唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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目撃者

 

 

 

翌朝のホームルーム。茶柱先生は、クラス全員に連絡事項がある、と言った。その内容は須藤君の件だった。須藤君がCクラスの生徒と揉めたこと、停学になるかもしれないこと、それによって、クラスポイントの削減が行われること。全てを隠すことなく、淡々と告げる。

 人にどうにかしろって言っといて、ややこしくなる方向に持っていくなよ。と言いたいところだが、担任の先生として、クラスの生徒に事実を伝えなくてはならないのだろう。

 

 ざわつく教室の中で、洋介が茶柱先生に、結論が出ていないのは何故かを問う。なるかもしれないのだから、当然の質問と言えるだろう。その質問に双方の意見が食い違っているからだ、と説明する。

 それを聞いて、悪びれもせず正当防衛だと言い放つ須藤君にクラスメイトは冷ややかな視線を向けていた。頼むから余計な事は言わないでくれよ。

 

 その後、話は須藤君が言っていた目撃者の件に変わる。

 

「どうだ、喧嘩を目撃した生徒がいるなら挙手をしてもらえないか」

 

 茶柱先生の問いに答える生徒は誰もいなかった。

 僕は横目で隣人の様子を盗み見る。彼女は俯き、どこか怯えているかのようだった。人と関わるのが苦手な彼女がこの場で名乗り出るのは無理があるだろう。

 他の生徒の様子も観察していると、堀北さんがこちらを見ている事に気付く。見ているのは僕ではなく、佐倉さんのようだ。堀北さんのことだ、佐倉さんの様子から彼女が目撃者であるかもしれないと気付いたのだろうな。

 

 目撃者がいないことを確認した茶柱先生は、各クラスで同じ説明がされている旨を話し、教室から退出した。これには須藤君もかなり驚いていた。事件のことを隠したかった須藤君にとってはよくない状況だろう。内々に事件を解決することができなくなったのだから。

 

 茶柱先生の後に続き、須藤君もすぐに教室を後にする。この場にいたら、誰かの発言に苛立って、さらに問題を起こしかねないと悟ったのだろうか。それなら良い判断だ。須藤君が出て行った瞬間にクラスメイト達が口々に不満を漏らしだす。この件でポイントがまた0になってしまうかもしれないのだから無理はないが。

 

 次第に収拾がつかなくなり始めた。このままではまずいと思い、動こうとした矢先に立ち上がったのは櫛田さんだった。

 昨日、須藤君に聞いた話をそのままクラスメイトに話す。ただ須藤君の主張を話しているだけなのに、心が籠っている()()()言葉にクラスの大半の生徒は黙って聞き入っていた。

 

「改めて聞くね。もしこのクラスに、友達に、先輩たちの中に見たって人がいたら教えてほしいの。いつでも連絡下さい。よろしくお願いします」

 

 茶柱先生と言っている内容は一緒のはずなのに、クラスメイトの受け取り方はまるで違った。櫛田さんがこのクラスでどれだけ影響力があるかは今の彼女の立ち位置が物語っている。あまり敵に回したくないな。

 

 しかし、櫛田さんの言葉でも須藤君に対する不信感は拭いきれなかった。山内君を筆頭に須藤君への不満が飛び交う。どれだけ日ごろの行いが悪いかが露見している。

 だが、さすがにこれ以上はまずい。須藤君が完全に孤立してしまえば、今後が大変だ。

 

「僕は信じようと思う。彼は日ごろの行動に目が余るところがあるけど、バスケットには真摯に向き合っている。そんな彼がレギュラーに選ばれそうなときに自分から問題を起こすとは思えないから」

 

「あたしもさんせー。だってもし濡れ衣だったら問題じゃん!無実なら可哀そうだしっ」

 

「僕も信じたい。他クラスの人が疑うならまだ僕も理解できる。だけど同じクラスの仲間を最初に疑うような真似は間違ってると思う。精一杯協力してあげるのが友達なんじゃないかな?」

 

 僕の発言に軽井沢さんと洋介が乗ってくれる。これでクラスの中心人物が信じると言っていることになり、クラスの大半が賛同の意を表し始めた。心の中ではどう思っているかは分からないが、表向きはクラスで協力体制になったので良かった。今の流れを変える事ができればそれでいい。

 賛同者を集め、須藤君の無実を証明するための場が発足したのだった。

 

 

 

 

 

 昼休みになり、僕は櫛田さんに連れられ堀北さんの勉強会のメンツと食堂に来ていた。そこでの議題は当然、須藤君の無実の証明方法についてだった。

 しかし、話し合いは序盤にてつまずく。堀北さんが協力を拒否したからだ。

 

「Dクラスが浮上していくために最も大切なことは、失ったクラスポイントを一日でも早く取り戻してプラスに転じさせること。でも、あなたの一件で恐らくポイントはまた支給されることはなくなる。水を差したということよ」

 

 堀北さんの目的はDクラスをAクラスにあげることだ。今回の件はそれを成すための大きな痛手となるかもしれない。怒るのも無理はないか。

 

「待てよ。そりゃそうかも知れないけどよ、マジで俺は悪くないんだって!あいつらが仕掛けてきたから返り討ちにしたんだよ!それのどこが悪い!」

 

「あなたは今どちらが先に仕掛けてきたかを焦点にしているようだけど、そんなことは些細な違いでしかない。そのことに気が付いてる?」

 

「些細ってなんだよ。全然ちげえよ、俺は悪くねーんだ!」

 

「そう。じゃあ、精々頑張ることね」

 

 そう言ってまだ手を付けていない食事をトレーごと持ち上げ席を立つ。堀北さんの言う通り、須藤君の問題は別にある。

 

「助けてくれねーのかよ!仲間じゃねえのか!」

 

「笑わせないで。私はあなたを一度も仲間だと思ったことはないわ。何より自分の愚かさに気づいていない人と一緒にいると不愉快になるから。さよなら」

 

 堀北さんが露骨な溜息をついて去っていく。フォローを入れるべきだろうな。彼女の力は必要になるはずだ。

 

「ちょっと堀北さんと話してくるね。彼女なりの考えがあるのかもしれないし」

 

「うん、分かった。お願いするね」

 

 僕もトレーに食事を乗せ席を立つ。堀北さんを探すと奥の方の席に座り食事を始めていた。席が埋まる前に声をかけよう。

 

「隣、いいかな?」

 

「別に私に許可を取る必要はないんじゃないかしら」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 一度だけ視線を僕の方に向けすぐに食事に戻る。そんな堀北さんの隣に座り僕も食事を始める。

 

「態々来たのだから何か用があるんでしょう」

 

「堀北さんと食事がしたかっただけさ」

 

「……」

 

「ごめん、冗談だよ」

 

 和ませようと冗談を言ってみたのだが不発に終わった。堀北さんにジト目で見られたので謝っておく。慣れない事はするものじゃないな。

 堀北さんは呆れた表情に変わり、溜息をつきながら話を続ける。

 

「須藤君の件で来たのだろうけど無駄よ。私は協力する気はないわ」

 

「須藤君がテストの頑張りを無駄にしたのが許せない?それとも被害者面しているのが理由?」

 

「その通りよ。もし今回の事件、本当にCクラスの生徒から仕掛けたものだったとしても、結局は須藤くんも加害者なのだから」

 

「この騒動は起こるべくして起こったって感じかな」

 

 須藤君の普段の態度はお世辞にも良いとは言えない。気に入らないことがあれば暴言を吐くし、傲慢で横暴な態度を取っていることもある。誰かに恨まれていても不思議ではない。クラスの皆から不満が噴出していたのは当然だろう。

 だからこそ、このような事態は起こるべくして起きたのだ。

 

「どうして彼が今回事件に巻き込まれたのか。その根本を解決しない限りこれから永遠に付きまとう課題だわ。私はその問題が解決されない限り協力する気にはなれないわね」

 

「もし仮に、須藤君が退学になってもいいのかい?マイナスがどれだけあるか計り知れないよ」

 

「それもいいんじゃないかしら。彼に救う価値があるかどうか。これから事あるごとに問題を起こされるよりかはましかもしれないわね」

 

「そっか。須藤君が自分で気づけるかどうかだね。まぁ、そんな事はどうでもいいんだよ。本題に移ろう」

 

「え?」

 

 僕のどうでもいい発言に目を丸くする堀北さん。そんなに意外だったか。口を開けてポカンとしている。

 

「僕が堀北さんと話したかったのは今回の事件を利用できるかもって話だよ」

 

「利用?何にかしら」

 

「もちろん、Aクラスに上がるためのだよ。この間、協力関係を結んだでしょ?」

 

「ええ、そうね。話を聞かせてもらえるかしら」

 

 箸を置き、食事をやめて堀北さんがこちらに視線を向ける。彼女がどれだけAクラスに上がりたいかがよく分かるな。

 

「もし、今回の事件が須藤君の言う通り、Cクラスが嘘をついているのだとしたら、それを暴けば、Cクラスは大きなマイナスポイントになると思わない?学校側に虚偽の訴えをしてこれだけの騒ぎにしたのだから代償は大きいはずだ」

 

「確かにそうだけれど、須藤君が本当の事を言っている保証がないわ」

 

「そうだね。でも、Cクラスが須藤君を陥れようとしている保証はあるよ」

 

 そう言って、僕が特別棟で聞いたCクラスの生徒の会話を堀北さんに伝える。しかしこれも保証とまではいかないだろう。

 

「もちろん、僕の聞き間違えかもしれないし、証拠がない。須藤君と一緒だね」

 

「……分かったわ。少し考えてみる」

 

「あれ?信じてくれるの?」

 

「協力関係にあるのだもの。それくらいの信頼はするわ。それとも信じてもらえない程あなたも日ごろの行いが悪いのかしら?」

 

 最後は冗談めいた感じだったが、すんなり受け入れられるとは思っていなかった。どうやら、一定の信頼はあるようだ。あくまでも、協力者としてだが。

 

「だけど、証明するのはかなり難しいわね。取り敢えずは目撃者に話を聞いてみるしかなさそうね」

 

「その言い分だと目撃者が誰か分かっているみたいだね」

 

「あなたも分かっているのでしょう。直接聞いてみましょう」

 

 やっぱり堀北さんも気付いていたんだな。僕は初めから確証があったが、堀北さんはあの短時間でクラス全体を見て見つけ出したのだから凄いな。素直に感心する。

 だが、堀北さんが聞きに行くのはやめたほうが良いだろうな。絶対認めないだろうし、かえって警戒させてしまうだろう。

 

「佐倉さんに確認するのは任せてくれないかな?僕の方が何度か話しているから話しやすいだろうし」

 

「そうね。任せるわ。私としてもその方がありがたいもの」

 

 その後、食事を再開する。何とか話がまとまってよかった。これからは堀北さんが何か策を講じてくれるだろう。あとは須藤君に対する見方が少しでも変わってくれたらいいのだが。

 

「そういえば、先輩に聞いたんだけど、部活の活躍や貢献度に応じて個別にポイントが支給されるケースがあるらしいね」

 

「そうなのね。入賞したりしたら貰えるのかしら」

 

「みたいだよ。だから文科系の部活も盛んなんだよ。もちろん体育系もね」

 

「ポイントがもらえるのは良い事ね」

 

「そうだね。そう考えると須藤君の価値も少しは出てくるんじゃないかな」

 

 僕は食べ終わった食器をトレーに乗せ、堀北さんに別れを告げ、席を立った。堀北さんは何かを考えているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、グループに分かれて聞き込みをすることになった。グループに分かれてと言っても参加人数は多くない。やはり須藤君の為に動くことに抵抗がある人が多くいるみたいだ。

 聞き込みの前に、櫛田さんと綾小路君が僕の元へやってくる。

 

「倉持君、堀北さんはどうだった?」

 

「須藤君の根本的な問題が解決しないと協力するつもりがないって言ってたけど、取り敢えずは説得は成功したかな」

 

「良かった~。でも、須藤君の問題って何かな?」

 

「それは、綾小路君に聞いてみるといいと思うよ」

 

「オレにふるなよ」

 

「あ、それじゃあ僕は先に帰るね!少しやる事があるんだ」

 

 そう言って、僕は急いで教室を後にし、下足ロッカーで靴を履き替えていた人物に声をかけた。

 

「佐倉さん、良かったら一緒に帰らない?」

 

「ふぇ!?い、いいけど」

 

 了承を貰ったところで横に並んで寮までの帰路につく。どう切り出そうかと考えていると、佐倉さんはチラチラとこちらの様子を窺っていた。どうやら僕が何を聞きに来たかを察しているようだった。

 

「あ、あの……も、目撃者の……話、ですか?」

 

「うん、そうだね。今から二つ質問するね。答えても答えなくてもいいからね」

 

「え?う、うん」

 

「一つ目の質問。佐倉さんは目撃者ですか?」

 

 変に遠回しに聞いても仕方がないので単刀直入に聞く。すると、ゆっくりと首を縦に振ってくれた。

 

「二つ目の質問。これは重要な事だ」

 

「な、なに、かな?」

 

 足を止め、真剣な顔で佐倉さんを見る。この質問の答え次第ではこれからの道が大きく変わってくる。

 

 

 

「……たいやきは好き?」

 

「う、うん。……へっ?た、たいやき?」

 

「そう!たいやき!この間おいしそうなたい焼きの屋台を見つけたんだ」

 

「あ、あの、目撃者の話じゃ……」

 

「ああ。それは最初の質問で終わり。確認したかっただけだし」

 

 もとよりどちらでもよかった。答えなくても、聞いたけど答えてくれなかったという事実があるだけでいいのだ。

 それより、たいやきだ。軽井沢さんと遊びに行ったときに見つけたのだが、軽井沢さんがあんこが苦手で買えなかったのだ。それ以来、食べたくて仕方がなかった。

 

「それじゃあ話も終わった事たし、食べに行こう!お礼に奢るから」

 

「わわっ!」

 

 佐倉さんの手を取り、早足で屋台へと向かう。もう、僕の頭の中はたいやきで埋め尽くされていた。

 

「ついた、ここだよって大丈夫?」

 

「きゅうっ……だだだ、だい、だいじょうぶ」

 

 少し急ぎすぎただろうか、顔を真っ赤にしてへなへなになってしまっている。取り敢えず近くのベンチに座らせ2人分のたいやきを買って隣に座る。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとう。いただきます」

 

「「おいしい」」

 

 期待以上の味に無言になって食べてしまう。少しの間、2人とも無言で食べていると、佐倉さんの食べる手が止まり、ぽつりと話し出す。

 

「名乗り出たほうが良いのかな?」

 

「目撃者の話?」

 

「うん。で、でも私、勇気が出なくて……」

 

「うーん、別に名乗り出なくてもいいんじゃないかな。佐倉さんのやりたいようにすればいい」

 

 僕の返答が予想外だったのか顔を上げてこちらを見る。

 

「目撃したからって名乗り出る義務はないしね」

 

「で、でも、それだと、須藤君が……」

 

「目撃者が現れなかったら別の方法を探すでしょ。あまり考え込む必要は無いよ」

 

 もし、佐倉さんが名乗り出なかったとしても他に方法を探せばいい。目撃者が現れればすべて解決する訳でもないし。

 

「決断するのは佐倉さんだ。でも、無理はしなくていいからね。君がやりたいことをすればいい。言ってくれれば手を貸すし」

 

「やりたいこと……」

 

「よし、じゃあ帰ろうか」

 

「うん。あ、あの、ありがとう、倉持君」

 

「どういたしまして」

 

 佐倉さんが言ったお礼はたいやきに対してなのか、他の事なのかは定かではないが、この一件を通して、彼女自身が一歩前へ進むことができればいいなと思った。

 




これから軽井沢さんの出番がしばらく減りそうですね

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