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「っ!?・・・う・・ヴゥゥゥ・・・・。」
まるで氷河期のような胸の内を温かく溶かしてくれたのは他でもない月の光。少しずつ氷が溶けて現れたものは願い。その灯火はやがて大きく燃え上がり生まれたのは歌だった。
「ぐううぅぅぅ!!」
「響ちゃん!?」
その衝動を抑えるかのように響は胸を強く掴み、膝をつく。表情は苦痛と怒りに満ちたかのような、野獣のような鋭い眼つきになる。
「ヴゥゥ・・・アアァァ・・・。」
「響ちゃん大丈夫!?」
体の内側で何かが蠢くのがわかる。細胞一つ一つが作り変わっていくのがわかる。月華が寄り添おうとしたが、響の内側から飛び出す見えないエネルギーによって近づけなかった。
ドクンドクンと心臓の動きに合わせて背中から機械や歯車が飛び出しては戻る。機械は響をノイズと戦うための戦士へとその姿を変えさせる。力の鼓動が終わった。そこに新たな戦士が誕生した。世界の雑音を壊し歌を纏う、常人を超えた存在がそこにいた。
それはオレンジ。ヘッドギアを頭につけ両腕にガンドレットを装着し、足にはブーツ型のユニットがついている。深夜の夏風が彼女が巻いているマフラーを静かにたなびかせていた。
「響・・・ちゃん?」
「あれ・・・?どうなってるのこれ?」
どうやら響本人が意図的に変身したのではない様子。ノイズの出現ポイント複数同時発生よりも予想外なことになったため、ノイズがそこに迫っているとかもう死ぬかもしれないとかそんな状況すらも忘れてしまった。
そんな状態をチャンスと見たのか一体のノイズが響に襲いかかる。
「響ちゃん危ない!!」
「っ!?」
不意の一撃に思わず響はこぶしを突き出した。この行為は自殺行為だ。ノイズは人のみに触れると炭化分解する。このままでは響は死ぬ。
(っ!!しまった!!)
だが灰と化したのは響ではなくノイズの方だった。その事実に月華は思わず目を見開いた。ノイズに触れたものはノイズとともに炭化分解される。それは大昔からわかっていたことでその事例も覆されることはなかった。しかしどうだろうか。目の前に常識を覆すことが起きたのだ。
「あれ・・・?生きてる?」
ノイズが人を殺すのではなく人がノイズを殺すとは一体どんな奇跡か。なにがなんだかわからないが、これはチャンスだ。
(どういう理屈かわからないけど・・・。)
「響ちゃん!!その姿なら、ノイズを倒せるみたいだ!!」
はっと響が月華の言葉にこの状況について理解が追い付いた。諦めていたけど、今この姿なら生き残ることができる。生きて帰ることができる。その言葉が自然と頭を横切り、強く握り拳を作る。
(そうか・・・、これなら・・・この力なら・・・!!)
視界に映るノイズは前に3体と右に6体の計9体。距離は大体10~9メートル。後ろは壁。月華は足のけがのため動けない。この場を動いたら月華は炭化分解されて死ぬ。だからと言って初めての戦闘のため長期戦は控えるべき。ならばやることはひとつ。それは単純にして明快。
「一撃で・・・仕留める!!」
その喝が戦いの合図となり、ノイズが一斉に襲い掛かってくる。その速度は月華からしてみれば車が高速道路を走るくらいの速さを感じている。
―――――約7メートル
だか響からしてみれば遅く、そして攻撃点は一点。高さもほぼ同じ。
―――――約5メートル
上半身を思いっきりひねる。
―――――2メートル
一撃で仕留めるために、右足を軸に勢いよくこぶしを振るう。
「すぅ・・・。はあぁぁ!!」
響が行った攻撃はいわゆる'裏拳'。その一撃をもってしてすべてのノイズを撃退した。その威力は草木を大きく揺らがせるほどの台風クラスの拳風が辺りにわたり、その一撃が一体どれほどの威力なのかは容易に理解できた。
ノイズはその一撃でかわすことも吹き飛ばされることもなくただ煤となって風にのって夜の果てへと飛ばされた。
「すごい・・・。」
一体いつから現実はフィクションの世界になったのだろうか。誰もが理想としていたノイズに対抗する力を彼女が纏っているのだ。もうこれが漫画かアニメなら信じてもいいぐらいの事が現実に起きた。彼女と自分が出会うのは運命だというのだろうか。
(まあ・・・何やともあれ、生き残った・・・。)
助かった。思いもよらぬ奇跡によって生き残ることができた。諦めかけていたのに、彼女に救われた。目の前で起きたことが衝撃的過ぎたようで、気付けば既にノイズ出現のアラームは鳴り止んでいた。
災害の進軍は終わった。
二人は生き残ったのだ・・・。生き残るべくして。
◆
響はただ静かに夜風に乗ってノイズだった煤が遠くへと飛んでいくさまを眺めていた。
(私が・・・倒したの・・・?)
人のみでありながら自分がノイズを倒したという現実に響は未だ実感が湧かなかった。けど目の前に起きたことが現実であって真実であって事実であった。目をこする。視界には煤が映る。見間違いじゃないことを意味している。
(・・・嘘じゃない。私が倒したんだ・・・。)
でもいつからこんな力が?なんで今になって?
そんな言葉が脳裏を横切る。身にまとっているこの力は自分自身の胸の奥から湧き出たような感覚があった。心当たりがまるでない。変なものを口にした覚えもないし、過去に奇妙なことが自分に起こったという記憶もな―――――
(そういえば・・・。)
いやあった。ひとつだけ。
ツヴァイウィングの惨劇。あの時に胸にある破片が自分の胸に刺さった。それを証明するフォルテシモを意味するの記号の傷跡が今も胸に残っている。ここからだ。ここのおくから熱い何かが現れたのは。
(・・・でも。)
だがそんなことはどうでもいいとも思った。
(この力があれば・・・。)
すべてを奪った元凶にして大昔から伝わる人類最恐の天敵『ノイズ』。奴らがいなければ、人類は長きにわたり苦しむことはなかった。あの惨劇で大勢の人が死ぬことはなかった。
―――――そして生き延びた多くの人たちが、あんな地獄を味わうことはなかった。
ノイズという単語を聞くとどうしても連想思考であの惨劇が脳裏をよくチラつく。胸の奥からドス黒い感情が湧きあがる。抑えていたその感情は最近ではそのたびにギリィと強く歯を食いしばり、怒りで顔を歪ませていた。
「響ちゃん・・・。」
「・・・!」
月華の呼び声にはっと我に返る。振り返ると痛む足を引きずりながら心配そうにこちらの様子を窺う彼がいた。
「大丈夫?どこか痛めた?」
「あ・・うん、大丈夫・・・。」
「そう、良かった。でもその姿は?ノイズを倒せた秘密はその恰好にあると思うけど。」
「・・・わからない。私も何がなんだか。」
「そっか・・・いてて。」
「っ!!足が・・・。」
「軽くひねっただけだよ、心配しないで。」
ひねった足に力が入らなくなったのか片足の膝をついた。月華の声を聞かずに響は裾を上げると、その足には明らかに軽くではない青紫色が浮かび上がっていた。いたずらがばれたかのような苦笑いをする。そんな姿を見て胸の多くから罪悪感が湧く。
「その・・・。」
「間違ってもごめんなさいなんて言わないでおくれよ?」
「え・・・?」
「身を挺して君を守ったんだ。それを自分のせいで傷ついて悲観するなんて失礼だよ?」
「あ・・・うん。ごめん。」
「ほら言ったそばから。」
「う・・・。」
「それよりも、もっと言われてうれしい言葉が聞きたいな~。」
クスクスとからかうように棒読みで紡ぐ。そんな様子に特に不愉快な思いもない。でもこんなに心が苦しむことない言葉でからかわれたのはいつ振りだろうか。いつからだろうか。こんな当たり前なことができなくなったのは。
―――――こんな友達同士がやるような事を
―――――ずっとやりたいと思ったのはいつからだろうか。
(いつも日常でしていたことなのに・・・。)
忘れていた大切な気持ち。昔感じていた、陽だまりのような温かな気持ちを少し思い出した気がする。そのことを自覚すると自然と笑みが浮かび上がった。
(ああそうだ。笑顔ってこんな感じだったな・・・。)
「ありがとう・・・、私を助けてくれて。」
「うん。どういたしまして。」
見えた。やっと見えた。彼女の瞳の奥にある光が。まだ鈍く照らしている状態だ。だけど初めて会話した時とはえらい違いだ。長い道のりを経てやっとゴールを見つけた気分だ。
そんな彼女の笑顔を見ていると自然と手が彼女の頭をやさしく撫でる。
「なんだ・・・その笑顔結構かわいらしいじゃないか。」
「ッ!?な・・・なにいって・・・。」
「ごめんごめん。」
真夜中の暗い世界なのに、どこか二人だけは明るかった。そんな世界を響はずっと望んていたのかもしれない。
その世界に後ろの屋根から第3者の声が聞こえた。
「・・・マジかよ。なんでガングニールが・・・!!」
聞き覚えのある声が2人の耳に届く。その声は友達でもなければ家族でもない。日常的ではないが誰もが知っているであろう声だ。声がする方向の先には響と同じ格好をしている赤髪の少女が信じられないような目でこちらを見ていた。
「なあ・・・なんでガングニールを纏っているか聞かせてくれないか?」
「天羽・・・奏さん?」
「ガング・・・ニール?」
天羽奏。日本が誇るアーティストユニット『ツヴァイウィング』の一人。その芸能人がそこにいた。
―――――その姿はまさしく
―――――響と同じ
毎回気づいたらたくさん書いているんだよね。
そして深夜になるという。
仕事休みたい。