ロクでなし魔術講師と禁忌教典 Re:venge   作:名前のない怪物

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パソコン壊れてログインできなくなったので
色々修正して投稿。
主人公の名前はそのままです。
タイトルは新たに投稿するっていう意味でつけました。


序章
プロローグ1


 

 

 

 

アルザーノ帝国、帝都からさほど離れていない町。

帝都には劣るが帝都からも行商が来るのでそれなりに発展している。

昼間は行商や行きかう人々の会話がその町を活気づけている。

 

――しかし今は。

 

太陽が真上に位置する時間帯にも関わらず

 

行商の馬車も。

人々の賑わいもなく。

音と呼べるものは自然音である風の音だけ。

 

環境音のみとなったその町は、以前の活気との差によってどことなく不気味な雰囲気を放っていた。

 

しかしある一か所だけ、自然音ではない人口の音が響いていた。

 

 

――金属音。呻き。銃声。爆発。

 

 

これらの音の中心はなんの変哲もない裏路地で響いていた。

 

その路地には大量の血糊に肉塊…ヒトであったモノが積みあがっていた。

それが路地の入口からずっと奥まで続いている。

それによって酷く鉄の匂いが充満している。

硝煙と火薬の匂いとナニカが焦げた匂いとも混ざり合い、常人には耐えられない匂いと化していた。

 

そしてその路地には場に似合わぬ貴族的な装飾の軍服……帝国宮廷魔導師団の制服を着た

三人の男女が一般市民“だった”モノに対してそれぞれの武器で応戦していた。

 

「くそ! キリがないぞ! いい加減弾薬と魔力も切れそうだ……ヴァイスと白犬は?」

 

黒髪で少し長めの髪を後ろで縛っていて敵に愛銃の魔銃《ペネトレイター》を構える男

グレン=レーダスは敵の数の多さに顔をしかめ毒づきながら他の二人の戦力を訪ねる。

 

「俺ももうそんなに魔力残ってないぞ……俺の弾は魔術使ってないやつには銃弾としてすら効果を為さないからこいつらには使えないしな……」

 

グレンの問いに眉を八の字に下げながらグレンと同じ銃、《ペネトレイター》に込められた自分の個性と叡智を寄せ集めて作成された弾丸を見てそう言うのはグレンにヴァイスと呼ばれた今この場に似合わない透き通る銀糸のような短髪の男だ。

 

「私も厳しいかな……もう、これじゃジリ貧だよ~……」

 

ヴァイスの発言に便乗するように言うのは現在紅一点のセラと呼ばれた女性。

穢れを知らない白い髪と同じく透き通るような白い肌。

その白い柔肌には赤い塗料で描かれた民族的な模様が描かれている。

 

「ウゥゥアァァァァ……」

 

ヒトだったモノの呻き声を聞き、三人は愚痴を止め正面を向き大量の敵を見据える。

が、しかし敵は正面からだけではなかった。

 

「……ッ!? 二人とも上だ!」

 

数多の戦場によって培われた戦闘勘によって頭上に違和感と危機感を感じたヴァイスは

隣にいたセラを自分の腕の中に抱きながら自分の足裏に魔力を集中させた後

一気に放出しその推進力で後方に下がった。

 

「わっ、シロ君!?」

 

突然抱きかかえられたセラは困惑の表情で見るがヴァイスの顔を見て

どういう状況になったのか気付き、顔を引き締めた。

 

「……囲まれたな」

 

ヴァイスは自分の周りを見渡しながら目を鋭くする。

その直後、入ってきた路地の通路から新たな敵が現れ、退路を塞がれてしまう。

 

「これはキビシイかも……」

 

「グレンとも分断されたし……グレン、聞こえるか?」

 

八方を塞がれて内心舌打ちをしたヴァイスは分断されたグレンと一緒にセリカから渡された通信用の魔道具である半割れの宝石に呼びかける。

返事はすぐに帰ってきた。

 

『ヴァイス!? 無事なのか!?』

 

「なんとか……セラも無事だ」

 

グレンの慌てた声が通信魔道具から響く。

向こうから安堵の声が聞こえるが、今はそんな場合ではない。

ヴァイスは真剣な面持ちでグレンに話を切り出す。

 

「グレン、お前はまだ囲まれてないよな?」

 

『あ、あぁ』

 

グレンは突然の質問に困惑しながらも答える。

そうか、とヴァイスは呟いて一拍置いて、また口を開いた。

 

「お前だけでも先に逃げろ」

 

『なっ……馬鹿言ってんじゃねぇぞ!?』

 

ヴァイスの言葉にグレンは怒鳴って一蹴した。

 

「こっちは大真面目だ。馬鹿はお前だ、状況を考えろ」

 

『っ……なんで俺だけなんだよ!? お前らなら俺を置いて脱出できるだろうがっ!』

 

冷静に返されたグレンは声を詰まらせながら怒鳴った。

その声に顔を少し暗くしながらヴァイスは首を振った。

 

「……無理だ。俺の魔力放出は燃費はいいが人二人浮かぶ力はないし、セラの風の魔術も同じ理由で厳しいだろうな」

 

ちらりとセラを見やると、セラは暗い表情でこくり、と頷いた。

 

『だったら俺がこいつらをなんとか惹きつけて……』

 

「グレン」

 

動揺するグレンを一声で抑える。

 

『っ』

 

そしてヴァイスはふっ、と顔を緩めて言った。

 

「……最近、フェジテにコーヒーが美味い喫茶店ができたらしいな」

 

『あ、あぁ……お前、コーヒー好きだもんな』

 

唐突に関係ない話を振られたグレンは困惑しながらも言った。

 

「あぁ、あの苦味が堪らねぇんだよな……今度お前も付き合えよ、てか奢れ」

 

『……俺コーヒ苦手なんだけど』

 

コーヒーの苦みを想像で味わいながらヴァイスは言った。

そして苦手と言ったグレンをはっ、と鼻で笑いながら

 

「子供舌」

 

と弄った。

 

『るっせぇ!……ま、でも挑戦してみんのも悪かないかもな』

 

そんなグレンの言葉にヴァイスは目を見開き、すぐに表情をもどして笑った。

 

「ま、そんなわけで俺には帰る理由があるわけだ、だから必ず帰る」

 

『…………』

 

ヴァイスの言葉にグレンは黙っている。

 

「だからグレン、お前は一足先に帰ってコーヒー飲む心の準備でもして待ってな」

 

これまでのヴァイスからは想像もできないような諭すような声音でグレンに言った。

 

『…………』

 

それでもまだ黙ったままのグレンにしびれをきらしたヴァイスは

息を吸い込み通信魔道具に向かって思い切り叫んだ。

 

「逃げろぉ! グレン=レーダスッ!!」

 

『……クソッ!』

 

グレンの毒づきが聞こえた直後、魔道具の通信が切れる。

向こう側は見えないがこの様子からして逃げてくれたようだ。

それにヴァイスは大きなため息をついた。

 

「……逃げたか、いちいち怒鳴らなきゃできないとはやっぱり子供だな」

 

その言葉にセラがふふ、と笑いながら言う。

 

「そこがグレン君のかわいい所じゃない?」

 

「……まぁ、嫌いではないけど」

 

素直じゃないヴァイスにセラはまた笑みを零す。

 

「ふふっ」

 

「笑うな」

 

繰り返し笑われたヴァイスはそう言いながら顔を仏頂面にした。

それを見てセラはまた笑って、すぐに顔を寂しげに変えた。

 

「……グレン君には生きてもらいたいね」

 

その言葉を鼻で笑いながら否定した。

 

「アホ、俺らも帰るんだよ……それに、あいつがコーヒーを飲むなんて絶対面白いぞ。見逃せねぇだろ」

 

セラもグレンが苦いコーヒーを顔をしかめながら飲む姿を想像したのか

 

「ふふ、そうだね」

 

と笑いながらセラはヴァイスの背後の敵に対して

魔力を練りながら詠唱に入った。

 

 

ヴァイスの背中を、守るように。

 

 

それを皮切りにしてヴァイスも自身の得物である片手剣を構える。

すでに剣は度重なる酷使により刃こぼれしているのが見て取れる

 

敵意を感じ取ったか、大量の敵達、《天使の塵》は

それぞれ多種多様な得物を振りかぶりながらヴァイスらの元へ

駆け出した。

 

「「「ガァァァァァァ!!!」」」

 

「さぁ、殲滅戦だ!!」

 

「うん!」

 

剣閃と風が敵を襲った。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

「ガァァァァ!!……ガッ」

 

飛び掛かってきた敵……《天使の塵》の感染者をヴァイスはグレンとお揃いの痛覚を引き上げる魔術を付与したナイフで敵の喉を刺し貫き、そして敵の腹を蹴飛ばしながらナイフを捻り抜いた。

 

蹴飛ばしたことによって吹っ飛んだ敵は後ろにいた敵にぶつかり将棋倒しになった。

その倒れた敵達に詠唱済み(スペル・ストック)であった《ライトニング・ピアス》を撃ち込んで止めを刺した。

 

「くっ……魔力がもうない……っ」

 

マナ欠乏症による頭痛で頭を押さえる。

背後でセラが風の改変した魔術で敵を切り裂きながら心配の声を上げる。

 

「シロ君、大丈夫!?」

 

「大丈夫に見えるか……これがっ!!」

 

セラの声に自身の体の異常を無視するために軽口を叩いて不敵に笑いながら

また魔術を詠唱する。

少しでも魔力の消費を抑えるために省略せず、魔力消費の少ない《ショック・ボルト》を改変、詠唱する。

 

「《焼き切れろ》っ!!」

 

近くに居た敵に出力を抑えた魔力放出によって瞬発力を足裏に生み出し、勢いに任せ

頭を引っ掴み、敵の脳髄を焼き切ってモノ言わぬ死体になったソレを思いっきり

敵の集団に投げつける。

 

そしてその集団が倒れこんだ事によりちらりと背後に出口が見えた。

 

「よし、もう少しだな……」

 

絶望的な状況の中に希望が見え、ヴァイスは気をほんの刹那の間だが緩ませる。

 

――それが不味かった。

 

死角である頭上から敵が得物であるナイフを構えながらヴァイスへと飛び込んできた。

先程の気の緩みとマナ欠乏症による酷い偏頭痛と疲労により

ヴァイスはそれに気づくことができなかった。

 

「ッ!? シロ君!!」

 

頭上からの奇襲を受けていることに気付いたセラは名を叫びながら

一気に駆け出した。

 

「ッ!? セラ!?」

 

セラは思いっきりヴァイスを突き飛ばした。

ヴァイスは突き飛ばされた勢いで後ろに飛ばされ、満身創痍の体では勢いに耐えることができずに尻餅をついてしまった。

 

「お、お前……何をッ!?」

 

突然の出来事にヴァイスはセラに一言文句を言おうと突き飛ばしたセラを見ようと顔を上げた。

 

しかし、ヴァイスが見たものは……悪戯が成功したように舌を出しながら笑うセラ。

 

ではなく――

 

こちらを突き飛ばした体勢のままこちらを見るセラ。

その表情は何故か必死で、ヴァイスにはなぜそんな必死の形相なのか

理解できなかった……理解する暇すら与えてもらえなかった。

 

奇襲しようとしたがセラの手によって防がれた敵は奇襲を阻止した人間に

敵意を向けた……セラ=シルヴァースに。

この先どのような展開を迎えるのか理解してしまい、掠れた声で嘆く。

 

「や、やめろ……やめてくれ……」

 

《天使の塵》によって自我を破壊され、忠実な人形と化した敵が当然ヴァイスの懇願を聞くわけがなく、セラの背後を取っていた敵は得物のナイフを思い切り振りかぶり――。

 

「やめてくれ……また俺から奪うのか……っ!?」

 

 

 

――セラの背中から恐ろしいほど大量の鮮血が舞った。

 

 

 

「セラ……せ、セラぁ……ッ!!」

 

手を伸ばすが、届かない。

そんなもどかしさと悔しさにヴァイスは顔を酷く歪めた。

そんなヴァイスにも敵の魔の手は迫る。当然だ、これはゲームではなく、現実なのだから。

尻餅から手を伸ばして四つん這いになっていたヴァイスの背中に敵の様々の得物が突き刺さった。

 

ナイフ、包丁、フォーク、果ては羽ペン――。

 

それらが突き刺さったことによってヴァイスは痛みに呻く。

 

「……ガッ……グフッ……」

 

それでもヴァイスは死力を尽くしてセラを見続けた。

セラは背中を大きく斬られたことで大量の出血によって貧血を起こし

セラはすでにヴァイスと同じくうつぶせで倒れていた。

 

「……せぇ、ひゅぁ……」

 

セラの名を呼ぼうとするが背中を刺されたことによって肺に穴が空いたようで

思ったように声が出ない。

気道も出血で塞がりかひゅー、かひゅーと口から音が漏れ出る。

出血が止まらず、意識も薄らぐ。

 

(あぁ、くそ……死神も焼きが回ったな……まだ三年だぞ)

 

酷い鉄の味がする口で舌打ちをしながら自嘲気味に笑う。

 

「シ……ロ、君……」

 

唐突にか細い声がヴァイスの耳に届いた。

掠れた目で必死にセラに焦点を合わせる。

焦点が合ったとき、セラはヴァイスに微笑んでいた。

今にも死んでしまいそうな出血にも関わらず、徐々に重くなっていく目蓋を必死に上げながら。

 

その顔を見て酷い後悔と罪悪感が湧く。

 

(セラ……悪い、あの時の約束……守れなかった)

 

思い出すのは、今から二年前に涼しげな風が吹く高原で交わした約束。

 

『また俺が道を間違えた時には、手を差し出して元の道に引き戻してほしい』

 

その代わり――。

 

『その代わり、俺もお前になにかあったら迷わず手を差し出すよ』

 

小指を絡めて誓い合った口だけの契約。

それは呪術的拘束や魔術的契約よりも簡易的な口契約。されど如何なる契約よりも

固く結ばれたその契約。

それを違えてしまったヴァイスの心情は察して余りある。

 

違えてしまった約束を悔やんでいるとセラの口が動いてるのが見えた。

もう声を出す力も残っていないのか口だけが動いている。

 

ご……め…ん……ね……。

 

ごめんね。

 

セラのその声なき言葉がヴァイスの心に突き刺さる。

 

 

(クソ……約束守れないとはとんだ屑野郎だな、俺も)

 

 

酷い……酷く深い後悔を抱えながら意識を手放した。

 

 

そして。

 

 

意識を手放したことによって全体重が地面に溶けていき。

 

 

 

 

 

パキン。

 

 

何が薄いものが割れる音が響いた――。

 

 

 

†  †  †  †  †

 

 

 

先の悲劇が起きる三年前。

 

 

アルザーノ帝国魔術学院を少々異例の卒業を果たしたヴァイス=フィーベルは

魔術の才能を国軍省に買われ、現在国軍省の某室で魔術学院時代からの仲である

イヴ=イグナイトにスカウトを受けていた。

 

その部屋は政府の重鎮達も使う部屋で機密性もお墨付きだ。

室内の壁には魔術的な施しがされており、物理的には勿論、魔術的にも相当な手練れ……かの第七階梯セリカ=アルフォネアでもない限り盗聴は厳しいだろう。

そんな部屋でヴァイスとイヴはまたしても重鎮ら御用達のふかふかの椅子に座っており、そのイヴの背後にはイグナイト家の召使いである老齢の男が目を閉じて立っていた。

 

召使いの条件である、見ざる、聞かざる、言わざるを理解しているようだ。

その心持ちは流石老齢、と言ったところだろうか。

 

「……それで、ここまで質問はあるかしら?」

 

とイヴは使いに用意させた紅茶に口をつけながらそうヴァイスに訪ねた。

先程までヴァイスはイヴにこれから配属される帝国宮廷魔導師団のある部署の説明を受けていた。イヴはその部署の次代室長になるらしい。

ヴァイスらにスカウトの話が持ちかけられる前にイヴは既にその部署の所属が決定されていたらしい。なんでも代々イグナイト家がその部署の室長を務めるのが風習だそうだ。

 

……というところまでは聞いていたのだが。

 

「あ、えぇと……あぁ~……まぁ、概ね?」

 

言葉を濁しながらイヴから視線を逸らして、紅茶を音を立てて啜る。

その姿にイヴは視線を強め、ヴァイスに視線が突き刺さるような錯覚を覚えさせ

冷や汗を掻かせた。

 

「……話聞いてなかったわね?」

 

「そ、そんなこと……ありましたすいませんでした」

 

口を開けばドスが効いた声で言うイヴに

ヴァイスはさらに冷や汗の量を増やしながら否定しようとするが、その瞬間に

イヴの視線がきつくなったためヴァイスはすぐに謝る。

昔から彼女を怒らせるとロクでもないことになるのはヴァイスの経験則でわかっている。……具体的に言えば、燃やされるのだ。

 

「最初からそう言いなさいよ、手間をかけさせないでもらえるかしら」

 

強くしていた視線を緩めながらイヴはヴァイスをそう咎めた。

 

「大体、イヴの話が長すぎるんだよ」

 

「悪かったわね、だけどご生憎様。さっきも言ったけど貴方が配属される部署は私が室長なの。だから私には今後従ってもらうわよ」

 

言い訳を適当にあしらいながら今後室長と部下の関係だと念を押すイヴ。

……まぁどうせ念を押そうがこの銀髪の青年は変わらないのだろうが。

 

「はいはいはい、従いますよ~仰せのままに室長様」

 

「……はぁ、もういいわ。詳しい話はもう貴方が特務分室に所属してから話すことにするわ……今日はもう帰っていいわ」

 

ヴァイスの態度に深いため息を吐いたイヴは諦観と共に今日はもうお開きにすることにした。

 

「お、じゃあ送ってくれるのか!? いやぁ帰りの列車代使わないでご飯に使いたいんだよなぁ!」

 

「……全く図々しいわね」

 

ヴァイスの態度にあの黒髪の忌々しい愚者の面影を見たイヴは

少し不愉快とでも言いたげな表情でこの図々しさは誰に似たのだろうかと

口でも心中でも呟いた。

仕方なしに右手を軽く挙げると背後にいた老齢の使いが深く腰を折り

流れるような動作でドアを開けてその隙間を潜っていった。

 

「入ってきた門の前で待ってなさい。彼が馬車でフェジテまで送ってくれるわ」

 

……なんやかんやでこんなヴァイスと学院時代から友人として付き合えているのはイヴにこういうところがあるからだろう。

 

「おお! ありがとうイヴ! じゃあまたな!」

 

まるで花が咲いたような満開の笑顔のヴァイスにイヴはちらりとヴァイスを見やり、すぐに視線を外し目を閉じ、ふんと鼻息を一つ。

もう話すことはないという学院時代からのイヴのサインだ。

それを知っているヴァイスはその態度を何も気にせず、男が潜っていったドアを

同じように潜っていった。

 

イヴは背後のドアがバタンと閉まる音を聞いた瞬間、肩の力を抜いて息を吐いた。

もう部屋の中にはイヴ以外誰もいない。

盗聴などの心配もないためイヴは人の目を気にする必要もなく、独り言を呟いた。

 

「あんなことがあっても彼は変わらないわね……だから彼は彼足り得るのだけど」

 

彼女はそう言ってふふん、と笑いを漏らす。

彼女は実家では独り言など呟く場所すらないだろう。

それだけ肩身が狭い思いをしてきたのだ。自身の本当の気持ちを押し殺してきた。

学院にも他人の意思によって通っていた。そこに自分の意思は介在していない。

きっと学院でも肩身の狭い思いをするのだろうと思っていたが、彼のおかげか多少はマシな学院生活を送れたと思う。

 

「まぁ、多少は感謝はしてやるわ。でも……それとこれとは別。日頃迷惑かけられていた分、コキ使ってやるわ」

 

不敵に笑うイヴはまるで悪戯好きの紅色の猫のようであった。

 

 

 

「……!?」

 

ヴァイスは突然襲った背中の悪寒に鳥肌を立てる。

両腕を摩りながらヴァイスは国軍省の廊下を歩いていた。

 

「なんか寒気が……風邪かな……?」

 

怪訝な表情で呟くヴァイスはイヴの思惑に気付くことはなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




専門用語に関してはゆっくり解説入れていくので無理して調べる必要はありません。

前作から改めて、感想評価よろしくおねがいします。
マイペースに完結目指しますので乞うご期待くださいませ。

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