最近、お気に入りが減って増えて、結果プラマイゼロ。という変な状況が続いております。私の力量不足ですね。頑張ります。
それでは続きをどうぞ。
今日もつつがなく授業が終わり、放課後になる。櫛田さんが佐倉さんに話を聞くと言っていたが、今のところ接触はしていない。櫛田さんが接触する前にバレてしまったことを佐倉さんに謝っておこうと思った矢先、櫛田さんが佐倉さんに声をかけた。声をかけられると微塵も思っていなかったのだろう、かなり慌てていた。
「ちょっと佐倉さんに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「私……この後予定あるから……」
「そんなに時間取らせないよ。須藤君が事件に巻き込まれた時に見たことを聞きたいの」
「な、なんで……!?私が目撃者だって……」
櫛田さんに話しかけられてから一度も顔を上げなかった佐倉さんが、櫛田さんの言葉に驚き、顔を上げる。そして僕の顔を見て悲しげな表情をする。
「ごめん、佐倉さんが目撃者だって話してしまった」
「っ!?……信じてたのに」
「待って!話が聞きたいだけで……」
「な、なにも知らない、ので、話すことはありません。さ、さよなら」
僕から視線を外し、強い拒絶を示し距離を取るように荷物をまとめ立ち上がる。机に置いてあったデジカメを握りしめ、歩き出す。
その時、前を見ずに電話をしながら歩いていたクラスメイトの本堂君とぶつかってしまう。その拍子に手に握られたデジカメが手から零れ落ち、高い音を出しながら床へ叩きつけられた。
「嘘……映らない」
佐倉さんは慌ててデジカメを拾い上げデジカメを確認する。どうやら落ちた衝撃で壊れてしまったようだ。何度も電源ボタンを押したり、バッテリーを入れ直したりするが画面は真っ暗なままだった。
「ご、ごめんね。私が急に話しかけたから」
「違います……不注意だったのは、私ですから……さようなら」
咄嗟に櫛田さんが謝るも、佐倉さんは落胆したままこの場を去っていった。それを櫛田さんは悔しそうに見送り僕は何も言えなかった。
『信じていた』か……。佐倉さんにとっては目撃者が自分だったことを僕が話してしまったのを裏切られたと感じたのだろう。……当たり前か。やりたいようにすればいい、なんて言っておいて、すぐに詳細を聞きに来るなんて最低だろう。しかも他の人にバラして。
僕の認識が甘かった。ちゃんと堀北さんに口止めをしておくべきだったんだ。心のどこかでバレても話を聞くだけなら問題ないと思っていたんだ。彼女の気持ちも考えずに。
何やら須藤君と堀北さんが言い合っているようだが、どうでもよかった。僕は予想以上に佐倉さんに初めて拒絶されたことにショックを受けているらしい。
ダメだ。ダメだと分かっていても昔の事を思い出してしまう。久しぶりに受けた拒絶。それが引き金となりトラウマが蘇る。寒気がする。吐き気がする。頭痛がする。克服したと思っていた。拒絶される事なんてもう怖くないと思っていた。でもそんなことはなかった。心の奥底で渦巻く闇が溢れてきそうになる。
「美しくない」
耳に入ったその言葉に嫌な思考が強制的に打ち切られる。自分に言われたのかと声の方を見ると、そこには高円寺ミラーを持ち髪形を整えているいつもの男がいた。
「……何だと? もう一度言ってみろよオイ」
その言葉に反応したのは須藤君だった。どうやら高円寺は僕にではなく、須藤君に向けて言ったみたいだ。
「何度も言うなんて非効率。ナンセンスだ。物分かりが悪いと自覚して言ったのであれば、特別にもう一度だけレクチャーしてあげても構わないが?」
須藤君に一瞥もくれずに煽る高円寺にキレた須藤君が、机を蹴飛ばし勢いよく立ち上が
り、無言で高円寺の元へ歩き出す。教室の雰囲気は凍り付いていた。
「そこまでだ。二人とも落ち着いて。須藤君もだけど、高円寺君も悪いよ」
「フッ。私は生まれてから一度も悪いと思うことはしたことないのでね。君の勘違いなのだよ」
「上等だ。ボコボコにしてから土下座させてやる」
洋介が制止に入るも更にヒートアップする。どんどん近づいて行く須藤君の腕を掴み止めようとしているが止まる気配はない。たまった鬱憤を高円寺にぶつけるつもりなのだろう。
さすがに止めなければ、と思い三人の元へ急いで向かおうと足を踏み出した瞬間、うまく足に力が入らない事に気付く。さっきまで思い出していたトラウマの影響だろう。倒れそうになるも片足で前に飛びながらこらえようとする。だが、それが悪かったのだろう。洋介と須藤君の元へ一直線に向かってしまう。
「ちょ、よ、よけて!」
「え?」
「は?」
途中で止まる事が出来ず、洋介に思いっ切り突っ込んでしまう。
「いてて」
「だ、大丈夫か?洋介」
「う、うん。それより勇人君に怪我がなくてよかったよ」
急にタックルをかまされて床に叩きつけられ馬乗りにされても怒ることなく僕の心配をする洋介。良い奴すぎだろ。……ん?馬乗り?
ヤバいと思った瞬間、女子の黄色い悲鳴が教室に響き渡る。今の状況は僕が洋介を押し倒したような形だ。まぁ実際押し倒したんだけれども。
「カメラ!早く撮らないと!」
「こんなところで大胆!」
「やっぱり2人はデキてるのよ!」
口々に騒ぎ出すクラスの女子たち。やっぱりってなんだよ。前かろそう思ってたのか!?写真を撮られるのは絶対嫌なので慌てて飛び退く。その時に軽井沢さんと目が合う。彼女は何とも言えない表情をしていた。
「違うからね。事故だからね」
「……」
仮とはいえ彼女にホモ疑惑を持たれるのは精神的に辛い。
「え~、とにかく!須藤君は落ち着こう。高円寺が言いすぎたのは僕が謝る。ごめん。でも須藤君も、今、騒ぎを起こすのは良くないことくらい分かっているでしょ?」
「……ちっ、わかったよ」
高円寺を睨みつけ、教室から出て行く。僕の説得で引き下がったと言うよりかは、僕のドタバタで怒りが霧散したのだろう。まぁ、結果オーライだ良しとしよう。
「高円寺、お前は何で喧嘩を売るかね」
「別に喧嘩を売ったつもりは無いのだがね。ただ正論を言ったにすぎない。それをレッドヘアーくんが逆上してきたのだよ」
「お前の言い方が悪かったんだろ?」
「残念だがそれはないのだよ。おっと、そろそろデートの時間だ、僕は失礼するよ。君も少し拒絶されたぐらいで動揺しないことだね」
そう言って高円寺は教室から出て行った。僕の様子に気付いていたのか。やはりあいつは侮れない。
騒動の元である二人が去り、教室は落ち着きを取り戻す。軽井沢さんの誤解を解いた僕は堀北さんたちの会話に加わる。
堀北さんたちは監視カメラの話をしていた。教室には天井付近に2か所のカメラが設置されている。おそらく、毎月の査定に用いられるのだろう。それを聞いて池君が衝撃を受けていた。でも何故、監視カメラの話をしているのだろうか。
「なんで監視カメラの話?」
「綾小路が今回の事件が教室で起きていればって言いだしてな」
「教室には監視カメラがあるからCクラスの人たちの嘘も一発で暴けたんだろうってね」
「なるほど。確かにそうだね」
少し違和感を感じながらも話の流れに納得する。動かぬ証拠があればこの事件も簡単に終わらせるし、目撃者である佐倉さんも必要が無いんだけどな。
今日は精神的に疲れたので、帰ろうと思っていると、堀北さんが綾小路君を一緒に帰ろう、と誘っていた。それを聞いて綾小路君は堀北さんに熱があると思ったのか手のひらを堀北さんの額に触れていた。それを見てニヤリと笑い思ったことを口にする。
「昨日池君が触ろうとしたら投げ飛ばしていたのに、綾小路君は大丈夫なんだね」
僕が言った通り、昨日の作戦会議の中で池君が堀北さんの肩を触ろうとした際に堀北さんが池君を投げ飛ばしていたのだ。それなのに綾小路君が額に触れても何もしないのでからかってみた。
だが、堀北さんは怒ることも焦ることもせず、無表情で綾小路君に手をどけるように言った。
「あと、倉持君。あなたも一緒に帰れないかしら。相談したいことがあるの。それとも平田君とイチャイチャするので忙しいかしら」
前言撤回。からかわれたことに、結構怒っていた。
「暑いね……」
僕たちは教室を出た後、綾小路君が行きたいところがあると言い、特別棟に来ていた。特に変わった様子はないが、相変わらず、異常な蒸し暑さだった。綾小路君も暑そうにしていたが、堀北さんはその様子はなかった。
「悪いな、こんなところに付き合ってもらって」
「構わないよ。どうせ帰るだけだったし」
「貴方も変わっているわね。自分からこの件に首を突っ込むなんて。目撃者は見つかったし、それも不発。もう打つ手がないのに、何をしようというの?」
目撃者の言葉にビクッとする。不発に終わったのは僕のせいでもあるのだろう。
「須藤は数少ない友達だからな。多少の協力はするさ」
「ならあなたには、彼を無罪にする方法があると思っているの?」
「それはどうかな。まだ何とも言えない。それにオレが1人で動くのは、倉持みたいに大勢で行動するのが得意じゃないからだ。今日も聞き込みをやると思ったから逃げただけだ」
「僕も得意ってわけではないけど。綾小路君が言う、事なかれ主義らしい考え方だね」
「本当にね。それで友達だから協力するって、相変わらずの矛盾よね」
堀北さんと綾小路君は普段から一人で行動することが多い分、お互いに分かり合える部分があるように感じる。二人とも洋介とか櫛田さんのこと苦手にしているように見えるし。
僕たちは事件があった廊下に着き、何かないか見て回る。すると、堀北さんが何かに気付いたように辺りを見渡し、考え込む。
「何か見つけた?」
「いいえ、ただここには無かったようで残念に思っただけよ」
「無かった?あ、もしかして監視カメラのこと?」
堀北さんが見ていた天井を僕も見てみるが設置するためのコンセントはあったが、肝心の監視カメラは一つも見当たらなかった。それさえあれば一発で解決だったのだが、そううまくはいかないらしい。
「そもそも、学校の廊下にはカメラは設置されてなかったよな?」
「確かにそうだね。トイレにも、もちろんないし」
「他に設置されてない場所は、更衣室くらいかしら?」
「だな。後は大体ついてる」
「今更残念がることでもないわね。監視カメラがあるようなら、学校側は最初から今回の件を問題になんてしていないわけだし」
堀北さんの言う通り、監視カメラがあれば始めからその映像を確認し、どちらが嘘をついていたかを明らかにしているはずだ。監視カメラがある事に期待していたわけではないが、いざ無いと分かると、少し落胆する。
それから暫くの間うろうろとしていたが、特に得るものは無かった。会話もなくうろうろしていたが、堀北さんが口を開く。
「それで、須藤くんを救う策でも浮かんだかしら?」
「浮かぶわけないだろ。策を講じるのはお前ら二人の役目だ。須藤を救ってくれとは言わないが、Dクラスにとって良い方向に転ぶ手助けをしてほしい」
「無茶を言うね」
綾小路君の言葉に堀北さんは呆れたように肩を竦めていた。しかし、須藤君のためでなく、Dクラスのためとはうまく言ったものだ。これなら堀北さんも協力することに前向きになれる。
「私たちを利用しようって話?ひょっとして、それで私たちをここに?」
「目撃者が佐倉ってことで状況は逆に悪化するかも知れないからな。何か手が無いか探っておいた方が良いだろ。まぁ、倉持はおまけみたいなものだが」
「おい、本人を前におまけって」
「冗談だ」
Dクラスの生徒が目撃者であれば必然とその証言の信ぴょう性は低くなる。逆に目撃者をでっち上げた、と疑われる可能性もある。諸刃の剣であるのは間違いがない。堀北さんもそれは分かっているのだろう。
「須藤くんは気に食わないけど、彼に科せられる責任は軽くしたいと思っているわ。Dクラスの印象を悪くするのも損だしね。それに倉持君が言った通り、Cクラスにマイナスポイントを与えるチャンスでもあるわ」
「……そうだね。それに加えてポイントも残せればクラスメイトの不満も無くなるね」
堀北さんの言っていることは全て本心なのだろう。他の人と同じく須藤君を救おうとは考えている。だが、一つ違うのは須藤君を無実にするのは完全に諦めている点か。須藤君が暴力を振ってしまってることを考えると仕方がないか。
「でも、佐倉さん以外の目撃者が現れない限り、須藤くんの無実を証明するのは不可能よ。Cクラスの生徒達が嘘を認める、でも構わないけれど。あり得るかしら?」
「あり得ないな。特にCクラスは絶対に嘘だとは認めない」
「あっちも証拠がないことを確信しているからこそ、この状況になっているしね」
こっちの手札も須藤君の証言と、佐倉さんと僕が見たものだけだ。決定的な物とは言えない。
「本当に放課後のここは誰もいないな」
「この特別棟は部活でも使用しないもの、必然ね」
「呼び出すには絶好の場所だね。それにしても暑すぎる!」
「頭がどうにかなりそうだな。堀北は暑くないのか?」
僕と綾小路君は暑さに参っているが、堀北さんは涼しげな顔で立っていた。
「私、暑さや寒さには比較的強いから。あなたたちは大丈夫……じゃなさそうね」
「汗だくだ」
「取り敢えず、窓でも開けよっか」
そう言って窓を開けるが、すぐに閉める。
「危なかったな」
「うん……」
窓を開けた瞬間、外の熱風が飛び込んできたのだ。すこし考えたらわかることなのにこの蒸し暑さのせいで思考が鈍くなっていた。
やれることはこれ以上はないと判断し、僕たちは引き返し始める。すると、廊下を曲がろうとしたとき、向かい側から来た生徒とぶつかってしまう。
「あっ」
「わっと、ごめん、大丈夫?」
「は、はい、すみません、不注意でした」
「僕こそ、って佐倉さん?」
「く、倉持君……」
ぶつかった女子生徒の顔を見ると見知った顔だった。お互いに誰か認識したところで気まずい雰囲気になる。こちらに顔すら向けてくれない。何を話していいか悩んでいると、それを見かねた綾小路君が佐倉さんに話しかける。
「佐倉はこんなところで何をしていたんだ?」
「あ、えと。私は写真撮るのが趣味で、それで……」
「趣味って、何撮ってるんだ?」
「廊下とか……窓から見える景色とか、そういうの、かな」
何度か教室で聞いたことがある。須藤君の事件の時も写真を撮りに来ていたのだろうか。それを聞こうと思うも声が出ない。すると次は堀北さんが声をかける。
「少し聞いてもいいかしら佐倉さん」
「あ、あの……」
佐倉さんがこの場に現れた不自然さを見逃すはずがなく、堀北さんは一歩前へ詰めてくる。それに怯えるように後退する佐倉さんを見て、無意識に堀北さんを手で制止する。
「さ、さよならっ」
それを見て、佐倉さんは踵を返し、階段を下りて行く。これで良いのだろうか。このまま何も言わず別れても良いのか。何か言わなくては、と思い佐倉さんの名前を呼ぶ。
「佐倉さん!」
佐倉さんはこちらを振り返ることはしなかったが、階段の踊り場で足を止める。
「君を裏切るような形になってしまって、ごめん。僕の事をもう信じれないかもしれない。でも、これだけは信じてほしい。僕は君の味方だ。もし、誰かに証言を強要されそうになったら相談してほしい。僕が絶対に守るから」
「……今は何も考えられないよ」
そう言って佐倉さんは階段を下りて行った。
「残念ながら振られたわね」
「追い打ちをかけないでください」
項垂れている僕に堀北さんが追い打ちをかけてくる。まださっき教室でからかったことを根に持っているのだろうか。持っているだろうな。
「千載一遇のチャンスだったかも知れないわよ? 彼女、事件のことが気になって足を向けたんだろうし」
「本人が知らないって言ってるんだから無理強いしても仕方ないんじゃないか?それに堀北も、Dクラスの目撃者の証言は弱いって分かってるだろ」
「まあ、そうね。倉持君に仕返しができただけ良かったわ」
「鬼だな」
堀北さんをからかうのは容易にしてはいけない、と僕は学んだ。仕返しがえげつないからね。
「ねぇ君たち、そこで何してるの?」
気を取り直して、引き返そうと階段を下り始めたとき、一人の生徒が声をかけてくる。
「ごめんね急に呼び止めて。ちょっと時間いいかな?もしや甘酸っぱいデート中かな?でも三人だからそれはないか。でもそういう関係もあるかもだし」
「げっ」
振り返ってその生徒を確認した僕はそんな声を出してしまう。そこには美少女が立っていた。しかし、美少女でも、僕が苦手とする美少女。一之瀬帆波であったが。
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