唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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感想、評価、お気に入りありがとうございます。

今回で2巻の内容が終わるといいましたが、次回で終わる予定です。すいません。

それでは続きをどうぞ。



『真実』にする方法

 

 

 

 思いがけない人物の登場に戸惑う面々。驚くのは無理もない。この場にAクラスのリーダー的存在がいるのだから。だが、うちのクラスの生徒はAクラスのことを全く知らないのだろう、誰だか分かっていないようだった。

 

「何故君がここに居るのですか?」

 

「あら、坂上先生、聞いていらっしゃらなかったのですか?私は証人として呼ばれたのです。そちらの倉持くんに」

 

「どういうことですか倉持君。関係のない彼女が何を証言するというのですか」

 

「ええ、坂上先生の発言に対しては坂柳さんは全く関係ありません」

 

「でしたら……」

 

「でも、佐倉さんが嘘をついているか否かには関係しています。なぜなら、坂柳さんは()()()()()()()()()()()ですから」

 

「なっ!?」

 

 僕の発言に今回はDクラスの生徒も含めた全員が驚く。そして、一番最初に反応したのは坂上先生ではなく、堀北さんだった。

 

「ちょっと待ちなさい、目撃者がもう一人いたなんて聞いていないわ」

 

「言えなかったんだよ。坂柳さんが証言してくれる気がなかったからね。変な期待を持たせるのは危険だと思ったんだ」

 

「はぁ、何かと思えばまた目撃者ですか。どうせまた嘘に決まっている。倉持君にでも雇われたのですか?」

 

 

 もちろん、坂柳さんが目撃者というのは真っ赤な嘘だ。昨日、堀北さんたちと別れた後に、電話をした相手は彼女だった。彼女と会った僕はある契約を交わし、今回の偽りの目撃者役を請け負ってもらった。

 佐倉さんの証言を真実だと証明する方法の一つ目は、他の目撃者が現れることだ。佐倉さんと同じ証言をすれば、信憑性は高まる。

 

「雇われると申しますと、私が金銭などで買収されたとおっしゃりたいのですか?Dクラスの生徒がだせる金額などに、Aクラスの私がなびくとでもお思いですか」

 

「べ、別に金銭だとは限らないでしょう」

 

「DクラスとCクラスの問題に全く関係のないAクラスの生徒が嘘をついてまでここに立つメリットとは何でしょうか。嘘がばれれば、停学の可能性もあるリスクを背負ってまで欲しいものなど思いつかないのですが……よもや惚れた弱み、などとはおっしゃいませんよね?」

 

「うっ」

 

 なぜ目撃者役を坂柳さんにお願いしたのかは、彼女が言った通り、嘘をつくメリットがないからだ。それに彼女がAクラスのリーダー格であり、成績も良く、先生から優等生としての評判がいい。それは他のクラスの先生であっても知っているはずだ。だからこそ、坂柳さんが嘘をついてまでこの場に現れるのは考えにくいのだ。

 しかしまだ足りない。

 

「ひとつ、私からも質問させてもらおう。なぜ今になって目撃者としてこの場に来た?出てくるならもっと早く出てくるべきではないか?それに嘘をつくメリットがないのは認めるが、目撃者として現れるメリットもないのではないか?」

 

「堀北の言う通りだ。名乗り出るなら最初のうちに出ればよかった」

 

「ええ、おっしゃる通りです。ですが、そもそも私は名乗り出る気はかけらもありませんでしたから。先程も言いましたけど、Aクラスの私には何もメリットはありませんから」

 

「では、なぜここにいる?」

 

 『本物の目撃者』であるとするならば、今更出てきた『理由』が必要だ。これは佐倉さんの時にも言われたことだ。あの時はDクラスの生徒ということで、確実にでっち上げたものだと思われたが、今回は違う。坂柳さんが、『Aクラスの生徒』であり『優等生』であることで、印象が変わってくる。さらには嘘をつくメリットがないことを認めているので、『本物の目撃者』であることに近づいている。それなら『理由』なんてそれらしいことを言っておけば問題はない。

 

「それは倉持くんの熱意に負けたからでしょうか。彼とは趣味が一緒でして、話す機会が少しだけあるのですが、その際に私が目撃したことをうっかり話してしまったのです。それからは大変でした。毎日毎日証言してほしいと頭を下げに来られたのですから。それだけ熱意を見せられれば私が絆されてしまってもおかしくはないでしょう」

 

「須藤君の事件の再審とこの件で証言をしてもらおうと思っていたのですが、前者はCクラスの方々が取り下げてしまったので」

 

「なるほど、理由としてはおかしなところはないな。そういえばまだ何を見たのか聞いていなかったな。話してくれ」

 

 これでまた一歩前進。いや、ここまで来れば、チェックメイトまであと一手だ。

 

「私が見たのはCクラスの生徒が殴りかかるところからです。その後、須藤君が反撃するも、無抵抗で攻撃を受けていました。ああ、それから、そちらのDクラスの生徒があの場から去って行くのも見ました。私はこの足ですので逃げることは難しかったので、隠れてやり過ごしていましたが」

 

「佐倉と証言の食い違いはないか。立ち去る佐倉の姿も見ている。それが本当であれば証拠としては十分だろう」

 

「本当なわけがないでしょう!証言が一緒なのは事前に聞いていただけの可能性もある、それに証拠がない。そう、証拠がないんだ。仮に言っていることが真実であっても、それを確実に証明するものは無いはずです。これ以上は時間の無駄ではないのかね?」

 

 坂上先生の言う通り、確実なものがない。いくらこちら側から目撃者を出しても、確実なものにはなりえないのだ。片方が『真実』だと主張しても、もう片方が『嘘』と言い張れば、平行線だ。

 では、どうすれば共通の『真実』にできるか。そんなものは簡単だ。

 

「そうですね。そちらの生徒が佐倉さんと坂柳さんが言っていることが『真実』だと認めてくれない限り、こちらとしてはどうしようもないですね」

 

「それはありえないでしょう。うちの生徒は嘘をついていないのですから」

 

「これで無理なら僕の負けですかね。すいません、みなさん。時間を取らせてしまって。……あ、最後に一つよろしいでしょうか?」

 

「……構わん」

 

「そういえば、坂柳さんの証言には続きがあるんですよ。須藤君が立ち去った後にもその場に残っていた坂柳さんにはね」

 

 これが最後の一手。これが不発に終われば、本当に打つ手がなくなる。尤も、不発に終わるなんて思っていないが。

 

「何を言おうと無駄ですよ。うちの生徒が認めるわけないでしょう」

 

「まぁ、最後の悪あがきと思って聞いてくださいよ。しっかりとね。お願いするよ坂柳さん」

 

「ええ、任せてください。私の証言には続きがあります。須藤君が去った後、私はCクラスの生徒がいなくなるのを待っていました。それでその後の行動も見ていましたの」

 

「ちょ、そ、それって」

 

 Cクラスの生徒の顔がみるみる青ざめていく。自分たちがあの後何をしたのかを思い出したのだろう。

 

「おもむろに携帯を取り出し、どなたかへ電話をかけていましたよね?これで須藤は終わりだ、とか」

 

「ま、待ってくれ、もしかして……」

 

 坂柳さんが何を言おうとしているかを完全に察したのだろう。『その名』をここで言われることが、彼らにとってどういう意味をさすのか。『その名』が彼らにとってどれほど恐ろしいものなのか。

 

「確か、電話の相手の名前をおっしゃってましたと記憶してますが……名前は……そう、りゅ……」

 

「ま、待ってくれ!!」

 

 チェックメイト。これで僕たちの勝ちだ。もう彼らは認めざるを得ない。仮にそれで停学になっても、それ以上に『その名』を、彼らのボス『龍園』の名前をこの場で出されることの方が怖いのだ。

 

「あら、何を待てば良いのでしょうか。私の証言が『真実』だと認めていただけまして?」

 

「ああ、認めるよ!坂柳が言った通りだ!全部、俺らがやったことだ。俺らだけで!」

 

「な、なにを言っているんだ君たちは!」

 

「今回の事件は、須藤君を石崎君たちが呼び出し、わざと殴られ、須藤君をハメようとした。それで間違いないんだね?」

 

「そ、そうだ。須藤のくせにレギュラーに選ばれてムカついたから……」

 

 これで、佐倉さんの証言も、坂柳さんの嘘の証言も、『真実』になった。共通の『真実』にする方法、それは相手側が『真実』だと認めればいいだけのこと。

 これが、僕の佐倉さんが嘘をついていないことを証明する方法だ。

 

 証明はできた。あとはこの審議をどう終わらせるかだけだ。

 

「本当に君たちは何を言っているのですか!そんなことを言ってしまえば停学、あるいは退学になってしまいますよ」

 

「そうだな、嘘をついてここまで騒ぎを起こしたんだ。それ相応の罰を受けることになるだろうが……どうするつもりだ?」

 

「はい、この場合Cクラスの生徒にも改めて罰を受けてもらうのが普通ですが、それは止めときます」

 

「おい!倉持てめぇ何言ってんだよ!こいつらが認めたんなら罰を受けさせるべきだろうが」

 

 今まで事態の急変についてこられずに黙っていた須藤君が水を得た魚のように声を上げる。こいつは本当に分かっていないな。

 

「須藤君が言う通り、そのほうが良いかもね」

 

「あたりめぇだ。悪いことをしたら罰を受けるなんて常識だぜ」

 

「じゃあ、君も停学だね」

 

「はぁ?何言ってんだ?俺は悪くないだろう」

 

「理由が何であろうと、一方的に暴力をふるった事実は揺るがない。暴力は悪いことじゃないのかい?」

 

「だから、正当防衛だって……」

 

「君はまだ分かっていないのか?事件の真実なんてどうでもいいんだよ。君が殴らなければこんなことにはならなかった。大切なのは事件そのものを起こさせない事だ。そろそろ自分の非を認めるべきだ。それがかっこ悪いと思っているのなら、それは間違いだ。自分の過ちを認めるのも強さだと僕は思うよ」

 

「う……」

 

 須藤君に思っていたことを口にする。割り込まれて少しイラついていたので言い過ぎてしまったかもしれないな。須藤君は項垂れて席に座ってしまう。とりあえず、今は須藤君よりもこちらを終わらせよう。

 

「今言った通り、Cクラスの生徒の処分を求めれば、須藤君も罰を受けることになってしまう。それはこちらとしても避けたいんです」

 

「避けたいだと?そんなものどうしようもないでしょう!君もうちの生徒みたいに取り下げるとでもいうのですか」

 

「そんなことはしませんよ。忘れていないですか?僕が訴えているのはCクラスの生徒じゃない。坂上先生、あなたです。事件の真実を認めさせたのもそのためです」

 

「どちらでも一緒でしょう。共倒れするしかもう道はない」

 

「ありますよ。僕は示談を求めます」

 

「示談だと……」

 

 ここからは考える隙を与えるな。この先生も馬鹿ではないだろう。考える隙を与えれば、反撃される恐れがある。冷静でない今が好機なのだから。

 

「示談金として、クラスポイント50ポイントの譲渡。そして、これまでの佐倉さんに対する発言の撤回並びに謝罪を要求します」

 

「そんなの受け入れるわけが……」

 

「それなら、本格的にそちらの生徒を訴えさせていただくだけです」

 

「それでは須藤も罰を受けることになるぞ」

 

「仕方がないでしょう。それに、こちらが受ける罰はそちらよりかは軽くなることは明白ですし。ああ、それともし示談を受けていただけないのであれば、そちらの()()()()にもご足労願うことになると思いますのでよろしくお願いしますね」

 

「なっ……」

 

「早く決めていただけますか?」

 

「待て、一回持ち帰らせていただこう。クラスの生徒に相談するべきだろう」

 

 一時退避を選んだか。それが正しい判断だ。落ち着いて考えれば、突破口が開けるかもしれない。だが、それをさせるつもりはない。

 

「何を迷う必要が?示談を受け入れなければ、そちらの生徒3人は退学でしょう。それで失うクラスポイントがどれほどのものかは先生ならお分かりでしょう。それが50ポイントの損失で片が付くんです。それとも、謝罪することが先生のプライドが許しませんか?」

 

「そ、そんなことは……」

 

「あなたのプライドは生徒3人を退学にしてまで守らなければいけないものなのでしょうか」

 

「っ……!……わ、分かった。示談に応じる」

 

 坂上先生が、先生としての自覚がある人で良かった。これでようやく終わりだ。黙って状況を見守っていた生徒会長が、口を開く。

 

「話は纏まったようだな。それでは書類の作成を始めるとしよう」

 

「あとひとつ、この件はこれで終わりにすることを約束してもらえませんか?後々蒸し返すのはお互いに良いことではないでしょう」

 

「ええ、分かりました。約束しましょう」

 

「それでは、その旨も含めて作成する」

 

 それから、書記の橘先輩が、書類作成をするため、完成を待つことになった。Cクラスの面々は満身創痍といった感じで、覇気が全く感じられなかった。

 完成を待つ間に、須藤君に一応、謝っておくか。

 

「須藤君、さっきは少し言い過ぎたよ。ごめんね」

 

「いや、倉持が言ったことは間違ってねぇ。どっかで分かってたんだ。バスケも喧嘩も、自分が満足するために突っ走ってきた。けど、今はもうそれだけじゃないんだよな……。俺はDクラスの生徒で、俺一人の行動がクラス全体に影響を与える。それを身をもって体験したぜ……」

 

「それに気付けたのなら、須藤君は変われるさ」

 

「そうだといいんだけどな」

 

 彼も彼なりに思うことがあったのだろう。彼が変われたとは思っていない。でも、今回の件で変わるきっかけができたかもしれない。それを生かすも殺すも彼次第だ。

 

 そして、書類の作成が終わり、坂上先生の謝罪が行われる。謝罪を受けた佐倉さんはどうしたらいいのか分からず、わたわたしていたが、しっかりと謝罪を受け取り、審議会は閉会となった。

 

 Cクラスの面々は早々に生徒会室を後にした。坂柳さんも、続いて退室する。その後に佐倉さんが勢いよく立ち上がり、僕に頭を下げる。

 

「本当にごめんなさい!私が弱いせいでこんなことまでさせてしまって……」

 

「僕はただ約束を守っただけだよ。だから、ごめんなさいより違う言葉が欲しいかな」

 

「……うん、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「私も頑張らないとダメだね。勇気を出してみる」

 

 そう言って佐倉さんは小走りで生徒会室を出て行ってしまった。何か嫌な予感がする。

 

「もう終わった?って佐倉さん?なんで走って行って……」

 

「軽井沢さん!佐倉さんを追いかけてくれない?もしなにかあれば僕に連絡してほしい」

 

「へ?よ、よくわかんないけど、まかせてっ」

 

 生徒会室に入ってきた軽井沢さんに佐倉さんのことを任せる。僕が追いたいところだが、まだやることが残っている。

 特に明らかに怒っている堀北さんをどうにかしなければ。

 

「どういうつもりかしら?何も聞いていないのだけれど」

 

「ごめん、ごめん!先に言うと反対されると思って」

 

「当たり前でしょ。下手したら全てが無駄になっていたのよ」

 

「まぁまぁ、結果的にはクラスポイントも入ったことだし、結果オーライってことで」

 

「はぁ、倉持くん、次はないわよ」

 

「うっ、じゃ、じゃあ僕は先に出ておくね」

 

 睨んでくる堀北さんから逃げるように生徒会室を後にする。それを見てか、生徒会長も席を立つのが横目で分かったので生徒会室の外で待つ。

 

「うまくいってよかったな」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

「あれがお前の言った佐倉が嘘つきではないと証明する方法か。Cクラスの生徒自体に認めさせる、か」

 

「手っ取り早い方法ではありますが、随分危ない橋を渡りましたね。示談に応じてもらえてよかったですね」

 

「本当にそう思うか橘」

 

「え?どういうことですか?」

 

「こいつが危ない橋だと思っていなかったということだ。確実に坂上先生が示談に応じると分かっていたのだろう。その上で話をあそこまで持って行った。徐々に逃げ場を無くしてな」

 

「それは買いかぶりすぎですよ。内心ひやひやしてましたから」

 

 こちらを見ていた堀北会長は、さらに真剣な顔で僕を見る。男に見つめられてもうれしくないんだけどな。

 

「お前は佐倉のために行動を起こしたのだな」

 

「そうですが、どうしたんですか?」

 

「本当に佐倉のためなのか些か疑問でな。得たものがありすぎる」

 

「……何が言いたいんですか?」

 

「今回の件でDクラスは、クラスポイントを失うか現状維持かの2択しか存在しなかったはずだ。それをお前はプラスにした。それもCクラスのポイントを削ってだ。これでCクラスの完全敗北で話を終わらせることができた。それに目撃者役を坂柳にやらしたことも、坂柳とのパイプを作ることに繋がっているのではないか。ただ佐倉の証明をするだけなら、鈴音の策だけでよかったはずだ。Cクラスが訴えを取り消した時点で問題はなかったのだからな」

 

「確かにCクラスが取り消したことが広まれば、嘘をついていたのは須藤君でもなく、佐倉さんでもなく、Cクラスだったんだ、と噂が立つでしょうね。でもそれだと噂どまりじゃないですか。真実は結局闇の中に消えてしまう。それが嫌だっただけですよ。あとは偶々です」

 

 そう、偶々だ。偶々、クラスポイントをCクラスから奪えた。偶々、目撃者役に丁度いいのが坂柳さんだっただけ。すべては偶然の産物なんだよ。

 

「まぁいい。最後に一つだけ聞こう。いつから考えていた」

 

「最初から。とでもいえば満足ですかね?」

 

「フッ、行くぞ橘」

 

「は、はいっ」

 

 生徒会長は少しだけ笑みを浮かべ、去って行った。どうやら満足のいく返答ができたようだな。

 

 さて、僕も行くか。向かうは校内のカフェ。そこに待ち人がいるはずだ。

 

 

 

 

「あまりレディーを待たせるのは感心しませんよ。あまりに遅いので帰ろうかと思っていました」

 

「すまない、ってそんなに時間たってないでしょ」

 

「ふふふ、冗談です」

 

「まぁ、待たせたのには違いないからね。ごめん」

 

「あら、律儀ですね。そういうの嫌いではないですよ」

 

「好きでもないってパターンだろ?」

 

「さぁ?どうでしょうか。ふふふ」

 

 坂柳さんとは会うのは実はまだ三度目。それでも彼女の性格は大体把握している。人をいじるのが好きなんだろう。Sってやつだな。サイズもSだし。

 

「今、失礼なことを考えませんでしたか?」

 

「いや、坂柳さんは小さくてかわいいなと思っただけだよ」

 

「小さいは余計ですが、可愛いと言っていただきましたので、見逃しましょう」

 

 どうしてこう、女性は鋭いのだろうか。いわゆる女の勘と言う奴か。

 

 しょうもないことは置いといて、本題に入るとする。坂柳さんの向かいの席に座り口を開く。

 

「目撃者役お疲れ様。助かったよ、ありがとう」

 

「いえいえ、それが契約ですので。それでもお役に立てたのならよかったです」

 

「うん。次は僕が働く番だ。と言ってもまだ先の話だけどね」

 

「ええ、倉持くんには期待していますよ」

 

 僕と坂柳さんとの間で交わされた契約。僕の要求は『目撃者役』。そして、坂柳さんから出された要求は予想外のものだった。

 

「本当にあれでよかったの?あれだと僕も得することになってしまうんだけど」

 

「それはいいことではないですか。まさにwin‐winの関係ですね」

 

「いや、正しくはwin‐winwinの関係になってしまうってことで」

 

「細かいことはいいのですよ。先程の目撃者役は楽しかったです。どうでしたか?私の演技は」

 

 笑顔でそういう坂柳さんを見て、本当に楽しかったんだろうなって思う。あんな状況、普通は楽しめないと思うけど。

 

「上出来だよ。100点をあげよう」

 

「それは嬉しいですね。でも、あそこは少し盛りすぎたでしょうか」

 

「あそこって?」

 

「倉持くんが毎日毎日頭を下げに来た、ってところです。あれではまるでストーカーですね」

 

「ストーカーって大袈裟……」

 

「どうかしましたか?」

 

 坂柳さんが話している途中で黙り込んだ僕に心配そうに声をかける。でも、僕はそれどころじゃなかった。

 

 ストーカー。その言葉は最近僕の頭の中に浮かんだはずだ。そう、佐倉さんのブログを見たとき。さっき佐倉さんは何て言っていた?私も頑張らなくては。何を頑張るんだ?勇気を出す。何に勇気を出すんだ?佐倉さんは何を決意して生徒会室を飛び出たんだ?

 

「まさか、あいつの所に一人で!?」

 

「きゃ!急に立ち上がるからビックリしました。どうかしたんですか?」

 

「ごめん、坂柳さん。話はまた今度!」

 

 坂柳さんの返事を聞く前に僕は走り出す。玄関に着き、靴を履き替える。そのまま携帯を操作しながら校舎を出た。

 

「もしもし、軽井沢さん?いまどこにいる?」

 

《佐倉さんを追いかけてモールまで来たはいいけど、この間の電気屋のとこで見失った!》

 

「やっぱりか!軽井沢さんはそのまま……」

 

《あっ!佐倉さんいたっ!あれ?横に居るのってあの店員じゃん。何で一緒に……とりあえず、追うね!》

 

「待って、軽井沢さん!……くっそ切れてる」

 

 やはり佐倉さんはあのストーカー野郎と決着を付けに行ったのだ。悪い予感がしたときに何故止めなかったんだ。あの手の男は逆上したら何するか分からない。

 

「無事でいてくれよ」

 

 2人の無事を祈りつつ、モールの方へ全力で走った。

 

 

 





次回で2巻の内容が終了。
いつ投稿できるかは分かりません(-_-;)



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