活動報告にて発表がございますので、よろしければご覧ください。
では続きをどうぞ。
5月。僕らがこの学校に入学してきて1カ月が経過した。この日、僕らの日常は終わる。この学校の恐ろしさと”D"クラスの本当の意味を知る事となったのだ。
5月最初の登校日、教室内は一つの話題で持ちきりだった。本日支給されるはずだったポイントが振り込まれていなかったのだ。僕は珍しく早く来た高円寺とそのことについて話していた。
「高円寺は振り込まれてた?」
「いいや。こちらも増減はないな」
聞いた限りだと、クラスの人は誰も振りこまれていないらしい。学校側のミスか?理由を考えていると、だが、と高円寺が続ける。
「ポイントは既に振り込まれているのではないかね」
「それは支給されるポイントが無かったって事か?」
「さぁ?どうだろう。ただ、マイナスになっていてもおかしくはない思うがね」
支給されるポイントが無かった。つまりは0ポイントだった。前に高円寺に話した考えが当たっていたのだろうか。
始業のチャイムが鳴ったので、話を切り上げ席に戻る。程なくして、手にポスターの筒を持った茶柱先生がやって来た。その表情はいつになく険しいものだった。池君のセクハラまがいの発言に目もくれず、生徒全員に質問が無いか、と問う。まるで生徒たちからの質問があることを確信しているかのような口ぶりだ。実際、数人の生徒がすぐさま手を挙げた。
ポイントが振り込まれていないのは何故か、この質問に対して先生は既にポイントは振り込まれていると言う。
「お前らは本当に愚かな生徒たちだな」
理解が及んでいない生徒に向かって、不気味な気配をまとった茶柱先生がそう言った。
「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという幻想、可能性もない。わかったか?」
先生の発言を聞く度に予想が確信に変わっていく。誰もが黙り込んでいる中、あの男が声高らかに笑い出す。
「ははは!なるほど、そういうことなのだねティーチャー。勇人、君の予想通りみたいだぞ」
首だけ動かし僕の方に視線を向ける。するとクラス中の視線が僕に集まる。それは茶柱先生も例外は無く、少し驚いた表情でこちらを見ていた。
この空気をどうしようかと考えていると高円寺が足を机に乗せ、偉そうな態度で先程質問をしていた生徒に指をさす。
「分からないのかい。簡単なことさ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、それだけさ」
「はあ? なんでだよ。
「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」
高円寺は再び僕に視線を向ける。
「そうだね。先生は
僕の質問で一斉に生徒の視線が先生へと向く。呆れたような口ぶりで先生は説明を続ける。
「高円寺の態度には問題ありだが、二人の言う通りだ。全く、これだけヒントをやって自分で気がついたのが数人とはな。嘆かわしいことだ」
やはりあの含みのある言い方は意味があったのか。そうすると、いくつかの予想も的中しているのではないか。寒気がしていると洋介が質問をする。
「振り込まれなかった理由を教えてください。でなければ僕たちは納得出来ません」
それに対して茶柱先生は、なおも呆れながら機械的に返答する。
「遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。ひと月で随分とやらかしたもんだ。この学校では、
予想が最悪な形で的中するとともに、一か所だけ僕の予想を裏切るものがあった。もちろん最悪の方向で。
それは、ポイントは
洋介が生徒の代表として、先生に食い下がるも正論で論破される。ポイントの増減の詳細も教えてもらえないらしい。それだけでも難しいのに先生がある意味爆弾発言をする。
「遅刻や私語を改め、仮に今月マイナスを0に抑えたとしても、ポイントは減らないが増えることはない。つまり来月も振り込まれるポイントは0ということだ。裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席をしても関係ない。どうだ、覚えておいて損はないぞ?」
薄っすら笑いながらそう言った。この発言に洋介の表情がさらに暗くなる。今の言葉の意味を理解してない生徒もいるが、遅刻や私語を改めても意味が無いと言っているようなものだ。生徒の意識を削ぐのが先生の狙いなのか?
静まり返った教室にホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。茶柱先生は本題に入る、と言い、筒から白い厚手の紙を取り出し、黒板に広げた。どうやら、各クラスの成績らしい。その紙を見て違和感を覚える。最大4桁の数字が表示されておりおそらく1000ポイントが10万に値するのだろう。
Aクラス 940
Bクラス 650
Cクラス 490
Dクラス 0
「おかしい……」
「え?」
無意識に出てしまった声に隣人の佐倉さんが反応する。
「並びがいくら何でも
「た、確かに、順番通りだね」
偶然か?それとも……。
「段々理解してきたか? お前たちが、何故”D"クラスに選ばれたのか」
選ばれた。このクラス分けは意図があると言う事か。僕と高円寺が一緒のクラスに選ばれた理由。
「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒は”A"クラスへ。ダメな生徒は”D"クラスへ、と。つまり、Dクラスは落ちこぼれが集まるクラス。お前たちは、最悪の
「倉持君?だ、大丈夫?」
佐倉さんの声で現実に引き戻される。あまりにも様子が変だったのだろう、佐倉さんが心配そうにこちらを見ていた。
「ごめんね。ちょっと考え事していただけ。ありがと」
「う、うん」
出来るだけ優しくお礼を言う。そんなやり取りをしていると、ガン、と大きな音が聞こえる。どうやら須藤君が机を蹴った音みたいだ。
「これから俺たちは他の連中にバカにされるってことか」
クラス順に優劣が決まるのなら、当然一番下のDクラスは周りから卑下される対象だろう。
しかし、この状況を打開する術はある、と先生は言う。それは、クラスポイントが他のクラスを上回る事。つまり、今回で言うと僕たちがCクラスの490ポイントを1ポイントでも上回っていればCクラスへと昇格していた。
もう一つ残念な知らせがある、と言い、一枚の紙を貼る。そこには小テストの結果が記載されていた。高円寺や堀北さん、洋介や僕の名前が上位にある中、ほとんどの生徒が60点前後で、須藤君に至っては14点だった。さらに先生は衝撃的な事を僕らに説明する。
「この学校では中間テスト、期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば、32点未満の生徒は全員対象だ。7人は入学早々退学になっていたところだったな」
その7人である生徒が驚愕の声をあげる。先生に食って掛かるが軽くいなされる。そんな中、空気を読めないあの男が火に油を注ぐ。
「ティーチャーが言うように、このクラスには愚か者が多いようだねぇ」
爪を研ぎながら偉そうにほほ笑む。そんな高円寺に池君が同じ赤点組だと思ったのか反論する。
残念ながらその男は同率トップである90点だ。因みに僕は洋介と同じ85点だった。
「それからもう一つ、高い進学率と就職率を誇っているこの学校だが、その恩恵を受けれるのはAクラスのみだ。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはない。お前らのような低レベルな人間がどこにでも進学、就職できるほど世の中は甘くできているわけがないだろう」
もう既に満身創痍の僕らに先生は止めとばかりに言う。その言葉に男子生徒、高円寺と同率トップだった幸村君が立ち上がり文句を言う。そこにも空気を読めない男が立ちふさがる。
「みっともないねぇ。男が慌てふためく姿ほど惨めなモノは無い」
「お前はDクラスだったことに不服はないのかよ」
「不服?まぁ一つだけ
腑に落ちないの部分で僕の方を見たが、何だったんだろう。
「お前はレベルの低い落ちこぼれだと認定されて何も思わないのか!」
「フッ。愚問だな。学校側は、私のポテンシャルを計れなかっただけのこと。私は誰よりも自分のことを評価し、尊敬し、尊重し、偉大なる人間だと自負している。学校側がどのような判定を下そうとも私にとっては何の意味も持たない」
唯我独尊。この言葉が本当にピッタリな男だ。誰がどんな評価をしても関係ない。自分自身を評価し認める。高円寺は自分に芯を持っている。だからこそここまで強いのだろう。自分しか見ないが故、他人に興味が無さすぎるのが短所ではあるが。
周りの評価ばかりを気にして生きていた僕は、彼の生き方に憧れ救われた。しかし、彼の様な生き方をするには自分自身を認めなければならない。僕はまだ、自分自身を認める事はできていない。
「それに私は高円寺コンツェルンの跡を継ぐことは決まっているのでね。DだろうがAだろうが些細な問題なのだよ」
最後に余計な事を言う高円寺。そりゃ将来を約束されている男にとっては関係のないことだろう。なぜそんな彼がこの学校に入学したのか、友達である僕もそれは知らされてない。最初は某有名進学校に行くって言ってたんだが。
「浮かれていた気分は払拭されたようだな。お前らの置かれた状況の過酷さを理解できたのなら、この長ったるいHRにも意味はあったかもな。中間テストまでは後3週間、まぁじっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している」
そう言い残し教室から出て行った。またもや意味深な事を言って。乗り切れる方法、それは勉強する以外にって事か?
茶柱先生がいなくなり、教室は非常に荒れていた。洋介と櫛田さんが必死にクラスのフォローをしている。
「佐倉さんはポイントは残ってるの?」
「えっと、デジカメを買ったくらいだから、半分以上は残ってる、かな」
「それは良かったよ。でも仮にポイントが無くなっていても、生活はできるようになっているみたいだね」
「どういうこと?」
「学校の随所に無料で利用できるものがあったんだ。それさえ使えば生活はできる」
コンビニの商品棚や食堂の山菜定食、自販機の水など随所に無料の物があった。光熱費や水道代も無料なのはその為だろう。ただ、一度僕たちは大金を手にし、娯楽を味わってしまっている。そのポイントでしか賄えない部分を乗り切れるかどうかだな。
「皆、授業が始まる前に少し真剣に聞いて欲しい。特に須藤くん」
まだ騒然とする教室で、洋介が教壇に立つ。来月のポイント獲得のため協力をしなければならない、遅刻や私語などをやめる必要がある旨を伝える。
しかし、僕たちが危惧した意見が出る。それは改善してもポイントが変わらない点。真面目にしてもポイントが増えないならやる意味が無いと。そこに櫛田さんがフォローに向かうも、結局須藤君には届かず教室を出て行こうとする。
「須藤君。意味はあると思うよ」
「あ?」
出て行こうとする須藤君が僕の言葉に足を止める。
「確かに遅刻とかをやめてもポイントは増えない、けどスタートラインには立てるんじゃないかな」
「何が言いたいんだ?」
「今の僕たちは、ビリを走っている事はおろか、スタートラインにすら立っていないんじゃないかな。0ポイントって言うのはスタートラインに立つ資格が無いという事だと思うんだ。今のままじゃポイントをもらうことは不可能だ。だから、意味はあると思う。君は戦わずして負けを認めるのか?土俵に立ちたいとは思わないのか?」
「……うるせぇよ。俺には関係ねぇ」
少し考える素振りを見せたが教室を出て行ってしまう。ダメだったか。須藤君みたいな人は負けることを嫌うと思ったけど、それよりもプライドが勝ってしまったか。まぁ特に問題はないだろう。
須藤君が出て行ったことで須藤君への文句を言い始める生徒達。そんな中、洋介がこちらへやってくる。
「さっきはありがとう」
「いや、力になれなかった」
「そんな事は無いさ。須藤君にも響いていたと思うよ。一回出て行こうとした手前、引っ込みがつかなかったんだよ」
「そうだといいけどね」
僕のフォローをしてくれる。相変わらず良い奴だ。本心で言っているのだから。
「勇人君。放課後、ポイントを増やすためにどうしていくべきか話し合いたいんだ。君も来てくれるかな?」
「ああ。もちろん」
「ありがとう。それで、みんなに参加してもらいと思っているのだけど……。」
そう言って、洋介の視線が高円寺に注がれる。
「一応誘ってみるけど、間違いなく来ないよ。来てもさっきみたいに空気読めない発言して場をかき回す。絶対に」
「それでもいいよ。全員が参加する事に意味があると思うから」
「分かった。聞いてみる」
ありがとう、と言って洋介は綾小路君の席へ向かっていった。綾小路君と堀北さんも誘いに行ったのだろう。堀北さんが来るとは思えないが。
さて、僕も行きますか。参加する意味が無いとか言われそうだけどな。
「嫌だね。参加する意味がないのだよ」
即答された。しかも想像した通りに。いつもの僕ならここで引き下がるのだが、洋介と約束をした手前少し粘ってみる。
「意味はあるだろ。これから0ポイントで生活するなんて嫌だろ?」
「勝手にやりたまえ。ポイントに関しては自分でどうにかするから問題ないのだよ」
自分でどうにかするって。高円寺なら本当にどうにかしかねない。
「その場にいてくれるだけでいいんだ。頼むよ」
「その場にいるだけ?ますます意味が無いではないか。何故雑音を聞きに態々出向かなくては行かないのかね。理解に苦しむ」
ごめん洋介。無理だ。取り付く島もない。最低限の仕事はしたし、いいだろう。高円寺の説得は諦め、気になったことを聞いてみる。
「腑に落ちない点ってなんだよ。学校の評価がどうでもいいんなら腑に落ちないことなんてないだろうに」
「フッ。言ったであろう
どういうことだ?高円寺の評価ではなく他の事に不服があるということか?
授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、僕は席に戻った。
そして放課後、対策会議が開かれた。
ようやくここまで来ましたね。
今回のテストではオリ主は特に動きません。
今回も読んでいただきありがとうございました。