グレビッキーと家族になりました。   作:sinkeylow

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気づけばお気に入りが150超えていました。
ただの思い付きの作品ですが楽しんでいただけているようで何よりです。


今現在はタイトル回収はできていませんが、もうすぐタイトル回収しますのでご心配なく。
「タイトル詐欺じゃねーか」なんて思っている方は今の話は過去編と割り切れば幸いです。

また、誤字報告とかも待っています。


9/26に3話の話に文章を付け足しました。ご覧になってない方はそちらもどうぞ。


過去の傷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリとシャーペンとノートが擦れる音が部屋に響き渡る。薄暗い部屋のなかに光が学習机を照らす。今現在、月華は学校の予習をしていた。その内容は本来まだしなくもいい内容。だが学校の授業はハイスピード。一瞬の気のゆるみがついてこれなくなり、退学や留年につながる。実際月華のクラスでついて授業についてこれず、そうなった生徒はいる。そんな風にならないように努力。集中してノートをまとめる。

 

 

「ふぅ~~。終わった~~。」

 

 

溜息を吐く。そしてシャーペンを置く。これで高校の3年間の範囲すべてがようやく終わった。ここまでやれば後は楽だ。今後の授業は今までの復習だと思ってやればいい。少なくともこれで今後の自由時間は増える。

 

徹夜になってしまったものの、彼女のこともある。かなり詰め込んだが人間その気になればある程度はできるものだ。

 

昨日はあの事件が起きた後、その日月華は彼女の部屋に入ることをやめた。仕方ないとはいえ、あんな事件があったのだ。ピリピリしている。元々心に余裕がない響に不用意に近づけばまたゴタゴタが起きることは間違いないだろうし、最悪の場合何も言わず家から出て行ってしまう可能性がある。

 

時間がどうにかしてくれるということを信じてとりあえず放置することを決めた。しかし腹は減っているであろう。人間の三大欲求の一つであるのでどんなに我慢していても抗うことはできない。彼女のために素うどんを作ってビタミン剤と水とともに部屋の前に置いておいた。ちゃんと食べてくれただろうか。時計を見るともうすぐ午前6時だ。

 

 

「・・・・もう朝か・・・。」

 

 

窓を見る。気づけば朝日が出ていた。さっきまで真っ暗だったはずなのに時間の経過は遅いようでやはり早い。まばらに茂る木々のざわめき、朝日とともに鳥たちはちゅんちゅんと歌い、日光が部屋を照らしている。

 

 

「はぁ~~、疲れたわ~~。」

 

 

首をコキコキと鳴らし、凝り固まった体をほぐす。そして背筋を伸ばす。長時間それも徹夜で勉強をしていたせいで身体が少し怠く感じる。ぶっつづけで勉強していたため喉が渇いたのでココアでも飲もうと部屋を後にしする。ギィ・・ギィ・・と廊下からなる音が響く。

 

そして道中あるものを見つける。

 

 

「・・・・うん?」

 

 

彼女のいる部屋の前に昨日おいておいたどんぶりとコップが乗ったおぼん。位置は昨日おいて置いた場所とほぼと変わりない。もしかして食べていないのだろうか?

 

 

「・・・・うん。よかった。」

 

 

空っぽの状態であるどんぶりとコップをみて微笑む。よかった、ちゃんと食べたようだ。そのおぼんを持って月華は一階に下りた。その様子は憑き物がとれたように上機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは一切の光がない喰らい暗い漆黒の世界。その身を守るかのように闇に閉じこもる少女。

 

その目映るのは心に刻まれた苦痛の軌跡。記憶。

その耳に聞こえるのは悲鳴。そして罵倒。

 

 

――――――ああ、まただ。

 

 

そこは日常に戻るためにリハビリを続けた病院。

聞こえる。ヒソヒソと自分を罵倒する声が。

 

 

『どうしてうちの子が死んであなたは生きているのよ!!』

 

『なあ・・・たしかあの子か?』

 

『ああ、間違いない。まったく人殺しなんてしておいて近頃の若い子は物騒で怖いのう。』

 

『孫や娘にも気を付けるように言っておかないとな。』

 

―――――なんで・・・なんでそんな目で私を見るの?

 

 

そこは生まれて育った居場所。我が家。

張られる。人々の心もとない非難の声が。

汚される壁。石を投げられ、家に鳴り響くガラスが割れる音。

 

 

『金ドロボウ』

 

『人殺し』

 

『クズ』

 

『自分だけ助かった最低の女』

 

『ぎゃはは!!いい音だなガラスが割れる音は!!』

 

『おい!!聞いてるか!!人殺しのクズ女!!』

 

『お前に居場所なんてないんだよ!!』

 

――――――なんでそんなことを言われないといけないの?なんでそんなことをするの?

 

 

そこはかつて通っていたなじみのある学び舎。

出迎えてくれたのは心配の声ではなく、罵倒。

 

 

『うわ、きたよ自分だけ助かった人殺しが。』

 

『ねえ、なんでのうのうと生きているのかしらね。』

 

『なあ、ひどいやつだよな。』

 

―――――ちがう・・・・私は人を殺していない。やっていない!!

 

 

そこは光が照らされない場所。

裏切られた。過去に助けを求めていた少女に。

 

 

『あんたみたいな人殺しになるわけないじゃん!?馬鹿じゃないの!!』

 

『あんたなんかと一緒にいたから私までひどい目にあったじゃない!!』

 

『私に関わらないで。この人殺し!!』

 

―――――どうしてなの?どうしてみんな離れていくの・・・?なんで関係のない人まで不幸になるの?

 

 

そこは紅く燃え盛る家。モクモクと天を上る煙。

ただ見つめていた。その虚ろな瞳で。

そして聞こえた。非常な声が。

 

 

『ここってあいつの家だよな?』

 

『ああ、そうらしい。焼死体が見つかったらしいぞ。さっき運ばれているのを見た。』

 

『まじかよ。あの女か?』

 

『いや違う。身長が大人だった。』

 

『ち、死んでないのかよ。あの女。なんでのうのうと生きているんだ。』

 

『まったくだな。あいつがいるから周りが不幸になるということをいい加減理解してさっさと死ねばいいのに。』

 

―――――私が悪いの?私のせいでみんな不幸になるの?

 

 

新たな居場所となった孤児園。

もう二度とその地獄に行くことはなかった。もう自分とともにいる人はいない。居場所もない。

そのことに悲しみ沈んでしまった。しかし沈んでしまった心に責め続けられる罵倒の声。

 

 

『ああ、人殺しだ。』

 

『近寄らないほうがいいぞ。あいつ人殺したらしいから。』

 

『え?本当に?』

 

『ああ、あのツヴァイウィングの事件で殺ったらしい。』

 

『そんな風には見えないけど・・・・。人は見かけによらないのね。』

 

『やめましょうよ。あの子をうちで預けるの。いつここの子供たちが襲われるかわからないわ。』

 

―――――私の・・・居場所はないの?もうどこにも・・・ないの?

 

 

暗闇の街中。この世のすべてが死を望んでいるかのようなそんな世界でただ走った。

走って走って走って、彼女のことを知る人がいない所へ逃げ出そうとした。

しかし、逃げる場所はどこにもなかった。

 

 

『次のニュースです。ツヴァイウィングの惨劇のことで――』

 

『解説!あの日、あの場で何があったのか!』

 

『殺された人!仕方なかったのか?』

 

『殺された遺族たちは今どうしているのか――』

 

 

―――――私は・・・生きてはいけない存在なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――・・・・死んだ方がいいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――っ!!はぁ!!はぁっ!!」

 

 

いつも見る悪夢によって目覚める。荒く過呼吸する。少しづつ落着き、冷静になる。

 

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・。また・・・あの夢・・・。」

 

 

眠るといつも見てしまう。光のない暗い暗い世界で、永遠と今までの苦しみを味わう、そんな拷問のような悪夢。誰もおらず、冷たく悲しい一人ぼっちの世界。逃げ回ってからずっとその悪夢を見るようになった。

 

 

「・・・・・。」

 

 

その悪夢を見るたびに本当ここまで生きていくのによう頑張ったと最近よく思う。ずっと一人で、他人の力を借りずにここまで来たのだから。助けてほしいと思った。救い出してほしいと思った。だがそれは淡い願いで、決して叶うことはない。あの惨劇で生き残った者に希望などないのだから。周りの人たちは否定し続けるから。

 

 

(誰かなんていらない。どうせ独りになるなら、最初から独りでいい・・・・・・・・・ううん、独りがいい。)

 

 

最初はどこか彼の好意に甘えていたが悪夢を見て思い出す。

 

孤独こそが唯一信じられることだと。

 

 

きっと助けてくれた月華も自分のことを聞いたら罵倒するのだろう。このまま黙っていたとしてもいずればれる。今までもそうだったから。

 

自分は不幸を周りに与える厄災の女だから。皮肉なことに自分がかつていたところは今までにないくらいいい環境になっているらしい。そのことを知ってわかった。

 

自分はいわば台風。自分を中心に不幸を集めて運ぶ。そしてそこを通ったところは、きれいさっぱりなくなる。台風一過、まさにそれだ。

 

 

(・・・・・決めた。)

 

 

今日でこの家を出て行こう。

 

今のままが続くとは思えない。何かしらのきっかけで知られる可能性がある。罵倒どころか、もしかしたら最悪殺されるかもしれない。すっかり休んだおかげで気分も良くなり、身体も昨日とは段違いに軽い。

だが助けてはくれたのだ。一応お礼だけは言っておこう。他の人よりやさしい人ではあるので、もしかしたらその時にしばらくの食料を強請ることができるかもしれない。

 

 

「・・・・ん・・・・・よ、と・・・・」

 

 

ゆっくりとベッドを降りる。軽く柔軟をし、深呼吸。身体を目覚めさせる。

 

部屋のドアを開けるとあることに気づく。それは昨日食べた晩御飯がないということ。彼が片づけただろうか?もう起きているのだろうか。だとしたらちょうどいい。階段を降りる。

 

 

(・・・・・・何時ごろにこの家を出ようか・・・?)

 

 

そんなことを考えていると、1階から金属と金属がぶつかる小さな音が鳴った。

 

 

「・・・・・何の音・・・?」

 

 

階段を降りる。すると今度は懐かしい香りが響の鼻を刺す。

 

 

(この匂い。昔どこかで・・・・。)

 

 

思い出す。その匂いをカギに。そして思い出した。その匂いは線香の匂いだ。実家にいた頃、何度も嗅いだことがある。物心つく前から祖父は死んでいて、何度も嗅いだ懐かしく独特の古風のある匂い。

 

匂いがする方向へ向かう。その部屋はまだ響が言ったことのない部屋。襖はあいていた。

 

 

「・・・・え?」

 

 

その部屋は六畳の部屋。他の部屋とは明らかに違う空間。昭和時代で使っていたような古いタンスやテーブル。そして仏壇。その仏壇の前で、月華は姿勢正しく合唱をしていた。

 

仏壇のすぐそばに、3枚の遺影が飾られていた。

 

 

―――――厳格で厳つい顔をした男。

 

―――――やさしく温かい眼差しの女性。

 

―――――太陽のように明るい満面の笑顔をする少女。

 

 

ただ響はこの光景に目を見開き、唖然としていた。

 

 

(もしかして彼は――――――)

 

「・・・・うん?ああおはよう、響ちゃん。よく眠れた?」

 

 

彼の言葉にハッとして、月華を見る。

 

 

「・・・・う、うん。」

 

「はは・・・。流石に反応に困るよね。・・・そうだよ・・・・君の思う通りさ。ボクの家族は・・・・みんな死んでいる。」

 

「っ!?」

 

「この家には・・・・・ボクしかいない。ノイズがらみでね・・・、みんないなくなったんだ。」

 

 

悲しむこともなく、ただ黄昏るかのように笑みを見せ、淡々と語る月華。その様子に響は戸惑うしかなかった。そんな響に構うことなく月華は立ち上がり紡ぐ。

 

 

「よい・・・しょっと。じゃあ、朝ご飯にしようか・・・。」

 

 

何事もなかったかのように月華は部屋を後にする。響はその背中をただ見ているだけだった。

 

 

 

 

 




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ではまた次の機会に

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