やはり、評価を付けていただくとテンションが上がりますね。
その分、低い評価だとダメージを食らいますが(笑)
それでは続きをどうぞ。
授業が終わり、放課後になる。いよいよ明日、須藤君の運命が決まる。堀北さんと綾小路君、それに櫛田さんは残って明日の話し合いをするらしい。僕もそれに参加する予定だったが、櫛田さんに佐倉さんのフォローをしてほしいと頼まれた。断る理由は全くないので、あちらは任せておこう。
僕は帰り支度を始めている佐倉さんに声をかける。
「今日は一緒に帰らない?」
「え?で、でも、軽井沢さんは……」
佐倉さんがチラリ、と軽井沢さんに視線を向ける。その軽井沢さんはクラスメイトと楽しそうに話していた。僕と軽井沢さんが付き合っていることになっているから、佐倉さんなりに気を使ってくれたのだろう。
「軽井沢さんは、この後遊びに行くんだって。佐倉さんに断られたら一人で帰るんだけど、寂しいなー」
「わ、私でよければ、お願いします!」
冗談めかして言ってみると、勢いよくお辞儀をしてお願いされる。お願いしてるのは僕の方だったはずなのだが。まぁどっちでもいいか。
僕たちは帰宅するために教室を出る。そのまま靴を履き替えるため、1階へと階段を下る。その途中、佐倉さんが申し訳なさそうに話し出す。
「私は帰ってもいいのかな?」
「堀北さんたちのこと?」
「うん……明日のことで色々と話し合っているのに私は何もしないでいいのかなって」
「気にすることはないさ。それは堀北さんたちの領分だ。君は今できることをすればいい。ようは適材適所ってやつさ」
話し合いなんてものは佐倉さんは苦手だろう。堀北さんと相性が良いとは思えないし。円滑化を図るなら参加しないほうが良いに決まっている。それに佐倉さんにはそんな余裕はないだろうしね。
僕の返答に納得しつつも、力になれないもどかしさがあるのか、表情は晴れない。
「私が今できること、か……。何があるんだろう」
「僕が一つ君ができることを挙げるとするなら、それは……」
「ん?そこに居るのはマイフレンドにウサギガールではないか」
佐倉さんに言おうと思っていた事を伝えようとすると、横槍が入ってしまった。声がした方を見ると、そこにはいつも通り、金髪をなびかせている高円寺がいた。こんな呼び方をする時点で誰か分かり切っていたが。
「今からデートにでも行くのかね?無論、私はデートに行くのだが」
「で、ででで、デート!?」
「そんなわけないだろ。一緒に帰るだけだ」
「うん、そうだよね。私なんかとじゃあり得ないよね……」
何故か佐倉さんが落ち込んでしまう。僕なんかとデートだと思われるのは嫌だろうからきっぱり否定しておいたのだが、言い方がまずかっただろうか。それとも、勘違いされた時点で気分を害したとか?いやいや、彼女の僕に対する好感度はそんなに低くないはずだ。……違うよな?
「ナンセンスなのだよ、勇人。もう少しレディーの扱いを学ぶべきだな。空気を読みたまえ」
「お前にだけは言われたくないよ!」
普段、空気を読むことなど全くしない人間に、空気を読めと言われた。屈辱だ。呆れたような顔をしているのが、余計に腹が立つ。
「まだ君も成長途中というわけか。まぁ、いい。それより早くしたまえ、デートに遅れたらどうするのかね」
「いや、勝手に行けよ。何で一緒に行くことになってるんだよ」
「途中まで一緒に帰ってやろうとしているのだ、光栄に思うのが普通だと思うのだがね」
「どんな普通だよ!お前は自己評価が高すぎなんだよ」
「やれやれ。最近の君は価値観がずれてしまっているのではないかね」
またもや呆れたように髪をかき上げながらそう言う高円寺。高円寺と下校できて光栄に思う価値観なんて初めから持ち合わせてはいない。
高円寺は僕から視線を外し、佐倉さんに視線を移す。
「ウサギガールも共にすることを許可しよう。光栄に思いたまえ」
「え、えと、ありがとう?」
「お礼なんて言わなくていいから」
「君よりウサギガールの方が正しい価値観を持っているようだ。精進したまえ」
僕の肩に手を置きながら、無駄に爽やかな笑顔で高円寺が言う。物凄く腹が立つ。なんで僕の実力不足みたいになっているんだよ。
それから高円寺を筆頭に歩き出す。高円寺に聞こえないように小声で佐倉さんに話しかける。
「ごめんね、変な奴が付いてきちゃって」
「ううん、大丈夫。高円寺君面白いし」
高円寺が面白い?もしかして佐倉さんの感性はずれてるんじゃないだろうか。それとも僕の方がずれているのか。
「ときに勇人よ、夏のバカンスの話は聞いたかね?」
「ああ、聞いたけど。あれって噂だろ?」
「私が噂などに惑わされると思うのかね?バカンスがあるのは事実なのだよ」
「あ、あの、バカンスって何の話ですか?」
「あれ?噂で聞いたことない?」
結構広まっている噂だから知っていると思っていたが、知らなかったみたいだ。佐倉さんに、夏休みにバカンスがあることを説明する。
「へぇ~、そんなのがあるってすごいね。知らなかった。噂をする友達がいないから……」
「フッ、知っているぞ。そういうのを『ボッチ』と言うのであろう?」
「はぅ!?」
「なんてこと言うんだよ、高円寺!佐倉さんはボッチじゃないから!友達なら僕がいるから!」
高円寺の歯に衣着せぬ発言がクリティカルヒットした佐倉さんを慌てて慰める。もうちょっと言い方があるだろ。言っとくけど、お前もボッチみたいなもんだからな?本人に全く自覚はないが。
「あ、ありがとう、倉持君」
「これからは僕と噂話しようね」
「ふむ、ボッチではないのか。ああ、そうか。もうひとつの方だったのだな。これは失礼した」
「もうひとつ?」
嫌な予感がしながらも、聞き返してしまう。だが、ボッチ以上に佐倉さんにダメージがある言葉はないだろう。
「存在感が薄く、自己主張が乏しい。まさしく『空気』というやつだな」
「あぅ!?」
「お前は佐倉さんに恨みでもあるのか!?」
「あははは、そうだね……空気だね。私、影薄いし。ぶつかられたときの理由がほぼ『いたのに気付かなかった』だし、中学の時も、出欠を先生が取ってるとき、席に座ってるのに欠席になったこともあるし……」
「佐倉さん!戻ってきて!」
高円寺の発言に佐倉さんは、乾いた笑いを出しながらブツブツと過去のエピソードを話し出してしまう。負のオーラが漂っている。原因を作った奴に至っては高笑いをしていた。
「お前は、もう少しオブラートに包むことができないのか」
「そんなもの私には必要がないのだよ」
「高円寺になくても、周りにあるんだよ。とりあえず、謝りなさい」
「わ、私は大丈夫だから!私なんかに謝ることないよ。そ、それより高円寺君に聞きたいことがあるんだけど……」
高円寺に謝罪させようとしたが、それを佐倉さんが止める。尤も、佐倉さんが止めなくても、高円寺が謝罪するとは思えないが。さっきまで落ち込んだりしていた佐倉さんだが、聞きたいことがあると言ったその表情は真剣なものだった。
「フッ、特別に許可しよう。言ってみるといい」
「ありがとう。あのね、高円寺君は怖くないのかな?『本音』を話して嫌われたりするのとか」
「愚問だな。何を恐れる必要がある。『本音』を言えずして、通じ合うことなどないだろうに。それで嫌われようが好かれようが私には関係ないことだ。私は自分に絶対の自信を持っている。故に私は正しいのだ。だからこそ取り繕う必要はないのだよ」
「……もし……もしそれで相手を傷つけてしまっても?」
「それこそ愚問だ。『本音』とは
「前提を?」
予想外の高円寺の返答に佐倉さんは首を傾げる。
「『本音』とは『告白』だ。自分がどう思ったか、どう感じたかを言っているに過ぎない。『本音を言えば他人が傷つく』なんて前提はおかしいのだよ。『本音』は『指摘』ではない」
「でも、傷つけてしまうことには変わりないんじゃ……」
「それは結果だ。そもそも人は、『
「どういうこと?」
「『自分に価値がない』『自分は役に立たない』そんなことを思って生きているから事あるごとに『傷つく』のだ。そしてそれを他人のせいにして逃げようとする。私は常に『自分が正しい』と思っている。『自分には価値がある』『自分は唯一無二』だと思っている。だからこそ『傷つかない』。他人に何を言われようと、『傷つく』ことはないのだよ」
自分自身を認められないから『傷つく』。相手の『告白』を『指摘』と受け取り、『傷ついた』のを相手のせいにする。自分自身と向き合うのが怖いからだ。それが間違っていると高円寺は言う。これは僕も中学の時に高円寺に言われたものだ。正直、高円寺だからできることだ。人は皆、そこまで強くはない。全てが受け取る側の問題ってのもおかしな話だ。しかし、高円寺の主張は間違ってはいないんだ。
「ウサギガール、まずは今の自分自身を認めるべきではないのかね?強さも弱さも全て、ありのままの自分を見つめることだな。安心したまえ、君よりはるかに重症だった男を知っている。彼奴も少しはマシになっていると良いのだがね。それで私はデートに行くとしよう。精々、悩みたまえ」
最後は僕に視線を向けて言った。それには佐倉さんは気付いていないようだった。高円寺にしては珍しく真剣に話をしていた。いつもなら興味がないと一蹴するのだが。
高円寺がいなくなったあと、少しの間沈黙が続く。佐倉さんなりに高円寺の言葉を頭の中で咀嚼しているのだろう。僕は彼女が話し出すまで待つことにした。
そのまま歩き続けていると、佐倉さんがようやく口を開いた。
「やっぱり高円寺君って凄いね」
「そうだね、あいつは凄いよ。でも、高円寺が言っていたことを鵜呑みにする必要はない。人それぞれの考え方があるんだし、一つの材料として持ってるだけでいいと思うよ」
「うん……あーもう!どうして私はこんなにダメなんだろぉ!」
頭を抱えて叫びだした佐倉さんに驚く。変わりたいのに変われない。そんなもどかしさがあるのだろう。気持ちは痛いほどわかる。
「前から思ってたけど、佐倉さんって意外とハイテンション系だよね」
「はっ!ちが、違うくて……これは違うからぁ!」
「ははは、今もハイテンションだよ」
「あうぅ」
よほど恥ずかしかったのか耳まで赤くして俯いてしまう。しかし、直ぐに顔を上げて話し出す。
「私ね、さっきまで逃げようと思ってた」
「明日の話し合いを?」
「うん……昔からダメなの……人前で話すことが苦手で……明日、先生たちの前であの日のことを聞かれたら、ちゃんと答えられる自信がなくて……それに倉持君が出席しないと分かって心細くて」
「それはごめん。僕もサポートしてあげたかったんだけど」
「ううん、倉持君は何も悪くない。私が弱いからダメなんだ。……でも、頑張ろうと思う。やりたいこと、って言ったのは私なんだから」
どうやら高円寺の言葉は佐倉さんにとって良い方向に進むきっかけになったみたいだ。それは今の佐倉さんの顔を見ればよく分かる。佐倉さんがやるといった以上、僕は止めることはできない。僕にできることは少しでも佐倉さんの負担を減らすことか。
「じゃあ、明日は佐倉さん自身のために証言してくればいい」
「私自身のために?」
「誰かのためとか考えなくていい。君自身が変わるための一歩として今回のことを利用すればいい。その結果、須藤君が救われれば一石二鳥だ」
誰かのためとか、そういう無駄なものを背負う必要はない。自分のためだけに話すと考えれば少しは気が楽になるのではないだろうか。
「ありがとう、倉持君。私、頑張るね」
「うん、頑張れ」
笑顔を向けてくれる佐倉さんを見て、僕は思う。佐倉さんや軽井沢さん、洋介に僕は胸を張って友達と言えるのだろうか。偉そうにアドバイスをしたりしているが、そんな資格があるのだろうか。僕自身が未だ変われていないのに。自分自身を認められていないのに……。
その日の夜、櫛田さんの呼び出しで、いつもの如く綾小路君の部屋に集まっていた。今回は須藤君と堀北さんがいないみたいだ。しかし、いまさら何の集まりだろうか。池君もそれは気になっていたようで、櫛田さんに聞いた。すると、凄いことに気付いた、と言い綾小路君のパソコンを使い、何かを検索し始めた。
「じゃーん。これをご覧くださーい」
妙にテンションが高い櫛田さんが見せてきたのは誰かのブログだった。作りも凝っていて、個人が作ったというより業者が手掛けるような本格的なページだ。そのページに載っている人物を見て、僕は絶句する。
「あれ、この写真って雫じゃん?」
「雫?」
「グラビアアイドルだよ。ちょっと前まで少年誌にも出てたことあるんだぜ」
池君が、綾小路君の聞き返しに答える。雫?グラビアアイドル?違うだろ。これは……。
「佐倉さん?」
「はぁ?倉持、お前何言ってんだよ。佐倉なわけないじゃん」
「やっぱり倉持君もそう思うよね!」
池君は否定するも、櫛田さんが同意する。間違いない、これは佐倉さんだ。どういうことなんだ?
池君はそれでも否定するも、山内君と綾小路君が同意する。なおも否定する池君に綾小路君が決定的な証拠を指さす。
それは、アップされた写真の一部に僅かに写った、寮の部屋の扉だった。
「じゃあやっぱり佐倉は雫なんだ……まだ、ピンと来ないけど」
さすがにこればっかりは池君も認めざるを得ないようだ。僕としては写真を見た瞬間に佐倉さんだと分かったんだが
「でも確か雫って人気出始めた後、急に姿消しちゃったんだよな」
山内君のその一言が少し気になった。姿を消したにもかかわらず、今でもホームページに写真をアップしているのはどうしてなのだろう。
夜の9時が近づき、流石にそろそろ解散となり、部屋に戻る。すぐにパソコンを開き、先程のホームページを見る。どうやら、2年ほど前からスタートしているみたいだ。丁度佐倉さんがグラドルとして活動を始めたタイミングなのだろう。
ブログを始めてから1年間、ほぼ毎日ブログを更新していた。その日あった出来事や思いを綴っている。ファンからのコメントにもほぼ全て対応していた。
けど、さすがにこの学校に入学してからはコメントに返答をしていない。外部との連絡を取ってはいけないルールがあるからだろう。
ファンのコメントを見てみると、早く雑誌のグラビアに戻って来て欲しいという意見や、テレビ等に出る予定はないのかといったものがほとんどだった。そんな中、3ヶ月程前の書き込みに目を引かれた。
『運命って言葉を信じる? 僕は信じるよ。これからはずっと一緒だね』
「なんだこれ?こんなファンもいるんだな」
それだけなら良かったのだが、毎日のように書き込まれたいるコメントに次第に顔が強張っていく。そのコメントは段々とエスカレートしていた。
『いつも君を近くに感じるよ』
『今日は一段と可愛いかったね』
『目が合ったことに気づいた? 僕は気づいたよ』
思わずドン、と机を叩いてしまう。それほど気分が悪くなるものだった。関係ない僕がこう感じるんだ。当事者の佐倉さんはどれほどのものを感じているのだろうか。
そこであることに気付く。このコメントがされているのはおよそ3ヶ月前。既にこの学校に入学しているころだ。もしこの書き込みが妄想の類でなければ、学校に入学してから佐倉さんのことを見ていることになる。生徒か、或いは教師か……。
そのままブログを見ていると、ある書き込みを見つけ、身の毛がよだつ。
『ほら、やっぱり神様はいたよ』
この書き込みがされたのは、昨日。デジカメの修理を依頼しに行った夜だった。
「あの店員か!」
あの店員がこの書き込みをしている人物だとしたら行動の説明がつく。佐倉さんに連絡先などを書かせようとしたのはそれが理由か。好きなアイドルの本名から電話番号までを知り得るチャンスだったのだから。
おそらく、入学してからすぐデジカメを買いに行った佐倉さんの対応をしたのがあの店員であり、その時に佐倉さんの正体に気付いたのだろう。ファンならすぐに気付いても不思議じゃない。
そして昨日、修理に出すときに鉢合わせてしまった。だから佐倉さんは最初に躊躇っていたんだ。
他の書き込みを探してみると、次々と危うい書き込みが見つかる。これを見て佐倉さんはどう感じているのだろうか。想像を絶する恐怖を身近に感じて怯えているんじゃないだろうか。
だが、僕には今の時点で出来ることがない。あの店員が直接手を出してきていない以上、どうすることもできないし、佐倉さん自身からのSOSもない。せめてSOSだけでもあればいいのだが……。変わろうとしている彼女が一人で抱え込んで取り返しのつかないことにならなければいいのだが。
結局、手立てが浮かばず、歯がゆい思いをしながら、翌日の審議会を迎えるのだった。
久しぶりに高円寺君がいっぱい話しましたね。
的外れなことを言っているかもしれませんが、雰囲気で見てください(-_-;)