唯我独尊自由人の友達   作:かわらまち

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思い付きの見切り発車です。
どうぞ。



始まり

 

 

 突然だけど、みんなはこのような質問をされたことはないだろうか。

 

 問・人は平等であるか否か

 

 僕がこの問いに答えるなら「否」だ。

 

 人は生まれながらにして優劣が決まる。

 

 才能と呼ばれるものを生まれながらに持っているものが存在する。

 その逆で才能を持たないものが存在する。

 

 才能を持つものは優遇され重宝される。誰もがそれを羨む。

 

 では才能が全くないものはどうなるのか。それを僕はよく知っている。

 

 だからこそ人は不平等であり、平等な人間など存在するはずがない。いや、存在していいはずがない。

 

 

『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと云へり』

 

 これは偉人が残した有名な言葉だ。この一節には続きがある。それは『生まれた時は皆平等だけれど、仕事や身分に違いが出るのはどうしてだろうか』という問い。

 

 『生まれた時点で不平等』だと考える僕とは逆に彼は、『生まれた時点では平等』と考える。正直、彼とは仲良くなれそうにない。

 

 しかし、その続きに書かれている一節には僕も大いに共感できる。それは『ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり』というもの。ここでは学問に励むか励まないかで人生が変わると書いている。それを僕の言葉に置き換えるとするならばこうだ。

 

『人間は生まれながらにして不平等である。その差は努力によってうめることができる』

 

 もちろん努力でうめることが不可能な事も存在する。だが、その不平等を嘆くのではなく、受け入れて進んでいくべきなのだ。少なくとも僕はそうやって生きてきた。

 

 長いこと話してしまったけど、僕の考えが理解できない人は沢山いるだろうし、少しは共感してくれる人もいるかもしれない。それはそれでいいんだ。自分の考えは押し付けるものではないからね。

 

 この話を聞いてくれた君はどう考えるのかな?

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

 

「そのバスちょっと待ってください!乗ります!」

 

 朝から全力疾走でバス停まで走ってきた僕、倉持 勇人(くらもち はやと)は何とか目的のバスに乗車することができた。今日に限って目覚ましが壊れると言う不運に見舞われてしまい本来家を出る予定だった時刻の数分前に目を覚まし、急いで用意をしてバス停へと全力疾走して来たのだった。今日は入学式があるため絶対に遅れる訳にはいかないため、必死に走る。

 

 何とか間に合ったバスの車内で乱れた呼吸を整える。椅子に座れないかと車内を見渡すと、通勤中のサラリーマンや、通学中の学生等で席は埋まってしまっていた。中には、僕と同じ制服を着ている生徒も数名見て取れた。全力疾走してきたため座りたかったのだが、仕方がない。一緒のタイミングで乗ってきた老婆も座れていない状況で弱音を吐くわけにはいかないし。

 

 気を取り直し、鞄から小説を取り出し、読み始めると、前の座席の方で何やら揉めている声が聞こえた。

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

 OL風の女性が優先座席に座っている人に注意しているようだった。真横には先程の老婆の姿が見て取れた。しかし、こちらからは立っている人の影になり、優先座席に座っている人物を目視することができない。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

 OL風の女性は、優先席を老婆に譲ってあげて欲しいと思っているようだった。静かな車内での声は良く通り、周囲の人たちから自然と注目が集まっていた。口調は厳しいが、正義感にあふれる行動だろう。それが本当に正しいことなのかどうかは知らないけど。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

 小説の方へ意識を戻そうとした矢先、優先座席に座る人物らしき声が聞こえた。どこかで聞いたことがある声に既視感を覚える。

 

「何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

 

「君が座っている席は優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

「理解できないねぇ。優先席は優先席であって、法的な義務はどこにも存在しない。この場を動くかどうか、それは今現在この席を有している私が判断することなのだよ。若者だから席を譲る? ははは、実にナンセンスな考え方だ」

 

 何とも高校生らしからぬ喋り方に既視感が増す。まさかあいつがいるわけがないが、この話し方といい、傍若無人な態度は覚えがありすぎる。

 

 嫌な予感がしつつ、立っていた位置から少しだけ移動して優先座席に座る人物の姿を確認した。そこには僕と同じ学校の制服を着た大きな体格に場違い感がすごい金色に髪を染めた男が偉そうに座っていた。僕はその姿を見て額に手を当て項垂れる。間違いない、あれは高円寺だ。

 

 高円寺 六助(こうえんじ ろくすけ)中学の同級生であり、僕の友人。日本有数の大企業、高円寺コンツェルンの御曹司である彼は、その恵まれた環境で育ったせいか周りの人を見下す傾向がある。自分が興味を持った相手以外は本気で道端の石ころと同等と考えている男だ。ちなみに超が付くほどの自分大好き人間。彼を一言で表すなら唯我独尊。生まれ持ってしての才能の塊。

 

 そんな彼に中学時代のある出来事がきっかけで気に入られた僕は、おそらく唯一の友人だと思う。他の人は高円寺が興味を持たないか、高円寺についていけないかのどちらかだ。普通にしていれば悪い奴ではないんだけど。

 

 おっと、そんなことを考えているうちにも話が進んでいるようだ。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物わかりが良いようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものじゃないね。残りの余生を存分に謳歌したまえ」

 

 無駄に爽やかな笑顔を浮かべる高円寺。どうやら、OLは高円寺に半ば強引に言いくるめられ反論しようとしたところ、騒ぎを大きくしないように老婆が止めに入ったみたいだ。あの老婆が非常に不憫だ。ただ巻き込まれただけだし、仮にこれで席を譲ってもらったとしても座りずらいだろうに。

 

 そもそも本当に老婆が座りたかったかどうかもかも分からない。次のバス亭で降りるかもしれないし、逆に座るとしんどいって人もいる。結局、あのお姉さんの正義感が裏目に出た結果だろう。まぁ、今回は相手が悪かったってことでこれで終わりかな。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

 思いがけない救いの手を差し伸べたのは、これまた僕と同じ制服を着た非常にかわいい女の子だった。思い切って勇気を出した様子で高円寺へと話しかける。

 

「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってあげてもらえないかな? その、余計なお世話かもしれないけれど、社会貢献にもなると思うの」

 

 その勇気は素晴らしいものだが相手が悪い。高円寺が社会貢献になど興味があるわけがないだろう。自分大好き人間だぞ、そいつは。ほら見ろ、パチンと指を鳴らして口撃してきたではないか。こうなっては女の子もOLも老婆も彼を説得するのは無理だろう。

 

「はぁ」

 同じバスに乗ってしまったことを少し後悔する。でもこればっかりは仕方がないか。高円寺のせいで困っている女の子をほっとくわけにもいかない。意を決して人混みをかき分け騒動の渦中に飛び込む。

 

「高円寺、君は何をやってるんだよ」

 

 僕の登場に乗客のほとんどの視線が集まる。まぁこの状況で出てきたらこうなるよね。隣に立つ女の子もかなり驚いている様子だ。どうでもいいけど近くで見ると滅茶苦茶可愛いな。

 

「おお。誰かと思えばマイフレンド、勇人じゃないか。何をしているかだって?見ての通り、見当違いなことを言うレディー達に常識を説いていただけさ」

 

 髪をかき上げながらそう言う彼の言葉を聞き、横にいるOLが鬼の形相でこちらを睨む。僕は何もしてないだろ。

 

「確かに、彼女の態度は良くなかったし、おばあさんが座りたいかどうかも聞かずに決めつけて君に席を譲るように言ったのも良くなかった。そっちの女の子も余計なお世話だったのかもしれない」

 

 僕の言葉を聞いてOLはバツが悪そうな表情をし、女の子は悲しそうな表情になる。すごい心痛むからこっち見ないで。

 

「フッ。その通りさ」

 

「ただ……」

 

 そう、僕の話には続きがある。

 

「今の高円寺は()()()()()()

 

「なに?」

 

 余裕の表情で目を伏せていた高円寺が少し驚いた顔でこちらを見る。

 

「高円寺の言っていることは正しいのかもしれない。だが、正しいことが君の言う美しさとは限らないんじゃない?」

 

「どういうことだね?」

 

 驚いた表情から一転、こちらを興味深そうに見てくる。

 

「今回の場合は彼女の言い分を聞き、間違っている点を指摘した上で、おばあさんの為に席を譲るべきだった。それが一番美しい形だったと思う。少なくとも僕には君が女性二人を強引に言いくるめ、車内の空気を最悪にした現状よりかは美しかったと思うよ」

 

 少し強めの言い方になったが、高円寺と渡り合うにはこれくらいじゃないとダメだ。

数秒の間、沈黙が流れる。あれ?もしかして言い過ぎたかな?お、怒ってるのか。不安になっていると不意に沈黙が破られる。

 

「ハハハハハ!」

 

 急に高らかに笑い出した高円寺。やっぱり怒らしちゃったか?

 

「高円寺?」

 

「いやいやいや、やはり勇人、君は面白い。まさか私に美しさを説いてくるとは。いやはや、しかし勇人の言い分は一理あるな。確かにその方が美しかった。流石は私が友と認めた唯一の男だ」

 

 怒ってると思ったら、何やら嬉しそうだった。やっぱり僕しか友達がいないのかよ。まぁ人のこと言えるほど僕も友達がいるわけではないけどね。

 

「では、老婆よ。我が友に免じて席を譲ろうではないか。心して座り給え」

 

 どうしてこうも上から目線で話せるのだろう。まぁ、今更か。老婆は本当に座ってよいのか迷っているのか、こちらに視線をおくってくる。

 

「大丈夫ですよ。座ってください。座ってくれないと僕が困っちゃいますから」

 

 笑顔で優しく話す。一番の大変だったのはこの人なんだから。

 

「ごめんなさい。不快な思いをさせてしまって」

 

 一応、OLと女の子に謝罪をしておく。少し悪者みたいに言ってしまったし。

 

「いえ、私の方こそごめんなさい。言い方が悪かったわ。ありがと」

 

「ううん。ありがとう。助かったよ」

 

 二人の女性に感謝をされる。これだけでも話に入った甲斐があったといえよう。

 

 僕はもう一度謝罪をし、少し離れた高円寺の元へ歩み寄る。

 

「勇人よ。今日は遅いのだな。君の事だ、もっと早い時間に登校していると思っていたのだが」

 

「ちょっと色々あってね。高円寺だってなんで今日はバスなんだ?いつも使用人の人に車で送ってもらってるじゃないか」

 

 中学の時の登下校は高円寺家の使用人が車で送迎をしていた。だからてっきり今日も車で行くと思ってたのに。

 

「なに、偶には庶民の乗り物を利用するのも一興かと思ってな。これから三年間は()()()()()()()()()のだしね」

 

「単なる気まぐれで問題を起こすなよな」

 

 しかし、これから僕たちが通う学校を考えたら三年間乗れないのも事実だ。そう考えると高円寺の行動も仕方のない所があるのかもしれない。いや、無いな。

 

 この後、他愛のない話をしているうちに目的地である『東京都高度育成高等学校』に到着したのだった。

 

 

 

 




高円寺の口調はこれで合っているのだろうか。

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