今回は2話投稿しているので、最新話から来られた方はご注意ください。
それでは続きをどうぞ。
「あの一之瀬さん……なんで
いきなりそいつ呼ばわりか。完全に敵意を持ってるな。
「えっと、ごめんね千尋ちゃん。この間会ったから知ってるよね?倉持勇人君」
「知ってますよ。でも、どうしてここにいるんですかっ」
白波さんがこの状況に涙目になっていた。その様子を見て一之瀬があたふたと慌てる。軽くパニックに陥っているようだった。こいつは優しすぎるんだ。
しかし、白波さんの様子がちょっとおかしい。混乱しているというより何かに怒っているように感じる。
「あの、どこかに行ってもらえませんか。これから大切な話があるんです」
「わ、ちょっと待って千尋ちゃん。その、えっとね、実は勇人君は……」
かなり焦っている一之瀬。告白する前に彼氏だ、と言って断りを入れるつもりなのだろう。だが、それは僕が阻止させてもらう。やっぱり、こういうのはちゃんと話すべきだ。
そう思い、口を開こうとすると、先に白波さんが口を開いた。
「一之瀬さん、それ以上言わなくていいです。私、分かっています」
「え?千尋ちゃん?」
予想外の言葉に僕も一之瀬も固まる。白波さんは断られることを察知したのか?それなら僕の出番はないな。早急にこの場から退却させてもらおう。
しかし、そうはいかないみたいだ。白波さんが僕の方を向く。
「あなたが一之瀬さんをたぶらかしているんですよね?」
「……はい?」
「一之瀬さんが優しいのをいいことに、それに付け込んで最低ですね」
なぜか僕が罵られる事態に発展している。僕が一之瀬をたぶらかす?ありえないだろ。
「待って、千尋ちゃん。勇人君は悪くなくて……」
「一之瀬さんは下がっていてください。私知っているんですよ。この人が4股をかけていること」
「よ、4股!?」
さっきから構図が僕から白波さんが一之瀬を守るようになっている。白波さんが言うには僕が4股をかけているらしい。身に覚えがなさ過ぎて他人事のように感じる。
「あなたはDクラスの軽井沢さんと付き合っているんですよね?」
「まぁ、そうだね」
「ええ!?勇人君、彼女いたの!?ねぇねぇ、どんな子?」
「話が進まないから黙ってて。それでなんで4股だと?」
一之瀬が無駄に食いついてくるが、黙らせる。
「しらばっくれないで下さい。他にもDクラスの生徒をたぶらかしていますよね?何度か食堂で仲良くお昼を食べていたのを見ましたよ」
「そ、そうなの?」
「堀北さんのことか?あれはただ食事をしてただけだよ。Dクラスについての作戦を練っていただけ」
「この間も綾小路君と一緒にいたもんね。やっぱり千尋ちゃんの勘違いだよ」
一之瀬がフォローを入れてくれる。一緒に食事をしただけでそんなこと思われたらたまったもんじゃないぞ。もう一人も同じような感じだろう。
「そうですか。でも、もう一人は言い訳できませんよ。この間、メガネをかけた生徒と手をつないでいましたよね?その後一緒にベンチに座って、たい焼きを食べていました。あれはどう説明するんですか?」
「あちゃー、完全にデートだね。それは言い訳できないよ勇人君」
「それは、元気がなかったから元気づけようとしただけで、デートじゃない。手をつないでたわけじゃなく、手を掴んで引っ張っていただけだ」
まさかアレも見られていたとは。確かに傍から見たらそう見えても仕方がないと言える。というか、一之瀬は味方じゃなかったのかよ。
「そんなの信じられません!」
「そうだよ、勇人君!浮気はダメだよ」
どうしてこうなった。何で僕が二人に責められてるんだよ。二人とも目的を忘れてないか?もういい加減面倒くさくなってきた。
「ああ、もう!僕のことはどうでもいいだろ!白波さん!」
「な、なんですか?」
「君はここに何しに来たの?僕を責めに来たの?違うでしょ。君は一之瀬に伝えたい思いがあってここに来たんだろ。勇気を出して手紙を出してさ。だったら僕になんか構ってないで伝えたいことを伝えればいい。君が一之瀬のことを大事にしていることはよく分かるから」
思えば初めて会ったときから睨まれていたのはこれがあったからだろう。でもそれは一之瀬を思っての行動だった。おそらく彼女は本来、気が弱い性格だろう。それでも大事な人を守るために動いた。それほどまでに一之瀬のことが好きなんだ。
次に僕は白波さんから一之瀬の方を向く。
「一之瀬、君もだ。白波さんがどれだけの勇気を振り絞って手紙を出してここに来たか分かるだろ。この告白で今の関係が壊れても、それでも気持ちを伝えようとしたんだ。その気持ちに君は本音で答えなくてはならないんじゃないか?もしそれが傷つける結果になっても。君が白波さんのことを大切に思っているなら猶更だ」
「っ……」
「僕が言いたいのはそれだけだ。一応言っておくけど、本当に4股なんてしてないからね」
最後に念を押してこの場を去る。何様だよ、と思われるような発言だったかもしれないが、あれで一之瀬がちゃんと向き合ってくれればいいのだが。
それから僕は帰ろうと思っていたのだが、足が止まる。そのまま並木道のベンチに座り白波さんに言ったことを考える。伝えたいことを伝えればいい、か。良くも偉そうに言ったもんだ。僕自身ができていないのにな。
5分ほどたって一人の女生徒が小走りで駆けてきた。その生徒は僕を見つけ、立ち止まる。
「あの……。ごめんなさい。失礼なことを言ってしまって。全部私の誤解だったんですね」
「ああ、構わないよ。一之瀬を守るためだよね」
「はい、でもフラれちゃいました」
「そっか」
彼女の目には涙が浮かんでいた。でも表情は曇ったものではなく、晴れやかなものに感じた。
「ありがとうございました」
「なんのお礼?」
「一之瀬さんに言ってくれたことです。おかげで一之瀬さんの本音が聞けました」
「僕のおかげでもないでしょ。一之瀬は僕が言わなくても本音で答えたんじゃないかな」
「どうですかね、一之瀬さんは優しいですから」
今回の場合の一之瀬の優しさはあまり良いものではない。相手を傷つけまいと空回りしていて、相手の言葉に向き合おうとしていなかった。優しいからこその弊害だ。
「一之瀬被害者の会でも作ろうか。僕が喜んで会長になるよ」
「いいですね。でも残念ながら、参加はできそうにないです。だって私は一之瀬さんが好きだから」
僕の冗談に笑顔でそう返した白波さんは、そのまま寮の方へ帰って行った。
その姿を見て、僕は羨ましく思う。僕もいつか彼女みたいに誰かの事を心から好きと思えるのだろうか。その問いに答えることは出来ない。
白波さんが去った後も僕はベンチに座り続けた。その間にメールを打ち、それを送信する。しばらく経って、一之瀬がトボトボと歩いて来た。僕の姿を見つけ気まずそうな顔をする。
「人生初の告白を受けた感想は?」
「思ったよりきついね。私が間違ってた。千尋ちゃんの気持ちを受け止めようとしないで、傷つけない方法だけを必死に考えて逃げようとしてた。それって間違いなんだね」
「一之瀬は優しすぎるんだよ」
難しいね、と呟き、ベンチに座っている僕の横に一之瀬も座る。かなり疲労しているようだった。
「明日からはいつも通りにするから、って言ってたけど。元通りやっていけるのかな」
「知らないよ。でも、白波さんの方は大丈夫だと思う。だから後は君次第だ」
「そっか。ごめんね、変なことに付き合わせちゃって」
「全くだよ。変な誤解されるし」
「それは勇人君にも問題があると思うなー」
否定できないのが悔しい。でも、そもそも一之瀬があの場に連れて行かなければこんなことにはならなかったんだから、一之瀬が全部悪い。
だが、悪いことだけじゃなかった。白波さんを見て勇気を貰えた。
「今度は私の番だね。やれるだけのことはやってみるね」
一之瀬がベンチから飛び立ち、僕の方を向いてそう言った。須藤君の件で動いてくれるのだろう。一之瀬の働きに期待するとしよう。
それから一之瀬は寮へと帰って行った。僕もそろそろ行くか。
僕は寮には帰らず、ある場所に来ていた。そこは以前に佐倉さんとたい焼きを食べた場所だった。僕はたい焼きを2人分買い、ベンチに腰掛ける。
1時間くらい経ったくらいで僕の前に一人の生徒が現れた。その生徒は走ってきたみたいで少し息が上がっていた。
「来てくれてよかったよ、佐倉さん」
「……来なかったらどうするつもり、だったの?」
「取り敢えず、来るまで待つつもりだったよ」
先程メールを送った相手はこの佐倉さんだった。話したいことがあるから、とこの場所に来てもらえるようにメールをした。来てもらえないことも想定していたが1時間で来てくれたのは良かった。
「まずは、目撃者の事を話してしまってごめんなさい。僕は佐倉さんの気持ちをちゃんと考えていなかった」
頭を下げて謝る。まずはここから始めないと。
しかし、佐倉さんは黙ったままだった。
「もう弁解はしない。どんな理由があろうと信じてくれていた佐倉さんを裏切ってしまったことには変わりないから。でも、前にも言ったけど、僕は君の味方だ。須藤君の退学と佐倉さんを選ぶなら、僕は佐倉さんを選ぶ。それが僕の本音だ」
「……なんでそこまでいえるの?」
「佐倉さんが僕と教室で初めて話したときに、言ってくれたでしょ。僕の目が優しかったって。実はあの言葉がすごく嬉しくてさ。僕は自分の目が嫌いだから」
「そ、それだけで」
「君にとってはそれだけのことでも、僕にとっては大きなことだったんだ。だから僕は佐倉さんとこのまま話したりできなくなるのは嫌なんだよ」
嫌われてもいい、伝えたいことを伝える。それは白波さんの告白で学んだものだった。思っていることなんて簡単に人には伝わらない。ちゃんと言葉にしないとダメなんだ。その結果嫌われたとしても、また考えればいい。まずは伝えたいことを伝える。それからだ。
「結局の所さ、僕は佐倉さんと友達になりたいんだよ」
「とも、だち……」
「そう、友達。まだ僕は友達が少なくてね。佐倉さんにも友達になってほしいんだけど、ダメかな?」
僕が友達と言える人は片手で数えるくらいしかいない。だからってわけじゃないけど佐倉さんとは友達になりたい。彼女と話していても疲れない。ようは気楽なんだ。
しばらく沈黙が続き、ようやく佐倉さんが話し出す。
「ダメだよ……」
「そっか、やっぱり僕のことはもう信じられないか」
「ち、違う!そうじゃ、ない」
「どういうこと?」
完全に断られたと思い、諦めかけたが、どうも違うみたいだ。
「ダメなのは、私の方……。倉持君は誰にも言わない、なんて言ってないのに勝手に裏切られたと思って……。倉持君のこと避けてた。こんな私じゃ、倉持君の友達になる資格なんてないよ……」
「それは違う。僕は友達になるのに資格なんて必要ないと思う。もし、必要だとしたらもう持っているよ」
「持ってる?」
「うん、僕と友達になるのが嫌なわけじゃないんだよね?」
「そ、それは……そうだけど」
「それならもう資格はある。それは友達になりたい、っていうその気持ちなんじゃないかな」
友達の定義なんて人それぞれだ。話しただけで友達と思う人もいれば、お互いを下の名前で呼び合ったらと思う人もいる。それぞれが友達の定義を持っている。だが、一方が友達だと思っていなければ、それは本当の友達とは言えないのでないか。
そう考えると、互いに友達になりたいと思っている。これは友達になる資格としては十分すぎやしないだろうか。
「で、でも、私は仮面を被ってる……。本当の自分を隠してるんだよ」
「僕だって一緒だよ。そうやって生きてきたんだ。でも誰しも少なからず仮面は被って生きているんだと思う。中には仮面を被らず、自分をさらけ出している奴もいる。そいつは凄い奴だ。だからといってそれが正しいとも限らない。だって、みんながみんな本音をさらけ出していたら、世界は大変なことになると思わない?」
「いいのかな……?私は私のままで」
「僕は今の佐倉さんと友達になりたいと思った。もちろん変わっても友達になるけどね」
もし、佐倉さんが今の自分を変えたいと思うのなら、それはそれで良いと思う。友達として手助けしたい。
「……そっか。それでいいんだ。私馬鹿みたいだね、変なことで悩んで」
「そんなことはないよ。僕も同じような悩みがあったしね。それで、返事を聞いてもいいかな?」
「うん、私で良ければ、と、友達になってください」
「ありがとう、佐倉さん」
僕はお礼を言いながら右手を前に出す。佐倉さんは最初それが何か分かっていなかったが、直ぐに気付き、恥ずかしそうにしながらも、右手を前に出してくれた。そして僕たちは握手を交わす。話してよかった。白波さんには感謝だな。一応、一之瀬にも。
和解した僕たちはベンチに座り、僕が買っておいた、たい焼きを並んで食べる。
「完全に冷めちゃったね」
「それでも、おいしいよ」
「そうだね、おいしい」
日も完全に落ちてきたし、そろそろ帰ろうかと思っていると、佐倉さんが話し出す。
「く、倉持君にお願いしたいことがあるんだけど……」
「なにかな?」
「実は明日、櫛田さんと、デジカメの修理に行くことになって……」
「櫛田さんと?ああ、櫛田さんに誘われたんだね」
僕の言葉に、こくんとうなずく。佐倉さんの性格上、一人で修理に行くことができないと踏んで櫛田さんが申し出たのだろう。おそらく、それだけが目的ではないだろうが。
「そ、それで、できれば倉持君も……」
「分かった、一緒に行くよ。櫛田さんには僕から伝えておく」
「あ、ありがとう」
「構わないよ。櫛田さんと二人ってのも佐倉さんにとってはきついだろうし」
僕としても櫛田さんと二人きりってのはきついしな。明日の放課後に行くことになっているらしいのでそれまでに櫛田さんに断りを入れておこう。
それから僕たちはたいやきを食べた後、寮に戻り解散した。今日も一日色々あったが、今日はぐっすりと寝れそうだ。
千尋ちゃんの勇気はすごいとおもいます。同性に告白するってかなりの勇気ですよね。
それより早く7読まないと……