バスを降りると、まず初めに大きな門が目に入った。これが僕がこれから通う事になる学校か。試験の際に一度訪れてはいるが、改めてその大きさに思わず見上げて足を止めてしまう。
ふと、視線を門の前の階段に落とすと、同じ制服を着た男女二人が向かい合って話をしていた。女性の方は綺麗な黒髪で、これまた綺麗な顔立ちをしており、男子学生の方はパッと見た感じ物静かそうな端正な顔立ちをしていた。美男美女のコンビであったので余計に目に入る。
「そうかしら。自分の信念を持って行動しているに過ぎないわ。ただ面倒事を嫌うだけの人種とは違う。願わくばあなたのような人とは関わらずに過ごしたいものね」
「……同感だな」
何やらいい雰囲気とは言い難い空気が漂っていた。入学早々トラブルか?初日から問題を起こすバカはいないか。いや、バスの中で早々にトラブルを起こした奴がいたか。その問題児をジト目で見てみる。
「ん~。やはり今日も美しい」
大きな門や、他の生徒に目もくれず、高円寺ミラーこと、いつも持ち歩いている手鏡で自分の顔を見ていた。お前は本当にブレないな。
「あの、ちょっといいかな?」
これから高円寺がどんな問題を起こすかを想像して頭が痛くなっていたところに後ろから声がかかる。振り返ってみると、先ほど高円寺に果敢にも挑んでいった可愛い女の子が立っていた。やっぱりさっきの件で怒って文句を言いに来たのかな。
「えっと、大丈夫?」
「ごめんごめん!で、なにかな?」
心の中でどうしようかと冷や汗をかいていたら返事をするのを忘れてしまった。結果的に無視をしてしまう形になり、さらに怒らせてしまったかもしれない。そのような考えも彼女の言葉で杞憂に終わる。
「さっきはありがとう。私じゃ席を譲ってもらうことは出来なかった」
「いやいや、お礼なんていらないよ。元はと言えば高円寺が悪いんだし。逆に不快な思いをさせてしまって申し訳ない。ほら、高円寺も謝っとけ」
今回の件でお礼を言われることはしてないし、
頭を下げながら、高円寺にも謝罪を促す。尤も、こいつが素直に謝罪するとは思ってないが。高笑いして終わりだろう。しかし、その予想を反し、全く反応がない。
「高円寺君?だったら、もう先に行っちゃったみたいだよ」
「まじでっ!?」
顔を勢いよく上げ横を見るとさっきまで美しいと連呼していた金髪の姿がない。あいつ置いていきやがった。どこまで自由人なんだよ。一人で恥ずかしいじゃないか。高円寺に恨みを込めていると、目の前の女の子が笑い出す。
「ふふっ。あ、ごめんね。なんか面白くて。私は
「恥ずかしいな。僕は倉持勇人だよ。よろしくね」
女の子、もとい櫛田さんの笑顔に癒されつつ自己紹介をする。お互い、学年を聞かなくても、この学校の制服を着て学校の
「ここで立ち話してるのもあれだし、教室に向かおっか」
「それもそうだね。入学早々遅刻して目を付けられるのも嫌だしね」
櫛田さんの提案に同意しつつ、大きな門をくぐる。ここから僕の高校生活が始まる。
櫛田さんと、他愛のない話をしながら校舎に入り、教員らしき人物に名前を言って、自分のクラスが記入された用紙などが入っている封筒を受け取る。どうでもいいが、入学早々、このような可愛い女の子と登校できるなんて、僕はついているんじゃないか。
封筒を開き中の用紙を見てみると、そこには”D”の文字。どうやら僕はDクラスに配属されたらしい。どうせなら、Aクラスの方が響き的に格好良かったな。などと考えていると、手続きが終わったらしい櫛田さんから声がかかる。
「倉持君はどのクラスだった?私はDクラスだったよ」
「お、奇遇だね。僕もDクラスだよ」
「ホントに!?知り合いが一人でもいると安心するね。これから3年間よろしくね!」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
俺としても知り合いがいるのは心強い。だが、櫛田さんに至っては知り合いが居ても居なくても、然程変わらないんじゃなかろうか。と言うのもここまで話してきて分かったが、この子、とんでもないコミュ力を持っている。そんな彼女はすぐにでもクラスの中心人物になるであろう。僕としては
二人で教室に向かっていると、周りの視線が痛い。なんでお前みたいなのがそんな可愛い子と仲良く登校してんだって感じの視線が痛い。しかも、櫛田さんの距離が近い。分かってやってるのか知らないけど、余計周りの視線が鋭くなる。
その視線に耐えながらも、Dクラスの教室に到着する。おはよう。と挨拶をして中に入ると、数人の生徒が挨拶を返してくれる。ざっと教室を見渡すと、先程校門の前で話していた二人も席に座っていた。しかも隣同士で。なんか関わりたくないみたいなことを言っていたが大丈夫なのか。
それよりも、気になるのが居る。教室の真ん中の方の席に。足を机の上で組んで、鼻歌まじりに爪をといでいる金髪の大男が。櫛田さんに別れを告げ、誰もが避けているその人物に僕は迷わず近づいて行く。
「おい、高円寺。黙って行くなよ。恥かいたじゃないか」
「おお、勇人か。また一緒のクラスとはつくづく縁があるようだな。君が同じクラスであるなら、少しは楽しめるだろう。美しい私と同じクラスなのだ。喜んでいいと思うのだがね」
いきなりの高円寺節。俺の話を聞いていたのか?確かに高円寺とクラスが一緒だったのは嬉しいが。と言うのも、俺と高円寺の関係は普通の友人とは少し変わっている。放課後や、休みなどに遊んだりしたことがないし、連絡先は一応知っているが、連絡を取り合ったことも数回しかない。その数回も、高円寺がどこかに失踪した時に掛けたものだ。
基本的に高円寺とは、学校の中でしか関わりがないのだ。それでも、何故、仲が良いのかは僕自身もよく分かっていない。恐らく、高円寺の前では変に取り繕ったりしなくて良いからなんだろう。クラスが違っていたら話す機会も格段に減っていただろう。
「はいはい。喜んでますよー。それより、その体勢やめた方が良いと思うぞ。友達出来ねぇぞ」
「悪いが、マイフレンドの意見でもそれは聞く必要性が無いな」
「何でだよ」
「私は私がやりたいようにする。周りの事など気にする意味がない。友達ができない?残念ながら今の時点でこの教室に私の友にふさわしい人物など君を除いて誰一人としていないのだ。それに、女性は年上に限る。よって、私が体勢を変える必要が無いと思うのだがね」
「そーかい。好きにしてくれ。僕は自分の席に行くとするよ」
御覧の様に高円寺は友達である僕の意見は素直に聞き入れる訳ではない。大体は聞き入れずに自分を突き通す男だ。バスでの一件は偶々聞き入れたに過ぎないのだ。ただ、僕の意見は他の人より聞く耳を幾分か持ってくれるだけなのだ。それが分かっているので、そこまで大事じゃなければ、僕も食い下がったりはしない。
一応、忠告はしたので自分の席へ移動する。後ろの方の席か。隣には眼鏡をかけた大人しそうな女の子が俯いて席に座っていた。挨拶しておくか。
「おはよう。隣の席の倉持勇人です。よろしく」
「え、あ、あの……お、おはよう……」
「あ、ごめん。びっくりさせちゃったかな?名前聞いてもいい?」
「いや、あの、そ、その……」
驚いた。って言うのもあるが、どうやらそれだけでも無いみたいだな。定まらない視線。強く握られた手。そうゆうことか。悪いことをしたな。僕が言えることは。
「ごめんね。急に話しかけてたりして。無理しなくていいからね。とりあえず、隣の席だしなにか困ったことがあったらいつでも相談してね。力になれるか分からないけど」
できるだけ優しく笑顔で話す。おそらく彼女は人と接するのが苦手或いは男性が苦手なんだろう。いきなり初対面の相手に声をかけられれば、緊張するのも当たり前だろう。無神経だったな。と反省し話を切り上げ、席に座る。すると、横の彼女から声がかかる。
「あ、あの……。さ、
「佐倉さんか。よろしくね。それと、ありがとう」
「え?」
「名前。人付き合いが苦手なのに僕に名前教えてくれたでしょ。それって結構勇気がいると思うんだ。だからありがとう」
実際、僕が同じ立場なら相当勇気がいるだろう。急に話しかけてきて、勝手に話を切り上げられた後に自ら名乗るんだから。あー。これも反省だな。櫛田さんとかだったらこんなミスしないんだろうな。
「そ、そんなこと、ないです。無理しなくていいって、言ってくれましたし。それに、倉持君の目が優しかったから……」
「目?」
「な、なんでも、ない、です」
優しい目か。そんなことはないんだよ佐倉さん。僕は優しくなんてない。僕は人の顔色を窺ってばかりいたから。だから、少し
僕の思考を遮るように教室に始業を告げるチャイムが鳴り響いた。
メインヒロインは佐倉さんの予定です。
もしかしたら増えるかも...。