唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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お久しぶりです。
少し短いです。

原作以上にストーカー男がヤバイ奴になっています^^;
どうしてこうなった


ヒーローは遅れて登場する

 

 

 

 校舎を出てモールに全力疾走で向かう。本気で走れば5分もかからないだろう。だけど今はそれでも長く感じる。この間にも二人の身に危険が迫っているかもしれないんだ。とにかく今は一秒でも早く二人の元へ行かなければ。

 

 

 

 

 

 

「どこにいるんだ」

 

 暑い日差しの中で走ったせいで汗だくになりながらも、モールへと辿り着く。しかしここからが問題だ。この近辺にいるのは間違いないのだろうが、どうやって探し出すかだ。学校の敷地にあるといっても、決して小さくはないモール。それも放課後の生徒でにぎわっている中から探し出すとなると、至難の業だ。

 考えていても仕方がない。行きそうな場所を虱潰しに探すしかない。

 

 

 

 

 

 

 

「もう、私に付きまとうのはやめてください!」

 

 私が今いるのは、家電量販店の搬入口がある場所だった。目の前にいる男、私のストーカーの男に話があると言ったら、ここに連れてこられた。

 

「私に連絡してくるのもやめてください!」

 

 もう一度、私の想いを口にする。私が今まではっきりと拒絶をしなかったからダメだったんだ。私の口から言えば、この人も分かってくれるはず……。

 

「……どうしてそんなこと言うんだい?雑誌で君を初めて見た時から好きだった。ここで再会した時には運命だと感じたよ。好きなんだ……君を想う気持ちは止められない!」

 

「やめてください!」

 

「僕と君は運命の赤い糸で結ばれているんだよ?」

 

 私の言葉はこの男には届かない。気持ちが悪い。それでも、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

「こんなものを送ってくるのもやめてください!迷惑なんです!」

 

 私は鞄から手紙の束を取り出す。これはおそらくこの男が送ってきたもの。どうやって住所を特定したのかは分からないけど、毎日郵便受けを見るたびに入っている手紙を見て怖かった。この手紙の見るだけでその恐怖が襲ってくる。

 その恐怖を打ち消すように、その手紙を地面にたたきつける。

 

「……どうしてこんなことするんだよ!君のために……君を想って書いたのに!」

 

「こ、来ないで!」

 

 私に近づいてくる男。怖い、怖い、怖い。距離を取るように後退るも、背中にシャッターがあたり、これ以上下がれないことを認識する。逃げ場がなくなったことが分かり、さらに恐怖が押し寄せてくる。寒気がして、膝が震える。

 

「痛いっ……」

 

 男は、私の手を掴み、シャッターに叩きつけるように押し付けてきた。身動きが取れなくなり、男の顔が目の前に迫る。

 

「今から僕の本当の愛を教えてあげるよ……そうすれば愛里も、わかってくれるはずだ」

 

「いや……いや!離して!」

 

 抵抗しようとするも、恐怖でうまく力が入らない。男の手が私の太ももに触れる。気持ちが悪い。吐き気がする。怖い……。

 

 結局私は自分では何もできないんだ。目撃者として何もできなかったのと一緒で。

 

 私は変わりたいと思った。自分の無力さを痛感したから。だから、勇気を出して、この男のストーカー行為をやめてもらうように言いに来た。

 

 でも結局何もできなかった。私の言葉は一つも届かなかった。

 

 これは神様からの罰なのかな?今まで色々なものから逃げてきた私への罰なのだろう。それなら仕方がないのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ佐倉さんを追ってやってきたのは搬入口だった。見つからないように物陰に隠れて様子を窺う。

 

ㅤ話をしているのを聞いてると、どうやらあの男は佐倉さんのストーカーらしい。そのストーカーに佐倉さんはやめるように言いに来たのだ。

 

「凄いな……」

 

ㅤ無意識に口から零れ落ちた。それほどに彼女の勇気が凄いと思った。自分だったら怖くてどうしようもなくて、逃げることも出来なくて、結局耐えるしかないだろう。そうやって私は生きてきたから。

 

ㅤネガティブな方向へと思考が向かっていたが、大きな音でそれが遮られる。

 

ㅤ音のした方へ視線を向けると、佐倉さんがストーカー男にシャッターへと押し付けられていた。

 

ㅤ一目見ただけでも分かる。これはヤバイと。

 

ㅤそう思った瞬間、あたしは駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤもう、諦めよう。これは罰だ。そう思い、抵抗する力を緩め、目を固く閉じる。現実から目を背けるように。

 

 

 

「やぁー!」

 

「ぐはぁっ」

 

ㅤ誰かの声と共に、男の呻き声が聞こえた。その直後、私を押さえつけていた力がなくなった。

 

ㅤ何が起きたのかと、目を開けると、そこにはポニーテールの女の子が立っており、ストーカーの男は地面に倒れ込んでいた。

 

ㅤ一瞬理解ができなかった。呆然としてる私に女の子が声をかける。

 

「大丈夫?佐倉さん」

 

「か、軽井沢さん……」

 

ㅤ私の前に立っていたのは軽井沢さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ気付けば、あたしは二人に一直線に駆け寄り、男を蹴飛ばしていた。初めて人を蹴った気がする。

 

ㅤそれより佐倉さんだ。怪我はしてないかな?

 

「大丈夫?佐倉さん」

 

「か、軽井沢さん……」

 

ㅤ見たところ怪我はしてないみたい。あたしが現れたことにかなり驚いているようだ。そりゃ、あたしが佐倉さんのことを追いかけていたのを知らないわけだから当然か。

 

「事情はよく分かんないけど、さっさと逃げよ」

 

「う、うん、あ……」

 

ㅤ佐倉さんの手を取り、この場から逃げようとするも、できなかった。先程の恐怖で腰が抜けてしまったみたい。これじゃあ、逃げることは無理だ。

 

「いてて……な、なんなんだよお前!僕と愛里の邪魔をするなよ!」

 

「うっさい!佐倉さんに近づくな、この変態!」

 

ㅤ逃げることができないと分かり、一気に恐怖が湧いてくる。それを悟られないように必死に虚勢を張る。いまはあたしが佐倉さんを守らないと。

 

「変態!?僕が?何を言ってるんだ?僕はただ、愛里に愛を教えてあげようとしただけで」

 

「それが変態だっていってんの!キモイんだよ!」

 

ㅤストーカー男があたしの言葉に寄ろける。気が弱い男なのかな?このまま押し切れば何とかなるかもしれない。

 

ㅤこの時のあたしは知らなかった。この類の男がキレたら何をしでかすか分からないことを。

 

「ああああああああ!!何だよ、何なんだよ!どうして僕と愛里の邪魔をする!何で僕の愛が分からないんだ!」

 

「なっ……」

 

ㅤ目の前の男の雰囲気が変わった。急に怒り狂い、地団駄を踏む。これはヤバイ。どうにかしないと。

 

ㅤそう思っていると、男はピタッと地団駄を踏むのをやめて、こちらに視線を向けた。その目は据わっており、狂気をはらんでいた。

 

「そうか、そういうことか。これは僕と愛里の愛の試練なんだね。待っててね愛里。すぐに助けるから」

 

ㅤそう言ってストーカー男がポケットに手を入れる。そこから取り出したのは一本のカッターナイフだった。

 

ㅤ男は刃を出し、こちらへ向ける。

 

「ひっ!」

 

ㅤそれを向けられただけで、あたしの膝は震え、立っていられなくなる。恐怖が体中を支配し、何も出来なくなる。

 

ㅤ頭の中には過去のトラウマが瞬く間に蘇る。カッターナイフを向けられた事なんて何十回とある。その記憶が蘇ってしまうのだ。虐められていた頃の記憶が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ目の前のストーカー男と軽井沢さんのやり取りを私はただ見守ることしかできなかった。私には何もできない。今だって腰を抜かして動けずにいる。

 

ㅤでも、私と違って軽井沢さんはすごいな。男の人相手でも気圧されることなく立ち向かえてる。怖くないのかな?このまま軽井沢さんに任せていればどうにかしてくれるかもしれない。

 

ㅤそんな思考に陥りかけていた私は視線を軽井沢さんの足元へ落とす。そこで、自分が間違っていた事に気付かされる。

 

ㅤ軽井沢さんの膝が震えていたから。手をギュと握りしめていたから。

 

ㅤ怖くないなんてことはないんだ。軽井沢さんだって怖いんだ。それでもストーカー男の前に立っている。

 

ㅤそれは何故か。私のためだ。全部私のためにやってくれているんだ。さっきの審議会だって、倉持君は私のために戦ってくれた。今も軽井沢さんが私のために戦ってくれている。

 

ㅤそれなのに私はまた逃げようとした。最低だ。

 

ㅤ今からでも遅くない。私が戦わなければ。変わりたいと思うなら、立ち上がらなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もう、やめてください!軽井沢さんは関係ありませんから……軽井沢さんには手を出さないでください!」

 

ㅤ先程まで、腰が抜けて立つことも出来なかった佐倉さんがあたしを庇うようにして前に立つ。その膝はガクガクと震え、顔は真っ青だった。それでも、その瞳は強い決意のようなものが宿っていた。

 

ㅤあたしは何しに出てきたのか。助けに来たはずが、今はあたしが助けられている。過去のトラウマなんていう、見えないものに縛られて、足がすくんでいる。

 

「愛里さえ、僕の愛を受け入れてくれればそれでいいんだよ。僕達は運命の赤い糸で結ばれているんだから」

 

ㅤそう言って、ストーカー男は佐倉さんの腕を掴もうと手を伸ばす。

 

 

 

「えっ?」

 

ㅤしかし、その手が佐倉さんの腕を掴むことは無かった。なぜなら、あたしが、佐倉さんの腕を引いてこちらに引き寄せたから。

 

「まだ僕達の邪魔をするのか?お前には関係ないだろ!」

 

「うっさい!関係あるっ!友達だから、助けるのは当然じゃん!あんたなんか怖くないっ!何が運命よ!バカじゃないの?ただのあんたの妄想でしょ!キモイんだよオタク野郎!」

 

ㅤ恐怖に打ち勝つように、過去のトラウマを払拭するかのように、言い放つ。

 

「な、何を……愛里?僕と君は運命の赤い糸で結ばれているんだよね?」

 

ㅤ縋るように、佐倉さんに問うストーカー男。

 

「佐倉さん、本当のことを言ってやればいいよ。もう、こんな奴怖くないんだからっ」

 

「わ、私は……」

 

ㅤいま、ここで否定の言葉を出してしまえば、ストーカー男はカッターナイフであたしに襲いかかってくるかもしれない。そう思って躊躇してるのだろう。それでも、決意をしたように口を開く。

 

「私はあなたなんて知りません!運命なんてありません!大っ嫌いです!」

 

「な……お前らァ!殺してやる!」

 

ㅤ佐倉さんの言葉に逆上したストーカー男がカッターナイフを振りかざす。

 

ㅤあたしは佐倉さんを庇うように抱きしめ、来る痛みに目をつぶって備えた。

 

「あれ?」

 

ㅤしかし、その痛みは来なかった。疑問に思い、振り向くと、あたしは安心感からか、一気に体の力が抜ける。

 

「遅いよ」

 

「ごめん、でも、間に合ってよかった」

 

ㅤそこにはストーカー男の腕を掴み、こちらに笑顔を向ける、あたしのヒーローが立っていた。

 

ㅤヒーローってのは本当に遅れて登場するらしい。

 

 

 

 

 




次回こそ、本当に2巻の内容を終わらせます。

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