唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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驚きです。

感想、評価、お気に入りありがとうございます!

それでは続きをどうぞ。


勉強会と後悔

 

 

 

 気付けば僕は一人だった。最初は周りに人が溢れていた。僕の存在を受け入れてくれていた。だが、次第に僕の周りから人が居なくなる。僕には才能が無かった。僕の名前がいつしか呼ばれなくなる。代わりに不良品と呼ばれる。誰も僕を見てくれない。一人は嫌だ。一人にならない為にはどうすればいい。嫌われない為にはどうすればいい。

 

 そうか。相手が喜ぶことをすればいいんだ。相手が望む事をすればいい。ただひたすらに相手が望む()()を演じればいい。簡単な事じゃないか。相手が望むボクになるために努力すればいい。睡眠なんていらない。血を吐いたって構わない。僕が()()であればそれでいい。

 

 足りない。いくら相手の望む()()になっても離れていってしまう。これじゃダメだ。また昔に逆戻りだ。

一人は嫌だ。いやだ。イヤだ。

ならどうする。そうだ。相手がボクから離れなくすればいい。()()に依存させればいい。簡単だ。僕の同い年などガキばかりだ。思考なんて簡単に読める。それを利用すれば問題ない。

 

 おかしい。なんだあいつは。なぜ思考が読めない?なぜ一人で平気なんだ?なぜ()()に依存しない?あいつの存在は容認できない。()()に依存しない存在などいてはならないんだ。()()を嫌う人間など。

 

 邪魔だ。あいつさえいなければ僕が()()でいられる。邪魔者は消せばいい。使える駒はある。仕方が無い。これも僕が()()でいる為の必要なことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 薄らと意識が覚醒していくのが分かる。夢を見ていたようだ。過去の夢。僕がボクであった時の夢。かなり寝汗をかいていたみたいで、着ていたTシャツが肌に張り付き気持ちが悪い。登校するまで、時間はあるしシャワーを浴びるとしよう。汗と一緒に嫌な過去も流すように念入りにシャワーを浴びた。

 

 

「たうわ!?」

 

 先生より衝撃の事実を聞かされた5月の初日から約1週間が経ち、クラスの全員(須藤を除く)が授業を真面目に受けている中、綾小路君が急に謎の奇声を上げた。ポイントに敏感になっているクラスメイトから痛い視線が注がれていた。綾小路君の隣の席を見ると、堀北さんがなぜかコンパスを握っていた。今は社会の授業だから使うはずは無いんだけど。まさかあれで刺したのか?恐ろしいことをするな。

 先生が軽く注意をして授業が再開される。先生の様子を見る限りだと今のが私語扱いとなるかは何とも言えないな。未だに僕たちはポイントをプラスにする術を見つけれていない。その為、取り敢えずは授業は真面目に聞く、遅刻はしない、などを徹底するしかなかった。その中でも須藤君だけは授業中に居眠りをしていた。どうも改善するつもりはないらしい。唯一、この数日は遅刻をせずに来ていることは良い事だろう。それでもクラスメイトから煙たがられていくことには変わりない。

 

 

「みんな!先生の言っていたテストが近づいてる。赤点を取れば、即退学だという話は、全員理解していると思う。そこで、参加者を募って勉強会を開こうと思うんだ」

 

 授業が終わり、昼休憩になったところで、洋介が皆に語りかける。

 

「テストで赤点を取って退学してしまう事だけは避けたい。それだけでなく勉強してクラス全体で高得点を取ればポイントの査定だってよくなると思うんだ。小テストの点数が良かった数人で、テスト対策に向けて用意をしてみたんだ。だから、不安のある人は僕たちの勉強会に参加してほしい。もちろん誰でも歓迎するよ」

 

 この対策には僕も一枚噛んでいる。噛んでいる、と言っても対策問題を作る際に意見を出しただけなのだが。

 

 皆に語りかける中、洋介の視線は須藤君の目をジッと見ていた。最後の誰でも歓迎するは、須藤君に宛てたものだったのだろう。その思いも空しく、須藤君は舌打ちをして目を閉じた。

 

 これ以上はどうしようもないと踏んで、洋介は須藤君から視線を外し勉強会の概要を説明する。洋介の説明を聞き、赤点組が洋介の元へ向かうが、須藤君、池君、山内君は向かう事は無かった。洋介の事を良く思っていない三人だから仕方がないか。

 

「あれ?」

 

 三人の事で綾小路君と話しながら昼食でも、と思い誘いに行こうとすると綾小路君は堀北さんと教室を出て行ってしまった。珍しいこともあるもんだな。一緒に食べるのだろうか。僕も気を取り直して誰かと昼食に行くとしよう。そう考えていると丁度洋介と軽井沢さんから誘いがあったので、一緒に食堂へ向かった。

 

 

「こう見ると結構いるもんだね」

 

「ん?何がー?」

 

 軽井沢さんが昼食に頼んだオムライスのスプーンを咥えながら聞き返してきた。

 

「山菜定食を食べている人がさ」

 

「そう言われればそうだね」

 

「あんなまずそうな物よく食べるよね~。ありえないっ」

 

「そうは言っても、いつ僕らもお世話になるか分かんないよ」

 

 少なくともこのままいけば、いずれポイントは枯渇するだろう。そうなったら晴れて山菜定食デビューだな。

 

「うげ。想像しただけで気持ちわるぅ~」

 

「そうならない為にも、まずはテストを乗り切らないとね」

 

「う~。それも嫌だな~」

 

 勉強が嫌いなのか、軽井沢さんがテーブルに項垂れる。テストの結果がどのように影響するかは分からないが、高得点を取っておいて悪いことは全くないだろう。少なくとも、この学校が生徒の実力を測りポイントに反映しているのなら、テストは学力を測る機会であることは間違いない。

 

「こればっかりは我慢してやらないとね。分からないところは僕たちが教えるよ。ね、勇人君」

 

「うん。僕の出来る範囲で力になる」

 

 人に教えることで自分が本当に理解しているか分かるし、復習にもなるから断る理由はない。

 

「心配なのは、やっぱりあの三人だね」

 

「三馬鹿のこと?」

 

「三馬鹿と言うか、須藤君達だね。彼らも赤点組だったからできれば参加してほしいんだけどね……」

 

「二人は別として、須藤君は厳しいだろうね。完全に洋介と敵対関係にあるようなもんだし」

 

 洋介と敵対関係になくても勉強会なんて参加しないだろうけど。彼をやる気にさせれるのはクラスでは一人しかいないだろう。

 

「別にいいじゃん。気にする必要ないって」

 

「そう言う訳にはいかないよ。クラスメイトだし。勇人君、何かいい方法はないかな?」

 

「うーん。そうだね。綾小路君と相談してみるよ。彼らと仲が良いし」

 

「よろしく頼むよ」

 

 その後、昼食を食べ終えた僕たちは食堂を後にし教室に戻った。教室を見渡すと綾小路君と堀北さんも食事を終えて戻ってきていた。何やら二人で話しているようなので様子を窺ってみる。

 

「使えない」

 

「今聞こえたぞ、何て言った?」

 

「使えない、って言ったの。まさかそれで終わりなんて言わないわよね?」

何の話だ?気になったので話しかけてみる。

 

「二人とも何の話?」

 

「倉持か。いや、実はな……」

 

 綾小路君の説明によると、堀北さんが洋介の勉強会からあぶれた三人に勉強を教えるべく、もう一つの勉強会を開こうとしているらしい。その人集めを綾小路君が任されたらしいのだが、見事玉砕したのだ。まぁ、当たり前と言えば当たり前だな。説明を終えた綾小路君に堀北さんが再度、質問をする。

 

「それで?これで終わりなの?」

 

「そんなわけないだろ。まだオレには四百二十五の手が残されてる」

 

「どんだけ残ってんだよ」

 

 綾小路君は席に腰かけ何やら考え出す。その間に堀北さんに気になったことを聞いてみる。

 

「勉強会を開こうなんてどうしたの?」

 

「別にどうもしないわ。私の為に必要と判断しただけよ」

 

「堀北さんの為、か。それは支給されるクラスポイントを上げたいって事かな?」

 

「そうね。ポイントの支給はどうでもいいのだけど、クラスポイントを上げる為ではあるわね」

 

 ポイントの支給以外にポイントを上げる理由。クラスの変動か。もしかして堀北さんはAクラスを目指しているのか?このDクラスで?

 

「閃いた!」

 

 目を伏せ考え込んでいた綾小路君がその目を開ける。

 

「お、どうするの?」

 

「堀北、お前が勉強を教える以外に別の力がいる。協力してくれ」

 

「別の力? 一応聞いてあげるけど、何をすればいいの?」

 

「例えば、こういうのはどうだ? もしテストで満点を取ったら、堀北を彼女に出来るとか。そうすれば間違いなくあいつらは食いつくぞ。男の原動力はいつだって女の子だ」

 

「死にたいの?」

 

「いいえ、生きていたいです」

 

 綾小路君の提案にすぐさま否定の言葉を入れる。さすがにテストで自分の彼氏が決まるのは嫌だろう。

 

「綾小路君。着眼点は悪くない。ただ、彼女になるってのは堀北さんに負担が重すぎる」

 

「その通りよ」

 

「だから、キスをしてあげる、に変えたらいいんじゃないかな」

 

「はぁ?」

 

 僕の続けた言葉に堀北さんの表情が変わる。

 

「キスと言っても口にする必要はない。どこに、とは言ってないから頬にキスするだけでもいいしね」

 

「なるほど。その手があったか。堀北、それで行こう」

 

「あなたたち死にたいの?」

 

「「生きていたいです」」

 

 怖い顔で睨まれる。冗談で乗ってみたが、案外効果はあるんじゃなかろうか。尤も、堀北さんが了承する可能性は皆無だが。

 

「はぁ。早く何とかしなさいよ」

 

 そう言って、堀北さんは席を立つ。どこか行くのだろうか。僕と同じことを思った綾小路君が聞いてくれた。

 

「どっかいくのか?トイレか?」

 

 そのデリカシーの無い問いに手刀で返した堀北さんは教室を出て行った。良い所にもらったのか、悶絶している綾小路君に大丈夫か聞くと、問題ない、と帰って来た。綾小路君が落ち着いたところで、真剣な話をする。

 

「三人を誘う方法だけど、君は気付いているんだろ?」

 

「ああ。可能性があるとすれば()()()だろうな」

 

 そう言って、その人物へ視線を向ける。そこにはクラスメイトと楽しそうに喋っている櫛田さんの姿があった。

 

「何で堀北さんに言わなかったの?」

 

「あー。それはだな、前に櫛田とのトモダチ作戦をして相当怒らしたんだ。それに赤点を取ってない櫛田が関わることを堀北はまず認めてくれないだろう」

 

「そうだったんだ」

 

 トモダチ作戦が何かは知らないが、大体想像はつく。おそらく堀北さんは櫛田さんの事を嫌っているのだろう。

 

「でも、櫛田さんしか集めるのは無理だろうね」

 

「そうなんだよな。仕方がない。放課後に堀北が帰ってから頼んでみよう」

 

「それがいいかもね。僕としても堀北さんの勉強会に三人が参加すればありがたいし」

 

 そのまま綾小路君と雑談した後、昼休みが終わり午後の授業を受けた。

放課後には綾小路君が櫛田さんと教室から出て行く姿があった。

 

 

次の日の放課後、教室には洋介を中心とした生徒が教室に集まっていた。

 

「みんな集まってくれてありがとう。少しでもいい点が取れるようにみんなで頑張ろう」

 

「それじゃ、小テストの結果が良かった人を中心に4つのグループに分かれて勉強していこうと思う。テスト対策の問題を洋介達と作って来たからそれを解いていって分からなところがあったらその都度聞いてほしい」

 

 僕の説明を聞き、みんながそれぞれのグループに分かれて勉強を開始する。

 

 開始から1時間、最初は皆真剣に取り組んでいたが、次第に空気が弛緩してきた。横の軽井沢さんに至ってはもう限界なのか、僕にちょっかいを出してくる始末だ。このままだと良くないな。僕は立ち上がり、皆に向かって話す。

 

「みんな、今日はここまでにしとこっか」

 

「え?でもまだ予定だと1時間あるよ?」

 

 一人の生徒が返答する。

 

「うん。そうなんだけど、最初から長くやっても意味は無いと思って。普段勉強をしてないのに急に続けてやっても集中できないでしょ?テストまで時間が無いのは分かっているけど、まずは勉強する環境に慣れないとね。取り敢えず最初は自分が何ができて、何ができないかを理解することから始めればいい」

 

 普段やってないと集中力なんてすぐに切れる。ましてや苦手意識を持っている人は余計に脳に負担がかかり良くない。まずは勉強を身近にする必要がある。毎日少しの時間でいいから習慣づけ、次第に増やしていくのが一番理想的だろう。テストまであまり時間が無いから悠長なことを言ってられないが、テストは今回だけじゃないんだし長い目で見ないと。

 

「そうだね。集中力は人それぞれだから、一度休憩にして、それからまだできそうな人だけ続けようか。もちろん無理強いはしない」

 

 洋介が僕の提案をくんだ案を提示してくれる。他の生徒は皆その案に賛成のようで、5分間の休憩となる。

 

「ごめんね。勝手にしちゃって」

 

「ううん。僕もあの状況はどうにかしなくてはと思ってたから。それで勇人君はどうする?」

 

「まだ集中力は大丈夫なんだけど、堀北さんの方の様子を見に行こうと思う」

 

 綾小路君に聞いた話だと、堀北さんの勉強会は図書室で行っているらしい。正直、平和に終わるとは思えないので、様子を見に行こうと思う。

 

「分かった。そっちは頼むよ。僕も行きたいところなんだけど拒絶されそうだしね」

 

 苦笑いしながらそう言う洋介。あっちには三馬鹿と堀北さんがいるからな。無理もない。

 図書室に向かうため、教科書などをしまっていると、軽井沢さんから声がかかる。

 

「倉持君も帰り組?それだったらクレープ食べに行こうよ!頭使ったから甘い物が食べたい」

 

「ごめん。今から図書室に用事があるんだ」

 

 女の子と二人でクレープを食べに行くなんて魅力的な誘いだが、泣く泣く断りを入れる。

 

「そっか。残念。また行こうねっ」

 

「是非!それじゃあまたね」

 

 軽井沢さんとクラスメイトに別れを告げ、図書室へ向かう。

 

 

 

 

 

「あれ?いないな」

 

 校舎の三階にある図書室の中を覗く。何人かの生徒がいたがお目当ての生徒が一人もいなかった。もう解散したのか、と思っていると、自分の間違いに気付く。

 

「あ!図書館か」

 

 そう、綾小路君が言っていたのは、図書()ではなく図書()だったのだ。そうと分かれば早々に向かうとしよう。どっちの階段の方が行きやすいだろう?まぁどっちでも変わらないか。

 

 この選択を僕は後悔する事となる。

 何故、図書室と図書館を間違えたのだろう。

 何故、態々あまり生徒が利用しない階段を選んでしまったのだろう。

 

 階段についた僕が見たのは、屋上に続く階段の踊り場で密着している男女の生徒。

それだけなら良かった。

 その生徒が綾小路君と櫛田さんで、綾小路君の手が櫛田さんのその豊満な胸を鷲掴みにさえしていなければ……。

 

 どうやら僕はついていないらしい。




僕のゲシュタルト崩壊しそうですね。

次回もよろしくお願いします!

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