唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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自己紹介

 

 

チャイムと同時にスーツを着た女性が教室へと入って来る。ポニーテールの美人である。

名前は茶柱 佐枝(ちゃばしら さえ)先生。僕たちDクラスの3年間通じての担任となるみたいだ。先生の軽い自己紹介が終わり、入学式の前に、この学校の特殊なルールについて書かれた資料が生徒に配られる。見覚えがある。合格発表を受けてから貰ったものだ。

 

この学校には、一般的な高等学校とは異なる特殊な部分がある。学校に通う生徒全員に敷地内にある寮での学校生活を義務付けると共に、在学中は特例を除き、外部との連絡を一切禁じていることだ。たとえ両親や兄弟であっても、学校側の許可なく連絡を取ることは許されない。当然ながら許可なく学校の敷地から出ることも固く禁じられている。

それだけ聞けば、かなり不便なものだと思えるが、実はそうでもない。学校の敷地内には、スーパーやコンビニ、カラオケやシアタールーム、カフェやブティックなど数多くの施設が存在する。その広大な敷地は60万平米を超えるそうだ。この大都会のど真ん中によくこんな学校を建設で来たな。さすがは、日本政府が作り上げた学校だ。未来を支えていく若者を育成することを目的として建設され、進学率・就職率100%と言われる進学校なのだ。

 

そしてもう1つ、この学校には大きな特徴がある。それがSシステムと言われるものだ。茶柱先生より説明がされる。

 

「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することが出来るようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただし、ポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ」

 

この学生証は学校での現金の意味合いを持つ。なるほど。かなり大切な物だと理解する。

しかし、()()()()()()()()()か。この言葉はどういった意味を持つのだろうか。今考えても仕方がない事か。それよりも、いくら支給されるかだな。これからの生活において重要な事柄だろう。その様な考えを見透かしてか、茶柱先生が説明を続ける。

 

「それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある」

 

教室の中がざわつく。10万って。予想外の金額に驚きを隠せない。多くて3万程かと予想していたのだが、軽く超えてきた。さすがに日本政府が関わっているだけある。

このクラスだけでも一カ月、数百万。学年では一千万円以上ものお金が支給される事となる。

さらに先生が補足説明をする。曰く、この学校は実力で生徒を測り、入学の段階で10万円の価値と可能性がある。ポイントは卒業後には全て学校側が回収。現金化は不可。ポイントの譲渡は可能。いじめ問題には敏感。との事だ。

 

今の段階で、10万の価値と可能性か。僕たちにそこまでの期待があると言うことなのか?

 

「質問は無いようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

先生が戸惑う生徒を尻目に教室から退出する。淡々と説明だけして居なくなったな。横の席を見ると他の生徒と同様に驚いている様子だったので話しかけてみる。

 

「10万は驚いたね。高校生に渡す額じゃないよね」

 

「う、うん。何に使えばいいか分かんなくなる……」

 

よかった。もしかしたら話しかけても拒絶されるかと思ってたけど、そのような事もなさそうだ。隣人と話ができないのは寂しいしね。

 

「だね~。佐倉さんは何か欲しいものとか無いの?」

 

「特に、ない、かな。……あ、で、でも、新しいカメラが欲しいかも」

 

「カメラか。写真撮るの好きなの?何撮るの?」

 

「え!?う、うん。風景、とか……かな」

 

ちょっと踏み込みすぎたかな。あまり話しかけすぎて嫌われるのも嫌だし、この辺りでやめておこう。それに僕にはやらねばならないことがある。

佐倉さんに、また後でね。と別れを告げ、席を立つ。向かうは高円寺ミラー片手に櫛で髪を整えている金髪の元だ。

 

「また、髪いじってんのか。よく飽きないな」

 

「フッ。当たり前だろう。私はいつも美しくなければならない。だから、髪を整えるのだ。尤も、整えなくとも私は美しいのだがね」

 

じゃあ整えなくていいだろう。なんて野暮な事は言わない。言っても無駄だし。僕が高円寺の元へやって来たのはそれを言うためじゃないのだから。

 

「この後の入学式、サボるなよ?」

 

そう、入学式を出るように釘を刺しに来たのだ。高円寺は始業式や終業式には必ずと言っていいほど出席しない。中学の卒業式もサボろとしてたので、説得して連れて行ったのはいい思い出だ。

 

「勇人よ。私はサボった事など一度も無いのだよ。行く意味がないから行っていないだけだ」

 

「それをサボりって言うんだよ!」

 

どこまでも自分中心で世界が回っている奴だ。取り敢えず、入学式には参加させねば。入学早々問題児認定されれば、友達である僕も問題児扱いされかねない。もう遅いかもだが。決意を固めた中、一人の男子学生が手を挙げる。

 

「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」

 

優しい声で言い放ったのは、如何にも好青年といった雰囲気の生徒だった。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

すごいな。皆少なからず思っていたであろう事を言ってのけた。この人もコミュ力お化けか。青年の提案にクラスから賛成の声が次々にあがる。自己紹介とか苦手そうだなと思い佐倉の方に視線を向けると、案の定俯いて震えていた。一応保険をかけとくか。

 

「ひとついいかな?僕も賛成なんだけど、やっぱり、初対面で話すのが苦手な人って居ると思うんだ。僕もそうだしね。だから、強制はしないって事でどうかな?名前を知る機会なんて後にいつでもあるだろうし、3年間同じクラスなんだから、ゆっくりと仲良くなれば良いしね」

 

「うん。それもそうだね。僕も配慮が足りなかったよ。自己紹介に参加してもいい人だけこっち側に集まってくれるかな?」

 

青年の言葉を聞き、数名の生徒が近くに集まるが、赤髪のいかにも不良な生徒を筆頭に数名の生徒が教室を出て行ってしまう。近くに集まった生徒の中には櫛田さんの姿や、朝、門の前にいた男子学生の姿もあった。自己紹介が始まる前に謝っておこう。

 

「水を差す形になってしまってごめんね」

 

「ううん。ありがとう。それじゃあ僕から自己紹介するね。僕の名前は平田 洋介(ひらた ようすけ)。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でも、サッカーをするつもりなんだ。よろしく」

 

僕の少し否定的な言葉も、笑顔で受け止めてくれて、青年、平田君が自己紹介をする。すごく良い奴だな。友達になりたいと心の底から思える人だった。高円寺以来だな。

 

平田君の自己紹介を皮切りに数名の生徒が自己紹介をしていく。緊張して途中詰まってしまった子や、明らかに嘘だと分かる自己紹介をしている奴もいた。そして、次は僕の知る人物、櫛田さんの番みたいだ。平田君と同じく非の打ち所がない自己紹介だった。大体の人は一言で自己紹介を終えていたが、櫛田さんは言葉をつづけた。

 

「私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆の自己紹介が終わったら、是非私と連絡先を交換してください」

 

全員と仲良くね……。その言葉を聞いて、少し嫌な記憶を思い出す。やっぱり櫛田さんも()()()()()

 

少し考え事をしていると僕の番が回ってきた。無難に済ませよう。

 

「さっきは余計なことを言ってごめんね。倉持勇人です。趣味は読書。好きな言葉は[努力]かな。3年間よろしくね」

 

言い終わるとパチパチと拍手が起こる。良い方向に行けたみたいだ。次に全員の視線が僕の隣に集まる。依然、髪をいじっている高円寺だ。自己紹介をしてもいいから残ったのかどうか皆分からずに困惑しているようだった。そこで平田君が控えめに声をかける。

 

「あの、自己紹介をお願いしてもいいのかな?」

 

「フッ。いいだろう」

 

偉そうに答える高円寺。もう少し態度を隠せないものか。無理だな。高円寺は足を机に乗せたまま自己紹介を始める。せめて降ろせよ。

 

「私の名前は高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ。以後お見知りおきを、小さなレディーたち」

 

控えめに言って、最悪な自己紹介だった。クラスじゃなくて女子だけに言ってるし。皆ドン引きだよ?

そのような周りの反応も意に介さず言葉を続ける。

 

「それから私が不愉快と感じる行為を行った者には、容赦なく制裁を加えていくことになるだろう。その点には十分配慮したまえ」

 

物騒なことを言うなよ。皆、固まっているじゃないか。不安に感じたのか、平田君が聞き返す。

 

「えぇっと、高円寺くん。不愉快と感じる行為、って?」

 

「言葉通りの意味だよ。しかし1つ例を出すならば、私は醜いものが嫌いだ。そのようなものを目にしたら、果たしてどうなってしまうやら」

 

もう、ホント、ちょっとは取り繕うことを覚えろよ。このままだと完全に危険人物扱いされてしまうのでフォローを入れる。

 

「こんな事言ってるけど、基本は無害の良い奴だから、僕共々よろしく頼むよ。何かあったら僕に言って欲しい」

 

「倉持君と高円寺君は知り合いなのかい?」

 

「うん。同じ中学で友達だよ」

 

「そうなんだ。仲が良いんだね。羨ましいな」

 

平田君が話をつなげてくれたおかげで、何とか場の雰囲気を戻すことができた。後でお礼言っとかないとな。次に順番は、門の前にいた男子学生に回る。

 

「えー……えっと、綾小路 清隆(あやのこうじ きよたか)です。その、えー……得意な事は特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

自己紹介を終え、男子学生、綾小路君が席に座る。何というか微妙な空気が流れる。しかし、ここも平田君のフォローで何とか立て直す。平田君優秀だな。

 

しかし、綾小路君か。なんか気になる存在だな。自己紹介する時は誰しも、緊張や不安などの感情が見え隠れするものだ。だが、綾小路君にはまったくその類が見て取れなかった。かなりのポーカーフェイスなのか、或いは……。

 

集まった全員の自己紹介が終わり、入学式が行われる体育館へ向かうため一時解散になった。

僕は、やはりサボろうとしていた高円寺を引き連れ、体育館に向かった。

 

 

 




次回、主人公の過去が少し明らかになります。


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