どうか温かい目で最後まで見て頂ければ光栄です!
これは俺たちが世界を救い、日常を取り戻すまでの物語。
異世界ゲート〈ブリッジ〉 近郊
「アリス、負傷者を連れてお前は逃げろ!囮は俺が引き受ける!」
「待って、無理よ!いくらハジメでもあの数は…」
「ここで全員やられたら異生物殲滅機構〈デザイア〉にとっても痛手だ。それに俺なら大丈夫だ!俺のしぶとさはお前が一番わかってるはずだろ?」
そう言って幾多の戦いで切り傷、擦り傷だらけ、でもいつもと変わらない笑顔をアリスに向ける。
「で、でも…それじゃハジメが…」
「いいから行けよ!…っ早く!!!」
涙を浮かべ必死に言葉を繋ぐアリスを遮るように怒鳴る。
「帰ってこなかったら許さないからっ!」
ハジメを背にアリスは負傷した仲間を連れて走り出す。
「帰るに決まってんだろ。」
浮遊している奴ら、人型の奴ら、地を這う奴ら、その様々な敵の数は既に千を超えていた。
「っしゃ、やるぞ。」
パンパンッと頬を叩きハジメは気合を入れ直す。
「こっから先へは行かせねぇ!俺の、戦士としての誇りとあの日の誓いのために!」
そうだ、10年前のあの日から俺たちの日常は終わり世界は絶望を迎えた。奴らの襲来と共に…
――10年前――
西暦2740年に突如として大都市、新東京に現れたゲート。
新東京を始めとして主要都市である札幌、横浜、名古屋、福岡に次々とゲートは出現した。
―― 空野一〈そらの はじめ〉6歳 ――
「ねぇアリスのお父さんってブリッジって名前のゲートを調べる調査隊の隊長なんだよね?すごいなぁ〜」
―― 二環アリス〈ふたわ ありす〉6歳 ――
「家には帰ってこなくてママに心配ばかりかけて、私あんな人がパパだなんて…」
「でもさ、お父さんいるだけいいじゃん。そんな事言ったら亮丞おじさんが可哀相だよ。」
僕はアリスへ発した言葉のトーンが少し低い事に気がついていた。
その理由は僕のお父さんは僕が生まれてすぐに仕事中の事故で亡くなって母子家庭で育っているからだ。
母さんは「ハジメのお父さんは海外で仕事をしているんだよ〜」なんて明るく振る舞って言うけれどたまに夜遅く写真を見ながら母さんが一人で泣いているのを知っている。
僕は父の愛情を受けた事がないのだ。その代わりに母さんがいつも明るく父の分まで愛情を僕にくれている。
「ハ、ハジメ…その…」
―ゴーン、ゴーン、ゴーン―
アリスの言葉を遮るかのように広場の時計台の鐘が夜の刻であることを告げる。
「やべっ、夜の刻だ!そろそろ帰ろうぜ、僕また母さんにげんこつされちまう!」
少しでも気を逸らそうと困り顔をしていたアリスの手を引き僕たちは家路についた。
「あ、そうだ。アリスのお母さんって今日も帰り遅いの?」
「たぶん、遅いと思う…」
「じゃあさ!今日も僕の家でご飯食べて行きなよ!」
アリスの父はゲート調査隊の仕事で普段は家に帰らず、アリスの母も同じく調査隊司令部の仕事で家に帰るのがあまり早いとは言えない。
家が近い事やハジメの母とアリスの両親が旧知の仲ということもありアリスは空野家で夕食を食べることが多い。
「ただいま〜」
「おじゃまします。」
家に帰ると玄関を開けると同時にに美味しそうな匂いが僕たちの鼻孔を擽る。
―― 空野美彩〈そらの みさ〉28歳 ――
「ハ〜ジ〜メ〜、アリスちゃんをこんな時間まで連れ回しちゃだめでしょ!」
夕食の匂いに気を取られた僕は玄関で鬼の様な形相を浮かべ拳を握り締める母さんに一瞬気づくのが遅れた。
ゴンッとテンプレートな音を立て僕はげんこつを食らった頭を抑えた。
「痛ぇーな、何すんだよ!」
「何すんだよじゃないわよ、夜の刻まで子供だけで出歩くなんて危ないでしょう!」
「夜の刻を5分くらい過ぎただけだろ?!」
「5分でも過ぎたものは過ぎたんです!あんまりごちゃごちゃ言ってるともう一発…」
「ちょ、わわわ、わかったって!わかったからその拳を下ろしてー!」
再び握り拳を作る母さんに慌てる僕を庇うようにアリスが横から入ってくる。
「叔母さん、あの、私が夜の刻になるギリギリまでハジメとお話してたんです…」
玄関でワーキャー言い合いをしている空野親子にアリスがそう言った。
すると母さんは少しため息をつき微笑んだ。
「まぁ、アリスちゃんが言うなら仕方がないわね。ただし、今後は夕の刻までには2人とも家に帰ってらっしゃい。いいわね?」
ニコッと微笑む母さんの顔とその優しい声に僕たちは「「ごめんなさい」」と自然に謝っていた。
「さぁ、お腹も空いたし夕食にしましょうか!今日はカレーよ♪」
「「わぁ!やったー!!」」
こうして夕食の時間を3人で賑やかに過ごした。
さっきまで暗かったアリスの表情がいつもどおりの明るい可愛い女の子に戻っている事に僕はホッとした。
「じゃあ僕アリスを家まで送ってくるよ。」
「そう、少し外が騒がしいから気を付けて行ってらっしゃい。」
そう言われればたしかにさっきから頻繁にサイレンの音が聞こえている。
だが気にする事なく僕はアリスを家まで送るため家を出ようとした。
そう、ここで僕たちの日常は終わったんだ―――
―――ゴゴゴゴゴッ、ドーンッ!―――
「うわっ!なんだ?!」
「キャッ!」
突然の爆発音の直後、凄まじい揺れでよろけたアリスを受け止める。
「ハ、ハジメ…あ、ありがと…」
「う、うん。あ、母さんだいじょ…」
母さんの安否を確認しようとした瞬間―――
「ハジメ、アリスちゃんを連れて逃げなさい!」
窓ガラスが割れる音と共に母さんの大声が聞こえ僕たちは振り向く、そこには黒い靄が部屋いっぱいに広がっていた。
次第にその黒い靄は人に翼を生やした形になり、人でいうと鳩尾にあたる部分、そこに真紅に輝く宝玉の様な物体が靄の中に見える。
「――っ!なんでこんな所にグルームが?!」
「グォォォォオ!!!」
黒い靄が人の形を為し、咆哮を響かせた直後―――
美彩の左腕、肘から下が消えた。正確には食われたのだ、グルームと呼ばれたあの黒い人型の靄によって。
「きゃぁぁぁぁあ!あ、あぁ…くっ…はぁ……」
「ギシシシシ」
激痛に喘ぐ美彩を後ろに彼女の腕を食べたグルームは機械音に似た笑い声を発する。
「やるしか、ないわね」
僕は生まれて初めて母さんの険しい表情、そして殺気を感じた。
「ハジメ、よく聞きいて。アリスちゃんとソファーの陰に隠れてなさい、グルームはまだハジメたちには気付いていないわ。だからこれが終わるまで隠れていて、お願い。」
僕たちに背を向けたまま話す母さんの今までにない凄味と表情に僕とアリスは言われた通りもう原型があまり残ってはいないソファーの陰に隠れた。
「さぁ、久々だけど一体くらいならまだ殺れるわよね。」
そう言うと美彩は失った左腕に右手を当てた。
【氷晶よ、我が願いのままにその形を成せ】
美彩が呪文のようなものを詠唱した途端失われたはずの左肘からの腕が氷により形作られた。
そしてそのまま氷の義手と右手で合掌のポーズをとる。
【遠き宇宙の彼方に存在する星々よ、我に力を、何人をも両断する刃を】
合掌をしていた手をゆっくりと広げていくとそこから眩い光と共に刀身が光で出来た刀が出現する。
「はぁ、はぁ…さすがに久々だとマナを結構もっていかれるわね」
「キシシ…」
突然の出来事にグルームも驚き、そして警戒した。
「さぁ、私の久々の運動にどこまで付いてこれるかしら!」
はぁ!、キシシシッ!
美彩とグルームの激しい攻防が巻き起こった。
「意外と動けるわね。このまま決める!」
恐怖からかグルームが両手を突き出し防御の構えをとる。
「聖天の剣を腕だけで防げるわけないでしょ!はぁぁぁあ!!!」
グルームを圧倒し、とどめの一撃を美彩が繰り出そうとしたその時、「キシシッ」と不敵な笑みを浮かべた次の瞬間、グルームの突き出した手から靄が広がりその靄から槍のような鋭い刃が飛び出していた。
否、飛び出していたのではなく自らの腕を靄に戻し、それを刃に変形する事で美彩の腹部を貫いたのだ。
「変形…なんて…今までのグルームとは違うの…っ?!」
「母さん!!!」
「出てきちゃだめ!お願い、そこで隠れていて…」
腹部から血を流し口から血を吐きながら母さんは僕たちに笑顔を向ける
「ハジメ、母さんとの最後の約束よ。よく聞きなさい。生きて…アリスちゃんと世界を守って…あなたにはその力がある……だから、今は生きて…」
「嫌だ…母さんも一緒じゃなきゃ嫌だ!」
「大丈夫、母さんはいつでもハジメの近くで見守ってるから…」
いつもと変わらぬ柔らかい笑顔を見せる母さんをグルームは身体を靄に変えて包み込んだグルームはまた身体を人型に戻す。
だが、それは先程までのそれとは違い美彩の身体を模しているようだった。
「ふむ。あの女、戦士であったか。適当に襲っただけだがこれほどの力を持つ戦士をここで始末できた事は運が良かったな。」
「くっ、母さんを……」
「ハジメっ隠れてないと!」
「アリス、お前はそこにいろ。僕が…俺が戦う。」
グルームの前に歩いていくハジメを止めようとするが怒りと憎しみの表情を浮かべる。怒りに燃えるハジメはアリスが今までに見た事のないハジメだった。
「お前、母さんを殺したのか。」
「何だ小僧、あの女の子供か?まぁいい、殺してはおらん、ただ我が肉体に吸収しただけだ」
「吸収!?」
「そうか、貴様がハジメか。吸収した事でこの女の記憶が流れ込んできていてな。キシシ、こんなのはどうだ?」
『ハジメ、こっちへいらっしゃい。』
グルームは美彩そっくりに自分の身体を変化させハジメを嘲笑うかのようにそう言った。
「母さんの声で、顔で、俺の名前を呼ぶなぁ!!!」
グルームに美彩の声で名前を呼ばれたことでハジメの怒りが頂点に達しそのままグルームに飛びかかる。
「愚かだ、せっかく母が救った命を捨てに来るとはな。」
グルームはパンチを受け止めそのままハジメを床に叩きつける
「かはっ!……くっそぉ…」
「ハジメよ、その行動は愚かだ。今回は見逃してやるが、次は殺すぞ…」
「母さんを…返せ…よ」
はっきりとした殺意を向けられながらハジメは意識を失った。
「ハジメ!」
気絶したハジメに覆いかぶさる様にしグルームと対峙するアリス。
睨み合いが数秒続くが突然グルームか側頭部に手を当て人語とは思えない言葉を数秒呟いやかと思うと何も言わず再び翼を出し飛び去って行った。
「はぁ、はぁ、何なの…あのグルームって…はっ、それよりハジメ!」
意識を失ったハジメを起こすため頬を叩く。
「ハジメ!ハジメってば!起きてよハジメ!」
「ん、はっ…母さん!」
「良かった。ハジメ!生きてる、生きてくれてる!」
目が覚めたハジメに抱きつきアリスはボロボロと安堵の涙を流す。
ハジメが目覚め、アリスが涙を流していたその時、
――ガチャ、ドンッ――
「アリス!ハジメ君、大丈夫か!?美彩はどこだ…?!」
「お父さん!」
「亮丞おじさん…」
空野家に入って来たのはゲート調査隊長の二環亮丞〈ふたわ りょうすけ〉だった。
「二人とも無事でよかった…心配だったんだ……」
亮丞は安心したのか涙ぐみながら僕たちを抱きしめた。
「それで、美彩は?ハジメ君たちと一緒じゃないのか?」
「母さんは、俺たちを守るためにグルームって化物と戦って…吸収された…」
「嘘だろ…あの美彩が、吸収された…?」
ハジメの涙ながらの衝撃の告白に亮丞は美彩の敗北に同様を隠せずにいた。
「くっ、美彩の話はあとで詳しく聞かせてもらうよ。今は全員で逃げる事が先だ。」
「逃げるってどこに行くのお父さん?」
「異生物殲滅機構〈デザイア〉だ。お前たちも知っている場所、普段はゲート調査隊本部と呼ばれていた場所だ。とにかく早く行くぞ!」
僕とアリスの手を引いて亮丞おじさんは外へ出た。
そこで僕とアリスは現実を知る事になった。
僕たちの日常、そして世界の終わりが始まったことを。
Wish-彼らが紡ぐ物語- 第一話を最後まで読んでいただきありがとうございました!
拙い文章で読みづらいと感じた方もいらっしゃったと思いますが前書きでも記述しました通り初投稿なのでどうかご容赦ください。
宜しければ第二話が投稿できた際にはまた読んでくださると嬉しいです!