戦姫絶唱シンフォギアEX-AID 運命を変える戦士 作:狼牙竜
今回のエピソードは前編と後編に分けて投稿します。
シンフォギアXD、まさかの司令参戦に笑いが止まりませんでした…しかも分類がシンフォギアでも聖遺物でもなく『達人』って…
今回と次の後編は『仮面ライダーエグゼイド』本編のネタバレがありますのでご了承ください。
また、一部オリジナルの設定が加えられています。
感想、評価が作者のモチベーションアップにつながります!
S.O.N.Gの司令室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
最強のバグスター、ゲムデウスから告げられた驚愕の真実。
将也もまた、ゲムデウスと同じ『仮面ライダークロニクル』から誕生したバグスターだということ。
全員の視線は、そのすべてを知っている可能性のある人物…パラドに目がいった。
「パラド…俺は君も、宝条君も信用している。だから…教えてくれ。彼にまつわる真実を」
パラドは壁に寄りかかり、考え込んでいたがゆっくりと閉じていた目を開ける。
「………わかった。だが最初に断っておく」
パラドは近くの椅子に座る。
「俺が今までこのことを黙っていたのは、みんなのことが信用できなかったからじゃない。過去の記憶を失っていた将也の心に、何かしらの異常が出る可能性があったから言うことができなかったんだ」
実際、真実を知った将也はショックで精神に多大なダメージが来てしまい、今も昏睡状態に陥っている。
パラドがこの真相を話した相手は、これまででエルフナイン一人である。
「これから話す内容は、突拍子もないような話だ。それでも…聞くか?」
その中で頷いたのは、響。
「私は聞きたい。将也君の本当のことを」
約束したのだ。何があっても響達は将也の味方でいると。
その決意は固く、パラドはモニターに触れる。
「わかった。じゃあまず俺達の正体からだな…」
そして、パラドはついに自分の正体について語り始める。
「…俺と将也は、こことは全く異なる歴史を歩んだ世界から来た」
――――――――――
その世界にはノイズや聖遺物といったものが存在しない世界。
だが、『それ』はある日突然起きた。
「皆は、『2000年問題』って知ってるか?」
パラドの質問に響達は首を傾げるが、藤尭が答える。
「たしか、西暦2000年になると、当時世界で使われていたコンピューターが一斉に誤作動を起こすって言われた問題だろ?」
「そうなの?」
「ああ。昔のコンピューターはメモリの処理を軽くするために日付の西暦部分を下2桁で表してたんだけど、それが原因でデータベースの順序が狂って、予想外のトラブルが起きるかも知れないって言われてたんだ。結局特に大きな事件はなかったけど…」
藤尭の説明に全員が感心する中、パラドが話を続ける。
「そう。だけどあの世界ではこの事件がきっかけで、全てが始まったんだ」
2000年問題によって、コンピューターにバグが発生。
それはやがて人類の想定をはるかに超えた未知のウイルスを作り出した。
「小さなバグから、新たなプログラムであり、新たな生命が生み出された。それこそが、バグスターウイルス…」
そして、偶然誕生したバグスターウイルスに目をつけた人物がいる。
一代で日本有数のゲーム会社となった『幻夢コーポレーション』社長、『檀政宗』。彼の息子であり、当時中学生ながら名作ゲームを作り出した天才ゲームクリエイター『檀黎斗』の2人である。
黎斗はバグスターの力を使うことで、究極のゲームを作ることを思いついた。
「そのゲームこそ、仮面ライダークロニクル。内容は、一般人が仮面ライダーに変身して、現実の世界にバグスターとして現れた幻夢製のゲームに登場するボスキャラと戦い、ラスボスを倒すって内容のゲームだ」
パラドが端末に触れると、画面に当時の光景が映し出される。
中学生くらいの少年、檀黎斗が思いついたであろうアイデアを次々とメモしていく。
「マイティアクションXからドラゴナイトハンターZ…いや、10体のボスだけってのもイマイチ足りないな…」
メモにはソルティやアランブラなど、これまで響達が戦ったバグスターが描かれていた。
やがて、黎斗は自室の壁に貼っていた自作の絵を見る。
「…よし。まずは君を完成させないとね」
描かれていたのは、どこかマイティに似たデザインの緑色のキャラクター。
キャラクターの名前はディレク。
名前の由来は、道案内を英語にした『Directions』から取ったもの。
黎斗はこのディレクを仮面ライダークロニクルのマスコットキャラクターにするつもりだった。
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「檀黎斗が作ろうとしていた人工知能、ディレク。その役割はライダークロニクルにおけるプレイヤー達のガイドだけじゃなかった」
黎斗がディレクに期待していたのは、今までのゲームにあったような単なるナビキャラとしての役割じゃない。
ディレクには、仮面ライダークロニクルに登場する全てのガシャットの力を使えるという設定があった。
「こいつは、すでにこの段階でエグゼイドやブレイブといった仮面ライダーをこのゲームにおける『レアキャラ』として登場させるつもりだった。協力することでガシャットや武器をコピーして使うことができる謎のお助けキャラとしてな」
プレイヤーには終盤まで秘密にする予定だったが、その正体こそがディレク。
最悪のラスボスとして登場する『ゲムデウス』に唯一対抗できる希望として、ゲームに登場する全ての仮面ライダーに変身する力を持つという設定だった。
「全部のライダーに変身って…」
マリアが小さく呟く。
否、マリアだけでなく全員の脳裏にある人物がよぎった。
「ところが、檀黎斗の計画は思わぬ2つの要因によって崩れることになる」
その2つの出来事が、これから先の未来に大きく影響することとなった。
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黎斗が順調にライダークロニクル開発に向けて動いていたある日、彼のもとに1通のファンレターが届く。
差出人はまだ8歳の少年。
内容は幻夢のゲームをいつも楽しんでいるという応援メッセージと、少年が作って欲しいという新しいゲームのアイデアだった。
黎斗はその内容を見て絶句する。少年のアイデアは自分が作ってきたゲームに勝るとも劣らない物だったのだ。
黎斗は自分より幼い少年が、自分以上のクオリティの高いゲームのアイデアを送ったことから嫉妬に狂い、とんでもない行動をとった。
少年に対して新たに作り上げたゲームの試作品を返礼品という形で贈ったのだが…
「檀黎斗は、ゲームの中に見つかったばかりのバグスターウイルスを混入させ、少年を世界最初のゲーム病患者にしたんだ」
黎斗の余りにも人の道に外れた所業に、全員が声を失う。
「その子供の名前は……宝条…永夢」
パラドの手が少し光ると、モニターに少年の顔写真が映し出される。
「そして、その際に永夢の願望からウイルスが自我を持ち、『俺』は永夢に感染したバグスターとしてこの世に誕生したんだ」
告げられたのは、パラド誕生にまつわる秘密。
「ということは…パラドが世界最初のバグスターということか?」
弦十郎の質問に、パラドは首を振った。
「いや。この出来事の少し前にはすでにバグスターは誕生していたんだ。それこそ…幻夢コーポレーションの誰も気づかない、幻のバグスターがな…」
それに繋がるのは、もう一つの黎斗にとっての誤算。
バグスターウイルスの可能性に魅入られた檀政宗は、仮面ライダークロニクルのシナリオを大幅に書き換えたのだ。
黎斗のシナリオでは、参加者が変身するライドプレイヤー達はディレクと協力してバグスターと戦い、クリアの証となるアイテム『ガシャットロフィー』を集め、ラスボスたるゲムデウスとの戦いでゲムデウスが最終形態に変身した際、ディレクは伝説の戦士『仮面ライダークロノス』へと変身。
参加メンバーのうちプレイヤーランクの高い4人のプレイヤーをエグゼイド、ブレイブ、スナイプ、レーザーに変身させ、パーティーメンバーにその力を分け与えた状態で最終決戦に臨むというシナリオだった。
しかし、政宗は黎斗のシナリオを良しとしなかった。
彼は仮面ライダークロニクルを『永遠にクリアさせない』という考えに至り、クリアの可能性を持つディレクのAIを密かに削除した。
当然、それに対して当時高校生だった黎斗は怒りを顕に政宗に詰め寄った。
「父さん!貴方は何を考えてディレクを削除したんだ!?」
幻夢コーポレーションの社長室。
黎斗の怒りを受け流し、椅子に座ったままの政宗は飄々とした顔で答える。
「何を言っている黎斗?お前とて理解しているはずだ。仮面ライダークロニクルは永遠に世界に愛されるべきゲーム。それなのに簡単にクリアされてしまえば、このゲームの商品価値がなくなってしまう」
黎斗は理解してしまう。父は、勝手に自らの作ったゲームの価値を決めつけ、自分にとって弟のように思っていたディレクを削除したのだ。
3年以上もの時間をかけて育成したディレクの知能は人間に近いレベルへと進化しており、同じ存在を作るのは途方もない時間がかかってしまう。
何より、例え同じようにAIを作ってもそれはもう『ディレク』ではない。
だからこそ黎斗はディレクをベースにした計画を破棄し、別の運営方法を模索することとなった。
「あなたがそこまでするのなら、私にも考えがある!貴方がこの会社を支配する日はもうすぐ終わる!」
黎斗は、この時から少しづつ狂い始めていった。
――――――――――
バグスターが発見されてから10年。
黎斗は24歳になり、高校生となった永夢の様子を観察していた。
永夢は10年でバグスターと一体化していた影響からゲームの腕前が天才的になっており、『天才ゲーマーM』の通り名を持つほどになっていた。
ある時、ゲームのやりすぎで倒れた永夢は『ネクストゲノム研究所』と呼ばれる場所へ連れ去られてしまう。
黎斗はこの研究所の所長『財前美智彦』の持つ『人類を新たな生物へと進化させる』という野望を利用する形で永夢と彼に感染しているバグスターの分離手術をさせようとしていたのだ。
結果的に永夢とバグスターは分離し、バグスターは『パラド』としての体を手に入れることになるが、広がったバグスターウイルスによって財前と彼の部下3人はウイルスによって肉体が消滅してしまう。
このパラドの覚醒から、黎斗はさらなる段階へと計画を進めていった。
それから1年後、黎斗は仮面ライダークロニクルに登場する予定の10本のガシャットの試作品であるプロトガシャットを完成させる。
しかし、黎斗の思惑通りプロトガシャットからバグスターウイルスが発生し、大勢の人間がバグスターウイルスに感染、消滅。中には感染したことによる恐怖から事故に遭い死亡した人間まで出た。
これが、バグスターによる最初の感染爆発。通称『ゼロデイ』である。
ゼロデイからしばらく後、偶然にもバグスターウイルスを発見した一人のドクターがいた。
彼の名は花家大我。聖都大学附属病院に勤務する放射線科医である。
黎斗はそんな大我の手腕を利用する形でバグスターウイルスの存在を説明し、当時聖都大附の地下に作っていたバグスター専門の部署『電脳救命センター』通称『CR』のドクターとして迎え入れた。
その理由は、大我を最初の仮面ライダーに変身させることでプロトガシャットの戦闘データを集めること。
そして、大我を仮面ライダークロニクルのテストプレイヤーとして利用することだった。
黎斗の狙い通り、患者思いの大我はバグスターに苦しむ人々を救うために仮面ライダースナイプに変身。多くのバグスターと戦い、順調にデータは集まっていた。
しかし、大我が使っていたのは使用者への負担を度外視した危険なプロトガシャット。
使い続けたことで大我の体はバグスターウイルスに蝕まれていった。
やがて黎斗は計画を達成させるために必要な『完全体のバグスター』を出現させるために行動を開始する。
肉体的にも限界だった大我は、CRの上層組織である衛生省から変身を禁じられ、逆らった場合は医師免許の剥奪という処分を受ける手前まで来てしまう。
それを知ってもなお、大我は患者を救うために黎斗からガシャットを受け取り、スナイプに変身して戦う道を選んだ。
しかし、相手は今までのバグスターとは圧倒的な差がある相手だった。
ドラゴナイトハンターZを出身とする『竜戦士グラファイト』。
当時強力なプロトガシャットを使っていたとはいえ、レベル1しか変身できなかったスナイプに勝ち目はなく、スナイプは敗北。グラファイトは感染者の女性『百瀬小姫』の肉体を消滅させ、人間による感染を必要としない完全体へと進化を果たした。
一人の人間の消滅。そして彼女を救おうとしたドクターに課せられた、医師免許剥奪という余りにも重すぎる処罰。
この2人の医者と患者、その関係者の人生を狂わせた黎斗だが、彼にとってこの事件も大きな目的のための小さな犠牲に過ぎなかったのだ。
「…黎斗さんにとって、大事なのは仮面ライダークロニクルを完成させること。そのためなら、彼にとってはどんな犠牲も大したものではなかったのかもしれません」
エルフナインとパラド。2人の語り手によって告げられる、別の世界のエグゼイドの事件。
「…ですが、この時黎斗さんも、ましてや同じバグスターであるパラドさんやグラファイトさんも気が付いていないことがありました」
エルフナインの言葉と共にパラドが手元のキーボードを操作。
映し出されたのは、黎斗が中学生の時に使われていた旧幻夢コーポレーション。
その中のひときわ大きなコンピューターの中、電脳世界に『彼』は存在した。
真っ暗な空間で、飾り気のないシンプルな椅子に座る、ひとりの少年。
「僕は……どこ?」
そのたった一言を、響、翼、クリスは聞いたことがある。
最初は、将也がマイティブラザーズXXを起動させたとき。
2度目は、ドラゴナイトハンターZを起動させる前、将也の精神世界で。
すると、少年の目の前に大きな画面が映し出される。
そこには、バグスターと戦う仮面ライダー達の姿があった。
「この少年は、檀政宗によって消去されたディレクです」
「え!?」
響達は黎斗が思い描いていたディレクの姿とこの少年が全く違う姿であることに驚く。
ゲームキャラの姿ではなく、今のディレクはまるで人間そのものの姿をしていた。
「ディレクは、削除される直前に自らのデータをこの旧幻夢コーポレーションのサーバーに移したんです。そして、その際にサーバー内に残っていた『原初のバグスターウイルス』に感染。同じ原初のウイルスに感染していた宝条永夢さんの姿をある程度取り入れたのが今の姿です」
削除される寸前まで追いやられていたディレクは旧幻夢のサーバーに逃げ込み、新たなバグスターとして生を得た。
しかし、その代償としてディレクはサーバーという名の檻に閉じ込められ、他人から存在を感知されることのない、幻のバグスターへと変化してしまったのだ。
当時のディレクにできたのは、黎斗がこのサーバー内のデータから作り上げたライダーガシャットを通じて、使い手の情報をモニターすることだけだった。
「ゼロデイ。そして仮面ライダースナイプの誕生。この事件から5年間、檀黎斗の手によってバグスターウイルスは鎮静化することになる」
「それから5年後。バグスターと仮面ライダーの戦いは大きな局面を迎えることになります」
5年後、聖都大学附属病院に一人の小児科研修医が訪れる。
彼こそ、16年前に世界最初のゲーム病患者となっていた宝条永夢だった。
永夢はパラドとの分離手術の記憶はなく、手術の直後から勉強を開始し僅か1年で大学の医学部に現役合格、この病院の研修医として勤務し始めたのだ。
それからほどなく、永夢は受け持った患者がバグスターに感染していることを知り、所見にも関わらずゲーマドライバーとマイティアクションXガシャットを使いこなす。
映像内では、永夢が最初の変身を果たすシーンが映っていた。
「変身!」
《レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?》
《アイム・ア・カメンライダー!》
初変身にも関わらず、永夢は仮面ライダーエグゼイドとして戦い抜き、ソルティバグスターに勝利を収める。
しかし響達が驚いたのは別のこと。
「宝条…永夢…」
「だけど、あの顔…!?」
成長した永夢の顔は、どういうわけか『将也と瓜二つ』だったのだ。
「仮面ライダーエグゼイドの誕生。それを皮切りに、次々と新たに仮面ライダーがバグスターとの戦いに参戦していきます」
グラファイトの被害者、百瀬小姫の恋人だった青年、鏡飛彩。アメリカで医者としての修行を重ねた、失敗しない天才外科医。
タドルクエストのガシャットを手にし、仮面ライダーブレイブに変身。
5年前に医師免許を剥奪され、闇医者として活動をしていた花家大我。
他者を犠牲にしないために、孤独な道を突き進むことを選んだ彼は、正規品のバンバンシューティングガシャットを使い、仮面ライダースナイプに変身。
ゼロデイで親友を事故という形で失った監察医、九条貴利矢。
バグスターという存在が何故誕生したのか、その真実を確かめるために爆走バイクガシャットを入手し、仮面ライダーレーザーとして戦う。
そして、檀黎斗もまたプロトマイティアクションXのガシャットを用いることで仮面ライダーゲンムとして密かにライダーバトルに参加。
5人の仮面ライダー達が邂逅し、仮面ライダーとバグスターの戦いは大きく変化することとなった…
後編に続く
後編は書き上がり次第、投稿していきます!