緋弾のアリア TAKE YOUR HEART 作:Million01
まあ、戦闘ないから…………。
ーーー5月5日
「あ、暁先輩!」
暁が学校の校門から出ようとすると、あかりが呼び止めてきた。
暁が普通に振り向くと、あかりが嬉しそうにこちらを見てくる。
「あの本、凄く為になりました!アリア先輩にも『アンタ、そんな本も読めるのね。見直したわ』って褒められました!」
「あの、今日、予定がなければまた何か鍛えさせて下さい!」
>別に構わない
暁がそう言うと二人は三軒茶屋のバッティングセンターに向かった。
「えっと……これは?」
暁はあかりの度胸を磨こうと思ったが噂に聞いた話だとかなりの無茶振りをしているらしく、度胸を磨く必要は無いと判断した。
そして、更に三軒茶屋のバッティングセンターを選んだのは人が少ないからだ。暁のおすすめであり、ホームランを取ると『ホームラン賞』として何か貰えるのだ。また、5球全てヒットさせると『猛打賞』が貰える。
暁が五百円玉を取出し、お店の人に払った。
そして、あかり二バッティングをする場所を教えた。
70km/h。初心者でも気軽に打てるコースだ。
あかりが中に入り立てかけられてあった金属バットを手に握る。
「う……」
金属バットを握る手が少し震え、歩くたび足がふらついている。
>大丈夫か?
暁があかりにそう問いかけるとあかりが若干、顔を赤くしながら振り返る。
「だ、大丈夫、です」
あかりが少しだけ震える人差し指でスタートボタンを押した。
ガコッ、という音がしたすぐあとピッチングマシンからボールが放たれた。
「えいっ!」
スカッ、とバットが空振った音と共に片足立ちをしていたあかりの体が回転しドテッ、倒れてしまう。あかりが倒れている間も球が放たれる。
「たぁっ!」
スカッ
「えいっ!」
スカッ
「やぁっ!」
スカッ、と見事に全球空振り。暁が少しばかり呆れながら見ていた。
「う……打てなかったです」
暁はそれを聞いて今度はお店の人に千円札を三枚取り出す。
そして暁も中に入った。金属バットを持つと130km/hのスタートボタンを押し、構えた。
ガコッとピッチングマシンからボールが放たれる。
暁の視界ではボールが放たれた瞬間、スローモーションの世界に変わった。
そして、……
カキン!
振りかぶったバットがボールを見事に捉え、上空に飛んでいった。
ガコッ
カキン!
更に二球目も。
ガコッ
カキン!
三球目も。
ガコッ
カキン!
四球目も。
ガコッ
カキンッ!
バコッ!
更に五球目はバットが甲高い音をあげ、ボールを遥か上空に飛んでいき、奥に掛けられている『ホームラン』と書かれた的に当たった。
「す、凄い……」
暁が『ホームラン賞』のマントの布と『猛打賞』の手鏡を貰った。
暁はそれを受け取るとあかりのところに行き、その2つを手渡す。
「えっと……く、くれるんですか?」
暁が無言で頷いた。現に暁の部屋にはこのマントの布や手鏡がある。なんとなく成り行きでこれを取ってしまったのであかりに上げたほうがいいと思った。
「あ、ありがとうございます……」
暁はあかりと共にバッティングセンターで時間を費やした。
もう8時が過ぎ、キンジと白雪が家を出たすぐ。暁がカレーを食べていると誰かから通知が来た。
ジャンヌだ。
『白雪達に気付かれないよう、尾行してくれ。私も付いていく』
暁が手を止める。一瞬、そこまでする必要があるのか、と思ったが取り引きの条件を思い出す。『監視』であった。なら二人の様子を見に行くのも『監視』ではないかと思った。
『分かった』
『今、二人はモノレールに乗って台場に向かってる』
暁はすぐさま家を出て、モノレールに向かった。モノレールに乗り台場へ。そこからゆりかもめで有明、更にりんかい線で新木場。最後に京葉線にのりかえた葛西臨海公園駅で降りた。
「来たか」
暁が駅を降りて公園に出るとジャンヌが話しかけてきた。どこから調達したのか武偵高の制服を着ていた。
「尾行するぞ。
ジャンヌがそそくさと公園の道を通りに行く。暁は無言でジャンヌに付いていった。
公園の道を歩いているとバックから、モルガナが顔をだす。
「にしても、こんな夜遅くに尾行だなんて悪い事してんな〜」
>いつものこと
暁がジャンヌに聞こえない程度にモルガナの話に応答する。
「まぁ、俺ら怪盗団だもんな」
「にしても、なんで暁も付いていかないと行けないんだ?」
暁が分からないと言わんばかりに首を傾げた。
暁達が暫く歩いてると人工の砂浜『人工なぎさ』が見えた。
「ここに隠れよう」
ジャンヌが公園の道から外れ茂みの近くにしゃがんで隠れた。
ジャンヌは隠れて砂浜の方にいる二つの人影の方を見た。
暁も目を凝らして人影を見た。人影の輪郭がはっきりと見えその二つの人影の正体は暁の予想通り、キンジと白雪だった。
「お前を呼んだのは他でもない。あの力のことだ」
ジャンヌは二人が見えるように木に背中を任せた。暁もジャンヌと向かい合うように木に背中を預ける。
「勿論、タダで聞くという事はしない。何か、聞きたいことはないか?」
>ブラドの事
「……。すまないな。あまり、ヤツの事はあまり聞かない。強いて言うならイー・ウーのナンバー2の実力だ」
この情報だと、ペルソナの話と釣り合わないなと思っていたが暁が聞きたいことを思い出した。
>ジャンヌの事
「っ!?わ、私か?」
ジャンヌが一瞬、硬直し少しばかり恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「私の話か……。そうだな、まずは祖先の話をしよう。勿論、私の先祖の事を知っているな?」
暁が無言で頷く。ジャンヌ・ダルク。フランスのドンレミ村で生まれた女性。
ただの村人であったが突如、神の声が聞こえ神の教えの通り、とある人物を皇帝にするため100年戦争を勝利に導いた。
だが、後に敵国に捕まり異端審問官の裁判により、有罪と判決され19歳という若さで火刑に処された聖女。
「私の先祖は19歳という若さで火刑に処されたとされているがあれは嘘だ」
嘘?と暁が首を傾げた。
「火刑に処された人物はただの影武者だ」
暁はその言葉を聞いて目を見開く。
「我が一族は、策の一族。聖女を装うも、その正体は魔女。私たちはその正体を、歴史の闇に隠しながらーーー誇りと、名と、知略を子々孫々に伝えてきたのだ」
「私はその30代目。30代目ーーージャンヌ・ダルクだ」
なるほど、暁は思わず納得する。暁自身も死を装った事があったため、生きていたとしてもあり得なくはないと思ってしまう。
「こんな所だ……」
>まだジャンヌ自身の話を聞いていない
「わ、私、じ、自身の、か……?」
ジャンヌが先程よりも恥ずかしそうに顔を紅潮させる。
「ダメだ。それはまた、いつか話すッ!」
>言動は取った
「……。私もそうだが、お前も中々の策士だな」
ジャンヌの言葉に暁は少しばかり不敵に笑う。とある棋士からは策を学び、更にはとある元国会議員から交渉術を学んだおかげだ。
「次はお前の番だ」
暁がジャンヌの言葉に頷くと掻い摘んで話をする。
パレスやメメントスの事は話すと長くなるので取り除いてペルソナという力だけを話した。
「『もう一つの自分』……『心の仮面』……そして、『反逆の意思』か……よく分からないな」
それに関しては暁も同じだった。人の心なんて分からない。それは自分でも同じだ。
自分でも気付かないうちに出てくる感情というのはある。
暁自身もペルソナという力とは別に『ワイルド』という力もよく分かっていない。
「ん?」
すると、ジャンヌが不思議そうに砂浜の方を眺めた。
暁も木から背中を離し、目を凝らしながらジャンヌと同じ場所を見た。
『サードアイ』とも呼ばれる暁が持つ第三の目は暁に様々な情報を教えてくれる。
暗闇の中でも生物がはっきり見え、相手の強さが自分よりも上か下かも分かり、赤外線センサーさえも見える万能な目だ。
暁が目を凝らす中、二人に変化があった。片方、キンジがこちらの方に走ってくる。
暁達はこちらの方に来るキンジを見て、茂みの所にしゃがんで身を隠す。
一瞬、バレたか、と思ってしまうがそんな様子ではなかった。
バレたのなら走って近づく必要もない。
キンジが暁達が隠れた茂みを通り過ぎると二人は顔を出す。
「遠山があっちへ行ったか……好都合だ」
白雪の方では砂浜を歩いていた。暁達は木々の中で白雪を追った。
白雪が砂浜から少し離れたベンチに座るとジャンヌがスマホを取りだす。
少しだけスマホをいじるとすぐにしまった。
>なんて入力したんだ?
「何、星伽がこちらに来るような指示だ」
>こちら?
「ああ、イー・ウーにな」
暁が身を見開いてジャンヌを見る。顔が本気だ。
「今日はもう解散しよう」
暁はジャンヌの一言でその場を去った。
次回からが本編みたいなものです。これまでのはプロローグ。
それと、次回からはあの長鼻のお方も多分出ます。
それではまたお会いしましょう