すたれた職業で世界最高   作:茂塁玄格

16 / 61
 
 演出上、ひらがなが多くなっています。読みにくかったら申し訳ないです。




幕外・いつかどこかで(1/2)

==================

 

【せかいと さみしがりやの せいれいさま】

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 むかし むかしの せかいでは、ふよふよ、ふわふわ、ぷーかぷか、せいれいさまが、しぜんの中を きもちよさそうに、うかんだり、とんだりしていました。

 

 そのころの 大地には、まんなかに なだらかな、とても りっぱな山が ありました。

 

 その山からは、ひがしと にしに むかって、おおきな川が ながれ、きたと みなみに むかって、すこしだけ 小さな川が ながれていました。

 

 大地を 大きく、四つに わける 十字の川は、こまかく えだわかれして、きよらかな水を すみずみまで とどけてくれました。

 

 大地の きたがわは、たくさんの丘があり でこぼこしていましたが、草花が げんきに そだちました。

 

 大地の ひがしがわには 森があり、とてもつよい力を もった木が 生まれて、すくすくと そだちました。

 

 気がついたら、大地の どこにいても、てっぺんを 見ることができる大きさになった その木は、人々から せかいじゅと よばれるように なっていました。

 

 大地の みなみがわは、ほかと くらべて、すこしだけ さむいばしょでしたが、それでも つよい力が あつまりやすいので、人も、ほかの いのちたちも、上手に くふうすることで、うまく せいかつしていました。

 

 大地の にしがわは、ふしぎと 雨がすくなく、さばくが ひろがっています。

 

 そのさばくの近くには、いつも もくもくと けむりを 出している 大きな山が ありました。 

 

 てっぺんが するどく とがった山だったので、とんがり山と よばれました。

 

 とんがり山が、大地を あたためるので、あたりには ねつにつよい草花が むき出しの じめんに、てんてんとしています。

 

 いのちたちは、いろいろな ばしょで 生きて、おたがいに えいきょうしあいながら、なかまを ふやしていきました。

 

 せいれいさまの力を、かりることが できた人びとも、しだいに そのかずを ふやせるようになっていきます。

 

 人のかずが ふえていくと、人びとは 大地に ながれる 十字の川を 目じるしに、大きく、四つに わかれて せいかつするようになりました。

 

 おたがいに よくとれたり、とくいなものを こうかんして、よりよく生きるように がんばります。

 

 きたと ひがしの あいだに すんでいる 人びとは、たべものを。

 ひがしと みなみの あいだに すんでいる 人びとは、おくすりを。

 みなみと にしの あいだに すんでいる 人びとは、上手な力の つかいかたを。

 にしと きたの あいだに すんでいる 人びとは、宝石を。

 

 

 ですが、あるとき、みなみと にしに すんでいた 人びとは、力のつかいかたと ほかのモノを こうかんできなくなりました。

 

 なぜなら、ほかの 三つのばしょに すんでいた人びとが、もう 力のつかいかたは おしえてもらわなくて よくなったと いいだしたからです。

 

 みなみと にしの 人びとは、じぶんたちの すんでいるばしょで とれる たべものだけでは、足りないことを しっていたので、たいへん あわてました。

 

 どうにか たべものだけでも わけてもらおうと おねがいしますが、みんな きく耳を もちません。

 

 しだいに、みなみと にしの 人びとは おなかを ペコペコに へらすように なっていきました。

 

 そうこうしているうちに、たまりかねた みなみと にしの 人びとの中から、ほかの ばしょの たべものを ぬすむ人が あらわれはじめます。

 

 いちばん早く こまったのは、にしと きたの 人びとでした。

 

 じつは、にしと きたの 人びとも、くすり一つと こうかんするのに、りょうていっぱいの ほうせきを わたすことに なっていたのです。たべものと こうかんする分の ほうせきが へっていたのです。

 

 そのうえ、たべものを ぬすまれるのですから、にしと きたの 人びとも おなかいっぱいになることが むずかしくなっていきました。

 

 こんどは、にしと きたの 人びとまで、おなかを すかせて、たくさんたべものをもっている、きたと ひがしの 人びとの たべものを うばうように なってしまいました。

 

 きたと ひがしの 人びとは、がんばってつくってきた、はたけや、ぼくじょうを あらされてしまうので、いっしょうけんめい、おいかえそうとします。

 

 ひろい大地の上の、あちら こちらで たくさんの あらそいが おこりました。

 

 ひがしと みなみの 人びとは、あらそいで ケガをする人びとが ふえたこともあり、くすりをつくって、よりおおくのものを もらえていましたが、あんまりにも、あらそいが ふえたことで、よくきく くすりのもとが、すくなくなってしまいました。

 

 ひがしと みなみの 森の中でも、木の実や、くだものが どんどん ぬすまれていきます。そればかりか、ついでとばかりに、くすりのもとまで ぬすまれてしまいます。

 

 もう、大地のどこにいても、あらそいの えいきょうからは、のがれることが むずかしくなっていました。

 

 あらそいは ながくつづきました。

 

 おわりのみえない あらそいに、人びとの中で、とくに せいれいさまと なかのいい なんにんかが、せいれいさまに祈ります。

 

『あいつらより つよくなりたい』

 

 つよさを もとめる人びとに よろこんでもらおうと、せいれいさまは、いっしょうけんめい お手伝いをしました。

 

『もっと、つよく、もっと、もっと、つよく』

 

 気がつくと、あらそいは、だいちを きたと みなみで 二つにわけて、おこなわれるようになっていました。

 

 あらそいは、大きく大地を こわすほど はげしくなっていました。

 

 もえつづける 草花。

 めくれ上がった じめん。

 じめんから つきだした、するどく とがった岩。

 カチンコチンに こおった木。

 それを くだこうと まきついたツル。

 

 そういったようすが、 そこら中に 見られました。

 

 そんな、あるときでした。

 

 ドカンとも、ズシンとも ちがう、はげしい ばくはつの音と ともに、何もかもが、空に ほうり出されました。

 

 人びとは、じめんが とつぜん はね上がったと おどろきました。

 

 ゆれが おさまる まえに、にしと きたの あたりで、ドゴーンと 先ほどとは ちがう、ばくはつの音が ひびきました。

 

 せかい中の 人びとが、空をおおう、くらい赤いろをした キノコのような 雲を見ました。

 

 せかい中で、ゴロゴロ、ピシャーン、ゴゴゴゴ、ズガーンと かみなりが とどろきました。

 

==================

 

「“つぎのしゅんかん”……」

 

 大きなベットの上で、女性が、男の子と女の子に挟まれてるようにして、絵本を読み上げている。

 

 女の子の右腕を抱きしめる力が強くなったのに気がついて、読むのを止める。

 

 女の子は、女性の顔を上目遣いで見つめる。潤んだ瞳は、不安げに揺れていた。

 

「大丈夫」

 

 愛おしそうに一言だけそう言って、優しく女の子の頭を撫でる。

 

 女の子は、目を細めて掌の暖かさに身を委ねる。

 

「ん?」

 

 今度は、左腕の肘辺りを、ちょいちょい、と引っ張られた。

 

 男の子を見ると、その目は絵本と女性の顔との間を、きょろきょろと動いている。

 

 続きが気になって仕方ないという顔だ。

 

 くすりと笑って、絵本を一度膝に置き、二人の頭を同時に撫でる。

 

 男の子の方は、なんだか照れくさそうに顔を朱くしている。

 

 でも、嫌がったりはしないようだ。

 

 少しの間、撫でてから、絵本を持ち直す。

 

 二人を優し気に細めた目で見て、絵本に視線を戻すと、読み聞かせを再開する。

 

「――“つぎのしゅんかん、大地の きたがわでは”――」

 

 丁寧に読む声に、子供たちは自然とお話に集中し始めた。

 

==================

 

 つぎの しゅんかん、大地の きたがわでは、はいいろの 大雨が ふりはじめました。

 雨と いっしょに 石や岩も ふってきます。

 

 大地の みなみがわでは、はいいろの 大雪が ふりはじめました。

 雪と いっしょに 小石や氷のかたまりも ふってきます。

 

 石や、岩や、氷で、人びとが がんばって つくってきた ものが どんどん こわされていきます。

 

 あまりに たくさんふってくるので がんじょうな たてものや どうくつから、そとに 出られなくなってしまいました。

 

 かみなりが なりつづける 雲の下で、大地に生きる すべての いのちが、晴れるのを まちます。

 

 ですが、雨も 雪も、ふりつづけました。

 

 それどころか、ふるいきおいは つよくなるばかりです。

 

 大地に ながれる 川から 水が あふれて、海からも 水が おしよせました。

 

 たくさんの人も、ほかのいのちも、なすすべなく はげしい水の いきおいに、ながされていきました。

 

 気がつけば、大地の ほとんどが 水びたしに なっていました。

 

 そんな中、せいれいさまたちは たすけをもとめる いのちたちの声をきいて、いっしょうけんめい 力をつかいます。

  

 なのに、おもうように たすけることも、おもうように 力をつかうことも、できません。

 

 人びとと なかよしになるまで 泣くことを よくしらなかった せいれいさまたちは、たくさん、たくさん 泣きながら、どうにか すこし つかえる力で、いのちが 生きのこるための お手伝いを つづけます。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 とても とても、しずかな ばしょで、一人の せいれいさまが、大地の ようすを ながめています。 

 そのせいれいさまには、たくさんの ばしょが 見えて、たくさんの 祈りが とどきました。

 

 じぶんを、かぞくを、ともだちを、目のまえで うしなわれる いのちを、たすけてほしい。

 

 あらそいが おきるまえに、たべものを うばうまえに、たべものを わけなかった そのまえに、じかんを もどしてほしい。

 

 そのせいれいさまは、こえを はりあげて、手を ふりまわして、力を つかおうとします。

 

 なのに、なにもおこりません。

 なにも おこらないのですから、ねがいを かなえることが できません。

 

 それどころか、祈る人びとのこえは きこえるのに せいれいさまのこえは、人びとに とどかないのです。

 

 せいれいさまは、泣きました。

 

 なにもできないじぶんを 責めて、のろいました。

 

 とめどなく ながれる なみだは、一ど せいれいさまの 足もとに たまって、ポタポタと、さまざまな ばしょに おちていきました。

 

 気が とおくなるくらいの 長いあいだ、せいれいさまは 泣きつづけました。

 

 あるときでした。

 

 とつぜん、かわりはてた 大地の中で、とても大きな山となった ばしょに、いくつかの とても大きな力が あらわれます。

 

 このできごとに ようすを ながめていた せいれさまと、大地の上で、しぜんを ととのえていた せいれいさまは、おどろいて みまもることにしました。

 

 あらわれた 大きな力の もちぬしたちは、せいれいさまと そっくりなようにも、人と そっくりなようにも 見えました。

 

 大きな力の もちぬしたちは、大地のありように とても おどろいている ようすでした。

 

 かれらは、そのすがたを 人と おなじにして、大地を たがやし はじめます。

 かれらは、大地を たがやすと、人びとに たべものや 力を あたえはじめました。

 

 しだいに、人びとは、かれらのことを かみさまと よぶように なりました。

 

 大地の上に のこった せいれいさまたちは、人びとの お手伝いを しすぎないように、きまりを つくって おてつだいを がまんしていました。

 

 そのせいで、ほとんどの 人びとは、せいれいさまのことを わすれています。

 

 ですが、せいれいさまたちは、わすれられて いいと かんがえていました。

 

 かみさまと よばれた かれらは、人びとのことを よくわかっているようで、おしえるのが とても上手なのです。

 

 きっと、じぶんたちと おなじ しっぱいは しないだろうと、人びとの お手伝いを まかせることに きめました。

 

 こうして、人びとは、かみさまの力を かりて、たくさんのことを おぼえて、せいかつを ゆたかにしていきました。

 

 いざこざや けんか、こぜりあいは ありましたが、人びとは おなかいっぱいに たべて、ゆっくり ねむって、長生きをして、かぞくは どんどん ふえていきました。

 

 せいれいさまが お手伝いしていたころには なかった せのたかい たてものも、たくさん たてられました。

 

 しずかな ばしょで 泣きながら みまもっていた せいれいさまも、しあわせそうな 人びとの すがたに、とても よろこびました。

  

 

 ですが、ほうかいは きゅうに おとずれました。

 

 かみさまが あらわれた山と おなじくらい たかくなった たてものが、こなごなに なって くずれていきます。

 

 たかいたてものから じゅんばんに、どんどん くずれはじめました。

 

 こなごなになった たてものが ぶつかった たてものも、おなじように こなごなになって くずれていきます。

 

 人びとは、たかいたてものから ほうりだされて、おちてきたものに つぶされて、いのちを うしなっていきます。

 

 なんで、どうして、だれか たすけて、かみさま たすけて。

 

 たすけを もとめるこえが、また、大地を おおいつくすようでした。

 

 

 しずかな ばしょで みまもってきた せいれいさまには、わけが わかりませんでした。

 

 あんなに、たのしそうだったのに、あんなに、しあわせそうだったのに、すべてが、だいなしに なりました。

 

 くやしくて、くやしくて、せいれいさまは、なみだを とめられません。

 

 せいれいさまは なみだを ながしますが、目を そらすことは しませんでした。

 

 かみさまと よばれていたものが、もともと 力のつよい いのちたちに もっと力を あげているのを見ました。 

 

 かみさまと よばれていたものが、あたらしく つよい いのちたちを 生みだすのを見ました。

 

 せいれいさまは、しっています。その力の あげかたが、よくないことを しっています。

 

 せいれいさまは、うずくまるのを やめました。

 

 なきつづけるのを やめました。

 

 じぶんが どうして、なにも できないのか。

 

 それを しるために、ひろいのか、せまいのかも わからない、ふしぎで しずかな ばしょを たびすることに きめました。

 

 ふわりと うかびあがって、ぐるぐると 大きく円を えがくように、上にむかって すすみます。

 

 まずは、このばしょが どれだけ たかいのか、しりたいと おもったのです。

 

 せいれいさまの、ながいたびが はじまりました。

 

==================

 

 

 寝室の中に、すー、すーと、静かな寝息が二つ、聞こえてくる。

 

「……ふふ、二人とも、寝ちゃったか」

 

 子供たちの寝息に気づいた女性が、音を立てない様に、絵本を閉じる。

 

 ちらりと壁にかけられた時計を見る。まだ夕食の準備には早い時間。

 

 気がつけば、女の子は大の字になって、男の子は亀のようになって寝ていた。

 

 二人の姿勢を、目を覚ましてしまわない様、慎重に整えて、毛布を掛ける。

 

 よく眠っている子供たちにつられたのか、欠伸を一つ。

 

 子供特有の高い体温に挟まれながら横になると、心地よい微睡が訪れる。

 

 大きなベットの上に、幸せそうな寝顔が三つ並んだ。




 
 今回やってみた、平仮名が多い絵本などで使われる単語の間にスペースを開けて書く、いわゆる“わかち書き”ですが、慣れてないせいでちょっと難しかったです。“わかち書き”自体には明確な決まりは無いみたいなので……。

 それでは、ここまで読んで頂き有難うございました。次回も引き続き、読んで頂けると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。