唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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感想、評価、お気に入りありがとうございます。

今回は長くなったので2話に分けました。

それでは続きをどうぞ。



告白

 

 

 僕らが通う高度育成高等学校には寮が4つある。生徒が住む学生寮が3つ、教職員やショッピングモール等の施設で働く住み込みの従業員が住む寮が1つの計4つだ。学生寮は各学年ごとに分かれている。

 つまり、1年生全体が同じ寮で生活している。それは男女問わずだ。そのため、必然的に他クラスの生徒たちとも出会ったり関係を持つことことになる。

 

 何が言いたいかというと、会いたくない人でも、同じ寮に住んでいる以上、ばったり遭遇してしまうこともあるということだ。

 

 

 

 いつも通り軽井沢さんと登校するためロビーに向かう。ロビーに着いたがその姿はなく、待つことにする。軽井沢さんは早く来たり遅く来たり日によって変わる。まだ約束の時間にはなっていないので大丈夫だろう。

 

 ロビーに設置されているベンチに座りながら待っていると、エレベーターが1階に到着し、生徒が降りてきた。その生徒が僕に気付き声をかけてきた。

 

「おはよう、倉持」

 

「おはよう、綾小路君。いつもこの時間だっけ?」

 

「いや、ちょっと早く目が覚めてな」

 

 僕に声をかけてきたのは綾小路君だった。いつもこの時間に見かけないので聞いてみると、やはりいつもより早いらしい。

 

「軽井沢を待っているのか?」

 

「うん、そろそろ約束の時間なんだけど……ごめん、電話だ」

 

 話の途中で携帯が震える。ディスプレイを確認すると軽井沢さんからの着信だった。綾小路君に詫びを入れて、その電話に出る。

 

「ごめん、倉持君!寝坊したっ」

 

「あらら、学校は間に合いそう?」

 

「うん、それは大丈夫。だから先に行ってて」

 

「分かった、遅刻しないようにね」

 

「頑張るっ」

 

 通話が終了する。声が寝起きのものだったので、起きたばっかりなのだろう。それでも時間的には十分間に合うので心配する必要はないだろう。先に行っていいとの事なので、せっかくだし綾小路君と行こうかな。

 

「何かあったのか?」

 

「軽井沢さんが寝坊したみたい。先に行っていいみたいだから、一緒に行かない?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「じゃあ、行こっか」

 

 ベンチから立ち上がり、学校に向かうため歩き出そうとすると、聞き覚えがある声が聞こえた。声の方を見てみるとそこには、一之瀬がいた。管理人と何かを話していたようで、お礼を言っていた。見つからないうちに早く寮を出よう。

 

「あっ!やっほ、勇人君、綾小路君。おはよう」

 

「おはよう、一之瀬」

 

「……おはよう」

 

 歩き出そうとしてすぐに見つかってしまった。見つかった以上、諦めるしかないだろう。

 

「二人は仲良いんだね。この間も一緒にいたし」

 

「今日は偶々だ」

 

「綾小路君、これからも勇人君のことよろしくね」

 

「一之瀬によろしく言われる筋合いはない。それより管理人と何を話してたの?」

 

 このままだと一之瀬の面倒くさいスイッチが入りそうなので、話題を変える。

 

「うちのクラスから何人か、寮に対する要望みたいなのがあって。それをまとめた意見を管理人さんに伝えてたところなの。水回りとか、騒音とかね」

 

「なんで一之瀬がわざわざそんなことを?」

 

「私が学級委員やってるからかな」

 

「学級委員って……もしかしてDクラス以外にはあるのか?」

 

 綾小路君がそう思うのも無理はない。Dクラスの担任があの人だからね。言い忘れていたとかあり得ない話ではない。でも今回はそういうわけではない。

 

「ないよ。Bクラスが勝手に作ったんだって。それで一之瀬が学級委員長」

 

「役割が決まってると色々楽だからね。文化祭とか体育祭のときとか」

 

「なるほどな。Bは統率が取れているみたいで羨ましいな」

 

「そうだね、Dではまず無理だろうね」

 

「別に変に意識したりはしてないよ?みんなで楽しくやってるだけだし。それに少なからずトラブルを起こす人もいるしね。苦労することも多いんだから」

 

 苦労することも多いと言いながらも楽しそうに笑う一之瀬。少なくとも須藤くんみたいなトラブルを起こすクラスメイトはいないのだろう。もしいれば、もっと苦労が顔に出ているはずだ。尤も、一之瀬ならそれでも今のような笑顔をしているかもしれないが。

 

 結局、流れで一之瀬も加えた3人で登校することになり、歩き出す。僕たちが学校に近づくたび、当然ながら生徒の数も増えて行く。

 僕が一之瀬と一緒に登校したくなかった理由の一つはこれだ。周りの視線が集まってしまう。一之瀬は顔は普通に、というかかなり可愛いし、スタイルもいい。女性人気もすごい。だから、周りの視線を嫌でも集めてしまうのだ。

 横を通り過ぎる生徒が次々に一之瀬に挨拶をする。この間カフェに行ったときと同じだ。相変わらずの人気である。

 

 そして、もう一つ僕が、一之瀬と一緒に登校したくない理由がある。

 

「おはよう一之瀬委員長!それに弟君も」

「おはようございます一之瀬さん!弟君と一緒なんですね」

 

「弟君?倉持のことか?」

 

「それには触れないで」

 

 Bクラスの女子に弟君と呼ばれるからだ。だから嫌だったんだ。仲の良い姉弟を見るような目が非常に腹が立つ。それを否定しない一之瀬にも。

 ここで僕が弟じゃない、と言っても、恥ずかしがってるんだね、と言われるだけだ。というか既に言われた。解せない。

 

「あ、そうだ。二人は夏休みのこと聞いた?」

 

「夏休みのこと?」

 

「南の島でバカンスがあるって噂、耳にしてないんだ」

 

 僕も綾小路君も聞いたことがなかった。だが、テストの時に茶柱先生がバカンスに連れてってやる云々言っていたな。あの時は褒美として、と言っていたがこれのことか。茶柱先生が個人的に連れて行ってくれるわけではないのかよ。当たり前だが、あの言い方だとそう聞こえるだろ。うまいこと言いやがったな。

 

「信じてなかったんだが、本当にバカンスなんてあるのか?」

 

「今までの事を考えると、ね」

 

「怪しいよね、やっぱり。私はそこが一つのターニングポイントだとみてるんだよ」

 

「バカンスでクラスポイントが大きく動く何かがあるって?」

 

「そそ。テストよりもグッと影響力のある課題。そうじゃないとクラス間の差って中々埋まらないからさ」

 

 一之瀬の言うことは一理ある。今のままでは差を縮めるのはほぼ不可能だ。競争を促す学校としてはこの状況は望んでいないだろう。差を縮めることができる何かがあっても不思議じゃない。

 

「あとさ、疑問に思ってることがあるんだけどね。最初に4つのクラスに分けられたじゃない?あれって本当に実力順なのかな」

 

「入試の結果で判断しているわけではないだろうな。うちにも成績だけならトップクラスの人間はいるからな。総合力、とかじゃないか?」

 

「私もね、最初はそうかもって思った。勉強は出来るけど運動が苦手だとか。運動は出来るけど勉強は苦手みたいな感じで。だけど、総合力の判断だと下位クラスは圧倒的に不利じゃない?」

 

「この学校は個人戦ではなく団体戦。総合力でAからDに分かれていればDに勝ち目は全くないね」

 

 一之瀬の指摘はもっともだ。クラスの変動は個人の力でどうにかなるものじゃない。クラス全体の力が必要だ。それなのに優秀な生徒をAに集めてしまえば、下のクラスが勝つのはほぼ不可能であろう。

 

「一之瀬はクラスの差が埋まる何かが隠されていると?」

 

「そんな感じかな」

 

「一応聞くと、根拠は?」

 

「あははは、あるわけないじゃない。でも、しいて言うなら、Dクラスに勇人君や高円寺君がいることが根拠にもなるかな」

 

 確かに僕だけならまだしも高円寺がDクラスなのは何かある可能性はある。いくらコミュニケーション力が皆無だとしても実力はAクラスのものだ。彼以上のポテンシャルを持った人物など見たことがない。

 

 その後もクラスのことを話したり、綾小路君が一之瀬に敵に塩を送ることをやめたほうがいい、と忠告したりしながら学校へ向かった。

 その途中、一之瀬が何かを思い出したかのように、その場に立ち止まる。顔を見るといつになく真剣の眼差しを向けられる。一之瀬がさっきまでの明るさから一転し、真剣な顔になったので僕も真剣に彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「あのさ……勇人君にお願いが……」

 

「断る」

 

「断るの早すぎだろ。話くらい聞いてやったらどうだ」

 

 条件反射で断ってしまった。話を聞くつもりがなかったわけではないのだが、お願いと言われて勝手に口が開いたのだ。

 

「悪い、つい断ってしまった。それでお願いって?」

 

「あのさ、良かったら今日の放課後少し時間貰えないかな?事件のことで忙しいのは百も承知なんだけどさ」

 

「特にやることないし、少しだけなら」

 

「ありがと、放課後……玄関で待ってるね」

 

 最後まで真剣な顔で話して校舎へと消えて行った。かなり真剣だったので引き受けてしまったが、何があるのだろうか。

 

「もしかしたら告白かもな」

 

「それはないよ」

 

「そうか?オレから見たら、一之瀬は倉持に少なからず好意を持っていると思うが」

 

「絶対ないって言いきれるよ。だって姉が弟を好きになるわけないでしょ?」

 

 一之瀬が僕に向けている好意は家族愛みたいなものだろう。異性に向けるものではない。一之瀬が僕のことを弟と言っている以上、そんな展開にはなることはないだろう。

 

 

 

 

 教室に着くと、何人かの生徒は既に席に座っているか、他のクラスメイトと談笑していた。自分の席に向かうと、隣人である佐倉さんが顔を俯かせて席に座っていた。

 

「おはよう、佐倉さん」

 

「……お、おはよう」

 

 挨拶を返してはくれたものの、こちらに視線を向けてはくれない。今まで話しかければ視線をこちらに向けてくれていたので少なからずショックを受ける。

 もう一度謝るべきか。謝っても何も解決しないのは分かっているが、僕にできることはそれくらいしかないのだろう。

 

「佐倉さん、目撃者の件だけど……」

 

「……その話は、やめて、ください」

 

「そうじゃなくて、謝りたくて」

 

「わ、わたし、トイレに行って、きます」

 

 立ち上がった佐倉さんはそう言って教室から出て行ってしまった。完全に失敗した。今まで、こんなことになったことがないので、僕にはどうすればいいのか分からないんだ。

 

 それから休み時間などに違う話題で話しかけるも、撃沈。気付けば放課後になり、佐倉さんも足早に帰ってしまった。

 

「どうすりゃいいんだよー」

 

 机に突っ伏して弱音を吐く。どうにか仲直りする手段はないのだろうか。

 そんなことを考えていると、後ろから声がかかった。

 

「倉持、何をやってるんだ?一之瀬との約束があるんだろ」

 

「そうだった。綾小路君、代わりに……」

 

「じゃあな、オレは帰る」

 

 綾小路君に見捨てられる。まぁ、約束したのは他でもない自分なので仕方がない。重い腰を上げ、玄関へと向かう。

 

 

 

 玄関には帰宅する生徒で溢れていた。その中でも一之瀬は目立つため、見つけるのは容易だった。しかし、声をかけようにも、一之瀬の元には次々と声をかける生徒が現れ、タイミングがない。

 

 もう、このまま帰ろうかと思った直後に一之瀬と目が合う。一之瀬が僕に手を振り名前を呼ぶ。周りの生徒、特に男子に睨みつけられる。だから声をかけたくなかったんだ。

 このまま無視をして帰るわけにもいかないので、一之瀬の元へ向かう。

 

「いま、帰ろうとしてなかったかな?」

 

「気のせいだろ。お願いって何?」

 

「直ぐに終わらせるつもりだから、ついてきて」

 

 一之瀬に手を掴まれ、そのまま引っ張られる。離せ、と言っても無駄なことは過去に経験済みなので、黙って付いて行く。それから一之瀬が足を止めたのは体育館裏だった。

 僕の腕を離した一之瀬は僕の方を振り返り、呼吸を整え話し出す。

 

「さてと……勇人君を呼んだのは私が告白……」

 

「されるんだろ?」

 

「そう、ここで告白されるみたいなの」

 

「はぁ、帰る」

 

 真剣な顔で何を言い出すかと思えば、そんなことか。来て損したな。さっさと帰って佐倉さんの問題をどうするか考えよう。

 僕が踵を返すと、一之瀬が再び僕の腕を掴み、帰るのを阻止する。

 

「ちょっと待って!私、恋愛には疎くて、どう接したら傷つけずに済むか分からなくて。これからも仲の良い友達でいたいから……。それで勇人君に助けを求めたの」

 

「断ることは決まってるのか。それは僕に頼むことじゃないだろ。自分のクラスの人に頼めよな」

 

「それが、Bクラスの生徒なんだよね。告白相手。今日のことは出来るだけ秘密にしたいの。そうじゃないとこれから先、気まずくなりそうだし」

 

「それなら僕にも話さない方が良かっただろ。それをネタにBクラスの団結を壊すかもしれないぞ」

 

「それはないよ」

 

 一之瀬は迷いのない顔で断言する。確かにそんなことするつもりも無いが、断言されると何か変な感じだ。それでも、やらなくてはいけない状況になれば、僕は迷わずそれを実行するだろう。一之瀬の信頼を裏切ってでも。

 

「だから……彼氏のフリをしてもらえないかな?」

 

「断る!」

 

 絶対面倒くさいことになると直感した僕は再び帰ろうと踵を返すと、三度腕を掴まれ、それを阻止される。早くしなければ相手が来てしまう。

 

「お願いだから!色々調べたら、付き合ってる人がいるのが一番相手を傷つけないで済むって……」

 

「知らないよ!そんな嘘、後でバレたら逆に傷つけるぞ」

 

「バレる前に、直ぐに分かれたことにするとか!大丈夫、勇人君に私がフラれたことにするから」

 

「そんな心配はしていない!絶対に止めといたほうが良い」

 

「でも、あっ!」

 

 引っ張り合いをしながら言い争っていると、一之瀬が何かに気付いたように声を上げる。嫌な予感がして、ゆっくりと首を後ろに回す。

 そこには告白相手であろう人物が立っていた。驚いたのはその人物が女性であり、前に僕を睨んでいた白波さんだったのだ。

 

 これは思った通り面倒くさいことになることは間違いなさそうだ。

 

 

 

 




続きます。

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