投稿が遅れました。
1週間投稿していなかったのに、日間に載っていたみたいですね。不思議です。
それでは続きをどうぞ。
佐倉さんが協力を申し出た翌朝。僕はいつも通り、軽井沢さんと学校へ向かっていた。まだ夏になっていないにもかかわらず、今日も一段と暑い。
「佐倉さんが目撃者だったのはビックリだけどさ、協力するってこれからどうすんの?」
「どうするんだろうね。武器を一つ手に入れたことには変わりないけど」
僕の横で歩きながらタオルで汗を拭く軽井沢さんが、これからについて聞いてくる。これからどうするかは僕には分からない。決定打がない状況でどう対処するのだろうか。
僕の返答を聞いて、軽井沢さんは腑に落ちないような顔でこちらを見る。
「何か変なこと言った?」
「ううん。そういうわけじゃないんだけど……」
「けど?」
「今までの経緯とか教えてもらったじゃん?それ聞いて思ったんだけど、倉持くんが今回の事件を解決したいと思っているのか分かんなくて」
軽井沢さんの指摘に少し面を食らい黙ってしまう。それを見た軽井沢さんは僕が怒ってしまったと思ったのか、慌てて口を開く。
「べ、別に倉持君が何もしてないって思ってるわけじゃないよ?ただ、倉持君の行動が解決するために動いているように見えないと言うか、何というか……。気を悪くしたならごめんね」
「怒ったわけじゃないから謝る必要はないよ。軽井沢さんの指摘は、あながち間違いではないから」
「はぁ~よかったっ」
安心したように息を吐く軽井沢さん。あまり勘違いをさせるような態度は控えなければな。でも、まさか指摘されるとは思わなかった。いい機会だ、軽井沢さんには話しておこう。
「僕は今回の事件を解決したいと思っているよ。だけど、自由に動けない理由があるんだ」
「どうゆうこと?」
「茶柱先生からの依頼が厄介でね」
軽井沢さんには僕が茶柱先生と取引をして、Aクラスに上がるための駒として働くことになったことは既に話している。それに伴い、軽井沢さんにも協力をお願いするかもしれないこともだ。
「先生からの依頼は2つ。1つは須藤君の停学を阻止すること」
「それだったら倉持君も自由に動いても問題ないじゃん」
「うん、そうだね。でも、もう1つの依頼がそれを難しくしているんだ」
1本だけ立てていた指を2本立てる。これが本当に厄介なんだよな。
「2つ目は、堀北さん、或いは綾小路君にこの問題を解決させること。僕はあくまでサポートするだけなんだ」
「何でそんな依頼を先生がするわけ?倉持君も一緒に解決したほうが確実じゃん」
「それは、堀北さんと綾小路君が有益な駒かどうか見極めるためだよ。Aクラスに上がるためのね」
今回の事件をどう解決するかを見て、実力を測りたいのだろう。だからこそ僕にはサポートだけしろ、と言ったんだ。停学させるなと言いつつ、メインで動くなと言う。これを厄介な依頼と言わず何と言えばいいのだ。
「そういうことだったんだ。でも堀北さんは分かるけど、綾小路君はどうなの?いつも一緒にいるからおまけみたいな感じ?」
「いや、その逆だと僕は思っている。もちろん堀北さんは優秀だ。性格とか協調性は抜きにしてもね。それは疑いようはない」
「それなら堀北さんを見極めるべきじゃん」
「言っただろ、
堀北さんは既にAクラスに上がるために必要な存在だと分かっているだろう。元々Aクラスにいてもおかしくない生徒だ。だが、綾小路君は違う。先生は綾小路君が何かを隠していると思っている。僕もそれは思っているが、確証がない。ただ、茶柱先生は何か確証があるように僕は感じた。
「何か大変だね。でも、やっぱりあたしには倉持君が言うような人には見えないんだけどなぁ」
「まぁ、僕もまだ確証はないからね。もしかしたら普通の生徒かもしれないし。それも含めての今回の依頼だろうね」
「とにかく、あたしは倉持君の指示に従うっ。それに佐倉さんのことも気になるし」
それから世間話などをしながら教室へ向かった。その途中で学校の掲示板に張り紙がしてあるのを見つけた。そこには今回の事件の情報を持つ生徒を募集する旨が書かれていた。堀北さんがこんなことをやるとは考えられないので、おそらく一之瀬あたりが動いてくれているのだろう。しかもその張り紙には、有力な情報提供者にはポイントを支払う用意があるとまで書かれていた。これなら、事件自体に興味がない人でも興味を持つだろう。
「ちょっといいか?」
その張り紙を見ていると、後ろから声をかけられた。振り向くとそこには高身長の洋介とは違ったタイプのイケメンが立っていた。
「何か用かな?」
「張り紙を真剣に見ていたから何か知っているかと思ってな」
「ああ、なるほど。それなら悪いけど力になれそうにないね」
「そうだね。あたしたちも探している側だしっ」
不思議そうな顔をする男子生徒に僕たちの事情を説明する。説明を聞いて納得したような表情を浮かべていた。
「そういうことか。二人ともDクラスだったんだな」
「勘違いさせてごめんね。僕は倉持勇人、それでこっちは軽井沢恵さん」
「Bクラスの
改めて自己紹介をし、差し出された手を握り握手をする。やはり神崎君はBクラスの生徒だったか。その神崎君が僕の顔をじっと見ているのに気付く。
「何かついてる?」
「いや、お前が話に聞く倉持なんだと思ってな」
「なになに!?倉持君ってやっぱり有名人?」
「そんなわけないだろ。その話を聞いたのって……」
「一之瀬だ」
一気に頭が痛くなった。神崎君が僕を見て何を思ったかも想像できる。この話は広げるべきではないことは明確だ。
詳細を聞きたがる軽井沢さんを抑えて、張り紙の話に戻す。
「この張り紙は神崎君が?」
「ああ。一之瀬に聞いて昨日のうちに用意して貼っておいた」
「協力してくれるんだね。ありがとう、助かるよ」
「何か情報はあったの?」
「残念ながら使い物になりそうな情報は無かった」
軽井沢さんが期待をこめた視線を向けるも、神崎君は首を横に振った。そう簡単にはいかないみたいだな。
期待通りの返答が帰って来なかった軽井沢さんだったが、何かを思い出したかのように顔を上げた。
「掲示板と言えば学校のHPにもあったけど、あれも神崎君?」
「あれは一之瀬だな」
「何の話?」
よく分かっていない僕に、軽井沢さんが説明をしてくれる。なんでも、学校のHPには掲示板があるらしい。そこに張り紙と同じく、情報提供を呼び掛けるものが掲示されているようだ。実際に掲示板を見てみると、そこには目撃者を募る書き込みがあり、閲覧者数まで見られるようになっていた。その数はまだ数十人のようだったが、直接聞いて回るよりも効率的だろう。これがBクラスとDクラスの差だろうか。
「それにしても大々的にDクラスに協力してしまって大丈夫?これでCクラスに目を付けられるかもしれないよ」
「それは問題ない。元々AとCに挟まれている以上、両方から狙われるしな。それに、ルールに基づいての競争なら望むところだが、今回はそのルールの外、許していい行いじゃない」
彼も一之瀬と同じく正義感が強い生徒なのだろう。仲間としては心強いが、敵となると厄介な存在になるかもしれない。
話の途中で神崎君の携帯が鳴る。悪い、と言いながら神崎君が携帯を操作する。
「一之瀬からのメールだ。情報が一つ入ったらしい」
「マジっ!?」
「聞いてもいいかな?」
「ああ、例のCクラスの一人、石崎は中学時代は不良で有名だったらしい。喧嘩の腕も立ち地元で恐れられていたみたいだ」
その情報は予想以上に良い情報だった。須藤君が殴った生徒は普通の生徒だと思っていたが、そうではないのだ。喧嘩慣れしている人物が須藤君に一発も殴れずに終わるなど明らかに不自然だ。
「情報が正しければ、須藤にやられたのはわざとかもしれんな。須藤をハメるために動いたと考えれば自然と話が繋がる」
「それじゃあ、須藤の無罪に繋がるかもってこと?」
「そうだね、でもまだ証拠としては弱い。そもそも一方的に殴ったという事実は変わりないからね」
「そうだな、上手く心証を操作できても難しいだろうな」
神崎君の言う通りだ。これでは無罪にするのは難しい。良くて喧嘩両成敗。両方に罰が下されること。でも、それでは意味が無いんだ。
「神崎君、色々ありがとね」
「こちらが勝手にやっていることだ、気にするな。また何か情報が入れば連絡する」
神崎君にお礼を言って、連絡先を交換してもらい、教室へ向かう。後ろに綾小路君と一之瀬の姿が見えたが、気にせずその場を後にした。
ホームルームを終え、茶柱先生が教室を出て行く。それを櫛田さんと綾小路君が追って行ったのを見て僕も席を立つ。
「行ける?佐倉さん」
「う、うん」
「みんなついてるから大丈夫っしょ」
「ありがとう」
ホームルームが終わったと同時にこちらに駆け付けた軽井沢さんが佐倉さんを励ます。佐倉さんが心配と言っていたのは本心だったのだろう。
僕たちも教室を出て職員室の方へと向かう。職員室の前で櫛田さんが茶柱先生を呼び止め、目撃者の件を伝える。そして佐倉さんを呼んだ。
佐倉さんの少し後ろで軽井沢さんと様子を見守る。横を見ると軽井沢さんも緊張した面持ちだった。
それから、茶柱先生に凝視されながら、佐倉さんがゆっくりと証言する。自分が見たことを言葉にする。茶柱先生は最後まで口を挟まずに聞いていた。佐倉さんが話し終わると、すぐに先生が口を開く。
「おまえの話は分かった。が、それを素直に聞き入れるわけにはいかないな」
やはりそう来たか。僕としては予想通りの返答であったが、櫛田さんはそうではなかったみたいで慌てて理由を聞く。
その質問に茶柱先生が答える。それは佐倉さんが初日に名乗り出なかったこと、期限ぎりぎりになって出てきたのは、Dクラスがマイナス評価を受けるのを恐れてでっちあげた嘘だと思っていることだった。
それを聞いていた軽井沢さんが茶柱先生に反論する。
「嘘なわけないじゃん!佐倉さんは勇気を出して証言することに決めたのにどうして信じてあげないわけ?あんた担任でしょ!」
「私が担任だからこそ聞き入れられないと言っているんだ。このまま証言してもDクラスにとって有益になるとは思えん」
「そうやってあんたたち教師は自分のことしか考えてないんだ。クラスで何があっても見て見ぬふりをする。私たちが本当のことを言っても取り合ってくれないんだ」
「落ち着いて、軽井沢さん。今はその話じゃないだろ」
「……うん。ごめん、取り乱した」
おそらくは過去の体験。虐めに遭っていた時のことを思い出したのだろう。勇気を出して虐められていることを先生に言って助けを求めたが、助けてもらえなかったのだろう。もっと悪ければ、先生自体も虐めに参加していたのかもしれない。
頭をポン、と優しく叩いて落ち着かせる。そのまま茶柱先生に視線を向ける。
「信じるかどうかは別として、目撃者であることは変わりないですよね?」
「そうだな、頭ごなしに嘘と決めつけるわけにもいかない。受理はしておこう。ただ、佐倉には審議当日の話し合いに参加してもらうことになるだろう。人と関わるのが嫌いなお前に、それが出来るのか?」
茶柱先生の言葉に佐倉さんが顔を青ざめる。先生に完全に否定された後だ、無理もない。これは証言者としては辞退したほうが良いだろう。
そう思い、佐倉さんに伝えようと視線を向ける。すると、佐倉さんと視線が合い、先に彼女が口を開いた。
「わ、わかりました」
返事を返したものの、自信は薄れているように感じる。それでも逃げずに出ることに決めたのは、彼女自身の強さなのかもしれない。
「その話し合いは他の生徒が参加しても?」
「須藤本人の承諾があれば許可しよう。だが、最大で二人だ。よく考えておくように」
さすがに須藤君と二人だけで参加させるのは酷だ。そう思い、ダメもとで聞いてみたのだがいい返事が返ってきて良かった。
そのまま追い出されるように職員室を後にする面々だが、僕だけその場に残っていた。それは茶柱先生に残るように言われたからだ。軽井沢さんと佐倉さんのフォローをしたいところだったが、無視するわけにもいかない。
「それで、何の話ですか?」
「進捗報告をしてもらおうと思ってな。今のところどうだ?」
「特に動きはありません。このままでは須藤君の停学は避けれないかと」
「それは困るな。Dクラスにマイナスが付くことになる」
困ると言われても、こっちが困る。僕に動くなと言っているんだからどうしようもない。綾小路君が須藤君が救う気がなければそれまでなんだから。
「それと、話し合いの件だが、お前は参加するな。綾小路と堀北を参加させろ」
「それまた無茶を言いますね」
「無茶でも何でもやるんだ。
「まぁ、そうですね。何とかしてみますよ」
そう言って、僕も教室へ戻る。とりあえず、堀北さんに参加してもらえるように頼むとしよう。
教室に戻ると、既に堀北さんの所にみんな集まっていた。堀北さんに説明をしていたようだ。
「ごめんなさい……私が、もっと早く名乗り出てたら……」
「確かに事態は多少違ったかも知れない、けれどそれほど大きな違いはなかったでしょうね。目撃した人物がDクラスだったことが運のツキよ」
「そうそうっ、堀北さんの言う通り。悪いのは先生だよ」
「ちょっと待って、私はそんな事言ってないのだけれど。それに、なぜあなたがいるのかしら」
「そんな細かいことはいいじゃん!それよりこれからどうすんの?」
堀北さんは軽井沢さんの返答を聞いて、諦めたかのように溜息をついていた。軽井沢さんも落ち込んだりしていないようで安心した。
「当日は私と倉持君が参加するべきでしょうね。佐倉さんの支えになれるのは倉持君が適任でしょう。討論になっても問題ないでしょうし」
「うん、そうだね。私じゃ、その部分は力になれないと思うし」
堀北さんの提案に櫛田さんが賛成する。しかし、それを僕は承諾するわけにはいかない。本当なら出てやりたいのだが。
「それは待ってほしい。僕が参加するのは控えたほうが良い」
「なぜかしら?佐倉さんと親しいあなたが適任だと思うのだけど」
「親しいからこそだよ。ただでさえDクラスが仕立て上げた嘘だと思われる可能性が高いのに、クラスで一番親しいであろう僕が出てきたらどう思う?」
「倉持君が親しいのをいいことに、証言を強要してるって感じ?」
「ちょっと言い方がアレだけど、そう思われても不思議じゃない。さらに心証が悪くなりかねないと思うんだ」
それらしいことを言ったが、実際は誰が出ても一緒だろう。普段、大人しい佐倉さんが証言者なので、誰が出ても強要していると思われても不思議じゃないだろう。
「分かったわ。そこまで言うなら違う人にしましょう。あなたの言うことも一理あるわ」
「それなら、綾小路君かな?事情を知っているメンバーの中では一番の適任だろう」
「そうね、そうしましょう。佐倉さんも、それで構わないかしら?」
「……わ、わかった」
佐倉さんがこちらにチラリ、と視線を向けたあと、了承する。本当は話せる人がいた方が彼女にとって心強いだろうが、こればっかりは仕方がない。
とりあえず、審議会に参加するメンバーを決めたところで一時解散となった。
そろそろ2巻の内容も佳境に入っている……はずです。
原作に追いつくのはいつになるのでしょうね。