かなり難産でした。
うまく書けなくて何度も書き直し一応完成しました。
原作4巻のネタバレを多量に含まれますので、お気を付けください。今更ですね(笑)
それでは続きをどうぞ。
少しだけ、僕の話を聞いてほしい。
僕の目は相手の感情を読むことができる。相手の嘘を見抜くことができる。意識して相手を観察すれば、大抵の人は分かる。
だが、僕にはどうしても読めない感情がある。それが人を愛する感情。要するに恋愛感情だ。
何故、読むことができないのか。
それは、単純に
僕が最初に覚えた
それから、僕は喜びを、安心といった
それでも僕に向けられる
だから僕はボクとして仮面を被った。
そうして僕に向けられる
憧憬や親愛、期待や尊敬。そして愛情。これらの
だが、それが向けられた先はボクだ。僕に向けられた
だから分からなかった。理解ができなかった。
しかし、一人の男に会い、それを理解する。その男に憧れ、その男を尊敬し、その男を親愛する。僕はこの時、ようやく一人の人間として完成したのだと思う。
それでも分からない
家族に、友人に向ける親愛とは同じであり全く違う
故に、彼女の告白が僕には
でも、分かる事が、一つだけある。それは……。
彼女の告白を聞き、僕は何も言わなかった。いや、何と言ったら良いかが分からなかったのだ。
沈黙が続き、周囲には風が木の葉を揺らす音だけが静かに響いていた。
その沈黙に耐えれなくなったのか、軽井沢さんが口を開く。
「ちょ、ちょっと!なんかいってよっ。恥ずかしいじゃん!」
「うん」
「もっかいゆうよ?あたしは倉持君が好きなの。だから付き合ってっ」
僕が聞いてなかったと思ったのか、もう一度そう彼女が告げる。二回も聞けば、僕にも分かる。
「ねぇ、軽井沢さん。何でそんな
「えっ?」
軽井沢さんが僕の言葉に目を見開く。僕には愛情が分からない。
だけど、彼女が、軽井沢恵が嘘をついている事は分かる。
「ま、待ってよ!意味わかんないっ!嘘って何なの?」
「僕ね、目が良いんだよ。観察すれば、嘘かどうかくらい分かるんだ」
焦った様子の彼女の目をジッ、と見て話す。そうすると、軽井沢さんは目を逸らした。それが肯定の意になるとも知らずに。
「この話は終わりにしよう。僕も聞かなかったことにするから。じゃあまた明日」
そう言って僕は彼女に背を向ける。僕の予想だが友人同士の罰ゲームとかで告白したのだろう。そういうのがあることはネットで見たことがある。さすがに自分にそれがされるとは思っていなかったが。少し残念だ。
帰ろうとすると、後ろから僕の腕が軽井沢さんに掴まれる。
「待ってよ。ひどいよ。嘘だなんて。あたしは本当に……」
「くどいよ」
彼女が言い終わる前に冷たく言い放つ。自分の身体が冷めて行くのが分かる。彼女と過ごす時間はとても楽しかった。友達だと思っていた。だから、一度くらい、裏切られた事を水に流そうと思っていた。だが、なおも泣いている演技をして食い下がってくる軽井沢さんを見て、彼女に対する親愛が失われていくのを感じた。
軽井沢さんが僕の目を見て、腕に込めていた力を弱めた。
そのまま僕は彼女を置いて帰る。
何やら呟いているがもう僕には関係ない。そう思って立ち去ろうとした時、違和感に気付く。振り返り、彼女を見てみると、あまりにも様子がおかしかった。
「やめて。あたしをそんな目で見ないで。やめて。やめて……」
俯き頭を抱えながら、何かに怯えるように、何かに絶望しているように呟く。
軽井沢さんの表情はいつもの強者のものではなく。弱者のものであった。
この表情を僕は知っている。小さい頃幾度となく見てきた。
嫌われるのが嫌で、怖くて、いつも怯えていた僕と同じ顔をしていた。
僕は大きな思い違いをしていたのではないか?彼女は何故、嘘をついてまで僕に告白をして来た?友達だと思っていた人に裏切られたことにショックを受けて、考えを放棄していたんじゃないのか。
罰ゲームであればここまでするメリットが無い。ドッキリだとしたらネタバラシされてもいいころだし、何より彼女の今の状態が違うと物語っている。
そうではない理由。僕に告白して付き合った場合に発生するメリットは何だ?
彼女のこれまでの言動、行動を思い出せ。何かあるはずだ。軽井沢恵の本質は何だ?
彼女について疑問に思っていた事がある。それは、今の彼女の地位について。彼女は今、女子のカーストでは一番上にいるだろう。彼女がその地位に立ったのは、入学から3週間経ったくらいだ。何故か急に軽井沢恵の知名度は急上昇した。
その時に聞いたのがある噂だった。それが『平田と倉持のどちらかが軽井沢と付き合っている』というものだ。池君に聞いたのだが、あの噂が流れだしたのは僕が噂を聞いた1週間前くらいらしい。
つまりは、入学から2週間が経ったくらい。でもそれだとおかしい。その時の僕らはそこまで仲が良くはなかった。周りから見ても、付き合っていると思われる程ではなかったはずだ。
僕らが仲良くなったのはクラスの数人でボウリングへ行った時だった。それが2週間が過ぎた後。池君に聞いた話だと、その噂を聞いたのが、僕たちがボウリングに行った日と同じ日だった。噂が流れるにはいくら何でも早すぎる。
何故こんな噂が流れたのか、よく考えれば分かる事だった。この噂で得をした人物が1人だけいた。それが、軽井沢恵その人。あの噂で彼女は今の地位を確立するようになった。
つまり、あの噂は彼女が流したのではないか。
クラスの中心人物であり、人気者の洋介の存在が後ろにある中で、強気な発言をしていたら存在感は増すことだろう。なぜ、僕の名前を入れたかは分からないが。
もう一つの疑問が、その強気な態度。なぜ彼女は強気な自分を
その理由が自分の地位を確立するため、なのか?何か腑に落ちない。何かを見落としている気がするんだ。
本当にクラスでの地位が欲しい為だけにこんなことをしたのだろうか。そうまでして、地位を欲しがる理由は何だ?自分の発言力を強くし、クラスを支配する為。ってのが妥当な理由なんだろうが、どうも違う気がする。
そもそも、彼女は特に自分からクラスの皆と関わる事は少ない。発言力を強くしたいのであれば、もっと日ごろから、クラスの面々に向かって何かしらの発言はあって然るべきだろう。
それにこれだけだと、僕に告白した理由が分からない。
そして、僕の目を見た後に、急に怯えだした。弱者の表情。これが彼女の本当の顔だとすれば。
そこで僕はある可能性を思いつく。
もし、僕の考えが正しいのであれば、彼女は……。
「軽井沢さん、君の今の地位は
「っ!?」
僕の質問に軽井沢さんは目を見開き、驚く。
「な、なにいってんの?自分の身を守る?意味わかんないじゃん」
彼女が噂を流し、今の地位を手に入れたのは、自らを守るため。
「君が強気な自分を演じて、
「演じてなんかいない!あたしは普通にしてるだけで……」
守っているもの、それは本当の顔。軽井沢恵の弱者の顔。
「君の過去に何があった?君が
「な、なにもない!あたしは怯えてなんかいない!あたしは……」
彼女の過去、彼女が怯えるもの、それが……。
「君は過去に
「っ!?」
僕の言葉に大きく目を見開く。彼女の震えがさらに大きくなった。
虐め。それが答えなのだろう。彼女は虐めから自分自身を守りたかったのだ。だから今の地位に立てるように画策した。今の彼女を虐める人はいない。
「……。本当に目が良いんだね。そうだよ。私は虐められていた。6年間ね」
軽井沢さんが観念したように話し出す。一人称が「あたし」から「私」に変わる。それが彼女の仮面なのだろう。
しかし、6年間だと。小中学校の間、虐めにあっていたのか。
「だから私は、決意した。今度こそは虐められないようにしようって」
「それが、クラスのカーストで上位に立つこと。今の地位を手に入れる事か」
「そう。初めて平田君に会った時に、この人だって思った。この人と仲良くなれば私は虐められなくて済むって。だから仲良くなって強気な発言をして、クラスの女子にあたしの存在を印象付けた」
「噂を流したのは君だね?」
「うん。噂が広まればあたしの立ち位置は上がると思ったから」
その考えは見事的中し、今の地位を手に入れた。しかし、疑問がある。
「何で、噂を洋介と付き合っている、にしなかった?」
「最初はそうするつもりだった。でも、倉持君が現れた。倉持君は平田君の次にクラスの中心に立っていたし、気づいてないかもしれないけど、クラスの女子に結構人気なんだよ」
「そうなの?そうだとしても、1人に絞るべきじゃなかった?」
僕に好意的な感情を向けてくれている人がいることは気付いていたが、僕にはよく分からない。
「それはね、平田君の本質に気が付いたから。平田君は私一人を選ばない。平田君は良くも悪くもみんなの味方だから。それでどちらかに絞る事をやめた」
要は、保険として僕を入れたのか。それが今回の告白に繋がる。
「僕に告白したのは、僕と付き合って立場を明確なものとするためか。噂を流したのもその布石か」
「うん。でも計画は失敗しちゃったけどね」
失敗か。果たして本当にそうだろうか。洋介にしたって僕にしたって必ず付き合えるとは限らない。この計画にはリスクが大きすぎる。ここまでの計画を立てれるほどには軽井沢さんは頭が良い。その彼女がこんな賭けに出るか?
「違う。失敗なんかしていない。この状況こそが君が求めていたものだ」
「……どういうこと?」
「告白に失敗する事なんて想定済み。その後、自分の過去を話すことで、自分を守ってもらおうと考えていた。いや、少し違うな。それは僕にじゃなく洋介にするつもりだったのか」
「そこまで分かっちゃうんだ。すごいね。倉持君の告白に失敗しても、平田君に事情を話して付き合っているフリをしてもらうつもりだったんだ。平田君は断れないって分かってるし」
洋介は間違いなくこの提案に乗る。彼はクラスの為になる事はなんだってする男だ。それが彼の闇に繋がる部分。
「ここで僕に気付かれたのは想定外だという訳か。でもなぜこのタイミングなんだ?今のところは関係を無理に詰めなくても問題はないはずだ」
「それは焦ったから。倉持君をあいつに取られると思ったから」
「あいつ?」
「櫛田桔梗!あいつが急に倉持君に近づきだした!平田君は勉強会の事で手いっぱいだし、倉持君がこのまま櫛田さんに取られれば私はまた一人になる!それが怖かったの!」
彼女の本質。それは寄生。1人で生きることの出来ない、弱い生き物。
だからこそ、僕が離れて行くのが怖かった。洋介だけじゃ自分を守り切れないと分かっているから。
「いったい君がそこまでする過去の痛みは何なんだ?何をされたんだ?」
「何って……ありとあらゆることよ。考えられる限りのいじめは全部受けてきた。数えきれない。優しいものから悲惨なものまでね」
笑いながらそういう彼女の顔を見ればどれほど辛いものか分かる。
それでも何かを隠している。彼女の闇は違うところにある。もっと深い根源が。
もっと本音を引き出す必要がある。
「それだけで、君は怯えているのか?
「たかが?あんたに何が分かんのよ!幸せそうに生きてきたあんたに!毎日、毎日殴られて蹴られて汚物を浴びせられる気持ちがわかる?分かんないでしょ!誰も助けてくれない!誰も救ってくれない恐怖があんたに分かんの!私の気持ちを理解できる人なんていない!私を救ってくれる人なんていない!あの日の悪夢を境に、私の人格は壊され、青春も、友達も、そして自分をも失った!どうして、私がこんな目に遭わなければならないの!どうして私が今もこんなに苦しまなけれならないの!どうして、どうして、どうして……」
これが軽井沢さんの心の叫び。変えることのできない、忘れることのできない過去。
「失ったのなら取り戻せばいい」
「そんなの必要ない!嫌われてもいい!私は自分が守れればそれでいいの!」
「なんで?」
「私は弱い生き物だから……」
そう言って軽井沢さんはその場に座り込む。
ここで僕は彼女の事を勘違いしていたことに気付く。
彼女は弱い。弱いからこそ、今の状況になっている。そう思っていた。
だけどその前提が違う。今の状況になっている時点で本当に弱いはずがないんだ。逆だったんだ。彼女は
僕は彼女の前にしゃがみ、彼女の顔を無理やり上げ、目を合わせた。
まずは彼女に教えなければならない。
「軽井沢さん、君は決して弱くなんてない! 君は自分の弱さを受け入れた。君はそれだけの仕打ちを受けても立ち上がった。もう一度戦おうとしたんだ! そんな君が弱いわけがない! 君は
「弱いよ。弱いから寄生するの。弱いから1人で生きれないの」
「そうじゃない。君には芯がある。どれだけの仕打ちを受けようとも屈しない強い芯が。だからこそ今の状況が生まれている。過去から抗っている状況が! 君が弱ければ、この学校でも虐めれられていたはずだ」
考えてみたらわかる事だ。6年という長い期間虐められていたにも拘らず彼女はそんな過去を変えるために立ち上がった。必死にもがいている。そんな彼女が弱い?断じて違う。
軽井沢恵の本質は、芯の強さだ。
「じゃあ……何で私は、
泣きながら、心の底からの疑問を出す。
でもそれは間違っている。
「君はもう
「え……?」
軽井沢さんは僕と同じような状況に陥りながらも、自分で立ち上がった。仮面を被り、嫌われることを恐れて逃げた僕とは大違いなんだ。だからこそ彼女の強さに敬意を抱く。軽井沢さんの強さに惹かれる。だから……。
「改めて言うよ。軽井沢さん、僕と友達になってくれないかな?」
僕の言葉に軽井沢さんの目から涙が溢れ出る。
「なんで?なんで、そんなこと……。私は、倉持君を利用しようとしたんだよ」
「うん。だから仮初の友達はあれで解消。僕は、改めて君と友達になりたいんだ。嫌かな?」
軽井沢さんの頭に手を置き、優しく問いかける。これで断られたらかっこ悪いな。
そんな考えも杞憂だったようだ。
「嫌じゃない!嫌な、わけ……ない!」
泣きじゃくりながら、そう答える。
もう限界だったのか、軽井沢さんは僕の胸に飛び込み、泣き叫んだ。
今までの苦しみを吐き出すかのように。
僕はそんな彼女の頭を優しく撫で続けた。
勇人君に3人目の友達ができました。
ご都合主義ですみません。
作者の勝手な解釈で軽井沢さんの強さを書きました。
だって、ずっと虐められていたのに、高校で変わろうとするなんてすごい事じゃないですか。普通なら引きこもってしまってもおかしくはないのに。
勇人君はそんな彼女の自分には無かった強さに惹かれたようです。
感想、評価、お気に入り、誤字報告ありがとうございます!