャンプ! そして、10まんボルト!」

 

 追撃に音波が放たれる。体勢が崩れたピカチュウだが、咄嗟に跳躍する事で回避。そして、素早く雷撃を放つ。

 技を放った後の硬直もあり、ゾロアは擦りはしたが、直撃は回避する。しかし、体勢は微妙に崩れた。

 

「行け、でんこうせっか!」

 

「ピッカ!」

 

「ゾロ!」

 

 そこにピカチュウのでんこうせっかが炸裂。ゾロアはダメージを受けて仰け反りるも踏ん張って、反撃を狙うが、先程の結果からピカチュウは素早く後退。更にその反動を活かし、接近する。

 

「でんこうせっか!」

 

「ピカ!」

 

「周囲にシャドーボール」

 

「ゾロロ!」

 

 先程の前に集中的にではなく、今度は周囲に黒球を作り出すゾロア。黒球の壁を見てピカチュウは後退し、周りを走る。

 

(またハイパーボイス……いや、今度は多分……!)

 

 ハイパーボイスは前に放つ技。これでは全ての球を打ち出せない。となると、使う技は一つ。

 

「ナイトバースト」

 

「ゾローーーッ!」

 

 周囲に闇の力を放つナイトバースト。これで待機させたシャドーボールを同時に打ち出す。予想通りだった。

 

「でんこうせっか! 横に避けろ!」

 

 ならば、同時に打ち出された事を利用して横に避けるのみ。

 そうしたサトシとピカチュウだが、まるでそのタイミングを狙ったかのように、ピカチュウの目の前に闇の力を纏ったシャドーボールが迫る。

 

「ピカ!?」

 

 これはシャドーボールの位置をずらしたため、同時には発射されたが時間差のようになったのだ。

 

「――ピカァ!」

 

 無理矢理動き、直撃だけは辛うじて回避するも、ゾロアが迫っていた。

 

「ハイパーボイス」

 

「ゾローーーッ!!」

 

「踏ん張れピカチュウ! でんこうせっか!」

 

「ピー……カァッ!」

 

 かわせないと判断したサトシは、敢えてその場に留まらせる。そして、技が終わった後を狙い、反撃のでんこうせっかをゾロアに叩き込む。

 

「10まんボルト!」

 

「ナイトバースト」

 

 電気と闇がぶつかり合う。すると、闇が電撃を飲み込み、突破した一部がピカチュウにダメージを与える。

 

「な、何なの、このバトル……!」

 

「どっちも凄い……」

 

「僕もそう思います……」

 

 この短い間に行われた凄まじくハイレベルな攻防の数々。正に一進一退。やられれば、直ぐにやり返す。

 

「これ、どう見てもただのトレーナーの試合じゃないですよ……」

 

 まるで、テレビで見たポケモンリーグのバトルだ。いや、実際にそうなのかもしれない。

 今目の前で行われているのは、場所が違うだけのリーグ戦。シューティーはそう感じていた。

 

(……僕は、この二人に勝たないといけないのか)

 

 イッシュリーグで優勝を目指すのなら、自分はこの二人、サトシとNに勝利せねばならない。

 その事実に、シューティーは思わず身震いする。それは怯えか、それとも武者震いか、今の彼には分からなかった。

 

「ふふ、強いね。サトシくん、ピカチュウ」

 

「ゾロゾロ!」

 

「Nさんとゾロアこそ!」

 

「ピカピカ!」

 

 一瞬足りとも気を抜けない、燃えるような激しいバトル。サトシとピカチュウは勿論、ポケモンバトルを嫌っている筈のNやゾロアもつい、笑みを浮かべる。

 

(……これが、ポケモンバトルか)

 

 互いの力、知恵、経験、戦意をぶつけ合い、その先の勝利を得る。それこそが、本当のポケモンバトル。トレーナーだけでなく、ポケモンも楽しむ為の試合。

 

(――でも)

 

 ゾロアと共にポケモンバトルの醍醐味を知ったNだが、やはり自分は積極的にやろうとは思えない。

 しかし、今だけはこのバトルを楽しみたい。だが、戦いとは何時か終わるもの。ゾロアもピカチュウも疲弊しており、終わりが近付いているのが分かる。

 

「そろそろ、決着を付けよう。サトシくん」

 

「えぇ、Nさん!」

 

 サトシに異論が有るわけもなく、力強く頷く。

 

「――ピカ!」

 

「ピカチュウ?」

 

 指示を出そうとしたが、その前にピカチュウが力強い眼差しで自分を見る。

 

(……もしかして)

 

 自分の相棒が言いたい事を、サトシは直感的に理解した。ピカチュウはあの技を指示して欲しいと言っているのだ。

 

(ボルテッカー……!)

 

 ピカチュウが扱える技の中で、最強の技。反動があるため、今まで使用を禁じていた。

 

(けど……)

 

 今のピカチュウは絶好調だが、完治はしていないのだ。使えば、明日以降の体調に影響する恐れがある。

 

「ピカピカ、ピカチュ!」

 

 ピカチュウもそれは理解している。しかし、Nとゾロアは強敵だ。ボルテッカー無しで勝てる相手ではない。

 

「――分かったよ! 行くぜ!」

 

 ピカチュウの想いを尊重し、サトシはボルテッカーの使用を決意する。ただ、一度だけだ。それ以上は絶対に使わせない。

 

(何か来る)

 

 サトシとピカチュウの決意と覚悟に満ちた眼差しに、Nは感じた。何かを仕掛けてくると。

 

「ゾロア、来るよ。集中」

 

「ゾロ」

 

 おそらくは、彼等の最大の一撃。ならば、こちらも最大の技で迎え撃つとNは決めた。

 

「――ナイトバースト」

 

「ゾーロー……アーーーーーッ!!」

 

「ピカチュウ、ボルテッカー!」

 

「ピッカァ! ピカピカ――」

 

 ゾロアからフルパワーの闇の力が放とうとするのと同時に、ピカチュウはダッシュ。強烈な電撃を纏いながら加速していく。

 

「――ボクの敗けだ」

 

「……えっ?」

 

「ゾロ?」

 

「……ピカ?」

 

 しかし、突然Nが敗けを宣言。抜けた声と共に、ゾロアとピカチュウの技の発動が止まる。

 

「ボクの敗けです。なので、降参します」

 

「え、えぇ!?」

 

 Nがジョージに降参を告げる。突然の事態にジョージも驚きを隠せないが、本人がそう告げた以上はそれを認めない訳にも行かない。

 

「では……。本人が敗けを宣言したため、この勝負、サトシくんの勝利!」

 

 こうして、サトシとNの初バトルは呆気ない幕引きとなったのであった。

 

「えと、これで……終わり?」

 

「ここで降参……? どうして……?」

 

「……」

 

 突然の終了に、アイリスもシューティーも戸惑っているが、デントは何かを考えている様子だった。

 

「あ、あの、Nさん? どうして――」

 

「話はポケモンセンターでしよう。疲れてるしね」

 

「……そうします」

 

 Nの提案に、サトシはモヤモヤしながらも頷いていた。

 

(もしかして……気付いた?)

 

 しかし、直後にサトシはNが降参したのは、ボルテッカーの反動を避けるためではないかと、彼の後ろ姿を見ながらそう思っていた。

 

「キミはどうだい?」

 

「えと……じゃあ、僕も一緒します」

 

 途中、Nはシューティーに来ないかと誘う。気になる事もあるし、ポケモン達を回復させたいのでシューティーは賛同。

 彼等はこの町のポケモンセンターへと向かった。

 

 

 

 

 

「はーい。お預かりの皆さん、元気になりましたよー」

 

「タブンネ~」

 

 ポケモンセンター。安心して良いのか若干、気になるタブンネの声を聞きながら、サトシ達はポケモンやモンスターボールを受け取る。

 そして、ロビーの一ヶ所で五人は腰掛けると、シューティーは話を切り出した。

 

「あの、Nさんはどうして降参を……?」

 

「どうしてだと思う?」

 

 そう言われても、シューティーにはさっぱりだった。

 

「あの、もしかして、ピカチュウの為に?」

 

「どういうこと?」

 

「最後に使おうとした技、ボルテッカーは反動が有るんだ。だから、Nさんはそれを避けるために……」

 

 説明の後、デントはやはりと呟き、アイリスとシューティーがNを見る。青年はニコリと笑っていた。正解の様だ。ゾロアもふふんと笑みを浮かべている。

 

「ただ、敗けたと思ったのは本当だよ」

 

 Nはあの時、ボルテッカーが非常に強力な技だと理解していた。ぶつかり合った場合、ナイトバーストは突破され、ゾロアは倒されていただろう。

 なので、ゾロアが倒れていないだけで、サトシ達の勝利は変わらない。

 

「全力で戦うのは良いけど、程々にね」

 

「すみません……」

 

「ピカピカ……」

 

 サトシとピカチュウは、Nに深々と頭を下げた。

 

「も~、サトシったら、子供ね~。ちょっとは抑えることぐらいしなさいよ」

 

「君の良いところだけど、悪いところでもあるね」

 

「う~」

 

 今回ばかりは反論出来ないので、唸ることしかできないサトシだった。

 

「大体、ただの試合でしょ? そこまでしてやる必要はないじゃない。ほんと、子供ね~」

 

「どうかな、全力で尽くすというのは基本中の基本だよ。ただの試合だからと言って、抑えたら上は目指せない」

 

 そこでシューティーがサトシの擁護に入る。確かに無茶はしたが、全力で戦うというのは必要だと語る。

 

「一理あるね。それに、さっきの技はサトシくんの独断じゃなく、ピカチュウの希望もあった」

 

 サトシやピカチュウの性格を考えると、ボルテッカーを使おうとしても無理はない。絶好調という理由もあるが。

 

「でも、意志の尊重も確かに大切だけど、それも程々にね」

 

「頑張ります……」

 

 時には、戒める事も必要。Nにそう言われ、サトシは頷いた。

 

「それと、ありがとうございました」

 

「ピカピカ」

 

「どういたしまして」

 

 止めたおかげで、ピカチュウへの負担が無くなったのだ。その事に関してサトシとピカチュウはNに礼を述べる。

 

「……ところで、Nさんは何者なんですか?」

 

 バトルの件が一段落し、シューティーがNに質問する。

 

「今は……新人トレーナーって事になるのかな?」

 

「し、新人!?」

 

「いや、それはちょっと、有り得ないかと……」

 

 何処の世界に、リーグ経験者と互角に渡り合える新人が存在するのだ。幾らなんでも、無理が有りすぎる。

 

「だけど、ボクは本当に新人なんだ。トレーナーを始めたのも最近だしね」

 

 信じがたい話だが、Nの瞳には真っ直ぐな光しかなく、シューティーもそれが事実なのだと受け入れるしかなかった。

 

「それまでは何を?」

 

「旅だよ。ゾロアと一緒にイッシュの色んな所を回って、色々なトモダチ――ポケモンと触れ合ってた」

 

「成る程、貴方の強さはその経験を活かして……」

 

 多くの交流で得た経験を活かし、ポケモンの力を引き出す。それがNの強さなのだ。

 シューティーも、Nがただの新人ではないと知り、少しホッと安心したようである。

 

「ポカブと一緒にいる事になった経緯は?」

 

「ボクがアララギ研究所でアララギ博士と話したのが切欠で、ポカブといることになったんだ」

 

 Nは思い出す。彼女との話をし、ポカブとの出会いとなったあの日の事を。

 


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