すたれた職業で世界最高   作:茂塁玄格

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奔走

 切り立った崖に挟まれた場所で、臍程までの長さしかない短い杖を振り回して、倬は忙しなく走り続ける。

 

 地球の生き物で例えるならトナカイに似た、大きな角と蹄の魔物がその後を追っている。四本の脚を器用に使い、崖の僅かな足場でも疾走し、その距離を詰めてくる。

 

 追いつかれるのも時間の問題だが、今は走る以外に選択肢が無い。

 

 “瞑想”を崩さず、この場所で五日間生き延びると言うのが、第三の試練だ。“瞑想”を解除していい例外があるとすれば、睡眠中と目覚めてからの十分間と決められている。“瞑想”しながら走ったり、ちょっとした考え事位なら倬にも出来るようになった。しかし、“瞑想”しながらの魔法発動など師祷ソルテにすら不可能なことだった。

 

 つまり、この試練の最中に魔法を使うことは、そのまま試練の失敗を意味するのだ。

 

 苔生した大岩の間を走り抜けると、日が遮られ気温が下がったのを感じた。視界が暗くなり、大きな影が倬を包み込む。

 

 角と蹄の魔物――サボアティルロ――は大岩を易々飛び越え、そのまま獲物(たか)目掛けて跳びかかる。

 

 このまま押し潰されてたまるかと、決死の覚悟で振り返った瞬間だった。

 

 大岩から勢いよく飛び出した何かが、サボアティルロの腹――人で言うところの鳩尾付近――に命中し、宙へ押し返したのが分かった。

 

 視線を下に向けると、大岩の真横に張り付いている爬虫類型の魔物が見えた。

 

(……悠長に考えている暇はない、か)

 

 幸運に感謝して、振り返り、再び走る。

 

 背後では、岩をぶつけ合うような鈍い音が響いている。こちらまで、その破片が飛んでくるが、様子を確かめる暇はない。

 

 休むことなく走り続け、崖と崖との間に蓋をするまでに生い茂っている木々のせいで、やけにじめじめした苔の厚い場所までやってきた。

 

 道中は、小石を投げてくるリスに似た小型の魔物や、ムササビに似た滑空して砂を撒き散らす魔物に追いかけられたりしたが、転んで膝を擦りむいた程度で済んでいた。

 

(サボアティルロに、爬虫類っぽいのがエカングティルロ、そしてエキュルにヴォワエキュルか……戦えないのがこんなに辛いとは……)

 

 この試練に挑む前、ここで出る魔物の特徴や、生でも食べられる植物などを一通り教わっていたが、余裕で倒せるはずの魔物からも逃げなくてはならない状況は、想定以上に厳しいものだった。

 

 木々の間から見える太陽は真上にあり、今が昼時だと教えてくれる。朝食後直ぐに崖下に来て試練を始め、それから五時間ほど経過していた。流石に、このまま動き続けていては直ぐに限界が来てしまう。魔物に狙われる危険は承知の上で、岩に腰を下ろして休むことに決めた。 

 

 出発の時に与えられ、背負っていた甘みの強い硬いパンと、皮製の水筒で食事を摂る。パンを半分、水を少し飲み、風呂敷に包み直して背負い直す。

 

 立ち上がると、さわさわと葉が風に揺れる音が、ざわざわと大きくなったことに気づく。

 

 途端、頭上からリスに似た魔物――エキュルティルロ――が大量に降ってきた。視界に蠢く夥しいエキュル達は、数えるのも馬鹿らしいが、少なくとも五百匹では済まないだろう。

 

 全てのエキュルが、ピタリと動きを止め、倬を見つめている。

 

 倬もまた、驚いて動きを止めてしまった。危うく“瞑想”が崩れる所だったが、なんとか踏み留まり、たまたま目の合った一匹とそのまま見つめ合う。

 

 エキュル達は、殆ど同時に両前足をそっと前に出し、その手の間にパチッと音を鳴らしてピンポン玉程の石を出現させた。そして、両手を使いパスでも出すかのような動作で、倬めがけて一斉に石を投げ飛ばしてきた。

 

 投げてくる一瞬早く頭を抱えてしゃがみ、飛び交う石からの被害を最小限に抑える。投げる音が途絶え、石を出現する時のパチっと鳴る音が聞こえ始めたところで、限界まで姿勢を低く保って駆け出す。

 

 今度はてんでばらばらに石を投げつけられる。背中や尻に当たるが、今はただ我慢しかない。

 

 長らく地面に這いつくばるように走り、途中、川と呼ぶには浅すぎる水の流れを越えたあたりで、どうにか振り切ることが出来たようだった。先ほどまで聞こえていた石の風切音もしなくなった。

 

 ひとまず落ち着いたと安堵の溜息を漏らし、足元の水の流れを遡る。湧き水があれば、飲み水の確保が出来る。そう考えて、更にちょっとした坂を登る。

 

 周囲を警戒しながら進んでいると、この辺りは、今まで通ってきた岩場と比べてやや高くなっているのと、崖の傾斜が比較的緩やかなことに気づく。足場にも土が多く、植物も多かった。

 

(……昔、崖崩れでもあったみたいだ)

 

 ぼんやりそんなことを考えていると、湧き水が溜まっている場所に辿り着いた。倬の気配を感じて逃げたため後ろ姿しか見えなかったが、魔物ではない中型の獣――地球で言えばバンビに近い――が飲んでいたようだ。

 

 水筒に水を足し、折角なので顔も軽く洗う。そこまでやって、ふと、魔物の気配がしないことに疑問を持った。魔法を使えず、ただの木の杖しか持たない自分も含め、先ほどのバンビのような獣は、魔物にとっては恰好の餌食だ。それらが水を飲みに来る湧き水の周辺に、魔物が待ち構えていないと言うのは、どうにも不自然な気がした。

 

(この湧き水に何かあるのか?)

 

 この世界にも、当然魔物除けの道具などは存在し、霊験あらたかな聖水には、そういった効果を持つものが存在すると聞いたことがあったのを思い出す。

 

(“お山様”の山だからな、そういうのがあっても可笑しくないか……)

 

 そう考えて、倬はこの近くで休めそうな場所を探し始める。すると、軽く土に埋もれていたが、明らかに人の手で整えられた形跡が残った横穴を見つけた。湧き水からは三十メートルも離れていない事もあり、身を隠すには丁度良さそうに見える。

 

 暫く、教えられた果物や木の実を集め、横穴に寝床を用意する。その間も魔物が現れることは無く、平和そのものだ。横穴はヒルに似た虫が巣食っていたが、どうにか追い出すことで休むのには使えそうになった。湿気が酷かったが、休める場所があるだけマシだと割り切るほかなかった。

 

 美味しくはないものの、腹で水を吸い空腹感を誤魔化してくれる木の実を食べると、睡魔が襲ってきた。どうせ熟睡できないと知っているので、“瞑想”を解除せず、胡坐のまま目を閉じる。

 

 “瞑想”の解除を無意識に任せて、倬は微睡みの中に沈んでいった。

 

 

 悪夢と酷いアンモニア臭に、咽ながら目を覚ます。

 

 直後目に入ったのは、細長く伸びた二股の舌、ヤスリ状の巨大な歯、そして、どこまでも続いていそうな黒々とした穴だった。

 

 咄嗟に身体を後ろ向きに転がして、どうにか距離をとる。

 

 ゴリっと音を立てながら口を閉じて見えた容貌は、鱗に覆われて蛇によく似た造形をしていた。夜の闇の中でも、瞳から零れる赤黒い光によって、その頭部が直径一メートルほどの大きさであることが見て取れた。

 

 閉じた口の間から、長い舌がちろちろとこちらを伺うように出入りしている。ゆっくりとその口を再び開け、舌がこれでもかと伸びてくる。地面に舌先が着くと、喉の奥、その左右の膜の後ろから筒状の器官がこちらを睨んできた。

 

 もはや一刻の猶予もない。そう直感した倬は杖を正面で縦に構え、敵の左横をヘッドスライディングの要領で横穴を抜け出す。

 

 バシュッと大量の液体を噴射した音が後ろから聞こえるが、振り返ることなく駆ける。振り返るまでもないのだ。横穴から抜け出して見えた巨大な蛇頭の胴体もまた巨大で、今の暗さではどれほどの長さなのかはっきりしなかった。

 

「あれは……あいつは……師祷様が言ってたエカダンってのはっ! あいつかっ! ヤバすぎるっ、あんなのから生身で逃げろってのかっ……!」

 

 正式名称は“エカダンリムティルゾン”。蛇型の巨大な魔物で、この山に生息する耐久力の高い魔物を捕食するのに適したヤスリのような歯を持ち、喉の奥にある器官より、強力な毒を噴射してくる。その上、それらはあくまで特性であり、“剛鱗”と言う鱗をより強固にする固有魔法も持っているのだ。

 

 並みの冒険者ではパーティーを組んでも止めを刺しきれないと言われている魔物だった。

 

 走りながら、冷静になるためにも“瞑想”を起動させる。どれくらいの時間“瞑想”していなかったのか、もはや知りようもないが、ニュア姉の心配を振り切ってまで始めたのだ。この試練を自分から辞めるつもりは毛頭なかった。

 

 崖に沿って走り、昼間エキュルの集団に襲われた辺りまで来たが、ここまで魔物に襲われていないばかりか、見てもいないことに気づいた。

 

 夜は夜で、蝙蝠型の魔物やフクロウに似た魔物がいるはずで、それらに対しても、かなり注意を促されたのだが、まったく寄ってくる気配がなかったのだ。

 

 この現状に、倬は寝る前の自分の浅はかな勘違いを反省することになった。仮に湧き水が聖水だったとして、魔物を遠ざける効果があったとしても、二十メートル以上離れた横穴まで効果が及ぶと言うのは、効果範囲が広すぎる。

 

 魔物たちが恐れていたのは、他でもない、エカダンだったのだ。あの周辺はエカダンの縄張りであり、倬が見つけた僅かな水の流れとは、エカダンが湧き水を飲むべく頻繁に使う通り道に出来たものだった。

 

 そこまで考えが及んだ時、目線の高さに、小さな二つの火の玉を見た気がした。

 

 恐るおそる、もう一度振り返ると、赤黒く発光した目玉が闇の中に浮かんでこちらを睨んできた。横穴で遭遇したエカダンと比べ三分の一以下の大きさだが、紛れもなくエカダンだった。

 

 崖上の木から尻尾を絡めてぶら下がっていたものと、鉢合わせしてしまったらしい。

 

 そのエカダンがシャーッと威嚇したてきたかと思うと、頭上から、似通った大きさの別のエカダンが三匹同時に跳びかかってきた。

 

 倬は後ろに跳び退き、杖で跳びかかって来た三匹のエカダンを無理矢理薙ぎ払う。ぶら下がっていたエカダンはいつの間にか倬の背後に回り込み、毒噴射の態勢をとる。倬は咄嗟に杖をエカダンの喉に突き込み、噴射器官の右側をエカダン自身の腹方向に向ける。杖を置き去りにして、真横に転がる事で毒の射線から外れる。噴射を止められないまま、そのエカダンは自らの毒を飲み込み、その動きを止めた。

 

 杖を犠牲に窮地を脱した倬は、地面に叩きつけただけの三匹から少しでも距離を離すべく走る。

 

(エカダン以外の魔物が襲ってこないのが救いだけどっ……)

 

 闇の中、星の明かりだけを頼りに崖下を進む。サボアティルロとエカングティルロが戦い始めた苔まみれの大岩が視界に入る。この辺りまでくると、他の魔物がこちらを伺っている気配も増えてきたような気がした。

 

(この辺りが縄張りの境界線だったら使えないか?)

 

 魔物同士が睨み合った結果、自分が攻撃されないならそれを利用したいと考える。都合の良すぎる思考だが、今はそんなものにも縋りたいほどには打つ手が思いつかなかった。

 

 転がっている岩に身を寄せながら歩いていると、何か大きなものを蹴ってしまう。大きさの割に軽いそれは、三十センチほど前方に蹴り飛ばされ、コーンッと透き通った音を響かせながら落下する。

 

 静寂の中に時折、柔らかな風と葉擦れの音が聞こえていただけの崖下に、その音はやけに響いた。

 

 思いがけず大きな音を出してしまい心臓が止まる思いだったが、有難いことに心臓は止まらず、代わりにテンパって、全身を硬直させてしまった。再びの失態を受け止めきれなかったのだ。

 

 ゴトリ、と鈍くて重々しいのに、何処か軽やかな音が頭上で鳴った。

 

 倬が、身を寄せていた大岩を見上げると、星空に一本の巨大な角を高々と掲げる堂々とした影が浮かび上がってた。その角の下には淀んだ赤色が鈍く灯り、煮えたぎった怒りを可視化したかの如くに感じられた。

 

(サボアっ!)

 

 サボアティルロの角が灰色っぽく光ると、一升瓶に近い形と大きさの岩が五つ、角を取り囲むように出現する。頭と首を鞭のようにしならせ、真下の倬めがけてその岩を撃ち出した。

 

 サボアが岩を飛ばす予備動作が長い事もあり、どうにか躱すことに成功する。片膝になって、サボアから目を離さないよう気を取り直し、丁度良く手元にあった先ほど蹴り飛ばした物を掴む。骨か何かだろうか、端に細くなっている部分があり持ちやすい。

 

(あばら骨? 無いより良いっ!)

 

 櫛型のそれを構えるのを見るや否や、サボアは怒り狂って岩を乱射し始めた。

 

 脅威であることに変わりは無いが、岩を出現させて射出し、再び岩を出現させるまでの動作一つひとつに“タメ”が長く、更に攻撃パターンの変化が無い。単に避けるだけなら、何とかなりそうだ。追い立てられていた時の方が厄介だったかもしれない。

 

 避け切れなかった岩を、何度か叩き落して凌ぐ。

 

 サボアが懲りることなく角を怪しく光らせ、岩を呼び出そうとした、その時だった。

 

 崖上から、バキバキッ、メキメキッと木々の薙ぎ倒される騒音が轟く。

 

 ゴゥッと大気を震わせて、空中で全身を波打つようにくねらせて、エカダンは現れた。そのまま、サボアの胴に齧り付き、反対側の断崖まで滑るように突き進んでいく。

 

 ズゴォーン!! 

 

 僅かに遅れてエカダンの胴体が地面に落下し、そこにあった大岩を粉々に圧し潰す。

 

 砕けた岩の破片が、体中に降り注ぐ。頭を守ることしかできず、左肩から血が流れだした。

 

(……ッ!)

 

 痛みに叫びそうになるのを歯を食いしばって耐える。ほんのり明るみを帯びてきた視界の中で、全長八十メートルはあろうかという大蛇が躍動していた。

 

 第三の試練は五日間。今はまだ二日目が始まったばかりだ。既に満身創痍の自分で、残りの三日間、このエカダンから逃げおおせる自信など、ありはしなかった。

 

(なら、倒すしかない。……何を使ってでも、だ)

 

 倬は、エカダンの胴体めがけて走る。払い退けようと鞭のように振るわれる尻尾を、飛び込むようにして避ける。転がりながら着地し、全身に擦過傷を負いながら、全力で駆け出す。

 その後ろを悠然と追いかけてくるエカダン。倬が、苔に覆われた大岩を再び頭から飛び込むように越えるのと同時に、エカダンも噛み付こうと跳び上がる。

 

 突如、真下からの衝撃を受け、倬の体が空中へと押し上げられた。

 

 トカゲに似た姿の魔物、エカングティルロに攻撃されたのだ。

 

 倬の後ろで、エカダンも開ききった口の顎下に衝撃を受けたらしく、その頭部を()け反らせている。

 

(は、はははっ、ざまぁみろ!)

 

 自由落下の最中、内心でエカダンに悪態をつく。

 

 再び真下から勢いよく塊が飛んできて体を宙へと押し返してくるが、一度目と同じ要領で、持っていた物の広がった部分を腹に当てることで、痛みを抑える。

 

 三メートルほどの高さから俯せのまま地面に落ちると、休む間もなく、匍匐前進を開始する。途中、断崖の横穴から別のエカングティルロがぬっと這い出してきて、倬と擦れ違う。

 

 ズシン。意識を失いかけたエカダンが、その頭部を地面に叩きつける音が響く。

 

 薄暗い未明の崖上に、崖下の様子を伺う魔物たちの赤黒い目が幾つも浮かんでいる。その魔物たちの気配を何となく感じながら、倬は、口元を歪めて笑みを浮かべ、先ほどエカングティルロが出てきた縦横一メートル、奥行き三メートルほどの横穴に身を隠す。

 

 

 その間も、エカングは伸ばした舌先にある岩石の塊で、エカダンの頭部を殴り続けている。擦れ違った個体と合わせて、三匹のエカングが寄って集ってエカダンに攻撃を加え始めた。

 

 流石のエカダンも、簡単には身動きが取れない様子だ。その様子に調子付いたのか、他の魔物までエカダンに向けて石を投げたり、砂を撒き散らしたりしだした。

 

 ここまでコケにされて、黙っているエカダンリムティルゾンでは無い。

 

 強引に体を持ち上げて、大口を開け、天を仰ぎ見る。その口から、銀色の液体が噴出し、辺り一面に降り注ぐ。崖下のみならず崖上にも届いた毒で、様子を伺っていた小型の魔物達は全身を痙攣させている。

 

 エカング達はなんとか動いて、逃げ出そうとするが、突如現れた小さいエカダンに喉元を噛み付かれ痛みに暴れまわる。

 

 一時間ほどかけてエカングにも毒が完全に回り、周囲の魔物たちが沈黙したことで、周辺が静寂に包まれた……のは、一瞬だけだった。

 

――すー、すー、……んがっ―― 

 

 何者かの寝息が、死闘の余韻をぶち壊す。

 

 エカダンが、子を引き連れて、音源の穴へ向かう。

 

 穴を覗くと、そこには膝を抱えて眠る男が居た。エカダンが口を開こうとした時、その男、霜中倬が突然、目を開き、手を伸ばし、静かに唸る。

 

「求めるは紅蓮の燃焼……、其れは熱気にして暴風……、いざッ、暗き炎渦巻いて、灰となりて大地へ()()()()、刹那の炸裂は……、敵の尽く焼き払わん……」

 

 男の足元、そこに削り書かれた半径四十センチ程の魔法陣が、深い緑色に輝く。

 本能に従い、跳びかかるエカダンの子供たち。彼らが倬に跳びつくよりも疾く、魔法は完成した。

 

「“螺炎”」

 

 ドゥッ、ゴウッシャァァーーー!!!

 

 狭い横穴を吹き飛ばし、断崖を溶かし崩しながら、傾いた螺旋を描く大火炎が周囲を飲み込んでいく。

 

 爆発を伴って顕現した渦巻く炎に巻き込まれなかった岩々は、その爆風によって表面を溶かされながら吹き飛んでしまう。

 

 あの大蛇が、灰燼に帰す様を目に焼き付けながら、倬は崩れた崖に埋もれていく。

 

 魔力枯渇に陥り意識を手放しそうになるのを、“瞑想”を発動させて必死に意識を保とうとする。だが、額に直撃した瓦礫によって意識が刈り取られてしまった。

 

『無茶するのぅ』

『『『むっちゃくちゃ~』』』

『懐かしいのぅ』

『『『『なっつかし~』』』』

 

 薄れ行く意識の中で、不思議な声を聴いた気がした。




 名前がある魔物は、“お山”に古くからいる魔物達です。
 
 次回は十月十四日土曜に投稿予定です。

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