戦姫絶唱シンフォギアEX-AID 運命を変える戦士   作:狼牙竜

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2話連続投稿で本編スタート!

時間は進んでGXの中盤、第5話から始まります。

なお、プロローグで登場したムテキゲーマーはしばらく出ませんのでご注意を。


感想や評価を引き続きお待ちしています。

では、GAMESTART!!


第1話 予想外のPlayers!?

ルナアタック事件からおよそ3ヶ月後。

 

あの事件を解決した少女『立花響』は、絆を紡いだ仲間たちと共に奇跡の歌を奏でた。

地球の全人類70億人の想いから完成した歌は、心を狂わせた天才が生み出した怪物『ネフィリム』を打ち破り、ノイズを出現させてきた異空間『バビロニアの宝物庫』を消滅、先史文明が作り出した最悪の殺戮兵器だったノイズを全滅させた。

 

聖遺物の力を纏った6人の歌姫が世界を救ったこの戦いは『フロンティア事変』と呼ばれ、『ルナアタック事件』同様、ノイズとの戦いに終止符を打った戦いとして歴史に刻まれた。

 

 

 

しかし、彼女達を救った黄金の戦士にかんしては詳しい情報を得ることはできなかった。

 

『フロンティア事変』が終息しておよそ100日を過ぎた頃。

 

世間はすでに夏が近づいており、ノイズによる災害が消滅したこともあって表向きは平和が続いていた。

 

 

 

ノイズの消滅によって、対抗する力であった『シンフォギアシステム』及び、その装者達が所属していた二課は国連直轄の超常災害対策機動部タスクフォース『Squad of Nexus Guardians』、通称『S.O.N.G』として再編成され、世界中で発生する災害救助活動をメインとしていた。

 

 

平和を取り戻したはずだった世界。

 

 

しかし、新たな力によって世界は再び危機が訪れていた!

 

 

 

――――――――――

 

 

横須賀、海上自衛隊基地。

 

敷地内のあちこちで黒煙が上り、派手な色の異形が歩き回っていた。

 

「【アルカ・ノイズ】の反応を検知!」

「場所はどこだ!?」

 

『S.O.N.G』の移動本部となっている潜水艦の司令室は慌ただしくなっていた。

現在、彼らの本部は物資やエネルギー補給を行うため、横須賀の自衛隊基地で補給を行っていた。

 

しかし、突如として基地が襲撃を受ける。

 

襲撃をしてきたのはノイズの亜種、『アルカ・ノイズ』。

世界の分解を企てる新たなる敵、錬金術師の『キャロル・マールス・ディーンハイム』がノイズのデータをもとに錬金術で作り上げた新たなノイズだ。

 

 

「まさか…敵の狙いは!?」

 

司令室で敵の狙いに予想をつけたのは緒川。

 

 

モニターに写る映像では、パイプオルガンを模したデザインのアルカ・ノイズが基地内のソーラーパネルを破壊していた。

 

 

 

「都内複数箇所に同様の被害を確認!」

 

藤尭がコンソールを操作すると、アルカ・ノイズの被害を受けている発電施設の映像が映し出された。

 

 

「被害により各地の電力供給が大幅に低下!このままでは!」

 

あおいが電力供給のデータを確認して叫ぶ。

 

現在、『S.O.N.G』の電力供給が断たれるのはある二つの理由から危険だった。

 

「今、本部への電力が断たれれば、ギアの改修への影響は免れない!」

 

 

最初の問題を口にしたのは、シンフォギア装者の中で一番の経験を持つ戦士で、世界で活躍する歌手、風鳴翼だった。

 

凛々しい顔立ちと美しい歌声で多くの人を魅了する彼女だが、今は鋭い雰囲気を放っている。

 

彼女が敵の襲撃を受けながらも戦場に出ないのには理由がある。

 

翼達6人の装者は、以前アルカ・ノイズ及びそれを操る敵の幹部達と交戦したのだが、翼達のギアはアルカ・ノイズが持つ特殊能力によって『分解』されたのだ。

 

 

アルカ・ノイズと旧型ノイズの違い。

 

 

アルカ・ノイズは『解剖器官』と呼ばれる部位で対象を赤い塵へと分解する能力がある。

 

その対象は有機物、無機物を問わず、本来ならばノイズの侵食を防ぐシンフォギアのバリアコーティングも無力化し、分解してしまう。

 

しかしシンフォギアが無力になったわけではない。

キャロルの元から脱走した人造人間、エルフナインによってシンフォギアの改修計画『プロジェクト・イグナイト』が行われ、現在も改修が行われていた。

 

 

「おい!まだギアの改修は終わらねぇのかよ!」

 

苛立ち混じりの叫びをあげたのは、雪音クリス。

 

 

彼女もまた、キャロルの元から逃亡したエルフナインを保護した際にアルカ・ノイズとの戦いでギアを分解されてしまった。

 

 

可愛らしい外見とは異なり、かなり口が悪いが、それは幼少時に紛争地域でゲリラの捕虜として過ごしたという暗い過去が原因である。

 

それゆえに他者への優しさと理不尽な暴力を振るう存在を憎む心が強く、戦う力を失った自分への苛立ちが出てしまった。

 

 

クリスの言葉に返事をしたのは、開発室で3つのギアの改修作業を行っていた少女からの通信だった。

 

《も、申し訳ありません!あと30分…いえ、最速でもあと20分は!》

 

 

モニターに映し出された小柄な少女(本当はホムンクルスのため、性別はない)が必死に作業しながら伝える。

 

 

 

「およそ20分から30分…!自衛隊の戦力では、5分持つかどうか…!」

 

S.O.N.Gの司令官、風鳴弦十郎は苦々しい表情を浮かべる。

 

2、30分。それは防衛戦では余りにも長い時間だった。

 

現在、外では自衛隊の歩兵部隊がアルカ・ノイズと戦闘を繰り広げている。

 

アルカ・ノイズは攻撃に重点を置いた結果、オリジナルが使っていた『位相差障壁』と呼ばれる通常兵器を無力化する特殊能力を失い、通常兵器でもダメージを与えることができる。

 

しかし、相手は常識を超えた怪物。1体のアルカ・ノイズが背後から歩兵を襲撃したのを皮切りに、一斉にアルカ・ノイズが暴れだした。

 

 

「このままじゃ、響が…!」

 

不安を口にしたのは、立花響の親友、小日向未来。

 

 

現在はS.O.N.Gの外部協力者として活動している彼女の不安は、電力供給が断たれることで起きるもう一つの不安要素だった。

 

 

彼女の親友、響は現在メディカルルームで治療を受けている。

 

響は以前の戦いで敵によってギアを砕かれ、命に関わるほどの重傷を負った。

あの時は偶然通りがかった、医学の知識を持っていた2人の青年の応急処置によって事なきを得たが、未だに昏睡状態に陥っている。

 

もし電力供給を断たれれば、ギアの改修だけでなく響の生命維持にまで影響が出る可能性がある。

 

 

「…ただやられるのを見ていることしかできないなんて…私に、力さえあれば!」

悔しげな表情を浮かべるのはマリア。

 

彼女がフロンティア事変で使っていたガングニールは響が受け継ぎ、妹のセレナの片身であったシンフォギア、アガートラームは大破して使用不能。

 

 

戦う力を失った彼女は、目の前の惨状を見ていることしかできなかった。

 

――――――――――

 

自衛隊を蹴散らし、発電施設を破壊しようと迫るアルカ・ノイズ。

 

それを建物の屋上から見下ろしていたのは、小柄な二つの影だった。

 

「まだ発電所は動いてるみたいだね、間に合った」

「自衛隊の人たちのおかげです!」

 

辛うじて発電所が稼働していることを確認したのは、調と切歌の二人。

 

 

かつて2人は、マリアと共に世界を、そして響達を敵に回した。

しかし今は、あの時の過ちを認め、償いのためにS.O.N.Gのメンバーと共に歩んできた。

 

今彼女達は、自分たちに出来る戦いを行うためにこの場に現れたのだ。

 

 

「…行こう、切ちゃん。次は私たちの番だよ」

 

装者達の中でも小柄で、まるで人形のように可憐な少女は強い意志を感じる眼差しで親友に目を向ける。

 

 

その視線に対し、明るい笑顔を絶やさない少女は力強く応じた。

 

「そうデスね、調!一緒に戦うデス!」

 

 

二人は同時に、首から下げた赤いペンダントを握り、目を閉じる。

 

そして、胸の底から浮かんだフレーズをそっと口ずさんだ。

 

 

 

 

「Various shul shagana tron…」

 

 

 

 

「Zeios igalima raizen tron…」

 

 

力を求める、静かで清らかな心の歌。

すると、ふたりのペンダントが強大なエネルギーを放出、二人を包んだ。

 

 

彼女達が着ていた学校の制服は光によって分解され、その代わりやや露出度が高い戦装束を纏う。

 

さらに調はピンク、切歌は緑をベースとした鎧を纏い、同じ色の武器を掴む。

 

 

そして、それぞれの胸に赤い結晶が小さく輝く姿へと変わる。

 

 

これこそ、ノイズの脅威から人類を二度も救ったFG式回天特機装束『シンフォギア・システム』。

 

神話の武器などに由来する『聖遺物』の欠片をコアにしており、使い手の『唄』によって起動、鎧として纏う力である。

ベースとなった聖遺物によって特性や固有武装『アームドギア』が異なり、全て装者の歌によって生成されるエネルギー『フォニックゲイン』で作られる。

 

 

調も切歌も、それぞれのギアから流れるメロディーに合わせて歌いながら、アルカ・ノイズに立ち向かった。

 

 

(BGM ジェノサイドソウ・ヘブン)

 

 

 

「やあああ!!」

 

『α式 百輪廻』

 

調は自らのツインテールに装着されたアームドギアから小型の丸鋸を連射し、地上のアルカ・ノイズを切り刻む。

 

調のシンフォギアの名は塵鋸『シュルシャガナ』。

このギアの最大の特徴は脚部に搭載されたローラーによる高速移動とアームドギアから無数に射出される丸鋸であり、高速移動で的を絞らせずに敵を切り裂く戦法がメインとなっている。

 

さらに調は新たにヨーヨー型の武装を使うことで戦術の幅を増やしていた。

 

 

一方、切歌はアームドギアの大鎌から3枚の刃を飛ばし、3方向のアルカ・ノイズを切り裂く。

 

『切・呪リeッTぉ』

 

 

切歌のシンフォギアは獄鎌『イガリマ』。

アームドギアはまるで死神が振るうような大きさの鎌で、一振りで複数の敵をなぎ払うことも可能。

また、肩アーマーにはワイヤーアンカーとブースターも搭載しており、シンフォギアでは数少ない空中戦も可能である。

 

 

切歌が次々と刃を放って敵を切り捨てると、同じように戦っていた調と背中合わせになった。

 

「行けるデス!」

「そうだねっ」

 

二人は互いに頷き、再びアルカ・ノイズの群れに突っ込んでいく。

 

 

――――――――――

 

《調!切歌!》

突如、ギアに搭載された通信機からマリアの声が聞こえた。

 

「「マリア!!」」

 

 

聞こえたのはマリアの声だけではなく、弦十郎の声も聞こえた。

 

《お前たち!自分が何をしているのか、わかっているのか!?》

 

「当然デスっ!」

「私達が時間を稼ぎます!その間に、強化型シンフォギアの完成をお願いします!」

 

 

弦十郎の叫びに対し、切歌と調は返事を返す。

 

帰ったら弦十郎とマリアからのきついお説教が待っているのは確定。

 

それでも、二人にはやり遂げなければならない理由があった。

 

調も切歌も、かつては響に救われたのだ。

 

当初の調は、響のことを知らずに彼女の掲げる思いを『偽善』と切り捨ててしまった。

にも関わらず、響は最後まで自分達に手を伸ばしてくれた。

 

だから、今度は自分達が助ける番。

その思いが、二人を動かしていた。

 

 

「引くわけには…いかない!」

 

 

アルカ・ノイズの解剖器官による攻撃を一撃でもくらえば、ギアは強制的に分解されてしまう。

 

しかし二人はギアの特性である機動力を生かして相手の攻撃をかわし、攻撃を続ける。

 

「強くならなきゃ…!大切な人達を守れるように!」

ヘッドパーツからアームドギアを一部分離させて、ヨーヨーの様に扱ってアルカ・ノイズを切り裂く。

 

さらに、アルカ・ノイズの密集している地帯に飛び込み、高速回転を始めた。

 

 

『艶殺 Δアクセル』

 

回転することでギアのスカートパーツが鋭い刃へと変わり、周囲のアルカ・ノイズを切り刻んだ。

 

 

 

(あと15分…いや、20分!絶対に持ちこたえる!)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

一方、司令室では…

 

 

「バカ!早く戻れ!またギアからのバックファイアで…!」

 

クリスは自らの懸念を口にするが、あおいの報告に全員が驚いた。

 

 

 

「2人のバイタル…安定?ギアからのバックファイアが低く抑えられています!」

切歌、調、マリアの3人は本来、シンフォギアを完全に使いこなすほどの適合係数を持っていない。

 

 

適合係数が基準値に達していない者が無理にギアを纏えば、ギアからの負担によってダメージを受け、最悪の場合シンフォギアの反動によって命を落とす。

 

「どういうことだ!?あいつらの適合率じゃ『LINKER』無しじゃ…まさか!?」

 

 

二人がシンフォギアを纏ってもバイタルが安定している。

 

その理由にクリスだけでなく全員が思い当たり、緒川と弦十郎が口にする。

 

 

「さっきの警報、そういうことでしたか…」

 

「ああ…あいつら、メディカルルームからLINKERを持ち出しやがった…!」

 

 

その言葉に驚きを隠せない翼。

 

 

 

「まさか…モデルKを?奏の遺したLINKERを…」

 

LINKER。それはある程度の適合係数があればギアを纏えるまで適合係数を一時的に上昇させる、一種のドーピング剤。

聖遺物の力に人体を無理やり適合させる薬なため代償も大きく、薬剤耐性の低い者に投与すれば強いショック症状にみまわれ、最悪の場合死亡するか、良くて廃人になる。

 

初代ガングニールの使い手で、翼のかつての相棒だった『天羽奏』はLINKERの被験者であり、シンフォギアを纏えるまでに至った最初の被験者であった。

 

 

彼女が遺したデータによってLINKERは開発、改良を施され量産まで進み、切歌達のような後天的適合者を生み出した。

 

しかし、初期型に比べれば危険性は減ったとはいえ、効果時間に限りがあり、使用後はLINKERの毒素を取り除く体内洗浄などのリカバリは必須である。

 

 

「あの子達…!」

 

《ギアの改修が終わるまで!》

 

 

 

《発電所は守ってみせるデス!》

 

 

決意を固め、二人は再びアルカ・ノイズの群れに突っ込んでいった。

 

――――――――――

 

一方、横須賀基地から少し離れたところでは…

 

「後どれくらいだ、パラド!?」

 

 

かなり目立つデザインの黄色いバイクに乗った青年が基地へと走っていた。

 

『このペースだと、あと10分もかからない!急げば何とか間に合うはずだ!』

 

 

どこからか青年のものとは異なる声が聞こえたが、青年は気にすることなく走り続ける。

 

「頼む…間に合ってくれ!」

 

 

青年の腰には、蛍光グリーンとピンクをベースにした大きなベルトが装着されていた。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「…調ちゃん?切歌ちゃん?」

 

S.O.N.Gの司令室の後ろから小さな声が聞こえ、全員が振り返る。

そこには、先程まで昏睡状態に陥っていた立花響がいた。

 

しかし、病人服に身を包み頭や腕に包帯を巻いているなど、見ただけでもかなりボロボ

ロの状態だとすぐにわかるほどだった。

 

 

 

「響!」

 

未来は響の名を叫び、彼女に駆け寄る。

 

「ごめん、未来…心配かけて」

 

 

「立花!」

「響君、もういいのか?」

 

弦十郎が声をかけるが、響は力強い目で頷く。

 

「…状況、教えてください」

 

 

響の問いに答えたのはあおいだった。

 

「…見ての通りよ。現在、調ちゃんと切歌ちゃんがアルカ・ノイズと交戦中」

 

「LINKERまで持ち出して勝手にな…」

 

 

クリスの言葉には今戦えない苛立ちがはっきりと混ざっており、響も似たような思いだった。

 

先日まで響は戦いへの迷いからギアを起動することができなくなっており、未来の言葉によって迷いを振り切り、再び装者として戦えるようになったが、敵との戦いでギアを破壊されてしまい戦闘ができなくなってしまった。

 

 

そのため、最年少の二人に大きな負担をかけてしまっている。

 

「…やっぱり、私の拳じゃ何も守れないのかな…?」

 

「響………」

 

 

響の言葉に、流石の未来でもすぐに励ましの言葉をかけることができなかった。

 

「アルカ・ノイズ、残存数わずかです!このまま行けば…」

 

 

 

藤堯が、現状を報告しようとしたとき…

 

 

 

 

 

 

 

《ソオオリャアアァァ!!!》

 

奇妙な叫び声が聞こえた瞬間、切歌に向かって何者かが猛烈なスピードで攻撃を仕掛けてくる。

 

 

切歌は咄嗟に攻撃を受け止めるが、相手が持っていた武器に殴り飛ばされ、助けに入った調もろとも建物に叩きつけられた。

 

「「うわああああ!?」」

 

 

切歌と調を襲ったのは、どこかピエロを彷彿とさせるような振る舞いで、その手には先程切歌を殴り飛ばした赤く長い結晶体を握っていた。

 

身長は二人とさほど変わらず、特徴的なのは熊手や巨大なクローを思わせる手に、真っ赤なロール髪。その姿にS.O.N.Gメンバー、特に響と未来は見覚えがあった。

 

「あれは…!」

彼女こそが響のガングニールを破壊した張本人。

 

キャロルが作り上げた4体の自動人形の1体、ミカ・ジャウーカン。キャロルの下から脱走したエルフナインの話によれば、戦闘に特化しており、自動人形の中では最強のスペックを誇る。

 

 

 

「ジャリンコども~、私は強いゾ!」

 

 

余裕の態度が見て取れるミカを目にした二人は、何とか立ち上がる。

 

「子供だと馬鹿にして…!」

「目にもの見せてやるデスよ!」

 

 

なんと、二人は懐から緑の液体が入った無針注射器を取り出す。

 

「まさか、さらにLINKERを!?」

 

 

LINKERの投与量を増やせば、より高い適合係数を得られギアの出力も格段に上がり、戦闘を有利に進められる。

 

しかし、体への負担はかなりのものになり、最悪の場合この戦いに勝利しても、自らの身を滅ぼしかねない。

 

 

 

「二人を連れ戻せ!これ以上は…!」

 

 

 

「やらせてあげてください!」

 

弦十郎の言葉を遮ったのは、何とマリアだった。

 

「これはあの日、道に迷った臆病者達の償いでもあるんです」

「臆病者達の償い?」

 

マリアは思いの丈をぶつけた。

 

「………誰かを信じる勇気がなかったばかりに、迷ったまま独奏した私達…」

 

しっかりと弦十郎の目を見据え、マリアは叫んだ。

 

「だから、エルフナインがシンフォギアを蘇らせてくれると信じて戦うこと。それこそ

が、私たちの償いなんです!」

 

「トンチキなことぬかすな!それでもしあいつらに何かあったら…!?」

 

 

クリスはマリアに詰め寄るが、マリアは血が流れるほどに唇を噛み締めている。

 

できることならば自分が代わりに戦うべきなのに、力を持たないが故にそれも叶わない。

 

それでもなお、自らのできる最善のために必死で悔しさをこらえていた。

 

 

 

 

《…ありがとうデス、マリア》

 

切歌からの通信が聞こえ、全員がモニターに注目する。

 

切歌と調は互いに向かい合い、互の首に注射器のシリンダーを当てていた。

 

 

「二人でなら…!」

「怖くないデス!」

 

互いの体にLINKERが更に投与されていく。

 

 

薬が全身に回り、ふらついた体を互いに支えた。

 

何かがこみ上げてくる感覚に鼻を押さえると、鮮血が付着していた。

 

 

「過剰投与…」

「鼻血がなんぼのもんかデス!」

 

二人は、再びミカに向き直る。

 

 

切歌は両肩のアーマーからふた振りの鎌を出現させると、二つを合体させて三日月を背

中合わせにしたような独特な形状の鎌を完成させた。

 

 

『対鎌・螺Pぅn痛ェる』

 

調もアームドギアから大型の回転鋸を展開、高速回転させた。

 

「面白くしてくれるノカ~!?」

 

ミカは武器である赤い結晶状のカーボンロッドを精製して投げつけてきた。

 

(BGM Just loving X‐Edge)

 

 

ミカが放つカーボンロッドを切歌は鎌で次々と切り裂き、距離を詰めて強烈な斬撃を放つ。

 

 

 

あまりの威力にカーボンロッドは砕け散り、ミカは僅かに下がる。

 

 

その隙を逃すことなく、調が巨大な回転鋸を二つ投げつける。

 

 

『y式 卍火車』

 

回転鋸はミカが咄嗟に作り出したカーボンロッドで打ち落とされたが、調はギアを自らを中心となる車輪状に変形させ、スピードを上げた状態で敵に突っ込んだ。

加速したことにより威力が向上し、ミカのカーボンロッドはまたしても粉砕される。

LINKERの過剰投与もあるが、この二人がここまで強大な力を発揮できるのにはあるカラクリが存在する。

 

 

『イガリマ』と『シュルシャガナ』。

 

二つの武器は共にシュメール神話の戦女神ザババが振るっていた『緑の刃』と『紅き刃』を起源に持つ。

 

そしてこの二つは同時運用、並びに戦闘の歌をデュエットさせることによって互いの武器が共鳴し、限界を超えた出力を発動させることが可能だ。

 

 

 

 

 

「だが、この輝きは時限式だ」

 

弦十郎はなおも厳しい表情を崩さない。

 

「それでも調と切歌なら、目の前の茨を切り刻み、道を拓いてくれる!」

マリアの祈りに答えるように、二人は絶妙なコンビネーションでミカを一方的に攻め立てていた。

 

 

合体技で相手の防御を崩し、調は持っていた二つのヨーヨーを合体させ、2枚刃の回転刃に変えて叩き込む。

 

『β式 巨円断』

 

 

ミカは自らの属性である炎の障壁で巨円断を弾くが、それは囮。

互いの全力の一撃をミカに叩き込んだが、ミカは球体型の障壁を張り、炎で内側から爆発させた。

 

 

 

その衝撃で周囲に散らばっていた瓦礫は吹き飛ばされる。

 

「調!切歌!」

 

 

モニターが復旧すると、そこにはボロボロになった状態で倒れる調と切歌がいた。

 

「切歌ちゃん!調ちゃん!」

「もういい!二人とも下がれ!」

 

 

弦十郎の命令に、二人は首を振る。

 

「まだまだ…デス!」

「強化型シンフォギアの完成…それまで、何としてでも持ちこたえる…!」

 

 

翼は二人に説得を試みる。

 

「その体ではこれ以上の戦闘は無理だ!後は我々に任せて…」

 

 

 

 

 

「「それじゃ、嫌なんです!」」

 

 

切歌と調は悲痛な表情で叫ぶ。

 

「せっかく、響さんが目覚めてくれたのに、発電所を守れないのなら結局、意味はない…

何も変わらない!」

 

「こんなに頑張っているのに…どうしてデスか…?こんなの嫌デスよ!私も、変わりたいデス!」

 

 

しかし、人の感情を持たない自動人形はゆっくりと迫る。

 

「中々楽しかったゾ~。でも、もう遊びは終わりだゾ」

 

 

あざ笑うかのようなミカの声に、切歌は怒りをぶつける。

 

「遊び…?ふざけるな、デス!」

 

切歌は、もはや戦うことが難しい状態ながらも武器を持ってミカに突っ込んでいく。

 

 

「だめ、切ちゃん!」

 

調が止めようとするが、既に遅い。

 

 

ミカは自らのロール髪の内部に仕込まれたブースターを点火し、切歌に詰め寄る。

 

 

「バイナラ~!!」

 

 

突然距離を詰められたことに切歌は驚き、動きが鈍る。

 

ミカの腕からはより硬度を増したカーボンロッドが射出され、切歌の胸元…イガリマのコア部分に直撃。

 

 

 

響のときと同じように、一撃でコアは粉砕され、シンフォギアは力を失った。

 

 

「ぐううっ!?…がっ!?」

 

 

切歌の体は宙を舞い、地面に転がるとギアが解除され、一糸まとわぬ姿となってしまう。

 

「切歌ちゃん!」

 

「切ちゃん!」

 

 

響と調が叫び、調はすぐさま切歌のもとに駆け寄ろうとするが、ミカはカーボンをまる

で砲弾のように放ってきた。

 

 

「余所見してると、後ろから狙い撃ちだゾ~?」

 

余裕綽々といったミカの様子に、調は声を荒げる。

 

 

「邪魔をしないで!」

 

調は回転鋸を4つ展開し、ミカと向き合う。

 

 

「仲良しこよしで、ついでにオマエのギアも壊してやるゾ~!」

 

すると、ゆっくりと切歌が動く。

 

 

 

「しら…べ…?」

 

 

「!切ちゃん…!」

 

切歌は、必死に起き上がろうとする。

 

 

「調…早く、逃げるデス…!」

 

 

しかし、その想いもミカは切り捨てた。

 

「逃がさないゾ~。マスターから好きにしていいって言われてるし、コイツらで遊んでやるゾ~!」

 

 

ミカは両手一杯に小さな宝石のようなアイテム…アルカ・ノイズ召喚用のテレポート

ジェムを取り出すと、散蒔く。

 

 

 

テレポートジェムは地面に落ちて砕けると、赤い召喚陣が展開され、無数のアルカ・ノイズが出現した。

 

ボロボロの状態だけでなく、戦闘不能の切歌がいる状態で無数のアルカ・ノイズに囲まれた。

 

 

すぐに撤退の指示が通信機から聞こえるが、調はその場を離れようとしない。

 

 

「切ちゃんを置いて逃げるなんてできない!私の命は切ちゃんに救われた命だもの!」

 

3か月前の戦い、調は切歌と戦い、その末に命を救われた。

だからこそ、調は切歌の命を守るために戦う道を選ぶ。

 

 

「切ちゃんを救うために、この命を全部使うんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まるゾ…バラバラ解体ショー!」

 

 

ミカの言葉を合図に、アルカ・ノイズが動き出した。

 

 

 

調は片っ端からアルカ・ノイズを切り裂くが、次々と相手をしてもアルカ・ノイズの群れは減る様子がない。

 

また、これまでの戦いで調の集中力も限界が近づいていた。

 

やがて、解剖器官の攻撃がアームドギアである回転鋸の一つを掠り、破壊される。

すぐさまヨーヨーに武器を交換したが、調の攻撃よりも敵が調のギアを着々と破壊する方が早かった。

 

 

 

 

 

 

 

「やめろ…!それ以上、あたしの後輩を傷つけたらぶっ殺してやる!」

 

 

 

「お願い!もう逃げて!」

 

 

 

クリスと未来の悲痛な声が司令室に溢れる。

 

「緒川!」

「はい!」

 

弦十郎が緒川に二人の救出を命じるが、同じタイミングで入室してきた存在がいた。

 

 

「エルフナイン君!?」

 

「お待たせしました、翼さん!クリスさん!」

 

 

エルフナインが持っていたのは、二つの赤いペンダント。

 

修理、パワーアップを遂げた二人のシンフォギア『天羽々斬』と『イチイバル』だった。

 

 

「終わったのか!?」

 

「はい!これならアルカ・ノイズの分解能力を無効化できます!」

 

「ありがとう、エルフナイン!雪音、行くぞ!」

「おう!今すぐ助けて…!」

 

 

翼とクリスは司令室を出ようとするが…

 

 

 

 

 

 

 

「調!!」

 

 

マリアの叫びに、慌てて振り返る。

 

そこには、アルカ・ノイズの解剖器官による攻撃でコアが破壊され、ギアが解除された

調が映っていた。

 

 

 

アルカ・ノイズは力を失い、倒れる2人の獲物を見下ろし、主であるミカの命令を待っている。

 

 

 

「すぐに壊しちゃだめだゾ…1本1本、手足をゆっくり千切ってから殺すんだゾ!」

 

余りにも無邪気な声で下された、惨たらしい命令。

 

 

 

 

アルカ・ノイズは万象を分解する力を持った魔手を、一糸纏わぬ姿となった少女に伸ばしていく。

 

 

 

 

「調…!」

 

 

「調ちゃん!」

 

 

 

このまま、黙って見ていることしかできないのか。

 

 

仲間が、惨たらしく殺されていく様を見ていることしか…

 

 

司令室に絶望の空気が漂うが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《チュ・ドーン!》

 

 

突然、低く重々しい電子音声が鳴り響いた。

 

 

―――――――――

 

切歌は痛む体を必死に動かし、命の危機が迫る親友を助けようとする。

 

 

しかし、ダメージが大きい体は言うことを聞かず、前に進むことすらできない。

 

「誰か…助けてほしいデス………私の、大好きな調を…」

 

 

ずっと一緒にいた、そしてこれからも一緒にいたい親友を助けて欲しい。

 

しかし、彼女の願いを聞き届ける者は、いない。

 

 

目の前には、自らの命を代償にしてでも守りたい親友の笑顔。

 

 

それが失われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い…誰かあああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(BGM エグゼイドLEVEL2~ノーコンティニューでクリアしてやる!)

 

 

 

 

突然、何かが走ってくる音が聞こえた。

 

 

切歌は、音が聞こえてくる先を見る。

 

そこには、派手なデザインの黄色いバイクが迫ってきている。

 

 

「あれは…!」

そのバイクに、切歌は見覚えがあった。

 

あの日、自分達をネフィリムから救ってくれた黄金の戦士。

 

 

彼が乗っていたバイクと瓜二つだった。

 

バイクは調とアルカ・ノイズの間に割り込む。

 

 

 

乗っていたのは、白いジャケットに身を包んだ青年。

 

 

フルフェイスのヘルメットに覆われ、顔ははっきりと見えなかったが、腰に巻きつけられていた蛍光グリーンとピンクのベルトが特徴的だった。

 

 

「さっさと吹き飛べ!」

 

 

青年は、左腰に装着されていた蛍光グリーンの装置…『キメワザスロットホルダー』のス

イッチを押した。

 

 

 

《キメワザ!》

 

 

すると、バイクの前輪と後輪に黄色いエネルギーが集まり、青年はもう一度ボタンを押す。

 

 

 

 

 

《爆走!クリティカルストライク!》

 

『BAKUSOU CRITICAL STRIKE!』

 

 

青年はバイクでアルカ・ノイズの群れに突っ込む。

 

 

 

すると、バイクは分解されず、逆に接触したアルカ・ノイズが次々と消滅していく。

 

 

やがて、アルカ・ノイズの群れは消滅、青年は調を抱き抱え、切歌の元へと連れて行

く。

 

 

「調!」

 

調は青年によってバイクから下ろされ、切歌の前に座り込む。

 

 

「二人とも、これを着てて」

 

 

 

ヘルメットを脱ぎ捨てた青年は、バイクに積んでいたカバンから白と黒の2着のジャケットを渡す。

 

今更ながら、何も着ていない状態だったことを思い出して赤面する調と切歌は、改めて青年の素顔を見る。

 

 

年はマリアとほぼ同じくらいだろうか、柔和な笑みを浮かべる、穏やかな雰囲気の青年。

 

 

「よかった…間に合って」

 

「「え?」」

 

 

ジャケットに袖を通した二人に対し、青年はそっと頭を撫でる。

 

「え!?///」

「あ、あの…///」

 

 

突然のことに驚く二人だが、青年は優しく語りかける。

 

 

「ごめんね?遅くなって…でも、もう大丈夫だから」

 

 

優しい笑顔に、力が抜ける感覚を覚える二人。

 

しかし、決して嫌な感覚ではない。

 

 

 

「後は…僕達に任せて」

 

切歌と調の前に立つ青年。

 

 

その姿は、あの日現れた黄金の戦士と同じだった。

 

 

「やっぱり…」

「あの時の…金色の人デスね…?」

 

 

 

すると、突然の乱入者に苛立ちを隠せないミカが叫ぶ。

 

 

「お前、いきなり現れて何なんだよ~!?邪魔するなら、お前もバラバラだゾ!」

 

ミカはカーボンを射出してくる。

 

「危ない!」

 

 

調が叫ぶが、カーボンロッドは青年に直撃する直前、どこからか飛んできた紫のビームに撃ち落とされる。

 

「おいおい、油断するなよ将也」

 

いつの間にか現れていたのは、あちこちにカラフルなコードをぶら下げている独特なデザインのコートを着た青年。

 

 

癖っ毛が特徴的で、将也と呼ばれた青年と比べると幾分幼い印象がある。

 

 

「悪い、パラド」

「いいってことよ…相棒!」

 

 

パラドと呼ばれた青年の右手には、紫をベースカラーにしたゲーム機にも見える銃が装備されていた。

 

 

「あ~もう!お前ら誰だ!」

 

 

怒りを顕にしたミカに対し、将也はポケットからあるものを取り出す。

 

 

「僕は…貴女たちを倒すために、来ました」

 

将也は後ろにいる切歌と調をちらっと見ると、すぐにミカを睨む。

 

 

 

 

そして、持っていたアイテム…『ライダーガシャット』のスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

《マイティアクション!エーックス!》

 

 

ガシャットが起動し、特殊な空間『ゲームエリア』が展開される。

 

 

すると、将也の雰囲気が大きく変わる。

 

 

柔和な雰囲気は鳴りを潜め、好戦的な目つきになった。

 

 

 

「あの子達の運命は………『俺』が変える!」

 

 

 

 

右手に持ったガシャットと素早く左手前につき出すと、右に大きく両手を旋回。

 

 

 

 

そして、自らを変える言葉を叫んだ。

 

 

 

 

「……大っ変身!」

 

 

 

ガシャットを左手に持ち替え、ベルト…『ゲーマドライバー』のスロットに装填。

 

 

 

 

 

 

《ガッシャット!!》

 

 

 

すると、将也の周囲に無数のキャラクターパネルが浮かび上がり、素早く将也はベルトのレバーを展開する。

 

 

複数のパネルの中から将也は正面のアイコンを右手で触れる。

 

 

 

 

すると、アイコンに『SELECT!!』の文字が浮かび上がり…

 

 

 

 

《ガッチャーン!レベルアーップ!》

一瞬、将也は3等身のゆるキャラ体型の姿へと変わるが、すぐさま装甲が弾け、別の姿に変わる。

 

 

 

 

《マイティジャンプ!》

 

 

標準体型で、スポーツウェアを思わせるデザインの全身装甲。

 

 

《マイティキック!》

 

 

ピンクの逆だった髪の毛を思わせる派手なデザインの頭部のパーツ。

 

 

《マイティマイティアクション!エーックス!》

 

胸の部分には武器のマークや体力ゲージのようなものが描かれた、風変わりな戦士。

 

 

 

それは、あの黄金の戦士が一瞬だけ変身した姿。

 

「間違いないデス…あれは…!」

 

「あの時の…!」

 

 

 

戦士は着地すると、ミカをしっかりと見据える。

 

「な、何なんだオマエ!?オマエのような奴、マスターから聞いてないゾ!?」

 

 

突然の乱入者にミカは混乱している。

 

 

 

「俺は………

 

 

 

 

仮面ライダー、エグゼイド!」

 

 

 

 

仮面ライダーエグゼイド。

 

3か月前、ネフィリムを撃破したあの仮面の戦士だった。

 

 

 

黄金に輝いていたあの時の姿とは異なるが、纏う雰囲気は全く同じ。

 

 

 

エグゼイドは、自らの戦いを始める言葉を叫んだ。

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!」

 

 

To Be Next GAME…?




次回、シンフォギアエグゼイド!

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

エグゼイドは…

「大事な人の命を守りたい。その思いだけは理解してあげてください」


敵か味方か…?


「貴女達に話すことなんて、ありません」

その正体は…?


「大・大・大変身!」

第2話 I,m a 仮面ライダー!

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