唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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今話からオリキャラが出ます。短かめです。


新たな風

 

 

 

 状況の確認を終えた僕たちは、ひとまず落ち着いて話せる場所へ向かっていた。その集団の中には池君をはじめ、数人の男子生徒の姿がない。というのも、状況の確認が終わった後に、トイレについての話し合いで女子と意見が分かれ、言い争いになってしまい、そのまま勝手にスポット探しに行ってしまったからだ。

 

「勇人君は……どうしたらいいと思う?」

 

「うーん、こればっかりは難しいよね。どっちも間違ってはいないし」

 

 荷物を持って移動しながら、佐倉さんと話す。事の発端は学校側から支給されるトイレだ。そのトイレは簡易式のトイレで、段ボールにビニール袋をセットして使うものだった。もちろんそれはただの段ボールなわけではなく、災害時にも使われている優れたものだ。給水ポリマーシートで排せつ物を固めることができ、その匂いも抑制することができる。

 

「佐倉さんも簡易式には抵抗があるよね?」

 

「えっと……うん。我慢できなくはないけど、抵抗はある、かな」

 

 やはり女子には抵抗がある。せめて男女別にできれば丸く収めることができたかもしれないが、支給されたのは一つだけ。それも相まって抵抗が強いんだと思う。そしてさらに言い争いを激化させた要因が、仮設トイレの存在だ。仮設トイレは、家庭にあるトイレとほぼそん色なく水を流せるもので、これであれば、女子も納得できるものだった。

 

「でもさー20ポイントは大きいじゃん」

 

「まぁね」

 

 佐倉さんの隣を歩く軽井沢さんがぴょこんと顔を出す。軽井沢さんが言った通り、仮設トイレは一基につき、20ポイントを必要とする。これを高いと思うか安いと思うかは判断が難しい所だが、ポイントを節約したい派の面々がこれに反対をして、言い争いが激化した。

 

「どっちを取っても角が立つ。団結が大事なこの試験において致命的なんだよな」

 

「何も力になれなくて、ごめんね」

 

「佐倉さんが謝ることじゃないさ」

 

「そうそう、愛里が謝る必要はないっ。みんな倉持くんと平田君に任せっきりなんだから」

 

 僕はまだましだが、洋介は大変だろう。どっちの意見も大事にしたい洋介にとっては完全に板挟み状態だ。

 

「こうやって言い争ってるのも学校側の思惑通りって感じだよねー。何かムカつく!」

 

「それを含めての試験か」

 

 マニュアルに何でも揃っているのはそういうことなのだろう。『自由』が効くと同時に、クラスが団結する難しさを物語っている。だからこそ、今回の試験のテーマが『自由』なのだ。

 

「いっそのことポイント全部使いきってバカンスを楽しむのもありかもね」

 

「ええ!?そ、そんなことしたら、ますます他のクラスとの差が広がっちゃうよ?」

 

「そうだよ!ポイントをちょっとでも多く残したいから言い争ってるんじゃん」

 

「もちろんただバカンスを楽しむだけじゃないよ。他にも差を埋める方法はある。ていううか、最初のポイントはこの試験ではあまり重要ではないと思うんだよね」

 

「それって……」

 

「まぁ、それをするにはリスクが高すぎる。そんな作戦を実行できる奴は自分に自信を持っている奴か、リスクに対する別のリターンがある場合だけだよ」

 

 二人は僕が言ったことがよく分からなかったようで、複雑な表情をしていた。大した意味は無いから忘れてと言って二人から離れる。そのまま集団の後方を歩いている堀北さんの横を歩く。

 

「あまり元気がないようだけど、体調悪い?」

 

「いいえ、体調は問題ないわ」

 

「それはよかった。体調じゃないとすれば精神面かな」

 

 どうやら体調が悪いわけではないようだ。体調が悪い中でここで一週間過ごすのは難しいからな。

 

「正直かなり憂鬱よ」

 

「無人島での生活が?」

 

「それもそうだし、何より集団での試験ってところね。私向きではないことは明白だもの」

 

 集団行動が苦手な人にとってはこの試験はかなり憂鬱なものだ。特にAクラスを目指す堀北さんにとっては他クラスとの差を縮める絶好の機会だというのに、自分の不得意な分野だったのがもどかしいのだろう。

 

「これを機にクラスの皆と仲良くなったら?」

 

「冗談でしょ?そんなことより他のクラスはどうするのかしら」

 

「AクラスとBクラスは堅実に来るだろうね。ある程度ポイントを抑えれば大して差が縮まることもないだろうし」

 

「気を付けるべきはCクラスでしょうね」

 

「宣戦布告しといて何もないわけがないからね。勝つためには手段は選ばないんじゃないかな」

 

 この間のやり方を見る限り、彼が卑怯な手を使ってくる可能性は高い。へたしたらDクラスだけが差を広げられる展開もありえる。

 

「一つ聞きたいのだけれど、あなたはこの試験どうするつもりなのかしら」

 

「どうするって?」

 

「勝ちに行くつもりがあるのかどうかよ。あなたは上のクラスに上がりたいって思ってるのかしら?」

 

 上のクラスか。色々な事情を抜きにして、僕自身が上に行きたいと問われれば、答えは決まっている。

 

「Aクラスに上がることはそんなに必要なことなのかな?」

 

「当たり前でしょ。学校の恩恵を受けれるのはAクラスだけなのよ」

 

「恩恵かー。残念ながら進学とか就職には特に興味はないんだよね」

 

 僕は進学とか就職なんて興味がない。いや、関係がないっていう方が正しいのだろう。そこに僕の自由はない。

 

「この学校に入る人たちは、その恩恵を目当てに入学するんじゃないのかしら」

 

「そう考える人は多いだろうね」

 

 今ではAクラスだけがその恩恵を受けることができると分かっているが、入学する前は入るだけで将来が約束されると多くの生徒が期待していただろう。特にDクラスの面々は高をくくってたに違いない。

 

「あなたは何のためにこの学校に入学したの?」

 

 純粋に疑問に思ったのだろう。いつもの堀北さんなら人の過去を詮索するようなことはしないだろう。ただ、僕があまりにもきっぱり否定するから自然と口に出してしまったのかもしれない。そんな堀北さんを見て、少しだけ本音を漏らしてしまう。

 

「堀北さん、『自由』って何だと思う?」

 

「そうね……束縛を受けず、ありのままでいることかしら」

 

「僕の考えもほとんど同じだよ。僕がここに入学したのはその『自由』を得るため。その為に僕はこの学校を選んだ」

 

「『自由』を得るため?この学校はそれには程遠いのではないかしら。『不自由』の方が近いわ」

 

「そうだね。でも、この学校の『不自由』こそが『自由』。そんなこともあるんだよ」

 

 堀北さんは不思議そうな複雑な表情をする。今日はよくこの表情をされる日だ。変な奴だと思われてなければいいけど。

 

「まぁ要するに、みんなそれぞれ理由があるってことだね。堀北さんがAクラスを目指している理由は別にあるみたいにね」

 

「……そうね。人に過去を詮索されるのは気持ちいいことではないわね。ごめんなさい」

 

「別に謝ることではないよ。気にしないで」

 

 それから少し林の奥に進んだ僕達は志願者で数人に別れて拠点となるスポットを探すことになった。メンバー決めをする際、皆が僕を見て、高円寺をみた。まぁ、そうなるよな。

 

「高円寺は僕が引き取るよ」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

「綾小路君も一緒にどう?」

 

「いいのか?」

 

「うん、綾小路君が嫌じゃなければだけど」

 

「……分かった」

 

 綾小路君は少し何かを考えたあと了承した。あとは1人か誰か入ってくれればいいんだけど。周りを見回すと軽井沢さんと佐倉さんの二人と目が合った。4人1チームで別れることになってたけど、別に5人になっても問題ないだろう。そう思い、二人に声をかけようとすると、後ろから声をかけられた。

 

「あのー自分も入れてもらっていいっすか?」

 

「え?」

 

 声の方向を向くと、1人の女子生徒が僕の背後に立っていた。

 

「自分もみんなの輪の中に加わりたいと一念発起して志願したはいいんすけど、このままだと余っちゃって結局ぼっちルートまっしぐらって感じっす」

 

「えっと……」

 

「はっ!すいませんっす。陰キャのくせに陽キャラ筆頭の方に話しかけるなんて百年早かったっすね。ていうか、お前誰だよって感じっすよね!」

 

「ちょっと落ち着いてよ。御影さんでしょ?御影陽(みかげひなた)さん」

 

「なんと!覚えててくれたんすか」

 

「同じクラスなんだから当たり前でしょ」

 

「わぁー感激っす」

 

 彼女は同じクラスの御影陽(みかげひなた)。長い前髪は目を覆い隠しており表情が読みづらい。教室ではいつも端の席で本を読んでおり、誰かと話しているところは全くと言っていいほど見たことがない。そんなことより僕が驚いたのは声をかけられるまで彼女の存在に気づかなかったことだ。いくら影が薄くてもあそこまで近づかれて気づかないなんてありえない。

 

「あのーやっぱりダメな感じっすか?やっぱり自分みたいな陰キャとは一緒にいたくないっすよね」

 

「いや、そんなことはないよ。一緒に行こう」

 

「嬉しいっす。よろしくっす」

 

「う、うん」

 

 彼女はこんなキャラだったかな?1度だけ話したことがあるんだが、もっと大人しい感じだったんだけど。それより軽井沢さんからの視線が痛い。さっきからジト目で僕を見ている。仕方ないだろ。あれで断ったら印象が悪すぎる。軽井沢さんの視線には気付かないふりをして探索へと向かった。

 

 

「……楽しくなりそうっすね、勇人君。にひっ」

 

 

 


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