唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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嵐の予感

 

 

「実に清々しい太陽だ。私の体がエネルギーを必要としているねぇ」

 

「わけわからない事言ってないで下りてきなよ」

 

 木の枝に立つ金髪の自由人へツッコミを入れる。エネルギーって光合成でもしてるのか。でも高円寺ならやりかねないな。

 

「ああ、美しい。大自然の中に悠然と佇む私は美しすぎる。そうは思わんかね?」

 

「全く思わない」

 

「勇人よ、少し感性が鈍ったのではないかね?これを究極の美と言わず何というのだ?」

 

「……知らないよ」

 

 相変わらず会話が成立しない。とりあえずこいつは放っておこう。木登りに飽きたら下りてくるだろう。

 

「ごめんね、こんな変人と同じグループに誘っちゃって」

 

「いや、構わん。むしろ他に一緒に行くような人がいなかったから助かった」

 

 綾小路君が探索に志願したのは目立たないようにするためだろう。集団生活の中で何かしらの役割を担っていなければ自然と浮いてしまうものだ。

 

「倉持も大変だな。高円寺のこととなるとすぐに押し付けられて」

 

「まぁ、友達だからね。慣れたら大したことはないもんだよ」

 

「そうか」

 

 高円寺には変に気を使わなくていいから楽な部分もある。変人であることには変わりないけどね。

 

「それでオレに何か用か?」

 

「え?」

 

「オレに話があるからグループに誘ったんだろ?」

 

「よく分かったね」

 

「あの場で一番にオレを誘うのは違和感がある。オレのことを気遣って誘ったにしてはタイミングが早すぎるしな。だからオレに何かしらの用事があると考えた」

 

「さすがだね。綾小路君の言う通りだよ」

 

 彼の言う通り、この試験のことで話したいことがあったからグループに誘った。少人数で別行動するこのタイミングがベストだったんだけど……。

 

「とりあえず今はいいや」

 

「何でだ?話すなら今がベストだろ」

 

「そうなんだけどね……」

 

 僕は視線を綾小路君から後ろに向ける。綾小路君も僕の視線を追って言葉の意味を理解する。視線の先には僕たちの後ろを歩く御影さんの姿があった。

 

「へ?あ、自分邪魔な感じっすかね?自分はいないものとして扱ってもらって大丈夫っすよ?」

 

「そういうわけにもいかないよ。大した話じゃないし、いつでもできるから気にしないで」

 

「優しいっすねー。それとも……他の人には聞かれたくない秘密の話だからっすか?」

 

 長い前髪の隙間からのぞかせた瞳が僕を捉える。闇のように黒く、綺麗な瞳だ。見ていると吸い込まれていくような感覚に陥る。

 

「そうだね、秘密の話だからここではできないんだよ」

 

「ありゃ?否定しないんすね」

 

「まぁ否定する意味もないからね。男の子にも女の子に知られたくない話があるんだよ」

 

「へーそっち系の話っすかー。てっきり今回の試験についての悪巧みでもするのかと思ったっす」

 

 なおも探りを入れてくる。この子の目的はなんだろうか。なんにせよ本当の事を話す必要はない。

 

「さぁどうだろうね。でも、僕なんかが悪巧みしたところで大したことはないよ」

 

「そんなことはないっす。勇人君はこの学校の誰よりも優秀で上に立つべき人間っすよ」

 

「それはさすがに過大評価だよ」

 

「そんなことない!!自分は知ってるんすよ。勇人君がどれだけ強くて弱くて優しくて非道で感情的で冷静沈着で勇敢で臆病で博識で無知で正直者で嘘つきなのかを全部知ってるっす。ずっとずっとずっとずっと見てきたんすから。試験の時も暴力事件の時もあの時もあの時も全部。そんな勇人君に他の有象無象ども敵うわけがないじゃないっすか……にひっ」

 

 雰囲気が急に変わった御影さんの勢いに思わず後ずさってしまう。『ずっと見てきた』その言葉に軽く動揺してしまう。その言葉が真実ならこの学校に入ってから?中学から?それとももっと前から?本当に僕の全てを知っているのだとしたら僕はこいつを……。

 

「なーんて、冗談っすよ。にひっ」

 

「え?」

 

「全部冗談っす。流行りのヤンデレってやつをやってみただけっすよ。怖がらせちゃったっすか?」

 

 先程までのことがまるでなかったかのように、急変するまでの雰囲気に戻った。果たして本当に冗談だったのか、その真意がわからない以上追求するのも厳しい。少しでも動揺したことを悟られたくもないしな。

 

「正直めちゃくちゃ怖くて腰ぬかしそうになったよ。この借りは必ず返すから覚悟してね」

 

「なんと!ご、ごご、ごめんなさいっす!陰キャのカスが調子に乗ってすいませんでした!」

 

「ははは、冗談だよ。でも怖かったのは本当だよ。今はこんなのが流行ってるの?御影さん演劇部とか向いてるんじゃないかな」

 

「そんな自分なんて……恐縮っす」

 

 頬を赤く染めながら俯いて照れる御影さん。こうやって話している分には普通なんだけどな。とにかく御影さんには今後注意していく必要がありそうだ。

 

「でも意外だったよ」

 

「へ?何がっすか?」

 

「御影さんが結構喋ることがね。教室で誰かと話しているところを見たことがなかったから」

 

 教室ではいつも一人で本を読んでいて誰かと話しているところは見たことがない。あの洋介でさえも話を出来なかったほどだ。

 

「あー、そうっすね。自分興味がある人としか話さないんすよ」

 

「興味がある人?」

 

「ですです。基本的に人に興味がないんすよね。特にうちのクラスは社会的に言えばクズの集まりっすから」

 

 うちのクラスが落ちこぼれや、不良品と言われる所以だ。クズの集まりというとは少し言い過ぎではあると思うが、否定はできない。

 

「御影さんが興味のある人ってどんな人?」

 

「強い人。絶対的な強さを持っている人っすよ」

 

「絶対的な強さ……」

 

「誰にも負けない。誰にも染まらない。そんな強さを持っている人。それが勇人くんなのです」

 

 僕が絶対的な強さを持っている?それは違うとハッキリと否定できる。僕は強くなんかない。僕はたくさん負けてきたし、色々なものに染まってきたんだから。

 

「残念だけど僕は強くないよ。本当の僕は御影さんが思っているような人じゃない」

 

「そう、勇人くんは強くなかったっす。むしろ敗者、弱者側の人間だった。でも、そこから這い上がり強者へと成り上がった。だから自分は勇人くんに興味があるんすよ。強者であり弱者である勇人くんに」

 

「……僕の何を知っているの?」

 

「さっき言ったじゃないっすか。全部っすよ……にひっ」

 

 僕が強者だと御影さんが言うぶんには特に気にすることはなかった。だが、彼女は僕が弱者であったと言った。それは僕の過去をしっていることに繋がる。高円寺と出会う前の、仮面を被る前の僕を。

 

「そういえばお二人の姿が見えないっすね」

 

「あ、本当だ。先に進んじゃったんだね」

 

「すいませんっす。自分のクソみたいな話のせいで……」

 

「御影さんのせいじゃないよ。どうせ高円寺が勝手に一人で進んで行ってそれを綾小路君が追ってくれたんだよ」

 

 今思い返せば、御影さんが話しかけてきてからすぐに綾小路君は僕らから離れて行った。何かを察して逃げたな。

 

「とにかく追いかけよう、御影さん」

 

「はいっす。あと、自分のことは陽って呼んでくださいっす」

 

「え?でも……」

 

「呼んでください!あ、さん付けもなしっすよ。勇人君にさん付けされるなんて恐れ多いんで。さぁ、呼んでくださいっす!さぁ!」

 

「わ、わかったから。押さないで転んじゃうから……ってうわっ!」

 

「わきゃ!」

 

 物凄い勢いで詰め寄って来る御影さんから後退ると、木の根っこにつまずいて後ろに倒れてしまう。御影さんもその勢いのまま僕に覆いかぶさるように転んで、結果的に僕が御影さんを抱きしめる形になってしまった。背が低い方な御影さんは僕の腕の中にすっぽり収まっていた。

 

「いてて……大丈夫?」

 

「あわわわわ。すいませんっす。勇人君こそ大丈夫っすか!?」

 

「問題ないよ。御影さん、立てる?」

 

 怪我をしてなくてよかった。大丈夫とは言ったものの、ろくに受け身も取らずに背中から倒れたので正直背中が痛い。何はともあれこの体勢はまずい。誰かに見られたら誤解を受けてしまう。御影さんに立てるように聞くが返事がない。顔を見ると頬を膨らませこちらを見ていた。

 

「な、なに?」

 

「御影じゃなくて陽っすよ!ちゃんと呼んでくれないとどかないっすからね」

 

 予想以上に御影さんは強情な人みたいだ。今日だけで御影さんのイメージが180度変わった。無理やりどかそうにも背中を打った衝撃で力が出ない。ここで渋っていても意味が無い。とにかくこの状況を誰かに見られることだけは避けなければならないのだ。

 

「分かったよ、陽。これでいいでしょ?」

 

「上々っすよ、にひっ」

 

 満面の笑みでそう答える御影さん、もとい陽。兎にも角にもこれでどいてもらえる。そう思った直後、横の茂みが揺れる音が聞こえた。

 

「何してるわけ?」

 

 冷ややかな声がそそがれ目線を上に上げると、これまた冷ややかな視線をそそぐ軽井沢さんが立っていた。その横には顔を赤くしてうろたえている佐倉さんが立っていた。

 

「どうしてこうなるんだよ」

 

 明らかに面倒臭いことになりそうな展開に僕は溜息まじりにそうつぶやいた。

 

「……にひっ」

 

 一方、二人の姿を捉えた陽は僕に抱き着きながら不敵に笑った。

 

 


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