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それでは続きをどうぞ。
「一週間のサバイバル生活か。これはかなり大変そうだね」
真嶋先生の一言で天国から地獄へと叩き落とされた僕たちは、気持ちを整理する間もないまま試験についての説明を聞かされ、その後、各クラスで集まって話し合いを始めていた。
「まずは状況を整理しようと思うんだけどどうかな?」
「賛成だよ。あまり理解できていない人もいるみたいだし」
「それじゃあ勇人君、頼めるかい?」
「うん、任せて」
洋介に頼まれそれを承諾する。僕が真嶋先生が説明している間にメモを取っていたことを洋介は知っているので僕が適任だと判断したのだろう。
「まずは今回の試験の内容。それは一週間の無人島での集団生活。試験中の寝泊まりする場所、食料などを自分たちで確保しなければならない。そして試験中の乗船は正当な理由なくして認められない」
「正当な理由ってのは何だよ」
説明の途中で須藤君が割って入る。後々になって理解ができてなかったよりかは逐一分からない事があったら聞いてくれた方がこちらとしては楽だ。まぁ、話が先に進まないようでは困るのだが。
「体調不良や、続行不可な怪我をした場合だね。でもこれは後で説明するけど『リタイア』になるから気を付けなくてはならないよ。他にここまでで分からないことはある?」
クラスメイトを見渡して確認する。特にないようなので話を続ける。
「この試験では最初に300Sポイントが支給される。Sポイントってのは試験専用のポイントね。それでこのSポイントが重要で、マニュアルに載っているリストにある物と交換することができる。少し見ただけだけど、食料から遊び道具まで色々なものをポイントで買うことができるみたい」
「このポイントを使えば、とりあえず食料の心配はしなくていいね」
「このポイントがあればやりたい放題だね。一週間遊びまくることも可能ってことでしょ?」
「うん、実際この試験のテーマは『自由』だからね。海で泳ぐことをするのも、バーベキューをするのも自由だ。それこそ本来頭の中で描いていたバカンスを楽しむこともSポイントが可能にする」
僕の言葉を聞いてクラスメイト達は思い思いにバカンスを想像する。しかし、その想像を現実にすることはない。これは試験なのだから。
「これだけ聞いてれば遊びまくればいいんだけど、大事なのはここからだよ。このSポイントは試験終了後にクラスポイントへと加算される。つまり、300Sポイントを残した場合、翌月には30000プライベートポイントが僕らの手元に入る」
「そう!それだよ!そんなけポイントが入ればひもじい生活からおさらばできるぜ!」
「それに他クラスとの差を埋めるチャンスだよ」
つまりは目先の欲を取るか後を取るかだ。僕たちの現状を考えれば後者を選択するのは当然だ。遊びまくろうとか言うあほがいなくて助かった。みんなが同じ目標に向かっているのは良いことだ。
「でもさすがにポイントを全く使わないわけにはいかないね。食料から何から全て自分たちで用意しなくちゃいけないわけだから。ある程度の消費はやむを得ないと思う」
「心配すんなよ!魚とか捕まえて、森で果物探せばいいっしょ!テントは葉っぱとか木とか使えば作れるからな。それならポイント使わなくて済むじゃん。最悪体調崩してでも頑張るぜ!」
洋介の言葉に池君が元気よく返すが、そうもいかない理由がある。
「残念だけどそれは無理だよ。少しは賄えるだろうけど、クラス全員分の食事を一週間分調達するのは現実的とは言えない。それにこの試験にはマイナス査定というものがあるんだ」
「何だよそれ」
「言葉の通り、ある行動をとった場合にSポイントがマイナスされるものだよ。さっき言った『リタイア』もその一つ。マニュアルのここに明記されてる」
そう言ってそのページを開けてみんなに見せる。そこには4つのマイナス査定となる項目が記されていた。
・体調不良、怪我などで続行不可と判断された場合は-30ポイント。そのものは『リタイア』とする。
・環境汚染とされるような行為を発見した場合-20ポイント。
・毎日午前8時、午後8時に点呼を行う。その際に欠席をした場合、一人につき-5ポイント。
・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物損壊などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収とする。
「もし仮に10人『リタイア』が出た場合にはそこで終了。池君の方法だとリスクが大きすぎると思わない?」
「うっ」
「だから、いかに効率よくポイントを使って節約して一週間を乗り切るかが重要になってくる。洋介の言う通り、ある程度の消費は割り切るしかない」
「最初から妥協する戦い方は反対だぜ。やれるとこまで我慢すべきだ」
「気持ちは分かるけど、体調を崩したら大変だよ」
「平田ぁ、萎えること言うなよ。我慢あっての試験じゃねぇの?」
少し嫌な空気が漂う。集団での試験において弊害となるのは意見の不一致。ルールを知れば知るほど色々な意見が出てくるのは仕方がないことだ。池くんと同じような考えの生徒も何人かいるようで、皆口々に意見を言い出す。これは不味いな。早く止めないと。
「みんな落ちきなよ。倉持くんが困ってるじゃん。今はその辺は置いといていいんじゃない?まずは状況の整理が先じゃん」
ㅤみんなを止めようと思い、動こうとした僕より先に動いたのは軽井沢さんだった。クラスのカーストで上位にいる軽井沢さんが止めに入ったことにより口論が収まる。このまま口論が続けば取り返しがつかなくなることを軽井沢さんも察したのだろう。その辺の空気の読む力はさすがと言える。
「続きお願いしていい?」
「うん、ありがとう。助かったよ」
「ううん、あたしも少しでも力になりたいからっ」
「じゅうぶん力になってるよ」
そう言って頭を撫でる。恥ずいじゃん、と言いながらも頬を緩めてやめさせようとしないところを見ると嫌がってはいないようだ。僕としても頭を撫でるのは好きなので良かった。
「おい、イチャイチャしてないで話続けろよ」
撫でるのに夢中で周りのことを忘れていた。軽井沢さんも幸せそうな顔をしていたから余計に夢中になってしまっていた。池君をはじめ、数人の男子にジト目で見られていた。あの洋介でさえも苦笑いといった感じだ。
「ば、ばっかじゃないの!イチャイチャなんてしてないし!」
「だらしない顔しててよく言うぜ」
「なっ、そんな顔してないっ!別に嬉しくなんてなかったし。もっと撫でてほしいとか思ってるわけないじゃん」
顔を真っ赤にして否定する軽井沢さんを見てクラスメイトが笑う。先程の険悪な雰囲気が一転、和やかな雰囲気になっていた。これも軽井沢さんのおかげだな。また今度頭を撫でてあげよう。
「さて、少しそれたけど話を戻そうか」
「あなたがそらしたんでしょう」
堀北さんに冷静なツッコミを貰いつつ話を続ける。
「スタート時に支給されたものがいくつかある。それが、テントを2つ、懐中電灯を2つ、マッチを一箱ずつ、歯ブラシを各自一つずつ。それから日焼け止めは無制限に借りることが可能。女子に限り、生理用品は無制限に配布される。借りる場合は各クラス担任、つまり茶柱先生に申し出たら貰えるはずだよ」
そう言って茶柱先生の方へ確認の意も込めて視線を移す。僕が視線を移したことによりクラスの皆も茶柱先生へと視線を向けた。
「ああ、その通りだ。必要であれば私に言え。お前らが決めたベースキャンプに私も常駐する。点呼もそこで行うことになる。それからテントだが8人が寝泊まりできる大きなものであるため、一つの重さが15キロほどある。運ぶ際には注意しろ。もし破損や紛失しても手助けはしないから取り扱いには気をつけることだ」
「ありがとうございます。支給品についてはこのくらいかな。次の説明に移るけど質問は?」
確認に加え、補足の説明を入れてくれた茶柱先生にお礼を言いつつ、次の説明に移るために質問を受け付ける。するとまたも須藤君から質問が飛んできた。
「なぁ、ベースキャンプってのはどこにあんだ?」
「あなた本当に何も聞いていなかったのね。あなたの耳は飾りなのかしら」
「まぁまぁ真嶋先生の話も難しかったし仕方ないさ。今からそれも説明するよ。少しややこしいけどね」
次にしようと思っていた話だから丁度良かった。本気で呆れている堀北さんを宥めて話を続ける。
「まずはベースキャンプだけど、これは僕たちがこの無人島で生活するための拠点。そしてそれをどこにするかを決めるのも僕たちだ」
「ベースキャンプは一度決めてしまえば変更は難しいらしいから慎重に決めないとね」
洋介が言った通り、正当な理由なくしてベースキャンプの変更はできない。これから一週間過ごす場所だ、よく考えて決めなくてはならない。まずはこれを決めるのが最初の目的となるだろう。
「そしてここからがこの試験の肝と言える部分になる」
ここからは先ほど茶柱先生から説明された追加ルールについて整理する。これをどう扱うかによってこの試験は大きく変わって来る。
「この無人島の各所にはスポットとされる場所がいくつかあるらしい。それらには『占有権』というものがある。文字通り『占有権』を獲得すれば、その場所を独占して使用することができるんだ」
「せんゆうけんってどうやって書くんだ?」
須藤君が馬鹿全開なことを言っているが無視する。そんなことまで説明していたら日が暮れてしまいそうだ。
「『占有』したクラス以外のクラスの人はその場所を許可なく使用すること許されない。許可なく使用した場合には50Sポイントのマイナスが科せられる。しかし『占有権』は8時間しか効力が持たなくて、時間が立てば自動的に権利が取り消される」
「いつ占有したかをちゃんと覚えておかないといけないね」
「『占有権』は同時に取得可能。繰り返し同じところを同一クラスが占有しても問題ないことになっている。そして、スポットを1度占有するごとに1ポイントのボーナスが加算される。でもこれはこの試験中に使用はできなくて、試験終了後に加算される仕組みになっている」
「そんなうまい話逃す手はないだろ!俺たちで全部取ってやろうぜ!」
池君の言うことはもっともだが、そうはできない理由がある。メリットにはデメリットがつきものだ。
「残念ながらそうもいかないんだよ」
「は?なんでだよ?占有すればするほどポイントが増えるんだぞ」
「これは特別試験よ。これだけの美味しい話だもの、リスクがあって当然よ。少しは考えて行動したらどうかしら」
「リスク?そんなもん聞いてないぞ」
「さっきの説明には無かったんだけど、マニュアルには細かいルールが書いてあるんだ」
池君が言う通り、先程の茶柱先生の話ではリスクがあるなんてことは言っていなかった。でも茶柱先生は後はマニュアルに書いてあるからよく読めと言っていたから僕たちを陥れようと考えていたわけではないのだろう。ただ単に説明するのが大変だからマニュアルを読めと言ったんだと思う。
「スポットを『占有』するにはキーカードが必要になる。そして、そのキーカードを使用することができるのはリーダーとなった人物だけ。さらにこれも正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない」
「あれ?それだけじゃ大したリスクじゃなくない?リーダーが走り回らなくちゃいけなくなるだけじゃん」
軽井沢さんの意見はもっともだ。これだけ聞けば大した問題ではない。良いスポットを見つけてもリーダーがいなければ違うクラスに占有されてしまうかもしれないとかくらいだろう。だがもちろんそれだけではない。もう一つのルールが問題なのだ。
「7日目の最終日に点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。その際にリーダーを的中させれば、クラス1つにつき50ポイントを得れる」
「他クラスのリーダー全部当てたら150ポイントも貰えんのかよ。滅茶苦茶うまい話じゃん」
「でもそれだけではないのでしょう?」
「うん。逆に言い当てられたクラスは-50ポイント。もし見当違いな回答をした場合にも-50ポイント。これに加えてそれまで貯めていたボーナスポイントも全部没収になる」
説明の続きを聞いて、先程のリスクの意味がみんな分かっただろう。
「つまり、容易にスポット獲得に動けば、リーダーがばれる可能性が高まるということだね。もし他クラス全部に言い当てられたら-150ポイントになるってことか。これはリスクが大きすぎるね」
「そうねあまりにリスクが大きすぎるわ。スポット占有は極力避けるべきではないかしら」
「それに他クラスのリーダー当てもあまり考えない方がいいんじゃない?もし外した場合のリスクが高すぎっ」
「まぁこのルールは占有合戦にならないようにするためのものじゃないかな。あまり気にしなくていいと思う」
クラスの皆はリーダー当てはさほど重要なものではないと判断したようだ。だが、このルールがこの試験における一番押さえておくべきものだと僕は考える。他クラスに差をつけるならこのルールを活用しなくては意味が無い。
「リーダーは例外なく決めてもらう。欲を出さなかったら他クラスにバレることはないだろう。リーダーが決まったら私に報告しろ。その際にリーダーの名前を刻印したカードキーを渡す。今日の点呼までには決めておけ。決まっていなければこちらで勝手に決める。以上だ」
そう言って茶柱先生は説明は終わったとばかりに離れて行ってしまった。つまり、ここからは僕たちが決めて行かなくてはならない。僕はこの試験を勝つための道筋を頭の中で模索していた。他のクラスがどう出るか。あの龍園という男がどのような手段を使って勝ちに来るか。少し楽しみになっている自分がいた。
原作を知っている方には説明だけでつまらない回になってしまいました。
次話からは物語を動かせるように頑張ります。