次回から原作の話に戻ると言いましたが、今回はオリジナルの話になりました。
すみません(__)
ご指摘があり、一角スペースをいれる事と三点リーダーの書き方を変えました。
随時、これまでの話も変えたいと思います。
鶴マタギ様、ぜにさば様ありがとうございます!
それでは続きをどうぞ。
次の日、学校に行くためロビーへ降りると、軽井沢さんがいた。ロビーに設置されているソファーに腰かけ、誰かを待っている様子だった。
「おはよう。誰か待ってるの?」
「おはよっ。倉持君を待ってたに決まってんじゃん」
「僕を?何か用があったの?」
「仮とはいえあたしたち付き合ってるわけじゃん。それなら一緒に登校してもおかしくないっしょ」
それもそうだな。今日から仮の恋人になるのだ。一緒に登校するのは不思議な事ではない。だが、それだけではないようだ。
「理由の半分はそれ。もう半分はもうすぐ来るよ」
軽井沢さんがそう言ったのと同時にエレベーターが到着した音が鳴り、中から一人の男子生徒が出てきた。なるほど。軽井沢さんの意図が読めた。
「おはよう、二人とも。話したい事って何かな?」
その男子生徒は僕らのよく知る爽やかイケメン、平田洋介だった。
「おはよ、平田君。取り敢えず場所を変えて話そっか」
僕たち三人は歩き出す。洋介に話すのは僕たちの事。仮の恋人を演じることになった事。そして、軽井沢さんが虐めに遭っていた事。
これらの事を洋介に話そうと決めたのは昨日、晩御飯を食べ終えた時だった。
「ねぇ軽井沢さん。提案があるんだけど」
「提案?」
食事を終え、満足感に浸っているときに、僕が考えていた事を口にする。
「そう、あくまで提案だから最終的に決めるのは軽井沢さんだ」
「うん、わかった」
確認をしたところで本題に入る。
「提案っていうのは、洋介に僕らの事を話さないか、って事」
「平田君に?どうして?」
「洋介にも知っておいてもらった方が何かと動きやすいと思うんだ。手助けもしてもらえるし、何より信用ができる」
「そっか」
「でも、僕たちの事を話す場合、君が虐めに遭っていた事も同時に話さなくてはならない。洋介ならそれを聞いて、言い触らしたり、脅してきたりは絶対しないだろうし、どうだろう」
彼の性質上、友達を裏切る事など絶対にしない。それは僕らが1ヶ月一緒にいてよく分かっている。だからこそ軽井沢さんは洋介に彼氏役を頼もうとしたんだ。
僕の提案に軽井沢さんは黙ってしまう。洋介に言うべきか考えているのだろう。
「さっきも言ったけど、あくまで提案。断ってくれても問題はないよ」
必要ないとは思うが、一応断りやすい空気をつくる。少しの間沈黙が続き、軽井沢さんが口を開く。
「うん、いいと思う。元々話すつもりだったし、メリットしかないもんね」
「君が良いのなら、話そう。タイミング的には早いほうがいいけど、折を見てだね」
こうして、洋介にも話すことに決まったのだが、まさか昨日の今日で話すとは思わなかった。行動が早いな。
寮の裏手にある公園に移動した僕らは、昨日の状況を掻い摘んで話した。もちろん、軽井沢さんが泣いた事や彼女の傷の事は話してない。あくまで、偽の恋人を演じることになった経緯を話しただけだった。
「そんな事があったんだ」
「うん。だからこの事は誰にも言わないでほしいの」
「もちろんだよ。絶対に言わない。約束するよ。それで、僕にできる事は?」
「いや、洋介は何もせずに今まで通りにしてほしい。ただ知っておいてもらった方が何かあったときに都合がいいと思ってね。君にとっては理不尽な事だけど頼むよ」
「うん、分かった。すごく嬉しいよ。話してくれたって事は僕を信用してくれているって事でしょ。だから理不尽だなんて思わないさ」
勝手に秘密を話しといて何もするな、と理不尽な事を言われているにも拘らず、そう言ってのける彼は本当に優しい奴だと思った。一応、嘘を言っていないか観察をしていた僕が恥ずかしくなるほどに。
しかし、一つだけ気になったことがあった。
「洋介、もしかして軽井沢さんが虐めに遭っていた事を知っていたのか?」
「え?」
僕の質問に軽井沢さんが驚く。当の本人は何も言わなかった。
「軽井沢さんが虐められていた事を話したとき、君は驚きの表情を見せなかった。君が見せた表情はどこか納得したようなものだった」
「よく見てたね。知っていたわけじゃないけど、そうじゃないかな、とは思っていたよ」
「うそっ!?なんで?」
洋介の言葉にまたも軽井沢さんが驚く。洋介にも僕の目のようなものがあるのだろうか。
「……僕はね虐められている人特有の匂いとか気配が分かるんだ。申し訳ないけど、軽井沢さんからそれらが薄っすらと感じ取れたんだ。だから話を聞いた時納得したんだ」
「そ、そうだったんだ。隠しきれてなかったんだね」
「それは偶々洋介が気配に敏感だっただけだよ。でも何でそんな事が分かるの?」
少し落ち込んだ様子の軽井沢さんをフォローしつつ、疑問に思ったことを聞く。
それが、
「そうだね。二人になら話してもいいかな。僕はね中学二年生になるまで、どちらかと言えばクラスで目立たない生徒だったんだ」
「平田君が?ほんとに?」
いつもクラスの中心に立っている洋介からは想像ができない。
「本当に普通の生徒だった。そんな僕には杉村君って男の子の幼馴染が居たんだ。小学校6年間同じクラスですごく仲が良かった」
懐かしそうに、過去を話す洋介。その表情はどこか儚げだった。
「中学に入って初めて別のクラスになった。だからかな、次第に遊ぶことも少なくなった。僕も新しい友達とばかり遊ぶようになっていたしね。それ自体はどこにでもある話じゃないかな」
クラスが違えば疎遠になる事だって自然だ。新しい友達と遊ぶ事だって何もおかしくはないだろう。
「でもね……僕が新しい友達と遊んでいる裏で、杉村君は虐めに遭っていたんだ」
洋介の表情が変わる。彼の表情は、初めて見る、怒りのような、悔しさのようなものだった。
「杉村君は、何度か僕にSOSを発信していた。でも僕は、元々喧嘩っ早い彼の性格もあって深く考えなかった。新しい友達と遊ぶ事を優先したんだ。でもね、二年生に上がって再会したときに僕はその間違いに気付かされた。彼の心は壊れてしまっていた。明るかった彼は見る影も無くなっていた。教室には暴力は当たり前の、酷い虐めの光景が広がっていた……」
「っ!?」
その話を聞いて昔の事を思い出したのか、軽井沢さんが震える。僕は彼女の手を握り落ち着かせた。
「それで洋介はどうしたの?」
「何となく分かるでしょ。僕は何もしなかった、出来なかった。自分がターゲットになる事を恐れて、僕の日常が壊される事が怖くて……。いつかは飽きてやめる。誰かが助けてくれる。そんな都合の良い事ばかり考えて目を逸らしたんだ」
「杉村君はどうなったの?」
それだけじゃないはずだ。洋介の顔が物語っている。彼の闇に繋がる
「あの日の事は今でも頭に焼き付いているよ。朝、教室で杉村君が顔を腫らして僕を待っていたんだ。僕はその時、最悪な事を考えてしまった。彼に関わると僕も虐められてしまうんじゃないか、ってね。そんな僕の醜い心が見えていたのか、何も言わず、だけど訴えかけるように、その日の授業中に窓から飛び降りてしまったんだ」
「だから洋介はみんなを助けようとするのか」
「うん。彼が飛び降りたとき、わが身可愛さのために大切な友人を死に追いやってしまったんだって気付いたんだ。だから僕は償いをしたい。そしてそれは誰かを救う事でしかなし得ない。傍にいる人たちを助けたい。
これが洋介の闇。救えなかった友人への償い。これが杉村君を救う事に繋がるわけではないのを分かっていながらも、周りを救う事で償いになると考えたのだろう。
でもそれは簡単な事ではない。
「洋介、その生き方は大変だよ。周りの人すべてを救う事なんかできないんだ。絶対に。それで、もし救えなければ君はそれすらも背負う事になる。いずれ君は
「……分かってる。それでも僕にはそれしか出来ないんだよ。それくらいじゃなきゃ償いにはならない」
大変な生き方だからこそ意味がある。自分を追い込むことで償いになる。それで君自身が壊れてしまったら意味が無いだろ。
だが、まだ間に合う。僕と違い、洋介は
「君はその生き方を変えるつもりは無いんだね?」
「うん、無いよ。僕はヒーローじゃない。だから全員を救えるわけじゃない。だけど、せめて傍にいる人たちは救いたいんだ」
迷いがない。一点の曇りもない決意を話す。これは何を言っても無駄だろう。
だけど、ここで引き下がるつもりはない。
「はぁ~。洋介の決意は分かった。だけど、君が壊れるのは見逃せない」
「なんで?」
「友達だから。高校に入って初めてできた友達。だから、僕は洋介を手伝う。洋介が救えない人を僕が救う。救えなかった責任を僕も一緒に背負う。そうすれば少しは荷が軽くなるだろ?」
溜息をつき、笑いながらそう告げる。それは偽善かもしれない。でも僕は洋介が壊れていく姿を見たくないんだ。僕が彼と友達になりたいと思ったのは彼が優しい男だったから。心から人に優しくできる男だったからだ。そんな洋介が壊れる姿なんて見たくないのだ。
「あ、あたしも!あたしも協力するっ。あたしには杉村君の気持ちがよく分かる。あたしも同じ道を辿っていたかもしれないから。だから、今の平田君が壊れて行くことを杉村君は望んでいないと思う!」
軽井沢さんも僕に続いて協力を申し出る。本当に杉村君がそう思っているかなんて誰にも分からない。それでも、彼女はそう感じ、洋介が壊れてほしくないと思ったのだろう。
僕と一緒で既に壊れてしまった者として。
「勇人君……。軽井沢さん……」
「どうする?今なら仲間が2人もできるチャンスだよ、勇者さん」
少しふざけながら洋介に問う。洋介の場合、重く受け止めてしまいそうだから少しふざけた方がいいだろう。
「ははは!そうだね、パーティーは多い方がいいね!」
笑いながら僕の問いに答える。僕が彼に会ってから見た笑顔の中で一番良い笑顔だった。
「あー!もうこんな時間!遅れちゃうじゃん!」
軽井沢さんが焦ったように言う。時計を見てみると、ホームルームまで10分を切っていた。このままだと遅刻だ。
「本当だね、急ごう。走れば間に合うよ」
「「うん」」
洋介パーティーの最初の試練は授業に間に合う事みたいだ。僕らは校舎に走って向かった。
走りながら僕は考える。
軽井沢さんは虐められていた過去を話し、その根源である傷を僕に見せてくれた。
洋介は過去に友達を見捨てた罪を話し、自分の償い方を生き方を僕に教えてくれた。
それに対して僕はどうだろう。自分の過去、醜い過去を少しでも二人に話したか。いや、話していない。未だに僕は怖いのだ。嫌われるのが。
僕は卑怯者だ。人の弱みを聞いといて自分の弱みを見せない。
僕は臆病者だ。人の過去を詮索しといて自分の過去は晒さない。
話さなければならない。話したくない。
僕の事を知ってほしい。僕の事を知らないでほしい。
僕は変わりたい。僕は変われない。
そんな矛盾が僕の中に渦巻いている。このままで、友達と言えるのだろうか。
胸を張って、彼らの友達だ、と言えるのだろうか。
「無理しなくてもいいよ。ゆっくり、いつか話してくれればいい」
僕の心を見透かしたように洋介が僕に語りかける。
そうか、洋介にとって
洋介の言葉に気を取り直す。今は遅刻しないように精いっぱい走るとしよう。
次回こそは原作の話に戻ります。
まだ一巻の内容すら終わっていないですね(^-^;
遅くてすみません。
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明日は更新予定はないです。