ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

16 / 66
サトシ対シューティー、後編

「ここだな、約束の場所は」

 

「えぇ、時間にはなってないけど」

 

「ここで新しい仲間との顔合わせになってるはずにゃ」

 

 サトシとシューティーがバトルしているその頃、カレントタウンのゴミ留置場でロケット団が待ち人を待っていた。

 

「しっ、誰か来るぞ」

 

 足音と共に、整った顔立ちに海藻のような髪型をし、片手に鞄を持ったた青年がロケット団の前に出てきた。前にサカキから送られたデータで見た人物だ。

 

「少し寒いな」

 

「えぇ、そうね」

 

「こんな日はカプチーノを飲みたいものだ」

 

「直ぐに飲みたい気分か?」

 

「――あぁ、ロケットのようにな」

 

 その言葉に、ロケット団は目の前の人物がエージェントその人だと確信する。

 

「名前は?」

 

「フリント」

 

「よく覚えたにゃ」

 

「これは次の任務に備えての道具だ。受け取れ」

 

 フリントから道具を受け取り、ロケット団は助かると礼を言う。

 

「今日は顔合わせだ。そろそろ、失礼するとしよう」

 

「素っ気ないわね。お茶ぐらいしない?」

 

「極秘任務にもかかわらず、見す見す自分達の身分を明かして指名手配されているお前達といては、私までなってしまうのでな」

 

「……にゃー達、指名手配なのかにゃ?」

 

「……馬鹿なのか、お前達は」

 

 警察の前で自分達がロケット団と明かしたのだ。指名手配ぐらいされて当然である。

 

「最近、謎の組織からの襲撃はないか?」

 

「全く。無駄だと諦めたんじゃないか?」

 

「ふむ……」

 

 それなりの人数で襲撃したにもかかわらず、その後は一切なし。幾らなんでも不自然だ。

 

(……何か準備していると見るべきか?)

 

 先の一件で取り逃がしたため、今度は自分達を確実に捕らえようと準備しているのかもしれない。これなら辻褄は合う。

 

「そうか。だが、油断はするなよ」

 

「分かってるわ」

 

 先の一件でも、危うく捕らわれそうになったのだ。油断はしないつもりである。

 

「では、さらばだ」

 

 フリントは釘を刺すと、その場を去って行った。

 

「じゃあ、俺達も行くか」

 

「勿論にゃ。全てはロケット団の栄光のため」

 

 ロケット団も決意を固めると、その場を後にした。

 

「――くっ、もういないわね……!」

 

 その数分後、鳴り響くサイレン音と共に複数のパトカーが廃棄所に到着。ジュンサーや彼女の仲間達が出てくるも、狙いの相手がいないことに表情を苦くする。

 

「既にロケット団は去った後……」

 

 ジュンサー達はロケット団を逮捕しに来たのだが、ある理由でここに到着するのが遅れたのだ。

 

「やはり、先程の報告はロケット団のものだったのですね……」

 

「そうと見て、間違いないでしょう」

 

 実は三十分前に、報告が有ったのだ。指名手配されたロケット団らしき者達を、ある場所で見たと。

 しかし、それはここではなく、正反対かつ見晴らしのいい場所だった。

 最初は敢えてそういう場所にしたのかと思いきや、実際はこちらを欺く嘘だったのを次の報告で知ることとなった。

 

「どうしますか?」

 

「追跡はしましょう」

 

「分かりました」

 

 見逃したからと言って、ここで犯罪者を追わないのは警察の名が廃る。ジュンサー達はそれぞれの方向に別れてロケット団を探しに動く。

 しかし、彼女達は知らない。最初の報告も、その次の報告も、撹乱の為にロケット団がしたことではないことを。

 

「――新しい者がいたな」

 

「報告にあった、新しいエージェントととやらだろう」

 

「あの者の追跡も行えとの命令だ。ここからは二手に別れよう」

 

「失敗はするなよ」

 

「勿論」

 

 ジュンサー達が去ったのを確認し、三人の人物がゴミ留置場の物陰から姿を表す。

 警察への先と次の報告は、ロケット団の動きをより知るためや、万一確保されるのを避けるため、彼等が命令を受けてしたことだった。

 

「ところで、王は?」

 

「まだ不明だ。最も気にすべきことではあるが――」

 

「今の我等の最重要案件は奴等の監視。行くぞ」

 

 王を気にしていない訳ではない。しかし、それは他に役目。三人は己のやるべきことを強く再認識すると互いを見て頷き、二手に別れて素早く動いた。

 

 

 

 

 

「これがバトルクラブ、か」

 

 バトルクラブの前に一人の人物と、二匹のポケモンが立ち寄る。彼は二匹のポケモンと共にゆっくりと中に入る。

 

「バトルの事なら何でもお任せ! バトルクラブへようこそ! 誰と戦いますか?」

 

 ドン・ジョージが今サトシとシューティーのバトルの審判をしているため、他の職員が対応に当たっていた。

 

「あっ、いえ、ボクはバトルをしに来たわけではなく、観戦をしに来たのですが……駄目ですか?」

 

「観戦。試合の合間にではなく、観戦を目的に?」

 

「はい」

 

「わかりました。構いませんよ」

 

 珍しいと思う職員だが、バトルもせずに観戦だけをするのは駄目だと言う規則はない。職員はどうぞと許可を出した。

 

「それに今、バトルが行われてますよ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 職員に案内され、バトルフィールドがある部屋に入る。

 

「……あれ? デントくんとアイリスくん?」

 

「――Nさん!?」

 

「ど、どうしてここに……」

 

 観戦するアイリスとデントの後ろ姿に、二人に呼び掛けるN。突然のNの登場にデントは驚き、アイリスは少し苦手そうな表情で距離を取っている。

 

「おや、君達は知り合いかい?」

 

「ま、まぁ……」

 

「キミ達がここにいるということは、もしかしてバトルをしているのは……」

 

「はい、Nさんの思ってる通りです」

 

 Nが左右を見る。左側に予想した通りの人物、サトシがいた。出ているのは、ミジュマルだ。

 

「結果は?」

 

「サトシが五匹のまま二匹倒して、有利ですね」

 

「やるね」

 

 ピカチュウとの強い絆だけでなく、腕前もかなりの様だ。

 

「カブ。……カブ?」

 

 サトシ、次に対戦相手のトレーナーを見たポカブは目を見開く。

 

「どうしたんだい、ポカブ?」

 

「カブカブ」

 

「そう。対戦相手の彼が、自分やサトシくんといるミジュマルと同期のツタージャを選んだトレーナー」

 

「カブ」

 

「……本当に、ポケモンの声が聴こえるんだ」

 

「みたいだね」

 

 ポカブの言葉を直接理解しているような言動に、アイリスもデントもNがポケモンと話せる力を持っているのだと感じる。

 

「今はヒトモシとミジュマルか。あのヒトモシ、炎の力が高まってる。もらいびだね」

 

「えぇ、そうです」

 

 確かにその通りだが、来て間もないNがそれを理解している。かなりの洞察力と知識だ。

 

「相性を活かしてか勝つか、特性の力を活かして勝つか。見物だよ」

 

「僕もそう思ってます」

 

 三人が見る先に、水と炎がもうすぐぶつかり合うだろう戦場が映る。

 

「ヒトモシ、かえんほうしゃ!」

 

「モシーーーッ!」

 

 灯火から、炎の波が発射される。それはもらいびで高まっており、サンヨウジムのポッドとバオップの炎に迫る威力を持っていた。

 

「ミジュマル、ソーラービームの時を思い出せ! シェルブレード!」

 

「ミジュ!」

 

 ホタチから、圧縮されて細身の剣のようになった水刃が展開される。ミジュマルはそれを構え、迫る炎に向けて振るう。

 炎は水刃に裂かれて左右に別れ、ミジュマルには火の粉すら届いていない。

 

「何て鋭い刃だ……!」

 

 属性有利とは言え、強化されたかえんほうしゃを見事に両断した。

 あれを受ければ、炎タイプのヒトモシはかなりのダメージを受けるだろう。下手すると、一撃で戦闘不能になるかもしれない。

 

「良い刃だ。あれは彼のセンスかな?」

 

「ミジュマルはホタチで斬るポケモンです。刃のセンスは元から高いのかもしれません」

 

「確かに」

 

 その進化系のフタチマル、最終進化のダイケンキも刃で斬るポケモン。ミジュマルの頃から上手くても不思議ではない。

 

「前に、ソーラービーム斬っちゃった事もあるもんね」

 

「キバキバ」

 

「それは凄い……」

 

 相性不利な技かつ、高威力の技を両断した。それもセンス故だろうか。

 

「その事も含めると……ミジュマルは、剣士として戦う方が適正なのかもしれない」

 

「なら、ミジュマルって将来は剣士になったりするのかしら? ……似合わないと思ったあたしって変?」

 

「キバ~……キバ」

 

「カブ~……」

 

「あはは……」

 

 あのお調子者のミジュマルが、剣士になる。アイリスもだが、正直なところ、デントや同期のポカブもイメージ出来なかった。

 

「まぁ、それは彼とサトシくん次第だよ。観戦に集中しよう」

 

 話に集中していては、彼等のバトルの肝心な場所を見逃してしまう。アイリスもデントも賛同していた。

 

「かえんほうしゃは斬られるか……。なら、ほのおのうず!」

 

「モシーーーッ!」

 

 一直線ではなく、周囲に円型にかつ、持続的に放つほのおのうずなら、斬撃では対処仕切れない。

 シューティーはそう判断し、指示。炎が円形に連続して放たれる。

 

「ミジュマル、下がりながらみずてっぽう!」

 

「ミジューーーッ!」

 

 ミジュマルは後退しながら、みずてっぽうを放つ。普通ならば有利な水が炎を消火、ヒトモシにダメージを与えるが、強化された炎は逆に水を蒸発していた。

 

「みずてっぽうじゃ、無理か……」

 

 たいあたりは効果なし。アクアジェットは何処に行くか予測不可能。となると、シェルブレードだけだが、ほのおのうずで対処されてしまう。

 

「ヒトモシ、シャドーボール!」

 

「モシ!」

 

 ミジュマルとの距離が離れ、シューティーは遠距離攻撃を指示。ヒトモシは再び黒い球を放つ。

 

「ミジュマル、かわせ!」

 

「ミジュ!」

 

 離れていた事もあり、ミジュマルはシャドーボールを軽々かわす。

 

「シャドーボール、連射だ!」

 

「モシモシモシモシ!」

 

「回避に集中!」

 

「ミジュゥ!」

 

 何度も放たれる黒球の嵐を、ミジュマルは避けていく。

 

「膠着状態だね」

 

「えぇ、どちらも攻めきれてません」

 

 ヒトモシの遠距離は届かない。かといって、ミジュマルも接近は出来ない。ここからどう攻め、打開するか。トレーナーの腕の見せ所だろう。

 

「――ミジュマル、シェルブレードで弾きながら接近しろ!」

 

「ミジュ!」

 

「ヒトモシ、連射を続けろ!」

 

「モシモシーーーッ!」

 

 大量の霊弾を、ミジュマルは水刃で弾き、両断してながら接近していく。

 

「ほのおのうず!」

 

「トモーーーッ!」

 

 技の射程範囲に入った。ヒトモシは周囲に渦巻く炎を撒き散らしていく。炎はそのまま、ミジュマルを焼こうと迫る。

 

「ミジュマル、地面にみずてっぽう! 高く跳躍しろ!」

 

「ミジューーーッ!」

 

 炎が触れる三歩先程で、ミジュマルはみずてっぽうを地面に放ち、その反動で跳躍。炎を超える。

 

「なっ……!?」

 

「シェルブレード!」

 

「シャドーボール!」

 

「モシーーーッ!」

 

「ミジュゥ!」

 

 シャドーボールとシェルブレードが激突するも、結果はシャドーボールが両断される。ミジュマルはそのままシェルブレードを叩き込む。

 

「ミジュー……マァ!」

 

「モシーーーッ!」

 

「ヒトモシ!」

 

 効果抜群の水刃を受け、ヒトモシは吹き飛ぶ。シャドーボールで威力は多少減衰してはいるが、かなりのダメージだ。

 

「ミジュマル、みずてっぽう!」

 

「ヒトモシ、かえんほうしゃだ!」

 

「ミジュ!」

 

「モシィ!」

 

 水、次に一歩遅れて炎が放たれ、激突する。しかし、強化された炎は水を次々と蒸発。霧を作り出しながらミジュマルに迫る。

 

「よし、行ける!」

 

「――ミジュマル、アクアジェット! 一瞬だけ斜め前に飛べ!」

 

「ミジュマァ!」

 

 このまま力で押し切る。そう思ったシューティーだが、サトシが次の指示、アクアジェットの使用を命じる。

 しかし、ミジュマルはまだアクアジェットを完成させていない上に制御出来ていない。このままでは暴走してやられるだけ。

 ならば、どう動くかを自分が先に指示すれば良い。未完成でも、それなりの速さは有るのだから。

 それなりの水を纏うと、ミジュマルは一瞬だけ斜め前に飛んでヒトモシとの距離を詰め、直ぐにアクアジェットを解除する。

 

「ヒトモシ、全力のかえんほうしゃでミジュマルを薙ぐんだ!」

 

「ミジュマル、炎ごとヒトモシを切り裂け! シェルブレード!」

 

「トモシーーーーーッ!!」

 

「ミジュー……マアァアアァァッ!!」

 

 一閃。直後、ヒトモシとその背後に炎に多少焼かれたミジュマルが着地。ダメージでぐらっと体勢は崩すも、まだ倒れてはない。一方で、ヒトモシはごろんと横に倒れた。

 

「モシ~……」

 

「ヒトモシ、戦闘不能! ミジュマルの勝ち!」

 

「くっ……! 戻るんだ、ヒトモシ」

 

 苦い表情を浮かべ、シューティーはヒトモシをモンスターボールに戻す。

 

「またまた、勝っちゃった……」

 

「さっきのアクアジェットの指示は見事だったと言わざるを得ないね。ミジュマルが制御出来ないのなら、サトシが動きを指示してしまえば良い」

 

 シンプルで制御は限定的だが、効果はある。ポケモンの欠点を、トレーナーが見事にカバーしていた。

 ミジュマルの話を聞き、Nもこれにはデント同様に見事と賞賛していた。

 

「これで、シューティーは残り二匹」

 

「一方で、サトシはダメージは受けてるけど、一体も倒れてない。更に無傷のポケモンが二匹もいる。圧倒的に有利だね」

 

「シューティーくんだったね。彼はここからどうするのかな?」

 

 然り気無い言葉でもあり、意味が二重にあることは、ゾロアやポカブしか分かっていない。

 

「……ふー」

 

 ヒトモシのモンスターボールを仕舞うと、シューティーは軽く溜め息を吐いた。

 

(……ここまで差があるとはね)

 

 リーグ優勝者と、新人。ある程度予想はしていた結果とは言え、ここまで一方的だと、やはりショックは隠せない。

 しかも、今まで出たポケモンの能力はこっちが勝っているのが、ショックの強さを高めてた。

 

(だけど、向こうも決して無傷じゃない)

 

 マメパトもポカブもミジュマルも、ダメージは確かに有るのだ。其処を上手く活かせば、一体だけでも倒せるはず。

 

(……まぁ、ピカチュウやまだ出してない一匹を出されたら、活かせないんだけどね)

 

 なので、これは都合の良い考えだとは理解している。それでも思ってしまうのは、新人故の願望か、無謀さか。

 しかし、どちらにせよ、自分は最後まで戦うと決めている。シューティーは四つ目のポケモンを繰り出す。

 

「行け、ジャノビー!」

 

「――ジャノー!」

 

 出てきたのは、自信に満ちた眼差しをしたジャノビーだ。

 

「ジャノビー……。進化したんだな」

 

「ピカ……」

 

「正解」

 

 シューティーが選び、ピカチュウと試合したあのツタージャが進化したのだと、サトシは直ぐに理解した。

 

「あのジャノビーが、ミジュマルやポカブと一緒にいたツタージャ?」

 

「カブ」

 

「みたいだね」

 

 アイリスの疑問に、Nといるポカブは頷く。ミジュマルもいるし、久々に三匹で話したいが今は試合中。グッと我慢する。

 

「シューティーは、あのジャノビーでコーンに勝った。能力は中々の物だよ」

 

「ミジュマル対ジャノビー。相性や能力では不利だけど……さぁ、どうするかな。サトシくん?」

 

 何処か楽しそうに、Nは呟いた。

 

「……ジャノ?」

 

「ミジュジュ~」

 

 自分を見て驚くジャノビーに、ミジュマルはよっ、久しぶりと返す。

 

「君といたミジュマルだよ。サトシの手持ちになったんだ」

 

「ジャノー」

 

 なるほどとジャノビーは頷いた。しかし、相手はミジュマルだが、またサトシと戦えるとは思わなかった。

 

「ジャノビー、現在僕は残り二匹。あっちはダメージは有るけど、一匹も欠けてない。無傷の手持ちも二匹いる。厳しい状況だけど……行けるかい?」

 

「ジャノ!」

 

 勿論とジャノビーは頷く。何なら、自分が今から全部倒してやると自信満々に告げていた。

 

「ジャノビー、グラスミキサー!」

 

「ジャノー……!」

 

 ジャノビーは尻尾を立てる体勢を取り、回転。尾から木の葉を伴った渦を作り上げる。

 充分な威力になると、ジャノビーは渦をミジュマルに向けて発射する。

 

「ビーーーッ!」

 

「ミジュマル、アクアジェット! 斜め右だ!」

 

「ミジュ!」

 

 ミジュマルは水を纏い、指示通りに斜め右に動いて木の葉の渦をかわすと、そこでアクアジェットを解除する。

 

「速い……! ジャノビー、いあいぎり!」

 

「ミジュマル、シェルブレード!」

 

「ジャノ!」

 

「ミジュ!」

 

 ジャノビーが片手を手刀にし、力を込めると白く輝く。ミジュマルはホタチを構えると、水の圧縮された刃がまた展開される。

 

「ミジュ!」

 

「ジャノ!」

 

 二匹は水刃と手刀をぶつけ合う。純粋な破壊力は進化系のジャノビーの方が上だが、ミジュマルは圧縮で刃の威力を高めているため、互角に渡り合っていた。

 

「互角か……!」

 

「みたいだな! だけど、良いのか? シェルブレードと打ち合ってて!」

 

「何を――しまった!」

 

 サトシの言葉に、疑問符を浮かべたシューティーだが、直後に気付いた。シェルブレードは攻撃を当てた相手の防御を下げる効果がある。

 こうしてぶつかり合っているだけでも、ジャノビーの防御力は低下しまう。実際に、ジャノビーの防御力はかなり下がっていた。

 

「ジャノビー、後退! エナジーボールだ!」

 

「ジャノォ!」

 

「切り裂け!」

 

「ミジュ!」

 

 ジャノビーがいあいぎりを解除し、両手を構えるとその中心に草のエネルギーが集まった球が出現。

 発射するも、ミジュマルの水刃が相性不利にもかかわらず、エネルギー球を両断する。

 

「相性不利お構い無しかい、それは!?」

 

「ジャノジャノ!?」

 

 さっき、かえんほうしゃが相性差を覆したが、あれはもらいびが発動していた、みずてっぽうという威力の低い技だからだ。

 今回は威力がほぼ互角、ポケモンの能力や有利があるのに、そんなの関係あるかと言わんばかりに両断した。その光景にシューティーもジャノビーも驚く。

 

「前に、げきりゅうが発動していたのもあるけど、デントのヤナップのソーラービーム斬っちゃったし……」

 

「ミ~ジュ」

 

「め、滅茶苦茶だ……」

 

「ジャノ~……」

 

 草タイプ、最高クラスの技を両断したことを、ミジュマルは腕を組んでえっへんとドヤ顔を浮かべ、シューティーとジャノビーは思わず引いてしまう。

 

「……全く、君達はとんでもないね」

 

 素質があるとは言え、そんなことを可能にするミジュマルや、それを指示するサトシに、シューティーは苦笑いを浮かべる。

 

「そうかな? 凄いのはミジュマルだよ」

 

「ミジュ~」

 

 自分が凄いとは思わず、ミジュマルを褒める。多くの旅を経験したからこその発言が滲み出ていた。

 

「それが君という事か。――ジャノビー、エナジーボール連射!」

 

「ジャノジャノジャノーーッ!」

 

「ミジュマル、斬りながら距離を詰めろ!」

 

「ミジュミジューーッ!」

 

 草のエネルギー弾の嵐を、ミジュマルは水刃でひたすら斬っていく。そんな中、シューティーは目を細めてある動作に集中する。

 

「ミジュマル、シェルブレード!」

 

「――今だ、ジャノビー! ミジュマルの左側からいあいぎり!」

 

「ジャノー!」

 

「――ミジュ!?」

 

 ミジュマルが振りかぶった瞬間。そこを狙い、利き腕とは反対の左側からジャノビーはいあいぎりを放ち、斬りつける。

 

「たたきつける!」

 

「シェルブレード!」

 

「ジャノォ!」

 

「ミジュゥ!」

 

 ダメージで怯んだ間を狙い、ジャノビーは軽く跳躍しながら全身をしなやかに使った尾の叩き付けを放つ。ミジュマルも身体を動かし、直ぐに水刃を振るう。

 二つの技がぶつかり合い、ミジュマルが軽く吹き飛ぶ。無理な体勢のシェルブレードと、全身の力を使った、たたきつける。威力は後者の方があったのだ。

 

「ミジュマル、ジャノビーの下に向かってみずてっぽう!」

 

「ミジューーーッ!」

 

「――ジャノー!?」

 

 しかし、サトシとミジュマルがこのままでいるつもりがあるわけもなく、ミジュマルは素早く水をジャノビーの着地箇所に放つ。

 水溜まりが出来たその場所にジャノビーが踏み、強く滑って転ぶ。

 

「ジャノー目掛けて、真っ直ぐにアクアジェット!」

 

「ミジュ!」

 

「ジャノビー、いあいぎり!」

 

「ジャ――ノーーーッ!」

 

 アクアジェットが迫る。ジャノビーはいあいぎりで反撃しようとするも、体勢が崩れた状態ではまともな威力が発揮されず、今度はこちらが吹き飛ぶ。

 ダメージも技が未完成で効果も今一つもあって、防御力が低下した状態でも、あまりない。

 

「更にシェルブレード!」

 

「いあいぎり!」

 

「ミジュミジュ~!」

 

「ジャノー!」

 

 再び、二つの刃が衝突しようとする。シューティーはまた、利き腕とは逆方向からの攻撃を狙う。

 

「ジャノビー、また左からいあいぎり――」

 

「ミジュマル、左に向かってたいあたり!」

 

「ミジュ!」

 

「ジャノーーーッ!」

 

 手刀の力の刃で斬ろうとしたジャノビーだが、その前に単純故に予備動作が少ない、たいあたりが身体に命中。カウンターで吹き飛ぶ。

 

「更にみずてっぽう!」

 

「ミジューマーーーッ!」

 

「ジャーーーッ!」

 

 追撃のみずてっぽう。体勢が崩れたジャノビーはなす術もなく食らい、更に転がされる。

 

「二度も同じ手は食らわないさ!」

 

「くっ……!」

 

 さっき通用したからと、また同じパターンで攻めたが、完全に失敗だった。もっと工夫すべきだったのだ。

 

「ジャノビー、大丈夫か?」

 

「――ジャノ!」

 

 ジャノビーは立ち上がり、痛みを払うようにぶんぶんと顔を左右に振るうと、鋭い視線をミジュマルに向ける。

 

「ミジュ」

 

 ミジュマルもまた、ジャノビーに同じ瞳を向けていた。

 同じアララギ研究所にいたポケモンとして、お互いに対抗心を抱いていたのだ。

 

「ジャノビー、いあいぎり!」

 

「ミジュマル、シェルブレード!」

 

「ジャノ!」

 

「ミジュ!」

 

 いあいぎりとシェルブレードを発動し、距離を詰める二匹。このまま再び、刃同士をぶつけ合う――と思いきや。

 

「ジャノビー、いあいぎりを解除して、たたきつける!」

 

「ジャ――ノォ!」

 

「ミジュ!?」

 

 シェルブレードの間合いの二歩前で、ジャノビーはいあいぎりから、走った勢いを利用したたたきつけるに切り替える。

 

「――ミジュマル、ホタチをジャノビー目掛けて投げろ!」

 

「――何!?」

 

「……ミジュ!」

 

 自分の攻防一体の武器、ホタチを投げるというサトシの指示だが、ミジュマルは一瞬で迷いを払ってホタチを投擲。

 ホタチはジャノビーの身体に当たり、姿勢を崩してたたきつけるを外させる。

 

「たいあたり!」

 

「ミジュマ!」

 

「ジャノ!」

 

 攻撃が外れ、隙だらけの身体に、再びミジュマルのたいあたりが直撃。ジャノビーは宙に浮かんで吹っ飛ぶも、空中で姿勢を素早く立て直して着地に備える。

 

「ミジュマル、着地地点にみずてっぽう!」

 

「ジャノビー、その場所にエナジーボール!」

 

「ミジュ!」

 

「ジャノ!」

 

 水溜まりを作り、足を滑らせようとするサトシだが、シューティーも二度は食らわない。

 水溜まりに向けて、ジャノビーはエナジーボールを発射。水と土を吹き飛ばし、その直後にその煙の中に着地する。

 

「グラスミキサー!」

 

「アクアジェット! ジャノビー目掛けて突っ込め!」

 

 くるくる周り、木の葉の渦を作り出していくジャノビーだが、距離が近いこともあり、その前にアクアジェットを受けて体勢が崩れた。しかし、踏ん張ると渦を完成させる。

 

「叩き込め!」

 

「ミジュマル、右にかわせ!」

 

「ジャノォ!」

 

「ミジュウ!」

 

 木の葉の渦が叩き込まれる。しかし、そこにミジュマルはいない。既に移動していた。

 

「まだだ、ジャノビー! エナジーボール!」

 

「ミジュマル、上昇!」

 

 迫るエネルギー弾を、ミジュマルはサトシの指示に従って上昇して避ける。

 

「ミジュマル、斜め右に少しずつ下がれ! ――そこで解除、ホタチを回収!」

 

「――ミジュ!」

 

 ミジュマルはアクアジェットを解除、近くにあるホタチを手に取る。

 

「もう一度アクアジェット!」

 

「ジャノビー、エナジーボール! 連射だ!」

 

「ミジュマル、右、左、斜め右、上、斜め左下!」

 

 素早く距離を詰めようとしたサトシとミジュマルだが、そこに無数のエナジーボールが迫る。ミジュマルは迷いなくサトシの命令通り動き、ジャノビーの間合い手前まで接近する。

 

「たたきつける!」

 

「ミジュマル、そこで停止! みずてっぽう!」

 

「ミジュ!」

 

「ジャノ!」

 

 効果今一つ水に、大したダメージは受けないものの、ジャノビーは怯んで倒れる。

 

「シェルブレード!」

 

「いあいぎり!」

 

「ミー……ジュマーーーッ!」

 

「ジャノ……ビーーッ!」

 

「ジャノビー!」

 

 ミジュマルの水の刃とジャノビーの力の刃が激突するも、まともな体勢では技は発揮されず、ジャノビーは吹き飛ぶ。

 

「よし、後少しだぞ、ミジュマル!」

 

「ミジュ!」

 

「ジャノビー、まだ行けるか?」

 

「ジャノ……!」

 

 何とか立ち上がるが様子から見ても、ジャノビーの体力が残り少ないのが伺える。

 

「ジャー……」

 

「ん? あれは……」

 

 緑色の光が、ジャノビーの身体から溢れ出した。

 

「ノーーーーーッ!!」

 

 ジャノビーの雄叫びと共に、その光は大量に放出され、力の余波が空気をピリピリと張り詰めさせる。

 

「しんりょくだね」

 

「えぇ、もうかやげきりゅうと同じく、体力が残り少ない時に発動し、草の力を高める特性」

 

「今はミジュマルの方が有利だけど……」

 

 しんりょくで強化された技を受ければ、相性不利なミジュマルは一気に戦闘不能に陥るだろう。シューティーにとって、これは逆転のチャンスだ。

 

「一気に迫る! ジャノビー、エナジーボール!」

 

「ジャノ……ビーーーッ!」

 

 先までよりも二回りは大きく、更に速さも増した草のエネルギー弾が発射、うねりを上げながらミジュマルに迫る。

 

「シェルブレード!」

 

「ミジュ!」

 

 水刃で斬りかかるミジュマルだが、今度はせめぎ合っていった。エナジーボールの威力が増し、簡単には斬れない。

 

「ジュー……マァ!」

 

 数秒の激突の後、両断はしたが、視界の向こうではジャノビーが尾を回転させていた。グラスミキサーだ。

 グラスミキサーもしんりょくの効果を受け、それなりの規模の竜巻と化していた。威力がかなり高まっている証拠だ。

 

「これで決める! グラスミキサー!」

 

「ジャノォ……ビーーーーーッ!!」

 

 木の葉の竜巻が前に真っ直ぐに放たれる。それは範囲だけでなく速度もあり、回避は間に合わなかった。ならば、指示すべきは一つ。

 

「ミジュマル、アクアジェット! 渦の中央に真っ直ぐ飛び込め!」

 

「――ミジュ!」

 

 自ら危険に飛び込む指示。しかし、このままではただ受けて負けるだけ。ならば、サトシの指示を信じて動くまでだ。

 ミジュマルは自分では制御不能のアクアジェットを使い、高速で渦の中へと飛び込んだ。

 

「――よし!」

 

「ジャノ!」

 

 その光景に、シューティーとジャノビーはミジュマルの撃破を確信する。

 

「ミジュジュ……!」

 

 しかし、ミジュマルはまだ倒れていなかった。ツタージャ戦でピカチュウがリーフストームの中心を進んで突破した時と同じ様に、ミジュマルもまたグラスミキサーの中を進んでいた。

 だが、あの時もピカチュウはダメージを負いながら進んでいた。

 今回のミジュマルもまた、アクアジェットの水が少しは守っているとは言え、ダメージを受けながら突き進む。

 すると、途中で自分の『力』が大きく増したのを実感した。それが直ぐに何なのか、ミジュマルは理解していた。

 

「――シェルブレード! 嵐を十字に切り裂け!」

 

 嵐の尖端に進んだのを、嵐の勢いに堪えながらしっかりと見つめていたサトシは、その指示を出す。

 

「……えっ?」

 

「……ジャノ?」

 

「ミジュ……マァ!」

 

 ミジュマルは戦闘不能になったはず。そう思っていたシューティーとジャノビーだが、次の瞬間、目の前の嵐の部分が十字に引き裂かれた。

 その部分の嵐は霧散。中からはボロボロながらも、身体から水色のオーラ――特性、げきりゅうを発動し、威力が大幅に増した刃を構えるミジュマルが姿を表す。

 そう、サトシはただ突破するだけでなく、勝つために特性の発動も狙っていたのだ。

 

「止めだ! シェルブレード!」

 

「ミジュー……マァアァアアァ!」

 

 ミジュマルが水刃を振るう。ジャノビーは頭ではかわそうとしたが、身体が目の前の現実に追い付かず、なす術もなく受けた。

 

「――ミジュ」

 

「ジャ……ノ……」

 

 ミジュマルがホタチを振り、水の刃を消して腹に付けてポンポンとする。同時にジャノビーの身体がぐらつき、地面に倒れた。目を回して。

 

「ジャノビー、戦闘不能! ミジュマルの勝ち!」

 

「ミージュジュ!」

 

 どんなもんだい!と、ミジュマルは胸を張る。しかし、直後に身体がふらついた。

 ダメージが大きいのだ。連戦に、苦手なタイプの進化系。それでもここまで頑張った。結果としては上出来過ぎるだろう。

 

「戻れ、ミジュマル」

 

「……戻れ、ジャノビー」

 

 サトシとシューティーはほぼ同時に、ポケモンをモンスターボールに戻した。

 

「これでサトシの四勝……」

 

 ミジュマルは戦闘不能寸前だが、まだ倒れてはいない。実質、敗けなしのままだった。

 

「後は一体」

 

「……ですが、ほぼ決まったも同然ですね」

 

 シューティーは後一体。対してサトシは、一体は戦闘不能寸前だが、まだ五匹のままだ。余程が無い限り、ここから覆すのは不可能に等しい。

 

「サトシ」

 

「何だ、シューティー?」

 

「このバトルで、改めて実感出来たよ。君の強さが」

 

「どうも。けど、俺だけの強さじゃない。皆の頑張りもあっての強さだ」

 

 リーグ経験者の強さ。それを徹底的に体験させられたシューティーだが、サトシはそれだけじゃないと語る。ポケモン達が頑張るからこそ、この強さがあるのだと。

 

「ポケモンと一体となった強さ、か。よく実感したよ」

 

 シューティーは五つ目のモンスターボールを取り出す。中には、このバトルで最後の一匹になるポケモンが入っている。

 

「行くよ、サトシ」

 

「来い、シューティー!」

 

「行け、バニプッチ!」

 

「マメパト、また頼む!」

 

「――プッチ」

 

「ポーーーッ!」

 

 同時に二匹のポケモンが出現する。サトシ側からは、プルリル戦で引っ込ませたマメパト。シューティーは、まるでアイスに顔が付いた様なポケモンだ。

 

『バニプッチ。新雪ポケモン。マイナス50度の息を吐く。雪の結集を作って辺りに雪を降らせる。寝る時は身体を雪に埋めて眠る』

「氷タイプか」

 

「そう。タイプは氷のみ」

 

 飛行と氷。属性だけを考えると、こちらが不利だ。

 

「こ、氷タイプ……」

 

「アイリス?」

 

「あたし、氷タイプが苦手で……」

 

 自身の目標から、アイリスは氷タイプが苦手だった。髪型も何故か変わっている。

 

「そういうのは良くないよ」

 

「わ、分かってはいるんですけど……」

 

 Nの注意に、アイリスもこれが自分の偏見だとは理解しているつもりだが、中々治らない物だったりする。

 

「飛行対氷。相性はこちらが有利だけど……」

 

 それだけで勝てる相手ではないことを、シューティーはこのバトルでよく理解している。今まで通り、死に物狂いで行かねばならない。

 

「マメパト、エアカッターは行けるか?」

 

「ポーポー」

 

「まだダメか」

 

 のろわれボディの影響はまだ続いている。不完全なつばめがえしを含めた三つで戦うしかない。

 

「不利なバトルだけど、行けるか?」

 

「ポー!」

 

 不利だろうが、何だろうが関係ない。ただ、サトシの指示通り戦うだけだ。

 

「バニプッチ、こおりのつぶて!」

 

「バー……ニプーーッ!」

 

「でんこうせっかでかわしながら接近!」

 

「ポーーーッ!」

 

 冷気が放たれ、大気中の水分の元に複数の氷の礫がバニプッチの周りに出現。マメパトに向けて発射する。

 

「下、右、斜め上、左――」

 

 効果抜群の技だが、マメパトは全く恐れずにサトシの指示通りに果敢に突っ込む。

 

「つばめがえし!」

 

「ポーーーッ!」

 

「バニーーッ!」

 

 氷を打ち付くし、無防備になったバニプッチにつばめがえしが直撃。未完成だが、きょううんの効果でそれなりのダメージを与える。

 

「こなゆき!」

 

「でんこうせっかで後退!」

 

 口から粒子状の雪を吐き出すも、その前にマメパトは素早く後退。技を避けていた。

 

「くっ、やはり速い……」

 

 こおりのつぶてはまず当たらない。こなゆきも難しいだろう。となると、方法は一つだ。

 

「こおりのつぶて!」

 

「でんこうせっか!」

 

 再び氷の礫を放っていくバニプッチと、でんこうせっかでかわしていくマメパト。このままでは先程の繰り返しである。

 

「今だ、つばめがえし!」

 

「エコーボイス!」

 

 二匹の距離が先程より少し離れたところで、つばめがえしを放つマメパトだが、そこでバニプッチが響くようなで声を発する。

 声は衝撃波となって周囲に放たれ、マメパトにも激突。ダメージを与えながら吹き飛ばす。

 

「れいとうビーム!」

 

「ニプーーーッ!」

 

「でんこうせっか!」

 

「ポ……! ポーーーッ!」

 

 口から線上に圧縮した冷気を放つバニプッチ。それはマメパトに向かって一直線に進むも、マメパトは擦りながらも直撃は回避する。

 

「マメパト、かぜおこし!」

 

「バニプッチ、こなゆき!」

 

 強風と雪風が衝突。結果は雪風が破るも、その頃にはマメパトは範囲外に逃れていた。

 

「決めれないな……」

 

 さっきの技、周囲に音を放つエコーボイスがあるせいで、簡単には攻めれない。かぜおこしで体勢を崩そうにも、こなゆきで対処される。

 ダメージ覚悟で突っ込むのも有るが、一気に決めないとやられてしまう。せめて、エアカッターが使えれば話は違うのだが。

 

「考える間なんて与えない! こおりのつぶて! 連射し続けろ!」

 

「バニーーーッ!」

 

「かわせ!」

 

「ポー!」

 

 三度こおりのつぶて。しかも今度は放つと更に次の氷を精製しており、攻撃が途切れる事がない。マメパトに休む間は無かった。

 

「持久戦に持ち込む気か……!」

 

 マメパトはハトーボー、プルリル戦で既に消耗している。持久戦になると体力が尽きてしまう。そうなる前に何とかする必要がある。

 

「やるしかないか」

 

 失敗すれば倒されるが、このままやられるよりはマシだ。

 

「でんこうせっか! 突っ込め!」

 

「ポーーーッ!」

 

「来たね……!」

 

 サトシがあのまま避けるだけでいるつもりの訳がない。シューティーはそう予想していたが、見事に当たっていた。

 

「バニプッチ、分かってるね?」

 

「バニ!」

 

 マメパトがかなり接近したところでエコーボイスを叩き込み、次にこなゆきで体勢を大きく崩し、最後にれいとうビームで戦闘不能にする。それがシューティーのプランだった。

 そのプラン通り、マメパトがバニプッチに近付いてきた。あともう少しでエコーボイスの射程範囲に入ろうとする。

 

「――今だ、エコーボイス!」

 

「バニニーーー」

 

 衝撃波となる綺麗な歌とも言える声を上げるバニプッチ。それは周囲に広がり、マメパトに当たろうとする。

 

「今だ、急降下!」

 

「ポー!」

 

 バニプッチの視界からマメパトが消える。降下による加速を活かし、マメパトは地面すれすれに飛んでエコーボイスの範囲外まで回避する。

 

「加速を活かせ! つばめがえし!」

 

「クルーー……ポーーーッ!」

 

「バニーーーッ!」

 

 加速のまま放たれたつばめがえし。それは今までよりも威力、速さが増しており、技の使用で硬直しているバニプッチにかなりのダメージを与える。

 

「技の後を狙って……!」

 

 やはり、強い。こちらがパターンを練り上げても、サトシはそれを越えてくる。ポケモンの技、力を活かして。

 

(どうする……! このままじゃ……!)

 

 一体も倒せず、二匹も温存させたまま完敗してしまう。それだけの実力差が有るのだから、仕方はないだろう。

 だが、だからと言ってそれを受け入れては、自分の目標に辿り着けはしない。シューティーは必死に頭を働かせ、どうするを考える。

 

「――バニプッチ。こっちに」

 

 バニプッチを呼び出し、シューティーはある策を伝える。バニプッチはそれを聞いて頷いた。

 

「何かを伝えたね」

 

「何らかの策ですね」

 

「だけど、今さらじゃない?」

 

 ここまで来たら、勝ち目はない。もう意味は無いだろうとアイリスは告げる。

 

「彼は最後まで戦おうとしている。その意思は尊重するべきだよ」

 

「うん。観客のボク達には見ることしか出来ない」

 

「……」

 

 デントはともかく、Nには勝ち目のないバトルでポケモンがこれ以上傷付くのを見たくないので、止めたくはあるが、ポケモンが戦う意思を示しているので口には出さない。アイリスも二人に言われ、口をつぐんでいる。

 

「行くよ、バニプッチ」

 

「バニ」

 

「最後の勝負か。来い、シューティー!」

 

「ポー!」

 

「こおりのつぶて!」

 

「バニニ!」

 

 大量の氷の礫が造られる。それらをマメパトに向けて打ち出す。

 

「でんこうせっか!」

 

 サトシはやはり、でんこうせっかの機動力で回避、接近の指示。マメパトはバニプッチに迫っていく。

 

(チャンスは一度……!)

 

 迫る時に、シューティーは心臓の鼓動を高鳴らせる。

 

「れいとうビーム! 薙ぎ払え!」

 

「かわして、つばめがえし!」

 

 圧縮された冷気が放たれるも、マメパトは身体を捻ってかわし、つばめがえしを使う。

 しかし、もう少しで触れるその時、薙ぎ払いで回るバニプッチの横から有るものが現れる。それは氷の礫だった。

 

「ポ!? ポーーーッ!」

 

 不意打ち、しかも苦手な属性技を受け、マメパトはぐらつく。

 

「こおりのつぶて!?」

 

 困惑するサトシだが、それを考える余裕は無かった。

 

「今だ、バニプッチ! こなゆき!」

 

「バニーーーッ!!」

 

「つばめがえし!」

 

「ポーーーッ!!」

 

 雪風が放たれ、吹き飛ぶマメパトに命中する。しかし、そんなのお構い無しと言わんばかりにマメパトはダメージを受けながらつばめがえしを行い、バニプッチに激突する。

 

「バニーーーッ!」

 

「バニプッチ!」

 

 バニプッチは落下、地面で目を回していた。

 

「バニプッチ、戦闘不能! マメパトの――」

 

「ポ、ポー……」

 

「マメパト!」

 

 勝ちと言おうとしたドン・ジョージだが、直後にマメパトも落下。バニプッチ同様に、目を回していた。

 

「バニプッチ、マメパト。両者戦闘不能! 同時にシューティー君のポケモンが全て戦闘不能。よって、勝者――サトシ!」

 

「マメパト!」

 

 勝ったことは嬉しいが、今はマメパト。近寄って様子を見るが、大事には至らなさそうだ。

 

「ごくろうさん、マメパト。休んでくれ」

 

「ポー……」

 

 自分だけ倒され、不満そうなマメパトだが、大人しくモンスターボールに戻った。

 

「戻れ、バニプッチ」

 

 そこに同じく、自分のポケモンに近寄っていたシューティーがバニプッチをモンスターボールに戻した。

 

「楽しかったぜ、シューティー」

 

「……完敗だよ、サトシ」

 

 結果は完敗の上に、三匹しか出せなかった。しかし、一匹だけは倒せた。今はこれで由としよう。今は。

 

「シューティー、最後のあのこおりのつぶて……」

 

「一つだけ、小さな礫を背中で作って隠して待機させた。そして、れいとうビームの動作に合わせて――」

 

「ぶつけたってことか。やるなあ」

 

 あれは完全に一本取られた。実際、マメパトがやられている。

 

「お疲れさま、サトシくん」

 

「えっ、この声……」

 

 パチパチと拍手の音と共に、聞いたことのある声にサトシがそちらを見る。

 Nと彼といるゾロアとポカブの姿が見えた。彼等はサトシとシューティーに近付く。

 

「Nさん!」

 

「サトシ、君の知り合いかい?」

 

「あぁ、何度も会ってるんだ」

 

「初めまして。ボクはN」

 

「シューティーです」

 

 サトシ達同様、変わった名前だとは思うが、それは口に出さずにシューティーは自己紹介する。

 

「カブ」

 

「このポカブ……」

 

「アララギ研究所にいたポカブだよ」

 

 見覚えのあるポカブに、サトシが説明。シューティーはやはりと納得する。

 

「……」

 

「ポカブ?」

 

 自己紹介の後、Nはポカブがサトシを戦意で満ちた瞳で見ていることに気付いた。よく見れば、ゾロアも控え目だが、サトシを見ている。

 二匹のその様子に、Nは少し考える。

 

「……よし。サトシくん、少し良いかな?」

 

「何ですか、Nさん?」

 

「――ボクとバトルしないかい?」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。